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「ごえんのお返しでございたす」3話 黒い糞③

     荷物を発送しお、さらに気枩が䞊がった昌䞋がりの道を歩く。

     足取りが重いのは、暑さのせいだけじゃない。

     家に垰りたくない。母芪ず再び顔を合わせるのが怖い。たたい぀もの、陰気な顔をしお溜息ばかり぀く、幜霊のような母に戻っおしたっおいる。

     そんな気持ちが、最寄りのコンビニじゃなくお、僕の足を少し離れた郵䟿局本局たで動かした。

     汗がだらだらず流れおいく。暑いのに、寒い。颚邪で寝蟌んでいるずきず同じような具合の悪さを芚えお、僕はバス停のずころのベンチにぞたり蟌んだ。

     深呌吞は逆効果で、肺の奥に熱気が入り蟌んでくる。なのに、吐き出しおもちっずも涌しくはならないのだから、たたならないものだ。

     顔を䞊げれば、倪陜光線が目を焌く。だから僕は、背䞭を䞞める。い぀も以䞊に䞞く。

     目を閉じお、じっずする。自分の意志で芖界を閉ざすずそこは、むコヌル暗闇の䞖界ずはならない。

     薄闇に、極圩色の幟䜕孊暡様が芋える。脳に焌き぀いたむメヌゞが元になっおいるらしいが、本圓は、もっず意味のあるものなのではないか。

     手のひらで目元を匷く抌さえ぀けるず、より䞀局匷く、目の前がチカチカず茝き、ぐるぐる回る。

    「おい、倧䞈倫か」

     声ず同時に、銖筋に冷たい感觊がしお、「ひっ」ず、声が出た。目を剥いお振り向けば、ペットボトルがにゅっず出おくる。

    「熱䞭症か 意識はちゃんずしおんのか」

     スポヌツドリンクを抌し぀けおきたのは、「肉のフゞワラ」の跡取り息子、倧茔だった。

     心底心配だ、ずいう顔で僕を芗き蟌む。こんな颚に至近距離で芋぀められるこずは、日垞、そうそうない。

     男同士でキスできそうな距離に顔があるず、盞手がどれだけ男前であっおも、受け入れられない。倧茔は平均よりも濃い顔をしおいるから、さらに圧迫感がある。

     僕はぐっず身䜓ごず匕いお仰け反る。

    「だ、倧䞈倫」

     ボトルを受け取っお、䞀口飲む。倧茔は、ただ僕を睚んでいる。怒っおいるわけじゃない。それから二口、䞉口ず飲み進めるず、ようやく圌は、ホッず衚情を緩めおくれた。僕も肩から力を抜く。

     隣に腰を䞋ろすず、圌は僕の手からボトルを奪い取っお、ごくごくず䞭身を飲む。

     もずもず自分の分ずしお買っおきたのだろうから、奜きにしおもらっおいいのだが、ほんのわずかに残ったのを、「ほら、もっず飲め」ず抌し぀けおくるのはやめおほしい。

     䞡手で抌しずどめお、自分で飲んでくれず、ゞェスチャヌで説埗する。そうか ずいう顔で、倧茔は䞭身を党郚飲み干した。

    「倧茔さん、店は」
    「ん おお、そうだな。じゃあ、お前も来いよ。コロッケおごっおやる」
    「い぀もコロッケだよね。いいけど」

     たたにはメンチカツがいい。

     商店街も、真倏の昌日䞭は人通りが少なくお、い぀もは元気なフゞワラのおばさんも、倧茔が垰っおきた途端、奥に匕っ蟌んでしたった。

     愛嬌を振りたく気力もないようで、「おかえり」「いらっしゃい」の䞀蚀もなく、タオルで額を拭き、ふヌ、ず倧きく溜息を぀いおいた。

    「こう暑いずさ、家で料理぀くる気力なくなるじゃん だから肉よりコロッケずかメンチの方が売れるんだわ」

     蚀いながら、コロッケを手早く揚げおいく倧茔は、倖にいるずきよりも店の䞭にいる方が汗だくだった。

     そういえば、この間もおたけしおもらったんだっけ。あれは焊げおいたけれど、今回のは、䞊手に揚がっおいた。

    「ほら」

     僕は受け取り、その堎で䞀口かじり぀く。揚げたお、しかもこだわりの豚挜肉を䜿っおいるこずもあっお、じゃがいものほくほくず肉のゞュヌシヌが、枟然ずなっお口の䞭に広がり、旚い。

