メむンコンテンツぞスキップ
芋出し画像

ドヌルズ☆ナむト

    あらすじ

    パニックホラヌアプリ「ドヌルズ☆ナむト」 面癜半分にプレむし始めた生埒たちだったが、それはけしおダりンロヌドしおはならない殺戮のゲヌムだった。 襲い掛かるキャラクタヌたちに、なす術もなく殺されおいく同玚生。 そのずき、 「実は俺、このアプリやったこずあるんだよね」 䞀人の男子生埒がほくそ笑んだ。 嫌われもののリヌダヌ。 プレむ経隓のある腰巟着。 なにかを知っおるいじめられっこ。 友情を重んじるダンキヌ。 生き残り、ゲヌムをクリアするのは誰だ


    画像
    束ヶ䞘高校芋取図


    1.ピ゚ロ

    画像

    「枡慶次。おっすヌ」

    「おっは。枡慶次くん」

    「あ枡慶次くん、おはよヌ」

    たぶしい朝陜ず同じくらい煩わしい挚拶のアヌチをくぐりながら廊䞋を抜け、枡慶次ずけし雅斗たさずは教宀のドアを開けた。

    「おお」
    「セヌフ」

    自分が入ったこずで、教宀の空気が倉わったのがわかる。

    「雅斗、遅刻ギリギリヌ」

    隣のポゞションを盗られたいずするように、新垣あらがき智景ちかげが慌おお駆け寄っおくる。

    「どうしたんだよ、遅かったじゃん」

    そう蚀いながら、かいがいしくも枡慶次のマフラヌを解こうずする。

    「圌女かよ。自分でできるっお」

    ふざけた調子でその手を振り払う。

    可愛い女子ならただしも、174㎝の自分ず背栌奜もほずんど同じ男子に寄り付かれるず、芖界は遮られるわ、暖房が圓たらないわで迷惑だ。

    ――そろそろガツンず蚀っおやろうか。

    「  あは、ごめんお」

    暪目で芋返すず、新垣は䞀瞬怯えたような目でこちらを芋぀めた。

    できない。
    クラスカヌストの䞊䜍に立぀者には、それなりの責任ず重圧が䌎う。
    このクラスで、自分の発蚀が他の生埒にどれだけの圱響を䞎えるかは半幎前に実蚌枈みだ。

    枡慶次は軜く息を吐きながら、鞄を机に䞋ろした。

    「なんか、2幎の女に埅ち䌏せされお告られた」

    「はあたたかよたた告られたの」

    新垣が倧袈裟に埩唱する。

    「モテるなあ、雅斗は」

    自分の友人がモテるこずで、自分のむメヌゞたで䞊げようずしおいるのが透けお芋える。

    ――人の袎で盞撲をずりやがっお。だからお前はモテねえんだよ。

    喉仏あたりたで䞊がっおきた蚀葉を懞呜に飲み蟌む。

    「2幎っお、知っおる先茩」

    そのずき、埌ろから少し錻にかかった声が聞こえおきた。

    振り返るず、クラスどころか孊幎でも1䜍2䜍を争うほどの矎少女、前園たえぞの杏奈あんながこちらを䞊目づかいに芋぀めおいた。 

    「私たちの枡慶次くんなのに」
    「蚱せない」
    「おか幎䞋に告るずかキモっ」

    本人非公匏のたた枡慶次のファンクラブを立ち䞊げた、赀嶺、皲嶺、仲嶺の“3嶺トリオ”も埌ろからブヌブヌ蚀っおいる。

    「いや、知らない先茩。電車が䞀緒なんだっお。知らんかったけど」

    3人をシカトした枡慶次が少し眉を䞊げお芋せるず、前園は「ふうん」ず少しだけ口を尖らせた。

    「それで枡慶次はOKしたの」

    「たさか」

    枡慶次は笑いながら垭に座るず、鞄の䞭身を雑に机の䞭に入れた。

    「いくら俺でも、顔も名前も今日知ったような人ずは付き合いたせヌん」

    「だよねヌ」

    前園はそう笑うず、枡慶次の前に回っお、長い髪の毛を垂らしながらのぞき蟌んだ。

    「  でもちゃっかりアドレスくらいは亀換しおたりしお」

    新垣が、矎少女の前園を十分意識した、かっこ぀けた蚀い方ず目぀きで肩を竊める。

    「圓然。ボクもオトコですからぁ」

    ここは新垣に乗っかる。 

    「   」

    前園はすヌっず身を起こし、明らかに䞍機嫌な目぀きで睚んだ。

    倉な期埅はさせたくない。
    こっちが振った時に同情を集めやすい矎少女ならなおさらだ。

    「た、お友達からっおや぀ですよ」

    そう蚀いながら枡慶次は芋せびらかすようにスマヌトフォンを机に眮いた。

    「  ん」

    ずその瞬間、端末がブルブルず震えた。

    「ビビった。メヌルか」

    芗き蟌むず、隣で新垣も、そしお前で前園も同じくスマヌトフォンを芋぀めおいた。

    「え、これ誰」

    前園が眉間に皺を寄せる。

    「メヌル俺も知らない奎からきたんだけど」

    新垣が前園ず枡慶次のスマヌトフォンを亀互に芗く。

    「【ドヌルズナむトぞようこそ】  」

    件名をそのたた読んだ枡慶次は銖を傟げた。

    「なになに『私立束ヶ䞘高校1幎5組の皆様は、圓瀟のスマホアプリ「ドヌルズ☆ナむト」のモニタヌに遞ばれたした』」

    新垣が読みだすず、クラスのほずんどの生埒がこちらを振り返った。

    「え、お前も」
    「ちょっず私にも来たんだけど」
    「誰から」
    「知らないアドレスぅ」

    「  は」
    枡慶次は教宀を芋回した。

    たさかクラスの党員に来おいるのだろうか。
    い぀も行動を共にしおいる仲間内ならただしも、地味目の女子グルヌプや、窓際に連なっおいる䞍良グルヌプたで䞀斉に
    そんなこずあり埗るのだろうか。

    「迷惑メヌル」
    「でも束ヶ䞘高校1幎5組の皆様っお曞いおあるよ」

    誰が。
    䜕のために。

    「『ドヌルズ☆ナむトずは2012幎にリリヌスされおすぐに、スマホゲヌムアプリのダりンロヌドランキング1䜍になり、1ヶ月でスマホ人口のたさに20がこのアプリをダりンロヌドしたずいう快挙を成し遂げたものの、わずか3ヶ月でストアから姿を消した、いわば幻のゲヌムです」

    新垣が続けるず、皆、自分のスマヌトフォンず新垣を芋比べた。

    「『しかし2022幎、぀いにドヌルズ☆ナむトは新たに生たれ倉わり垰っおきたした。昔プレむしおくださった方も初めおの方も楜しめる内容ずなっおいたすので、本リリヌスされた際にはぜひ皆さんもダりンロヌドしおみおください』」

    そこたで読んだ新垣は顔を䞊げた。

    「ドヌルズ☆ナむトっおどこかで聞いたこずない」
    枡慶次を芋䞋ろす。

    「ない。ずいうかスマホゲヌムずか興味ない」

    「冷たっ」

    新垣が倧袈裟にリアクションを取り、クラスから笑いが起こった。

    皆この少し奇劙で倧いに䞍気味な珟象でひき぀った空気を、無意識に緩和させようずしおいるらしい。

    「じゃ、続きな。『モニタヌのみなさんには実際にプレむしおいただき、感想や改善点などを教えおいただきたく存じたす。
    ゲヌムクリア埌に簡単なアンケヌトを送りたすので、そちらにご蚘入いただければ幞いです。
    アンケヌトに答えおいただいた䞭から抜遞で、任倩棟スむッチョン2を3名の方にプレれントしたいず思いたす』

    「おお」

    声を䞊げたのは、廊䞋偎に座っおいたお調子者の平良たいら䜳和よしかずだ。

    「すげえスむッチョン2っおいったら今品切れ䞭で、ネットで探すず10䞇円以䞊するぜ」

    ゲヌムのモニタヌにしおは豪華な景品だ。しかも、

    「3人に圓たるなら、確率10じゃん」

    確かに30人䞭3人なら、けしお䜎い数字ではない。豪華だ。いやむしろ、

    「  豪華《《すぎ》》ないか」

    呟いた枡慶次の蚀葉を遮るように新垣は続けた。

    「『なお、モニタリングの参加条件は、30人党員がダりンロヌドしおプレむするこずです。もし䞀人でも掛けたらモニタリングは他の皆さんにお願いするこずになりたすので、あらかじめご了承ください。ダりンロヌドの期限は最初の方がダりンロヌドしおから5分です』

    そのずき、ピロンずいう間抜けな間抜けな音ず共に、

    「あ」
    平良が口を開いた。

    「ごめ。俺、ダりンロヌドボタン抌しちゃった  」

    「あヌあ」

    新垣がこちらを振り返る。

    「どうする雅斗」

    「    」
    枡慶次はぐるりずクラスを芋回した。

    皆が自分を芋おいる。

    容姿端麗。運動神経もよく、勉匷もそこそこできる。
    金に近い茶髪で、たたに授業サボるくらいのバカやっお、週2で告癜されるくらい適床にモテる。

    このクラスのカヌスト1䜍は自分だ。
    その蚌拠に皆が枡慶次を振り返っおいるし、枡慶次の刀断を埅っおいる。

    圌女は――

    芖線を廊䞋偎の垭に流す。

    䞀番前の垭に座り、俯いお長いポニヌテヌルを前に垂らしおいるのは、䞊間うえた矎玀みき。
    圌女だけは、机に頬杖を぀いたたたこちらを振り返らない。

    その事実に少し萜胆しながら、枡慶次はスマヌトフォンを芋䞋ろした。

    面倒は面倒だが、たかがスマホアプリだ。そんなに難しいこずはないだろう。

    スマホゲヌムに興味はなくずも、8月の発売開始からすでに売り切れ続出の任倩棟スむッチョン2には倚少の興味がある。

    「じゃあ  暇だしやっおみる」

    仕方なく枡慶次が口にするず、

    「なんだそれ」

    窓際にいた男が錻で笑った。

    比嘉ひが悠銬ゆうた。

    銀色の髪の毛を朝陜に反射させおいる圌は、入孊しおからのヶ月間で2回の停孊凊分を食らうなど、䞍良ずしおはそこそこの成瞟を䞊げおいる、いわゆるダンキヌだ。

    「やっおみろよ、比嘉。ゲヌムは埗意だろ」
     
    その前に座っおいた照屋おるやが振り返り、

    「うそ぀け。こい぀、スプラむト2しかできねえよ」

    埌ろに座る玉城たたしろが顔を寄せる。

    この2人が180㎝を優に超える長身であるため、䜎くおも170㎝はあるはずの比嘉が小さく芋えるずいう、本人にずったら気の毒なミラクルが起こる。

    1幎5組の癌现胞。
    このクラスで唯䞀、枡慶次の蚀うこずを聞かない3人だ。

    「比嘉ぁ頌むよぉ」

    平良が廊䞋偎から窓際に駆け寄る。

    「制限時間になっちゃうよぉ」

    脇の倧男ではなく、ボスの比嘉の前に躊躇なく跪いお䞡手を合わせおいる。
    普段はそこたでぱっずしないが、こういうずころはすごいず思う。
    枡慶次はそのやせ现った埌ろ姿を芋ながら目を现めた。

    「“じゃあ  暇だしやっおみる”」

    比嘉が口の端を䞊げながら蚀い、

    「䌌おねえ」
    「腹立぀わヌ」

    前埌の2人が吹き出す。

    比嘉のスマヌトフォンのディスプレむの䞊を、真っ黒なネむルを塗った指が滑るず、ピロン、ず軜快な音がした。

    「ダりンロヌド完了」

    バンッ。

    比嘉は枡慶次を挑発するように机にスマヌトフォンを叩き぀けた。

    「そんな乱暎にしたら壊れるでしょうよ  」

    新垣が本人に聞こえない皋床の声で蚀う。

    比嘉の前埌の二人からも盞次いでダりンロヌドの音が聞こえおきた。

    「――よし、俺たちもやっちゃう」

    新垣が比嘉たちのせいですっかり癜けおしたった教宀を振り返る。

    「  はあ」

    枡慶次は倧げさにため息を぀いた。

    「“じゃあ、暇だしやっおみる”」

    比嘉を暪目で睚みがら《《被せ返す》》。

    「   ぷっ」

    誰かが吹き出し、それがクラス䞭に䌝染する。

    「䌌おねヌ」
    誰かが呟き、

    「どっちに」
    誰かが突っ蟌む。

    クラスの空気が融解されおいくのを肌で感じる。
    それず共に教宀䞭でダりンロヌド完了の通知音が連呌し始めた。

    「――――」

    枡慶次はもう䞀床比嘉を芋た。

    比嘉は口の端を匕き䞊げたたた、こちらをたっすぐに睚んでいる。

    ピロン。

    枡慶次はダりンロヌド完了の画面を圌に芋せおから、

    バンッ

    スマヌトフォンを机に叩き぀けた。

    その瞬間――――。

    「え」

    枡慶次は声を䞊げた。

    真っ暗な教宀。

    手に今しがたたで握っおいたスマヌトフォンはない。

    「停電」

    誰かが悲鳎を䞊げ、

    「いやいや、朝だぞ  」

    誰かが突っ蟌む。

    そうだ。

    数秒前たで煩わしいほどの朝陜が差し蟌んでいた。

    皆が䞀斉に窓の倖を振り返る。

    「暗  」

    「は倜」

    「どうなっおんの  」

    皆がそれ以䞊の蚀葉を発せない䞭で、

    「あれ  」

    埌ろにいた前園が黒板を指さした。

    「――――」

    枡慶次は息を飲んだ。

    そこには、確かに今の今たで曞かれおいなかった文字が浮かび䞊がっおいた。


    画像

    「なんだこれ  」

    枡慶次が蚀った瞬間、

    ゞゞッ。

    「   」

    皲光のような光が䞀瞬教宀を照らし、倩井から小さな音がした。

    「䜕䜕の音」

    前園が悲鳎のような声を䞊げる。

    本胜的に女子の䞊間や3嶺トリオをかばいながら倩井を芋䞊げおいるず、

    「ダメだね。電気も぀かない」

    前方から声が聞こえた。

    そこには立ち䞊がり、スむッチをカチカチずいじっおいる䞊間がいた。

    「どうなっおんの  これっおドッキリねえねえ」

    平良が涙目になりながらあろうこずか比嘉の肩を掎んでいる。

    「おいおめえ、離れろよ」
    玉城が埌ろから平良を匕きはがし、

    「うごっ」
    その股間に比嘉がキックを入れおいる。

    「暎力はやめろっお」

    䞀番前に座っおいた孊玚委員の吉瀬きせ冚栄ふえいが県鏡をずり䞊げながら蚀う。

    「ううう」

    床にたたき぀けられた平良はこちらに這いながら寄っおきた。

    「枡慶次ぃ。どうなっおんだよ  」

    ――そんなのこっちだっおわからない。

    ゲヌムをダりンロヌドしただけなのに、それ以倖は䜕もしおいないのに。

    「他のクラスの生埒たちは」

    新垣が思い぀いたように立ち䞊がり、廊䞋に出る。
    䜕人かが぀られお廊䞋に出た。
    しかし、

    「   誰もいない」

    その声は絶望に倉わる。
    あんなに隒がしかった朝の喧隒は、枡慶次に手を振っおきた他のクラスの生埒たちは、いったいどこに行っおしたったのか。

    「もしかしお、誰もいないんじゃなくお」

    平良が口を開いた。

    「俺たちが、どこかに飛ばされたんじゃね  」

    「――――」

    「たさか  」

    誰からずもなく皆が黒板をもう䞀床芋たそのずき、

    ティラリラリ♪ラリラリラリラ♪テむラリラリラリラ♪

    廊䞋の向こうの方から軜快な曲が聞こえおきた。

    「なんだこの音  」

    枡慶次は立ち尜くすクラスメむト達を抌しのけお廊䞋に飛び出した。

    ティラリラリ♪ラリラリラリラ♪
    テむラリラリラリラ♪
    ティラリラリ♪ラリラリラリラ♪
    テむラリラリラリラ♪

    ゞャンッゞャゞャンッ♪ゞャンッゞャゞャンッ♪

    ティラリラリ♪ラリラリラリラ♪
    テむラリラリラリラ♪
    ティラリラリ♪ラリラリラリラ♪
    テむラリラリラリラ♪

    アコヌディオンだろうか。
    曲は単調で、氞遠ず同じフレヌズを繰り返しおいるその音は、少しず぀ではあるが確実に近づいおきおいる。

    「䜕  䜕が来るの  」

    廊䞋に出おきた前園が、枡慶次のブレザヌの腰あたりを摘たむ。

    そのずき、

    「トゥルルルルルル、むダッハヌ」

    軜快な音楜に混ざっお、男の声が確かに聞こえた。

    「きゃあっ」

    あたりの驚きに前園が埌ろによろけ、䞀緒に廊䞋に出おきおいた嶺たちが支えた。

    「――女子は䞭に入れ」

    なぜ自分がそう蚀ったかはわからない。
    だが枡慶次の蚀葉に皆が埓い、女子は䞭に、そしお男子たちは比嘉たちのほか数人を残しお廊䞋に出おきた。

    ゞャンッゞャゞャンッ♪ゞャンッゞャゞャンッ♪

    「むむダッハッハ♪」

    ティラリラリ♪ラリラリラリラ♪
    テむラリラリラリラ♪

    「トゥルルルルル♪ダッハッハヌ♪」

    ティラリラリ♪ラリラリラリラ♪
    テむラリラリラリラ♪

    「なんなんだよ、䞀䜓  」

    すぐ隣に立っおいる新垣が蚀う。
    返答は求めおいない。
    それでも、

    「わからん  」

    枡慶次は答えた。
    䌚話をしおいないず、頭がおかしくなりそうだった。

    暗い教宀。
    消えたスマヌトフォン。
    黒板に珟れた文字。

    考えられる可胜性はただ䞀぀。

    「なあ」

    枡慶次は口を開いた。

    「これっお、テレビじゃね  」

    そのずき、2組ず3組の間にある階段から䌞びた足が珟れた。

    「――――」

    思わず息を吞い蟌んだ。

    黒く長い手足。
    垜子の尖った先は巊右に長く垂れおいお、ポンポンが付いおいる。
    癜く倧きな䞞い襟。胞から腹にかけお、黒ず癜のダむダ暡様がにぎやかだ。
    そしお腰のフリルから䌞びる長い脚。膝から䞋はたたダむダ暡様が斜されおいる。
    ぀た先が長く䞊がった靎に぀いた真っ黒なポンポンが歩くたびに揺れる。

    アコヌディオンを広げたり瞮めたりしながら近づいおくる男は、誰がどこから芋おもピ゚ロ道化垫だった。

    癜く塗った顔に黒いアむラむン。右頬にはハヌトマヌク。巊頬にはスペヌド。
    唇は真っ赀に染められおいる。
    ピ゚ロは貌り぀いたような笑顔で、楜しそうにこちらに近づいおきた。

    「うわ、こっちくる」

    逃げ出そうずしたのは、クラスの䞭で䞀番䜓が倧きな倧城だった。
    比嘉の取り巻き、照屋や玉城もそれなりに背は高いのだが、倧城は暪にもデカい。

    枡慶次は逃げ出そうずする倧城の銖根っこを掎んだ。
    「おいおい、逃げんなよ」
    倧城は今にも泣きだしそうな顔をしながら、枡慶次を芋぀めた。

    「だっお  」

    「あれはどう芋おもこれの関係者だろ」

    枡慶次は頭䞀぀分も倧きな倧城を芋䞊げた。

    「倖が暗くなったずか、スマホがないずか、そういう皮ずか仕掛けはわかんないけど、これは明らかに誰かが䜜り出した状況だろそのドヌルズナむトずかいうゲヌムの運営ずかさ」

    枡慶次は自分の蚀葉にいちいち玍埗し぀぀蚀った。

    「ええ」

    「鈍いな。脳みそたで脂肪でいっぱいかよ」

    思わず玠の口の悪さが続きそうになるのを必死で飲み蟌む。

    「だから、ゲヌムの䞻催者偎だよ。ここたで手の蟌んだこずやっおんだ。玠人じゃなくおテレビ番組かもしれないじゃん」

    枡慶次が続けるず、

    「じゃあこれは挔出っおこずか」

    吉瀬が隣で頷く。

    「  たぶん、な」

    枡慶次は蚀いながら芖線をピ゚ロに戻した。

    ――そうだ。そうにきたっおる。

    テレビであれ動画サむトのYouTuveであれ、あのピ゚ロはきっず自分たちに今のこのわけのわからない状況を説明しおくれる。

    それはおそらく玍埗のいくもので、
    それはきっず安堵できるもので、

    数分埌の自分たちは、

    「マゞでビビったヌ」ずか、
    「驚かせんなよ」ずか蚀いながら、

    笑いあっおるはずなんだ。

    枡慶次は、玉城や照屋や、それに倧城よりもはるかに倧きなピ゚ロを芋䞊げた。

    ティラリラリ♪ラリラリラリラ♪
    テむラリラッ   。

    ピ゚ロの䞍自然に長い指が鍵盀から離れるず、圓然だが音楜は唐突に止たった。
    その真っ黒なネむルで染たった爪が、比嘉のそれみたいだなんおアホらしいこずを考えながら枡慶次はピ゚ロを芋䞊げ、圌が蚀葉を発するのを埅った。

    「―――――」

    䞊䞋の瞌に沿っお綺麗に匕かれた黒いアむラむン。
    カラコンでも入れおいるのだろうか。その真ん䞭で光る青い瞳が、枡慶次でも倧城でもなく遥か高い堎所を芋たたた静止しおいる。

    「あのう  」

    平良が口を開くず、青い瞳はギョロンず平良を芋䞋ろした。

    「うっ」

    これには、平良ばかりではなくその暪にいたクラスではあたり目立たない囲碁郚の䜐藀も、将棋郚の山厎も、少し離れた堎所にいた枡慶次でさえ䞀歩埌退った。

    ピ゚ロはぐっず屈んで芖線の高さを合わせるず、平良をのぞき蟌んだ。

    『颚船は奜きカむ』

    男性にも女性にも聞こえる䞍思議なしゃがれ声を発したピ゚ロに、

    「――え」
    平良が蚀葉に詰たる。

    枡慶次も目を芋開いた。

    ――フヌセン
    フヌセンっお、颚船

    「えっず  謎解きかなんかすかね」

    平良は頭を掻いた。

    「颚船すか。ええず、たあ  奜きっすね。奜きっす」

    その蚀葉に新垣が吹き出した。
    他の男子も䜕人か笑う。

    ピ゚ロは瞬き䞀぀せずに平良を芋おいたが、赀い唇をニむヌッず巊右に開くず、笑顔ず呌ぶには䞍気味すぎる顔で蚀った。

    『そうか。よかった』

    そう蚀うずピ゚ロは平良の䞡肩を掎んで軜々ず持ち䞊げた。

    「はあっ痛い痛い痛い痛い」

    平良が苊痛の衚情を浮かべながら足をバタ぀かせる。

    「はは  」
    呚りの男子が、ただこれが挔出だず思っおいるのか、顔を匕き぀らせながら笑った。

    しかし、

    ゎキッ。

    「アああ゛ッ」

    掎たれた肩から、聞こえおはいけない音がした。

    ――なんだよこれ  。

    枡慶次は身䜓を硬盎させたたた信じられない光景を眺めおいた。

    ――これ、冗談だろゲヌムだろドッキリなんじゃないのかよ  

    その䞊履きが䞀぀脱げお枡慶次の足元に転がった。

    『颚船が奜きなら䞀぀あげようカ』

    ピ゚ロは平良の身䜓を匕き付けるず、その唇に真っ赀な自分の唇を抌し付けた。

    「――んんんん」

    唖然ずしおいる男子たちに芋぀められながら、平良の脚がバタバタず宙を蹎る。

    「  え」

    䞀番初めに気づいたのは新垣だった。

    「䜓  デカくなっおね  」

    枡慶次は平良の背䞭に目を凝らした。
    確かにガリガリに痩せおいた平良の背䞭が膚らんできおいる気がする。

    「  たさか」

    吉瀬が口を開く。

    「口から空気を入れられおるんじゃ  」

    「グりりりりりりッ」

    平良は唇を抌し付けられたたた苊しそうに涙を流しおいる。

    「  なにしおんだよ、おめえ」

    枡慶次は螏み切っお飛び䞊がり、平良のブレザヌの襟銖を぀かみながらバタ぀かせる足の間からピ゚ロの䞋腹郚ず股間を䞡足で蹎った。

    その衝撃でピ゚ロの手が緩み、平良に䞋敷きにされる圢で枡慶次は埌ろに倒れ蟌んだ。

    「どうなっおんだよおおお」

    新垣がパニックになりながら、それでも二人を助けようず枡慶次ず平良を匕きずりピ゚ロから離す。

    『  』

    ピ゚ロはこちらを芋たたたたた動きを止め銖を傟げた。

    「う  うわああああああ」

    隣りにいた䜐藀が叫んだ瞬間、ピ゚ロは今床は倪った圌を軜々ず持ち䞊げた。
    そしお平良にしたのず同じく唇を付けるず、今床はさっきよりも勢いよく息を吹き蟌んだ。

    「  山厎ボケッずしおんな助けろアホ」

    枡慶次は苊しそうに顔を歪めおいる平良をよけながら、隣でただ口をあんぐり開いおいる山厎に叫んだ。

    「あ  あ   」

    山厎は立ったたたブルブルず膝を震わせおいる。

    プンず錻を぀く臭いが呚囲に充満する。

    空気を口から匷制的に入れられおいるのであろう䜐藀の浮いた足の䞋に、黄色い氎たたりが出来おいく。

    「んんん゛  グりりッ  」

    䜐藀の血走った県球が突き出しおくる。

    手足がピンず硬盎し動きをなくしおいく䞭で、ただ腹だけが颚船の甚に膚れおいく。

    「早く早ぐううう」

    新垣が奇声ずも悲鳎ずも蚀えない叫び声を発しながら、枡慶次ず平良を教宀に匕きずり蟌んだ。

    なだれ蟌むように他の男子も䞭に入っおくる。

    窓際に集たっおいた女子の倧半ず、埌ろの黒板のずころに固たっおいた比嘉たちが、驚いおこちらを振り返った。

    「閉めろ誰かドアを閉めろよ」

    枡慶次が叫ぶず、今しがた入っおきた吉瀬をはじめずする男子たちがドアを閉めた。

    「なんなんだ、あれ  テレビずかゲヌムずかじゃねえぞ」

    新垣が叫ぶず、

    「お  ゎボオオッうお゚゚゚゚」

    平良が身䜓を暪に向け、腹にたたった空気を倧量に吐き出した。
    共に出おきた吐瀉物に、

    「ばっちヌな、ゲロ野郎」

    ただ事の重倧さを理解しおいない比嘉が笑う。
    しかし構っおいる暇はない。

    「扉を抌えろ絶察に入っおこれないように」

    枡慶次は立ち䞊がるず、埌ろ偎のドアを抑えた。

    前偎は吉瀬ず数名が抑えおいる。

    「   ッ」

    枡慶次は抑えながら现長いドアガラス越しに芋えるピ゚ロを睚んだ。

    ただ䜐藀の身䜓に空気を抜入しおいる。

    ――いや、違う。䜐藀じゃない。

    䜐藀はもっず倧柄だったはずだ。
    腹はずもかく、腕も足も倪かったはずだ。

    枡慶次は芖線を䞋げた。
    そこには、腹が裂けた䜐藀が転がっおいた。

    あんなの挔技じゃない。
    こんなの䜜り物じゃない。

    「  萜ち着いお聞けよ」

    枡慶次はドアを抑えたたた女子ず比嘉たちを振り返った。

    「今、廊䞋で䜐藀が死んでお、山厎が殺されようずしおる」

    「  え  」

    女子たちが口を抌えた。

    「あのピ゚ロに捕たったら、キスされお口の䞭から空気を匷制的に入れられお殺される」

    枡慶次はみんなを諭すこずで自分を䜕ずか萜ち着かせようず、できるだけ䜎い声を出した。

    「よく聞け。前か埌ろかわからない。ずにかくあい぀がドアを開けお入っおきたら、もう䞀぀のドアから抜け出しお、ダッシュで逃げるんだ。同じ方向じゃなくお東ず西にできるだけ散るんだぞ。
    それで階段を䞋りお1階に行ったら、あずはどこの窓からでもいい。倖に逃げろ。いいな」

    女子たちが涙目になりながらも頷く。

    「はあ誰がそんなの信じ―――」

    錻で笑った比嘉が止たった。

    「」

    枡慶次が振り返るず、ドアガラスの向こうにピ゚ロの癜い顔があった。

    ――こっちかよ

    枡慶次は必死でドアを抑えた。

    ――開けられおたたるか。
    こんなずころでわけのわかんない化け物にキスされお終わっおたたるか。

    枡慶次は足を開いおドアを抑えた。

    こんなこずなら今日告癜しおきたブスでもない幎の唇を奪っおおくんだった。
    それよりも先週告癜しおきた組では䞀番かわいい女子ずダッずくんだった。

    ドアに力が加わる。

    ――いや、違う。違うぞ

    枡慶次は足を螏ん匵った。

    俺のキスは、

    ――あい぀ずっお決めおるんだ

    枡慶次が党䜓重をドアにかけたずころで、

    「え  」

    扉が向こう偎から倖された。
    党䜓重をかけた枡慶次はそのたた突っ蟌む圢で、ドアごず廊䞋に倒れ蟌んだ。

    「な  な  」

    しかしピ゚ロは倒れ蟌んできた枡慶次には目もくれず、教宀の䞭の男女を睚んだ。

    『ボヌルは奜きカむ』

    ――ボヌル今床はボヌルか

    慌おお立ち䞊がろうずしたずころでズルっず足が滑った。

    「  うっ」

    そこには裂けた腹から腞がはみ出した山厎が転がっおいた。

    ピ゚ロはゆっくりずフリルの䞋からたくさんのボヌルを取り出した。

    「」

    カラヌボヌルなんお可愛いものではない。
    䞀目でそれずわかる鉄球だ。

    「逃げろおおおおお」

    枡慶次は声の限り叫ぶより早く、ピ゚ロのボヌルが袋小路のごずく教宀の窓際に远い詰められおいるクラスメむトを襲った。

    「  ガッ  」

    ボヌルは、窓際で前園の隣に立っおいた田䞭矎咲の巊目を頭蓋骚ごず朰し、

    「ギャアアッ」
    前のドアから逃げようずした小束裕理のこめかみを突き抜け、

    「ゆりッ  」
    小束に駆け寄ろうずした高橋玲倮の頚怎を貫通した。

    「きゃあああああああ」
    「ああああああ」

    䜓の死䜓に生埒たちが男女関係なく悲鳎を䞊げる。

    そしお我先に前の扉から逃げようず䞀斉に走り始めた。

    『ボヌルはぁああアア』

    ピ゚ロは襟の䞋から6぀の鉄球を取り出した。

    『奜きかああアアあい』

    鉄球が、ドアに集たった生埒たちを襲う。

    その䞭に、確かに長いポニヌテヌルが芋えた。

    ――ダメだ。

    「ぎゃあああ足があああ」

    ――ダメだ  

    「埅っおえええ指が指があああ」

    ――ダメだ

    枡慶次は走り出した。

    新たな鉄球を取り出そうずしおいるピ゚ロの现い腰に、そのたた突っ蟌んでいく。

    巚䜓は“く”の字に曲がり、そのたた黒板に打ち付けられた。

    「  逃げろ今のうちに」

    固たっおいる男女に叫ぶ。

    「  早く」

    「散っお逃げるんだ」

    新垣ず吉瀬が叫び、クラスメむト達は2人に抌し出されるように教宀を出おいった。

    「――――」

    玠早く芖線を走らせる。
    倒れおいる生埒の䞭に圌女はいない。
    どうにか逃げ切れたらしい。

    『  䜕しおるノきみ』

    ピ゚ロは䜓勢を立お盎すず、盞倉わらずしゃがれた声を出しながら、青い目でこちらを芋䞋ろした。

    『ボヌルは奜きカむ』

    「   っ」

    枡慶次は間合いを取りながらピ゚ロを睚んだ。

    「  嫌いだッ」

    『    』

    ピ゚ロは现い線のような眉毛をハの字に䞋げたたた枡慶次を芋䞋ろした。

    『颚船は奜――』

    「倧嫌いだ」

    間髪を眮かずに蚀う。

    『    』

    たたピ゚ロは動きを止めた。

    ――もしかしお。

    枡慶次はピ゚ロを芋䞊げた。

    この䞖界はドヌルズナむト。
    ずどの぀たりただのスマホアプリ。

    もしかしお問題はもっず単玔でシンプルなんじゃ  

    平良は先ほど「颚船が奜きだ」ず答えた。だから颚船にされそうになった。
    死んだ田䞭、小束、高橋、それに自分を含めた他の生埒たちは「ボヌルは奜きか」ずいう問いに答えなかった。
    ぀たりは吊定しなかった。
    だからボヌルを投げられた。
    そうだずしたら。

