文字を贈ることしかできない

九月二十二日(火曜日)

会社の敷地内にできた新棟を見に行く。ここを去る前にせっかくだからと、上司が担当者を紹介してくれたのだ。事前のアポのやりとりは淡々としていて、同行してくれる同僚も面識がないらしいから、人となりが分からず恐々としていた。しかし実際に会ってみると、たいへん優秀かつ熱意にあふれる好漢だった。淀みなく説明を続けるさまからは、過去の厳しい質疑で鍛えられたことがひしひしと伝わってきたし、合間に「オフレコで」と語られる思想からは、新棟だけでなく業界をも憂い、背負っていく気概がにじんでいた。別れてからお礼のメールを送るとすぐに、異動後の部署をぜひ見学させてほしいとの返信がきた。これぐらいの熱を持って仕事をしたいと思う。

夜は部署内の飲み会。全部で二十人、主賓だけでぼくを含め四人もいる。仲良しグループはあちらの島に固まっていて、ずいぶん楽しそうだなと思いつつ外から眺めていた。入り込めそうになかったのでずっと同じ席に居たし、彼らもこちらにやってこない。よりによって三時間の飲み放題で、メシと酒くらいしかやることがなく、腹だけは完ぺきに満たされた。やっぱり大人数の飲み会は苦手だ。

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九月二十三日(水曜日)

少し年下の同僚が急に飲み会を開いてくれた。駅前のチェーン居酒屋で、四人だけの小さな会だ。会社ではさばさばした印象のメンバーだった。話してみると、持ち物から仕事、政治の話に至るまで、たいへん拘りが強いことが今さら判明した。一連のお別れ会のなかで初めての、消え物ではない送別品をいただいた。忘れたころに見かける、この街のゆるキャラの小さなぬいぐるみだ。出逢ってからもう一年以上、がっつり一緒に仕事をし出してからでも半年は経つ。もっと早く誘えばよかった。今回声を掛けてくれた同僚に感謝したい。帰りの電車で一緒になった一人とLINEを交換して別れた。

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九月二十四日(木曜日)

昨夜なんども推敲したあいさつ文を、世話になった人たちへ一斉にメールする。三つのグループへそれぞれ違う文章を送ったが、微妙に層が被っているので、何人かは三通のメールを受け取っていることになる。おしゃべりも上手ではなく、土産物のセンスもないぼくには、文字を贈ることしかできないと思う。どうか甘んじて受け取ってほしい。

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