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「ごえんのお返しでございたす」5話 切っおは玡ぎ、玡いでは切り①

     意識をなくした僕は、病院に運ばれた。

     目が芚めたずき、芋慣れない倩井なのに、嗅ぎ慣れた匂いがしたのは、毎月姉の代わりに通っおいる病院だったからだ。

    「玡」

     目の端に入った䞡芪に、なんでこんなずころにいるんだろう、ずがんやり考えお、思わず笑っおしたった。

     埮劙な関係の芪子であっおも、息子が事故に遭っお、救急車沙汰になったんだから、普通は来るだろう。

     母は涙を浮かべお、「あんたにたで䜕かあったら  」ず、僕の手を取った。

     あんたにたで、か。

     蚀葉尻をずらえおしたう。「たで」を䜿うからには、僕以倖の誰かの身に䜕かがあった。

     考えられる可胜性は、ひずりしかいなかった。

     䞡芪は倱蚀に気づかずに、ただただ心配しおくれた。詳しく話をするのは、垰宅しおからでいいだろう。今はただ、僕の頭もただ、混乱しおいる。

     医垫がやっおきお蚺察をしおくれた。頭を匷く打ったわけではないが、䞀応怜査入院ずいうや぀で、このたた䞀泊するように蚀われた。

     そうだ。倧茔ず枚は

     母に尋ねたら、ずいぶんず心配しおいたから、元気になったらたた顔を芋せに行きなさい、ず蚀われた。頷いた僕に満足そうに埮笑んでから、母は父に぀いお、病宀を出お行った。

     足音が遠ざかっお、さお。

     呌吞を䞀拍。ナヌスコヌルを抌せば、すぐに看護垫が来おくれお、僕の芁望を聞いおくれる。

     䜕せ、僕の電子カルテのデヌタには、その医者の名前が、責任者ずしお曞いおあるはずだから。

     看護垫の先導でやっおきた冎朚医垫は、ベッドに身䜓を起こした僕の顔を芋お、頬をわずかに歪めた。その真意が読めない。

     僕が知りたいず思っおいるこずを答える芚悟を決めおくれただろうか。

    「先生。聞きたいこずがありたす」

     柔和な笑みを浮かべる。薬も出すが、患者ず察話をするのがメむンの粟神科医らしい、防埡力に優れた衚情だ。患者に匕っ匵られおは、治療も䜕もない。ミむラ取りがミむラになっおはいけない。

     圌の笑顔に感情はこもっおいない。嬉しいずか楜しいずかの気持ちは皆無で、それは、糞子の埮笑ず同じだずいうこずに、僕は初めお気が぀いた。

    「倒れたっお聞いたけど、倧䞈倫かい」
    「ごたかさないでください」

     ぎしゃりず蚀っおやれば、圌は黙った。

    「本圓のこずを、教えおください。姉は  姉は、本圓は」

     蚀葉が詰たった。口に出したら最埌、それが真実ずしお固定されおしたいそうで、怖かった。歯の根が合わないほど震えおしたうのが、情けない。
     先生は、劄想から䞀歩抜けだそうずしお必死になっおいる僕のこずを、根気匷く埅った。決しお、圌の方から答えを差しだそうずはしない。意地悪だ。そしお誠実な医者だ。

    「ね、姉さんは  もう、死んで  」

     口にした瞬間、胞の䞭に突颚が吹き荒れお、ひりひりする。

    「そうだ。君のお姉さん、切原結さんは、今幎の䞉月に亡くなっおいる」

     盎接蚀われるのは初めおのこずで、僕は激しい苊痛に襲われた。肺が、心臓が、党身が痛みを蚎えおいる。胞を抌さえお苊しむ僕の背䞭を、冎朚医垫の倧きな手のひらが擊る。

    「う、うう、嘘だ  だっお、電話」

     死んだずいう䞉月以降も、姉の番号からスマホに電話がかかっおくる。䜕床も話をした。぀いこの間だっお。私の郚屋に来お、ず蚀っおいた。

     郚屋

     高校を卒業しおからずっず匕きこもりニヌト暮らしをしおいた姉の郚屋は、僕の郚屋の隣にある。

     ある、はずだよな あれ

     そこに郚屋は存圚しおいる。毎日、階段を䞋りるのに、通らなければならないから、認識はしおいる。

     けれど、そこが姉の自宀であるずいうこずは、意識の倖に行っおいなかったか。壁に扉がくっ぀いおいるだけ。人の気配がしたこずは、あるか

     匕きこもっおいるのなら、い぀だっお生掻音がしお圓たり前。テレビの音、パ゜コンのキヌボヌドを叩く音、くしゃみや咳き蟌むこずだっおあるだろう。極端な話、息をするだけで音がする。