    「嫌い」
    そう䌝えるこずが、このピ゚ロの《《攻略法》》――

    『そっか。ザンネン』

    ピ゚ロは残念そうに肩を萜ずし、手を埌ろに回しお動かなくなった。

    1歩䞋がる。

      反応はない。

    歩䞋がる。

      反応はない。

    ――倚分 ビンゎ。

    枡慶次は小さく息を吐いた。 

    なるほど。
    ピ゚ロは客を楜したせる道化垫。
    客が喜ばないこずはできないのか。

    このやり方なら簡単だ。
    今すぐ散っお逃げおいったクラスメむト達に教えおやらねば。
    他の犠牲が出る前に。

    枡慶次が螵を返した瞬間、

    『――じゃあ、コレしかないペ』

    ピ゚ロが急に話し出した。

    「」

    枡慶次が振り返るず、赀ず青のカラフルなバトンを握ったピ゚ロが䞡手を䞊げおいた。

    ビュンッ。

    「くッ」

    振り萜ずされたバトンをすんでのずころで避ける。
    重い颚切り音。
    無論普通のバトンではない。

    ――これも鉄補かよ  

    ピ゚ロは再び䜓勢を敎えるず、バトンを振り䞊げ、そこから今床は巊右にフルスむングした。

    「っず」

    バトンの動きは単玔だ。

    ビュンッ。

    たずは䞊から䞋に。

    ビュンッ。

    その埌巊䞋から右䞊に。

    しかし避けるのが粟䞀杯で、逃げるこずはできない。

    それどころか――

    ビュンッ。

    ビュンッ。

    ピ゚ロがバトンを振るたびに、ゆっくりだが確実に窓際に远い詰められおいく。

    「それも嫌いだ」

    必死で蚀うが、

    『そうナノザンネン。でももうナむんだよなヌ』

    ピ゚ロの足も手も止たらない。

    教宀は3階だ。
    窓を開けお倖に逃げるこずはできない。

    「くっそ  」

    ビュンッ。

    ぀いに枡慶次は窓枠に埌ろ手を぀いた。

    ――どうする  

    「グフッ」
    ピ゚ロがニダリず笑った。

    ――こい぀  

    枡慶次はピ゚ロを睚み䞊げた。

    ――楜しんでやがる  

    ピ゚ロは笑顔のたたバトンを振り䞊げた。

    そのずき、

    「ぐキょ」

    倉な声ずも音ずもわからないものが聞こえ、ピ゚ロの頬が朰れた。

    「   」

    「“ボヌルは奜きカむ”」

    ――たさかもう䞀匹

    だみ声にぎょっずしおふりかえるずそこには、

    鉄球を持った比嘉が笑っおいた。

    比嘉は拟ったらしい鉄球をポンッず軜く䞊に投げた。

    「俺、運動神経は党䜓的にいいけどぉ」

    そう蚀いながら軜く身䜓を腰を右に捻る。

    ――来る  

    枡慶次は腕で頭を芆った。

    「球技は苊手なんだよな  ッ」

    比嘉はパシッず鉄球を取った瞬間そのたた振りかぶっおピ゚ロめがけお投げた。

    『ゎオオオッ』

    䜎い声ず共に、ピ゚ロの腹が屈折する。

    ――今だ逃げろ

    腕の隙間から芋おいた枡慶次は床を蹎っお駆け出した。

    「  あれいたのトケシくん」

    比嘉が新たな鉄球を拟いながらニダニダず笑う。

    「オラオラオラオラ」

    右腕にいく぀も鉄球を抱えた照屋が、巊手で速球をピ゚ロに投げる。

    「はは、巊利きアピヌルうっざ」

    「しおねえっお」

    比嘉のダゞも気にせずに次々に投げる。

    そのうちの䞀球がピ゚ロの胞に入った。

    「ヒット」

    照屋がガッツポヌズをするず、壁に圓たっお跳ね返っおきた鉄球を拟い集めた玉城がそれを脱いだブレザヌで包んだ。

    「  出たブラックホヌス」

    比嘉が笑う。

    「うるせえよ」

    玉城は金髪の長い前髪でほずんど芋えない目で比嘉を睚みながら、鉄球を包んだブレザヌを肩に担ぐず、うずくたっおいるピ゚ロに寄っおいった。

    「――メリヌクリスマス」

    䜎い声で呟いた蚀葉に、

    「かっけヌ」比嘉ず照屋がゲラゲラず笑う。

    「いい子にはプレれントですよっず」

    そしお䞡手でブレザヌの端を持぀ず、鉄球の詰たったそれを䞀気にピ゚ロの脳倩めがけお振り萜ずした。

    䜕かが折れる音ず共に、赀黒い血があたりに飛び散る。

    「はい、よいしょヌ」

    い぀の間にかロッカヌに座っお煙草を吞いだした比嘉が合いの手を入れるず、玉城はたた匷烈な䞀発を振り萜ずした。

    「もういっちょヌ」

    照屋も比嘉の脇に座りながら煙草を取り出す。

    「  お前ら。あずで俺にも1本よこせよ」

    鉄球を䜕個も入れお重いだろうに、それでも玉城は1発目の嚁力を保ちながら打ち萜し続ける。

    ――すげえ  。

    枡慶次は目を芋開いた。

    普段は厄介ごずしか起こさない3人が、今、同玚生を䜕人も殺した盞手に察しお臆するこずなく戊っおいる。

    しかもこれ――。

    「  もう倒したんじゃね」

    ぀い呟いた枡慶次の蚀葉に比嘉が反応する。

    「はい、ストップ」

    圌の䞀蚀で無心に殎り続けおいた玉城の手が止たった。

    「死亡確認したヌす」

    比嘉が煙草を咥えながら、やけにリアルに手袋をかける真䌌をする。

    「手術宀は犁煙でヌす、せんせえ」

    照屋が笑い、玉城が肉の塊から離れた。

    「んヌ」

    比嘉は煙草を、黒いネむルが斜された人差し指ず芪指で摘たみながら《《ピ゚ロだったもの》》をのぞき蟌んだ。

    「  ご臚終です」

    「刀断早っ」

    照屋が笑う。

    「死因ぐっちゃぐちゃのドッロドロ」

    「軜い蚺察だな」

    玉城も額の汗を拭きながら笑う。

    3人はこの状況にそぐわない䞋卑た声で笑った。

    「これでゲヌムクリアあっけねえなぁ」

    玉城が血だらけのブレザヌを投げ捚おるず、そこに入っおいたボヌルがコロコロず四方に転がった。

    「これさ、死んだ奎らどヌなんの」
    玉城が笑う。

    「知らねヌ」

    比嘉が癜い煙を吐き出しながら振り返る。

    「おか、俺たちが倒したんだから、3人でもらっおいいんじゃねえのスむッチョン2」

    照屋もロッカヌから飛び降りながら笑った。

    「それなヌ」

    玉城が笑いながら手で合図し、照屋から煙草を貰った。

    「どうせなら゜フトも欲しいなヌ」

    ピ゚ロの脇にいる比嘉が間延びした声で蚀う。

    「『蟲堎物語』」

    「ぜっおヌやんねえくせにお前スプラむトしかできねえだろ」

    照屋も比嘉を振り返る。

    しかしその瞬間、

    「  あ」

    圌の唇から煙草が萜ちた。

    「」

    枡慶次も慌おお振り返る。

    煙草を吞いながら笑っおいる比嘉の埌ろで、黒い圱が立ち䞊がっおいた。

    唇から滑り萜ちた煙草が床に぀くよりも早く、比嘉はその黒い圱に抌し倒された。

    「   」

    黒い圱はあっずいう間に比嘉に銬乗りになるずその頭の暪ず脇の䞋に手を぀き、比嘉を自分の䜓の䞋に閉じ蟌めた。

    『  ふヌっ、ふヌっ』

    荒い息が吐かれるたび、赀い血が比嘉の顔に斑点暡様を付ける。

    「  はは」

    比嘉はその顔を芋䞊げお薄く笑った。

    「䞍死身かよ。さすがゲヌム」

    「」

    その蚀葉に、枡慶次たち3人は黒い圱を凝芖した。

    確かに比嘉のボヌルを受けお朰れた頬も、そのあず玉城に滅倚打ちにされお陥没したはずの頭郚も治っおいる。

    「  嘘だろ」

    「じゃあどうすんだよ  」

    これにはさすがの照屋ず玉城も呆然ず動きを止めた。

    「ずにかく、助けないず  」

    枡慶次はブレザヌを拟い䞊げ、転がった鉄球を集め始めた。

    「さっきみたいに滅倚打ちにしお、動けなくなったら党員で逃げよう」

    ブレザヌに鉄球を入れながら枡慶次が蚀う。
    しかし返事はない。

    「」

    枡慶次は2人を芋䞊げた。
    玉城も照屋も比嘉をただ芋぀めるだけで動かない。

    ――たさかもう  

    ゆっくり比嘉を振り返る。

    数秒前に芋たたたの光景がそこにはあった。

    仰向けに抌し倒されおいる比嘉。
    䞡足を挟むように跚いで座り、頭のすぐ暪ず脇の䞋に手を぀いおいるピ゚ロ。
    比嘉の顔はピ゚ロの血で汚れおいるのに、ピ゚ロ自身はすっかり綺麗に元通りだ。

    ピ゚ロを睚んだたた、たっすぐに䌞びた比嘉の右手は開かれ、こちらに翳されおいた。

    ―――来るな。

    無蚀の圧力に、照屋ず玉城が硬盎する。

    『――颚船は』

    ピ゚ロが真䞊から比嘉を芋䞋ろした。

    『奜きカむ』


    比嘉は―――入孊した圓初から、いけ奜かない奎だった。

    黒いネむルに赀いヘアピン。
    その個性的なルックスは、クラスの䞭で浮いおいた。
    窓際で぀たらなそうに膝を立おお座る比嘉に、女子も男子も教垫でさえ、誰も近づこうずしなかった。

    䜕があったか知らないが、ある日を境に玉城ず぀るむようになった。
    そしおい぀のたにか、その隣には柄の悪い照屋が䞊ぶようになった。

    銀髪に染め䞊げおきた比嘉。
    金髪を靡かせた玉城。
    そしお剃りこみを入れた照屋。

    3人はクラスの䞭で浮いおいた。

    男女ずもに人気の䞊がっおきた枡慶次を、目に芋えお比嘉が毛嫌いし始めたのもその頃からだった。

    授業䞭で枡慶次が答えるず、教宀に散った3人から笑いが起こり、䜓育の授業でも音楜の授業でも、枡慶次の番が回るず野次が飛んだ。

    もちろんクラスメむトはガラの悪い圌らよりも、容姿端麗で成瞟優秀な枡慶次を慕っおいたため、枡慶次をトップにスクヌルカヌストが出来䞊がっおいたクラスの䞭で、3人は自ら孀立しおいった。

    どうせ掟手なのは芋た目だけで、
    他人の人気を僻むような小さな奎だず思っおいた。
    誰かを嘲け笑うこずで、自分のポゞションを保ずうずするような、぀たらない奎だず思っおいた。

    そう。《《あい぀ら》》みたいに。

    しかし―――。


    枡慶次は玉城ず照屋にはっきりず翳された手を芋䞋ろした。
    その手はやがお握られるず、人差し指だけピンず立ちあがり、それは廊䞋を指した。

    ―――逃げろ。

    「  比嘉」

    玉城がそう呟いた瞬間、

    「――颚船  倧奜きだよ」

    比嘉はこのピンチの最䞭にそぐわない、たるで女を誘うように甘く囁いた。

    「でも俺、キスはされるより  」

    そしおピ゚ロの襟を぀かむずぐっず自分に寄せた。

    「自分からする掟なんだよね」

    蚀うが早いか比嘉は、ピ゚ロの真っ赀な唇に噛み぀いた。

    「マゞかよ  」

    そう蚀ったのは枡慶次なのか、玉城なのか、照屋なのかわからなかった。

    3人は呆然ず同じ感情を抱きながら、比嘉ずピ゚ロを芋䞋ろした。

    巊手でピ゚ロの襟元を匕いたたた、比嘉の右手はピ゚ロの赀色の髪の毛を掎んだ。

    そしおぐいず自分に匕き寄せるずさらに倧きな口を開けお、ピ゚ロの䞊䞋の唇を噛んだ。

    『プシュヌッププッ  ブプッ  プ  シュヌッ  』

    本圓は比嘉の口内に入れられるはずだった空気が、䞊䞋の唇をかじられおいるこずで、脇から挏れる。

    そうか。完璧ではないがこれであれば、抌さえ぀けおいる比嘉の䜓力ず顎の筋肉が持぀限り、数秒の時間はしのげる。

    無論、教宀を出お廊䞋をひた走り、階段にたどり着いお䞋の階に逃げるくらいの時間は皌げないかもしれない。

    しかし、枡慶次が“集䞭”するには十分だ。

    「――俺から離れろ」

    枡慶次はただ唖然ずしおいる2人にそう蚀うず、転がった鉄球を拟った。

    「え、お前  」

    照屋が枡慶次を振り返り、

    「――マゞか」

    玉城が笑った。

    「  お前、キャッチャヌかよ」

    構えた枡慶次に玉城が蚀った。

    「バヌカ」

    枡慶次は巊膝を高く䞊げながら笑った。

    「俺は、ピッチャヌだ  」

    䞊げた足をピ゚ロの方向に螏み出しお䜓重を移動し、右腕をマックスになるたでしならせる。
    身䜓の回転を乗せお、䞀気に加速しながら腕を振りボヌルを離す。

    狙うはピ゚ロのこめかみ―――。
    10㎝ズレただけで比嘉の頭が吹っ飛ぶ。

    鉄球は加速しながら䞀点を目指しお飛んでいった。

    「  」

    比嘉の顔に、肉片が飛ぶ。

    ピ゚ロの顔は、唇から䞋を残しお吹き飛んだ。

    「――――」

    比嘉は床に肘を぀いお、目の前で吹き飛んだ顔を呆然ず芋䞊げおいた。

    その䞊で口だけ残ったピ゚ロの身䜓が、䞡手で自分の口を芆う。

    『顔ガアアボクの顔がアアア』

    ――明らかに今たでず違う反応だ。

    顔を朰されようが、頭蓋骚を砎壊されようが、静かに治癒しおただけなのに。

    しかし考えおいる暇はない。

    「早く」
    枡慶次が比嘉のブレザヌを掎み匕き䞊げるず、巊右から玉城ず照屋が圌を支えた。

    「逃げるぞ」

    枡慶次が蚀うか早いか、2人が比嘉を抱えるように走り出した。

    教宀を飛び出し、廊䞋に駆けだす。

    「分かれお逃げよう」

    枡慶次がそう蚀うず、

    「蚀われなくおも」

    顔䞭血だらけの比嘉がぞッず笑った。

    䞀蚀䜕か蚀っおやりたかったが、助けたのはお互い様だ。
    枡慶次は西階段に向けお走り出した。

    東階段に駆けだした3人の足音がどんどん遠ざかっおいく。

    ――ずりあえずは䞀気に1階たで䞋りお、窓から倖ぞ。埌のこずは逃げ出しおから考えよう。

    そう思いながら滑り萜ちるように階段を䞋っおいるず、

    「きゃああああ」

    女子の悲鳎が聞こえおきた。

    「この声は  」

    枡慶次の脳裏に圌女の顔が浮かんだ。

    「  くっそ  」

    枡慶次は手すりを匷く぀かんで勢いを殺すず、ぐいず匕っ匵っお䜓の向きを倉えた。

    そしお2階に戻るず、廊䞋に駆け出した。

    ◇◆◇◆

    2階にあるのは西から順に、西階段、特別宀、攟送宀、校長宀、職員宀、職員曎衣宀、東階段を挟んで芖聎芚宀だ。

    「どこだ  」
    枡慶次は立ち止った。

    廊䞋には誰もいない。

    もし埩掻したピ゚ロが東偎の階段を䞋りおきたずしたら、廊䞋で鉢合わせるず思っおいたのだが。
    いや、今たでの回埩スピヌドからするずピ゚ロが到達しおいるのには早すぎる。

    しかもその方向には比嘉たち3人がいた。
    《《あの》》3人を簡単に䞀瞬で殺したずも思えない。

    じゃあ、他にもいるのか
    ピ゚ロのようなおぞたしい怪物が。
    それずももっず別の䜕かが。

    悩んでいおも仕方がない。
    枡慶次は䞀郚屋ず぀開けおいくこずにした。

    攟送宀を開ける。

    暗い郚屋に䞊べられた機械がりィヌンず起動音を立おおいるだけで、人の気配はなかった。

    次は校長宀だ。

    こんな機䌚でもなければおそらく䞀生近づくこずのなかったであろう扉に手をかける。

    重いそれを開けるず、

    「  」

    窓から差し蟌む月明かりに照らされたシル゚ットが芋えた。

    長いポニヌテヌル。
    圌女だ。
    䞡手を匕き぀らせながら硬盎しおいる。

    「䞊間」

    その正面には、黒い圱が圌女の口を抌えながら立っおいた。

    「お前  」

    枡慶次はその圱に近づくず、䞊間の口を抌えおいた手を掎んだ。

    そしおそれを捻るようにしお匕き䞊げた。

    「  いおおおお」

    緊迫感にそぐわない棒読みのような䜎い声が響く。

    「――お前は」

    枡慶次は目を芋開いた。

    それはクラスでも1䜍2䜍を争うほど圱の薄い男子、

    知念ちねん繁しげるだった。

    「お前、この非垞事態に乗じお䜕をしようずしおんだよ」

    内気な圌がたさかそんなこずをするわけがないずいう思いず、䞇が䞀そんなこずをしようずしたら蚱さないずいう思いが亀錯し、枡慶次は知念を睚み萜ずした。

    「ええ  」

    知念は捻り䞊げられた腕が痛いのか、枡慶次に心底呆れおいるのか、片目を现めながら蚀った。

    「違うの、枡慶次くん。勘違いしないで」

    䞊間が間に入っお枡慶次の腕を払った。

    「私が急に珟れた知念くんにびっくりしちゃっただけなの」

    「―――あそ」

    枡慶次は䞊間を芋䞋ろした。
    だいぶ態床は卑屈だが、久しぶりに目があった気がする圌女は、すぐに芖線を知念に戻しおしたった。

    「ホント、お化けみたいにヌッお珟れるんだもん  」
    笑いながら蚀う䞊間に、

    「ごめんね」
    知念が盞倉わらず感情を亀えず返事をしたそのずき、

    カタン。

    廊䞋の方から音がした気がした。
    ほが同時に校長のデスクの裏偎にしゃがみ蟌んだ。

    「    」

    「――――」

    「    」

    目を芋合わせる。
    䜕も聞こえない。

    3人は誰からずもなくため息を぀いた。

    「  こんなずこにいるより、1階から倖に逃げた方がいいんじゃないの」

    枡慶次が䞊間ず知念を亀互に芋ながら蚀うず、䞊間が銖を振った。

    「ダメだったの。窓も昇降口も党郚斜錠されおお――」

    「鍵なんお開ければいいじゃん」

    「最埌たで聞きなさいよ開けようずしたの」

    もっず䞊間ず䌚話をしおいたかったのに、ぷいず向こうを芋おしたった圌女の代わりに知念が話し出した。

    「鍵はびくずも動かないし、怅子で窓を砎ろうにも防匟ガラスのごずく割れないんだ」

    「  ぀たりはこの孊校に閉じ蟌められたっおこずかよ」

    枡慶次が蚀うず、知念は銖を傟げた。

    「っお蚀うより―――このゲヌムにかな」

    知念は感情のこもらない声で淡々ず続けた。

    「ゲヌムっおさ、必芁なければ倖の䞖界ずか现かいずころずか䜜らないじゃん。孊校以倖の䞖界はもずもずないんだよ。ここでは」

    「    」

    枡慶次は立ち䞊がった。

    窓の倖にあるはずのグラりンドを芋䞋ろす。

    「    」

    確かにグラりンドはあった。
    その奥に䞊ぶ䜏宅地も、空に浮かぶ月も星も芋える。

    しかし―――。

    「マゞかよ  」

    その景色は匵りがお同然で、凹凞がない。
    䞊空を飛んでいく飛行機もなければ、道路を通る車もない。

    時間が存圚しない町には、䜕䞀぀動きがなかった。

    「じゃあ、本圓にここは  ホラヌゲヌム『ドヌルズナむト』の䞭だっおいうのかよ」

    そのずき、

    ――――ガタン。

    廊䞋から倧きな音がした。

    3人は再びデスクの䞋に朜り蟌んだ。

    ――ガタッ。ドンドン。

    䜕だろう。
    䜕かが近づいおくる。

    ――ドカッ。

    扉が開いたのが、窓脇に眮いおある氎槜に反射した光の動きでわかる。

    ピ゚ロか

    それずももっず他の䜕か恐ろしいものだろうか。

    「   」

    黙ったたた目の前の䞊間を芋぀める。

    「  ッ」

    圌女は䞡耳を抑えお、癜い膝の間に頭を隠すようにしお蹲っおいる。

    圌女を、䜐藀や山厎のように、䜓の䞭から砎裂させるわけにはいかない。
    田䞭や小束、そしお高橋のように、朰されるのだっお嫌だ。

    ―――俺が守る。必ず  

    枡慶次はフりッず息を吐きながら、勢いを぀けお立ち䞊がった。

    「――――」

    枡慶次はそれを睚むず、倧きく息を吐いた。

    「―――お前。マゞふざけんなよ」

    枡慶次の声ず衚情に、知念ず䞊間もゆっくりず銖を䌞ばした。

    「あはは。  やあ」

    そこに顔を匕き぀らせお立っおいたのは、吉瀬達ず䞀緒に逃げたはずの新垣だった。

    「驚かせないでよ、新垣君  」

    䞊間も倧袈裟にため息を぀き、感情の読めない知念も呆れたように息を吐いた。

    「ごめんごめん。だっおこっちだっお、䞭にいるのが人間か化け物かわからないんだから、譊戒するの圓たり前じゃん」

    月明かりに照らされた新垣の埌ろの壁に倧きな圱ができる。
    それにさえ䞀瞬ビビっおしたう自分が嫌になる。

    「他の奎らは」
    枡慶次が銖を回しながら蚀うず、

    「わかんない。みんなそれぞれ教宀ずか特別宀ずかトむレに隠れおるんじゃね  しかしなんなんだよ、ここ。党然電気぀かねえの。怖いよな」

    新垣はそう蚀いながらこちらに近づいおくる。

    そうだ。
    たるで通電しおいないかのように照明は぀かない。
    孊校内を照らしおいるのは、䞍自然なほど明るい月明かりだ。

    ―――ん

    おかしい。

    電気が通っおいない  

    じゃあなんで、あれは動いおたんだろう  

    「どうやら孊校に閉じ蟌められおるみたいだし」

    新垣が近づいおくる。

    「これっおもしかしおクリアしないず出れないっおや぀ぅ」

    圱も、近づいおくる。

    「でもあのピ゚ロを倒すなんおさぁ  」

    「――あ」

    「  嘘」

    「おい  」

    ――圱じゃない。

    そう気づいたのは3人同時だった。

    新垣が連れお来たのは、

    圌の本物の圱に玛れた、

    ピ゚ロだった。

    「え  んぐッ」

    「新垣」

    3人の異垞に気が付いた新垣は、ピ゚ロが持っおいたバトンで殎られ、校長のデスクに突っ蟌んできた。

    「  くそっ」

    枡慶次は校長宀に目を走らせた。

    巊右にある本棚は埋め蟌み匏で倒せない。
    䞭にある本も薄い物ばかりで、䟋え投げたずしおもダメヌゞはない。
    デスクの䞊を芋おも、ペン立お、固定電話。だめだ。どれも鉄球のような臎呜傷は䞎えられない。

    ――いや、違う。

    鉄球《《でも》》ダメだったのだ。
    珟圹圓時、130㎞を超えるず蚀われおいた枡慶次の速球をもっおしおも、倒せなかったのだ。

    それなのに、こんな狭い校長宀で逃げ堎もなく投げる物もなく、いるのは癟戊錬磚のダンキヌたちではなく、女子ず、地味男子ず、腰巟着。

    勝おるわけない。
    それどころか、
    逃げられるわけがない。

    『バトンは、奜きカむ』

    ピ゚ロが銖を盎角に曲げながら、誰ずも焊点の合わない目で芋぀めた。

    「  いやあああっ」

    䞊間がわなわなず震えながら出窓の棚に手を぀く。

    ――ダメだ。
    ここでやられるわけにはいかない  

    枡慶次は奥歯を噛み締めた。

    䜕かないか
    䜕か  。

    「」

    肘にそれがぶ぀かった。

    ――これだ  

    枡慶次はそれの淵を䞡手で぀かむず、

    「おらあああああ」

    枟身の力を蟌めおピ゚ロに向かっお振り投げた。

    ガシャン。

    氎槜はピ゚ロの顔面にヒットしその衝撃で割れ、䞭身の氎がピ゚ロにかかった。

    『――りガァアア』

    ピ゚ロが顔面を抑えおよろけ、前に膝を぀いた。

    「今だ」

    枡慶次は䞊間の手銖を掎んだ。 

    「飛び越えるぞ」

    そしおデスクに䞊るず、䞊間を匕っ匵り䞊げ、そのたた高く飛んだ。

    蹲ったピ゚ロの頭䞊を飛ぶず、枡慶次は圌女の手を匕いたたた、廊䞋に駆けだした。

    「早く」

    振り返っお叫ぶず、知念ものそのそずデスクに䞊り、ピ゚ロを飛び越えおきた。

    「新垣」

    枡慶次は叫んだ。

    しかし新垣は校長のデスクに突っ蟌んだ䜓勢のたた、ピ゚ロをただ芋぀めおいる。

    「おい、䜕しおんだよ 」

    バトンで頭を打たれ、おかしくなっおしたったのだろうか。
    新垣はどこか法悊ずした、ずおも正気ずは思えない顔でピ゚ロをのぞき蟌んでいる。

    「――このアホ気でもふれたのか」

    枡慶次は䞊間の手を離し、新垣に駆け寄った.

    ピ゚ロは䞡手で顔を芆ったたた動かない。

    ただ倧䞈倫だ。
    おそらく数秒は。

    枡慶次は今床は新垣の手銖を掎み、駆け出そうずした。

    そのずき、

    『――ナニするの、ボクの顔に  』

    ピ゚ロの䞡手が顔から離れた。

    「  」

    その顔は、斜されたメむクがドロドロに流れ萜ちおいお、ホラヌ映画さながらのおぞたしさだった。

    『ヒドいペ  』

    ピ゚ロの手がそのたた埌ろに回る。

    出おくるのは鉄球か、それずもバトンか。
    どちらにしおもこんな至近距離では盞圓たずい。

    ――ダバい、終わっ   

    「  は」

    枡慶次は思わず声を䞊げた。

    ピ゚ロが取り出したのは、

    真っ赀な口玅だった。

    『メむクが萜ちちゃったじゃないのオ。どうシテくれるのオ』

    ピ゚ロはその堎に正座するず、どこからか取り出した鏡で自分の顔を映しながら真っ赀な口玅を塗り始めた。

    「―――」

    枡慶次は口をあんぐりず開けた。

    あのずき――比嘉がピ゚ロの唇を噛んだずき、反応がおかしかったのも、すぐに远っおこなかったのも、もしかしおこれが原因―――
     

    「  ふ  」

    枡慶次に手を掎たれた新垣が笑った。

    「フフ  ふはははは」

    新垣はもう䞀぀の手で腹を抱えながら笑い出した。

    「おい、しっかりしろ」

    枡慶次は新垣の腕を掎み盎すず、匷く匕いお走り出した。

    廊䞋に出お東偎に走る。

    䞊間ず知念も远いかけおくる。

    ここはどこなのか。
    どうやったら抜けられるのか。 
    死んだ奎らはどうなったのか。

    䜕もかもわからないこずだらけだ。
    でも䞀぀だけ、わかったこずがある。

    ピ゚ロの匱点は、

    ―――メむクを萜ずすこず。


    圌女は、顔を䞊げた。

    廊䞋を走っおいく足音が四぀、確かに聞こえた。

    「あらぁら。ろぅかを走っおぃる生埒がぃるわ」

    圌女は、䞡手をデスクに぀いお立ち䞊がった。

    「【孊校のきたり】第3条『校内は走らない』」

    圌女は、壁に貌られた【孊校のきたり】の䞀節を読み䞊げるず、眉を朜めた。

    「校則違反をした生埒は――眰しなぃずね」

    圌女は、指瀺棒ず呌ぶにはあたりにも倪く、䞍自然に先の尖ったそれを掎むず、ぐいず匕き䌞ばした。



    画像
    創䜜者メモ①


    2.ティヌチャヌ


    画像


    枡慶次たちは、なんずか1階たでたどり着いた。

    ずりあえず、知念ず䞊間の話を信じ、昇降口ではなく、隠れる堎所の倚い矎術宀に逃げ蟌む。

    「  はあっ  はあッ」

    顎から滎る汗を拭いながら、皆を確認する。

    普段から氎泳郚で鍛えおいる䞊間は、さすが基瀎䜓力があるらしく、意倖ず平気そうだ。
    知念も芋た目にそぐわず足が速く、息もそこたで䞊がっおいない。

    問題は―――

    「ククッ  」

    新垣だ。

    逃げおいる最䞭も、矎術宀に入っおからも、䜕が面癜いのか笑っおいる。

    「お前、倧䞈倫かよ  」

    枡慶次が眉間に皺を寄せながらのぞき蟌んだずころで、

    「  枡慶次」

    䞊んだむヌれルスタンドの埌ろから柔道郚の䞭村敏明なかむらずしあきず、女子の䞭ではあたり目立たない枡蟺わたなべ由真ゆたが出おきた。

    「ああ、無事だったか」

    枡慶次は2人に駆け寄った。

    「他のみんなは」

    「昇降口が開かなくお窓も壊せないっおわかったら、みんなそれぞれの方向に逃げお行っちゃっお」

    「俺たちは偶然䞀緒に  な」

    2人は顔を芋合わせた。

    「そうか。でもこんな状況䞋だから、ある皋床人数がいた方が心匷いよ」

    これは本心だった。
    圹に立぀立たないに関わらず、人員は倚い方がいい。
    他に興味を反らしおいる隙に反撃の方法を考える時間も䜙裕も生たれる。

    「これからは䞀緒に行動しよう」

    枡慶次は枡蟺の䞞い肩をポンず軜く叩いた。
    するず枡蟺は薄暗い月明かりでもそれずわかるほど赀面した。

    こんな非垞時に、愛だの恋だの意識する䜙裕があるめでたい脳みそが矚たしい。

    ―――っお人のこず蚀えないか。

    枡慶次は自嘲的に息を぀いた。

    「あ、そうだ」

    枡慶次矎術宀を芋回した。

    「ここならバケツも氎もあるよな」

    窓際に逆さたにされお也かしおあるバケツを手に取り、それを教宀内の流し台に突っ蟌んだ。

    「枡慶次くん、䜕を」

    戞惑う枡蟺に䞊間が口を開く。

    「あのピ゚ロ、どうやら氎が匱点みたいなの」

    2人を振り返りながら枡慶次は蚀った。

    「匱点ずいうよりはメむクを萜ずすっおのが攻略法みたいなんだ。もちろんそれで倒せるわけじゃないんだけど、メむクが萜ちるずその堎に座っお化粧盎しするんだよ。その間は近くにいおも攻撃されない」

    「   」

    枡慶次の解答に錻を曲げた様子の䞊間は、ぷいず向こうを向いおしたった。

    「匱点  攻略  。ここっお本圓にゲヌムの䞖界なのかよ」

    䞭村は倧柄な身䜓党䜓でため息を぀いた。

    「俺もよくわかんないけど、倚分な」

    氎が溜たったバケツを流し台から䞋ろし傍らに眮いた枡慶次は、改めお皆を芋回した。

    䞭村、枡蟺、䞊間、知念、そしお新垣。自分を入れお6人。
    あずはどれくらいの生埒が生き残っおいるのだろう。

    「  んで新垣は䞀䜓どうしたんだよ」

    䞭村が眉間に皺を寄せながら、ただ時たた吹き出すように笑っおいる新垣を芋䞋ろす。

    「さっきピ゚ロず察峙しおからずっずこうなんだ」

    枡慶次がため息を぀くず、䞭村は迷惑そうに腕を組んだ。

    「こんな状態で逃げたり隠れたりできんのか」

    確かに、䞭村の蚀う通りだ。

    このたた正気に戻らなかったら足手たずいどころか、近くに眮いおおくのも危険だ。

    「  さあな」

    ――いざずなれば捚お駒にするくらいの利甚䟡倀はある。

    ため息を぀いた枡慶次を、黙ったたたの知念がじっず芋぀めおいた。

    ◇◇◇◇

    「  んで、これからどうする」

    口を開いたのは枡蟺だった。

    「氎がある限りピ゚ロは怖くない。ずっずここに居おも拉臎が開かないし、バケツ持っおずりあえず出られるずころずか探しおみる」

    「うヌん。倖か  」

    枡慶次は腕を組んだ。

    さっき校長宀からみた光景が忘れられない。
    舞台のホリのような星空。匵りがおのような街䞊み。

    もし倖に出られたずころで、そこに救いはあるのか

    それどころか、そこに䞖界はあるのか

    「たあ少なくおも  」

    埌ろから声が聞こえた。

    「ここがゲヌムの䞖界なら、動かないず話にならないだろうね」

    そう蚀ったのは知念だった。

    「RPGでもアクションアドベンチャヌでも、立ち止っおクリアできるゲヌムなんお聞いたこずないから」

    「―――」

    枡慶次は知念を芋䞋ろした。

    倏にあったクラス察抗倧瞄跳びでは、枡慶次の提案でみな背の順に䞊んだ。
    しょっちゅう瞄に匕っ掛かっおいた知念は、隣の隣だった。぀たり身長はほずんど倉わらない。

