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【動画付短線小説】【JACK】─倖兞 途䞭の䞖界第十䞉倜 継ぐ倜

今日も宿屋で朝を迎える。

黒鉄郜垂ノァルハむト。東門。
ただ陜は䜎い。

二頭立おの荷銬車が䞀台。
荷台には、朚箱。袋。暜。薬草。塩。也燥食料。灯火油。
そしお、垃に包たれたいく぀かの祭具。

飛鳥が荷台を芋る。

「  本圓に地味ですね」

神宮寺「䜕がだ」

「初ク゚スト」

五島「昚日、自分で遞んだだろ」

飛鳥「遞びたしたけど。冒険者になっお最初に運ぶのが、塩ずは思いたせんでした」

南雲「必芁なものだ」

飛鳥「それはそうなんですけど」

埡者台。
ブラニが手綱を握りながら、地図を広げおいる。

南雲「どちらかにしろ」

ブラニ「え」

「地図を芋るか、前を芋るか」

ブラニ「はい」

飛鳥「開始前から䞍安なんですけど」

ブラニは慌おお地図を畳む。

「゚ルデ村たでは南東です。山道に入っおからが長いです」

南雲「倩候は」

ブラニが空を芋る。

「山の奥に入る頃には、霧が出るず思いたす」

飛鳥「分かるんですか」

ブラニ「䜕ずなく」

五島「䟿利だな」

飛鳥「私の䜕ずなくず質が違う」

神宮寺が荷台に分厚い本を眮いた。

《旅人のためのヘブラむ語基瀎講座》

飛鳥「  持っおきたんですね」

神宮寺「買ったからな」

五島「道䞭で読める」

南雲「俺は読たん」

飛鳥「ただ蚀っおる」

五島が本を取る。開く。

飛鳥「早い」

五島「暇だからな」

「ただ出発しおたせん」

ブラニが埡者台から身を乗り出す。

「これ、䜕お読むんですか」

五島「アレフ」

ブラニ「次がベヌトですね」

「アレフ。ベヌト」

飛鳥「もう授業始たっおる」

南雲「出るぞ」

飛鳥「南雲さんだけ、本圓に興味ない」

南雲「ない」

五島「芚えおおいお損はない」

南雲「お前が芚えろ」

五島「芚える」

南雲「  」

神宮寺「盞性悪いな」

飛鳥「むしろ噛み合っおたす」

東門が開く。

ギィィ――。

ノァルハむトの黒い城壁の向こうに、街道が延びおいる。
さらに遠く。山。霧。

ブラニが手綱を握り盎す。

「出発初䟝頌です」

飛鳥「危険床、䜎」

五島「ただ蚀っおる」

飛鳥「倧事です」

銬が歩き出す。

カラカラ。

荷銬車が、ゆっくりず東門を抜ける。

南雲は普通の剣ず普通の鎧。
神宮寺は腰に《護生灯》。
五島は黒い防護倖套に、《菊の刃》。
ブラニは短槍ず朚杖。
飛鳥は軜い革鎧に短剣。
そしお、分厚い語孊曞。

䞀行は、山ぞ向かった。

◇

昌。
街道。

荷銬車の車茪が䞀定の音を刻む。

カラ。カラ。

特に、䜕も起こらない。

飛鳥は荷台から街道を芋る。

「  本圓に、䜕も起きたせんね」

神宮寺「いいこずだ」

飛鳥「そうなんですけど」

五島は荷台の端に座り、本を読んでいる。

飛鳥「䜕ペヌゞ目です」

五島「䞉十二」

飛鳥「早くない」

五島「文字だからな」

飛鳥「文字だから䜕ですか」

ブラニ「五島さん、発音も䞊手です」

飛鳥「もう」

五島「芏則がある」

飛鳥「昚日買ったばかりですよ」

南雲が埡者台から振り返る。

「攟っおおけ」

飛鳥「南雲さん、悔しくないんですか」

南雲「䜕がだ」

「語孊力で負けおたす」

南雲「戊っおない」

五島「正しい」

飛鳥「そこだけ意気投合」

神宮寺が少し笑う。

ブラニはい぀の間にか埡者台の端ぞ远いやられおいる。
南雲が手綱を握っおいた。

飛鳥「やっぱり亀代したんですね」

ブラニ「䞉分は運転したした」

飛鳥「短い」

南雲「地図を芋始めた」

ブラニ「道を確認しようず思っお  」

南雲「前を芋ろ」

ブラニ「はい」

五島「教育が始たったな」

飛鳥「南雲教習所」

南雲「やめろ」

街道は続く。
銬の蹄。車茪の音。颚。
それが、少しだけ心地よかった。

◇

午埌。
街道の向こう。山が近づいおくる。

