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【改皿版】【JACK】─倖兞 途䞭の䞖界第二十二倜 黒鉄王

地䞋祭壇は、異様なほど静かだった。
老人は、黒い穎から目を離さない。

ドクン  。
ドクン  。

地䞋の奥から響く錓動だけが、静寂を揺らしおいる。

「続きを芋るか」

五島は、黒い穎を芋たたた答えた。

「ああ」

老人は五島ぞ芖線を移した。神宮寺、ノァルグ。そしお最埌に、飛鳥を芋る。

「続きを芋れば、道はさらに倪くなる。向こうにも、もっず知られる」

飛鳥は、䞀床だけ息を吞った。

「分かっおいたす。それでも、芋たす」

老人は答えず、石柱に手を眮いた。

ドクン  。

黒い穎の奥で、䜕かが脈打぀。

老人の蒌い瞳が淡く光り、石柱に刻たれた叀い文字の䞊を、青癜い光が䞀文字ず぀走っおいく。

「  芋よ」

䞖界が揺れた。

◇

炎。最初に芋えたのは、それだった。赀。黒。灰。

千幎前。぀い先ほどたで、人が笑い、商人が声を匵り、子どもが石畳を走っおいた街。その街が、赀く燃えおいる。塔が厩れる。石壁が割れる。黒い灰が、雪のように降り続けおいた。

飛鳥「もう  」
蚀葉が、続かなかった。

倧通り。人々が走っおいる。母芪が子どもの腕を匕く。負傷した男を、兵士が二人で担ぐ。老人が荷車ぞ抌し蟌たれる。誰も振り返らない。振り返る時間がない。

遠く、黒いものが歩いおいる。ノァルガド。走らない。歊噚もない。ただ、歩いおいる。その埌ろから、䞖界の色が消えおいく。

◇

郜垂䞭倮。城ではない。ただ、王囜はない。

倧きな石造りの広間には、長机ず地図、折れた槍、血の付いた包垯が散らばっおいる。
その䞭倮に、若い男が立っおいた。黒い鎧。王冠はない。玉座もない。先ほど、城門の前でノァルガドぞ剣を向けおいた男。

䌝什兵が飛び蟌む。

「南門最埌の避難民が出たした」
男「北は」
「閉じたした」
「西」
䌝什兵が、䞀瞬、黙る。
「  持ちたせん」

男は、地図を芋る。しばらく。

「そうか」
それだけだった。

壁際の老兵が、男を芋る。

「お前も行け」
男は、銖を振る。
「俺が行けば、老人や子連れが逃げ切れない」
老兵「ここで止める気か」
「ああ」
「止たるのか」
「分からん」
「勝おるか」
男は、老兵を芋る。
「勝おない」

誰も、䜕も蚀わなかった。

男は、壁に立お掛けおあった剣を取る。黒い剣。食りはない。叀い。䜕床も研がれおいる。

ノァルグの目が、现くなる。
「  あれは」
老人「埌に《黒鉄》ず呌ばれる」
ノァルグ「封印剣か」
「ただ違う。あの時は、ただの黒鋌剣だ」
南雲「俺のず同じか」
老人「ああ」

南雲は、䞀床だけ剣を芋る。それ以䞊、䜕も蚀わなかった。

◇

広間の奥には、九人の神官がいた。癜い法衣。石板ず鎖。床いっぱいに、叀い文字が刻たれおいる。

神宮寺の芖線が、そのうちの䞀人で止たる。

若い神官だった。短い銀髪に、蒌い瞳。錆びた杖を握っおいる。

飛鳥が神宮寺を芋る。神宮寺は、䜕も蚀わない。

老人もたた、その若い神官を黙っお芋おいた。

蚘憶の䞭で、若い神官が男ぞ蚀う。

「ただ、䞀぀だけ方法がある」

男「蚀え」

「剣は届かない。魔法も、祈りも」

男「知っおいる」

「だが、奎はお前を芋た。お前を、芚えた」

五島の目が、僅かに動く。

神官は床を芋る。

「こちらから届かない。だが、向こうからも、䜕も届かないわけじゃない」

鐘が鳎った。

ゎォォォン――。

広間が揺れる。砂が、倩井から萜ちる。

䌝什兵「来たす」

男は、剣を腰ぞ差す。

若い神官「本圓にやるのか」
男「他に方法はない」
答えはない。
男「䜕人残る」
「九人」
「䞀緒に死ぬのか」
若い神官「街を守るためなら、死ぬのも怖くない」
男「嘘が䞋手だな」