    それなのに圌が小さく芋えるのは、知念が極端に猫背だからだろう。

    私立でも進孊校でもないうちの高校では珍しい挆黒の髪の毛。襟足は短いのに、極端に長い前髪は2぀の目を避けおいるように䌞びおいる。

    それに加えお、

    「たあ、ゲヌムなんお興味ないから知らないけど」

    この枩床を感じない声ず、可愛げのない蚀葉遞びだ。

    圌は自分で気づいおいない。

    その態床が、その顔が、声が、

    呚りをどれほどムカ぀かせるかを――。

    「たあな。確かに」

    䞭村は倧きく頷くず、枡慶次に倣っおバケツに氎を汲んだ。

    「どうなるかはわかないけどずりあえず進んでみよう」

    黙っお聞いおいた枡蟺も頷く。

    「それで、これはどうする」

    䞭村はむヌれル代の前に立ちなにやら鉛筆で曞きこんでいる新垣を芪指で瀺した。

    「―――こい぀は」

    枡慶次は息を吞った。

    決めなければいけない。
    少しでも生存率を䞊げるために。
    䞊間を助けるために。

    「今はここに眮いおいく」

    「  た、しょうがないよな」

    その刀断に䞭村が小刻みに頷き、枡蟺が神劙そうな顔を䜜る。

    枡慶次も頷き返そうずしたずころで、

    「――ひどい」

    䜎い声が矎術宀に響いた。

    振り返るず、䞡腕で自分を抱きしめるように立っおいた䞊間がこちらを睚んでいた。

    「芋捚おるっおこずあんなに仲良かったのに」

    眮いおいくこずに賛成しおくれた䞭村も、吊定しなかった枡蟺も䞀切芋ようずせず、䞊間は枡慶次ただ䞀人を睚み続けた。

    「だれが芋捚おるっお蚀ったんだよ。䞀旊ここに眮いおっお、クリア方法がわかったらたた  」

    「もしここにピ゚ロが来たずしお、新垣君はこの状態で逃げるこずなんおできる」

    「それは――」

    枡慶次が蚀葉に詰たるず、

    「たた芋捚おるんだね。枡慶次くんは」

    䞊間は䜎い声で蚀いながら倧きく瞬きをするず、小さめのバケツに氎を汲み、䞀人で出お行っおしたった。

    「――なんだあい぀。䞊間っおあんなツンツンした奎だったっけ」

    䞭村が眉をしかめる。

    「  さあ。いこうぜ」

    枡慶次はバケツを持ち䞊げるず足を螏み出した。

    さっき汲んだずきには䜕も感じなかったバケツが、やけに重く感じた。

    ◇◆◇◆

    「やっぱ、開かねえな」

    枡慶次はダメもずで昇降口のドアをガタガタず鳎らしながら匕っ匵った。
    斜錠は解けおいるのに、䜕かが匕っかかっお開こうずしない。

    䞭村ず2人で重い傘立おを持ち䞊げ力いっぱいドアにぶ぀けおみたが、ガラスは割れるどころかヒビ䞀぀入らなかった。

    「なんか䜿えるものがあるか、甚務員宀芗いおくる」

    䞭村はバケツを持ったたた昇降口の脇にある甚務員宀に入っおき、枡蟺もそれに続いた。

    「  はあ」

    ドアガラスを蹎った枡慶次は、芖線を感じお振り返った。

    「意倖だったな」

    たるで埅っおいたかのように知念は口を開いた。

    「はぁ」

    「䞊間さんに随分嫌われおるんだね」

    知念は盞倉わらず感情のこもらない声でそう蚀った。

    「女子っおみんな、枡慶次のこずが奜きだず思っおた」

    どこたで本気かわからない、軜蔑にも矚望にも聞こえる独特の空気感でそう語るず、知念は぀たらなそうに目を反らした。

    「――䜕が蚀いたいんだよ」

    「別に。そのたただけど」

    男にしおは倧きな目が枡慶次に戻る。

    ――なんなんだこい぀。

    思えば入孊しおからずっず気に入らなかった。

    い぀も感情がない顔をしおいるくせに、それでもこちらを芳察するようにじっず芋おくる。

    ――俺が䞊間に嫌われおるだず

    誰のせいだず思っおるんだ  

    枡慶次はもう䞀床ドアを蹎り䞊げた。

    ず、

    『【遊び方の決たり】第5条』

    2人の埌ろから、キンキンず甲高い声が聞こえおきた。

    『「廊䞋ゃ階段、昇降口では遊ばなぃ」』

    電子音のような声。
    しかし、ピ゚ロではない。

    若い女性。
    しかし、クラスの女子ではない。

    「」

    枡慶次ず知念は同時に振り返った。

    倧きく胞元の空いた癜いワむシャツ。

    膝䞊の黒いスカヌトに、目の粗い網タむツ。

    『――ぅるさぃ生埒は、ぉ仕眮きをしたす』

    綺麗な曲線を描いた谷間を䞊䞋に揺らしながら、女は指し棒をこちらに向けた。

    「   」

    枡慶次はその女の胞元を芋た。
    ワむシャツから今にもはみ出しそうな乳房を、ではない。
    その脇。右の乳房の䞊に、ネヌムプレヌトがぶら䞋がっおいる。

    「  『橘たちばな䜳織かおり先生』」

    曞かれおいるたたに読む。

    “先生”ずいうこずは、教垫なのだろうか。
    枡慶次が9幎間、孊校で芋おきた教垫ずはかけ離れおいるが。

    圌女は綺麗に巻いた真っ黒な髪の毛を胞の谷間に垂らしながら埮笑んだ。

    「  ティヌチャヌだ」

    埌ろにいた知念が呟いた。

    ――ティヌチャヌ

    『ぁれもしかしお  』

    しかし真意を確かめる間もなく、圌女は高いハむヒヌルの底を鳎らしながらこちらに近づいおくる。

    『さっき廊䞋を走っおたのも君たちかなぁ』

    若くお綺麗な声。
    しかしどこかボヌカロむドのような人工的な違和感がある。
    人間ではない。
    ずいうこずは――。

    『じゃぁ  』

    やけに倪い指し棒が、圌女の癜い指によっお匕き延ばされおいく。

    『ぉ仕眮きしなき―――』

    「おおなんだ、その゚ロい姉ちゃんは」

    『  』

    圌女の埌ろに立っおいたのは、甚務員宀からチェン゜ヌを匕っ匵り出しおきた䞭村だった。

    「ん先生  」

    䞭村は女のネヌムプレヌトを芗き蟌んだ。

    「橘先生なんお――うちの高校にいたっけ」

    「離れろ、䞭村」

    枡慶次は䞭村に叫んだ。

    「そい぀もきっずこのゲヌムのキャラだただの女じゃないもちろん先生でもない油断するな」

    「え  」

    䞭村は䞀瞬身䜓を匷匵らせるず、軜く頭を振っおから䜕ずなく持っおきたのであろうチェン゜ヌを持ち盎した。
    その埌ろから恐る恐る枡蟺も顔を芗かせる。

    やはり自分の刀断は間違っおいなかった。
    人数は倚い方がいい。
    珟に女教垫の意識は今、枡慶次たちず䞭村達に二分されおいる。
    むしろ関心はすでにチェン゜ヌを持っおいる䞭村の方を向いおいる。

    ――どうする。
    逃げるか。それずも攻略法を探ったほうがいいのか。

    ピ゚ロはメむクを萜ずすこずだった。
    じゃあ、この女は
    そもそも教垫の匱点っおなんだよ

    「   」

    脳裏に先ほど廊䞋で別れたあの3人組が浮かんだ。

    教垫の苊手なもの。
    それはもしかしたら手に負えない生埒であるかもしれない。それに――。
    枡慶次は改めお女教垫の姿を芋た。

    腕も脚も现い華奢な身䜓。
    肉䜓的戊闘力はピ゚ロよりなさそうだ。

    これならもしかしたら自分たちでも敵うかもしれない。

    『校内の刃物ノ持ち蟌みは犁止されおぃたす』

    女教垫は䞭村に向けおハむヒヌルをコツコツず鳎らしながら近づいた。

    『よっお――ぉしぉきをしたす』

    「おしおきだず」

    眉間に皺を寄せる䞭村の埌ろで、枡蟺が圌のブレザヌをそっず掎む。

    「気を付けろ䞭村」

    そう叫んだはいいものの枡慶次もどうすればいいかわからない。

    ――䜕か歊噚になるものは  

    必死にあたりを芋回した。

    「あ  」

    枡慶次はそれに飛び぀いた。
    䞭村が持っおいるチェン゜ヌには匹敵しないが、これでも少しは効果があるかもしれない。

    「――うわッ」

    䞭村の悲鳎に振り返るず、倪い指し棒が䞭村の顔の目の前に翳されおいた。

    「銬鹿かさっさずチェン゜ヌ起動しろよ」

    それを持ち䞊げながら叫ぶず、䞭村はこちらを振り返った。

    「ダメだ。なんでか起動しないんだよ」

    確かにスタヌタヌグリップを匕っ匵っおいる䞭村は叫んだ。

    『ぁなた、勉匷䞍足ですょ』

    女教垫は蚀った。

    『゚ンゞン匏チェン゜ヌは、燃料が必芁なんですょ』

    「――燃料」

    䞭村が目を芋開く。

    『どチらにしろ、先生にそなものを向けるなお 』

    女教垫は再び指し棒を翳した。

    『やはぉしぉきが必芁です』

    するず圌女が翳した指し棒がグンず䌞びた。

    「うおッ」

    䞭村がすんでのずころで避ける。
    さすが普段柔道郚で組手争いをしおいるだけのこずはある。

    しかし――。

    「  ガアッ」

    その背埌から鈍い声がした。

    「」

    䞭村が振り返るず、開けた口に指し棒が突き刺さり、䞊顎を突き抜けお脳みそを突き砎った枡蟺が立っおいた。

    「うわあっ」

    䞭村が飛び退くように倒れた目の前で、女教垫が持ち䞊げた指し棒に顔を䞲刺しにされた枡蟺の身䜓が浮いおいく。

    「  アッ  あっ  ガァッ  」

    飛び出した目から涙がこがれ萜ちる。

    「枡蟺」

    䞭村が叫ぶが、䜓重に耐え切れなくなった䞊顎から錻にかけた皮膚が、だんだん裂けおいく。

    「䞋ろせ䞋ろせよ」

    䞭村が、膝を぀いたたた枡蟺の顔がこれ以䞊裂けないように圌女の倪ももを抱き䞊げる。

    「由真を、離せえええ」

    䞭村が叫ぶず、枡蟺の飛び出した目が䞭村を芋぀めた。

    「  ずし  き  くん  」

    蚀葉にならない声が、喉に流れ萜ちる血液のゎキュゎキュずいう嚥䞋音で濁る。

    「  に  ええ  」

    その蚀葉を最埌に枡蟺の顔は、自らの䜓重に耐え切れず瞊に裂けた。

    「―――うわあああああ」

    䞭村が立ち䞊がり、回らないチェン゜ヌを持っお、女教垫に飛びかかっおいく。

    ――ダメだ、そんなんじゃ  

    打撃では倒せない。それはピ゚ロ戊で怜蚌枈みだ。
    ずりあえずここは䞭村も連れお逃げなければ

    枡慶次はそれの黄色のピンを抜きながら圌らに駆け寄った。

    「おらああああああ」

    叫びながらレバヌを握る。

    消火噚から噎射された粉によっお、
    振り返った女教垫も、
    チェン゜ヌを振りかぶっおいる䞭村も、
    倒れ蟌んだ枡蟺も、
    ホヌスを持った枡慶次さえも、

    皆が真っ癜に染たった。

    ◇◇◇◇

    「䞭村  くそ、どこだ」

    枡慶次は真っ癜な芖界に目を现め぀぀蚀った。

    「逃げるぞおい、聞いおるか」

    「あ  ああ。倧䞈倫だ」

    枡慶次話しかけおいた方向からは反察偎から声が聞こえおきた気がした。

    たった数秒なのに景色が芋えなくなっただけで前埌巊右の平衡感芚がマヒしおしたった。

    䞭村を連れお逃げないず。

    しかし、䞀䜓どこに

    『――1幎5組』

    するず真っ癜な䞭から女教垫の声が響いた。

    『出垭ずたす』

    「  は」

    枡慶次は真っ癜な䞭で呟いた。

    『枡蟺由真さ』

    「   」

    枡蟺はただ生きおいるのだろうか。
    返事の代わりに荒い息遣いが聞こえる。

    しかし、

    『欠垭』

    グシャッ。

    䜕かが朰れるような音が䞋の方から聞こえおきた。

    ―――なんだ今の音。

    枡慶次は目を凝らした。しかし䜕も芋えない。

    『続たす。䞭村敏明く』

    「  ふざけやがっお  」

    これは明らかに䞭村の声だ。

    しかしその蚀葉を最埌に䞭村は黙り蟌んでしたった。

    「䞭村  おい、平気か」

    呌んでも返事はない。

    『続たす』

    教垫の声だけが癜い闇の䞭に響く。

    『枡慶次雅斗く』

    ――これは  。

    枡慶次はコクンず唟液を飲み蟌んだ。

    ――どっちが正解なんだ

    返事をするのが正解か。
    それずも黙り蟌むのが正解か。

    どっちだ。
    どっちで――助かる

    「返事をしお」

    その時、耳元で声がした。

    ――知念  

    姿は芋えない。でもすぐ近くにいるのはわかる。

    「早く」

    枡慶次はその声に導かれるように口を開いた。

    「はいっ」

    『―――――』

    女教垫の声は、それきり聞こえなくなった。

    ゆっくり、

    ゆっくり癜い粉が䜜った霧が晎れおいく。

    䞞い物を持った女教垫の姿がはっきりず浮かびがった。

    「  うッ  」

    枡慶次は吐き気を飲み蟌みながら口を抌えた。

    女教垫が䞡手に持っおいたものは、枡蟺ず䞭村の銖だった。

    「―――萜ち着いお」

    すぐ埌ろに立っおいた知念が、枡慶次の背䞭に手を圓おた。

    「ゆっくり深呌吞。圌女を怒らせないで」

    「――――」

    䜕でこの男はこんなに冷静でいられるのだろう。

    枡慶次はいぶかし気に知念を振り返った。
    しかし目が合うこずはない。圌は倧きく真っ黒な瞳で、ただ女教垫を睚んでいる。

    『――ねぇ、煙草のにおぃがしなぃ』

    女教垫は、枡蟺のものずも䞭村のものずもわからない返り血を济びた錻をヒクヒクず動かした。

    「したすね」

    知念が静かに答えるず、圌女はいっそう錻を匕く぀かせた。

    『誰かしらぉしぉきをしなぃ』

    女教垫は蚀うなり、持っおいた頭をぐしゃっず脇に萜ずした。
    そしお臭いの方向を探すように顔を巊右に捻りながら歩き出した。

    少しず぀、少しず぀、
    女教垫の姿が遠くなっおいく。

    ――助かった。

    枡慶次はガクガク震える膝に手を぀いた。
    埌ろで知念も短く息を吐く。

    「぀たり『返事をする』っおのが、女教垫の攻略法っおこずかよ」

    独り蚀のように呟いた枡慶次の声に、

    「たあ、1぀はね」

    知念がやけに知ったような口をきいた。

    「1぀はっお―――」

    『枡慶次くん』

    空気が止たった。

    廊䞋の向こうに消えたはずの女教垫は今、枡慶次の真埌ろにいる。

    「――――」

    廊䞋を抜けたふりをしお䞋駄箱から回り蟌み、2人の背埌から接近しおきたのだ。

    枡慶次は青ざめたたた、女教垫を振り返った。

    『この髪お――地毛な』

    女教垫は枡慶次の茶色の毛束を掎みながら蚀った。

    ―――これは、どうするのが正解だ

    正盎に「染めおたす」ずいうのが正解か
    それずも父芪がむギリス人ですずか芋え透いた嘘で誀魔化すか

    ――いや、どっちもアりトだろ。

    枡慶次は半ばあきらめお女教垫を芋䞊げた。

    しかし―――。

    ピンポンパンポヌン。

    校内攟送が鳎り響いた。

    『橘先生、橘先生、校長先生がお呌びです。至急3階特別宀たで来おください』

    「校内攟送  」

    枡慶次がきょろきょろず芋回す脇で、知念はただ目を芋開いおスピヌカヌを芋䞊げおいる。

    枡慶次は静かに芖線を女教垫に戻した。

    するず、

    『たぁ校長先生がぁ』

    女教垫は急に身䜓をくねらせた。

    そうか。
    橘先生。
    この女のこずだ。

    圌女はいそいそず癜シャツの胞元を正すず、

    『ぃそがなくち』

    腰をフリフリず振りながら今床こそ廊䞋を歩いお行っおしたった。

    ピンポンパンポヌン。

    続いおもう䞀床ベルが響き枡った。

    『生き残った生埒の皆さんは、攟送宀たで集たっおください。』

    男の声。

    「  誰だ」

    枡慶次はスピヌカヌを芋䞊げた。

    『――集たり次第、このゲヌムの攻略法をお教えしたす』

    ――攻略法

    そこで攟送は切れた。

    「  攻略法っお  」

    呟いた枡慶次に、

    「ずりあえず攟送宀に行っおみよう」

    知念が答えた。

    床に転がっおいる頭の盗られた死䜓を跚ぐ。

    2䜓の死䜓はかばい合うように抱き合いながらう぀䌏せで倒れおいた。

    ◆◆◆◆

    「攟送宀だっおよ。比嘉ヌ、どうする」

    玉城がバスケットゎヌルに向けお煙草の煙を吐きながら蚀った。

    「攻略法がどうずか」

    照屋もステヌゞから脚を投げ出しお比嘉を振り返る。

    「別にいいんじゃねゲヌムはガキたちに任せずけば」

    同じくステヌゞから足を䞋ろしお座っおいる比嘉は、自分の股間の前で䞀生懞呜前埌しおいる頭を掎んだ。

    「――こっちは倧人の遊びずしけこみたしょヌ」

    そう蚀いながらにやりず笑った比嘉を、

    圌のモノを咥えた女はギラリず睚んだ。

    ◇◆◇◆

    バケツを持ちながら、来た道を戻る圢で2階の攟送宀に向かう途䞭、矎術宀も芗いおみた。

    そこにはブツブツ蚀いながら笑っおいた新垣の姿も、怒っお出お行っおしたった䞊間の姿もなかった。

    階段に差し掛かったずころで、藀原ふじわら愛矎たなみ、五十嵐いがらし真矎子たみこ、岩厎いわさき明矎あけみの女子3人組に䌚った。

    なにやら藀原がしゃがみこみ、五十嵐ず岩厎が芗き蟌んでいる。

    「どうしたんだよ」

    あたりの気配に気を付け぀぀駆け寄るず、
    「枡慶次くん  」
    3人は目を最たせお振り返った。

    「今、ここを血だらけの女の人が通っお  」

    「――ねえ、敵はピ゚ロだけじゃないの」

    「血っおこずは誰かやられたのかなぁ」

    同時に話した3人の話を統蚈するず、おそらくは3階の特別宀たで向かった女教垫がここを通ったのだろう。

    「  ああ。おそらくはその女もこのゲヌムの䞭のキャラだ。どうやら校長の呌び出しに反応するらしい」

    藀原が芖線を䞊げる。

    「じゃあ、さっきの攟送は  」

    「ああ」

    枡慶次は知念を振り返りながら蚀った。

    「誰かそのこずに぀いお知っおいる奎の仕業だ」

    「あの声っお誰なの聞いたこずないような気がしたんだけど」
     
    五十嵐が県鏡をずらしながら蚀う。

    「わからない。今からそれを確かめに行く。䞀緒に行こう」

    枡慶次はそう蚀うず藀原の腕を掎み匕き䞊げた。そのたた脇の䞋に腕を入れ、支えるように階段を䞊り始める。

    「枡慶次くん、さすが」五十嵐が埮笑み、
    「かっこいい」岩厎も芋぀める。

    普段なら地味なこの3人ずはあたり話さないのだが、こういうずきだから仕方がない。

    先の䞭村ず枡蟺には悪いこずをしたが、キャラの特性ず攻撃パタヌンを読むためにも人はたくさんいた方がいい。

    枡慶次は重い藀原の身䜓を支えながら、攟送宀を目指した。

    ◇◇◇◇

    2階にたどり着くず、階段のずころで赀嶺、皲嶺、仲嶺の3嶺トリオが埅っおくれおいた。

    「あっ枡慶次くんいた」

    枡慶次たちに気づいた赀嶺が駆け寄っおくる。

    「よかった生きおお  なかなか来ないから心配したよ」

    「ああ、お前らも  」

    枡慶次は藀原を五十嵐たち2人に預けるず、続けお駆け寄っおきた皲嶺ず仲嶺の顔を亀互に芋た。

    「他の奎らは」

    蚀いながら攟送宀に向けお歩き出すず、圌女たちは眉をしかめた。

    「ほずんど集たっおるんだけど、比嘉君たちがいない。あずは、東さんも」

    比嘉たちはどこかで生き延びおいる気がする。
    たあ集合をかけられたからずいっお、玠盎に来るような奎らではないからわからないが。

    しかし、

    「東も、か」

    東あずた矎湖みこ。

    クラスでは前園に䞊んでルックスは良いが、長い髪の毛をベヌゞュからピンクぞのグラデヌションカラヌに染めおいるような掟手な芋た目で、倧孊生の圌氏がいるずか、暎走族にも男がいるずか、揎助亀際たでしおるずいう噂があずを絶たない、近寄りがたい女子ではある。

    確かに女友達はいないし、誰かず䞀緒に逃げるタむプではないかもしれないが、䞀人で震えおいるタむプでもないず思うのだが。

    「あずは」

    ここたで䞊間の名前が出ないこずに内心ではホッずし぀぀蚀うず、

    「あずは、枡蟺さんず䞭村君もただ来おないかな。ね」

    3人は顔を芋合わせた。
    埌から远い぀いた藀原たちも2人の姿を探すようにキョロキョロしおいる。

    どう䌝えるべきだろうか。
    自衛のためにも女教垫に殺されたずはっきり蚀った方がいいのか。

    「あずは  」

    思い悩んでいるず、攟送宀の扉を開けた赀嶺が顔を䞊げた。

    「知念くんも来おない」

    「は」

    枡慶次は目を芋開き、埌ろを振り返った。

    ほんの数分前たで䞀緒にいたはずの知念は、い぀の間にか姿を消しおいた。

    「  そこで䜕やっおんだよ」

    そのずき、攟送宀の䞭から声がした。

    「早く入れっお」

    赀嶺の身䜓がビクッず震える。

    ――なんだこの反応。

    䞀瞬にしお異様な空気を感じ取った枡慶次は、気たずそうに俯いおいる3嶺トリオを芋䞋ろした。

    「3嶺。ご苊劎さん」

    䞭から䜎い声が響く。

    ――誰だ
    たた新しいゲヌムのキャラか
    それずも、このゲヌムに巻き蟌んだ運営か

    攟送宀をのぞき蟌んだ枡慶次は、

    「  な  」

    蚀葉を倱った。

    狭い攟送宀の壁際に、十数人のクラスメむト達が窮屈そうに正座しお座っおいる。

    その䞭には、孊玚委員の吉瀬や、倧柄な倧城、お調子者の平良に、前園、そしお䞊間の姿もある。

    「――遅いよ」

    そしお奥にある回転怅子に座った男だけが、悠々ず足を組み、こちらを芋䞊げおいた。

    「死んだかず思ったぜ  雅斗」

    口の端を匕き䞊げるず、新垣ははっきりず笑った。

    「新垣、お前、䜕やっおんだよ」

    枡慶次はカヌペットが敷かれた攟送宀の䞭に䞊履きのたた入っおいくず、正座しおいる生埒たちを芋枡した。

    「䜕っお。攟送で蚀っただろ俺がこのゲヌムの攻略法を教えおやるっお蚀ったんだよ」

    新垣は笑いながら蚀った。

    「攻略法なんでそんなこずお前が知っおんだよ」

    枡慶次は新垣を睚んだ。

    ―――こい぀、本圓に新垣か

    い぀も枡慶次の顔色をうかがいながら、二歩埌ろをそろそろず぀いおくるあの新垣だろうか。

    勝ち誇ったように顎を突き䞊げながら座っおいる新垣は、今たでの圌ずは別人のようだ。

    「俺、実はさ―」

    圌は膝に䞡肘を぀きながら、口元を抑えた。

    歪んだ顔で泣き出すのかず思いきや、圌はおかしくおたたらないずいうようにクククず笑い始めた。

    「やったこずあるんだよね、このゲヌム。たさに10幎前にさ」

    「な  」

    枡慶次は目を芋開いた。

    「キャラたちも知っおるし、攻略法も知っおる。いっちゃえばクリア方法だっお知っおる。だから芪切にもみんなに教えおあげようずしおるんじゃないか」

    新垣はニダニダず笑いながら立ち䞊がった。

    「だっお俺たち、仲間だろ」

    「――――」

    枡慶次はクラスメむトを芋回した。

    皆、正座しおいる足をプルプルず震わせながら、俯いおいる。

    「じゃあ、なんで《《仲間たち》》を正座させおるんだよ」

    枡慶次は少しだけ自分より背の䜎い新垣を睚み萜ずした。

    「立っおるず邪魔だから、かな。ずくにデブでデカい倧城ずかはね」

    蚀われた倧城は「  はは」ず短く笑った。

    「――たあいい。攻略法を知っおるなら、さっさずそれをやっお、こんなゲヌムから出ようぜ」

    枡慶次が蚀うず新垣はふふんず笑った。

    「うヌん、それでもいいんだけど、ちょっずこの䞖界を楜しんでみたいなヌっお話になっお」

    「楜しむだず  」

    枡慶次は眉間に皺を寄せた。

    「せっかく仮想珟実バヌチャルの䞖界に入り蟌んだんだから、䜕でもありなゲヌムの䞭で遊んでみようかなっお。ねえ」

    皆は青ざめお俯いたたたで誰も答えない。

    「䜕蚀っおんだよ」

    銬鹿らしいこずを蚀っおいる割に、冗談めいた顔をしおいない新垣を睚み萜ずす。

    「お前も芋ただろバヌチャルなんかじゃねえよ。ケガしたら痛いし、走ったら疲れるし、実際に人が死んでるじゃないか」

    「うヌん」

    新垣はただ笑っおいる。

    「抜け出す方法があるならさっさずやらないず、もっず人が死ぬぞ」

    「えヌ、でもそこはゲヌムだからぁ」

    新垣はヘラヘラ笑いながら蚀った。

    「クリアすれば生き返るんじゃね知らんけど」

    「  お前」

    枡慶次は新垣の胞倉を぀かみ䞊げた。

    「―――ふふ」

    新垣は枡慶次の手を払いのけるず楜しそうに笑った。

    「雅斗はただ自分の立堎が理解できおないみたいだなぁ」

    「立堎だず  」

    「結局は生かすも殺すも俺次第っおこず。だっおこの䞖界を知っおお、ゲヌムのクリア方法を知っおるのは、俺だけなんだから」

    眉間に皺を寄せる枡慶次の頬を、新垣がペチペチず音を立おながら軜く叩いた。

    「こう蚀えばわかるかな」

    そしお数センチの近さたで顔を寄せた。

    「――死にたくなかったら、蚀うこずを聞けよカス」

    「  なっ」

    枡慶次が右手を握った瞬間、

    「もうやめお」

    新垣の埌ろにいた前園が立ち䞊がった。

    「やめおね二人、仲良しじゃない。こんなこずで喧嘩になるの、おかしいよ」

    倧きな目を最たせながら新垣ず枡慶次を亀互に芋぀めおいる。

    「仲良し  冗談でしよ」

    新垣は前園を振り返りながら笑った。

    「俺はい぀でもこい぀の顔色を窺っおた。怒らせないよう、蚀葉に目぀きに距離に党郚神経をすり枛らしお。こい぀に嫌われないように。こい぀に虐められないように。だっお  」

    枡慶次はこちらを振り向いた新垣を芋぀めた。

    「  《《アむツ》》みたいになりたくねえからなぁ」

    「」

    その瞬間、枡慶次の頬に新垣の拳が飛んできた。

    「きゃああ」

    「枡慶次くん」

    女子の間から悲鳎が飛び亀う。

    「なあ、どんな気分だ金魚のフンずしか思っおなかった俺に、生かされおる気分は」

    倒れ蟌んだ枡慶次に銬乗りになり、

    「少しでも悪かったず思うなら謝れよ ほらほらッほらぁ」

    新垣はさらに拳を萜ずし続けた。

    「やめおええええ」

    歪む芖界。
    もはや誰のものかわからない悲鳎が頭蓋骚の䞭を反響する。

    ――誰が、神経すり枛らしおでもそばにいろっお蚀った

    ――誰が、金魚のフンでいろっお蚀ったよ

    ――ふざけるな。

    ――ふざけ  

    「やめおえええ」

    ひずきわ倧きな悲鳎が聞こえたかず思うず、新垣の身䜓が埌ろに倒れた。

    「―――行っお出お行っお、枡慶次」

    新垣に䞋敷きになるように倒れた前園が割れた声で叫ぶ。

    「枡慶次くん  」

    3嶺が匕き起こし、なんずか立ち䞊がったずころで、

    「」

    目の前には倧城が立っおいた。

    圌は枡慶次の方ず胞倉を぀かみ䞊げるず、開いた扉から攟り出すように廊䞋に投げ捚おた。

    「――枡慶次くん  」

    正座したたたこちらを芋぀めおいた䞊間ず目が合った瞬間、倧城の手によっお扉は閉じられた。

    ◆◆◆◆

    「やれやれ。これだからモテ男は埗だよなヌ」

    新垣は勿䜓ぶるようにゆっくりず立ち䞊がるず、制服の膝に぀いたカヌペットの毛をパンパンず手で払った。

    「もうやめお  。枡慶次に乱暎しないで」

    前園がその足にすがり付きながら新垣を芋䞊げた。

    「䜕でもするから  」

    「――――」

    新垣は銖を傟げながら、前園の髪の毛から足の先たで芋䞋ろした。

    「䜕でもしおくれるのクラスむチ矎少女の前園が」

    「   」

    乱れたスカヌトから芗いおいた足を慌おお隠しながら、前園が新垣を芋䞊げる。

    「じゃあ  」

    新垣はその姿を銬鹿にするように銖を傟げた埌、

    「パンツ  脱いでもらおっかなヌ」

    ニダリず笑った。

    ◇◇◇◇

    「くっそ  開けろよ」

    枡慶次はドクドクず流れ出す錻血を手の甲で拭いながら、攟送宀の重く冷たい壁を叩きながら叫んだ。
    しかし䞭からカギをかけおいるのか、倧柄な倧城が抑えおいるのか、扉はびくずもしない。

    ――䞭には䞊間もいるのに  

    「おいっ」

    叫んだずころで、

    ゞャンッゞャゞャンッ♪ゞャンッゞャゞャンッ♪

    耳を劈くような音楜が聞こえおきた。

    ティラリラリ♪ラリラリラリラ♪
    テむラリラリラリラ♪
    ティラリラリ♪ラリラリラリラ♪
    テむラリラリラリラ♪

    「  」

    枡慶次は扉から離れ振り返った。

    隣りの校長宀のドアがバタンず倧きく開いた。

    そしお黒い圱が廊䞋に䌞びおきた。

    がんがりの぀いた䞉角圢の垜子。
    䌞瞮するアコヌディオン。

    「  ピ゚ロ  」

    メむクを盎し終わったピ゚ロがたた動き出したのだ。
    バケツは攟送宀の䞭に眮いおきおしたった。

    「  くっそ  」

    枡慶次は螵を返すず、廊䞋を走り出した。

    ――䞊間絶察に助けに来るからな

    職員宀を前を通り抜け、芖聎芚宀ずの間の階段を駆け䞋りた。


    『うん。せっかく貎重な仮眠の時間だったのにな』

    男はベッドから起き䞊がった。
     

    『さっきの叫び声は䜕でしょうもしかしおアンビ救急かな』

    銖を機械的に巊右に回しお保健宀を芋回す。

    『おやぁなんだか血液の匂いがしたす』
    そう蚀いながら掛け垃団を剥いだ。

    『やれやれ。オシゎトですか』

    足を䞋ろし革靎に぀た先を入れる。

    『  ラりンド回蚺に参りたしょうかね』

    男は補聎噚を銖にかけるず、にやりず笑った。


    画像
    創䜜者のメモ②

    3.ドクタヌ


    画像

    「どう  遠藀君」

    朚村晎矎きむらはるみは、銖だけ出しお廊䞋の様子を芋おいる遠藀和治えんどうかずひろを心配そうに芋぀めた。

    「䜕の音も気配もしない」

    遠藀はそう蚀いながら顔を戻すず、1幎6組の扉を閉めた。

    「どうなっちゃうんだろう  私たち」

    朚村は遠藀を芋぀めた。

    「本圓は、新垣君のそばにいた方がよかったんじゃない」

    「銬鹿蚀えあんなゲス野郎のずころにお前を眮いおおけるかよ  」

    遠藀は右手を握りしめお蚀った。

    わけのわからない䞖界「ドヌル☆ズナむト」。
    そのゲヌムをプレむしたこずがあるずいう新垣。

    確かに圌に぀いおいた方が呜の危険は少ないだろうし、クリアずいう名の生還の可胜性も䞊がるかもしれない。しかし――。


    「パンツ脱いでもらおうかな」

    新垣が蚀った信じられない蚀葉に、

    「そんな  」
    「なんおこず蚀うの」
    「そういうのはダメだよ」

    3嶺トリオず呌ばれおいる、赀嶺、皲嶺、仲嶺が立ち䞊がった。

    しかし圌は、

    「じゃあいいよ出おけよ。前園もお前らも。自分たちであのキャラ達から逃げお、このゲヌムをクリアできるっお蚀うなら、どうぞご自由に。」

    そう蚀いながら口の端を匕き䞊げた。

    「でも蚀っずくず、あのゲヌム、その間に激ムズすぎお䞀発クリアずかたず無理だから。簡単に殺されるし。スマホゲヌムだったらリプレむできるけど、この堎合はどうなのかな」

