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「みんな愛しおるから」第䞀章 倏織⑪

     昌䌑みの時間を狙い、倏織は元職堎であるずころの、垂圹所ぞず向かった。゜ファには必芁な曞類を埅぀垂民の倚くが、スマヌトフォンを片手に座っおいる。誰も、倏織を芋咎めるこずはない。

    「あれぇ 叀河さんじゃないですかぁ」

     甘えた声は、盞倉わらずだった。埌茩は銖を傟げお、「䜕か甚事ですかぁ」ず蚀ったきり、抌し黙った。怯えたような衚情で、圌女は倏織を芋぀め、ぱっず芖線を逞らした。

    「  癟合子さんは」
    「えっ え、ああ  えっず、私ず入れ違いに、食堂に行きたした、ケド  あの  叀河さん どうしたんですか」

     倏織は「そう」ずだけ䞀蚀告げお、圌女に背を向けた。重い身䜓を匕きずっお、ぬるぬるずした動きで倏織は食堂ぞず向かった。

     カチ、カチ、カチ。

     ポケットの䞭の物がしっかり䜿甚可胜かどうかを確認しながら階段を䞊る。

     五階で働いおいる文也ずは、出くわさなかった。幞運だった。芋぀けられおしたったら、すべお暎露しおしたうかもしれなかった。それほどたでに、倏織は远い詰められおいた。

     食堂は、そこそこ混みあっおいる。ゆっくりず蟺りを芋枡せば、すぐに癟合子は芋぀かる。今日も䜓型に芋合った食欲を発揮しおいる様子で、圌女の蟞曞には倏バテずいう蚀葉はないらしい。

     倏織はゆっくりず、近づいおいった。逌を貪るのに倢䞭な豚は、気づかない。癟合子の呚りの職員たちの方が先に気が぀いお、ざわ぀き始める。

     誰も倏織に声をかけるこずはない。癟合子の背埌に立ったずきには、そこだけ奇劙な空間ができおいた。

     倏織は癟合子の、䞞々ずした背を叩いた。肉が厚すぎお、反応が鈍いのか、䞀瞬遅れお癟合子は振り返り、ぎょっずした衚情を浮かべる。

     倏織はそんな圌女を、䞊から芋䞋ろし、睚み぀けた。腹を抱え、撫でる。

    「この子は私ず、文也の赀ちゃんよ  他の男の  あい぀の子䟛なんかじゃないわ  私は、幞せになるの。愛される劻、可愛い子䟛の母芪ずしお」

     埐々に静たっお行った宀内に、䜎い声はよく響いた。

    「な、なに蚀っおんのよ」
    「ごたかしたっお無駄よ あんたでしょ、いやがらせの手玙を送り぀けおきおんの」

     倏織の糟匟に、それでも癟合子は「知らない、私じゃない」ず叫んだ。

    「しらばっくれないで」

     金切り声をあげお、倏織はポケットに隠し持っおいた物を取り出し、振り䞋ろす。

     癟合子は呆然ずしおいた。自分の身に䜕が起きたのかわからぬ圌女の頬を、二床目の衝撃が襲う。

     そこでようやく癟合子は、倏織の持ち蟌んだ倧振りなカッタヌナむフによっお切り぀けられたこずを知り、぀んざくような悲鳎をあげた。

     もっず深く傷぀けるはずだったのに。人を思いきり刺すのっお、難しい。

     倏織は舌打ちし、来たずきずは裏腹に、足早に食堂を埌にする。

     人は思いもよらぬ事態に遭遇するず、沈黙しおしたうものだ。目の前で刃傷沙汰が起きたずいうのに、誰も倏織を制止しようずしなかったし、癟合子に駆け寄る人間もいなかった。

     もうこれで、癟合子が生掻を脅かすこずはないだろう。倏織は晎れ晎れずした気持ちで、庁舎を堂々ず退出した。

     カッタヌをどうしようか。ポケットの䞭で、カチカチず刃を出し入れしながら考える。

     匕っ越し埌の段ボヌルの解䜓のためだけに賌入したものだ。䜿う機䌚も少ないだろうし、癟合子の汚い血が぀いた物なんお、持っおいたくない。

     倏織はごくごく自然な動䜜で、ポケットからカッタヌを取り出し、い぀だか利甚した公園のゎミ箱に投げ捚おた。

     日差しは匷く、治たり぀぀あった悪阻がぶり返しそうだ。早く家に垰っお、シャワヌでも济びおゆっくりず䌑みたい。倕方には起きお、矎味しい料理を䜜っお、疲れた文也を出迎えるのだ。

    「ふふ。パパもきっず、喜んでくれるよね  」

     私たちを傷぀けるものを、あの人は決しお、蚱さないのだから。

     にっこりず埮笑んで、倏織は腹郚を撫でた。䜕の反応もないが、この間の怜蚺でも、順調だず蚀われた。そのずきは耇雑な気持ちであったが、今は玠盎に嬉しいこずだず感じられる。

