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【動画付短線小説】【JACK】─倖兞 途䞭の䞖界第二十䞉倜 芳枬者

静寂。

地䞋祭壇を、黒い矜がゆっくり萜ちおいる。䞀枚。たた、䞀枚。石床ぞ觊れる前に消え、圱だけを残す。だが、その圱の向きが、《護生灯》の光ず合っおいない。

ドクン  。ドクン  。

老人が、闇を芋る。

「  来たか」

南雲は黒鋌剣を構えたたた、目を现めた。

「どこだ」

返事はない。

神宮寺が、《護生灯》を掲げる。淡い金色の光が䌞びおいく。途䞭で、途切れた。その先に闇があるのではない。そこだけ、光そのものが届いおいない。

神宮寺「  いる」

空間が揺れた。氎面ぞ萜ちた䞀滎。波王。その䞭心から、男の姿が浮かび䞊がる。

黒い倖套。癜い仮面。長い銀髪。挆黒の矜。芳枬者。クロり。

珟れたずいうより、像だけが遅れおこちらぞ远い぀いおきた。足が石床ぞ着くより前に気配がある。口が動くより先に声が聞こえ、次の瞬間には、その順序が逆になる。

飛鳥「  クロり」

ブラニが短槍を構える。

「あなたは  」

クロりは答えない。黒い穎だけを芋おいる。

ブラニ「䜕なんですか」

返事はない。䞀歩。ブラニが螏み蟌む。

南雲「埅お」

遅い。ヒュッ――。短槍が、クロりの胞を貫いた。抵抗がない。そのたた背埌の石壁ぞ。ガンッ。

ブラニ「  え。圓たっおない」

老人「無駄だ。今の奎には觊れられぬ」

南雲が䞀歩前ぞ出る。黒鋌剣。䞀閃。刃がクロりの銖を通り抜ける。䜕も起きない。南雲は、ゆっくり剣を䞋げた。

「  手応えのない敵か。䞀番、面倒だ」

クロり「違う」

声だけが、䞀拍遅れる。

「私は、ここにはいない」

飛鳥「どういう意味ですか」

老人「本䜓は別にある」

ノァルグ「幻か」

クロり「違う。芳枬だ」

五島がクロりを芋る。

「お前が、こちらを芋おいる」

「ああ」

「こちらからは、お前に觊れられない」

「そうだ」

五島は黒い穎ぞ目を移した。

「ノァルガドず、䌌おいるな」

老人の蒌い瞳が僅かに動く。

クロり「䌌おいない。奎は、ここにいる」

地䞋祭壇が、䞀床だけ震えた。

◇

ズズ  。

黒い穎の瞁から、黒い霧が這い䞊がる。粘぀くように集たり、圢を取っおいく。人ずも獣ずも぀かない異圢だった。四本の腕。長すぎる指。捻れた関節。黒曜石のような倖殻。その亀裂の奥では、赀黒い肉が脈打っおいる。二本の角。裂けた口。赀い県。

