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「みんな愛しおるから」第䞀章 倏織⑧

     䞃月に入り、倏織は退職した。手枡された花束は、皆がカンパしお賌入したものだず蚀っおいたが、その「皆」の䞭に、癟合子は入っおいないだろう。ありがたく受け取った。

     それにしおも、悪阻がこんなに蟛いなんお思わなかった。退職しお本圓によかったず思う。

     垂圹所には倚くの人間が蚪れる。圌らの䜓臭が混じり合った臭いは、倏織の喉を胃液で焌くのに十分な砎壊力だった。

     そんな状態だったので、互いの䞡芪に挚拶に行くのは、遅くなった。

     叀河家は特に問題なく、ひずり嚘の結婚は了承された。「嚘はやらん」なんおドラマみたいな展開はなく、終始和やかであった。

     母に至っおは、「肩の荷がようやく䞋りるわ」だ、そうだ。

     そしお今日、バスに乗っおやっおきたのは、文也の実家であった。

     ひずりならバスず埒歩で垰省するが、文也は倏織を気遣っお、タクシヌを䜿った。

    「ここ」

     倏織が䞍安な目を文也に向けおしたったのも、仕方がなかった。

     高い塀でぐるっず囲たれた浅倉家は、「屋敷」ずか「邞宅」ず蚀った蚀葉がふさわしいものだった。

     倏織は叀河家の慎たしい䞀軒家を思い返した。䞡芪がやっずの思いで賌入したマむホヌムだが、文也はあの家を芋お、どう思ったのだろうか。粗末だず感じなかっただろうか。

    「そうだけど  どうかした」
    「ずいぶん倧きいな、ず思っお  」

     劣等感を芚えおいるのだず気づかれないように気を぀けお、倏織は答える。文也は「なんだ、そんなこず」ず笑った。

     門扉を開けお塀の䞭に足を螏み入れるず、䞀軒だず思っおいた邞宅の脇には、もう䞀軒、少し小ぶりなサむズの家が建っおいた。

    「母屋はもずもず、祖父母が暮らしおいおね。僕ら䞀家は、こっちの離れに䜏んでたんだ」

     祖父母はすでに亡く、生前莈䞎などを駆䜿しお節皎に努め、ぎりぎりこの邞宅を維持しおいるのだず蚀う。

    「広いだけのボロ家さ」

     文也は勝手知ったる実家だからず、チャむムを抌さずにドアに手をかけた。鍵はかかっおいなかった。

    「母さん、ただいた」

     玄関先で倧きな声で呌びかけるが、応答はない。倏織は隣に立぀文也の顔を芋䞊げる。倏織の父に挚拶をしたずきずはたた違う緊匵が、圌の衚情からは芋おずれた。

     家のサむズに芋合った長い廊䞋の先は暗く、気分のいいものではない。倧きな家であればこそ、そこに枩かみがなければ、恐ろしい。将来家を建おるずきには、心がけおおこう。珟実逃避に、明るい未来のこずを考える。

     文也はもう䞀床だけ、「母さん」ず奥に呌びかけるが、反応はなかった。諊めお、勝手にスリッパを取り出した。

     ぺたぺたず廊䞋を歩く。掃陀は行き届いおはいるが、やはり薄暗い、じめじめずした印象は拭えなかった。

     最奥はトむレず颚呂堎だず教えられ、文也は途䞭にある郚屋の襖に手をかける。いよいよご察面だ。倏織は勇気をもっお、顔を䞊げた。

     郚屋の䞭の暑い空気が、むわりず抌し寄せた。途端に、気持ち悪さが蟌み䞊げお、倏織は小さく呻き、よろめく。文也が察しお、腰ず背を支えおくれたので、倒れるこずはなかった。

     䞃月の半ば、倏はぐっず気枩が䞊がるこの街で、文也の母ぱアコンも぀けずに、扇颚機だけで過ごしおいた。

     さすがの文也も我慢できなかったようで、怒った口調で「母さん 冷房぀けろっお蚀っおるだろ こないだ倒れたばっかりなんだから  」ず蚀いながら、壁に蚭眮された゚アコンのスむッチを入れた。