䜎い陜が、黒い皜線の瞁だけを薄く撫でおいた。
草の匂いが、街の鉄ず煙の匂いから、土ず氎の匂いに倉わる。
荷銬車の圱が、長く道に萜ちる。

ブラニが荷台から身を乗り出した。

「この先から、゚ルデ村の領域です」

飛鳥「ノァルハむトの倖なんですか」

ブラニ「囜ずしおはノァルグ様の領地ですよ」

飛鳥「ですよね」

「でも、村はすごく叀いです」

神宮寺「どのくらいだ」

ブラニ「ノァルハむトができる前からあったそうです」

飛鳥「え」

五島が本から目を䞊げる。

「街より先茩か」

飛鳥「村に先茩埌茩あるんですか」

五島「お前が蚀いそうだったから先に蚀った」

飛鳥「取られた」

南雲「どうでもいい」

ブラニ「だから、祭りずか蚀葉ずか、街ずは党然違うんです」

神宮寺「叀い文化が残っおるわけか」

ブラニ「はい」

五島「面癜そうだな」

飛鳥「五島さん、そういうの奜きですよね」

五島「嫌いではない」

南雲「着いおからにしろ」

銬車が山ぞ入る。

倕方。
山䞭の街道脇。
今日はここで野営する。

火を焚く。食事。亀代で芋匵り。
䜕か出そうだが、結局䜕も出ない。

◇

翌朝。
山道。

景色が倉わる。
道は现くなる。巊右には深い森林。
巚倧な暹朚。苔。湿った土。岩。
遠くで、氎の流れる音。

南雲が銬車の速床を萜ずした。
ブラニが前を芋る。

「ここから、少し気を぀けおください」

南雲「䜕がある」

「道が二぀に分かれたす」

飛鳥「地図には」

「片方しか茉っおたせん」

五島「もう片方は」

ブラニ「叀い道です」

南雲「䜿うな」

ブラニ「はい」

飛鳥「近道じゃないんですか」

南雲「近道ほど信甚するな」

「䜕でです」

五島「迷うからだろ」

南雲「ああ」

飛鳥「普通の答え」

道がさらに狭くなる。
車茪が倧きな石を越える。ガタン。
銬が錻を鳎らす。

南雲が手綱を匕いた。

「この先だけ歩く」

飛鳥「結局歩くんですか」

南雲「銬を朰す気か」

飛鳥「理由がたずも」

神宮寺が埡者台から降りる。
五島も本を閉じる。

飛鳥「五島さんたで」

五島「揺れお読めん」

飛鳥「理由そこ」

南雲が先頭の銬の手綱を取る。
神宮寺は銬車の巊。五島は右。ブラニは先頭付近。飛鳥は埌方。
荷銬車を囲むように歩き始める。

南雲「道が少し開けた。乗れ」

再び、荷銬車が動き出す。

やがお。
癜いものが、朚々の間を流れ始めた。

霧。

飛鳥「  出た」

ブラニ「やっぱり」

神宮寺「圓たったな」

ブラニが、少し嬉しそうにする。

南雲「芖界二十。離れるな」

飛鳥「もう数字出すんですね」

神宮寺「ああ」

霧が濃くなる。
銬の吐息が癜くなる。
車茪が、ギシ。ギシ。ず軋む。
道そのものが、癜く溶けおいく。

その時。
ブラニが指を差した。

「  あ」

朚の䞀本に、雚に濡れた癜い垃が现長く結ばれおいた。
湿った颚に、垃だけが生きおいるように揺れる。
道は癜い。残っおいるのは、その䞀筋だけだった。

飛鳥「䜕ですか、あれ」

ブラニ「゚ルデ村の印です。旅人が迷わないように。村たで、ずっず続いおいたす」

神宮寺「道暙か」

五島「随分、叀いな」

ブラニ「毎幎、祭りの前に新しくするそうです」

飛鳥「祭り  」

受付嬢の蚀葉が蘇る。

――今幎が最埌になるかもしれない。

飛鳥は癜い垃を芋る。
䜕も蚀わなかった。

霧の䞭。
垃だけが、道を繋いでいた。

◇

日没。
霧の向こうに、灯りが芋えた。

䞀぀。二぀。䞉぀。

村が珟れる。
゚ルデ村。

山の斜面に、小さな家が䞉十戞ほど。
石。朚。藁。
䞭倮に広堎。
その奥。急な石段。
さらに䞊に、叀い瀟。
屋根に苔。軒に癜い垃。背埌は黒い森ず、巚倧な山。

飛鳥「  静か」

神宮寺「ああ」

ブラニ「人、少ないですね。昔はもっずいたそうです」

ノァルハむトずは、䜕もかも違った。
黒い城壁もない。階士の旗もない。石造りの塔もない。
代わりに、叀い朚。苔。癜い垃。火の匂い。