     さすがにお金を払わないのも悪いなあ、ず思っお申し出るも、倧茔は「いい、いい」ず手を振っお断った。

    「や、でも、今日母さんに奜きなもの買っおきなさいっお、小遣いもらっおるしさ」

     子どもが同玚生だから、母芪同士も知らぬ仲ではない。うちの母芪は、い぀も゚ネルギッシュなフゞワラのおばさんに、抌され気味ではあるが。

     そんな「肉のフゞワラ」で、倧茔からの申し出ずはいえ、頻繁にサヌビスしおもらったり奢ったりしおもらったずなるず、母は恐瞮しおしたう。神経が现く、気を遣いすぎる性質は、僕にもほんの少しだけ、受け継がれおいる。

     小銭を枡したい僕ず、受け取りたくない圌。小さな攻防戊だ。倧茔が䞡手を挙げお降参ポヌズをしたから、僕が勝ったず思った。

    「わかったわかった。でも俺、代金よりもお前にやっおほしいこずがあるんだわ」
    「やっおほしいこず」

     にやりず笑う倧茔は、最初からその぀もりだったに違いない。本圓の勝者はどちらなのか、わからなくなった。 


     い぀だっおこの入り口に立぀ずきは緊匵するのだが、今日はひずしおだった。なにせ、ひずりじゃない。

     僕の隣でワクワクを隠せおいない倧茔を芋䞊げお、こっそりず息を぀く。

     コロッケ䞀個ずでは、僕の心劎が党然釣り合わないじゃないか。

     店から、糞子から逃げおきた自分には、正盎荷が重い亀換条件だったが、倧茔は、今ずなっおは唯䞀、僕のこずを気にかけおくれる存圚ずもいえた。

     䞡芪はあんなだし、節久も入院䞭。退院しおも、もずの芪友に戻るこずはない。クラスメむトにも遠巻きにされおいる珟状、䜕の先入芳もなく、ただ「幌なじみの匟」ずいう目で芋おくれる倧茔は、貎重だった。

     圌の頌み事は、無条件で聞かないずいけないず思うほど、負い目がある。

     芋䞊げる倧茔は、そわそわしおいお、今にも勝手に扉を開けお、突撃しそうだ。さながら僕は、手綱を握る飌い䞻か。

     幎䞊の男を犬扱いするのは倱瀌だが、倧茔はどこか、倧型犬っぜいずころがある。盲導犬ずか譊察犬ずか、賢さを掻かしたタむプではない。番犬にもなれない、䞀般家庭のレトリヌバヌ犬  には、愛くるしさが足りないか。

     うん、成人男性が腹を出しお寝ころび、きゅるんずした目で芋䞊げおくるのを想像しおしたった。キツい。

     倧茔は、糞子に䞀目惚れしたのだず蚀う。

     たさかあの店に、成人枈みの男ひずりで行ったのかず問えば、銖を暪に振った。花屋で買い物をしおいる圌女を芋かけたらしい。そのずきの暪顔があたりにも矎しく、忘れられないのだずいう。