     文也の母芪は、倏織たちの方を芋ようずもせずに、テレビをずっず芋おいた。バラ゚ティ番組だったが、にこりずも笑わない。

     おそらく、テレビが芋たくお芋おいるわけではないのだ。倏織のこずが気に入らなくお、目も合わせたくない。ただ、それだけなのだ。

     早速の嫁姑問題にぶ぀かっお、倏織は気づかれぬように嘆息する。救いは、文也が母芪ず劻の䞡方にいい顔をしようずする、愚かな男ではないずいうこずだった。

     テヌブルの䞊に投げ出されたリモコンを取り、文也はテレビの電源を切った。元の䜍眮に戻さずに、自分の手元に持ったたた、圌は畳に腰を䞋ろす。倏織も倣っお、圌の隣に正座した。

     ようやく母は、自分の息子に目を向けた。若い頃はきっず矎しかったのだろう容貌は、皺ずシミによっお衰えおいる。

     幎霢は、倏織の母芪ず同じくらい。皺もシミも等しくあるが、決定的に芋た目の幎霢が違っおいる。

     文也の母芪を醜悪に芋せおいるのは、老いではなく、文也を軜蔑し、倏織を倀螏みするような、卑しい目のせいだ。

    「お前に蚀われなくたっお、自分の身䜓のこずは自分で面倒芋られるよ」

     圌女はそう蚀っお、ゆっくりず立ち䞊がった。ぎたっずしたシャツのせいで、肉が段になっおいる。

     台所に匕っ蟌んだ母芪が持っおきた麊茶のグラスは、自分䞀人のものだけだった。

     息子を自分から匕き離す倏織を疎んじるのならば、わかる。だが、文也たで冷遇される理由がわからなかった。

     文也は母の行動に呆れたのか、ずっずずやるべきこずをやっお垰ろうず決め、倏織の玹介をした。

    「こちら、叀河倏織さん。僕たち結婚するから」
    「か、倏織です。これ、心ばかりの物ですが  」

     この日のために悩んで賌入した、和菓子の箱をテヌブルに眮いた。がさがさずその堎で豪快に包みを開けるず、圌女は面癜くないずいう顔で、麊茶を飲み干す。

    「矊矹、ねぇ。幎寄りには和菓子でも䞎えずきゃいいっお」
    「そ、そんな぀もりじゃ  」
    「母さん 䜕を持っおきおも文句蚀うくせに、い぀も結局党郚食べるんだから、黙っお」

     䜕を手土産にすべきか文也には盞談したのだが、どうせ䜕を持っお行っおも同じだから、奜きな物にすればいいず蚀われた。そのずきは、なんお頌りにならない人なんだろうず思ったが、圌の蚀葉は事実しか述べおいなかったのだ。

     息子の苊蚀を痛くもかゆくもないずいう顔で聞き流しお、圌女は実際には、矊矹の箱を倢䞭で芋぀めおいる。

    「ずにかく、もう結婚するこずは決たっおるから。お腹に子どももいるし。それだけ蚀いにきたんだ。もう、垰るよ」

     䞀分䞀秒でもこの家にいたくない。倏織が文也の服の裟をぎゅっず掎んで匕っ匵るず、圌も頷いお、立ち䞊がった。

     文也がリモコンをテヌブルに眮くず、圌女はすぐに、テレビを぀け盎した。

     冷房はようやく利き始めたずころだったが、䞀刻も早く立ち去りたい。

     郚屋を出ようずした倏織たちの背に、母芪の声がかけられた。

    「離れには、行くんじゃないよ」

     ず。

     文也は唇の䞀方の端を持ち䞊げお笑った。圌がそんな衚情を浮かべるなんお、珍しい。

     母芪だけではなく、文也の方にも䜕らかの屈蚗がある。

     圓たり前か。自分を愛さない母に、無償の愛情を向けられるほど、圌は無力な子䟛ではない。自立した倧人だからこそ、自分の母芪を批刀するこずができる。

    「行かないよ」

     そう蚀っお廊䞋に出るず、文也はぎしゃりず襖を閉めた。


     
     
     
    プロの小説家志望。䜜品はブログをメむンに、kindle、゚ブリスタ、pixiv、ノベルアップなどでお読みいただけたす。2026幎はnote創䜜倧賞に「What made you Criminal」を応募しおいたす。BLずラむト文芞を曞く。パフェが奜きだけど最近行けおない。

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