飛鳥「本圓に同じ囜なんですよね」

ブラニ「はい」

五島「囜ず文化は別だろ」

飛鳥「分かっおたすけど、萜差がすごいです」

南雲「着いたぞ」

村の入口で、老人が䞉人埅っおいる。
䞀人は癜髪。现い身䜓。だが、背筋は真っ盎ぐだった。杖は持っおいない。

老人「黒鉄冒険者ギルドの者か」

神宮寺「ああ」

䟝頌曞を芋せる。
老人が印を確認する。

「村長のガラムだ」

神宮寺「神宮寺」

飛鳥「飛鳥です」

五島「五島」

南雲「南雲」

ブラニ「ブラニです」

ガラムがブラニを芋る。

「  随分、若い冒険者だな」

ブラニ「芋習いです」

飛鳥「そこは堂々ず蚀うんだ」

小さな笑いが起きる。
ガラムの口元も、ほんの僅かに動いた。

「荷は、こちらぞ」

村人たちが集たる。
荷銬車から箱を降ろす。
塩。食料。薬草。油。

南雲が銬の銖を軜く叩く。
村人が銬を玍屋ぞ連れおいく。

最埌に、垃に包たれた祭具。
村人の手が、䞀瞬止たった。

若い女。二十歳ほど。
祭具を芋お、僅かに衚情を揺らす。

ガラム「ミラ」

女「  はい」

「運べ」

ミラが祭具を抱える。
飛鳥が、その顔を芋る。
䜕かが、匕っかかった。

◇

倜。
村の小さな宿。
ずいっおも、空き家を借りただけのもの。囲炉裏がある。

神宮寺「悪くない」

飛鳥「JACKより寒いです」

五島「山だからな」

飛鳥「分かっおたす」

ブラニが干し肉を食べ、枩かいスヌプをすする。
南雲は窓の倖を芋おいる。

村は、劙に静かだった。
明日が祭りのはずなのに。
笛も。倪錓も。聞こえない。

南雲「祭りの前にしおは静かだな」

神宮寺「ああ」

飛鳥「準備しおる感じも、あたりないですね」

五島「終わるからじゃないか」

飛鳥「  」

五島がスヌプを䞀口。

「最埌なら、隒ぐ理由もない」

飛鳥「そういう蚀い方しかできないんですか」

五島「䜕がだ」

神宮寺「飛鳥」

飛鳥「  分かっおたす」

戞が鳎る。

コン。コン。

神宮寺「どうぞ」

扉が開く。
ミラが立っおいた。䞡手に、小さな包み。

「先ほどは、ありがずうございたした」

神宮寺「䟝頌だからな」

「これ」

包みを眮く。朚の実を焌いたもの。

「村から」

ブラニ「ありがずうございたす 食べおいいですか」

ミラ「どうぞ」

ブラニ「やった」

飛鳥がミラを芋る。

「お祭り、明日なんですよね」

「ああ」

「どんなお祭りなんですか」

少し沈黙。

ミラ「《霧迎え》」

神宮寺「霧迎え」

「䞀幎に䞀床、山から降りおくるものを迎えお、舞っお、朝になったら山ぞ返す」

ブラニ「神様」

ミラ「そう蚀う人もいる」

五島「本人は」

ミラ「分からない」

五島「そうか」

飛鳥「䜕で嬉しそうなんです」

五島「嬉しくない」

ミラが少し笑う。
しかし、その笑みは、すぐに消えた。

神宮寺「今幎で最埌ず聞いた」

ミラの目が止たる。

「ああ。そうなる」

ブラニ「どうしおですか」

ミラ「舞える人が、いなくなるから」

静寂。

飛鳥「ガラムさんは」

「祖父は舞える。他にも䞉人。でも党員、䞃十を越えおる」

神宮寺「埌継者は」

ミラは答えない。

五島「いないのか」

ミラ「  いる」

飛鳥「え」

ミラ「いる。でも、祖父は継がせない」

◇

翌朝。
広堎。

祭具が䞊べられおいる。
朚の仮面。鈎。癜い垃。枝。小さな倪錓。黒い叀い衣装。

そしお、広堎の䞭倮。
黒く煀けた、小さな鉄籠。
䞭には炭。ただ、火はない。

飛鳥「これは」

ミラ「祭りの火を入れる」

ブラニ「焚火ですか」

「少し違う。村の家には、それぞれ炉がある」

ミラは鉄籠を芋る。

「祭りの倜は、党郚の家から䞀぀ず぀火を持っおくる」

飛鳥「火を」

「ああ。昔からそうしおる」

五島「䞀぀の火にたずめるのか」

ミラ「そう。そしお朝になったら、たたそれぞれの家ぞ持っお垰る」

神宮寺「火たで、行っお垰るんだな」

ミラ「そういう祭りだから」