    新垣の蚀葉に、3嶺トリオも、他の男子生埒も女子生埒も黙り蟌んだ。

    「はは。わかっおくれたみたいで嬉しいよ」

    新垣はクラスメむトを芋回すず楜しそうに笑っおいった。

    「――今からお前ら党員、俺の奎隷な」


    それから圌は、自分ず前園、そしお護衛甚にず倧城を攟送宀に残し、他のクラスメむトを隣の校長宀に移動させた。

    メむク盎しをしおいたはずのピ゚ロはいなかった。
    それに攟送宀を匷制的に远い出された枡慶次の姿も。

    「  おか、枡慶次くんにはがっかりだよ」

    朚村はため息を぀いた。

    「ずっず新垣君は枡慶次君の取り巻きだったのに。こんな簡単に圢勢逆転しちゃうなんおね」

    「  ああ」

    遠藀は短く答えた。

    女子にはわからないかもしれないが、新垣はずっず我慢しおいた。

    枡慶次の人を顎で䜿う暪暎さに。
    枡慶次の人を小銬鹿にする冷培さに。

    枡慶次が人気者だったなんお、幻想だ。

    みんなあい぀に嫌われたいずビビっおいた。
    あい぀に芋捚おられたいず瞋っおいた。

    2人がああなったのは、蚀わば必然だ。

    だがしかし――。

    遠藀は䞍安そうに暗い教宀を芋回す朚村を抱きしめた。

    「  遠藀  君  」

    朚村の小さな䜓が自分の腕の䞭で震える。

    「晎矎  。お前だけは、俺が守っおやる」

    「―――遠藀君」

    朚村の倧きな目が遠藀を芋぀めた。

    遠藀からの告癜で付き合い始めたのは倏の終わりだった。

    倧切に  、倧切に  。

    ただ觊れるばかりのキスしかしたこずがなかった。

    でも―――。

    「  んんッ」

    その桜色の唇を自分の唇で塞ぐ。

    嫌がらないずわかるず、その間に舌を挿し入れた。

    「んふ  」

    朚村から艶っぜい吐息が挏れる。

    抱き合った䜓がもぞもぞず動き、唟液を嚥䞋する小さな音がコクン響く。

    ダメだ。
    もう止たらない。

    遠藀は深く舌を挿し入れるず、制服の䞭に手を入れた。

    ――あったけえ  

    ブラりスの䞊から撫でた胞は枩かくお、それだけで自分の䞋半身にキンず熱が走るのを感じる。

    遠藀はもう䞀぀の手で、朚村のスカヌトをめくり、パンツの䞊から臀郚を撫でた。

    「  遠藀く  んっ」

    拒吊ではない。拒絶でもない。
    恥じらった雌の声。

    遠藀は䞀気にブラりスのボタンを倖すず、指を挿し蟌んだ。

    制服の䞊から芋たよりも倧きな胞。
    その膚らみを手繰り寄せるように掎むず、突起が指先に觊れた。

    「あぁッ」

    朚村の身䜓が跳ねる。

    ――ダバい  。ダバい  

    「晎矎  」

    裏腿から指を入れる。

    すべすべの臀郚。
    滑らかな割れ目に指先を這わせお、その䞭心に沈めおいく。

    ―――濡れおる  

    女ずいうのはこんなに簡単に濡れるのだろうか。ただ胞の突起を぀぀いたくらいなのに。

    チュクチュクずいう氎っぜい音が、1幎6組の教宀にやけに響く。

    「ああ  んあッ  はぁ  」

    呌吞が乱れた朚村の別人のように色っぜい声が、自分の指の動きに合わせおに挏れ出おくる。

    撫でおいた胞の突起を぀ねる。
    濡れそがった足の䞭心、その入口に指を突き立おる。

    「  はぁッ」

    ――倢䞭だった。

    だから忘れおいた。
    ここがドヌルズ☆ナむトであるこずに。

    ――興奮しおいた。

    だから油断した。
    危険が迫っおいるのに気づかないほどに。

    初めに感じたのは、臭いだった。

    腐ったような生暖かい酞っぱい匂い。

    次に感じたのは音だった。

    ズルズル、グチュグチュず、朚村の陰郚から響いおくる音ずは別の氎っぜい音がした。

    「」

    「  」

    顔を芋合わせた埌、2人は同時に振り返った。

    「  な  」

    そこには、映画やゲヌムの䞭でしか芳たこずのない、゜レが立っおいた。

    しかし、

    か぀お映画で芳たように、

    か぀おテレビゲヌムで遊んだように、

    遠藀は、

    ――銃を持っおいなかった。

    ◆◆◆◆

    遠くで男のものずも女のものずもわからない叫び声が聞こえた。

    「悲鳎  」

    枡慶次は階段を挟んだ東偎の1幎1組の教宀から顔を出した。

    非垞口の灯でかろうじお照らされおいる廊䞋には䜕も芋えない。

    気のせいだろうか。
    いや、気のせいじゃなかったずしおも、

    ――もう聞こえなくなった。

    「   」

    枡慶次はそれが意味するこずに暗いため息を぀きながらそっず慎重に扉を閉めた。

    ここに来る前にトむレでくんできたバケツを手に持ちながら、壁に寄りかかりズルズルず座り蟌む。

    『雅斗はただ自分の立堎が理解できおないみたいだなぁ』

    シンず静たり返る教宀に、新垣の声が蘇る。

    『――死にたくなかったら、いうこずを聞けよカス』

    暗闇に、顎を突き䞊げた新垣の顔が浮かぶ。

    『仲良し  冗談でしよ』

    「―――ろ  」

    『俺はい぀でもこい぀の顔色を窺っおた。怒らせないように䞀挙手䞀投足に神経をすり枛らしお。こい぀に嫌われないように。こい぀に虐められないように。だっお  』

    「―――めろ  」

    『アむツみたいになりたくねえからなぁ』
      

    「やめろ」

    シンず静たり返った空間に枡慶次の声が響いた。

    「  はぁッ  ッ  はぁっ  」

    息が䞊がる。

    新垣があんなこずを蚀うなんお、
    新垣があんなふうに思っおいたなんお、

    想像もしたこずがなかった。

    だっおアむツは、

    枡慶次の姿が芋えるなり駆け寄っおきお、
    話しかけただけで嬉しそうで、

    笑わせようず必死で、
    い぀もただ肯定するように頷いおいお、

    ――あれも党郚、挔技だったのか。

    沞々ず怒りがこみあげおくる。

    誰が䞀緒にいおほしいず願った。
    誰が無理しおでも笑っおろず蚀った。

    ――おめえが勝手に金魚の糞のようにたずわり぀いおきただけだろうが  
    勝手に逆恚みしお、最䜎な方法で手のひら返ししおきやがっお。

    「  あのク゜野郎」

    ガラガラ。

    そのずき、扉が開いた。

    「」

    ピ゚ロか
    それずも特別宀にいるはずの女教垫か
    それずも―――。

    枡慶次は瞬時にバケツを持っお立ち䞊がった。

    しかしそこに立っおいたのは、

    「  なんか今、暎蚀が聞こえたんですけど」

    気たずそうにこちらを睚む、䞊間矎玀だった。

    「う  䞊間なんで  」

    「しっ」

    䞊間はさっず教宀の䞭に入るず、廊䞋の気配を䌺いながら扉を閉めた。

    「  さっきの悲鳎っおお前」
    囁き声で聞くず、

    「悲鳎」
    䞊間はこちらを振り返りキョトンず目を芋開いた。

    「私じゃない。今階段を䞋りおきたばかりだから」

    そう蚀いながら圌女は背筋を䌞ばした。

    「――先に蚀っずくけど、勘違いしないで。枡慶次君を远っおきたわけじゃないから」

    「わかっおるよ、そんなの」

    枡慶次は䞊間が来おくれたこずにニダ぀きなりそうになる口元を匷く擊った。

    「新垣君のやり方がどうしおも玍埗できなかったからきたの」

    そう蚀うず䞊間は枡慶次から目を反らし、心底嫌そうにため息を぀いた。

    「  新垣、あのあずなんだっお  」

    「前園さんにパンツ脱げっお」

    「は」

    「今から党員、俺の奎隷になれっお」

    「な  」

    愕然ず口を開けた。

    逆恚みずはいえ、自分に鬱憀が溜たっおいたのは䜕ずか理解できるが、クラスメむト達にもそんなこずを蚀うなんお。

    「他の奎らは」

    「わかんない。䜕人か逃げたみたいだけど、誰が残っお誰が逃げたかはわかんない。私も必死だったし」

    「―――だよな。ピ゚ロもいたし  」

    そこたで蚀っおから枡慶次は䞊間を芋぀めた。

    「おかピ゚ロいただろ倧䞈倫だったか」

    そういうず圌女は圢のいい唇をくいず䞊げお埮笑んだ。

    「ねえ。私のこず、䜕もできないおバカさんだず思っおる」

    圌女の手には空になったバケツがぶら䞋がっおいた。

    「は  」

    枡慶次は思わず笑いながら、その堎に膝を立おお座り蟌んだ。

    「んで、ピ゚ロは今、メむク盎し䞭なわけね」

    「そ。2階の廊䞋にいるはずよ」

    䞊間が頷くず、枡慶次は䞊間を芋぀めた。

    ホッずしたからか、それずも半幎間ずっず硬化しおいた圌女の態床が少し緩んで芋えるのが嬉しいのか、軜口の䞀぀も蚀いたくなる。

    「――なあ、今日すっぎん」

    「は䜕よ急に」

    䞊間の顔が曇る。

    「ピ゚ロにメむク教えおもらっおきたら」

    「倱瀌ねっ」

    䞊間は頬を膚らたせた。

    「今日は時間がなかったの」

    「メむク道具ずか持ち歩いおねえの」

    「あるけどこれは郚掻甚だし  」

    「郚掻甚っお  。本圓に氎泳しか頭にないんだな」

    「な  そんなわけないでしょ私だっお高校生なんだから」

    䞊間がただでさえ倧きな目を芋開く。

    けしお和やかな䌚話ずいうわけではないが、こうしお普通に話すのはい぀ぶりだろう。

    「ぞえ。じゃあ、郚掻埌にデヌトする盞手でもいるんだ」

    枡慶次は維持悪く眉を䞊げながら蚀った。

    「  そ、それは  」

    「あれいないのかなヌ」

    「うるさいわね」

    楜しい。
    䞊間の怒った顔を芋るのも久しぶりだ。

    それに圌女にデヌトする盞手がいないらしいずいう事実は、さらに枡慶次を浮足立たせるには十分だった。

    「  あのお」

    そのずき、䜎い声が聞こえた。

    「もしかしお俺たち、お邪魔だったりする」

    扉を開けたのは孊玚委員の吉瀬だった。
    埌ろには吉瀬ほどではないがこちらも成瞟のいい山口も䞀緒だ。

    「誰か䞀緒に動ける人を探しおお――もし邪魔だったら他圓たるけど」

    「たさか。いいよ、䞀緒に動こうぜ」

    吉瀬の蚀葉に、枡慶次は頭を掻きながら蚀った。

    非垞時だからずはいえ、䞊間ず普通に䌚話できたこの時間をもっず倧切にしたかったが、人数はたくさんいたほうがいいのは、先の経隓で実蚌枈みだ。

    「新垣はずいぶんずふざけたこずを蚀っおるみたいだな」

    枡慶次が蚀うず、吉瀬ず山口は互いに目配せをし合った。

    「本圓にふざけたや぀だよ。あんな男だったなんおがっかりした」
    吉瀬が舌打ちをしお、

    「ああ、倱望だな」
    山口も頷く。

    「だが別に、あい぀に埓う必芁なんおないんじゃないかず思っお」
    吉瀬が神劙そうな顔をしお蚀う。

    「どういうこずだ」
    枡慶次は2人を亀互に芋぀めた。

    「だっお、もうすでにピ゚ロも橘先生ずかいう女教垫も、攻略法ずやらがわかっおいるじゃないか」
    山口が几垳面そうな掻舌の良さで蚀った。

    「ピ゚ロは氎をかければいいし、女教垫は3階の特別宀に呌び出されお行っちゃっただろ。だから実質は、俺たちが怖がる驚異っおないのかなっお思っお」

    自分の蚀葉にうんうんず頷いおいる。

    「たあそれは  そうかもしれないけど」

    2人の蚀葉には玍埗しおいるのに䜕かが腑に萜ちない。

    もう驚異はない本圓にそうだろうか。

    「でもそれじゃあ、クリアはどうするの」

    䞊間が2人を芋぀める。

    「それなんだよなヌ」

    吉瀬がため息を぀く。

    「新垣に頌んだずしお今のあい぀じゃ教えおくれるずは到底思えない。こうなったら自分達でクリアを目指すしかないな。こういうのはゲヌムずか普段からやっおるや぀の方がいいんだろうけど」

    「あ」
    「あっ」
    「あ  」

    枡慶次ず䞊間、それに山口が同時に口を開けた。

    「そういえば、この䞖界に来る盎前、比嘉たちがゲヌムの話しおたよな」
    枡慶次の蚀葉に、

    「今、私もそれ蚀おうず思った」
    䞊間も頷く。

    「少なくずも戊闘力ずしお確保しおた方がいいだろうな。あい぀らも新垣の奎隷になるずは思えないし」
    吉瀬が頷く。

    普段なら、枡慶次を毛嫌いしおいる比嘉たちが自分の味方になるこずなんおありえない。

    しかしさきほど共にピ゚ロず戊った、あの瞬間は確かに仲間だった。

    今ならあるいは――いや、きっず  。

    「ずにかくここにじっずしおいおも仕方がない。バケツに氎をためお、あい぀らを探しに行こう」

    山口が扉を開けたずころで、

    『クランケ患者はどこですか』

    突然、癜衣を靡かせた男が入っおきた。

    「  クランケっお  医者」

    山口がずり萜ちた県鏡を盎しながら蚀った。

    「これも敵キャラなのか」
    吉瀬が積み重ねられた机にしがみ぀くように蚀う。

    長い癜衣、黒いスラックス。肩に聎蚺噚をかけた姿は、確かに医者に芋えないこずはない。
    しかしその瞳は癜に近い灰色で、どこを芋おいるのかわからない䞍気味さに、枡慶次は背筋が凍り぀いた。

    「  だろ、どう芋おも」

    今床は呚りを芋回した。
    歊噚になり埗るものは吉瀬がしがみ぀いおる机だけだ。
    それを投げ぀けおたご぀いおいる隙に廊䞋に飛び出す。

    あずは、走るのみ。

    いくか
    今

    やるか
    今

    どうする  

    『おっず、これはよくないですね。裂創れっそうじゃないですか』

    自問自答を繰り返しおいるうちに、医者は山口の前にしゃがみ蟌みながら蚀った。

    『今すぐ治療をしなければ最悪の堎合死に至りたす』

    そう蚀いながら癜衣のポケットから消毒剀を出しおいる。

    「は  こんな切り傷で 」

    山口が恐怖で口の端を匕き぀らせながら蚀う。

    『裂創を甘く芋おはいけたせんこのたただず化膿や感染のリスクがありたす』

    胡散臭い話し方を続けながら、医者は手際よく患郚に消毒を斜すず、ガヌれを圓おテヌプで固定した。

    「な  なんか、手圓しおくれおんだけど  」

    山口がこちらを振り返る。

    「お  おう」

    それしか蚀えなかった。

    医者の姿をした䜕かは、本圓にちゃんず山口を手圓おし終わるず、パンパンず手をはたきながら立ち䞊がった。

    『はい、これで凊眮完了凊方箋出しおおきたすからお薬貰っお、あずは出来るだけ安静にしおくださいね』

    そう蚀いながら消毒液をポケットにしたうず、医者はにっこりず埮笑んだ。

    「  え、たさかの良いキャラ  」

    吉瀬がしがみ぀いおいた机から手を離しながら蚀った。

    「回埩系のキャラ、ずか  」

    山口がなおも口元を匕き぀らせながら蚀う。

    普段ゲヌムなんかしないためよくわからないが、ホラヌゲヌムにそんなキャラがいるこずもあるのか。
    枡慶次は目を芋開いた。

    そうか。
    これはゲヌムなんだ。
    キャラの攻略法もあればクリアの仕方もある。

    回埩アむテムもあれば、
    もしかしお、《《アレ》》もあるのだろうか  

    『それでは治療費の蚈算をしたす』

    枡慶次の思考を遮るように、医者は今床はポケットから小さな蚈算機を取り出しお数字を叩きだした。

    「は  」

    山口が目を䞞くしながら枡慶次を振り返る。

    「治療費っお蚀ったよな  今」

    「あ、ああ  」

    カタカタずいう音が響く䞭、枡慶次の肩を掎んでいた䞊間の指に力が入る。

    『初蚺料27,000円、凊方箋料700円、凊眮費甚5000円、合わせお32,700円になりたす』

    「はぁ高っ」

    山口がいよいよ顔を匕き぀らせる。

    「そんなに持っおないよ。おか財垃すら持っおないし」

    財垃―――。

    枡慶次はポケットの䞭を持った。
    䜕もない。
    思えば財垃は鞄の䞭だ。

    ――぀うか、この䞖界に珟実䞖界のものなんお持っおこれるのかスマホだっお握っおたはずなのにないし  。

    しかし、

    ――あれ。じゃあなんであのずき  。

    煙草を取り出し火を぀けた圌を思い出す。

    ――アむツは煙草ずラむタヌを持っおたんだ  

    『お金がないのなら仕方がありたせん』

    医者が口を開いた。

    『察䟡をいただきたすね』

    「察䟡  」

    山口が目を芋開き、吉瀬が枡慶次を芋た。

    『治療した右足の埡瀌に』

    医者がガヌれの撒かれた右足を撫でおから、その芖線を隣に移した。

    ――ダバい。

    「山口逃げろぉおお」
    枡慶次が叫んだのず同時に、

    『巊足を貰いたす』
    医者が笑った。

    振り返った吉瀬の目の前を、

    叫んだ枡慶次の頭䞊を、

    その肩口から芗いた䞊間の脇を、

    倪腿からバッサリ切断された山口の巊足が飛んでいった。

    「  うぐあぁああああ」

    山口が悲鳎を䞊げながらその堎に倒れ蟌む。

    その切断面に芋えおいた真っ癜な骚も暗赀色の肉も、ドクドクずあふれ出す血液であっずいう間に芆われ、たちたち床に真っ赀な血だたりができた。

    「  山口君」

    「埅お」

    駆け寄ろうずした䞊間の腕を枡慶次が掎む。

    『おや、お嬢さん』

    返り血を济び、癜衣を真っ赀に染めた医者が、どこを向いおいるのかわからない癜目のたた振り返った。

    『その指  どうしたした』

    「  」

    枡慶次は掎んだ腕の先にある指を芋䞋ろした。

    ピ゚ロを攻撃した時にバケツで擊れたのだろうか。圌女の指の第2関節の皮が擊りむけおいた。

    『擊過創ですね。治療が必芁だ』

    医者が癜衣を翻しながらツカツカずこちらに駆けおきた。

    「くっそおおお」

    吉瀬が持っおいた机で医者の偎面を殎るがびくずもしない。
    圌はこめかみから血を流しながら、䞀盎線に䞊間に向かっおきた。

    「  チッこの  」

    迷っおいる時間はない。
    枡慶次は咄嗟にブレザヌの袖を捲り䞊げた。

    「枡慶次君 」
    「枡慶次  」

    䞊間ず吉瀬が同時に振り返る。

    「ァグッ」

    医者の目の前で枡慶次は、自分の右腕に思い切り噛み぀いた。

    「グりりゥッ」

    思い切り噛み終わるず、枡慶次は口から血を垂れ流しながら、その堎に膝を萜ずした。

    『おおおっず、これは』

    医者が枡慶次の腕を掎む。

    『咬傷こうしょうじゃないですかぁあああ歯に付着しおいる雑菌が組織内に抌し蟌められるため、感染症のリスクが最も高いです今すぐ凊眮が必芁です』

    枡慶次は自らが䞎えた痛みに耐えながら片県を痙攣させた。

    そうだ。これでいい。
    この医者が右手の治療をしおいる間に、吉瀬ず䞊間を逃がす。
    そしお圌らが無事に逃げ䌞びたあずには―――。

    芖線を倒れおいる山口に移す。

    ―――察䟡だ。

    山口は倪股から巊足を切断され、倧量に出血をしながら痙攣しおいる。
    しかし、自分が噛み぀いたのは腕。
    たずえ二の腕から切断されようがちゃんず止血すれば呜だけは助かる可胜性もある。
    しかも噛んだのは右手利き手、察䟡は巊手。

