
キツネ
夏が来ると
思い出すのは
あるキツネのこと
そのキツネとは
蒸し暑い夏の夜
公園で出会った
わたしは
涼しくなるのを待って
いつもより
遅く犬と夜の散歩に
でかけた
そして
ボール遊びをしていたとき
植え込みから
ひょっこり姿をあらわしたのが
くだんのキツネであった
はじめは
暗かったせいで
なんだかちょっと変わった
野良猫がいるな、くらいに
思っていたわたし
けれど
どんどん近づいてくる
シルエットが
灯りに照らされたとき
はじめて
それがキツネであることに
気が付いた
え?
でもここ北海道じゃないし
と我が目を疑ってみたが
近づくにつれて
それが
まぎれもなくキツネだという
確信に変わってゆく
想像より尻尾は細いが
猫にしては太く
犬にしては長い
耳も顔も三角形で
足先はうっすら黒くて
猫にしては大きいが
犬にしては小さい
そうして
どんどん距離をつめてきた
キツネに
飼い犬は尻尾をふりだした
わたしも
はじめて生で見る
キツネを内心かわいいな
と思って見ていたが
次の瞬間
はっとした
そうだ、
たしか野生のキツネは
なにか恐ろしい菌を
保持しているかもしれないから
近づいたらいけない
と
どこかで読んだ気がする
万が一
犬が噛まれてしまったら
あぶない!
わたしは
我に返って
急いで
犬のリードを
ひっぱり
かけだした
しかしそんなわたしを
ぴったり
マークするように
追いかけてくる
キツネ
そしてキツネは
わたしより俊足で
あるとき
わたしの
すぐそばまでやってきた
そして目が合った
キツネは
襲うどころか
楽しそうな顔で
こちらを見ながら
伴走している
あ、もしかして
この子も
一緒に
ボールで遊びたかったのかな?
そんな思いが胸をよぎった
でも、わたしの口からでたのは
「お願いだから、来ないで」
という言葉
そしてもう一度
「来ないで!」
と強く言うと、
キツネは
ぴたっと
その足を止めた
わたしは
夢中で犬を連れて
そのまま公園の外に
かけだした
振り返ると
ぽつんと
立ち尽くす
キツネが
みえた
わたしはなんだか
胸が痛んだが
以降一度も
立ち止まることなく
家に帰りついた
そして玄関のドアを
あけると
急いで犬を
家の中に入れた
次の日の夜
わたしは
家人に頼んで
違う公園へと
犬を連れていってもらった
そして
家の前まで帰ってきたとき
家人はそこに
キツネが立っているのを
見つけた
キツネは
何も言わなかった
ほかの犬には
吠える愛犬も
キツネには
静かだった
けれど
家人は
犬を素早く抱き上げて
家の中へと入った
そして
門をしっかりと
しめた
その話をきいたとき
またわたしは
胸がきゅっと
なるのを
感じた
それ以降
キツネを見ることは
一度もなく
今にいたる
けれども
夏がくるたびに
今も
あのキツネのことを
ひっそりと
思い出している