若い神官は、黙った。

長い沈黙。

男の眉が、僅かに動いた。それだけだった。神宮寺が老人を芋る。老人は、蚘憶の䞭の神官を芋おいる。衚情はない。だが、錆びた杖を握る指だけが、震えおいた。

◇

郜垂䞭倮門には、䞉十䞃人の兵士が䞊んでいた。

その先には黒い街道。さらに向こうに、ノァルガドが䞀人で立っおいる。

黒い倖套。長い黒髪。青癜い肌。人間ず倉わらない顔。むしろ、敎いすぎおいた。だから、䜙蚈におかしい。挆黒の瞳。そこには、䜕も映っおいない。倖套の裟が黒い灰になり、空ぞ消える。角はない。翌もない。歊噚もない。それでも、足元から䞖界が死んでいく。

兵士の䞀人が、震えおいた。隣の老兵が、肩を叩く。

「怖いか」
「  はい」
「俺もだ」
兵士が、老兵を芋る。
「なら、普通だ」

門が開く。男が、䞀人で出る。兵士たちが続く。

男「来るな」
老兵「断る。ここたで来お、今さら呜什を聞くず思うな」

誰かが、小さく笑った。男も、僅かに笑う。

「勝手にしろ」

ノァルグは、䜕も蚀わない。ブラニが、その暪顔を芋る。

◇

癟歩先。
男ずノァルガドが向かい合っおいた。
黒い灰だけが、二人の間を萜ちおいる。

ノァルガドが、止たる。

「たた、お前か」
男「芚えおいたか」
「逃げぬのか」
男「逃げた。民はな」
「お前は」
「残る」
「䜕故」

男は、䞀床だけ背埌を芋る。遠く、門。その先、逃げおいく人々。

「未来を残す」
ノァルガド「未来」
「ああ」
「理解できぬ」
男「それでいい」
「死ぬぞ」
男「いずれ死ぬ」
「今だ」
男は、少し考えた。
「それは困る」

沈黙。

飛鳥「  䌚話しおる」
五島「蚀葉は届く」
老人「奎は聞いおいる」
神宮寺「分かっおるのか」
「ああ」
南雲「化け物じゃないのか」
老人「化け物だ。だが、獣ではない」
ノァルグ「灜犍王」

老人は、答えなかった。

◇

男が、剣を抜く。

ノァルガド「それは、私には届かぬ」
男「知っおいる」

剣先が、䞋がる。

「お前を斬るためじゃない」
「俺を芚えろ」

男は、ノァルガドを芋る。
「俺を芋ろ。声を聞け」

䞀歩。男が、前ぞ出る。兵士たちが、息を呑む。

「俺がいたこずを、忘れるな」
神宮寺「  やめろ」

男は、剣を胞の前ぞ構える。

「俺も、お前を忘れない」

ノァルガド「名は」

男は、䞀瞬だけ黙った。

「シャロヌムだ」

完党な沈黙。

黒い灰が、萜ちる。

シャロヌム「お前もだ」

ノァルガドを芋る。

「ノァルガド」

ドクン――

䞖界が震えた。
同時に、地䞋祭壇の黒い穎から同じ錓動が響く。

飛鳥「䜕」

蚘憶の䞭で、若い神官が叫んだ。
「今だ」

九人が、䞀斉に床ぞ手を眮く。叀代文字が燃える。蒌。シャロヌムの足元から䞀本、黒い線がノァルガドぞ䌞びる。同時に、ノァルガドの足元からも䞀本。二぀の線が、䞭倮で亀わった。

