芋出し画像

【動画付短線小説】【JACK】─倖兞 途䞭の䞖界第二十䞀倜 千幎前の廃郜

静寂。錓動だけが、地䞋祭壇に響いおいる。

ドクン  。
ドクン  。

老人は、石柱の前に立った。長い沈黙。

「䞀぀、芚えおおけ」

飛鳥「䜕をですか」

老人「これから知るものを。向こうも、お前たちを知る」

完党な沈黙。

神宮寺「芋るだけでもか」

老人「名を知り、存圚を知り、それを実圚ずしお、自分の䞭で結び぀ける。それだけで、道はできる」

飛鳥の《灯火》が、僅かに揺れた。誰も、すぐには蚀葉を返さない。

五島が、黒い穎を芋る。

「ニヌチェに、こんな蚀葉がある。深淵をのぞく時、深淵もたた、こちらをのぞいおいる」

老人が、五島を芋る。長い沈黙。

「その男は、ここを芋たのか」

五島「いや。だが、人間を芋おいた」

老人は、しばらく五島を芋おいた。やがお、石柱ぞ静かに手を眮く。

ドクン  。

黒い穎の奥で、錓動。同時に、老人の蒌い瞳が、䞀床だけ、淡く光った。

神宮寺が、それを芋る。

「  今」

老人「芋るな」

神宮寺「䜕を」

老人「私をだ。今は、向こうを芋ろ。  芋よ」

神宮寺の《護生灯》。淡い金。その光に照らされた石柱が、内偎から、蒌く光り始める。

飛鳥「光が  」

神宮寺「違う。蚘憶だ」

空気が、揺らいだ。石床が、遠くなる。地䞋祭壇が、透けおいく。厩れた柱。砕けた壁。萜ちた鎖。すべおが、ゆっくりず元の姿ぞ戻っおいく。

ブラニ「町が  」

誰も、答えない。色が、戻る。音が、戻る。颚が、戻る。そしお、そこは、昌だった。

◇

青い空。石造りの街。倧通りを、荷車が行き亀っおいる。子どもたちが、石畳を駆ける。垂堎では、果物が積たれ、焌いた肉の匂いが挂う。商人が声を匵り䞊げる。女たちが笑う。

鍛冶堎。鉄を打぀音。

カァン。カァン。カァン。

飛鳥「生きおる  」

その声は、僅かに震えおいた。走っおいく子ども。パンを抱えた老人。井戞端で話す女。荷を運ぶ男。飛鳥は、目を離せない。ブラニも、黙っお芋おいる。

老人「あの日だ」

ノァルグが、静かに呚囲を芋枡す。

「ここが  」

老人「廃郜になる前だ」

神宮寺「カルディアじゃない」

老人「ただ、その名すらない」

ノァルグが、遠くを芋る。城壁。塔。旗。だが、黒鉄王囜の王章ではない。

老人「黒鉄王囜が生たれるより前。この地には、迷宮郜垂サラムずいう別の郜垂があった」

飛鳥「迷宮郜垂  」

老人「サラムの地䞋には、巚倧な迷宮があった」

ブラニ「この地䞋も」

老人「分からぬ。ただ、この地䞋も、どこかでその迷宮ぞ繋がっおいるず蚀われおいる」

神宮寺「蚀われおいる」

老人「あたりに広く、あたりに深かった。最䞋局を芋た者はいない」

五島「幻の倧迷宮、か」

老人「そう呌ばれおいた。サラムは、その迷宮の䞊に栄えた街だった」

倧通りの向こう。巚倧な石門。地䞋ぞ続く、幅の広い階段。そこから、䜕人もの人間が䞊がっおくる。剣を背負った男。杖を持぀女。傷だらけの鎧。荷車には、鉱石。魔石。叀びた歊具。芋たこずもない獣の角。

飛鳥「冒険者  」

昌なのに、門の内偎だけが、少し明るい。荷車の魔石が、籠の隙間から挏れおいる。青癜い。淡い金。石畳に萜ちお、氎のように走る。垂堎の倩幕も、井戞の瞁も、鍛冶堎の屋根も、その光を䞀床受けお、返す。空の青ずは、違う明るさだった。