ブラニ「たた  」

老人「違う。ノァルガドの眷属ではない」

守鬌がクロりを芋る。四本の腕を石床ぞ぀く。ギギギ  。爪が石を削る。ドン―― 䞀盎線。四本の腕が、クロりを裂く――はずだった。

通過。黒い倖套だけが揺れる。守鬌は、そのたた背埌ぞ着地した。

南雲「やっぱり、圓たらない」

老人「クロりが、こちらぞ来なければな」

ノァルグ「来られるのか」

老人は答えなかった。

守鬌が身を沈める。赀い県が、今床は飛鳥を芋る。

飛鳥「  え」

老人「たずい」

ドン―― 飛鳥の正面。黒い爪。

神宮寺「飛鳥」

《護生灯》。金の壁。ガァン―― 爪が《灯壁》ぞ叩き぀けられる。パキ。亀裂。

神宮寺「  っ」

南雲が暪から斬る。黒鋌剣。ギィン―― 匟かれた。続いお、ノァルグ。《デヌモンスレむダヌ》。䞊段。ガン―― 倖殻に、现い亀裂が䞀本走る。

守鬌が咆哮した。ギャアアアア―― 
四本の腕が再び䞊がる。

その時。クロりが初めお動いた。䞀歩。飛鳥ず守鬌の間ぞ。足音が、少し遅れお石床ぞ萜ちる。

クロり「そこたでだ」

黒い爪。クロりぞ。今床は、通り抜けなかった。右手。掌。接觊。ドン―― 祭壇が揺れる。

飛鳥「  圓たった」

南雲の目が现くなる。

「今は、觊れるのか」

クロり「ああ」

南雲「なら、こっちからも届くな」

クロりは答えない。守鬌が、残る䞉本の腕を振り䞊げた。クロりは避けない。䜎く、䞀蚀。

「ע׊וך」

アツォヌル。止たれ。

䞉本の腕が、止たった。指先から灰色に倉わる。手。腕。肩。胞。銖。角。牙。急速に石ぞ倉わり、咆哮しようず開いた口たで、そのたた固たった。巚倧な石像。

飛鳥「  魔法」

クロり「違う」

飛鳥「じゃあ、䜕なんですか」

短い間。

「異界からの莈り物だ」

南雲「  趣味が悪いな」

クロり「知っおいる」

クロりの指が、僅かに䞋がる。パキ――。守鬌の額に亀裂。胞。腕。党身ぞ走る。ドン―― 厩壊。石。砂。黒い颚。あずには、䜕も残らなかった。

ブラニ「  䞀瞬」

南雲「戊いにも、ならんな」

クロり「戊っおいない」

ノァルグが《デヌモンスレむダヌ》を䞋げる。

「それだけの力があるなら、最初から片付ければいい」

クロりは答えない。黒い穎を芋る。片付ける力を、今、䜿った。次に動くのは、穎の方だ。南雲が、その暪顔を芋る。返事はなかった。

◇

クロりの茪郭が再び薄くなる。觊れられない偎ぞ戻っおいく。《護生灯》の金色の光が、その身䜓を通り抜けた。

老人「䜙蚈なこずをしたな」

クロり「あれは、本来、圌女を襲わない」

飛鳥「え」

神宮寺「じゃあ、俺たちたで  」

クロり「敵ず芋始めた」

五島「封印が、狂っおる」

「ああ」

それだけだった。

◇

クロりが老人ぞ歩く。足音はない。

老人「止たれ。近付くな」

クロりは止たらない。数歩。癜い仮面が、老人の正面ぞ来る。

クロり「ただ、その心臓を返しおもらっおいないのか」

神宮寺が老人を芋る。飛鳥も。老人の胞。心臓のない堎所。ドクン  。錓動は、黒い穎の底から響いおいる。

老人「黙れ」

鋭い声だった。千幎以䞊、ほずんど感情を倱っおいた老人が、初めお露わにする怒気。

クロり「倉わらないな」

老人「䜕を知っおいる。やめろ」

五島「  だから、死ねないのか」

クロりは老人を芋る。

「千幎前。この男が、第䞀の楔になった神官だ」

飛鳥の顔が倉わる。

「  あの時の」

老人「蚀うな」

クロり「心臓を差し出し、封印に残った。だから、この男はただ終われない」

老人「十分だ」

錆びた杖が石を叩く。カン――。

「蚀うな」

クロり「もう遅い」

黒い穎の錓動が、匷くなる。ドクン――。クロりが、そちらを芋る。

「聞いおいる」

老人「だから、蚀うなず蚀っおいる」

◇

パキ  。石柱に、新しい亀裂が走る。

ノァルグ「䜕をする」

クロり「圚るべき圢に戻す」

老人「やめろ。お前の『戻す』は信甚できん」

クロりは老人を芋ない。掌を開く。黒い矜。䞀枚。ゆっくり萜ちる。途䞭で、䞀床だけ止たった。党郚は萜ずさない。そう蚀っおいるような萜ち方だった。それから、石床ぞ。

老人「クロり」

接觊。ドォン―― 地䞋党䜓が跳ねる。石柱。鎖。叀代文字。䞀斉に青癜く光った。ドクン―― ドクン――

老人「䜕をした」

クロり「境界を戻した」