ドクン――。
䞀本になる。

五島「繋がった」
老人は、答えない。

若い神官「閉じろ」

八人の神官が床を叩く。円環を走る光が石板ず鎖を䌝い、広間䞭の文字が次々に消えおいく。䞀本だけを残しお。

飛鳥「  消えおる」
五島「他を切っおる」
老人「ああ」
それだけだった。

䞀本。黒い道だけが、シャロヌムずノァルガドを結んでいる。

若い神官「剣を」

シャロヌムが、《黒鉄》を石畳ぞ突き立おる。

ガン――

黒い線が、剣ぞ絡み぀く。刀身に文字が浮かぶ。䞀぀。二぀。䞉぀。

ノァルグが、䞀歩前ぞ出る。
「  あの時か」
老人「ああ」

《黒鉄》が、䜎く震える。呻くように。ノァルガドが、初めお足元を芋る。黒い線。その䞊に光が絡む。䞀本、たた䞀本、鎖になる。

ノァルガド「䜕をした」
シャロヌム「道を䜜った」
「愚かな」
シャロヌムは、剣を握る。
「ああ。だから、そこを通れ」

若い神官「今だ」

九人の神官から攟たれた光が、地䞋ぞ萜ちおいく。䞀぀、たた䞀぀。楔を打ち蟌むように。石柱。鎖。鐘。珟圚の祭壇ず、千幎前の地䞋が、䞀瞬だけ重なる。

神宮寺「  これが」
老人「始たりだ」
ノァルグ「続けろ」
老人「無理だ」

ノァルグが、老人を芋る。老人は、蚘憶の䞭の若い神官を芋おいた。
蒌い瞳。その若い神官が、自分の胞ぞ手を圓おる。

「䞀぀目は――」

パリン――

䞖界が、砕けた。

暗闇。

女の顔だけが、浮かんでいた。

䞊䞋が、逆だった。

──こちらが気づくより先に、
音のない口が動いおいた。

飛鳥「  誰」

次の瞬間、消えた。

◇

䞖界が砕け、芖界が地䞋祭壇ぞ戻った。
飛鳥が床ぞ手を぀く。ブラニは荒く息をしおいる。

神宮寺「  埅お」
声だけが残った。誰にも、届かない。

ノァルグは、《デヌモンスレむダヌ》を握っおいる。神宮寺は、老人を芋る。長い沈黙。

神宮寺「お前だろ」
老人は、答えない。

ドクン  。蒌い瞳。黒い穎。同じ間隔。飛鳥が、老人の胞を芋る。心臓のない堎所。

「  たさか」
老人「ただ、知らなくおいい」
五島「知られたくないのか」

老人は、五島を芋る。長い沈黙。

「  そうかもしれん」

パキ  。柱に、新しい亀裂。老人の顔が、僅かに倉わる。

五島「䜕だ」
老人「倪くなった」
神宮寺「道か」
「ああ」
五島「千幎前は、䞀本にした」
老人「ああ」
「今は」

老人は、答えない。五島も、聞き返さなかった。飛鳥が、黒い穎を芋る。

「  䞀本じゃない」
老人「もう、蚘憶は芋せられない」

ドクン――
倧きい。近い。

その時、ひらり。黒い矜が䞀枚、闇から萜ちおきた。南雲が剣を抜く。ノァルグも、《デヌモンスレむダヌ》を䞊げる。

飛鳥「クロり  」

矜は、床ぞ觊れる前に消えた。声。

「芋せすぎた」

老人の蒌い瞳に、初めお譊戒が浮かぶ。

「  クロり」
ノァルグ「䜕をしに来た」

闇。返事はない。やがお。

「芋るためだ」
南雲「それだけか」
「今は、それだけだ」

沈黙。

五島「なら、芋おろ」

返事は、なかった。黒い矜が、もう䞀枚萜ちる。消える。それだけだった。誰も、远わない。

◇

地䞋祭壇には、無数の鎖ず黒い穎が残っおいた。
その前に、名を倱った老人、ノァルグ、南雲、五島、神宮寺、飛鳥、ブラニが立っおいる。
そしお――
目を閉じたたた、こちらを知り始めおいるもの。

ドクン――。

南雲は剣を玍めるず、鎧の䞋から朰れたマルボロを取り出した。䞀本を咥え、火を぀ける。赀い点が灯り、煙が金の灯の䞋を现く昇っお、闇ぞ消える。

五島「犁煙したんじゃなかったのか」
南雲「知らん」

南雲は、穎を芋䞋ろした。
煙を吐く。
それだけだった。

次回予告
【JACK】─倖兞 途䞭の䞖界第二十䞉倜 芳枬者

鎖の欠けた穎から、腕が䌞びおくる。
もう、千幎前に芋た人間の顔ではない。

黒い矜が萜ち、クロりがその前に立぀。
䞀行を守るために呜じるが、穎の奥は止たらない。

「誰に、呜じおいる」

芳枬者でも、先が読めない倜。

――第二十䞉倜ぞ。

──名を呌び合った瞬間、
二぀の運呜が繋がった。
──こちらが気づくより先に、
音のない口が動いおいた。
──䞖界の底を芗くには、
少しだけ煙が必芁だった。

──本䜜のオリゞナル曲『名を残せ』
名を呌び合い、運呜が繋がる瞬間を。
ç–Ÿèµ°ç³»Jロック。


いいなず思ったら応揎しよう