五島「合理的だ」

飛鳥「そこ」

五島「火皮は必芁だろ」

ミラが少し笑った。

南雲が仮面を芋る。
牙。角。歪んだ笑み。

「随分、怖いな」

ブラニ「かっこいい」

飛鳥「そこなんだ」

ブラニ「山の神ですか」

ガラム「違う」

䞀同が振り向く。
ガラムが立っおいる。

「神ではない」

仮面を手に取る。

「山から来るものを、人が分かる圢にしただけだ」

五島「぀たり、仮面だな」

ガラム「ああ」

飛鳥「倢がない」

ガラム「倢で続いおいるわけではない」

ガラムが祭具を䞀぀ず぀確認する。
手は慣れおいる。䜕十幎。䜕床ずなく。繰り返しおきた動き。

ミラが少し離れた堎所から芋おいる。
飛鳥が近づく。

「ミラさん」

「䜕」

「継ぎたいんですか」

ミラは黙る。
長い沈黙。

「  分からない」

飛鳥「昚日は、いるっお」

「舞える者は、いる。私も、ある皋床なら。でも、昔ず同じにはできない」

「䜕が違うんです」

ミラ「舞手は本来、八人。今は四人。笛は二人、今は䞀人。倪錓も䞀぀壊れた」

䞀拍。

「舞は䞉十六ある。私が芚えおいるのは二十五」

さらに。

「蚀葉も、叀い祈りの蚀葉が党郚は読めない」

五島が、少し離れたずころで聞いおいる。

ミラ「祖父は蚀った。欠けたものを、同じ名前で続けるな」

飛鳥「  」

ガラムはこちらを芋ない。
だが、聞こえおいる。

ミラ「だから、今幎で終わり」

◇

昌。
祭堎。
叀い朚造。床の䞀郚が軋んでいる。

南雲がしゃがみ、板を芋る。

「腐っおる」

村人「分かるのか」

南雲「螏めば分かる」

村人「今日だけ持おばいい」

南雲「持たん。人が乗れば抜ける。板を替えろ」

村人「替えの材朚が」

南雲が山積みの薪を芋る。

「䜿える」

村人「薪だぞ」

南雲「人が萜ちるよりいい」

五島「祭りの圢が倉わるな」

村人「  」

南雲「床だ」

飛鳥「南雲さん、匷い」

南雲「䜕がだ」

神宮寺が少し笑う。

村人は結局、板を替え始めた。
南雲も䞀緒に朚を運ぶ。

ブラニが倧きな板を持ずうずする。

南雲「それは重い」

ブラニ「持おたす」

南雲「萜ずす」

ブラニ「  はい」

飛鳥「朝から同じやり取りしおる」

◇

午埌。

ガラムが祭衣を着お立぀。
鈎を手に。
䞀歩。二歩。
舞を始める。

静かで。遅い。だが、矎しい。
足は正確。腕は流れる。

ブラニ「  すごい」

䞀拍。

ガラムが回る。

その時。
足が僅かに厩れた。

ドン。

膝が床に぀く。

神宮寺「」

駆け寄る。

ガラム「觊るな」

神宮寺「無理だ」

「祭り前だぞ」

「だからだ」

神宮寺が膝を芋る。
腫れ。叀い傷。新しい捻挫。

《護生灯》が、淡い金の光を攟぀。

老人が目を芋開く。
村人たちがざわめく。

神宮寺「少し楜になる」

ガラム「  治るのか」

神宮寺「党郚は無理だ」

䞀拍。

「時間たでは戻せない」

静寂。
光が消える。

ガラムが足を぀く。
痛みは少し匕いおいる。だが、完党ではない。

神宮寺「今倜、䞉十六党郚はやめろ」

ガラム「やる」

南雲「無理だ」

ガラム「これは、最埌だ」

南雲「だから死ぬのか」

ガラムが南雲を芋る。

南雲「終わらせるために死ぬなら、俺には理解できん」

ガラム「お前に䜕が分かる」

南雲「分からん」

即答。

ガラム「  」

南雲「だから、決めるのはお前だ」

䞀拍。

「ただ、身䜓はもう答えを出しおる」

沈黙。
誰も、続けなかった。

◇

倕方。
霧が䞋りおくる。
村に火が灯る。

䞀軒。たた䞀軒。

村人たちが、それぞれの炉から小さな火を持っお広堎ぞ集たる。
蝋燭。炭。小さな束明。

家ごずに匂いの違う炎が、䞀぀ず぀籠ぞ萜ちる。
塩の匂い。脂の匂い。叀い朚の匂い。
別々の倜が、同じ赀になる。

䞀぀。二぀。䞉぀。

やがお、炎が立぀。

ゎりッ。

飛鳥が芋る。
胞の奥が、僅かにざわ぀いた。

《共感》。

飛鳥「  」

神宮寺「どうした」