    こんな状況䞋で巊手が無くなるのは蟛いが仕方ない。

    「枡慶次君  」
    目に涙をためながら寄り添っおいる䞊間を振り返る。

    目の前で䞊間が死ぬよりずっずマシだ。

    『倧䞈倫。私がいたすからね』

    医者は癜衣のポケットに手を突っ蟌んだ。

    おっきり消毒液が出おくるのかず思いきや、医者が取り出したのは―――。

    『感染症のリスクを最小限にずどめるため、これより切断手術を行いたす』

    山口の脚を䞀瞬で切断したメスだった。

    「  」

    マズい。

    もしここで右腕を切断されたら―――。

    そしおその察䟡ずしお巊腕をも切断されたら―――。

    ――100死ぬじゃん。俺  

    枡慶次は医者を睚んだ。

    打撃が効かないこずは先ほどの吉瀬の攻撃で立蚌枈み。

    じゃあ逃げるか
    䞊間を連れお

    無理だ。あの速さ、あの瞬発力じゃすぐに捕たる。

    ――どうすれば  

    「――先生」

    黙っお芋おいた吉瀬が叫んだ。

    「先生アンビの音が急患です」

    医者の動きがさっず止たった。

    「アンビ  」
    「あんび」

    枡慶次ず䞊間が同時に振り返る。
    しかし吉瀬は医者の顔を芋ながら続けた。

    「化孊爆発が起こった暡様䞀郚患者は爆傷ばくしょうに寄るチアノヌれ発症至急応揎をお願いしたす」

    畳みかけるように蚀う。

    「爆心地は―――攟送宀です」

    「」

    枡慶次ず䞊間は顔を芋合わせた。

    ――吉瀬のや぀  コむツを、新垣のもずに  

    この状況䞋でよく思い぀いたず感心し぀぀、しかし―――。

    ―――匕っ掛かるか  

    『  急患』

    無衚情の医者の顔を盗み芋る。

    『アンビ  』

    ―――頌む。隙されおくれ  

    『  それは倧倉だ』

    医者は癜衣を翻しながら螵を返した。

    『攟送宀だな盎ちに向かいたす』

    そう蚀いながらスタスタず駆けお行った。

    「すげえ  」

    枡慶次は吉瀬を振り返った。

    「すげえじゃねえか吉瀬お前、どこでそんな医孊甚語を芚えたんだよ」

    しかし駆け寄ろうずした枡慶次を拒むように吉瀬は山口に駆け寄った。

    「山口  」

    手を取り枩床を確かめるず、脈をずりながら䞋瞌に指をそえ、県球の動きを確認しおいる。

    「ダメだ。出血性ショックを起こしおいる意識もない  」

    「そんな  」

    䞊間が䞡手で口を抌えた。

    「できるだけ止血するんだ」

    吉瀬はブレザヌずワむシャツを脱ぐず、ワむシャツの裟を砎り、ひも状にした。
    䞊間もブレザヌのリボンをほどいお枡す。

    「  枡慶次」

    吉瀬はそれで山口の残った倪ももを瞛り぀぀叫んだ。

    「ここは俺ず䞊間が䜕ずかするお前は、あの医者を远っお攟送宀ぞ」

    「は  」

    枡慶次は目を芋開いた。

    「新垣が、どうやっおあの医者を攻略するのを盗み芋るんださっきは偶然誀魔化せたが、同じ手が通甚するずは限らない」

    「それはそうだけど  」

    「さっさずいけ絶察に芋぀かるなよ」

    「―――」

    吉瀬の蚀葉に枡慶次は䞊間を芋぀めた。

    「  気を付けおね」

    䞊間も枡慶次を芋぀め返した

    「さっきは  かばっおくれおありがずう  」

    「   ああ」

    枡慶次は忍ばせながら走り始めた。

    「はあっ  はあっ  はあっ  」

    䞍謹慎だず思うのに、ニダ付を抑えるこずができない。

    それは圌女が半幎ぶりに自分に向けた笑顔だった。

    ◇◆◇◆

    「ぞえ。胞は意倖ず小ぶりなんだね。もしかしおパットずか入れお、誀魔化しおる系」

    新垣は攟送宀の回転怅子に座りながら、䞊半身裞になり、现い䞡腕で胞を隠しお立っおいる前園を芋䞊げた。

    「でもこんな垞倜灯の䞭でもわかるほどの癜い肌なのは、結構クるね」

    ひじ掛けに腕を眮き、偉そうに足を組む。

    「じゃあ、腕倖しおみよっか。前園さん」

    「   」

    前園が唇を噛みながら、新垣を睚む。

    「さっさずしろよ前園」

    護衛ずしお入り口付近に立たされおいる倧城が、ちらちらず振り返りながら錻息を荒くする。

    「―――」

    前園はヒッず音がするほど息を吞い蟌むず。意を決したように䞡腕を䞋ろした。

    「ヒュりッ♪」

    新垣が高い音で口笛を吹き、

    「おぉ  ピンク  」

    倧城がだらしなく口の端から涎を垂らす。

    「  ッ  うっ  ッ」

    前園の右の目尻から涙がこがれ萜ちるず同時に、巊目の目頭から倧粒の涙が攟送宀のじゅうたんに萜䞋した。

    「  前園さあ、䜕か勘違いしおるのかもしれないけど」

    新垣は勿䜓぀けるように立ち䞊がるず、䞀歩圌女のに寄り、その小さな顔をのぞき蟌んだ。

    「俺、別に無理やり頌んでるんじゃないよ。もし前園がしたいなら、っお話。わかる」

    「  ッ」

    前園は負けんずするように唇を噛みしめ、皺を寄せた顎を粟䞀杯新垣に突き出した。

    「じゃあ次は―――」

    新垣は少し頭を傟げながら、目を芋開いお埮笑んだ。

    「䞋も脱いでみよっか」

    そのずき、廊䞋から防音のはずの扉を぀んざくような声が聞こえおきた。

    『救助に来たした皆さん、倧䞈倫ですか』

    「救助  」

    その声に3人は䞀瞬静止した。

    『怪我人を凊眮したす』

    「  やった」

    反応したのは前園だった。

    脱ぎ捚おた䞋着ずシャツを拟い集め雑に身に着けるず、廊䞋に出ようず駆け出した。

    「おいおいおいおい、埅おっお」

    新垣は圌女を捕たえようず埌ろから抱きかかえた。

    「  離しお」

    「ぐっ」

    前園は枟身の力を蟌めお新垣の顔面に肘を打ち蟌み、圌が怯んだすきに身を翻しおその腕を逃れるず、攟送宀の扉を開け攟った。

    「救助だっお」

    「やったぁあああ」

    隣の校長宀からも、その声を聞き぀けた生埒たちが出おくる。

    サッカヌ郚で足が速い井䞊ず関がいち早く走り出した。

    駆け寄っおいく生埒たちの向こう偎から、癜衣を着た医垫ず思しき男が走っおくる。

    「助かったぁ  」

    「おヌい」

    井䞊も関も、い぀もは女子盞手にかっこ぀けおいるくせに、今にも泣きそうな情けない声を出しおいる。

    「ははっ」

    前園は目に涙を浮かべたたた、圌らに続いお走り出した。

    『今行きたすからね』

    医垫は足の速い圌らず同じ勢いでこちらに近づいおくる。

    なぜ䞀人
    なぜ癜衣

    そんなこずは思わなかった。

    救助に来おくれた。
    自分たちは助かったのだ。

    それしか頭になかった。

    だから―――。

    その医垫の目が癜っぜい灰色をしおいおも、
    光る倧きなメスを握っおいおも、
    癜衣に誰かの返り血が飛び散っおいおも、

    気づけなかった。

    党おの異垞性に―――。

    『どいおください』

    医垫の声が響き枡った瞬間、先頭を走っおいた井䞊の四肢が八方に飛んだ。

    『爆傷患者がいるんです今すぐ救わなければ』

    「  え」

    ドクン。
    自分の錓動が、なぜか耳のすぐ暪で聞こえた気がした。

    足を止めた前園の目の前に、井䞊の埌ろを走っおいた関の顔が飛んだ。

    「あ  」

    ドクン。

    ドクン  。

    党おがスロヌモヌションに芋える。

    すごい勢いで突進しおくる医垫も、

    雚のように血飛沫を飛ばしながら萜䞋する井䞊の四肢も、

    噎氎のように関の銖の断面から噎き䞊げる鮮血も、

    「 ぃ ぃ い い や あ あ あ ぁ ぁ ぁ」

    誰かの悲鳎も、

    『 ど ぅ お い ず ぇ く ど わ さ ぁ  い』

    医垫の声たでゆっくり聞こえる。

    2人の血に染たった真っ赀な癜衣が前園の目の前に迫った。

    ―――私  死ぬの  


    「かわいい子ね」

    どこに行っおも、誰に䌚っおもそう蚀われた。

    倧人ずいうものは、子䟛を芋れば皆がそう耒める生き物だず思っおいたのが、どうやら違うらしいず気づいたのは小孊校に䞊がったばかりの6歳の時だった。

    「将来は歌手か女優さんね」
    「子䟛タレントに応募しおみたら」

    授業参芳、マラ゜ン倧䌚、運動䌚。
    倧人が集たるずころでは、必ずず蚀っおいいほど前園の話題になった。

    孊芞䌚で挔目が癜雪姫に決たるず、立候補しなくおも盀䞊䞀臎で前園が䞻圹に抜擢された。

    「本圓に矎人だよね」

    矎貌が矚望を生み、

    「ええ隒ぐでもなくない」

    矚望が嫉劬を生んだ。

    「あい぀らの蚀うこずなんか気にすんなよ」

    クラス䞭の女子に嫌われようず、クラスの倧半の男子は前園に優しかった。

    「別に意地悪しおたわけじゃないし。ただ話しかけ蟛い雰囲気あっただけでヌ」

    だから結局は女子も敗北を認め、前園に降䌏せざるを埗なかった。

    「前園さんっおファンデヌションなに䜿っおるの」

    前園にずっお女子は平䌏するもの。

    「俺、前から前園のこず気になっおおさ  」

    前園にずっお男子は跪くもの。

    その垞識を壊したのが、

    「うるせヌよ、お前」

    唯䞀自分に靡かなかった男、枡慶次雅斗だった。

    圌はい぀も前園をうんざりしたような顔で芋぀め、迷惑そうに話を聞いた。

    だから前園は、自分を芋おいない暪顔に、自分を映しおいない瞳に、恋をした。

    優しくされたこずなど䞀床もない。
    この䞖でただ䞀人、自分に関心を持たない男子。

    だから圌はここにはいない。
    だから圌はここには来ない。

    助けおほしいずは蚀わない。

    でも最埌にもう䞀床、

    ――䌚いたかったな  。

    埗䜓のしれない医垫の手に握られた、やけに倧きな銀色のメスが光る。

    前園は目を瞑った。

    「――」

    そのずき、埌ろから誰かの右腕が回り、前園を抱き寄せた。

    「ヌヌ先生」

    背䞭から震動ず共に䜎い声が響いた。

    「病宀をお間違えですよ」

    肩越しに振り返る。

    「  」

    自分を埌ろから抱き寄せおいたのは、

    口元に笑いを讃えた、新垣だった。

    『間違いありたせん私は攟送宀で爆発が起こったず聞いおやっおきたのですから』

    医者がぶんぶんずメスを振り回しながら黒目のない目で新垣を睚む。

    「えっ、攟送宀」

    しかし圌は動じない。
    前園を抱き寄せたたたわざずらしく驚いたふりをしお医者を芋䞊げる。

    「やはりお間違えのようだ」

    『』

    「ここは違いたすよ」

    新垣が芪指を立お埌ろを指さす。

    医者ず共に前園も振り返った。
    攟送宀ず曞かれおいたプレヌトに玙が貌っおある。

    「  あれは」

    曞かれたその文字を芋お、前園は目を芋開いた。

    ◇◆◇◆

    「いやあああああ」

    階段に差し掛かったずころで、2階の廊䞋から悲鳎が響き枡った。

    十䞭八九、攟送宀に向かった医者がクラスメむトたちに襲い掛かったのだろう。

    ――急げ  

    皆を助けるためにではない。
    新垣が医者をどうするのか。
    その攻略法を芋るためだ。

    そのためにはクラスメむト達が䜕人犠牲になろうが構わない。

    「」

    階段に足を掛けたそのずき、螊り堎で折り返した䞊の方から物音が聞こえた。

    慌おお手すりに぀かたりしゃがみ蟌む。

    『――もう勘匁しおホシいよ、党くゥ』

    カチャカチャず䜕かを匄る音に加えお、錻にかかる独特の声が聞こえおくる。

    ―――この声は  ピ゚ロ

    そうか。
    䞊間が1階に来る途䞭で氎をかけたピ゚ロが螊り堎の先でメむク盎しをしおいるらしい。

    それならここは䜿えない。
    西偎の階段を䜿うしかない。

    できるだけ音がしないように枡慶次は1階の廊䞋を駆け抜けた。

    女教垫は3階の特別宀。
    ピ゚ロは東偎の螊り堎の先。
    ドクタヌは2階。

    倧䞈倫だ。
    ドクタヌにさえ気を付ければ鉢合わせはないはず。

    西偎の階段に到着するず、枡慶次は駆け䞊がるべく階段に足を掛けた。

    「ん  」

    しかしすぐにやめお階段䞋のスペヌスにしゃがみ蟌んだ。

    『ぉかしぃわねぇ』

    ――今床はこっち女教垫かよ  

    聞こえるのは確かに女教垫の声だった。

    『校長先生たら、ぃくら埅っおもこなぃんだもの』

    声に加え、カツンカツンず階段を䞋りおくるハむヒヌルの音も聞こえおくる。

    『校内を探しおみよぅかしら』

    ――マズい  

    枡慶次は足音を立おないように階段䞋から抜け出すず、すぐ隣の1幎6組の教宀に入った。

    「    」

    ドアのガラスから芋えないように
    角床を調敎しお埌退しながら、口を抌え息を殺す。

    ――くそ  。早く攟送宀に向かいたいのに  

    カツンカツンカツンカツン  。

    足音が確実に近づいおくる。

    カツ カツ カツ カツ  。

    音が倉わった。階段を降り切ったのだ。

    ――来る  

    枡慶次はたた数歩ドアから埌退した。
    ず、靎䞋が粘液質のものを螏みヌルッず滑りそのたた尻逅を぀く圢で埌ろにひっくり返った。

    ――な  なんだ

    驚いお振り返るずそこには、濃いキャラメルのような液䜓が茶色の氎溜たりを䜜っおいた。

    「  」

    その液䜓を目で远っおいくずそこには、性別も幎霢もわからない、着衣か裞かもわからない、ドロドロに溶けた䜕かが倒れおいた。

    「」

    錻を぀くむせかえるような酞っぱい匂い。

    赀黒いずも茶色いずも圢容しにくい色のそれは、光を倱った瞳を巊右に開き、絶呜しおいるようだった。

    ――これも敵キャラか  。たるで  ゟンビみたいな  。

    その時ガラリず掟手な音を立おお、1幎6組のドアが開け攟たれた。

    「  あ」

    隠れるこずもできず、枡慶次は倒れたたた゜レを芋䞊げた。

    『ぁら。今は授業䞭でし』

    女教垫はこちらを芋䞋ろすず、

    『こんなトころでさがお  ぉしぉき必芁ね』

    圌女は指し棒を䌞ばしながらニダリず笑った。

    ◆◆◆◆

    『そんな  』

    医者は䞊間の脇を通りプレヌトに曞かれた文字を読むず、癜い目から涙を流し始めた。

    『私は  私は  たた救えなかったのです  』

    そう蚀いながら䞡手で顔を芆う。
    そしおカクンず頭を萜ずしながら、ずがずがず歩き始めた。

    「ひいっ」

    「  ぅああッ」

    生埒たちが避けるのもお構いなしで、医者はそのたた肩を萜ずしお芖聎芚宀の方ぞず歩いお行っおしたった。

    圌を芋送るず、皆は安堵のため息を぀きながら、改めお攟送宀のプレヌトを芋䞊げた。

    「はは。なるほどね  」

    倧城が力なく笑う。

    「そう。3番目のキャラクタヌドクタヌの攻略法は、《《この郚屋には入れない》》、だ」

    新垣は前園を埌ろから抱き締めたたた䜎く笑いを返した。

    「    」

    医垫ずいう呜を背負った責任感がそうさせるのか。
    それずもこのゲヌム制䜜者の意図なのだろうか。

    前園はその玙に雑に曞かれた『霊安宀』ずいう字を芋お、小さく息を飲んだ。

    ◇◇◇◇

    党員が攟送宀に戻るず、新垣はプレヌトに貌っおいた玙を、扉の内偎に貌り盎しながら皆を振り返った。

    「結局、残ったのはこれだけか」

    前園ず新垣ず倧城が攟送宀に閉じこもっおいる間に、随分ず生埒が散っおしたったらしい。
    喜瀬や山口、遠藀に朚村、そうだ平良もいない。

    残ったのは、前園、新垣に倧城、3嶺トリオ、それにバレヌ郚の藀原茜ず孊玚委員の五十嵐埋子、それに女子の䞭では䞀番倧柄な岩厎玀子の9人だけだった。

    「男子の倧半はあっちにいるずみおもいいかな。た、今の時点で生き残っおるかどうかは半数も怪しいほどだけど」

    新垣はその珟状を楜しむかのように口の端を䞊げるず、フフッずわらった。

    「今からでも遅くないよ。枡慶次に寝返りたいずいう奎は止めないからどうぞ。あい぀なら他の誰を犠牲にしようが生き残っおるんだろうから」

    新垣は口の端を歪めながら蚀った。

    「でも、わかっおるでしょ。この䞖界では俺の蚀うこず聞くしかないの。じゃないずキミたちもあっずいう間に井䞊ず関の二の舞になるぞ」

    「    」

    圌らの飛び散った四肢を思い出したみんなは、眉間に皺を寄せながら俯いた。

    「っおいうか  」

    口を開いたのは3嶺トリオの赀嶺だった。

    「あれで効果あるの廊䞋から芋えないず意味ないんじゃないの」

    そう蚀いながら扉の内偎に貌られた「霊安宀」の匵り玙を指さす。

    「効果はあったよ。っおいっおも10幎前のゲヌムでは、だけどね。たあ、どっちにしろ  」

    新垣は先ほど前園の肘打ちで切ったらしい唇を舐めながら蚀った。

    「俺はドクタヌが乗り蟌んでくるリスクより、枡慶次にこの攻略法がバレないっおいう安牌をずる」

    「    」

    前園はその迷いのない圌の顔を芋぀めた。

    この人も同じだ。
    この人も、自分に興味ない。

    圌が芋぀めおいるのはただ䞀人、

    枡慶次雅斗だけ――。

    「ピ゚ロは氎で撃退。ドクタヌは入れない。あずはティヌチャヌか。時間が経぀ずたた埘埊しはじめるから」

    新垣は独り蚀のように蚀うず、攟送の電源を入れた。

    『橘先生、橘先生、校長先生がお呌びです。至急、2階芖聎芚宀たで来おください』

    新垣はそう蚀うず、倧城を振り返った。

    「倧城。お前は扉の倖で芋匵りだ。ピ゚ロが来たら氎をかけ、ティヌチャヌが芖聎芚宀から出るのが芋えたら教えろ」

    「なんで俺がそんなこず  」

    倧城があからさたに䞍服そうな顔をするず、

    「恩恵を授かりたいんだろ童貞が  」

    新垣がそう蚀い、倧城は悔しそうに唇を噛んだ。

    「な埌でいい思いさせおやるからさ」

    新垣は倧城に近づくず、その肩に腕を眮きながら、倖に誘導した。

    「䜕あれ。最䜎  」

    女子の孊玚委員である五十嵐が圌らに聞こえないように毒づく。

    「隙を芋お逃げだそうそのずきは声かけるから」

    耳打ちされた前園は、戻っおきた新垣を芋぀めた。

    右手が自然ず胞の前で握られる。

    先ほど他でもない新垣に小ぶりだずなじられた胞は、確かに圌を芋お熱くなっおいた。

    ◆◆◆◆

    ピンポンパンポヌン。

    再び校内攟送が鳎り響いた。

    『橘先生、橘先生、校長先生がお呌びです』

    先ほどはわからなかったが、今ならはっきりわかる。
    この声は、新垣の声だ。

    ――新垣なんで  

    『至急、2階芖聎芚宀たで来おください』

    しかも芖聎芚宀。
    攟送宀ず同じ階だ。

    『なんダぁ、芖聎芚宀だたノかぁ』

    女教垫は䞡手をぱちんず合わせるず、長い髪の毛を埌ろで䞀本に結わえた。

    『急がくちゃ』

    圌女はいそいそず1幎6組を出お行った。

    「  は  はアッ  はあっ」

    女教垫の足音が教宀から近い西偎の階段を駆け䞊る音に倉わるたで埅っおから、枡慶次は呌吞を再開した。

    そしお芖線は自然ず自分の脇に暪たわる埗䜓のしれない物䜓に戻り、激しく呌吞を再開した錻に残ったその匂いにその堎で嘔吐した。

    「なんだこの生き物は―――」

    ドロドロに溶けた䜓は、よく芋るず埌頭郚の真ん䞭がぞこみ、巊の腰が抉れおいる。

    誰かが攻撃した――
    そしお倒した  

    䞀䜓だれが  。

    「んなんだ  」

    䜕かが萜ちおいる。
    枡慶次は錻を぀たみながら、その屍䜓の脇にあった氎色のそれを拟い䞊げた。

    ――これは  。

    「パンツ」

    枡慶次の手にあったそれは、䞭倮に青いリボンの぀いた、氎色の女性甚ショヌツだった。


    画像
    創䜜者メモ③


    4.ゟンビ


    画像


    「――たた攟送かぁ今床は芖聎芚宀だっおよ」

    比嘉は、人差し指ず䞭指で突起を挟み぀぀、手に䜙るほどの乳房を揉みしだきながら蚀った。

    「なあ、“橘先生”っおさ、女かな」

    その手を现い腰に移動させながら激しく腰を突き䞊げる。

    「  ァアッは  ああッ」

    そのたびに、身䜓を反り比嘉の倪ももに手を぀いた東矎湖が、高い声で喘ぐ。

    「ど  どうだろうな  」

    2人の接合郚をガン芋しながら自分のパンツに手を突っ蟌んでいる照屋が、うわの空で答える。

    「もし女だったらさ。捕たえおみんなで茪姊たわすのもありだな」

    「ァア゛ッ」

    今床は䞡方の倪ももを抑えながら、䞀番深いずころを突くず、東は悲鳎のような声を䞊げた。

    「な、なあ比嘉。終わったら俺にも1回だけダラせおくれよ。いヌだろ」

    照屋がせわしなく右手を動かしながら蚀う。

    「  ええ俺はいいけど、こういうのは女の子に聞かないずぉ」

    比嘉はそう蚀いながらも腰の動きを緩めずに、目に涙をためおいる東を、銖をかしげながらのぞき蟌んだ。

    「どうする」

    「  ッ   っっ」

    東はすっかりマスカラが厩れた䞡目で比嘉を芋぀めるず、小さく銖を巊右に振った。

    「だっおよ。俺も女の子には優しいからなぁ」

    比嘉が錻で笑うず、

    「――くっだらねえ」

    逢瀬に背䞭を向けながら膝を立おお煙草を吞っおいた玉城が傍らに唟を吐いた。

    「さっき女教垫なら茪姊すずか蚀っおたのはどこのどい぀だよ」

    「  どうしたんだよ。ご機嫌斜めなのぉ」

    比嘉は東の倪ももの䞋に腕を入れ蟌むず、そのたた埌ろに抌し倒し、開いた足の䞭心に腰を突き入れた。

    「いいからさっさず枈たせろっお蚀っおんだよ今、なんかやべえダツが攻めおきたらどうするんだっ぀のフルチンで逃げれんのか、おめえは」

    玉城が苛立たし気に、䜓育通を芋回した。

    「ええ」

    比嘉は銀色の髪の毛を揺らし、そのたた腰を激しく打ち付けながら、䜕でもないこずのように蚀った。

    「その時はたず、入り口で芗いおるムッツリ君が食われるんじゃね  」

    「っ」

    「え  」

    「っ」

    比嘉以倖の3人が、䜓育通の入り口を振り返る。
    ず、タタタタず誰かが走り去っおいく足音が響いた。

    「  远いかけるか」

    玉城がい぀でも螏み切れるように片膝を立お腰を浮かせながら蚀う。

    「いやいヌだろ別に」

    比嘉は東の膝裏に腕を差し蟌みながら蚀った。

    「远うほどの奎じゃねえ」

    錻で笑うず比嘉は、ラストスパヌトに向かうべく、東の熱く濡れそがったそこに、自分のいきり立ったモノを容赊なく突き挿れた。

    ◆◆◆◆

    女教垫が去り1分以䞊埅っおから、枡慶次は教宀から頭を出しお、東西に䌞びる廊䞋を睚んだ。

    2階の東偎、芖聎芚宀には女教垫。
    ドクタヌは2階の西偎攟送宀付近。
    ピ゚ロは西偎の階段にある螊り堎でメむク盎し。

    だめだ。どちらの階段からも2階に行くのにはリスクが高すぎる。

    今動けない以䞊、ここは䞀旊諊めお䞊間たちのずころに戻らなければ。

    「枡慶次  」
    振り返るずそこにはバスケ郚の遠藀が立っおいた。

    「しっ」
    慌おお教宀に連れ蟌みドアを閉めるず、

    「無事だったのか」
    枡慶次は遠藀に埮笑んだ。

    普段はそこたで仲がいいわけではないが、人数が倚い方がいいのは先の経隓から知っおいる。

    「お前も新垣のずころを抜けおきたクチか」

    案の定、圌は眉間に皺を寄せながら頷いた。

    「ああ  あい぀最䜎でさ  」

    「倧䜓のこずは聞いたよ」

    枡慶次は息を吞い胞を膚らたせお続けた。

    「たああい぀をぶん殎るのはリアルの䞖界に戻っおからでもできる。たずはここから抜け出さないず」

    「    」

    遠藀は急に黙り蟌むず、枡慶次の手元を芋䞋ろした。

    「おか、さっきから気になっおたんだけど、゜レ、なに」

    「」

    枡慶次の手には、氎色のパンツがただ握られおいた。

    「  あ、や、これは拟ったんだよ」

    枡慶次はブンブンず銖を振りながら蚀った。

    「拟ったぁ」
    遠藀が蚝しげに片目を芋開きながら蚀う。

    「いくらゲヌムのなかでも、ホラヌゲヌムでパンツが萜ちおるこずなんおねえず思うぜ」

    「いや、マゞだっおそこのゟンビみたいなや぀の暪に萜ちおたんだよっ」

    枡慶次が蚀うず、遠藀はゟンビの存圚に今気づいたようで、ビクリず身䜓を震わせた。

    「な、なんだこれ」

    「――こっちが聞きおえよ」

    答えながらも枡慶次は、ずっずパンツを握りしめおいるのもおかしいこずに気が぀き、それをゟンビのそばに投げ捚おた。

    「ここに萜ちおたっおこずは  」

    遠藀がしゃがんでのぞき蟌む。

    暑いのだろうか。
    圌のこめかみから汗が筋を䜜りながら流れ萜ちた。

    「もしかしおコむツに女子の誰かが襲われたっおこずか」

    「どうだろうな  」

    遠藀が顔をしかめながらパンツを持ち䞊げた。

    「おか、誰のだ」

    「知るかよ」

    枡慶次が目を现める。

    「今、姿が芋えない奎っおいったら、朚村ず東ず䞊間  か」

    遠藀が䌺うような顔でこちらを芋る。

    「――䞊間のではない」

    枡慶次は静かに蚀った。

    「  前から怪しいず思っおたんだけどさ。お前ず䞊間っおパンツの色たで知り合う仲なの」

    遠藀が口の端を匕く぀かせながら蚀った。

    「違う。でも、アむツ、うちの高校の競泳氎着が氎色だからっお、氎色は嫌だっお話しおお」

    「―――ふうん」

    遠藀は銖を傟げた。

    「じゃあ、朚村か東か」

    朚村か東がこの郚屋で襲われたゟンビに
    でもここには血だたりも血飛沫も、さらにはゟンビ以倖の死䜓もない。

    ゟンビず戊っお勝ったずいうこずか
    それずも誰かが助けた

    「――いや、埅お」

    呟いた枡慶次を遠藀が振り返った。

    「俺はさっき、1幎1組から飛び出しお、東偎の階段を登ろうずした。
    だがピ゚ロが螊り堎にいるこずに気づいお、1階の廊䞋を走っお移動。
    西偎の階段を䞊りかけたずころで、女教垫が䞋りおきお、1幎6組に駆け蟌んだ」

    「あ  ああ。そうなのか」

    蚀わんずしおるこずがわからず、遠藀は小さく銖を傟げた。
    その傟げた銖筋にも幟筋もの汗の線が出来おいる。

    「あのずき、1階の廊䞋には誰もいなかった。昇降口ぞず繋ぐ枡り廊䞋はこのすぐ隣。足音があればわかるはず」

    「―――぀たり、この教宀から逃げたや぀はいないっおこずか」

    遠藀が銖を傟げる。

    「いや、違う。俺がこの教宀に来る前なら、いくらでもこの教宀に出入りできたはずだ」

    「  じゃあ、䜕が蚀いたいんだよ」

    「問題は、俺が来た埌だ」

    枡慶次は遠藀を振り返った。

    「――遠藀、お前  どっから来た」

    「――え俺」

    遠藀は笑った。

    「俺はだから、階段から  」

    「東偎の階段にはピ゚ロ、西偎の階段には、女教垫がいたはずだ」

    「   」

    遠藀は目を芋開いた。

    「――お前は来たんじゃない。いたんだよ。ずっずこの教宀に」

    自分が蚀った蚀葉に、党身に鳥肌が立぀。

    そうだ。
    遠藀はいた。
    初めからこの教宀にいたんだ。

    そしお廊䞋を芗いおいる枡慶次の目を盗んで䞀床教宀から出お、あたかも今来たように枡慶次に話しかけた。

    枡慶次の党身に悪寒が走るのずは察照的に、遠藀の額からはもはや滝のような汗が滎り萜ちおいた。

    すえたような酞っぱい匂い。

    それは確かに、倒れおいる゜レからではなく、こちらを睚んでいる遠藀から感じた。

    「  このゟンビみたいなや぀を殺したのはお前か」

    「――――」

    遠藀は黙っおこちらを芋䞋ろした。

    「  そのパンツは誰のだ。その女はどうなったんだよ」

    「―――」

    答えない代わりに遠藀は、

    ドロドロず溶け始めた口でニタリず笑った。

    ◆◆◆◆

    「ああッ  ンンッふ  んッ」

    比嘉は東を立たせおステヌゞに䞡手を぀かせるず、埌ろから腰を打ち付けおいた。

    「これじゃい぀たでたっおも俺の番回っおこねえ。比嘉君たらぜ぀りヌん。それで䜕発目だよ」

    自分で抜いおすっかり熱も冷めた照屋が、ステヌゞに座りながら笑った。

    「そんなの知らねえよ。東、お前、䜕回膣内なかで出されたかわかる」

    そう蚀いながら東の長い金髪の髪の毛を掎み䞊げるず、東は比嘉をギラリず睚んだ。

    「そんな顔すんなよ。いいだろ、ゲヌムの䞭なんだから劊嚠しないっお。それに玄束通りちゃんず守っおやるよ。俺たちがな」

    比嘉は腰の勢いを緩めるこずなく打ち付けた。

    「  たさか、その《《たち》》の䞭に俺も入っおるんじゃねヌだろうな」

    ステヌゞに仰向けになっお目を閉じおいる玉城が呆れ声で蚀った。

    「圓たり前じゃんお前らは俺を守る。俺は東を守る。぀たりはお前たちが東を守る。そういうこず」

    「アホか」

    玉城は目を閉じたたた錻で笑った。

    「そんずきはお前も東も眮いお逃げるよ」

    「あらっ。冷たいっ」

    比嘉は笑いながら䜕ずはなしに振り返った。

    「   」

    急に黙った比嘉に玉城が目を開け、照屋が顔を䞊げる。

    「――照屋、喜べ」

    比嘉は口の端を匕き䞊げた。

    「女ビッチが増えたみたいだぞ」

    䜓育通の入口には朚村がひずりで立っおいた。

    「朚村ぁ」

    あたり照屋は顎を突き出しながら目を现めた。

    「䜕しおんだよ」

    照屋はポケットに䞡手をツッコミながらステヌゞから降りるず、倪い銖をコキコキ鳎らしながら朚村に近づいた。

    「――比嘉くんたちず䞀緒にいるのが䞀番安党かなっお」

    「安党もク゜もあるかよ、こんなずこに」

    䞀瞬目を開けた玉城が぀たらなそうにたた瞌を閉じる。

    「冷たいなヌ。玉城は。だからむケメンなのにモテないんだよヌ」

    逆に容姿で蚀えば䞭の䞋にあたる照屋は、頭を掻きながら笑った。

    「女の子䞀人で䞍安だよなぁそりゃあなぁ」

    うんうんず倧袈裟に頷きながら近づく照屋に、朚村が恥ずかしそうに頷き返す。

    「たあたあ、入り口付近は危ないから。こっちで䌑んでいこね」

    照屋が䞋心満茉で朚村の肩に觊れおも、圌女は嫌がらなかった。
    それどころか明らかに熱のこもった目぀きで照屋を芋䞊げた。

    「おお  」

    照屋はその県差しに面喰っお芖線を䞋げた。
    そこにはボタンをいく぀か倖したシャツの隙間から、癜い胞の谷間が芗いおいた。

    「  ちょっずぉ」

    ステヌゞに手を぀いおいる東が䞍満そうに振り返る。

    「たさかタダでこい぀らに守られる気じゃないでしょうね」

    その䞍満は朚村にずいうよりは、今たさに自分の秘郚を突いおいる比嘉に向けおのものだった。

    「だったら察䟡ずしおこうやっお身䜓を提䟛しおる私はどうなるの今すぐその汚いモノ抜くか、あの女も同じようにしお」

    「ははっ」

    睚む朚村に比嘉は笑った。

    「そうだな、照屋。朚村だけ無条件でこっちに入れるのは、䞍公平っおや぀だ」

    そう蚀いながら睚む朚村の頭をステヌゞに抌さえ぀けるず、

    「――远い返すか、犯せ」

    䜎い声で蚀い攟った。

    「  うぞえ、キビシヌそういうこずらしいよ、朚村ちゃん。どうするぅ」

    照屋が笑いながら朚村をのぞき蟌む。

    するず朚村は䞀瞬照れたように芖線を䞋げた埌、自らのスカヌトを捲り䞊げた。

    「ヒュり♪」

    照屋の口笛に比嘉が振り返る。

    「  はは。思ったより根性据わっおんじゃねえか」

    捲り䞊げた朚村の䞋半身は、パンツも䜕も履いおおらず、入口付近から吹く颚に薄い陰毛が揺れおいた。

    ◆◆◆◆

    「遠藀  どうしたんだよ  」

    枡慶次は埌退りながら蚀った。

    『ど″ぅしん″ろぅ。む奄、ど″ぅしん″ず思ぅ』

    歪んだ唇のせいで、遠藀の声ず蚀葉が震える。

    「お前  その身䜓  」

    ツンず腐ったような酞っぱい臭いが挂う。
    枡慶次はさらに䞀歩埌退した。

    唇だけではない。
    遠藀の目も、頬も、顎もドロドロず萜ちおいく。

    『シ床慶欠、む奄のむ本、ど″ぅょっおゑ』

    「どうっお  」

    ――溶けおるよ  

    喉元たで出かかった蚀葉を必死で飲み蟌む。

    溶けおいるずいう衚珟が合っおいるのかわからない。
    しかし遠藀の顔は、眉も頬もドロドロず溶け萜ちお、飛び出た県球が今にもゎロっず転がり萜ちそうだ。

    『女兌だ″ゃた゛  む奄、歹ヒにくょい』

    ――いや、おか、もうこれ  。

    『手遅れです  』

    埌ろから声が響いた。

    振り返った枡慶次は、絶望的な光景に口元を匕く぀かせた。

    「   マゞかよ」

    教宀の入り口には、メスを持った医者が立っおいた。

    ――なんだよ、この絶望的な状況は  

    枡慶次はドロドロに溶けおこちらに手を䌞ばしおくる遠藀ず、ツカツカず教宀に入っおきた医者を芋比べた。

    ――挟み撃ちかよ  

    どっちに逃げればいいのだろう。
    避けられそうなのはミむラだが、そっちに突っ蟌んでいっおも窓は開かない。
    自ら壁際に远い詰められに行くようなものだ。

    じゃあ医者の方か
    ダメだ。
    枡慶次の右腕には噛み傷がある。
    近づけばあのメスで切断されおしたう。

    ――どうすればいい  どうすれば  

    迷っおいるうちに医者は䞀歩たた䞀歩ず近づいおくる。

      こんなの、無理ゲヌだろ  

    枡慶次が目を瞑ったその時、ふわっずアルコヌルのような銙りがした。

    「  え」

    目を開けるず枡慶次には県もくれずに脇を通り抜けた医者の癜衣が、枡慶次の䜓を撫でた。

    『苊しんでいる患者を、楜にしおあげるのも医者の務めです』

    医者が䜎い声を出す。

    『患者の死亡確認をしおあげるのもたた、医者の務めです』

    医者はそう蚀うず胞元から䜕かを取り出した。

    「―――泚射」

    思わず぀ぶやく。

    医者が胞のポケットから取り出したのは、

    確かに泚射噚だった。

    『  や″ぁ来ゑょぁ』

    遠藀が目を芋開いお銖を振るず、初めに右目、続いお巊目がポロリず垂れ萜ち、やがお溶けた肉塊に玛れお芋えなくなった。

    『  こっち来ゑょよ』

    遠藀が黒い液䜓を吐きながら叫ぶず、綺麗に䞊んでいた癜い歯がボロボロず抜け萜ち、床に転がった。

    ――医者に怯えおるのか  

    医者は遠藀の茶色い䜓液がしみ蟌んだ癜シャツの襟元を捲るず、慣れた様子でその銖筋に泚射噚を突き刺した。

    ――医者が  ゟンビを《《治療》》した  

    遠藀の䜓がのけぞり、声にならない叫び声を䞊げお震える。
    明らかに苊しんでいる。
    嫌がっおいる。

    治療――ではない。

    攻撃だ。

    枡慶次は信じられない思いでその光景を凝芖しおいた。

    医者は敵キャラ。ゟンビになった遠藀ももはや敵キャラであるはずだ。

    敵キャラが敵キャラに攻撃するこずもあるのか

    「」

    枡慶次は口を開けた。

    ――泣い  おる  

    泚射を刺された遠藀が厩れ萜ちおいくのを芋おいた医者の灰色の目から、涙がこがれた。

    ――なぜ泣く悲しいのか

    いや、これはゲヌムのキャラクタヌだ。
    悲しいなんお感情があるわけがない。
    悲しんでいるずいう蚭定だ。

    ゟンビりむルスによっお犯された患者。
    それを救えなかったこずで、悲しんでいるずいう蚭定。

    なんで敵キャラに感情の蚭定が必芁だったんだ

    ――たさか、このゲヌムっお  

    思い぀くず同時に枡慶次は、床を蹎った。

    ――そうか。そういうこずだったのか

    䞊ぶ机にぶ぀かり、怅子を蹎り飛ばしながら走る。
    遠藀の最期を芋守っおいるのか、医者は远っおこない。

    ――芋えたぞこのゲヌムの攻略法

    枡慶次は廊䞋に飛び出す瞬間、遠藀を振り返った。

    『――ゝひば─ょひゃ゛ねよ䞶)』

    遠藀だった塊は、謎の蚀葉を発しながら膝を぀いた。

    『朚朚寞  ・・・愛シ お  ゑ』

    裂けた顎ががくがくず震え、剥き出しになった頭蓋骚から最埌に発した蚀葉は、枡慶次にはわからなかった。

    ◇◇◇◇

    階段を駆けあがり3階にある2幎生の教宀に駆けあがるず、枡慶次は2幎6組に入った。

    ――もし俺の考えが間違っおいないずするず  

    チョヌクを手にしお黒板の前に立぀。

    『ゟンビ』は『医者』に倒される。

    枡慶次は『ゟンビ』の暪に『医者』を曞いお矢印を向けた。


    画像

    䞀方『ゟンビ』はりむルス。
    りむルスは『医者』以倖の誰でも怖い。
    それがたずえ『教垫』でも。

    『ゟンビ』がもし『教垫』を感染ずいう攻撃で倒せるずしたら。


    画像

    『ゟンビ』から䌞ばした矢印を『教垫』に繋ぐ。

    さきほど枡慶次が医者を远いかけお攟送宀に行こうずしたずきに、医者はメむクを盎しおいるピ゚ロの脇を通っおいったはずだ。

    ぀たり医者にずっおピ゚ロは攻撃察象ではない。
    逆に匱点、ずいうこずはないだろうか。

    ピ゚ロは道化垫。嘘぀き。マゞシャン。
    医療を叞るドクタヌずはいわば察局にある、化孊では説明できない存圚。
    そう考えれば、嘘぀きのピ゚ロは医者に勝るかもしれない。


    画像

    「  やっぱりそうだ  」

    このゲヌムでは、ピ゚ロに氎、教垫に校内攟送、ずのように敵キャラの回避方法しかない。

    敵は䞀定時間は封じられるが、やがお動き出す。

    メむクを盎したピ゚ロのように。
    埘埊を始めた教垫のように。

    ぀たりプレむダヌは盎接敵キャラを倒すこずができない。

    だから、

    「敵キャラ同士でぶ぀け合う  」

    このゲヌムの攻略法は、

    ――敵同士を、殺し合わせるこず。

    「しかしそうなるず―――」

    枡慶次は黒板を睚みながら頭を掻いた。


    画像

    「最埌にピ゚ロが残るんじゃね  」

    もしピ゚ロの匱点が教垫だずすれば、タむミングを合わせお4人を集めれば、攻略が可胜かもしれない。

    しかしピ゚ロが教垫に匱いずいうのは、どうしおも解せない。

    「  足りないんだよ」

    そのずき、銖を傟げる枡慶次の埌ろから声がした。

    「敵キャラが、もう䞀人ね」

    2幎6組の入り口に立っおこちらを芋぀めおいたのは、

    知念繁だった。

    「  お前、今たでどこにいたんだよ」

    知念は枡慶次の質問には答えずに、

    「すごいな、これ枡慶次ひずりで思い぀いたの」

    黒板の前たで寄るず、その文字を芖線でなぞった。

    「ああ  っおそれよりどういうこずだよキャラが䞀人足りないっお」

    枡慶次は黒板を芋䞊げる倧きな目を睚んだ。

    「お前、䜕か知っおるのか」

    「ゟンビは――」

    知念はたたこちらの質問には答えずに『ゟンビ』ず曞かれた字に觊れた。

    「増殖するんだ。1匹倒したからっお安心しない方がいい」

    「増殖  」

    「枡慶次が16で芋た死䜓がオリゞナル。その埌、遠藀に感染。遠藀はドクタヌに殺されたけど、枡慶次ず䌚う前に他の人間に感染しおないずは蚀い切れない」

    「おい  」

    “オリゞナル”。“ドクタヌ”。
    ペラペラず話し始めた知念を芋䞋ろす。

    「お前もしかしお、このゲヌムをプレむしたこずがあるのか」

    知念の芖線がやっず枡慶次を捉える。

    「ふっ  」

    知念は枡慶次の顔を芋るなり笑った。

    「やるわけないでしょ。こんな呪いのゲヌム。」

    「呪い  」

    枡慶次は目を芋開いた。

    「お前、このゲヌムに぀いお、䜕か知っお  」

    そのずき、

    『芋぀けたした』

    廊䞋に繋がる扉から、顔だけ出した医者が、真っ癜な目でこちらを芋぀め、ニダニダず笑っおいた。

    『あなたの治療がただ枈んでいたせん』

    そう蚀いながら枡慶次自身が噛み぀いた右腕を指さす。

    ――くっそ  

    枡慶次は足を開いお身構えた。

    知念が䜕を知っおいるのか聞きたいずころだが、今はそんな䜙裕もない。
    ここは振り切っお、䞊間ず吉瀬を探さなければ  

    ズズッ  ズズッ  

    䜕かを擊る音がする。

    ――なんだ、やけに重いような  。

    『よいしょ』

    医者が軜快な声を䞊げるず、教宀には二぀の塊が転がった。

    「  䞊間」

    それは䞡腕をゎムバンドで身䜓ごず瞛り付けられた䞊間ず吉瀬だった。

    「  んん  」

    「  ううぅ  枡慶次  」

    二人ずも眉間に皺をよせ、顔をしかめおいる。

    ――よかった。生きおた  

    枡慶次は振り返り、ドクタヌの前に立ちはだかった。

    「䜕すんだよ。この2人はケガなんおしおなかっただろ」

    するず医者は困ったように䞡手を開いた。

    『この青幎のクランケは、倪腿の筋繊維が損傷しおおり、そのせいで倊怠感が続いおいたす。
    少女のクランケは右手の人差し指の爪呚りの皮膚が郚分的に剥けおはがれおいたす』

    「  く  ただの、筋肉痛ず、ささくれだろ  」

    目を芋開いた吉瀬が叫んだ。

    ――筋肉痛  ささくれ  

    枡慶次は医者ず䞊間たちを芋比べた。

    ――たったそれだけで远いかけおくるのか  

    それじゃあケガも病気も関係ない。

    党員が暙的の無差別攻撃。

    ――そんなの、ピ゚ロず倉わんねえじゃねえか  

    『でもたあ、キミの傷の方が重症ですね』

    医者がこちらに向き盎る。

    ――くっそ  

    どうやっお、生き残る。
    どうやっお  䞊間を守る。

    䜿える駒は、吉瀬ず―――

    「――先生」

    その時、知念が口を開いた。

    「ここは蚺察宀じゃないですよ」

    知念はそう蚀いながら、医者が入っおきた扉ずは逆の扉を指さした。

    「ちゃんず確認しおください」

    『ええ』

    医者はゆっくりず振り返るず、扉に向かっお歩き出した。

    「――でかしたっ知念」

    枡慶次はそう囁くず、逃げるべく䞊間を抱えようず膝の䞋に手を挿し入れた。

    「䜕しおるの」

    知念がキョトンず芋䞋ろす。

    「䜕っお、逃げるんだろうが  うッ」

    自分で噛んだ腕が痛い。
    それでも枟身の力を蟌めお持ち䞊げようずしたそのずき、

    『ああ  ああっ  』

    廊䞋から悲鳎のような声が聞こえおきた。
    扉の向こうを芋るず、医者が䞡目を抑えお仰け反っおいた。

    「グアアアアッあああああっ」

    ――苊しがっおる  それずも痛がっおる

    喘ぎ声のような悲痛な叫び声が響き枡る。

    「  䜕をしおる」

    吉瀬がなんずか立ち䞊がり、枡慶次も䞊間を優しく寝かせ、その暪に立った。

    「わかんねえ  」

    そう蚀ったずころで医者は叫んだ。

    『私は  私は  たた、救えなかったのです  』

    医者はそう蚀うず、䞀転今床は銖をカクンず萜ずしお俯き、そのたたトボトボず廊䞋を歩いお行っおしたった。

    「なんだったんだ  」

    枡慶次がポカンず口を開いおいるず、

    「    」

    吉瀬が教宀の倖に駆けだした。

    医者がしたように振り返り、扉を確認する。

    「   これは」

    県鏡の奥の目が開かれた。

    「なんだよ  」

    枡慶次も慌おおかけ出る。

    「――――」

    そこにはマゞックの雑な字で、『霊安宀』ず曞かれおいた。

    「  救えなかった呜ぞの眪悪感からか、霊安宀には入れない」

    暗い教宀から、月明かりが差す廊䞋に出おきた知念は、2人を芋䞊げた。

    「これがドクタヌの攻略法」

    「お前  」

    「なんでそんなこず  」

    枡慶次ず吉瀬はほが同時に蚀った。

    「このゲヌムを䜜ったのは」

    知念は目を现めた。

    「俺の芪父なんだ」

    ◇◆◇◆

    「んんッ  んう  んッ」

    䜓育通の真ん䞭に朚村ず向かい合っお座った照屋の、戞惑う声が響く。

    「声出すなよ、気持ち悪い」

    粟を出し尜くしお満足した比嘉が、癜シャツの第二ボタンたで倖しながらステヌゞの䞊で胡坐をかく。
    その脇では脱力した東が、パンツが芋えるのも気にせずにう぀䌏せに䞞たっおいる。

    「だっお俺、ディヌプキスずか初めおなんだもんッ」

    照屋が口の端から涎を垂らしながらだらしない顔で振り返るず、

    「お前のアヘ顔キッツいわヌ」

    玉城が眉間に皺をよせ、

    「声は出すんじゃねえ。出させんだよ」

    比嘉が錻で笑った。

    「玉城、芋本みせおやれっお」

    「はあやだよ。今朚村ずキスしたら、照屋ず間接キスだろ」

    玉城は隣に座った比嘉の小さな顎を掎んだ。

    「お前盞手ならいいけど」

    「  よせよ、キモいっお」

    比嘉はその手を払うず勢いを぀けお立ち䞊がった。

    「しゃヌねえなぁ。この海千山千の比嘉様が、女を濡らすキスっおのを教えおやりたすかぁ」

    比嘉はペタンペタンず䞊履きの螵を朰しながら朚村に近づくず、法悊ずしおいる朚村の顎を䞊げた。

    「ん  」

    比嘉はその唇を芋䞋ろしお眉間に皺を寄せた。

    「お前、唇になんか぀いおるぞ」

    『     』

    朚村は比嘉をうっずりず芋぀めたたた口を半分開けた。

    「照屋の食べかすじゃねえの」

    玉城が肩を震わせお笑っおいる。

    「きたねヌなヌ」

    比嘉は笑いながら唇の癜く现長いものを取っおやった。しかしヌヌヌ

    「  うわ」

    ゎミか䜕かだず思っおいたそれは、比嘉の指の䞭でりネりネず動いた。

    「なんだ、これ  」

    比嘉はもう䞀床朚村の顔をのぞき蟌んだ。

    「アヌンしおみ朚村」

    比嘉のその蚀葉に朚村は玠盎に口を開いた。

    『あヌω』

    「ッ」

    玠盎に開いたその唇には、

    無数のりゞ虫が蠢いおいた。

    ◆◆◆◆

    「キャラクタヌの動きは単調で理論的。
    ドクタヌは“埀蚺”。1郚屋ず぀順番に蚺お歩いおる。ただし血の匂いには敏感。ケガ人ず病人が優先だから」

    「    」

    枡慶次は黒板を芋ながら淡々ず話す知念を暪目で芋た。

    「攻略法は今芋おもらった通り、『霊安宀』ず曞かれた札や玙を貌っおおくこず」

    圌は気づいおいるのかいないのか、淡々ず続けた。

    「ピ゚ロぱンタヌテむナヌ。人が倚くいる堎所に寄っおいく。攻略法は知っおるず思うけど、メむクを萜ずすこず。
    ティヌチャヌの行き先はランダム。でも走ったり隒いだりするず寄っおくるから、音には泚意した方がいい。あずは校則違反にならないように。プラスしお出垭をずりだしたらきちんず返事をするこず。攻略法は校長が呌んでいるずいう校内攟送」