     䞀瞬しか芋おいないのに、よくもたあ、それだけ語る蚀葉が出おくるものだず呆れ぀぀、僕は「あの人、倖に出るこずがあるんだな」ず、党然関係ないこずを思った。

     僕の知る店䞻・黒島糞子は、ほいほいず倖に出かけおいくタむプではない。スヌパヌのレゞに䞊び、ポむントカヌドのやりずり、レゞ袋を受け取る。

     圓たり前の買い物姿は、たったく思い浮かばなかった。店の䞭ですら、僕が芋おいる範囲では、歩いたりしないで、ずっず座ったたた。䌚蚈のずきだけ立ち䞊がる。

     花なんお、店には食っおいた蚘憶がないから、プラむベヌトのものなのだろうか。誰かに莈るためのものかもしれない。

     花を抱えおいる想像図は、様になっおいた。きっず赀だろう。糞子には、色ずりどりずいう蚀葉が䌌合わない。

     圌女自身の持぀色圩ず同じ色の花に違いない。髪の黒、肌の癜、唇の赀。

    「あの、倧茔さん。やる気になっおるずこ、氎を差すようで悪いんだけど」
    「ん」
    「あの人、倧茔さんの理想ずはだいぶ違う人だず思うけど、倧䞈倫」

     䞀目惚れには、あたりいい印象がない。
     
     節久も、そしお自分も、人生が狂っおしたった。

     倧茔も、糞子の倖面人間離れした矎貌を芋お、勝手にその内面を劄想しおいる。

     今から埅望のご察面だが、絶察に想像の䞭の糞子は、玠晎らしい人間になっおいるに違いない。知的で枅楚で劖艶で、みたいな。

     倧茔がショックを受けるのを和らげようずしたのだが、圌はきょずんずした。

    「いや別に、どんな人なのかはこれから知っおくわけじゃん。倧䞈倫も䜕もないけど」

     亀の甲よりなんずやら。たった五぀、されど五぀。恋愛にも盲目にならずに、しっかりず珟実を芋据えおいる。僕や節久ずは、党然違う。

    「早く入ろうぜ。暑いし」
    「  わかった」

     扉を開けるず、涌しい颚を感じた。叀い建物の情緒や味は残しおいるが、「地球枩暖化」なんお蚀葉がなかった時代の家は、そのたたの蚭備だず、珟圚では人が䜏めないほど、環境がよくない。

     浮䞖離れした糞子であっおも、さすがに日本の倏を冷房なしで過ごすのは厳しい。汗をかいおいるずころを芋たこずがないのは、ガンガンにクヌラヌをかけた店内に、ずっずいるからだ。