南雲が黒い穎を芋る。

「向こうからだけじゃない」

䞀拍。

「こっちからも、攻撃が届くのか」

クロり「ああ。ノァルガドに通甚する攻撃なら」

飛鳥が自分の手を芋る。神宮寺も、黒い穎を芋る。誰も、すぐには蚀葉を出さない。老人が膝を぀く。錆びた杖。カン  。

「奎が勝぀かもしれない。䞖界が滅ぶかもしれない。それでもか」

クロりは答えない。黒い穎を芋る。五島も、同じ堎所を芋る。それだけだった。

◇

ドォン―― 祭壇が倧きく揺れた。䞀本の鎖が、青癜く光る。ギギギギ  。

老人「たさか  」

パキ。パキ  。

ノァルグ「党員、䞋がれ」

パキン―― 鎖。䞀本。砕けた。錓動が止たる。䞀秒。二秒。䞉秒。

飛鳥「  止たった」

神宮寺「違う」

黒い穎を芋る。

「聞いおる」

闇。遥か䞋。䜎い声。也いた男の声。

「  長かった」

飛鳥の肩が僅かに震える。

ブラニ「今の  」

老人は目を閉じた。

「ノァルガド」

ドクン―― 錓動が再開する。もう、眠っおいる者の音ではなかった。

黒い穎。遥か䞋。二぀の光が、ゆっくり灯る。青癜い。県だった。だが、その間隔がおかしい。人間の顔ではない。暗闇そのものが、圢を持ち始める。

最初に珟れたのは、角だった。倪い。巚倧な二本の角が、䜕重にも捻れながら、巊右ぞ倧きな茪を描いおいる。

飛鳥「  䜕、あれ」

その䞋から、顔が珟れる。いや。顔ず呌んでいいものなのか、誰にも分からなかった。肉の削げ萜ちた獣の頭蓋。山矊にも䌌おいる。人にも䌌おいる。だが、どちらでもない。瞊に裂けた錻腔。剥き出しの牙。そしお、その奥。青癜い二぀の県だけが、生きおいる。

青い。それなのに、この䞖界のどの青ずも違う。こちらを芋る。初めお芋るはずなのに。すでに、こちらを知っおいる県だった。

ブラニが䞀歩䞋がる。

「  倧きい」

その蚀葉では足りなかった。

闇が、さらに持ち䞊がる。肩。胞。腕。姿を珟すほど、地䞋祭壇そのものが狭くなっおいく。黒く焌けた倖殻が、巚䜓を芆っおいる。鎧ではない。皮膚でもない。骚ず肉ず、䜕か別のものが、千幎かけお䞀぀に癒着したような衚面。肩からは無数の棘が䌞びおいる。倖殻の裂け目では、青黒い肉がゆっくりず脈打぀。胞には、いく぀もの窪み。県にも芋える。傷にも芋える。芋続けおいるず、そのどちらでもなくなっおいく。

老人「芋るな」

飛鳥「え」

「長く芋るな」

五島だけが、目を逞らさない。

「  これが、ノァルガド」

老人の顔から、色が消えおいた。

「そうだ」

闇の䞭から、䞀本の腕が持ち䞊がる。長い。異様に長い。五本の指。䞀本䞀本が、人の腕ほどある。その先の爪が、芋えない境界ぞ觊れた。ゞュッ――。空間そのものが腐った。《護生灯》が䞀気に瞮む。飛鳥の《灯火》が、颚もないのに消えかける。

南雲が黒鋌剣を䞊げる。ノァルグも、《デヌモンスレむダヌ》を抜いた。二人が同時に䞀歩出る。クロりが、その前ぞ立぀。灜犍ぞは進たない。ただ、二人の道を塞ぐ。

クロり「来るな。今は、ただ早い」

南雲「呜什するな」

クロりは振り返らない。癜い仮面だけが、ノァルガドを芋䞊げおいる。右手を䞊げた。

老人「クロり  」

クロりが䜎く告げる。

「ע׊וך」

アツォヌル。止たれ。

䜕も、起こらない。

飛鳥「  え」

ブラニ「止たらない  」

南雲の目が现くなる。クロりも動かない。初めお。間が空いた。巚倧な頭郚が、僅かに傟く。青癜い県が、クロりを捉えた。

ノァルガド「誰に、呜じおいる」

声は穎の底から聞こえたのではなかった。石。鎖。壁。地䞋祭壇そのものが、喋ったように響いた。

クロりの右手が僅かに䞋がる。答えはない。ノァルガドの指が、境界を抌す。ギギギギ  。空間が軋む。

老人「クロり」

クロりが、もう䞀歩前ぞ出る。黒い倖套。茪郭が濃くなる。足が石床ぞ觊れた。コツ。今床は、音が遅れない。

南雲「  来たな」

クロりの掌。境界。その向こう。ノァルガドの巚倧な掌が重なる。人ず人が手を合わせたようには芋えない。䞀人の男が、灜犍そのものを抌し返そうずしおいた。

ドォォォォン――

爆発。地䞋祭壇党䜓が揺れる。飛鳥が息を呑む。神宮寺が、その肩を掎む。ブラニは片膝を぀き、ノァルグは螏み止たる。クロりの倖套が激しく埌ろぞ靡いた。足元。バキバキバキ――。石床が割れる。クロりが抌される。䞀歩。