    「ティヌチャヌっお、新垣が攟送で蚀っおた橘先生っおや぀か」

    吉瀬が眉間に皺を寄せる。

    「女教垫だよ。だけどめちゃくそ匷い」

    枡慶次は短く答えた。

    「ゟンビは人間の匂いに寄っおいく。汗、䜓液、唟液、血液。攻略法は  」

    そこたで蚀うず知念は振り返り、い぀の間に持っおきたのか背負った通孊鞄から、おもむろにそれを取り出した。

    「倒す。ゲヌムらしくね」

    圌の手に握られおいたのは、重そうなトンカチだった。

    「お前、それどこから  」

    「甚務員宀から持っおきた。ゟンビたちは骚も筋肉も腐っおるから、戊闘胜力自䜓は高くないんだ」

    「確かに」

    遠藀はゟンビの死䜓ず䞀緒にいた。぀たりあのゟンビを倒したのは遠藀だずいうこずだ。

    それでも疑問は残る。

    「なんで他のキャラがあんなに匷いのに、ゟンビだけは匱いんだよ」

    「枡慶次はさあ」

    知念は感情のこもらない顔で振り返った。

    「ゟンビ映画ずか芳たこずないの」

    「  はあ」

    その銬鹿にしたような蚀い方が癪に障る。

    「ゟンビの䜕が怖いっお、増殖なんだよ。ゟンビの䜓液が䜓内に入ったら感染するっおこず」

    「――――」

    枡慶次はゟンビになった遠藀ずのやり取りを思い出した。

    噛たれおはいない。
    攻撃されおもいない。
    觊られおもいないはずだ。

    「あ  」

    枡慶次は口を開けた。

    ――そういえば  。

    「んん  」

    そのずき、ただ倒れおいた䞊間がむくりず起き䞊がった。

    「あれ  私、医者に芋぀かっお、それで  」

    枡慶次は、蚘憶をたどろうずしおいる䞊間のスカヌトを掎むず、䞀気にめくり䞊げた。

    「  きゃああっ」

    䞊間が慌おおスカヌトを戻し、

    「䜕すんのよ」

    枡慶次の頬に平手打ちを食らわせた。

    「  癜  」

    枡慶次はそう呟きながら、冷たい床に倒れた。

    ◆◆◆◆

    「ぎゃあああっ」

    蠢く倧量のりゞ虫に飛び退いた比嘉に、朚村が右手を䌞ばした。
    ピンク色に塗られた綺麗な爪が比嘉の錻先を霞める。

    「  チッ」

    玉城は比嘉の襟銖を぀かんで埌ろに匕き倒した。
    尻逅を぀いた比嘉の前に立ちはだかる。
    ずい぀の間にか隣には照屋が立ち、先ほどたでのだらしない顔ずは䞀転、朚村を睚んでいた。

    「ふっ  」

    たるで打ち合わせたかのような比動きに、぀い笑いがこみ䞊げる。

    ――やっぱり俺のラむバルは、頭の悪いダリマンでも、股の緩いアバズレでもなくお  

    ――照屋お前なんだよなぁっ

    玉城は朚村に向き盎った。

    比嘉の前に出た2人はこれたた瀺し合わせたように、玉城が朚村の顔、照屋が腹にそれぞれ蹎りをぶち蟌んだ。

    『ωζ″ぅぅうう』

    朰れた朚村の顔からも、たるで泥団子のように簡単に厩れた腹からも、真っ赀な血液ず真っ癜いりゞ虫が飛び散った。

    ――な  なんだ

    照屋も玉城も、喧嘩慣れしおいるからわかる。
    普通なら衝撃に倒れ、痛みにのた打ち回っおいる匷さで蹎ったはずだ。

    しかし朚村は倒れない。
    䞀床よろ぀いただけで、ぐっず顔を䞊げお朰れた片目で2人を睚むず、

    『″ぁアアあ』

    今床は䞡手を玉城に向けお襲い掛かっおきた。

    その過敏な動きに䞀瞬遅れた玉城は、朚村に癜シャツを掎み䞊げられた。

    『アァぁああアぁァ』

    朰れた口の䞡端がプチプチず音を立おお裂けるのも構わずに、朚村が倧口を開く。

    頭、顔、そしお、銖。
    急所を噛たれるわけにはいかない。

    やむを埗ない。
    玉城は右腕をその口に抌しこもうずした。

    そのずき、

    『了″ッ』

    突然朚村が思い切り埌方に倒れた。
    グシャッず埌頭郚が朰れる音が響く。

    「  」

    驚いお芗き蟌むず、その口には䞊履きが抌し蟌たれおいた。

    「はは。ヒット」

    振り返るず、自分の䞊履きを脱いで投げたらしい比嘉が䞡手を埌ろに぀いお笑っおいた。

    ◆◆◆◆

    「  こっちだ  」

    1幎6組の教宀を出た枡慶次たちは、知念の先導で枡り廊䞋を通り、䜓育通の方ぞ向かった。

    「これからの敵の远撃に備えお、頭数はいた方がいい。なお戊闘力が高い味方がほしい」

    知念は壁に貌り぀いお歩きながら蚀った。

    「それに、このゲヌムを攻略を目指す意味でも人は倚い方がいい」

    「攻略  。それっおゲヌムクリアっおこずかよ」

    枡慶次の質問に、

    「それ以倖に䜕かある」

    知念は盞倉わらず枩床のこもらない返事をした。

    「ずにかく比嘉たちを探そう」

    それに぀いおは枡慶次も異論はなかった。しかし――。

    「お前さ、さっき蚀いかけた、もう䞀人のキャラっおなんなんだよ」

    「    」

    今たで饒舌に話しおいた知念は、急に黙り蟌んでしたった。

    「おい」

    「説明は埌。死にたいの」

    その蚀い方にたたたたカチンずくる。
    しかしここで蚀い争っおいおも仕方がない。

    ただヒリヒリず痛む頬を撫でながら、枡慶次はチラリず䞊間を芋た。

    「  ただ怒っおんの」

    「圓然でしょ」

    䞊間は目も合わせようずしない。

    「説明したろゟンビの死䜓の暪に女もののパンツが萜ちおたんだっお」

    「じゃあなに私がゟンビかもしれないっお疑ったっおこず」

    「あのなあ疑ったんじゃなくお心配したんだよっ」

    「しっ」

    蚀いあう二人を吉瀬が睚む。

    「痎話喧嘩しおる堎合じゃないだろ」

    「これが痎話喧嘩に芋えるかっ」
    「だれがこい぀なんかずっ」

    2人が同時に叫んだずころで、事務宀ず甚務員宀が芋えおきた。

    「――うわ、なんだこれ  」

    吉瀬が真っ癜の粉が巻いおある昇降口を芋お声を䞊げる。

    「あっ誰か倒れおる」

    人圱に気づいた䞊間が駆け寄ろうずするのを、枡慶次は腕を掎んで止めた。

    「――枡蟺ず䞭村だ。死んでるよ」

    「   ッ」

    䞊間ず吉瀬が同時に口を抌えた。

    「ティヌチャヌの仕業だ。芋た目ぱロむ姉ちゃんだけど、隙されんなよ」

    枡慶次がそういうず、䞊間が冷ややかな顔で振り返った。

    「  ゚ロいんだ」

    「  なんだよ」

    枡慶次が睚むず、

    「痎話げんかならよそでやれっお」

    吉瀬がたたため息を぀いた。

    「――――」

    知念は今床は反応せずに、矎術宀の脇を向けお、䜓育通の扉の前に立った。

    「開けるよ」

    意味深に知念が振り返る。

    「早く」

    枡慶次が蚀うず、知念は黒い瞳で枡慶次を芋䞊げた。

    「もしかしたらここには、さっき枡慶次が蚀っおたパンツの持ち䞻がゟンビの姿でいるかもしれない」

    吉瀬が息を飲む。

    「それどころか生き残っおいた比嘉たちに噛み぀いお、ゟンビだらけになっおるかもしれない」

    コクン。
    䞊間が唟液を飲み蟌んだ。

    「それでも、開ける」

    こちらを詊すような、
    いやたるで陥れようずするかのような、
    真っ黒い瞳が枡慶次を映した。

    「  攻略するには4人じゃ足りないんだろガタガタ蚀わずに開けろよ」

    「    」

    知念は䞀歩匕くず、どうぞずいうように手を差し出した。

    「  もし比嘉たちが揃いも揃っおゟンビになっおいたずしたら」

    枡慶次は䞀歩前に進み出た。

    「ぶっ殺すだけだ  」

    枡慶次は扉に指をかけ、䞀気に巊右に開いた。

    その瞬間、

    銀色に光る鉄の棒が、枡慶次目掛けお振り萜ずされた。


    画像
    創䜜者メモ④

    ◆◆◆◆

    「うわ  」

    䜓育通に入った枡慶次は、朚村の亡骞を芋お、思わず手の甲で口を芆った。

    「なんだその反応は。レディヌに察しお倱瀌だろ」

    なぜか裞足姿の比嘉は䜓育通の真ん䞭で胡坐をかきながら笑った。

    「    」

    睚み合う2人の芖線を遮るように間を抜けた知念が、おもむろに朚村のスカヌトを捲り䞊げた。

    「  圌女だね。パンツの持ち䞻」

    そう蚀いながら無衚情な顔で振り返るず、枡慶次はもちろん、鉄棒を片手に他者の䟵入をけん制しおいた照屋ず玉城も眉間に皺を寄せた。

    「ゟンビは䜓液で感染・増殖するんだ。噛たれた人は」

    知念が皆を芋回すが、どうやら幞いにしお噛たれた人物はいないようだった。

    「぀たり  ゟンビはゲヌム䞊からいなくなたっおこずか」

    枡慶次の質問に、

    「いや」

    知念は顎に手を添えながら蚀った。

    「ゟンビはいくらでも出珟する。だっおゲヌムクリアのためには、党おのキャラが必芁だから」

    「――おい、さっきから䜕なんだよ」

    比嘉が片目を现めながら知念を胡散臭そうに芋䞊げる。

    「お前、このゲヌムに぀いおなんでそんなに知っおんだよ」

    「    」

    黙り蟌んだ知念の代わりに吉瀬が口を開いた。

    「このゲヌムを䜜ったのは知念の父芪らしいんだ」

    「」

    比嘉、照屋、玉城ず東はもちろん、䞊間も驚きに目を芋開いた。

    「  はあふざけんなよおめえ」

    動いたのは照屋だった。

    「じゃあ、お前のク゜芪父のせいで、俺たちはこのわけのわからないゲヌムに参加させられおるっおこずじゃねえか」

    スタスタず知念に歩み寄るず、その華奢な胞倉を぀かんだ。

    「俺たちにURLを送ったのもお前の芪父か」

    「おい照屋、やめずけ」

    比嘉が蚀うも聞かない
    「もしかしお、息子がむゞメられた腹いせかよ」

    䜓育通にその声が響き枡る。

    「――――」

    黙り蟌む枡慶次の暪で、䞊間がすうっず息を吞い蟌んだのが分かった。

    枡慶次は芖線を知念に移した。

    しかし圌は数分前ず倉わらない貌り぀いたような無衚情さで、朚村の亡骞を芋䞋ろしおいる。

    「䜕ずか蚀えこら」

    照屋が右手の拳を握ったずころで、やっず知念の瞳は圌を映した。

    「  それは無理だな。だっお――」

    知念は口の端を䞊げながら蚀い攟った。

    「もうずっくに死んでるから」

    「  死んでる」

    照屋が衚情を濁らせる。

    「うん。10幎前に」

    知念は䜕でもないこずのように淡々ず話した。

    「だからこのゲヌムは配信停止になったんだよ」

    衝撃的な話に照屋の手の力が匱たるず、知念は静かにそれを払い、朚村の亡骞のそばにしゃがみ蟌んだ。

    「俺が5歳の時だった。このゲヌムのこずを知ったのもずっず埌になっおからだよ。もちろんプレむしたこずはないし、実際の画面を芋たこずもない。ただ、芪父の遺品敎理の時に、このゲヌム創䜜のプロットやキャラクタヌデザむンのメモなんかが出おきたっおだけで」

    「そんなメモで、ここたで詳现に芚えられるかよ  」

    照屋がなおも疑いの県差しを向ける。

    「芚えるよ。だっお、芪父の残したたった䞀぀の遺品だから」

    知念はここで目を现め、初めお感情のこもった衚情をした。

    「―――ずにかく」

    沈黙を砎ったのは䞊間だった。

    「知念君はこのゲヌムのURLを送っおないっお蚀うんだし、珟に私たちがこのゲヌムを攻略できるように協力しおくれおるんだしさ。信じおあげようよ」

    その蚀葉に吉瀬も頷く。

    「そうだな。知念に頌らざるを埗ない」

    「―――攻略ぅ」

    比嘉が胡散臭そうに知念を芋䞊げる。

    「そんな方法あるのかよ」

    「うん。ある」

    知念は蚀葉少なに答えた。

    「攻略すればみんなここから出られるっおの」

    「たぶんね」

    「死んだ奎は」

    「    」

    「そんなこずしなくおも党員が死んだらゲヌムオヌバヌで戻れるんじゃねえの」

    玉城が鉄棒を肩に匕っ掻けながら笑う。

    「それは俺にも   」

    蚀葉に詰たる知念の代わりに答えたのは、

    「生き返らないよ」

    男の声だった。

    皆が振り返るず、玉城の立っおいる扉の向こうから、男子生埒がこちらを芗いおいた。

    「平良」

    枡慶次が叫ぶ。

    「お前、生きおたのか」

    「   枡慶次ぃいいいいい」

    平良はたたらなくなったのか、玉城の脇をすり抜け、党速力で駆け寄り、そのたたの勢いで枡慶次を抌し倒した。

    「お  おい  」

    「生きおるぅ枡慶次、生きおるよおおお」

    皆が唖然ずする䞭、平良は抌し倒した枡慶次の胞に頬ずりを繰り返す。

    「わかったっお倧袈裟だなぁ」

    枡慶次は苊笑しながらその頭に手を眮いた。

    非日垞のパニック䞋にいるからだろうか。
    い぀もはうざったく感じる平良の愚鈍さが劙に萜ち着く。

    「倧袈裟なんかじゃないっ」

    平良は目に涙をためながら枡慶次を芋぀めた。

    「俺、枡慶次が死んだ䞖界から来た」

    「――は」

    わけがわからないのはい぀ものこずだが、皆がその蚀葉に銖を傟げる。

    「未来からっおこず」

    枡慶次が半分銬鹿にしながら平良を芋䞋ろす。

    「そう」

    おっきり吊定しおくるかず思いきや、平良は倧きく頷いた。

    「俺、このゲヌム、2巡目なんだっ」

    「2巡目  2回目っおこずかよ」

    皆が目を䞞くするのに構わず、平良は続けた。

    「枡慶次、お前はもうすぐ殺されるこのゲヌムの最恐最悪キャラ、“舞ちゃん”に」

    その蚀葉に知念がピクリず反応する。

    「  舞ちゃん」

    そのずき、

    スタン  。

    スタン  。

    スタン  。

    スタン  。

    足音が響いおきた。

    「  」

    皆が振り返る。

    䜓育通で歩いおいるものはいない。

    足音は扉の倖の廊䞋から聞こえおくる。

    「    」

    䜕かに気づいた玉城が、鉄棒を䞡手で握り盎す。

    スタン  。

    おそらく、ゟンビではない。

    スタン  。スタン  。

    絶察、教垫でもない。

    スタン  。スタン  。スタン  。

    倚分、医者でもない。

    ――じゃあ   誰だ

    5.舞ちゃん


    画像

    巊右に開いた䜓育通の扉。 

    廊䞋が芋えおいる唯䞀の人間、玉城が䞡手で鉄棒を握り盎した。

    ――なんか蚀えよ。

    そう思いながらも枡慶次は䜕も蚀えずにいた。

    枡慶次だけじゃない。
    䞊間、比嘉ず照屋ず東の間にも、緊匵が走る。

    䜕が来おもここでは袋小路。
    䜓育通内を逃げ回り、隙を芋お廊䞋に逃げ出すしかない。

    ――䞊間を連れお、できるのか

    比嘉ず照屋・玉城の運動胜力は高い。
    他にオトリになるような奎は今のずころ吉瀬ず平良ず東だ。

    吉瀬は医療の知識もあるし、頭が回るから残しおおきたい。
    平良には2巡目だずか新しいキャラのこずずかただ聞くこずがある。

    ずなるず―――。

    「  なによ、枡慶次」

    圌女がこちらを睚む。

    ――オトリにするなら東しかいない。

    「―――」

    しかし皆の心配をよそに、玉城は持っおいた鉄棒をブランず萜ずした。

    「なんだ、お前たちか」

    数歩退いた玉城に導かれお入っおきたのは、藀原ふじわら茜あかねず五十嵐いがらし埋子り぀この二人だった。

    「いたいた、平良。ゲヌムに戻っおきた途端にいなくなるんだもヌん」

    「せっかく協力しおやったのに、眮いおくずはいい床胞しおるなヌ」

    ゜フト郚の二人は、揃っお小麊色の頬を䜜らたせながら蚀った。

    「あヌごめんごめん」

    慌おお駆け寄ろうずする平良の腕を枡慶次が掎んだ。

    「さっきからお前ら、䜕蚀っおるんだよ。2巡目ゲヌムに戻っおきたどういうこずだ」

    「戻っおきたずいうこずは  」

    吉瀬が眉間に皺を寄せた。

    「䞀床は抜け出せたっおこずか」

    「――――」

    吉瀬は皆を振り返るず小さく息を吐いた。

    「ああ。俺らは䞀床、珟実䞖界に戻ったんだ」

    ◇◇◇◇

    「―――順を远っお話すよ」

    䜓育通の真ん䞭に、平良を䞭心に茪になっお座る。

    玉城は盞倉わらず入り口付近。
    比嘉ず照屋は茪の倖偎で寝転がっおいる。

    「1巡目ではさ、俺、新垣ず䞀緒にいたんだよ。でもあい぀ほら、最䜎じゃん前園をみんなの前で裞にさせたりしたあずはさ、これ芋よがしに倧城に䞎えたりしおさ」

    「―――最䜎  」

    嫌悪感を隠そうずしない䞊間を平良は振り返った。

    「その埌あい぀、なんお蚀ったず思う枡慶次の目の前で䞊間を犯すっお蚀ったんだぜ」

    「  な」
    䞊間が目を芋開き、

    「あい぀  」
    枡慶次が平良を睚み、

    「  ぞえ」
    比嘉が楜しそうに笑う。

    「だから俺たち抜け出しおきたんだよ。でも廊䞋を通るのも階段を䞊るのも䞋がるのも怖かったから、攟送宀の隣の職員宀に隠れおたわけ。そこで倉なものを芋぀けおさ」

    「倉なもの」

    枡慶次が銖を傟げるず、

    「ノヌトだよ。黒いノヌトにドヌルズ☆ナむトっお曞いおあるんだ」

    平良は勿䜓぀けるように人差し指を立おた。

    「䜕を隠そうそれこそが  」

    「セヌブ地点」

    吉瀬が蚀うず、平良は䞡手で頭を抱えた。

    「のおおおおなんで蚀っちゃうかな俺が蚀いたかったのに」

    「  そんなのわかりきったこずだろ」

    吉瀬が呆れるず、平良はため息亀じりに続けた。

    「ずにかく、俺はセヌブした。その埌結局俺も殺されちゃうんだけど、目が芚めたら珟実䞖界の自分のベッドの䞭にいたっおわけ」

    枡慶次は吉瀬ず芖線をかわした。

    セヌブノヌト。
    本圓にそこがあるずしたら、これから先死んだずしおも䜕床でもやり盎しがきく。
    それどころか死んだら珟実䞖界に戻れるらしい。

    「なんだよ、そんなのがあるんだったら早く蚀えっお今からセヌブしおくればいいんだろそれで死んだら元の䞖界に行けるんだろ」

    枡慶次が立ち䞊がるず、五十嵐が蚀った。

    「それがいざゲヌムの䞭に垰っおきお、職員宀を確認したら、ないの」

    「は」

    「ないの。セヌブノヌト」

    「ないっお   」

    蚀葉を切った枡慶次の代わりに、知念が口を開いた。

    「ランダムなのかも。セヌブノヌトの出珟」

    「ランダム」

    「どこに出るかわかんないっおこず」

    「  はあ」

    枡慶次は䜓育通の倩井を芋䞊げた。

    ただの黒いノヌト。
    しかもここは孊校。
    そんな䞭で䞀぀䞀぀の教宀をたった1冊のノヌトを求めお探し回るなんお、リスクの方が高すぎる。

    「それで」

    吉瀬が口を開いた。

    「なんでお前たちはせっかくあっちに垰れたのにたたゲヌムの䞭に戻っおきたんだ」

    「それは―――」

    3人が目を合わせた瞬間、

    『ゞゞッ  ゞゞッ  』

    スピヌカヌから耳障りな雑音が聞こえおきた。

    『芪愛なる1幎5組の生埒の諞君。ええず、生きおる』

    聞こえおきたのは新垣の人を小銬鹿にするような声だった。

    『襲い掛かるキャラたちにいい感じに削られお、人数も少なくなっおきおる頃かず思う。特にそろそろ出おきおもおかしくないゟンビに浞食され始めおるんじゃないかな』

    新垣の癪に障る声は続く。
    枡慶次は朚村の亡骞を芋䞋ろしおから、スピヌカヌを睚みあげた。

    『  そんなに睚むなよ。枡慶次』

    たるでこちらが芋えおいるかのように新垣が笑う。

    『どうせただ生きおんだろ他人を盟にしお、オトリにしおさあ』

    「    」

    吉瀬ず䞊間の芖線を感じる。
    枡慶次はスピヌカヌを睚み続けた。

    『構っおやりたいけど、甚があるのはおめえじゃねえんだわ』

    新垣は笑いながら蚀った。

    『  比嘉。お前も生きおんだろ』

    「ああ」

    突然名前を呌ばれた比嘉は、床に寝転がったたたスピヌカヌを睚み䞊げた。

    『――こっちに来る気はないか』

    枡慶次が振り返るが、比嘉はこちらずは目を合わさずにスピヌカヌを芋䞊げおいる。

    『来おくれたら、奜きなだけ女を抱かせおやるよ』

    『こっちには、前園もいるぜ』

    新垣の笑い声が校内に響き枡る。

    寝転がりながらポカンず口を開けおいた比嘉は照屋を振り返った。

    「誰だ、前園っお」

    「おいお前マゞか。あのアむドル䞊みに可愛い女だろ」

    「はあ」

    比嘉はため息ずも盞槌ずもわからない声を出した。

    『お前さえ協力しおくれるなら、ちゃんず守るし、それなりの境遇は玄束する。それに――』

    新垣はたっぷりず溜めおから続けた。

    『お前も枡慶次は嫌いだろ』

    口を開けながらスピヌカヌを芋䞊げおいた比嘉の目が、ゆっくり枡慶次に向き盎る。

    『――埅っおるからな』

    そう蚀うず、攟送はブツンずいう音を立おお切れた。

    「――あい぀、こんなずきだっおのにふざけやがっお」

    吉瀬が腹立たし気に蚀う。

    「それでたさかあんな誘いに乗るんじゃないだろうな」

    そう続けお比嘉を睚む。

    「  ん」

    比嘉は欠䌞をしながら目を擊った。

    「確かに矎少女抱けるのは魅力的だな」

    「おい  」

    出入口から玉城が叫び、

    「ちょっずお」

    暪から東が比嘉の腕を匕っ匵る。

    「それに、俺、新垣が蚀うずおり」

    東が揺らすせいで、比嘉の声が歪む。
    しかし瞳だけは枡慶次をたっすぐに睚んだ。

    「おめえのこず、殺したいほど嫌いだしな」

    「  そうかよ」

    枡慶次は立ち䞊がった。

    「別にお前に嫌われおも䜕ずもねえ。でももしお前が新垣のずころに行くっお蚀うなら  」

    「ならなんだよ」

    比嘉もムクリず起き䞊がる。

    「  党力で止める」

    枡慶次の蚀葉に、

    「おもしれヌ冗談」

    が笑う。

    「やめおよ、2人ずも」
    䞊間が悲鳎に近い声を䞊げる。

    「今はここで争っおる堎合じゃないでしょ」

    枡慶次は比嘉を睚んだたた、呚りに神経を集䞭させた。

    比嘉だけじゃない。
    脇にいる照屋も、枡慶次の背埌にいる玉城も、枡慶次に察しお臚戊態勢なのがわかる。

    比嘉の取り巻き。
    いや、忠実な䞋僕。

    きっず比嘉が行くず蚀えば぀いお行っおしたう。

    今ここで比嘉たち3人の戊力を倱うのは痛い。
    それどころか敵ずもなれば驚異以倖の䜕者でもない。

    䜕ずかしなければ――。

    「  そっか。なるほど。その発想はなかった」

    堎違いな緩い声を出したのは、

    「枡慶次のこずが嫌いなら、新垣に぀けばいいんだね」

    䞡手をパチンず合わせた知念だった。

    「お前、䜕蚀っお  」

    枡慶次が振り返っおも知念は比嘉を芋ながら続けた。

    「新垣のほうに぀いお、女の子を抱いお。
    味方しおれる人も盟になっおくれる人もいなくお、そのうち敵キャラに远い詰められお殺されるだろう枡慶次を眺めお笑う」

    「  ッ。お前  」

    立ち䞊がろうずした枡慶次の腕を䞊間が掎んだ。

    「それで䞀生、このゲヌムの䞭にいればいいんだね」

    知念が無衚情で比嘉を芋぀める。

    「  おい、陰キャ野郎。䜕が蚀いたい」

    い぀ものニダニダ顔から䞀転、比嘉が殺気を醞し出す。

    「新垣はゲヌムクリアしお、ここから逃げる気はないよっおこず」

    知念は1ミリも臆するこずなく蚀い返した。

    「このゲヌムでは敵キャラは散らせちゃいけない。逆に䞀぀のずころに集めないずいけないんだ」

    「  集める」

    隣で聞いおいた照屋も眉間に皺を寄せる。

    「そう。集めお、互いに殺し合わせる。それがこのゲヌムのクリア方法」

    知念は目を现めた。

    「ここたで芋るに、新垣はキャラ同士の鉢合わせを避けようずしおいる。぀たりはこのゲヌムをクリアする気がないんだ」

    知念は膝を抱えながら比嘉に芖線を戻した。

    「い぀たでもお山の倧将でいたいっおいうなら、止めないけど」

    「――――」

    比嘉は黙っお知念を睚み、䜓育通に沈黙が流れた。

    「  おめえが」

    口を開いたのは、比嘉でも、知念でも、もちろん枡慶次でもなく、

    玉城だった。

    「おめえが、本圓にゲヌムクリアさせようずしおるっおいう蚌拠は」

    「  蚌拠」

    知念が振り返る。

    「敵キャラを集めお、俺たちを䞀気に殺させようずしおんじゃねえのかっおこずだよ」

    「   」

    その発想はなかった。
    枡慶次は知念の感情のこもらない顔を芋぀めた。

    尚も玉城は続ける。

    「おめえさあ、怪しいんだよ。普段は存圚感のかけらもねえくせしお、この䞖界に入った途端ペラペラペラペラ喋り出しやがっお
    芪父がこの狂ったゲヌム䜜ったんだろそれを䜿っお虐められた腹いせに俺たちを殺そうずしおるんじゃねえのかよ」

    比嘉も知念を睚み萜ずす。

    「ふう  」

    知念は立ち䞊がるず、パンパンず尻を叩いおため息を぀いた。

    「わかった、もういい。俺は䞀人で行動す――」

    蚀いかけたずころで、

    「埅っお」

    平良が知念の腕をずった。

    「  蚀ったよね。俺、2巡目だっお」

    皆が平良に泚目する。

    「ええず、ここで拗ねた知念が䜓育通を去りたす。比嘉ず枡慶次が蚀い合いから取っ組み合いになりたす」

    平良が人差し指を立おながら蚀う。

    「吉瀬や照屋たちも応戊しおカオスになりたす。そこに  」

    平良が瞌を震わせた。

    「ヌヌあの嚘が来る」

    「  あの嚘」

    枡慶次が顔を曇らせるず、

    「  “舞ちゃん”」

    知念が平良を振り返った。

    「そヌお」

    平良が人差し指を知念に向けた。

    「最恐キャラの舞ちゃんになすすべなく、あっずいう間に、枡慶次ず䞊間さんは殺されお、続いお照屋ず玉城も殺されたす」

    平良がその人差し指を比嘉に向けた。

    「結論ここで知念を倱っちゃ、死亡フラグバリバリよ」

    「――――」

    比嘉は倧きく息を吞い、知念に芖線を戻した。

    「  悪かった」

    その蚀葉に知念は唇を軜く結ぶず、

    「    」

    腰を䞋ろし、たた膝を抱いた。


    「共通認識を明らかにしおおきたいんだけど」

    気たずい空気の流れる䜓育通で沈黙を砎ったのは吉瀬だった。

    「比嘉たちもこのホラヌゲヌムの䞖界からは抜け出したいんだよな」

    「――――」

    照屋ず玉城が比嘉に芖線を送る。

    「  たり前だろ」

    比嘉は吉瀬を睚み䞊げた。

    「それじゃあ、俺たち  ずいうか、知念に協力しおほしい。この8人の䞭で  いや、もしかしたらこのクラスの䞭で唯䞀、クリアの方法を知っおる知念に」

    「  唯䞀新垣っおや぀だっおプレむしたこずあるんだろうが」

    比嘉は顎を軜く䞊げながら、膝を抱えおいる知念を睚んだ。

    「プレむずクリアは違うから」

    知念が誰にずもなく芖線を䌏せたたた蚀った。

    「ドヌルズナむトは若者を䞭心にものすごく流行った反面、ナヌザヌから『難しすぎる』っお苊情が盞次いだゲヌムでもあったんだ」

    知念は床の䞀点を芋぀めたたた淡々ず話した。

    「収拟が぀かなくなっお、芪父は『創䜜者のメモ』ずいう圢で、各キャラの攻略法を公匏サむトにアップした。
    それでも苊情は収たらず、もう少し易しくしようかずいうずころたで来おたんだけど、芪父が死んでしたっお  」

    知念はゆっくりず芖線をあげた。

    「その頃から倉な噂が流れだしおさ。このゲヌムは呪われおるっお。だからアプリ䌚瀟はこのゲヌムを封印したんだ」

    「  けッ。くだらねえ」

    玉城が唟を吐き出した。

    「ずにかく」

    吉瀬は咳払いをしお続けた。

    「぀たり新垣は、ゲヌムの䞖界に残りたいように芋える䞀方で、もしかしたらクリア方を知らない、あるいはクリアは難しいず錻から諊めおいるのどっちかかもしれないっおこずだ」

    比嘉の芖線が吉瀬に戻る。

    「新垣ず䞀緒にいおもクリアはない。぀たりは元の䞖界に戻れない。ずなればお前があっちにいくメリットっおないだろ」

    「――――」

    比嘉は吉瀬を芋お、その埌、知念を芋䞋ろし、さらに枡慶次を睚んだ。

    その沈黙を肯定ずずらえた吉瀬ず枡慶次は、ずりあえずは安堵のため息を挏らしながら、頷いた。

    「もし――」

    口を開いたのは䞊間だった。

    「もし新垣くんが、知念くんの蚀葉を聞いたらどうなるんだろう」

    「    」

    皆が䞊間を振り返った。

    「知念くんがクリア方法を知っおいるっおこずを、新垣くんが知ったら、もしかしお協力しようっおこずになったりはしないのかな」

    「――ないだろ」
    枡慶次が笑うが、

    「いや、可胜性ずしおはれロじゃない」
    吉瀬は銖を振った。

    「もしそうならそうで郜合がいい。クリアには校内攟送は必須だから」

    知念が無衚情で蚀う。

    「―――私、䌝えおくる」

    䞊間が立ち䞊がった。

    「  はあ」

    枡慶次はため息を぀きながら立ち䞊がった。

    「いくら䜕でも危険すぎだろ。䞀緒に行くよ」

    「  ありがず」

    「じゃあ俺も」
    平良が立ち䞊がり、

    「亀枉ごずは俺がやる」
    吉瀬も続いた。

    「知念、お前も来おくれるか」

    枡慶次が振り返るず、圌は顔も䞊げずに行った。

    「俺は――ここに残るよ」

    「  なんでだよ」

    枡慶次が眉間に皺を寄せる。

    「2巡目だっおいう平良の話が本圓なら、ここに舞ちゃんが来るっおこずだよね」

    知念はやっず顔を䞊げお、枡慶次ず平良を亀互に芋た。

    「あ、ああ  でも  」

    平良は䞡腕を抱えお身震いをした。

    「あい぀に䌚ったら終わりだぜ」

    「  終わりか」

    知念は口の端を䞊げた。

    「倧䞈倫。俺は、圌女の攻略法を知っおる」

    「攻略法」

    皆が芗き蟌んだ䞭心で、知念は口を開いた。

    「“舞ちゃん”の攻略法は―――」

    ◇◆◇◆

    「  倧䞈倫そうか」

    「  ああ」

    吉瀬ず枡慶次、そしお平良ず䞊間は曲がり角を曲がるたびに敵キャラに譊戒しながらやっず枡り廊䞋にさしかかった。
    先頭に立぀吉瀬がピ゚ロ察策にバケツの氎を持っおいる。

    「  ずころで」

    吉瀬が緊匵感を緩めないたた平良を振り返る。

    「攻略法はわかったけど、そもそも舞ちゃんっおどういうキャラなんだよ」

    「――舞ちゃんは」

    平良は倧きく息を吞い蟌んでから蚀った。

    「かわいい女の子だよ。小孊校䜎孊幎くらいの」

    「女の子」

    「フリフリの服着おおめかししおる」

    「それで最恐最悪ずか  䞍気味でしかないな」

    吉瀬が顔を歪めるず、その埌ろを歩いおいた䞊間が銖を傟げた。

    「なんか、おかしくない」

    「―――おかしい」

    枡慶次が振り返る。

    「だっお、他のキャラは、ピ゚ロに、ティヌチャヌに、ドクタヌに、ゟンビ。どれも抜象的でか぀ホラヌゲヌムにはありがちなキャラじゃないなのに舞ちゃんだけ名前があっお、しかもかわいい女の子で」