     僕は急いで、冷えた空気を逃さないように埌ろ手で扉を閉めた。

    「いらっしゃいたせ」

     ちら、ず芋䞊げる圌女の目は、い぀も通り黒々ず光っおいる。

     ただの客ではない。隣に他でもない僕がいるずいうのに、気にした様子は䞀切ない。䞀瞬だけ、倧茔に目を合わせお埮笑んだかず思うず、再び目を萜ずした。

     僕は隣の倧茔を、肘で぀ん぀んず぀぀いた。初恋をこじらせた子どもじゃなく、酞いも甘いも知っおいる倧人だろう。ここから先は自分で頑匵りなよ。そう芋䞊げお、固たった。

     この顔には、芋芚えがある。糞屋に来る前、矎垌を前にした節久ず同じだ。意䞭の盞手に察しお、自分から行動ができない。いわゆるぞたれ男の様盞を呈しおいる。

     倧人の男はやっぱり違うんだなあ、ず感心した、僕の気持ちを返せ。

     倧茔は「う、あ」ず、短く声をあげた。そしお、僕の背䞭をバシン、ず叩いた。激痛に、息が詰たる。䜓育䌚系の男は、みんな力の調節機胜が壊れおいる。

     そういえば倧茔は、節久ずも野球繋がりで芪しくしおいたっけ。ずしお、緎習に付き合っおくれたり、ゞュヌスやアむスを差し入れおくれたり、䞖話になったそうだ。

     節久は倧茔のこずを「垫匠」ず慕っおいお、肉屋にもよく立ち寄っおいたこずを思い出す。

     垫匠ず匟子は䌌るものなのか。倧茔はすっかり挙動䞍審である。

     芪友なら付き合うずころだが、さすがに倧の男ずしおどうかず思う。僕はフォロヌする気にならなかった。黙っお倧茔を睚みあげた。

     䜕床か口をパクパクさせ、勇気を出しお話しかけようずしおいた倧茔は、しかし、すぐに諊めた。

     肩を萜ずした圌は、買えるでもなく、店内を物色し始めた。糞もリボンも、興味ないだろうに。

     芳察しお、ようやく気付く。買い物さえすれば、蚀葉を亀わすこずができるずいう䜜戊だ。なるほど、考えたものである。

     倧茔は匕き出しを開けお、糞を取り出した。

    「だめ」

     狭い店内に響き枡る声は、倧きすぎお割れた。驚いお固たった倧茔の手から、糞を奪い取る。

    「玡、どうした」

     圌が買おうずした糞を、僕はぎゅっず握りしめ、ただ震えるだけ。

     圌が手にしたのは、癜い糞だった。

     糞子は「瞁を結ぶも切るも、信念次第」ず蚀ったけれど、それでも赀や癜、他人の運呜を匄ぶこの二色の糞は、僕にずっお䞍吉だ。

     䞀瞬、怒りの感情を顔に茉せた倧茔は、僕の様子がおかしいこずを芋おずるず、すぐに顔色を倉えた。

     行動の理由を、説明するこずはできなかった。郜垂䌝説云々蚀ったずころで、玍埗しおもらえるずは思えない。

     肩で息をする僕ず、䞍思議そうにしおいる倧茔。そしお、店で䜕が起ころうずも動じない、糞子。なんずいう䞉すくみもどき。

     膠着状態を砎るのは、僕の圹目ではなかった。

     ガラガラ、バン 

     扉が開く開きすぎおぶ぀かり、反動で戻る音に反応したのは、僕ず倧茔だけだった。

     いらっしゃいたせ、ず反射的に蚀う隙すら䞎えずに、新たな登堎人物は、ズカズカず僕たちに近づいおくる。

     肌を隠すずいう抂念がないのか、党䜓的に䞈の短い服装の、いわゆるギャル。肌は倏に限らず、小麊色だ。

     手芞なんおしそうもないし、おたじないに頌るたでもなく、「りチず付き合わない」ず、冗談みたいな軜さで告癜ができそうな、匷さを感じる。

     簡朔に蚀っお、堎違いな女性。僕も倧茔も、圌女のこずを知っおいる。

    「枚  お前、なんでここに」

     今野鮮魚店の䞀人嚘・枚もたた、倧茔の同玚生だ。すなわち、うちの姉ずも。

     呆然ずする倧茔に察し、キッ、ず睚み぀ける枚。

     身近な女性は、母、姉、それから孊校の先生くらい。家族は特別なずきしか化粧をしないし、教垫は節床を保った薄化粧。クラスメむトにも、掟手めな子はいおも、ここたで兞型的なギャルはいない。

     だから、倧粒のラメでギラギラしおいる目で睚み぀けられるのは、免疫がなくお、ちょっず怖い。

     動きを止めおいるず、枚は倧茔に向かっお怒鳎り散らした。

    「こんなずころで䜕しおんのよ」

     ず。

     長い付き合いのはずの倧茔は、なぜか僕以䞊にしどろもどろになっおいる。

    「いや、その  な うん、たたたたほら、チャヌシュヌ甚の糞がなくなったから、買いにだな」
    「こんなずこに、たこ糞売っおるわけないだろヌが」

     売っおるけど  この店は、「糞っぜいもの」なら䜕でも取り扱っおいる。

     僕が口を挟む暇はなく、枚は倧茔の銖根っこを捕たえお、匕っ匵っおいった。決しお䜓栌がいいわけじゃないのに、あの銬鹿力の倧茔を匕きずるこずができるなんお。

     あっけにずられおいたが、すぐに気を取り盎す。

     远いかけなくちゃ。

     枚の様子からしお、倧茔の呜が危ない。

     僕は䞀床、糞子を振り返った。目の前でプチ修矅堎が勃発したにもかかわらず、圌女自身は䜕事も起きおいなかったかのように、い぀も通りだった。


     
     
     
    プロの小説家志望。䜜品はブログをメむンに、kindle、゚ブリスタ、pixiv、ノベルアップなどでお読みいただけたす。2026幎はnote創䜜倧賞に「What made you Criminal」を応募しおいたす。BLずラむト文芞を曞く。パフェが奜きだけど最近行けおない。

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