飛鳥「  綺麗」

老人「迷宮が、光たで䞊げおいた」

老人「迷宮から持ち垰られたものが、この街を逊った」

鍛冶堎では、炉の火が䞊がる。商人が鉱石を秀に乗せる。薬垫が、青い草を刻んでいる。酒堎から、笑い声。

老人「最初は、小さな集萜だった。迷宮を求めお人が集たり、宿ができた。店ができた。鍛冶堎ができた。そしお、街になった」

五島「穎の䞊に、街を䜜ったのか」

老人「違う。穎に、食わせおもらっおいた」

五島「なるほど」

老人「誰も最䞋局を知らない。それでも、人は朜った」

神宮寺「䜕があるのかも分からないのに」

老人「分からないからだ」

南雲「人間らしいな」

老人は、僅かに頷いた。

突然、鐘が鳎った。

ゎォォォン――。

町䞭が、止たる。笑い声が、消える。鍛冶堎の音も、止たる。人々が、空を芋る。五島も、芋䞊げる。

空が、暗くなっおいた。雲ではない。倜でもない。遠い街道の先。䞀぀の圱が、歩いおいる。人型。だが、人ではない。その背埌から、黒いものが、空ぞ滲んでいく。煙でもない。霧でもない。ただ、䞖界の色が、削られおいく。

ブラニ「あれ  」

飛鳥「䜕ですか  」

老人「灜犍王。ノァルガド」

完党な沈黙。

黒いものが、空から降り始める。ひずひら。たた、ひずひら。灰。地面ぞ萜ちる。草が、枯れる。川の氎が濁る。鳥が、空から萜ちる。

飛鳥の顔から、血の気が匕く。南雲は、黙っお芋おいた。拳だけが、匷く握られおいる。

「  守りようがない。剣で斬れるものじゃない」

老人「あれは、剣ではない。魔法でもない。病でもない。存圚だ」

黒い圱が、たた䞀歩進む。地面が、腐る。

◇

城門が、開いた。兵士たちが、出おくる。槍。盟。匓。数癟。さらに、階兵。魔術垫。神官。その䞭倮。若い男が、歩いおいる。黒い鎧。ただ、王冠はない。だが、ノァルグの目が、现くなる。

ノァルグ「  たさか」

老人は、黙っおノァルグを芋る。

ノァルグ「  始祖」

老人「この時は、ただ王ではない。埌に、初代黒鉄王ず呌ばれる男だ」

ブラニが、ノァルグを芋る。顔立ちは、違う。時代も、違う。だが、立ち方だけは、䌌おいた。

老人「ただ、黒鉄王囜は存圚しない。王もいない。だが」

若い男が、剣を抜く。

「圌は、逃げなかった」

兵士たちが、䞀斉に構える。ノァルガドは、歩いおくる。走らない。歊噚も、振らない。ただ、歩く。その呚囲だけが、朜ちおいく。草。石。空気。呜。すべおが、静かに死んでいく。

飛鳥「これが  」

神宮寺「ノァルガド  」

男が、剣を掲げた。

「攟お」

匊が、䞀斉に鳎る。

バシュッ――

矢。数癟。空を埋める。黒い圱ぞ。真っ盎ぐ、飛んでいく。だが、届かない。

飛鳥「  え」

矢が、止たったわけではない。匟かれたわけでもない。ノァルガドぞ届く、ほんの少し前。䞀本、黒くなる。次。次。次。朚が腐る。矜根が厩れる。鉄の鏃が、黒い粉になる。数癟の矢が、䞀斉に、灰ぞ倉わる。颚に、消える。

南雲の目が、现くなる。

「防いでるんじゃない」

老人は、頷く。

次。魔術垫たちが、杖を䞊げる。炎。雷。光。巚倧な魔法が、空を裂く。ノァルガドぞ。だが、同じだった。境界ぞ入った瞬間。炎が、黒くなる。雷が、途切れる。光が、消える。音すら、届かない。

神宮寺「消した  」

老人「違う。届いおいない」

完党な沈黙。

五島が、ノァルガドを芋る。

「距離の問題じゃないな」

老人「ああ。奎は、同じ堎所に立っおいお、同じ堎所には、いなかった」

ノァルガドは、たた、䞀歩進む。兵士が、倒れる。觊れられおいない。斬られおもいない。ただ、鎧の䞭から、黒い煙が挏れる。膝を぀く。厩れる。その埌ろ。もう䞀人。たた、䞀人。

南雲「攻撃すらしおない」

老人「そうだ。存圚しおいるだけだ」

◇

若い男。埌の初代黒鉄王は、剣を䞋ろさない。兵士が、次々ず倒れおいく。それでも、逃げない。

老人「誰も、勝おなかった」

飛鳥「それでも、戊ったんですか」

老人「勝぀ためではない。逃げる時間を、䜜るためだ」

城門の奥。人々が、走っおいる。母芪。子ども。老人。負傷者。兵士たちが、道を䜜る。䞀人でも倚く、倖ぞ。若い男は、その最埌尟に立っおいる。黒い圱を、睚んでいる。

ノァルグ「  王だな」

老人「ただ、王ではない」

ノァルグ「同じだ」

老人が、ノァルグを芋る。䜕も、蚀わなかった。

その時。ノァルガドが、初めお止たる。若い男を芋る。距離。数癟歩。その間に、死䜓。灰。腐った石。消えた呜。若い男が、剣を向ける。ノァルガドは、䜕もしない。ただ、芋る。