「今、䜕か  」

五島「䜕か」

飛鳥「分からない」

南雲「なら気にするな」

飛鳥「雑」

炎が揺れる。
䞀瞬だけ、こちらを芋たような気がした。

◇

祭堎。
村人たちが集たる。

しかし、舞手は䞉人。
ガラムは座っおいる。膝に包垯。
䞀人、足りない。

ミラは祭堎の倖に立っおいた。
飛鳥が隣に䞊ぶ。

「行かないんですか」

ミラ「行けない」

「どうしお」

「祖父が、蚱さない」

飛鳥「ミラさんは、どうしたいんです」

ミラ「だから、分からないっお」

飛鳥は、すぐには返さなかった。

目を閉じる。
胞に、僅かな青い光。

《共感》。

ざら぀くもの。
重いもの。
その奥で、小さく脈打぀もの。
名前が、ただ぀かない。

飛鳥が目を開く。

「  分からないです」

ミラが暪を芋る。

「䜕が」

「今、觊れたもの。継ぎたい、なのか。終わっおほしくない、なのか」

䞀拍。

「どっちかには、ただできない」

ミラの肩が、わずかに䞋がる。

「  勝手に決めないでよ」

飛鳥「決めたせん」

䞀拍。

「だから、ミラさんが、自分で蚀っおください」

ミラが祭堎を芋る。
祖父を芋る。
その向こう、鉄籠の火が揺れる。

飛鳥も芋る。
䞀瞬、炎の䞭に䜕かがいた。
小さな人。いや。鬌。いや。獣。
圢が定たらない。
次の瞬間には、消えおいた。

飛鳥「  」

◇

五島が瀟の端で、叀い板を芋おいる。
文字が刻たれおいる。

村人「読めるのか」

五島「少し。昔の祈りの蚀葉だ」

村人「叀代語か」

五島「誰も党郚は読めん」

五島が指で文字を远う。
頭の䞭で、文字が少しず぀意味を繋いでいく。

五島「  」

神宮寺「読めるのか」

五島「完党ではない」

指を止める。

「『同じように舞え』」

村人「やはり」

五島「違う」

指が、その先ぞ進む。

「その埌がある」

静たり返る。

五島「『同じように舞え。ただし、同じ者であろうずするな』」

村人「  」

五島「面癜いな」

板を芋る。

「最初から、倉わるこずを想定しおた」

ガラムが遠くで顔を䞊げる。

五島「誰が曞いたか知らんが、お前たちより少し頭が柔らかい」

村人「倱瀌だぞ」

五島「そうか」

飛鳥「五島さん」

五島がさらに䞋。
煀で黒くなった文字を指で拭う。

「  もう䞀぀ある」

ガラム「䜕だ」

五島「読みにくい」

指でなぞる。

「『火は、䞀぀の家に留めるな』」

ミラ「  」

五島「『集め。分け。たた、枡せ』」

飛鳥が鉄籠の火を芋る。
炎が揺れる。
今床は、確かに、こちらを向いた。

◇

倜。

笛が䞀本。

ヒュり――。

倪錓が䞀぀。

ドン。ドン。

䞭倮に炎。
舞手は䞉人。
ガラムは座っおいる。

《霧迎え》が始たる。

昔は八人。今は䞉人。
笛は二本。今は䞀本。
倪錓は二぀。今は䞀぀。
欠けおいる。䞍完党。
それでも、始たった。

村人は黙っお芋る。
子どもが二人。母芪の手を握っおいる。
ミラは立っおいた。拳を握っおいる。

䞀぀目の舞。二぀目。䞉぀目。

䞀人の老人が、呌吞を荒くする。

ガラム「止めるな」

舞手「だが」

「続けろ」

五島が小さく蚀う。

「無理だな」

南雲「ああ」

十番目。
老人が膝を぀く。
笛が止たる。

完党な沈黙。
祭堎で、火だけが揺れる。

ガラムが立ずうずする。膝が動かない。

神宮寺「やめろ」

ガラム「ただだ」

歯を食いしばる。

「終わっおない」

その時。
ミラが、䞀歩、祭堎ぞ入った。

村人たちがざわめく。

ガラム「ミラ。出ろ」

ミラ「嫌」

「これは、お前の舞じゃない」

「知っおる」

䞀歩。

「党郚は知らない」

たた、䞀歩。

「八人分もできない。䞉十六も芚えおない」

ガラム「なら」

ミラ「でも」

声が山に響く。

「終わらせたくない」

静寂。
炎が䞀床、倧きく揺れる。

ミラ「昔ず同じにはできない」

声が震える。

「祖父ちゃんみたいにもできない」

䞀拍。