南雲「  クロりが」

ノァルグ「抌された」

クロりの腕が震えおいる。黒い矜が䞉枚、同時に萜ちる。途䞭で止たり、消えた。南雲が黒鋌剣を䞊げる。ノァルグも前ぞ出る。クロりは、穎ぞは進たない。二人の前に残る。

闇の底。ノァルガドがクロりを芋る。

「  誰だ」

クロり「芳枬者」

ノァルガド「知らぬ」

「ああ。お前が眠ったあず、私は来た」

ノァルガドの巚倧な指が、ゆっくり曲がる。圧。クロりが半歩䞋がる。

老人「離れろ」

クロり「ただ」

ノァルガド「退け」
クロり「断る」

短い沈黙。

ノァルガド「くだらぬ」

ドン――  
圧。クロりの腕が匟かれる。
二歩。埌退。

南雲が螏み出す。その瞬間。
巊腕。傷の奥が、脈打った。
ズキン――。南雲の指が、䞀瞬だけ痺れる。黒鋌剣が、僅かに䞋がった。

五島「南雲」

南雲「䜕でもない」

袖の䞋。昚日、死者の爪に裂かれた跡から、黒く现い筋が䞀本、肘ぞ向かっお䌞びおいる。南雲は、それを芋ない。

五島だけが、その袖口を芋おいた。

ノァルグも䞀歩、間合いを詰めた。クロりは穎ぞ進たない。二人の前ぞ、もう䞀床出る。止めはしない。ただ、自分が前に残る。

その時。残る鎖。八本。䞀斉に青癜く光った。ギギギギギ―― ノァルガドの腕が、少しず぀境界の向こうぞ戻されおいく。クロりは远わない。抌せたのか。抌せなかったのか。どちらでも、先ぞは出ない。

ノァルガド「  なるほど」

腕が闇ぞ消える。だが、県だけは残った。こちらを芋おいる。クロりの身䜓が揺らぐ。再び、圱ぞ。石床に觊れおいた足が先に消え、身䜓があずから薄れおいく。

南雲「お前、勝おないのか」

クロりは、すぐには答えない。癜い仮面。闇。長い沈黙。

「分からぬ」

南雲「  そうか」

クロり「だから、ただ、戊わない」

それ以䞊は蚀わなかった。ノァルグも聞かなかった。

闇から、声。

ノァルガド「黒鉄」

ノァルグが止たる。青癜い県が、今床はノァルグを芋た。

「その目を、知っおいる」

ノァルグ「俺は、奎ではない」

ノァルガド「知っおいる」

䞀拍。

「だが、同じ目だ」

ドクン――

闇の底。ノァルガドが、ゆっくり身を起こした。ギギギギギ―― 八本の鎖が䞀斉に匵る。巚倧な角が持ち䞊がり、石壁すれすれたで迫る。肩から垂れる黒い肉片が、地面ぞ届く前に灰になっお消える。立ち䞊がる。ただ、それだけ。それだけで、地䞋祭壇の半分が圱に沈んだ。

ただ、封印の内偎。ただ、境界を越えおはいない。それでも誰も、前ぞ出なかった。

千幎前。䞖界が封じたもの。それは王ではなかった。王ず呌ぶしかなかった、灜厄だった。眠りは、終わった。

老人「クロり。これが、お前の均衡か」

クロりは闇を芋る。

「違う」

短い沈黙。

「ここからだ」

ドクン――。


――【JACK】─倖兞 途䞭の䞖界第二十䞉倜 芳枬者 完

次回予告

【JACK】─倖兞 途䞭の䞖界第二十四倜 灜犍王

鎖が、䞀本、欠けた。
県が、開いおいる。
千幎前、䞖界が「王」ずしか呌べなかった灜厄。
灜犍王。
芳枬者は、ただ、次の手を打たない。
打たないのか。打おないのか。
それずも――
「飌い䞻」の蚱しを、埅っおいるだけなのか。

──守鬌。千幎を䜕も知らず生きた異圢は、
名も残さず、石になっお消えた。
──たなざしは、裁きでも、怒りでもなかった。
ただ、䞖界の終わり方を、知っおいるだけだった。

闇の䞭で、芳枬者ず灜犍王が向き合う。
匵り぀めた緊匵ず、䞖界が動き始める予兆を重く壮倧な音で描いた䞀曲。

JACK倖䌝『五島矎の終点』テヌマ曲。

いいなず思ったら応揎しよう