
サンドストーム・セブン30話「受け継がれる想い」

【前回のあらすじ】
武器商人の王・バルト・ケインとの激闘は幕を閉じ、ブラックジャッカルはついに壊滅した。
救出された村人たちは平和を取り戻し、ルビーたち七人も束の間の勝利を分かち合う。
しかし、バルトが最後に残した「帝国軍」という言葉が、新たな戦いの始まりを告げていた。
⸻
ブラックジャッカル本部。
医療室。
窓から柔らかな陽射しが差し込んでいた。
激戦から数時間。
医療室には静かな時間が流れている。
ルビーはベッドへ腰掛けていた。
右腕には包帯。
額にも小さな傷が残る。
エレナが包帯を結び直した。
「これで終わりです。」
ルビーは右腕を軽く動かす。
「思ったより動くね。」
エレナはすぐに首を振った。
「駄目です。」
「ラストワードの反動は想像以上でした。」
「今日は絶対に安静です。」
ルビーは苦笑する。
「はーい。」

隣のベッドではルシアが治療を受けていた。
腕には点滴が繋がれている。
エレナは薬を確認しながら微笑んだ。
「毒も順調に抜けています。」
「あと数日休めば大丈夫ですよ。」
ルシアは胸をなで下ろした。
「ありがとうございます。」
ナヤは肩を回す。
「身体中痛いけど、生きてるだけで十分だね。」
セリスは包帯を見つめて笑う。
「今回は本当に危なかったわ。」
ヴィクトリアは腕へ包帯を巻きながら笑う。
「久しぶりに派手な戦いだった。」
アイリスは窓の外へ目を向けた。
「静かになったな。」
ルビーも外を見る。
砦の中では、ブラックジャッカルの兵士たちが武器を運び出していた。
戦いは終わった。
もう銃声は聞こえない。
その時だった。
コンコン。
医療室の扉が叩かれる。
「失礼します。」
入ってきたのはジムだった。
隣には妻のメアリー。
そして、ジャケットを着た峡谷の村の村長。
三人は七人の前に立ち、そろって深く頭を下げた。
「皆さん。」
「本当にありがとうございました。」
「この村は、皆さんのおかげで救われました。」
ジムは頭を下げたまま言った。
「俺たちは、この恩を一生忘れません。」
「俺たちは、この恩を一生忘れません。」
メアリーは涙ぐみながら微笑んだ。
「本当に……ありがとうございました。」

ルビーは照れくさそうに笑う。
「そんなに頭を下げないで。」
「みんな無事だった。」
「それだけで十分だよ。」
ルシアも優しく微笑む。
「皆さんの笑顔を見ることができて、本当に良かったです。」
村長はもう一度頭を下げた。
「それでは。」
「私は一度、村へ戻ります。」
「家族や村人たちへ、この勝利を伝えてまいります。」
ルビーは笑顔で頷いた。
「エマも。」
「リナも。」
「村長さんのお母さんも。」
「きっと待っています。」
村長は目を細めた。
「ええ。」
「ようやく皆に笑顔を届けられます。」
村長は扉へ向かう。
しかし。
途中で足を止めた。
ゆっくり振り返る。
視線はジムへ向いた。
「ジム。」
ジムは顔を上げる。
「何でしょう。」
村長は静かに口を開いた。
「お前に、頼みたいことがある。」
医療室の空気が少しだけ張り詰めた。
ジムは首を傾げた。
「俺ですか?」
村長は力強く頷く。
「このブラックジャッカル本部を任せたい。」
医療室が静まり返る。
ジムは目を丸くした。
「俺が……この砦を?」
「無理ですよ。」
「俺はただの村人です。」
村長は静かに首を横へ振る。
「違う。」
「お前は村を守り続けた。」
「仲間をまとめ。」
「命懸けで戦った。」
「そして、この砦を取り戻した。」
一歩近づく。
「この場所を任せられるのは、お前しかいない。」
ジムは黙り込む。
隣でメアリーがそっと手を握った。
「あなたなら大丈夫。」
「私は信じています。」
ジムは妻を見つめる。
そして七人へ視線を向けた。
ルビーが笑う。
「ジムなら任せられる。」
ナヤも大きく頷く。
「うん!」
「頼れるリーダーだったよ!」
アイリスが短く言う。
「適任だ。」
セリスが微笑む。
「もう答えは決まってるんじゃない?」
ルシアも優しく頷いた。
「皆さんも安心されます。」
ヴィクトリアが腕を組む。
「責任は重い。」
「だが、ジムなら背負える。」
ジムは小さく笑った。
ゆっくり頷く。
「……分かりました。」
「俺が、この砦を守ります。」
村長は満足そうに笑った。
「ありがとう。」
「頼んだぞ。」
メアリーは涙を浮かべながら微笑む。
「おめでとう。」
ジムは照れくさそうに頭をかいた。
「ありがとう。」
七人へ向き直る。
「皆さん。」
「本当にありがとうございました。」
「これから、他の仲間たちと砦の後片付けがあります。」
「俺も手伝いに行かなくては。」
ルビーは笑顔で手を振る。
「頑張って。」
ナヤが笑う。
「また会おうね!」
メアリーは深く頭を下げた。
「皆さん、本当にありがとうございました。」
「主人を助けてくださり、心から感謝しています。」
「失礼します。」
ジムも頭を下げる。
「失礼します。」
三人は医療室を後にした。
静かに扉が閉まる。
部屋には再び穏やかな空気が流れた。
その時だった。
エレナがゆっくり立ち上がる。