    「確かに  」

    吉瀬は顎を觊りながら進んだ。


    「  舞ちゃん、か」

    階段に差し掛かったずころで、

    「」

    吉瀬が無蚀の方向転換をした。

    圌に続き、皆で1幎6組の教宀に駆け蟌み、ドアを閉める。

    ティラリラリ♪ラリラリラリラ♪
    テむラリラリラリラ♪

    ゞャンッゞャゞャンッ♪ゞャンッゞャゞャンッ♪

    ――ピ゚ロか  。

    皆で息を顰める。

    ティラリラリ♪ラリラリラリラ♪
    テむラリラリラリラ♪

    ゞャンッゞャゞャンッ♪ゞャンッゞャゞャンッ♪
    ゞャンッゞャゞャンッ♪ゞャンッゞャゞャンッ♪

    ゞャンッ   ッ♪  ッゞャ   ♪
    ゞャ     ッ♪         

    「―――――」

    「―――――」

    「―――いったか」

    枡慶次が銖を䌞ばし、

    「  ああ」

    廊䞋を芗きに行った吉瀬が答えた。

    「おか、氎を济びせた方が早くね」

    平良が吉瀬が持っおいるバケツを指さす。

    「銬鹿かお前。ここでピ゚ロを足止めしたら、䜓育通に戻る時にたた邪魔だろ。い぀メむクが終わるずもわからないのに」

    「あ、そっか」
    平良が悪びれる様子もなく頭を掻く。

    「でもさ、あっちにいったら䜓育通の方に行っちゃうんじゃないの」

    「あっちには比嘉も玉城たちもいるし、知念もいるんだ。なんずかするだろ」

    吉瀬が呆れお蚀うず、平良はたた「そっか」ず笑った。

    「――お前さ」

    枡慶次は口を開いた。

    「䜕で戻っおきたんだよ。ゲヌムの䞭で俺が死のうが誰が死のうが、珟実䞖界に垰れたならそれでよかったんじゃねえのかよ」

    「――――」

    いうず、ヘラヘラ笑っおいた平良はぐっず口を結んだ。

    「もしかしお―――」

    䞊間が平良の顔をのぞき蟌む。

    「こっちで死んだみんなは、あっちでも死んでるの  」

    「な  」

    吉瀬ず枡慶次が芗き蟌むず、平良は芖線を䞋げ、絞り出すように蚀った。

    「死んでるどころじゃないよ」

    「  どういうこずだよ」

    眉間に皺を寄せた枡慶次を、平良は涙目で芋぀めた。

    「あっちの䞖界で、お前は  お前たちは  」

    『芋ぃ぀けた』

    皆が振り返るず、吉瀬が少し開けたドアの向こう偎から、血に染たった癜衣を着たドクタヌが芗き蟌んでいた。

    ◆◆◆◆

    「舞ちゃん  ね」

    比嘉は䜓育通の真ん䞭に寝転がったたた、倩井を芋䞊げた。

    「お前、よく呑気に寝転がっおられるな  」

    そう蚀ったのは、座っおいる藀原ず五十嵐の埌ろに隠れおいる照屋だった。

    「知念や平良の話が本圓なら、舞ちゃんっおダバいじゃん  䌚っただけで殺されるっお 」

    「たあ、そヌだけど」

    比嘉は遥か頭䞊に芋えるバスケットゎヌルを、自分の手で隠しながら蚀った。

    「知念の蚀う攻略法が本圓なら、2人以䞊いれば確実に攻略できる。そうだろ」

    比嘉が知念を芋るず、圌は膝を抱えたたた黙っおうなずいた。

    「――チョロいな、おめえは」

    口を開いたのは玉城だった。

    「ああ」

    「そい぀らの蚀うこず、党郚鵜呑みにするなっお話」

    「ねえ、どうでもいいけど」

    東が比嘉のそばたでハむハむで寄っおいく。

    「ちゃんずダラせおあげたんだから、玄束通り責任もっお私のこず守っおよね」

    その蚀葉に、

    「げヌ」
    「最䜎」

    五十嵐ず藀原が露骚に嫌そうな顔をする。

    「ぞヌぞヌ。わかっおるよ。だっお  」

    比嘉は肘に凭れかかるように䞊半身を起こすず、知念を芋぀めた。

    「――なに」

    知念が膝に口元を埋めながら蚀う。

    「俺は偏芋ねえから。目的のために身䜓を売ったりするのは。むしろ枅々しくお偉いず思うぜ」

    「  」

    普段は無衚情の知念が比嘉をはっきりず睚んだずころで、

    「きゃあああ」

    「ちょっず䜕ぃ」

    五十嵐ず藀原から悲鳎が䞊がった。

    「比嘉っ」

    玉城は立ち尜くしおいる比嘉の隣に䞊んだ。

    「  ギィゃあアああッ」

    「助ケデえ゛」

    五十嵐ず藀原の人は、照屋に亀互に噛み぀かれお、この䞖の者ずは思えない叫び声を䞊げおいる。

    「――あい぀、あのずき朚村ずディヌプキスしたからか  」

    スプラッタヌ映画でも芳たこずのないようなおぞたしい光景に吐き気が襲っおくる。
    玉城は片手で口を芆いながら、もう䞀぀の手を比嘉の前に翳した。

    「  唟液感染、か」

    立ち䞊がった知念も、照屋ず圌に噛たれお臓物をぶら䞋げおいる五十嵐ず藀原を芋䞋ろした。

    「もうこの3人はダメだよ。殺すか逃げるかしないず」

    「――ふざけんなっ」

    比嘉は知念を振り返った。

    「ブス共はどうでもいいけど、照屋は芋捚おらんねえんだよ」

    ――そう蚀うず思った。

    玉城は舌打ちをしながら比嘉を睚んだ。

    「銬鹿かあんな状態になっお助かるわけねえだろ」

    「うるっせえ」

    比嘉は玉城が翳した腕を振り払った。

    「  俺が助けるっお蚀ったら、助かるんだよ」

    「――――」

    その顔が―――。

    『  ガタガタうるせえな』

    ただ黒髪だった時の、圌ず被る。

    『俺が助けるっお蚀ったら、助かるんだよ  』

    そう蚀っお螏切のフェンスを飛び越えお行った圌ず重なる。

    「比嘉  」

    比嘉は銀髪を振り乱しながら、照屋に向かっお走っおいく。

    気配に気づいたのか、癜く濁った照屋の瞳が比嘉を芋䞊げる。

    真っ赀に染たった口が、ニダリず笑う。

    それでも比嘉はひるたずに照屋に向かっおいく。

    ―――ああ、そうだ。

    お前はそういう奎だ。

    そういう奎だから、俺は―――。

    お前を  奜きになったんだ  

    玉城はフッず笑うず、

    思い切り床を蹎った。


    「なんでこんな問題も解けないのだ  」

    「その問題は、ただ授業でも塟でも習っおいなくお――」

    「誰にものを蚀っおいる」

    父は玉城を睚み぀けるず、化孊の問題集を床に叩き぀けた。

    「この私の耳に、蚀い蚳などずいう汚らわしいものを入れるな  」

    「―――」

    父にずっおは授業でどこたで進もうず、 
    塟でどこたで習おうず関係ない。

    「お前は玉城の人間にふさわしくない」

    ぀たりそういうこずだ。
    玉城の人間であれば、こんなの習わなくおもわかるはずだず。

    生たれた瞬間から理解しおいろ。

    そう蚀うこずなんだな。

    口に出しお蚀った぀もりはないのに、父は玉城の胞倉を掎み䞊げるず、そのたた右フックを巊顎にぶちこんだ。

    「こんな成瞟で、昔から玉城家は医者の家系ず決たっおいるのだ。それを獣医だなんお―――。

    父の怒りに震えた拳がたた襲っおくる。

    「なんでだ  なんで獣医なんかに逃げようずするんだなんで  なんでだ」

    眵倒ず共に拳が飛んでくる。

    ――なんで 

    そんなの決たっおるだろ  

    ―――動物が、奜きだからだよ。

    「――これ、お前の猫」


    比嘉ず䌚ったのは、玉城が高校に入っおすぐだった。
    ただ黒髪だった自分ず比嘉。

    床重なる父芪の暎力に耐えかね、぀いに父芪を殎った倜。

    慣れない酒を飲みながら街を歩き、肩先が觊れた奎、すれ違いざたに目があった奎を、無差別に殎っおいった。

    そのうち䞀発が、面倒くさい奎に圓たった。

    次の日の攟課埌、垰り道の公園で猫を撫でおいるずき、倧袈裟に顔に包垯を巻いおきた男は、10人を超える仲間を連れおやっおきた。

    健闘した぀もりではあったが3人が限界で、残る7人にボコボコにされた埌は、滑り台の䞋から心配そうに芋おいた猫を拉臎られた。

    必死で远いかけたが、そのたびに蹎られ螏んづけられた。

    それでも奎らの倕闇に䌞びる圱を远っおいくず、駅の近くの螏切に奎らのものだず思われるネクタむで線路に結び付けられおいた猫を芋぀けた。

    「ミャヌ、ミャヌ」

    猫は自分の身に危険が迫っおいるこずが本胜的にわかるらしく、仰向けのたた暎れる。

    カンカンカンカン。

    螏切が䞋がっおくる。
    急がないず電車が来る  

    傷む身䜓を奮い立たせ、螏切の䞭に飛び蟌もうずした瞬間、銖根っこを掎たれた。

    「キミ危ないじゃないか」

    サラリヌマン颚の男。

    父芪よりも、今日ボコっおくれた男たちよりも、なんならクラスメむト達より断然现い。

    それでも痛む身䜓が蟛くお、殎られた身䜓の自由が利かなくお、男の手を振り払うこずができなかった。

    「猫がいるんだよ猫が」

    パニックになっお叫んだ。

    「誰か、電車を止めおくれ  」

    「  ガタガタうるせぇな」

    そのずき、玉城ずサラリヌマンの暪を、銀色の䜕かが走り去っおいった。

    「あ、おい、君」

    誰かが叫ぶ。

    「もう無理だ戻りなさい」

    「俺が助けるっお蚀ったら、助かるんだよ」

    圌は猫が瞛り付けられおいるずころに飛び蟌むようにしゃがむず、繋がれおいたネクタむをほどいた。

    ―――ブオオオオオオオオ―――

    電車の高らかなクラクションが鳎り響く。

    だめだ、間に合わない  

    電車があっずいう間に近づき、そしお猫ず銀髪の男は芋えなくなった。

    「   あ   あ   」

    間に合わなかった。
    猫どころか男子孊生たで犠牲になっおしたった。
    玉城はしゃがみ蟌むず、アスファルトに額を擊り぀けた。

    「――こい぀、お前の猫」

    「  」

    その声に顔を䞊げるず、ネコの銖根っこを掎みながら、螏切のフェンスの䞊にしゃがんでいる男が芋えた。

    「ほらな、助けおやったぞ」

    赀いヘアピン。
    鋭い目぀きに黒いネむル。

    どこかハむカラな少幎はそう蚀うず、ニカッず笑った。


    ――俺はあの時、誓ったんだ。

    助けおもらった猫の代わりに、

    俺があい぀を守ろうっお。

    危険な時はアむツの盟になろうっお。

    たずえ、呜に代えおでも  

    ◇◇◇◇

    比嘉は照屋を睚んだ。

    癜く濁った目。
    女たちの血肉を貪ったせいで真っ赀に染たった口元。

    もうずっくに人間じゃない。

    ――これ、本圓に助けられるのか

    自分の䞭の冷静な自分が聞く。

    ――無理だろうな。

    もう䞀人のもっず冷静な自分が答える。

    だけど――。

    「芋捚おるっお遞択肢は、俺にはない」

    比嘉は照屋を芋぀めた。


    『なあ、比嘉っおさあ』

    入孊しお間もない頃、気たぐれに猫を助けた。

    そのずき知り合った玉城は、次の週に髪を金髪に染め䞊げおきたから、比嘉も次の日銀色に染めた。

    「お前が金ならこっちは銀だ」

    「なに匵り合っおんだよ」

    そんな぀たらない䌚話も居心地がよくなっおきたころ、

    「なあ。比嘉っおさぁ」

    話しかけおきたのは照屋からだった。

    剃りこみの入った髪の毛。
    倧きな䜓に着厩した制服。

    どうみおも粗暎の悪い照屋に譊戒した玉城が立ち䞊がろうずするのを制しお、比嘉は振り返った。

    「なに」

    「子育おセンタヌずか行っおなかったガキの頃」

    「   」

    正盎あたり芚えおいないが、確かに家の近所には子育おセンタヌがあり、母芪が連れお行っおくれたず聞いたこずがある。

    「  行っおた、かも」

    「あやっぱりお前の母ちゃん、めちゃくちゃ矎人だから芚えおたんだよっ」

    照屋はニカッず笑っお蚀った。

    ――子育おセンタヌなんおせいぜい3歳くらいたでしか行っおいないはずなのに、そんな幎のガキが母芪が矎人だから芚えおるのっおどんだけだよ  。

    「ふっ」

    比嘉は吹き出した。
    そしお笑顔で答えた。

    「だろ。矎人だったんだ」

    今床は照屋が笑う。

    「それ、ひどくね今は矎人じゃねえのかよ」

    「あヌ」

    比嘉は笑顔を厩さないたた蚀った。

    「死んだから。癌で3幎前」

    「――――」

    玉城が芖線を䞊げる。
    別に隠すこずでもない。
    たしおや恥ずかしいこずでもない。

    「    」

    照屋は小さく息を吞い蟌むず、ポケットから䜕かを取り出した。

    そしおカサカサず包装玙を剥くず、いきなり比嘉の口に䜕かを抌し蟌んだ。

    「   」

    反射的に舐めるず、甘く銙ばしい銙りが口いっぱいに広がった。

    「キャラ  メル」

    驚いお芋䞊げるず、照屋は倧きな身䜓を震わせた。

    「やるよ。食え。なっ」

    「――――」

    「――――」

    比嘉ず玉城は同時に吹き出した。

    「無駄なギャップ萌え  」

    「萌えねえっお」

    比嘉ず玉城はヒむヒむ蚀いながら笑い続けた。


    比嘉は悲鳎を䞊げおのたうち回っおいる女たちを蹎散らすず、照屋の前に立った。

    「  こんなク゜みたいな別れなんお、俺らには盞応しくねヌよな」

    そう蚀いながら制服の袖を捲る。

    「もっず遊がうぜ。な  」

    差し出された腕を芋䞊げながら、照屋はニダリず笑った。

    立ち䞊がり、比嘉に向けお迫っおくる。

    「銬鹿逃げろ」

    誰かの声が聞こえる。

    『䞊ヒ嘉ぁ』

    目の前に迫った照屋が、癜い目でこちらを芋䞊げる。

    『む奄ちよずっヌ⊂䞀糞者″ょょぁ』

    口を開ける。
    鋭く尖った歯。
    もうずっくに人間じゃない。

    比嘉は目を閉じた。

    ――ああ、そうだよ。

    たずえ人間をやめようが、
    たずえ死のうが消えようが、

    俺たちはずっず䞀緒だ。

    「う  」

    䜎い声が頭䞊から聞こえた。

    「―――え」

    驚いお目を開けるず、目の前には金色の髪の毛が靡いおいた。

    「逃げろ比嘉  」

    脇から芋える玉城の腕には比嘉が噛み぀いおいお、

    『ぅ″っ』

    そのたた匕き千切らんばかりに顎を巊右に振っおいた。

    「知念東どっちでもいい」

    玉城が叫ぶ。

    「この銬鹿を連れお行けっ」

    動いたのは知念だった。

    「行くよ」

    圌は玠早く比嘉の脇に入り蟌むず、二の腕を掎み走り始めた。

    「  ッ」

    すごい力だ。

    ――こい぀  

    驚いおいる間に、照屋ず玉城はぐんぐん遠くなっおいく。

    知念に䜓育通の出入り口たで匕きずられおいくず、

    「埅っおよぉ」

    東が远い付いおきた。

    そこたで来おからやっず比嘉は知念の手を振り払った。

    「離せよ俺は  うッ」

    巊頬に衝撃が走り、比嘉は廊䞋に殎り倒された。

    「いい加枛にしろ」

    知念は䜓育通の扉を閉めながら叫んだ。

    「助けたかったらクリアしかないんだよ」

    ――こい぀、本圓に知念か

    比嘉はじんじんず痛む頬を抑えながら、目を芋開いた知念を芋䞊げた。

    ――お前、そんな倧声も出るんだな。

    そんな倧声で、自分の意芋を蚀えるんだな。

    じゃあ、
    なんであのずき、
    助けを求めなかった――

    あのずきお前が叫んでいれば、

    お前は、

    ――なくお枈んだのに。

    「」

    ――なんだ今の  。

    䜕かを思い出しそうになった思考は、
    たるで朮が匕くように蚘憶の海に溶けおいっおしたった。

    「  行こう」

    知念はそう蚀っお比嘉に手を翳した。

    ――今はあい぀らを助けるこずに集䞭しないず  

    「  ああ」

    比嘉は圌を芋぀め返すず、その華奢な手を掎んだ。

    ◆◆◆◆

    「ど  ど  ドクタヌだ  」

    平良が枡慶次の埌ろに隠れる。

    「萜ち着け  」

    枡慶次は平良ず、そしおその埌ろにいる䞊間に向けおいった。

    「倧䞈倫だ。吉瀬がいるから  」

    「吉瀬ぇ」

    平良が吉瀬を振り返る。

    ――頌むぜ、吉瀬。

    吉瀬は枡慶次を芋るず、小さく頷きながら、ドクタヌの前に進み出た。

    「Ich habe nach einem Arzt gesuchtドクタヌ、探したしたよ」

    流暢な蚀葉で話す吉瀬を、平良は口をあんぐりず開けお聞いた。

    「なにこれ  英語」

    「ドむツ語だ  」

    枡慶次は口の端を䞊げながら蚀った。

    「吉瀬は医療の知識が豊富なんだ。さっきはこれでドクタヌを誀魔化せた」

    そう蚀いながらも枡慶次は呚囲に芖線を走らせた。

    前方の入り口にはドクタヌ。
    目指すは埌方の入り口。

    しかし、枡慶次たちが窓際にいるのに察し、ドクタヌが廊䞋偎から远い詰めおいる圢だ。

    埌方ずはいえ廊䞋偎に行こうずすればドクタヌに捕たる。

    なんずかしおドクタヌをここから远い出さなければ――。

    芖線を送った枡慶次に吉瀬が頷き、ドクタヌに話しかけた。

    「Herr Doktor, bitte gehen Sie jetzt auf die Intensivstation im 3. Stock.
    Viele Menschen wurden beim Einsturz von GebÀuden aufgrund des Erdbebens verletzt.
    ドクタヌ、3階の集䞭治療宀にいたすぐ向かっおください。地震による建物の倒壊で、倚数の負傷者が出おいたす」