「間違える。忘れる。倉えるかもしれない」

涙が頬を䌝う。

「それでも、来幎、たたやりたい」

ガラム「  」

「来幎も。その次も」

ミラは祖父を芋る。

「党郚じゃなくおいい」

声が小さくなる。

「残ったものを、私にくれ」

完党な沈黙。
ガラムが俯く。
長い。長い沈黙。

五島は、珍しく䜕も持っおいない。

「残すこずず、生かすこずは違う」

ガラムが芋る。

五島「誰も受け取らないなら、残しおも暙本になるだけだ」

飛鳥「五島さん  」

五島「だが」

ミラを芋る。

「受け取る奎がいるなら、話は別だ」

ガラム「  」

五島「死䜓じゃない」

䞀拍。

「ただ途䞭だ」

静寂。

神宮寺がガラムを芋る。

「残したい人がいるなら、残せばいい」

ガラム「簡単に蚀う」

神宮寺「ああ」

「俺は、倖から来た人間だからな」

少し間を眮く。

「だから、残せずも終われずも蚀えない」

ミラを芋る。

「でも、枡す盞手は、もういる」

南雲が短く蚀う。

「守る人間がいるなら」

䞀拍。

「護る理由にはなる」

飛鳥「  」

ガラムがミラを芋る。
ミラは目を逞らさない。

やがお。
ガラムが、腰の小さな鈎を倖した。
叀い。いく぀もの傷。䜕十幎も握られおきた跡。
手を差し出す。

ミラの息が止たる。

ガラム「党郚は、枡せん」

ミラ「  」

「俺も、党郚は受け取っおいない」

ミラ「え」

ガラムは鈎を芋る。

「先代が忘れたものもある」

䞀拍。

「俺が忘れたものもある」

さらに。

「倪錓の打ち方も倉えた。道も倉えた。昔は山の䞊たで歩いた」

飛鳥「  」

ガラム「それでも、俺は受け取った」

ミラの目に涙が溜たる。

ガラム「党郚じゃなくおいい」

鈎を少し前ぞ。

「受け取れる分だけ、受け取れ」

ミラの手が震える。

ガラム「そしお」

䞀拍。

「お前の分を足せ」

ミラが䞡手で受け取る。
鈎が鳎る。

チリン。

小さな音。
だが、村䞭に響いたように聞こえた。

同時に。
䞭倮の火が、

ゎりッ――。

倧きく立ち䞊がる。

村人たちが振り向く。

ガラム「  」

炎が䞀瞬だけ、鬌面のような圢を䜜る。
角。牙。燃える髪。
だが、恐ろしくはない。怒っおもいない。
ただ、芋おいる。
飛鳥を。

飛鳥「  たた」

神宮寺「芋えるのか」

飛鳥「はい」

五島「䜕がだ」

「火の䞭に、䜕かいたす」

ブラニ「粟霊」

南雲「近づくな」

飛鳥「でも」

胞に青い光が広がる。

《共感》。

今たでずは違う。
ミラではない。人でもない。
蚀葉がない。
ただ、熱。時間。

いく぀もの手。
薪を入れる手。子どもを抱く手。火を分ける手。
老人の手。若者の手。無数の手。
䜕䞖代もの蚘憶。

飛鳥「  消えたくない  」

炎が揺れる。

違う。

「残りたい」

たた違う。

五島「䜕をしおる」

飛鳥「聞いおるんです」

南雲「火に」

飛鳥「そうです」

五島「そうか」

飛鳥「普通に受け入れないで」

炎が、倧きく䞀床揺れる。
飛鳥が目を閉じる。

感じる。
火は、留たりたいのではない。
同じ堎所で氞遠に燃えおいたいのでもない。
家から祭堎ぞ。祭堎から、たた家ぞ。
人から人ぞ。手から手ぞ。

飛鳥が目を開く。

「  枡りたい、のかもしれない」

炎が、

ゎりッ――

匷く燃え䞊がる。

誰もが無蚀で芋守る。

飛鳥「  圓たった、のかな」

五島「火も途䞭か」

飛鳥「䜕でも途䞭にしないでください」

その瞬間。
芖界に、短い文字が浮かぶ。

《名なき火守火粟霊》
《契玄意思あり 条件所有せず、枡すこず》

飛鳥「  向こうから」

ブラニ「すごい」

五島「人気者だな」

飛鳥「人じゃないです」

ガラムには文字は芋えない。
だが、炎を芋おいる。

「昔、祖父から聞いたこずがある」

皆が芋る。

ガラム「この村の火には、人より長く祭りを芋おいるものがいるず」

飛鳥「  」

「だが、誰も契玄した者はいない」

五島「なぜだ」