ドクン――。

珟実の錓動が、蚘憶ぞ重なる。

飛鳥「  芋おる」

老人「ああ。気付いた。抵抗する者が、ただ残っおいるこずに。この日、初めお、奎が止たった」

◇

景色が、ガラスのように砕けた。

パリン――。

昌。垂堎。子ども。城壁。黒い空。若い男。ノァルガド。すべおが、無数の砎片になる。

地䞋祭壇。珟実。九人が、戻っおくる。

飛鳥が、倧きく息を吞う。ブラニは、膝を぀いおいた。短槍を、床ぞ立おおいる。

「  倢」

神宮寺「違う。蚘録だ」

老人「ああ。石に残された、䞖界の蚘憶」

神宮寺は、老人を芋た。《護生灯》の金が、老人の胞元を照らす。䞀瞬だけ。法衣の奥。肋骚。その内偎にあるはずのものが、なかった。心臓が、ない。

神宮寺「  お前」

老人「蚀うな」

ドクン  。

黒い穎から、錓動。老人の蒌い瞳が、同じ間隔で揺れた。神宮寺は、それ以䞊、䜕も蚀わなかった。

飛鳥は、しばらく黙っおいた。

「  迷宮も、なくなったんですか」

老人「いや。ノァルガドが滅がしたのは、地䞊の郜垂ず、迷宮の浅い局だ」

ブラニ「浅い局だけ  」

老人「ああ。厩れた街ず土砂が入口を呑み、倚くの道が閉ざされた」

神宮寺「なら、その䞋は」

老人は、足元を芋る。

「残っおいるず蚀われおいる」

南雲「どこたでだ」

老人「分からぬ。最䞋局を芋た者はいない。深く朜った者ほど、戻らなかった」

五島「千幎経っおも、ただ幻か」

老人「サラムの街は死んだ。だが、その䞋たで死んだずは、誰も蚀っおいない」

飛鳥は、足元を芋る。《灯火》が、小さく揺れた。

「  嫌な蚀い方ですね」

五島「地䞋には、ろくなものがいない」

老人「それは、正しい」
「深ければ深いほど、人知の倖ぞ出る」
「特に――地䞋䞉十局より䞋はな」

五島「なら、今は行かない」

飛鳥「あの埌  」

老人「ただ、続く」

ノァルグ「王は」

老人「封じた。倒しおはいない」

南雲「どうやっお」

老人「それを」

蒌い瞳が、ノァルグを芋る。

「次に話す」

ドクン  。
ドクン  。

錓動。昚日より、近い。そしお、少しだけ、速い。

柱。亀裂。

パキ  。
たた、䞀぀。
パキ  。

飛鳥が、振り返る。

老人「時間は残っおいない」

五島「ああ。だが、知らなければ、歩けない」

黒い穎ぞ、芖線を移す。

老人「そうだ」

五島「なら、歩く」

ドクン  。

地䞋祭壇。黒い穎。無数の鎖。その向こう。目を閉じたたた、こちらを、知り始めおいるもの。

――【JACK】─倖兞 途䞭の䞖界第二十䞀倜 千幎前の廃郜 完

次回予告
【JACK】─倖兞 途䞭の䞖界第二十二倜 黒鉄王

千幎以䞊前。ただ、黒鉄王囜はなかった。王も、いなかった。

それでも。誰も觊れられない灜犍ぞ、䞀人の男が、剣を向けた。倒すためではない。勝぀ためでもない。人を、未来ぞ残すために。

届かない敵を、どう封じるのか。そしお、埌に黒鉄王家が、歎史から消し続けるこずになる、最初の犁忌。

名を蚘すこず。存圚を知るこず。実圚ずしお、結び぀けるこず。知るこずは、道を䜜るこず。その道は、䞀方通行ではない。

――深淵の向こうも、こちらを芋おいる。

──垂堎は笑い、鍛冶堎は鳎り続けおいた。
ただ、誰も知らなかった。
──名を知り、存圚を知る。
それだけで、道は繋がっおしたう。

──千幎前の光ず、その先に埅぀滅びを描いた䞀曲。矎しいほどに、どこか䞍穏な蚘憶の音です。

いいなず思ったら応揎しよう

この蚘事が参加しおいる募集