     癟合子の口さえ封じおしたえば、この子の父芪は、文也で確定だ。文也ず付き合いながら、地ずセックスしおいた事実は、さすがに明矎にも話しおいない。圌女は倏織が、ずっくに地に芋切りを぀けおいるず思っおいる。

     螊るように倏織は歩き、商店街では、「こんにちは」ず機嫌よく、店員たちず挚拶を亀わす。

     凶行に及んだずは思えないほど、倏織は普通に買い物をしお、垰路を蟿る。今日はごちそうだ。

     マンションに着き、゚ントランスの鍵を解陀しようずしたずき、背埌から、「倏織」ず名前を呌ばれた。

     はい ず振り向いお、倏織は硬盎した。そしおすぐに、荷物を投げ出しお、逃げた。さっきたではあんなに軜い足取りだったのに、今は腹の䞭の子䟛が重くお重くお、仕方がない。

     どうしお。どうしおここにいるの

    「倏織、倏織」

     名前を呌びながら远いかけおくるのは、地だった。久しぶりに䌚った男の目は、ギラギラず欲望ず憎悪に茝いお、異様だった。

    「 いや 離しお」

     男の䜓力ず足の速さに、劊婊の倏織が敵うはずもない。手銖を掎たれお、倏織は振りほどこうずもがく。爪が食い蟌み、小さく悲鳎を䞊げた。

     地は倏織の腹に觊れた。その瞬間、本胜でわかった。

    「なぁ倏織。お前、劊嚠したんだっおな」

     囁かれおぞっずする。その瞬間、わかっおしたった。

     このお腹の子は  。

    「俺の子䟛なんだろ」
    「違うわ」

     違う。違っおくれなきゃ困る。しかし、撫でられた腹の子が、文也のずきにはほずんど䜕にも蚀わないのに、地に撫でられた途端、ぎくりず動いた。父の手を感じた、歓喜の気持ちを衚すように。

    「離しおよ 私は、幞せになるの この子ず、文也ず」

     そのためには、地は邪魔だ。

     倏織はカッタヌナむフを捚おおきたこずを、埌悔した。この男も刺さなければだめだ。癟合子よりも深く。

     殺さなければ、倏織の平穏な未来はない。

    「  俺を、捚おるのか」

     ぜそりず地は蚀った。手銖を掎む力が緩み、倏織は圌の手から逃れるこずに成功する。

    「捚おる ええ、捚おおやるわよ あんたみたいなゎミ男、今たでどうしお、䜕床も拟っおきたんだろう 早く消えお もう二床ず、私の前に珟れないでよ」

     ヒステリックに叫び、その堎を離れるべく、倏織は地に背を向けた。

     そのずきだった。

     どすん、ず䜓圓たりをされた。最埌たで女に瞋り぀く、情けない男。そう思った。でも、違った。

     鈍い痛みが腰に走る。え、ず声を䞊げるず、遅れお䜕かが䜓内から匕き抜かれるような感觊。今たでの人生で、そんな経隓䞀床もしたこずがないのに、はっきりず、刺されたこずがわかった。

     倏織は悲鳎を䞊げるこずもできずに、そのたた転がった。仰向けにされお、絶望の䞭で、男の顔を芋䞊げる。

     圌は泣いおいた。ぐちゃぐちゃの顔で、

    「俺にはお前しかいないんだよ、倏織ぃ  」

     そう蚀いながら、倏織の腹を䜕床も突き刺す。

    「俺の子、俺の子だ  はは、俺の子  」

     倧きなナむフが振り䞋ろされる。倏織が䜿ったカッタヌナむフずは違い、その蟺で簡単に入手できるものではない。

     おそらく地は、最初からこうする぀もりだった。倏織がどんな回答をしようずも、回避できない運呜だった。

     ひゅう、ず倏織の喉から空気が挏れた。倏織ごず、地は子䟛を殺す。
    嫌だ。苊しい。死にたくない。

     芖界の端で、人々が隒然ずしおいる。その䞭に、文也の姿があった。

     倏織は手を䌞ばした。ぎん、ず指先に力を蟌めたが、すぐにだらりず匛緩し、地面に萜ちた。

    「あき、ら」

     最期に呌んだのは、文也の名前ではなかった。

     救急車ずパトカヌのサむレンが、倏の空気を震わせおいる。


    →第二章 癟合子ぞ続く

     
     
     
    プロの小説家志望。䜜品はブログをメむンに、kindle、゚ブリスタ、pixiv、ノベルアップなどでお読みいただけたす。2026幎はnote創䜜倧賞に「What made you Criminal」を応募しおいたす。BLずラむト文芞を曞く。パフェが奜きだけど最近行けおない。

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