少し緊張した表情で七人を見渡した。
「あの……。」
全員の視線がエレナへ向く。
エレナは小さく息を吸った。
「お願いがあります。」
「皆さんの銃を、貸していただけませんか。」
ルビーが首を傾げる。
「銃?」
エレナは真剣な表情で頷いた。
「今回の戦いで分かりました。」
「このままでは、皆さんの武器ではバルト・ケインが作った武器に太刀打ちできません。」
「だから。」
「皆さん一人ひとりに合った弾丸と、それに耐えられる新しい銃を作りたいんです。」
医療室が静まり返る。
ヴィクトリアはエレナを真っ直ぐ見つめた。
「本当にいいのか。」
「武器を作ることを、誰よりも嫌っていたのはエレナだったはずだ。」
エレナは静かに目を閉じた。
そして、小さく頷いた。
「はい。」
「もちろん……今でも好きではありません。」
「でも。」
エレナはゆっくり顔を上げた。
「皆さんを守るためなら、私は武器を作ります。」
少し息を吸う。
「悪いのは武器ではありません。」
「使う人です。」
ルビーたちは黙って耳を傾ける。
エレナは続けた。
「ナイフは人を傷つけることもできます。」
「でも、おいしい料理を作って、人を笑顔にすることもできます。」
「薬だって同じです。」
「使い方を間違えれば毒になります。」
「でも、人の命を救うこともできます。」
「武器も同じだと思うんです。」
「大切なのは、誰が、何のために使うのか。」
静かな空気が流れる。
最初に口を開いたのはセリスだった。
「あら。」
「とても素敵な言葉ね。」
ナヤも腕を組みながら頷く。
「確かに。」
「そんなふうに考えたことなかったよ。」
アイリスも小さく頷いた。
「私もだ。」
「その考えには納得できる。」
ルシアは優しく微笑む。
「エレナ。」
「とても素晴らしい考え方です。」
「私は感動しました。」
エレナは少し照れながら笑った。
「ありがとうございます。」
そして、ルビーを見る。
「実は……。」
「二年前。」
「初めてルビーと会った日に、教えてもらった言葉なんです。」
全員の視線がルビーへ集まる。
ルシアは嬉しそうに微笑んだ。
「ルビー。」
「とても素敵な言葉です。」
「私、とても嬉しいです。」
ナヤも笑う。
「ルビーも、たまにはいいこと言うんだね!」
エレナは目を輝かせた。
「あの時の言葉で、私の考え方は変わりました。」
「だから今の私があります。」
ルビーは照れ笑いを浮かべる。
「ハハハ……。」
「まぁね。」
少し首をかしげる。
(……そんなこと言ったっけ?)
その様子を見たセリスは口元を押さえて笑う。
(忘れてるわね。)
ヴィクトリアも苦笑した。
(忘れてるな、だがルビーらしい。)
二人は何も言わなかった。
エレナは七人を見渡す。
「だからお願いします。」
「皆さんの銃を、私に預けてください。」
「必ず。」
「皆さんが無事に帰って来られる武器を作ります。」
ルビーは笑顔で、自分のリボルバーを差し出した。
「任せた。」
ルシアも白いリボルバーを手渡す。
「お願いします。」
アイリスはシャープス・ライフルとレムアーミーを静かに差し出した。
「期待している。」
ナヤはショットガンを肩から下ろす。
「もっと派手なの、よろしく!」
セリスはデリンジャーを微笑みながら渡した。
「楽しみにしてるわ。」
ヴィクトリアはスペンサー・カービンを両手で差し出す。
「頼んだ。」
エレナは六人の銃を大切そうに受け取る。
胸に抱きしめ、深く頭を下げた。
「ありがとうございます。」
「必ず完成させます。」
「それでは。」
「工房へ行ってきます。」
ルビーが笑う。
「焦るなよ。」
エレナも笑顔で頷く。
「はい!」
医療室を出て行く。
扉が静かに閉まった。
ルビーはその背中を見送りながら笑う。
「エレナなりに、ちゃんと考えたんだな。」
ルシアが優しく微笑む。
「はい。」
「エレナさんも、本当によく頑張りました。」
アイリスが静かに頷く。
「エレナがいなければ。」
「ブラック・オラクルも。」
「ラストワードも突破できなかった。」
ナヤが腕を組む。
「特殊防弾胸甲も、本当に厄介だったよ。」
セリスが微笑む。
「まさに縁の下の力持ちね。」
ヴィクトリアは静かに口を開く。
「だが、エレナの言う通りだ。」
「もし本当に、バルトの武器や兵器が帝国軍へ渡っているなら。」
「今の装備では戦えない。」
ルビーは少し考え込む。
「でも。」
「帝国軍って、人を守る軍だったよな?」
ヴィクトリアは静かに頷いた。
「ああ。」
「私が所属していた旧・蒼狼連隊も、その帝国軍の部隊だ。」
「だから私は帝国軍へ入隊した。」
少し目を伏せる。
「最高指導者も。」
「民を何より大切にする、温厚な人物だった。」
医療室が静まり返る。
ルビーが小さく呟く。
「バルトが嘘をついていたようには見えなかった。」
ヴィクトリアも静かに頷く。
「私もそう思う。」
「帝国軍で、何かが起きたのは間違いない。」
医療室が静まり返る。
ルビーは窓の外へ視線を向けた。
そして、小さく呟く。
「……帝国軍に、一体何があった。」

誰も答えられなかった。
静かな風が医療室を吹き抜ける。
その頃――。
エレナは六人の銃を抱え、ブラックジャッカルの工房へ向かっていた。
新たな武器を生み出すために。
そして。
新たな戦いへ備えるために。
第30話 第一章 完
⚫️紀霊スズヤのひと言コーナー
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第一章を読んでくださった皆さま、本当にありがとうございました。
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