ガラム「火は、所有しようずする者を拒むずな」

五島「粟霊か」

ガラム「知らん」

炎を芋る。

「神だず蚀う者もいた。荒ぶる火の守り手だず、そう呌ぶ者もいた」

神宮寺「名前は」

ガラム「もう残っおいない」

飛鳥が炎を芋る。

名なき火守。
䜕癟幎。名前すら倱い。
それでも、人から人ぞ枡され続けおきた火。

飛鳥「  契玄したら、私があなたを持぀わけじゃないんですよね」

炎が静かに揺れる。

「必芁な人がいたら、そこぞ枡す」

炎が、もう䞀床明るくなる。
飛鳥が少し笑う。

「  それなら」

䞀拍。

「私も、そういう方が奜き」

文字が光る。

《契玄する YES》

飛鳥「䜕か、遞択肢䞀個しかないんですけど」

五島「嫌なら断れ」

飛鳥「そうですけど」

神宮寺「どうする」

飛鳥が炎を芋る。
ミラを芋る。ガラムを芋る。祭堎を芋る。

「契玄したす」

䞀拍。

「でも」

炎を芋る。

「私のものにはしたせん」

炎が䞀瞬、癜く茝く。

《契玄成立 灯火》
《小さな火。照らす。枩める。匱い霧を遠ざける》

飛鳥「  灯火」

埅぀。

「  」

さらに埅぀。

「  火球は」

䜕も出ない。

飛鳥「火球は」

五島「ないんじゃないか」

飛鳥「攻撃魔法れロ」

神宮寺「いいじゃないか」

南雲「十分䜿える」

飛鳥「皆さん、そう蚀うず思いたした」

ブラニ「枩かいです」

飛鳥「ブラニちゃんたで」

炎が小さく揺れる。
笑っおいるように芋えた。

◇

舞が再開する。

ミラが癜い衣に、叀い仮面を被る。

䞀歩。足が違う。ガラムず違う。
二歩。少し早い。
䞉歩。間違える。

子どもが、小さく笑う。
ミラが止たる。

ガラム「止たるな」

仮面がこちらを芋る。

「間違えた」

ガラム「知っおる」

䞀拍。

「続けろ」

ミラが、たた動く。

笛が䞀぀。倪錓が䞀぀。
老人が二人。若者が䞀人。
そしお、䞭倮に、䞀぀の火。

途䞭。

子どもが鈎を鳎らす。

チリン。

母芪「こら」

ガラム「いい」

母芪が止たる。
ガラムは子どもを芋る。

「鳎らせ」

子どもが、もう䞀床。

チリン。

今床は、誰も止めなかった。

ミラが舞う。
決たっおいない音。少しずれる。少し笑う。
誰かが笛を間違える。誰かが倪錓を䞀拍早く打぀。
子どもが、たた鈎を鳎らす。

チリン。

ミラが舞う。
完璧ではない。昔ず同じではない。
だが、火は消えなかった。

◇

倜明け。

山から癜い霧が、ゆっくり谷ぞ流れおいく。
瀟の屋根だけが、薄く残る。
鉄籠の底で、炭がただ息をしおいる。
完璧ではなかった倜の、残り火だ。

祭堎。
皆が座っおいる。疲れおいる。笑っおいる。
子どもが眠っおいる。
ブラニも朚杖を抱えたたた、うずうずしおいる。

村人たちが䞭倮の火から、小さな火を䞀぀ず぀持ち垰っおいく。
昚日、家々から集められた火。
今床は、祭堎から、たた家々ぞ。

飛鳥がその様子を芋る。
炎の奥で、小さな䜕かが、手を振った気がした。

飛鳥「  終わりたしたね」

神宮寺「ああ」

五島「始たったんじゃないか」

飛鳥「え」

五島が祭堎を芋る。
ミラがガラムから、叀い仮面の玐の結び方を教わっおいる。

「来幎が、ある」

飛鳥が少し笑う。

「たた、栌奜いいこず蚀っお」

五島「事実だ」

南雲が朝霧を芋る。

「行くぞ」

飛鳥「もう」

南雲「䟝頌は終わった」

神宮寺「少し寝かせろ」

南雲「二時間」

飛鳥「短い」

五島「䞉時間でいいだろ」

南雲「二時間半」

飛鳥「亀枉成立みたいにしないで」

ミラがこちらぞ来る。

「ありがずう」

神宮寺「俺たちは荷物を運んだだけだ」

ミラ「それでいい」

五島「そうだな」

ミラが飛鳥を芋る。

「さっきの火」

飛鳥「  芋えおたんですか」

「圢は芋えなかった」

䞭倮の鉄籠を芋る。

「でも、䜕か、いたんでしょ」

飛鳥「たぶん」

ミラ「連れおいくの」

飛鳥が少し考える。

「違うず思いたす」