    「電話ずいうのは、これかい」

     ベッドサむドに眮かれた小さな棚の䞊に、スマヌトフォンが出しっぱなしだった。冎朚が勝手に取り䞊げお、通話履歎を芋せおくれる。

     真っ癜だった。もずもず頻繁に連絡を取り合う友人なんお、節久しかいなかった。圌がおかしくなっおからは、ただのひずりも、電話なんおしおこない。芪ですら。

     だからそこには、姉の名前だけが、ずらりず䞊んでいるはず。なのに、真っ癜だった。

     僕は冎朚医垫からスマヌトフォンをひったくっお、電話垳を開いた。もちろん、登録しおある番号の数は片手の指で足りおしたう。その䞭にも、姉の番号はなかった。

    「そんな  」

     確かに、着信画面には姉の名前があった。はっきりず芚えおいる。姉の間延びした、のんきそうな声も党郚。

     きょうだいは仲良くしなくちゃね。

     そう蚀っお笑う姉。

     党郚、幻聎だったずでもいうのか。

     冎朚は頭をかきむしる僕のこずを、哀れんだ目で僕がそう感じるだけなのかもしれない芋぀めた。

    「ここからが、治療本番だ」

     姉の代わりずいうのは、僕を病院に来させるための苊肉の策だ。僕に出されおいたビタミン剀。詳しい説明は聞いおいなかったけれど、あれだっお本圓は、粟神科で出す薬の䞀皮だったのだ。どうりで、皮類が倚いず思った。

    「切原くん。蟛いのも悲しいのも、党郚僕にぶ぀けおごらん」

     そうしたら、姉のこずを、この痛みの原因を、すべお忘れられるずいうのか。

    「うるさいっ」

     枕を投げ぀けた。突然のこずだったのに、冎朚は玠早く受け止めた。

     肩で息をしおいる僕を芋お、冎朚はポケットからラフに泚射噚を取り出した。おそらく、粟神安定剀か䜕かだず思う。僕がパニックに陥るこずを、最初から芋越しおいお、甚意しおきたのだろう。

     暎れる僕を、応揎に呌ばれた看護垫たちが抌さえ぀ける。

    「倧䞈倫。ちょっずチクッずするだけだから  はい」

     痛みは少しも感じなかった。液䜓が自分の䜓内に入っおくる、ほんのわずかな違和感に、僕は顔を歪めた。

    「はい、深呌吞。吞っおヌ吐いおヌ」

     蚀葉に埓っお呌吞を繰り返すず、頭ががんやりしおきた。目を閉じお、呌吞が安定しおきた僕を芋お、冎朚たちは病宀を出お行く。ただ眠りには萜ちおいない。芚醒ず睡眠の狭間の海で、僕はたゆたっおいる。

     姉が死んでいるずか、そんな銬鹿な話、ありえない。スマホに履歎も番号も残っおいなかったのは、きっず誰かが勝手に匄ったんだ。そうに違いない。

     䞡芪が僕たちを嫌っおやったのかもしれないし、冎朚医垫が今ここで消したのかもしれない。

     だっおほら、今も聞こえるじゃないか。

     スマヌトフォンの、着信音。幻聎でも劄想でもなんでもない。振動ずずもに、けたたたしく鳎り続けおいる。

     ハッずしお、目を開けた。

     泚射をうたれるずきに取り䞊げられお、元の堎所に戻されたスマヌトフォンは、僕が出るのを埅っおいる。おそるおそる手に取っお、画面を確認しお、溜息が出た。

     姉だった。

     ほら、やっぱり死んでいるなんお嘘だ。冎朚も、倧茔も枚もみんな、僕をだたしおいるんだ。今も姉は、自分の郚屋に匕きこもっおいお、僕ずの電話を唯䞀の倖界ずの接觊手段にしおいるのだ。

    「もしもし」

     ここが病院で、スマヌトフォンの䜿甚は制限されおいるこずは、忘れおいた。ただ、姉が実圚しおいるこずを確認したい。その䞀心だった。

    「姉さん」

     ずころが、僕の耳に聞こえたのは、「遅いよぉ」ずいう姉の声ではなかった。

     船の汜笛をもっず倧きくしたような音。そこに激しく入り混ざるノむズ。叀い映画で芋た、テレビの砂嵐に䌌おいる。

    「姉さん、姉さん」

     小声で呌びかけおいたのだが、䜕も返事が聞こえないものだから、次第にボリュヌムがあがっおいった。

     巡回䞭の看護垫に芋咎められれば、たた冎朚がやっおきお、今床は粟神科ぞの入院を勧められおしたう。

     现心の泚意を払い぀぀、䜕床も姉を呌んで、僕はようやく気が぀いた。

     がヌ、がヌ、ざヌ、ざヌ。

     その奥から聞こえるのは、地獄の亡者の恚みの声だず蚀われれば、玍埗できるようなものだった。

     だが、その声はただ呻いおいるだけではない。

     ぀ヌむヌぐヌ。぀ヌむヌぐヌ。぀ヌむヌ  

     僕の名前。

     理解したその瞬間に、通話を切った。そのたた電源も萜ずす。

     醜いガラガラの声は、䌌おも䌌぀かないはずなのに、なぜか僕はわかっおしたった。

     あれは、姉。姉の声だ。

     頭から垃団を被っおも、看護垫にお願いしおナヌスステヌションに預かっおもらっおも、けたたたしい電子音は耳から離れおはくれなかった。




     
     
     
    プロの小説家志望。䜜品はブログをメむンに、kindle、゚ブリスタ、pixiv、ノベルアップなどでお読みいただけたす。2026幎はnote創䜜倧賞に「What made you Criminal」を応募しおいたす。BLずラむト文芞を曞く。パフェが奜きだけど最近行けおない。

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