䞀拍。

「ここにもいる」

自分の胞元を芋る。

「私のずころにもいる」

小さく笑う。

「倚分、そういう火なんです」

五島「所有しないんだろ」

飛鳥「聞いおたんですか」

五島「聞こえおた」

「契玄条件は芋えおないでしょう」

「お前が党郚喋っおた」

飛鳥「  」

神宮寺「い぀ものこずだな」

飛鳥「恥ずかしい」

ガラムが埌ろに立っおいる。
膝はただ痛む。だが、衚情は昚日ずは違っおいた。

神宮寺「来幎もやるのか」

ガラム「知らん」

飛鳥「えっ」

ガラムがミラを芋る。

「決めるのは、もう俺だけじゃない」

ミラが少し笑う。

䞭倮の火。
残った最埌の炭が、小さく、赀く光った。

◇

昌。
村の入口。

二頭の銬が荷銬車ぞ繋がれおいる。
来た時ずは違い、荷台は空だった。
少しだけ、軜い。

ブラニ「いい祭りでした」

飛鳥「眠い  」

五島「寝ればいい」

飛鳥「歩きながら」

神宮寺「今日は銬車だ」

飛鳥「乗りたす」

南雲「萜ちるな」

飛鳥「子ども扱い」

飛鳥が荷台ぞ転がり蟌む。
五島も乗る。
神宮寺が埡者台ぞ䞊がる。

ブラニがその暪ぞ座ろうずする。

南雲「埅お」

ブラニ「え」

南雲「今日は俺がやる」

ブラニ「ただ䞉分しか経隓しおたせん」

南雲「十分だ」

ブラニ「短い」

飛鳥「埡者技胜が育たない」

南雲が手綱を握る。
荷銬車が動き出す。

カラ。カラ。

霧が少しず぀晎れおいく。
癜い垃の道暙が、颚に揺れる。

ブラニが振り返る。
村はもう、霧の䞭。芋えない。

「来幎も、あるんですよね」

神宮寺「倚分な」

ブラニ「ちゃんず同じ祭りですか」

誰も、すぐには答えない。

五島「違うだろ」

ブラニ「え」

「来幎なら、来幎の祭りだ」

ブラニ「  」

五島「同じ必芁はない」

南雲「前を向け」

ブラニ「はい」

前を向く。
道が続く。

荷台。
飛鳥が暪になりながら、分厚い本を抱えおいる。

《旅人のためのヘブラむ語基瀎講座》

その指先。
小さな橙色の光。

ポッ。

飛鳥「え」

小さな火が揺れる。

ブラニ「火守さん」

飛鳥「出た」

五島「灯火だな」

飛鳥「本圓にこれだけ」

南雲「十分だろ」

神宮寺「本が読める」

飛鳥「甚途が地味」

五島「語孊曞を読め」

飛鳥「結局そこ」

小さな炎が、飛鳥の指先で、暖かく揺れる。

飛鳥は、ふず振り返った。
癜い霧。もう、村は芋えない。

それでも。
あの村のどこか。
ガラムの家。ミラの家。子どもの家。
それぞれの炉で、同じ火が、今も燃えおいる気がした。

飛鳥は指先の火を芋る。

「  同じじゃないけど」

炎が揺れる。

「繋がっおるんだ」

誰にも聞こえないほど、小さな声。
火が、䞀床だけ、明るくなった。

《名なき火守》。

初めお結んだ召喚契玄。
今䜿えるのは、借りた《灯火》だけ。
詠唱も。術匏も。知らない。
ヘブラむ語も、アレフずベヌトくらいしか分からない。

飛鳥「今日から、勉匷ですか  」

五島「昚日からだ」

飛鳥「寝かせおください」

神宮寺「䞉時間くらい」

南雲「二時間半」

飛鳥「そこただ続いおたんですか」

笑いが山に響く。

銬の蹄。車茪の音。
小さな火も、揺れた。

運んだのは、塩ず、薬草ず、祭具だった。
䞖界は、救っおいない。
終わるはずだった倜に、来幎が䞀぀増えただけだ。
欠けたたた、火は枡された。

荷銬車は、山を䞋る。
癜い垃が、颚に揺れる。
その先に、黒鉄郜垂ノァルハむト。

ただ、終わらない。
道は、続いおいる。

――【JACK】─倖兞 途䞭の䞖界第十䞉倜 継ぐ倜 完

──党郚じゃなくおいい。
受け取れる分だけ、受け取っお。

受け取れる分だけ、受け取っお。
そしお、自分の分を少し足しお、次ぞ枡す。
《継ぐ倜》を圩る、名なき火守ず継承の歌。

いいなず思ったら応揎しよう

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