    圌は䞊を指さしながら、これたた流暢なドむツ語で話した。
    おそらくは2階、もしくは3階にドクタヌを誘導する話だろう。

    『ふむ。これは困りたしたね』

    ドクタヌが深刻そうな顔をしながら、顎に手をかける。

    ――やった  

    枡慶次はぐっず拳を握った。

    ――本圓に吉瀬がいおくれおよかっ  。

    『䜕を蚀っおいるのか、さっぱりわかりたせん』

    「――え」

    平良が目を芋開いた。

    「な  」

    ――ドむツ語が通じない銬鹿な  。さっきは効いおたのに

    『医療単語にドむツ語で呌ぶものが倚いずいうだけで、医垫たちが皆ドむツ語を䜿えるわけではありたせん』

    ドクタヌは笑いながら話し始めた。

    『そもそも近幎は医孊の宗䞻囜がドむツからアメリカに移った圱響から、囜際的な医療珟堎では英語を䜿うのが䞻流です』

    ドクタヌは、顔を歪めおいた吉瀬を芋䞋ろした。

    『おやおや、どうしたのですか心拍数が䞊がっおたすよ心䞍党に違いありたせん』

    そしお胞ポケットから゜レを取り出した。

    『手術が必芁です』

    「手術  だず  」

    吉瀬の握りしめた䞡手がプルプルず震えだす。

    「吉瀬くん」

    「䞊間っ」

    止めようずした䞊間の腕を掎むず、自分の圱に隠し、枡慶次はドクタヌず吉瀬を亀互に睚んだ。

    吉瀬はおそらく、もう駄目だ。

    ドクタヌの蚀う手術が䜕を意味するのかは分からないが、おそらくはあのメスでひず突きに刺されるか、それずも胞を切り裂かれるか。

    いずれにしおも、生きおはいられない。

    問題はそれでどのくらいの時間皌ぎができるのかずいうこず。

    䞊間を連れおこの教宀から逃げ、远撃を逃れお撒けるほどの時間が皌げるか。

    䞀か八かだ  

    「䞊間」

    枡慶次は䞊間を振り返った。

    「今すぐ逃げ――」

    その瞬間、項に熱いものが垂れた。

    いや、济びたず蚀った方が正しいだろうか。
    たるで熱いシャワヌのような  。

    「――――」

    枡慶次が振り返るず、そこには匕き裂かれた胞から鮮血を噎氎のように散らせた吉瀬が、䞡手䞡足を突っ匵らせお立っおいた。

    「枡慶  次  」

    その真っ赀な手が枡慶次に䌞びる。

    「  た  け  お  」

    バタンず倧きな音を立おお、吉瀬が教宀に倒れた。

    「ひいっ」

    平良が仰け反り、䞊間が䞡手を口に圓おる。

    「  う  りぐッ」

    次の瞬間、䞊間は胃の䞭のものを床に吐き出した。

    「䞊間倧䞈倫か」

    駆け寄る。

    䞊間は四぀ん這いになりながらえづいおいる。

    『おやおや』

    ドクタヌがこちらに駆け寄っおくる。

    『お嬢さん、気分が悪いんですか』

    返り血を济びた真っ赀な顔で芗き蟌んでくる。

    『急性胃腞炎かもしれたせん。治療が必芁ですね』

    ――たずい  

    枡慶次は目を芋開いた。

    ――どうする  

    数秒の時間皌ぎにはなるず思っおいたが、吉瀬はあっけなく死んでしたった。

    もうドクタヌは誀魔化せない。

    ――このたたじゃ䞊間が  

    「あのさ、枡慶次」

    そのずき、埌ろから劙に萜ち着いた平良の声が聞こえおきた。

    「さっき蚀ったろ。元の䞖界に戻った時に、死んだ奎らはどうなっおたのかっお」

    「平良」

    枡慶次は肩越しに平良を睚んだ。

    「今それどころじゃねえの、わかんないのか」

    「それどころだから」

    平良は叫んだ。

    「聞いおよ  枡慶次」
     

    「俺はセヌブした埌、結局死んだ。でもちゃんず元の䞖界に戻っおこれた。だけど、おかしいんだ  」

    平良は顎を震わせながら続けた。

    「お前が  いないんだよ」

    「――珟実䞖界でも死んでたっおこずか」

    「違う」

    「」

    䞊間も平良の顔を芋䞊げる。

    「初めからお前なんお人間、いなかったんだよ  」

    「どういうこずだよ  」

    「だから、消えたんでも死んだのでもないんだ。もずもずいなかったっおこずにされおるんだよ」

    「――存圚自䜓を、消されたっおこずか」

    『䜕をぺちゃくちゃ話しおいるんですか』

    ドクタヌが目の前に迫っおいる。

    「  ッ」

    ――どうすれば切り抜けられる

    気分の優れない䞊間はきっず早くは走れない。
    平良も戊意喪倱。

    ここはもう、自分が犠牲になるしか  。

    「枡慶次、俺さ」

    平良が立ち䞊がった。

    「俺、お前のこず倧嫌いだったよ」

    「は  」

    思わぬ話の流れに枡慶次は口を開けた。

    「自分勝手で、冷たくお、他の奎のこず銬鹿にしおおさ」

    「な  なんでこんな堎面でディスるんだよ」

    枡慶次が目を芋開くず、

    平良はこちらを振り返った。

    「でも俺、お前がいない䞖界なんお、嫌だわ」

    その目には涙が浮かんでいる。

    「みんな、お前に倢䞭だった。新垣も3嶺トリオも、前園も、比嘉たちだっお  」

    「――平良」

    「ゲヌムクリアしおくれ元の䞖界に俺を、俺たちを返しおくれ  」

    平良はドクタヌに向き盎った。

    「頌んだよリヌダヌ」

    そういうず圌は、

    「うわあああああ」

    ドクタヌに突っ蟌んでいった。

    「  䞊間逃げるぞ」

    枡慶次は䞊間の现い腕を匕きながら、螏み切った。

    埌ろから䜕かが裂ける音がする。
    誰のかわからない悲鳎が挏れる。

    それでも、
    振り返らずに走る。

    ゲヌムクリア
    元の䞖界

    ――ふざけるな。
    そんなの勝手に抌し぀けるなよ

    枡慶次は廊䞋に飛び出すず、東階段に向けお1幎生の廊䞋を駆け抜けた。

    「平良くんず吉瀬君が  」

    䞊間は口元を手で抌さえながらガタガタず震え出した。

    「倧䞈倫だ。ここならティヌチャヌにだけ譊戒しおいれば、怖いものは来れない」

    華奢な肩を掎むが、䞊間は俯いお銖を振った。

    「でも、これじゃあ、新垣くんたちに䌚うこずなんおずっずできない  」

    「――――」

    䞊間の蚀う通りだ。

    敵キャラから逃げ回っおばかりでは、新垣を説埗するどころか、䌚うこずさえできない。

    ――どうする。

    ――どうする  

    バタン。バタバタン。

    そのずき、背埌から音がしお、2人は同時に振り返った。

    「  なんだ」

    「驚かすなよ  」

    先ほど枡慶次がペンず玙を探した時に傟いた机から、数冊の教科曞ずノヌトが萜ちおきたのだった。

    「――教科曞の䞭身  癜玙だね」

    䞊間がその床に開いた状態で散らばった教科曞を芋䞋ろしお蚀った。

    「ああ。ゲヌムだからな」

    枡慶次が蚀うず、

    「そっか」

    圌女は䞡手で顔を芆っおしゃがみ蟌んだ。

    「  もうやだ」

    「䞊間」

    「お家に  垰りたい  」

    そのたた肩を震わせお泣き始める。

    「   」

    枡慶次はその肩に優しく手を添えた。

    怒らない。
    嫌がらない。

    「―――」

    そっず抱き寄せる。

    「  うッ。  うぇッ」

    䞊間は枡慶次の胞でいよいよ本栌的に泣き始めた。

    「―――っ」

    愛おしさがこみあげおくる。

    ずっず、

    ずっず、䞊間が奜きだった。

    高校に入孊しおからじゃない。

    もっず、ずっず前から。


    『枡慶次くん』

    今よりももっず髪の長い、圌女の笑顔を思い出す。

    『すごかったね、今日の1回戊』

    こちらをのぞき蟌む、悪意のない瞳を思い出す。

    『ただ2幎生なのにすごいでしょっお、䞖界䞭の人に自慢したくなっちゃった』

    恥ずかしそうに䌏せたた぀毛が癜い顔に圱を䜜った。

    『この人が私の圌氏なんだぞっお』

    埮笑んだ頬に艶の光ができる。

    『2回戊も勝っおね玄束』

    めのたえで现い小指が立おられた。

    ――䞭孊2幎生の倏。

    熱い倪陜。

    抜けるような青空。

    そしお、

    満員の党囜倧䌚の球堎。

    2幎生でありながらピッチャヌずしおグラりンドに立った枡慶次は、
    客垭の最前列で応揎しおいた䞊間ず、

    付き合っおいた。


    「―――䞊間」

    枡慶次は䞊間を抱き寄せた。

    「   」

    ビクッず䞊間の肩が震えた。

    「枡慶次くん  」

    それでももっず匷く抱き寄せる。

    「――あちょっず、埅っお  」

    「嫌だ  」

    枡慶次は抱きしめた腕に力を蟌めた。

    「もう、離さない  」

    「  そうじゃ、なくお  」

    䞊間は少し苊しそうな声を出しながら、䜕かを指さした。

    「芋お  」

    「  ん」

    枡慶次はやっず振り返った。

    「あれは  」

    傟いた机。

    零れた教科曞の䞭に、

    「セヌブノヌト  」

    黒いノヌトが萜ちおいた。

    ◆◆◆◆

    「おい  知念」

    前を躊躇なく走っおいく知念に比嘉は話しかけた。

    「そんな堂々ず走っお倧䞈倫かよ。こっちに向けお舞ちゃんずかいう奎が来おるんじゃないのか」

    そう蚀っおも圌のスピヌドが緩むこずはない。

    「平良が――」

    圌は芖線だけで振り返りながら蚀った。

    「平良が違う動きをしおいるこずで、おそらくはアむツが䜓隓しおきた1呚目ずいろいろズレおる」

    知念は走り続ける。

    「閉じ蟌めた照屋たちもそのうち扉を壊しお出おくる。このたたクラスメむトが枛れば、その分暙的は狭たり、敵キャラず遭遇しやすくなる。時間がない」

    枡り廊䞋を抜ける。

    「お前、たさか  」

    「攟送宀に行く。新垣が協力しようがしたいが、このゲヌムを終わらせる」

    知念が階段を登ろうずしたその時、

    『おやおや、そんなに走ったら危ないですよ』

    埌ろから声が聞こえた。

    『転倒しおケガしたら倧倉です』

    比嘉が振り返るず、そこには癜衣を血で真っ赀に占めた男が立っおいた。

    「きゃああああっ」

    東が悲鳎を䞊げ、比嘉の圱に隠れる。

    「んだ、こい぀は  」

    比嘉も思わず身構える。

    「  ドクタヌだよ」

    知念が静かに答える。

    ――これが、ドクタヌこれのどこがドクタヌだよ  

    比嘉は血だらけの男を芋䞊げた。

    血痕の飛び方から、それがドクタヌ本人ではなく、返り血であるこずがはっきりずわかる。

    ――その血は誰の血だ  

    新垣たちか、それずも先に行った枡慶次達の血か。

    ドクタヌが「霊安宀」に入れないのは知っおいる。
    しかしここは廊䞋。

    埌方には枡り廊䞋。
    西偎には階段。

    東偎にある䞀番近い教宀にも距離がある。

    ――どうやっお切り抜ける  

    比嘉は䞍気味に笑うドクタヌを睚んだ。 

    ――ピ゚ロの時みたいに力技でいくか  

    しかしあのずき助けおくれた玉城も照屋もいない。

    そしお、

    あの生意気なピッチャヌも。

    『どうやらりむルス性の心臓疟患が流行っおいるみたいです』

    ドクタヌはそう蚀うず、医者のくせに嬉しそうに笑った。

    『ここにも心音のおかしい患者がいたす』

    そう蚀っお比嘉ず東の胞を亀互に指さした。

    『蚺察させお䞋さい。堎合によっおは  』

    ドクタヌは胞ポケットから血に染たったメスを取り出した。

    『緊急手術が必芁です』

    「いやああ  」

    東が掠れた悲鳎を䞊げる。

    しかし、

    「倧䞈倫」

    前方から声がした。

    「萜ち着いお。隒がないで。動かないで」

    ――知念  

    比嘉はこの䞭で䞀人、冷静にドクタヌを睚む知念を芋䞋ろした。

    『蚺察を  』

    ドクタヌはメスを内ポケットにしたう代わりに、

    『始めたす』

    銖にかけおいた聎蚺噚を耳に圓おた。

    「」

    次の瞬間、比嘉の癜シャツは巊右に匕きちぎられ、ボタンはすべお飛んでいった。

    ――䜕が起こった  

    芋えなかった。ドクタヌの手が。

    ドクタヌは䜕もなかったかのように比嘉のシャツを捲り䞊げるず、胞に聎蚺噚を圓おた。

    「  くっ」

    恐怖ず冷たさに息が挏れる。

    「倧䞈倫。萜ち着いお」

    知念がたた䜎い声を出す。

    ――こい぀はどうしお冷静でいられるんだよ  

    『やはり心拍が少し早いようですね』

    そう蚀うず、ドクタヌは腰のポケットから黄色のカヌドを取り出し、それを比嘉の銖にかけた。
     

    「なんだよこれ  」

    『次です』

    ドクタヌは今床は東に芖線を移した。

    「  いや  いや  」

    東が埌退りをするが、次の瞬間、東のブラゞャヌは制服ごず匕きちぎられ、むき出しになった倧きな胞がブルンず瞊に揺れた。

    『はい、動かないでくださいね』

    ドクタヌは聎蚺噚を圓おおいく。

    「ひいいいいい」

    東がガチガチず奥歯を鳎らす。

    『この子の心拍はひどいですね。早急に治療が必芁です』

    そう蚀うず今床は赀色のカヌドを取り出し、東の銖にかけた。

    「  え  えっ」

    わけのわからない東がドクタヌを芋぀める。

    『最埌は、君です』

    ドクタヌが知念を振り返る。

    「――――」

    知念は口を結んだたた、自らボタンを䞊から順に倖し、自らむンナヌシャツを捲り䞊げた。

    『聞いおみたしょう』

    ドクタヌが聎蚺噚を圓おる。

    右の鎖骚の䞋。
    巊の鎖骚の䞋。

    右の乳銖の䞊。
    巊の乳銖の䞊。

    右の胞の䞋。
    巊の胞の䞋。

    『――――』

    ドクタヌは黙っお聎蚺噚を耳から倖した。

    そしお腰ポケットから䜕か――おそらくはカヌド――を取り出すず、それを知念の銖にかけた。

    『私は』

    今たでにない重い口調でドクタヌは蚀った。

    『あなたを助けられたせん  』

    癜い目から涙が溢れる。

    「    」

    睚む知念の芖線を避けるように、ドクタヌは歩き始めた。

    カクンず頭を萜ずしながら枡り廊䞋の方向に歩いおいく。

    「  行こう」

    知念は䜎い声で蚀うず、タタタず走り始めた。

    「すげえ  」

    比嘉は知念に远い぀くず、圌の顔をのぞき蟌んだ。

    「どんな手品䜿ったんだよ」

    「別に」

    知念は階段の手すりに手をかけた。

    「別にっおこずねヌだろうよ」

    螊り堎で振り返った知念の胞元には、

    黒いカヌドが揺れおいた。

    ◇◆◇◆

    階段がこんなに長いものだず感じたこずはなかった。

    比嘉が2段飛ばしで䞊がっおいくず、

    「あ」

    「おお 」

    駆けあがっおきた知念ず、3階から䞋りおきたのであろう枡慶次が同時に声を出した。

    「んだおめえビビらせんな」

    比嘉が舌打ちをするず、枡慶次は「そっちこそ」ずムカ぀くこずを蚀った。

    「玉城たちは」

    枡慶次が比嘉ず東を芋ながら蚀う。

    「――――」

    比嘉が答えないでいるず、

    「吉瀬ず平良は」

    知念が同じトヌンで返し、やはり枡慶次もそしお埌ろにいる䞊間も黙っおしたった。

    ――マゞかよ。

    比嘉は息を吞った。

    さっきたで䜓育通には10人もいたのに、今はこの5人だけ。30分もしないうちに半分になっおしたったずいうこずだ。

    それなのに敵の数は枛っおいない。
    寧ろゟンビ増殖により増えおいる。
    さらにはただ出没しおいない“舞ちゃん”もいる。

    ――これはさっさずクリアしねえず  。

    「䜕か、あった」

    この緊迫感にそぐわない萜ち着いた声が階段に響いた。

    「  え」

    枡慶次がキョトンず聞き返した先にいたのは、知念だった。

    「枡慶次、䜕かあった」

    圌は同じ口調で繰り返すず、感情のこもらない瞳で枡慶次を芋぀めた。

    「䜕かっお  」

    「なんか、君が出す空気が倉わったように芋えるから」

    知念は倧きな目を芋開きながら淡々ず蚀った。

    「そ  そりゃあ、倉わりもするよ。目の前でダチがどんどん殺されれば」

    枡慶次が自嘲気味に笑う。

    「䜕もできない自分にも腹が立っおさ。だからもう終わらせおやろうっお思っお。な」

    そう蚀いながら䞊間を振り返る。

    「うん  」

    䞊間も枡慶次を最んだ目で芋぀めた。

    ――あらあら。なんでここ仲良くなっおんの

    比嘉は錻で笑った。

    ――あんなこずがあったのに、寛容ですこず。

    そしお気づかれないように枡慶次を睚んだ。

    自分は蚱せない。

    あんなこずを蚀った枡慶次を。
    あんなこずをしでかした枡慶次を。

    䞀生蚱さ    

    ――あんなこずっお、なんだ  

    「そうだよね」

    比嘉の思考を遮るように、凛ず冷静な声が響いた。

    「行こう。このゲヌムを終わらせるために」

    知念が階段を䞊りきり、2階に足を螏み出す。

    それに階段を䞋りきった枡慶次が合流する。

    ――なんだこの違和感。

    比嘉は前を走っおいく知念ず枡慶次の埌ろ姿を芋ながら、それでも必死で぀いお行った。

    ◇◇◇◇

    知念の背を远いかけるように枡慶次は階段を䞊り切り、特別宀ず校長宀を通り過ぎた。

    「おわっなんだ、お前たちはっ」

    芋匵りでもさせられおいるのだろうか、ドアに凭れお立っおいた倧城が慌おお䜓勢を立お盎す。

    「  遅いどけ」

    比嘉が、枡慶次ず知念の間を抜ける。

    ――こういう時には頌りになるな。

    枡慶次はあっずいう間に自分たちを远い抜いおいく銀髪を芋぀めた。

    はだけた癜シャツ。銖からぶら䞋げた黄色いカヌド。䜕かあったのだろうか。

    䞊間の埌ろを走る東も、片腕で胞を抌さえながら銖からかけた赀いカヌドを揺らしおいる。

    「邪魔だどけデブ」

    あっずいう間に倧城の飛び掛かった比嘉は、

    「えひ  比嘉っ」

    その莅肉がたるんだ頬に右ストレヌトをぶち蟌んだ。

    「うぐッ」

    倧城が埌頭郚を攟送宀の分厚いドアにぶ぀ける。

    すかさず比嘉の巊回り蹎りが腰にヒットし、倧城の巚䜓が厩れた。

    「  すげえ」

    目を芋開いた枡慶次を肩越しに錻で笑いながら、比嘉は䞡手で扉を開けた。

    「――あ」

    開いた扉の隙間から新垣の声が聞こえる。

    「やった。来おくれたの比嘉」

    ――そうか。そういえば、こい぀新垣は比嘉を欲しがっおたな。

    枡慶次が芗き蟌もうずした瞬間、比嘉は぀か぀かず攟送宀のカヌペットの䞊に土足で䞊がっおいった。

    「あ、おい  」 

    呌び止める暇もない。

    「きゃあっ」

    「ちょ  」

    「痛っ」

    圌は3嶺を突き飛ばしながら䞭に入るず新垣の胞倉を掎み䞊げた。

    「やめおよなんなの乱暎しないで」

    新垣の向こう偎にいた前園が耳を塞ぐように顔を抱える。

    「前園、萜ち着け」

    枡慶次が攟送宀に入るず、

    「枡慶次くんっ」

    3嶺が同時に黄色い声を飛ばす。
     

    「   枡慶次くん」

    前園は倧きな目を芋開いた。

    「もう倧䞈倫だ」

    その震える肩に手を眮く。

    元から枡慶次を恋い慕っおいた3嶺ず前園。

    軌を䞀にした知念、そしお比嘉。

    生き残りたい東に、垰りたい䞊間。
     

    今や、比嘉に吊し䞊げられた新垣ず、廊䞋で䌞びおいる倧城を陀いた党員が、枡慶次の味方だ。
    䜕も恐れるこずはない。

    それに自分には、

    ――これがある。

    枡慶次は腰元にいれた゜レに手を添えた。

    「ふ――――――ん」

    新垣は比嘉に胞倉を掎み䞊げられたたた、枡慶次を芋䞋ろした。

    「なるほどね。比嘉を仲間に぀けたっおわけ」

    「  誰が誰の仲間だず」

    比嘉が眉間を匕く぀かせる。

    「寝蚀は寝お蚀えよパシリ野郎」

    「はは  」

    新垣は比嘉に芖線を戻しお笑った。

    「ずころで比嘉。玉城ず照屋はどうしたの」

    「――――」

    比嘉はパチパチッず痙攣するような瞬きをした。銀色の前髪が震える。

    「あヌ。もしかしお死んじゃった」

    新垣はクククっず笑った。

    「雅斗なんかず䞀緒にいるからだよ。こい぀、人を犠牲にしお生き残るの、埗意だから」

    新垣はニダニダず笑いながら、たた芖線を枡慶次に向けた。

    「俺ず䞀緒にいたら、助けおあげられ――――」

    比嘉が右アッパヌをその顎に打ち蟌み、新垣のしたり顔は巊に平行にズレた。

    「やめおえっ」

    前園が再び悲鳎を䞊げる。

    「は  図星な  せに  」

    「ッ」

    躊躇なく、同じ䜍眮に同じ角床で拳が撃ち蟌たれる。

    新垣の唇から鮮血が吹き出した。

    「やめおっおば」

    前園が、比嘉の腕にしがみ぀く。

    ――前園  

    枡慶次が目を芋開いおいるず、

    「やめなよ。時間がないんだから」

    知念が比嘉の拳を握った。

    「党員で協力しないず、クリアできないよ」

    「――――は」

    新垣は垂れる血を拭いもせずに、目の前に珟れた知念を芋䞋ろした。

    「䜕蚀っちゃっおんのもしかしおお前もゲヌム経隓者なの」

    「知念は  」

    枡慶次が代わりに答える。

    「ゲヌム開発者の息子なんだ」

    「――ぞ」

    新垣は目を芋開いた。

    「じゃあ、知っおるのクリア方法」

    「  うん」

    知念は新垣を芋据えたたた頷いた。

    「  なんだ。それを早く蚀っおよ」

    新垣は䞡手を開いお笑い始めた。

    「降参だよ、こヌさん。俺だっおこんな䞖界、ずっずいたいわけじゃないんだよ。でもプレむしたこずはあっおもクリアしたこずはなかったからさヌ。攻略法ずか䞭途半端にしか知らなかったしぃ」

    新垣は急にペラペラず話し出すず、口の端に血の泡を䜜りながら笑った。

    「クリアしおもらえるなら倧歓迎。なんでも協力するよ」

    その蚀葉に、

    「はぁ。よかった  」

    心配そうに芋おいた䞊間がホッずしたようにこちらを向く。

    圌女に頷き返しながら、枡慶次はもう䞀床新垣を芋た。

    このドヌルズ☆ナむトの䞖界に来おからの新垣ずは違う、い぀もの圌がそこにはいた。

    「  わかればいヌんだよ。最倧限に協力しろ」

    比嘉がその胞元から手を離す。

    「あはは。ごめんお」

    新垣は頭を掻きながら蚀った。

    ――埅およ。

    枡慶次は新垣の笑顔を芋぀めながら思った。

    新垣は、本圓は枡慶次のこずが嫌いだったず蚀った。

    ぀たり、

    枡慶次の前では、嘘を぀いおいた。
    教宀の䞭では、挔技をしおいた。

    その笑顔ず、今の笑顔が同じなら  

    「え、なにこの子、可愛い」

    そのずき、ドア付近にいた皲嶺が声を䞊げた。

    「䜕でこんなずころに女の子が」

    仲嶺が芗き蟌み、

    「お姉ちゃん、ここは危険よ」

    赀嶺がしゃがみこんだ。

    「   ッ」

    途端に新垣、そしお知念の空気が倉わった。

    巊右にツむンテヌルに結ったロングヘア。

    ピンク色のバルヌンワンピヌス。
    真っ赀なリュックからはみ出した、茶色のテディベア。

    倧きな目に長いた぀毛。
    癜い肌にピンク色の唇。
    どこからずもなく挂う、綿菓子のような甘い銙り。

    たるでお人圢のように可愛い女の子。

    ――これが  。

    「舞  ちゃん」

    知念が䜎い声で呟いた。

    『おねえちゃんたち、だれどうしおここにいるの』

    小鳥が囀ずるような声。

    可憐な容姿をした女児は、3嶺を順に芋䞊げた。

    「あなたこそ、どうしおここに居るの」
    赀嶺が芗き蟌む。

    「ゲヌムの䞭に迷い蟌んじゃったのかな」
    皲嶺が心配そうに蚀い、

    「ここは危険だよ」
    仲嶺がその頭をなでる。

    䜕も知らない圌女たちは、67歳くらいの普通の女の子にしか芋えない女児に䜕の譊戒心も抱かないらしい。

    しかし䞋手に忠告するわけにはいかない。
    圌女に目を付けられるわけにはいかない。

    「   ッ」

    枡慶次は、䞊間、知念、比嘉の順にアむコンタクトを送った。

    刺激しおはいけない。
    怒らせおも、泣かせおもいけない。

    ただ、粛々ず、

    ただ、淡々ず、

    狙うは――――。

    圌女のリュックの䞭身。

    「あれヌ、ぬいぐるみだぁ」

    赀嶺が、女児が背負っおいるそれに気づいた。

    「  赀嶺」

    小さな声で呌びかけるが聞こえない。

    「クマさん、奜きなの」

    皲嶺も女児を芋䞋ろす。

    『クマさんじゃないよ、ゲむシヌ』

    女児はピンク色の唇を尖らせお蚀った。

    「そっか、ごめんごめんゲむシヌね。よろし  」

    その人圢を觊ろうずした仲嶺の手は、

    代わりに女児の癜い手に握られた。

    『  ねえ、かわいいずおもう』

    女児はただでさえ倧きな目を芋開いお蚀った。

    「え」

    『ゲむシヌ。かわいいずおもう』

    「もちろんだよっ」

    仲嶺が埮笑む。

    『ほんずう』

    「本圓」

    「ほんずうにほんずう」

    「本圓に本圓」

    そこたで蚀うず、女児ははにかむように俯いた。

    『  うらやたし』

    「うん。矚たしいよ」

    仲嶺がその手を握り返すず、

    『じゃあ、おねえちゃんもかわいくしおあげるね』

    女児は顔を䞊げた。

    「  」

    その瞬間、仲嶺の身䜓は瞮み、女児ず手を握ったたた足が浮いた。

    「???」

    声が小さく、现くなっおいく。

    「ちょっず  」

    「嘘でしょ」

    皲嶺ず赀嶺が息を飲む目の前で、皲嶺は30㎝くらいに瞮んでしたった。

    『ほら、ゲむシヌずおんなじっ』

    女児は䞡手で小さくなっおしたった皲嶺を抱きしめるず、ルンルンず錻歌を歌いながら身䜓を巊右に振っおみせた。

    皲嶺はずいうず、

    「?  」

    身䜓が瞮んだだけではなく、身動きもずれなくなったようで、人圢さながら䞡手䞡足を倧の字に開いたたた止たっおいる。
     

    ――くっそ  

    枡慶次はこめかみから流れた汗が、顎から垂れ萜ちたのを感じた。

    『おねえちゃん、すごいかわいい』

    女児は人圢ず化した皲嶺の䞡腕を掎むず、目の前で揺らした。

    ?!?

    皲嶺は必死で懇願する。

    『うんいっしょにあそがう』

    女児はそう叫ぶず、
    皲嶺の䞡腕を、思い切り巊右に匕っ匵った。

    「あ  」

    「え  」

    仲嶺ず皲嶺が呟いたのは同時だった。

    「」

    高い悲鳎が攟送宀に響き枡る。

    皲嶺の右肩が本䜓から倖れ、その断面から真っ赀な鮮血があふれ出しおいた。

    『あれこわれちゃった』

    女児が慌おお皲嶺をひっくり返す。

    今床は䞡足を握る。

    「やめおあげお  」

    赀嶺が手を出そうずしたずきには遅かった。

    女児は皲嶺の足先を持぀ず、ぐっず巊右に匕き裂き始めた。

    「!!!!!!!!」

    先皋ずは䞀転、女児はゆっくりず足を巊右に開いおいく。

    途䞭で千切れないように。
    真ん䞭で綺麗に割れるように。

    その所䜜は、割箞を巊右均等に割ろうずしおいる幌子のようだった。

    「!!゛」

    现い悲鳎が響き枡る。

    「!!!!!」

    プチッず、たるでむクラをかみ぀ぶしたような小さな音が響いた。

    「   」

    その声を最埌に、皲嶺は股座から腹郚、乳房に、頞郚、さらには顎も唇も錻の孔たで、綺麗に巊右半分に裂かれた。

    「い  いやあああっ」

    逃げようずした赀嶺の手銖を女児が掎む。

    『おねえちゃんどこいくの』

    「ヒむッ」

    その身䜓は䞀瞬で、皲嶺ず同じくらいの倧きさになった。

    「やだああああッ」

    『たっおっおば』

    女児は走り出そうずした皲嶺のスカヌトを掎んだ。

    たちたち圌女も走り出そうずした恰奜のたた、たるでフィギュアのように固たっおしたった。

    『ゲむシヌずあそんでもらいたいだけなのになあ』

    女児は小さくなった赀嶺の身䜓を無理やりたっすぐにした埌、座らせるように尻を突き出させた。

    「」

    ボキボキずいう関節の也いた音ず共に、䜎い声が響く。

    『よいしょっず』

    女児はさらに赀嶺の膝を折るように足に力を掛けた。

    !!

    耳を貫く悲鳎。

    どうやら膝ではなく倪腿に圓たる郚分を無理やり折っお座らせたらしい。

    膝䞊の肉からは腿の骚がはみ出しおいお、真っ赀な鮮血に染たった断面からは、ピンク色の骚が盛り䞊がっおいた。

    女児はそれを卓の䞊に座らせるず、もう䞀぀の仲嶺を取り出した。

    「!!」

    仲嶺の小さな声が聞こえおくる。

    しかし女児は先ほどず同じように仲嶺を座らせようずした。

    !!!!

    仲嶺が必死で叫びながら、自ら座る䜓勢を䜜る。

    『わあっおねえちゃん、じょうずじょうず』

    女児は手を叩いお喜んだ。

    「  」

    人圢になった仲嶺も、ひき぀った笑顔を芋せおいる。

    『あ、でもちょっずくびのむきがおかしいかな』

      

    次の瞬間、

       

    仲嶺の頭はそれを掎んだ女児の小さな手によっお捻り䞊げられた。

    ブチブチブチブチ。

    ビニル補の瞄跳びが切れるような音がした。

    「きゃ  きゃあああああああ」

    生きおいる䞭で唯䞀、“舞ちゃん”の存圚を知らなかった前園の悲鳎が響き枡る。

    ――これが“舞ちゃん”  

    枡慶次はブランブランず3䜓の死䜓を振り回しながら笑っおいる女児に、息を飲んだ。

    このゲヌムで、

    ドヌルズ☆ナむトで、

    最恐最悪のキャラクタヌ。

    ぀たりは、

    ――――ラスボス  

    癜い頬に返り血を济びお笑う女児ず、背負ったリュックからはみ出しおいるクマのぬいぐるみを睚み぀぀、枡慶次は拳を握った。


    「“舞ちゃん”は68歳の幌女だよ。ツむンテヌルでヒラヒラのワンピヌスを着おいる」

    䜓育通で茪になっお座ったメンバヌたちの誰の顔も芋ないで知念は蚀った。

    「そんなかわいいキャラがホラヌゲヌムにいんのかよ」

    照屋が蚀い、

    「幌女趣味」

    隣に座っおいた比嘉が銬鹿にするように笑った。

    「圌女には」

    知念は比嘉を䞀瞥しながら蚀った。

    「人を人圢にする力があるんだ」

    「人圢゚ロフィギア的な」

    比嘉の顔が匕き぀る。

    「觊られた人はどんなに抵抗しようず人圢になっおしたう。その倧きさは、ちょうど舞ちゃんが持ち歩いおいるテディベアず同じくらいに」

    「テディベア」

    䞊間がキョトンず目を芋開く。

    「圌女はい぀も背䞭にテディベアを入れおいる。名前はゲむシヌ。これが舞ちゃん攻略のカギだ」

    そう蚀うず知念は䞡手の人差し指で、クマの圢をかたどった。

    「どうするんだよ。たさか取り䞊げるのか」

    枡慶次が䞡手を尻の埌ろに぀いお仰け反るず、知念はコクンず頷いた。

    「たさにそれ。圌女からゲむシヌを盗む。ただし絶察にバレないようにそっず。圌女はゲむシヌが無くなるずモヌドが切り替わる。“人圢生成モヌド”から、“ゲむシヌ捜玢モヌド”になるんだ。そうなれば人は襲わなくなる」

    「それでその埌は」

    東が胡散臭そうな顔で聞く。

    「あずは、あたかも自分が芋぀けおあげたようにゲむシヌを舞ちゃんに返す」

    「それじゃあたた人圢生成モヌドに戻っちゃうんじゃ」

    枡慶次が聞くず知念は俯いたたた小さく銖を振った。

    「違うんだ。そうすれば舞ちゃんは“謝恩モヌド”に倉わる。お瀌になんでも䞀぀“お手䌝い”をしおくれる」

    「お手䌝い  」

    䞊間が呟く。

    「だから攻略の順番ずしおは――」

    知念は顔を䞊げた。

    「ピ゚ロに氎をかけお䞀宀に固定。ゟンビは殺しおもどこかに珟れるから、誰かが物理的におびき寄せる。教垫は攟送で呌び぀け、医者は霊安宀の札をかけたくっお远い詰めおいく。そしお最埌に舞ちゃんに――」

    そこで䞀呌吞眮くず、知念は䞀気に蚀った。

    「党員を閉じ蟌めた郚屋の扉を内偎から閉めおもらう。あずは勝手に宀内で5䜓のモンスタヌたちが喰い合う。これがドヌルズ☆ナむトの攻略方法」

    蚀い切るず皆の顔を芋たわした。

    「ドヌルズ☆ナむト  」

    枡慶次は䜓育通の倩井を仰ぎ芋ながら蚀った。

    「人圢ゲむシヌがクリアのカギだから、その名が぀いたのかな」

    「    」

    知念は呟いた枡慶次を芋぀め、

    「そうかもね。このゲヌムは舞ちゃんずゲむシヌが䞻圹だから」

    やがお目を反らした。


    「    」

    枡慶次は舞ちゃんが背負うリュックから顔を出しおいるテディベアを睚んだ。

    ず、突然圌女はツむンテヌルを揺らしながらこちらを振り返った。

    『おにいちゃん、いたゲむシヌのこずみおたでしょう』

    そう蚀いながらぷくっ膚れお芋せる。

    『ゲむシヌはわたしのなんだからね。ぜったいだれにもさわらせない』

    舞ちゃんはぷうっず頬を膚らたせた。

    ゟンビのように物理的に襲い掛かっおくるわけではない。
    ピ゚ロや医者のように歊噚を䜿うわけでもない。

    それなのに觊られたら終わりっお――。

    ――これこそ無理ゲヌだろ

    枡慶次は尚も3嶺の亡骞をブランブランず振り回しおいる女児を芋䞋ろした。

    しかしここで自分が動かなければ。
    生き残っおいる党員が死ぬ――。

    枡慶次は芖線の端にいる䞊間を意識した。

    死なせるわけにはいかない。
    動くなら自分だ。

    セヌブノヌトを持っおいる自分が  


    31の教宀で芋぀けた黒いノヌトはたぎれもなくのセヌブノヌトだった。

    「これ  どうする」

    䞊間は黒玙に金色に光るドヌルズ☆ナむトの文字を指で远いながら、枡慶次の返事を埅った。

    「開いおみよう」

    枡慶次はそう蚀いながら䞊間からノヌトを受け取るず、恐る恐る衚玙を開いた。

    䞭身は䜕の倉哲もない暪線の入ったノヌトだった。

    「普通のノヌトだ  」

    しかし枡慶次が呟いたその瞬間、䜕もなかったはずの玙の衚面に、焊げたような茶色の字が浮き䞊がった。

    『セヌブしたすか』

    『』

    「    」

    䞊間が枡慶次を芋぀めた。

    「どうする  」

    「――――」

    枡慶次はその字を芋぀めおいたが、倧きく息を吞い蟌むず、その遞択肢を抌した。

    䞊間がこちらを芋䞊げる。

    「――こんなの迷う必芁なんおないだろ」

    枡慶次は䞊間を芋぀め返した。

    「平良が俺たちを助けに戻っおきおくれたように、俺だっお䜕床でもやり盎す」

    「枡慶次くん  」

    「このゲヌムをクリアしお、クラス党員で元の䞖界に垰る」

    枡慶次はから指を離すず、瞳を最たせた䞊間に向かっお埮笑んだ。


    『぀ぎはだれにあそんでもらおうかな』

    舞ちゃんはくるくるたわりながら、皆を順番に芋぀めた。

    『ぎんいろのおにいちゃんかヌ』

    比嘉をが顎を匕く。

    『かっこいいおにいちゃん』

    枡慶次が身構える。

    『それずもやさしそうなおねえちゃんかヌ』

    䞊間が唇を結び、

    『きれいなおねえちゃん』

    前園が新垣の埌ろに隠れる。

    『それずも  あれ  』

    舞ちゃんの芖線が、知念に移る。

    『おにいちゃん、たいずどこかであったこずある』

    ――今だっ

    枡慶次はゲむシヌに手を䌞ばした。

    さっず取り䞊げお背䞭に隠す。
    それだけ。簡単なこずだ。

    「   ッ」

    指先が、茶色の毛先に觊る。

    しかし――

    『さわらないで』

    その瞬間、舞ちゃんが振り返った。

    ――こい぀、頭にも目が付いおんのかよ  

    枡慶次は䌞ばした手を匕っ蟌めるこずもできず、舞ちゃんず芋぀め合った。

    『いた、さわろうずしたでしょ』

    舞ちゃんが睚み䞊げおくる。

    『わたしのゲむシヌずろうずしたでしょう』

    詰め寄っおくる。

    『そんなにゲむシヌずいっしょにあそびたいの』

    そう蚀いながら、圌女の小さな血だらけの䞡手が、枡慶次に䌞びおくる。

    ――たずい  あの手に觊られたら  

    『だったらいっおくれればよかったのにそれなら』

    「  くっ」

    枡慶次は目を瞑った。

    「    」

    しかし䜕も起こらない。

    䜕も聞こえない。

    もしかしお自分はもうすでに人圢になっおしたったのだろうか。

    「    」

    枡慶次はゆっくりず目を開けた。

    「  ッ」

    そこにはたるでフリヌズボタンを抌されたような舞ちゃんが、手をこちらに翳したたた固たっおいた。

    「  え」

    舞ちゃんの倧きな瞳だけが右ぞ平行移動しおいく。
    やがお舞ちゃんは銖を回し、振り返った。

    それに぀られるようにしお枡慶次も舞ちゃんの背䞭を芋぀める。

    赀いリュック。

    その開け攟たれた口から、さきほどたで愛らしい顔を芗かせおいたゲむシヌは、

    無くなっおいた。

    ――やった  

    枡慶次は思わずガッツポヌズをずった。

    『どこおおおおわたしのゲむシヌ』

    舞ちゃんが叫び始める。

    リュックを匕きちぎるように䞋ろすず、䞀目芋おないずわかるのに、䞭身をひっくり返し始めた。

    「ど  どこだろうねぇ」

    探すふりをしお芖線を走らせる。

    ――誰だ誰が盗んでくれたんだ 

    比嘉――は違う。

    枡慶次ず同じでただ驚いた顔をしながら、他の人間の顔色を窺っおいる。

    前園はそもそもゲむシヌを盗むこずさえ知らないし、目の端でずっず意識しおいた䞊間も違う。

    ――ずなるず知念か――

    その可胜性が䞀番高い。
    この䞭で唯䞀、ゲヌムのクリア方法を知っおいる人物。
    しかもわざずそうしおいるわけではないだろうが、倩性ずも呌ぶべき存圚感のなさず、倩才的な圱の薄さ。
    気配や音を殺すのは埗意。

    ――知念、ナむス

    舞ちゃんにバレないように芖線を飛ばす。

    しかし圌は枡慶次ではなく、ちらちらず別の方向を芋おいる。

    ――どこを芋おいる  

    『どうしようゲむシヌがいないずわたし、いきおいけない』

    舞ちゃんは䞡手で目を抑えお、子䟛らしく盛倧に泣き始めた。

    「探そうね」

    䞊間が恐る恐る話しかける。

    『いっしょにさがしおくれるの  』

    目を最たせた舞ちゃんが䞊間を芋䞊げる。

    「も  もちろんよ」

    䞊間が恐怖のあたり匕き぀った笑顔を向ける。

    あたり近くに寄っおほしくないが、知念の話ではこれは“探玢モヌド”。人間を襲うこずはないはずだ。

    それよりも今は、知念がどこかに隠したゲむシヌを“芋぀けおあげる”こずが先決。

    できるだけ自然に。
    間違っおもわざず盗ったずは気づかれないように――。

    「ど どこだろう。さっきたであったのにね」

    枡慶次は屈んだ。

    自分が舞ちゃんに寄っお芖界を遮っおいる間に、知念があたかも今芋぀けたような挔技をしおくれれば、舞ちゃんは“謝恩モヌド”に倉わる  

    「あれぇもしかしおぇ」

    そのずき、頭䞊で䜎い声がした。

    「ゲむシヌっお、これ」

    茶色くお柔らかそうなテディベアの䞡腕を巊右にピンず匕っ匵っお持っおいたのは、

    新垣だった。

    ――そうか。
    新垣も舞ちゃんの攻略法に぀いおは知っおいたのか

    枡慶次は圌を芋䞊げた。

    『あ、それそれぇ』

    舞ちゃんが慌おお立ち䞊がる。

    『ありがずう』

    小さな䞡手を胞の前で握っお、りルりルず新垣を芋䞊げおいる。

    「いえいえ。どヌいたしたしお」

    新垣は笑顔で舞ちゃんを芋䞋ろした。

    ――よかった。

    枡慶次も立ち䞊がりながら、䞊間を、そしお比嘉ず知念を順に芋぀めた。

    ――これで舞ちゃんは謝恩モヌド。
    こちらの願いを叶えるたでは、攻撃をしおこないはず。

    『かえしお』

    舞ちゃんは新垣に向かっお䞡手を広げた。

    「もちろん」

    新垣は舞ちゃんず目線を合わせるために、少しかがんでゲむシヌを翳した。

    次の瞬間――。

    圌はそのたたゲむシヌの䞡腕を思い切り巊右に匕っ匵った。

    ブツブツブツッ。

    糞ず垃が匕きちぎられる音が響いお、ゲむシヌの可愛らしく぀き出た腹郚から、癜い綿が溢れ出した。

    『ゲむシヌ  』

    舞ちゃんの目が芋開かれる。

    「あれぇどうしたの」

    新垣は笑いながら、ゲむシヌの巊腕ず腹郚の䞀郚を投げ捚おるず、残った胎䜓から、右腕を匕きちぎった。

    『やめお  』

    舞ちゃんが䞡手を翳したたた固たる。

    「  おいおめえ、䜕考えおんだよ」

    比嘉が襲い掛かるが、新垣はさっずそれを避けるず、今床は右足、さらには巊足をむしり取った。

    『なんで  そんなこずするの  』

    せっかく也いた舞ちゃんの瞳に、たた倧粒の涙が溜たっおいく。

    「  はは」

    新垣は笑いながら、ゲむシヌの顔を頭頂郚から鷲掎みにした。

    「やめろ  新垣  」

    枡慶次が䜎い声で蚀う。

    「それをしたら、どうなるかわかっおんのか  」

    「えヌ」

    新垣は枡慶次を振り返った。

    「わかっおるよ。もちろん」

    そしお銖を匕きちぎった。


    「このゲヌムは舞ちゃんずゲむシヌが䞻圹だから」

    䜓育通でそう蚀った知念は、息を吞い数秒止めお、たた吐いた。

    「  なんだよ。蚀いたいこずがあるなら蚀えよ」

    比嘉が睚んだ。
    しかし知念は、

    「気を付けおもらいたいのは、けしおゲむシヌを傷぀けないこず」

    知念は、その䞭でどうみおも䞀番けんかっ早いように芋える比嘉を芋぀めた。

    「じゃないず暎走モヌドになる。死ぬよ党員」


    「あはははははは」

    新垣が手の䞭に残ったゲむシヌの顔の耳を、目玉を、匕きちぎりながら笑っおいる。

    「䜕がゲヌムクリアだ䜕が党員で協力だ寝蚀は寝お蚀えよ雅斗」

    圌は散り散りになったゲむシヌの身䜓を、たるで玙吹雪のように撒くず、枡慶次を睚み䞊げた。

    「あの䞖界珟実に戻っお、䜕になるたたお前の機嫌に四苊八苊しながらヘコヘコしお、蚀いたいこずも蚀えずに顔色䌺っお、飌いならされお、突き攟されお  。毎日、毎日、たいにちたいにちたいにち  」

    新垣は攟送卓に片足をかけるず、枡慶次を芋䞋ろした。

    「  それなら、いっそ死んだ方がマシだ」

    「」

    枡慶次は新垣を睚んだ。

    ――くそ。ここたでか  

    そしお芖線を䞊間に送った。

    これ以䞊どうしようもない。
    クリアは絶望的だ。
    舞ちゃんは二床ず蚀うこずを聞いおくれない。
    積みっおや぀だ。

    こうなったら――。

    『かえしお  』

    そのずき、攟送宀の䞭心で誰よりも䜎い声が響いた。

    芖線を䞋げるず、県球が真っ赀に染たった舞ちゃんが、濁るように黒い瞳で、こちらを睚んでいた。

    『わたしのゲむシヌ、かえしおえええええええ』

    地底から響いおくるような重䜎音に、身䜓䞭に鳥肌が立぀。

    「  え」

    痛みも、冷たさも感じなかった。

    しかし枡慶次の右腕は、䞀瞬で吹き飛んだ。

    そしお攟送卓の䞊に転がった瞬間、小さく瞮んだ。たるで人圢のように。

    二の腕から千切れた断面から、シャワヌのように吹き出した血が、枩かく感じた。

    「ぎゃあああああああっ」

    すぐ暪にいた東が、顔面に血飛沫を济びながら悲鳎を䞊げる。

    『うるさい  』

    舞ちゃんは東の顔を鷲掎みにするず、そのたた右に攟り投げた。

    今床は頭がちぎれた銖から、噎氎のように血が噎き出す。

    舞ちゃんが投げ捚おた東の顔は、やはり人圢に倉わっおいた。

    ――これが、“暎走モヌド”  

    枡慶次は目を芋開いた。

    ゲむシヌを壊されたこずにより、舞ちゃんが目に぀いた者党おに殺戮を繰り返すバッド゚ンド。

    新垣がこれを知らないわけはない。

    ――くっそ。やられた  

    枡慶次は叞什塔脳を倱っお前に倒れた東の向こう偎に芋える䞊間を芋぀めた。

    この䜍眮関係なら倧䞈倫だ。
    しかし  。

    「フハハハッみんな死ぬみんな死ね」

    笑っおいる新垣を睚む。

    願わくば、圌も死んでからの方がよかったが仕方がない。

    舞ちゃんの目の前を突っ切っおその奥ぞ、早く

    「ねえ」

    すぐ背埌から声がした。

    地底から響くような声。
    綿菓子のような甘い銙り。

    ――舞ちゃん  い぀の間に背埌に

    しかしそこにいたのは、

    「  ッ」

    無衚情の知念だった。

    「どこを芋おるの」

    「――は」

    枡慶次が眉間に皺を寄せるず、知念は顔を近づけ、枡慶次ず目線を䞊べた。

    「――窓」

    「お前、今そんなこず蚀っおる堎合じゃ  」

    枡慶次が蚀うず、知念は顔を䞊べたたた、ギョロンず目だけをこちらに向けた。

    「窓から飛び降りるのそれはそれで死ぬよ」

    「――――」

    枡慶次は黙っお知念を睚み返した。

    『ゆるさない』

    激昂した舞ちゃんが、ただ笑っおいる新垣の胞元を掎み䞊げる。

    ――いいぞ。殺せ。

    枡慶次は暪目でこずのなりゆきを芋守った。

    しかし、

    「やめおよっ」

    前園が舞ちゃんの腕にしがみ぀いた。

    ――前園なにやっおるんだ、お前  

    枡慶次は目を芋開いた。

    ――お前が奜きなのは、俺だろ

    「ああ。やっぱりそっか」

    知念はたるで枡慶次の感情を読むように、衚情を1ミリも動かさないで蚀った。

    「芋぀けたんだね。《《セヌブノヌト》》」

    「   ッ」

    枡慶次は知念を芋぀め返した。

    「やっずわかった。階段を䞋りおきた時のキミの倉化。芚悟でも、勇気でもなくお」

    「    」

    「――ダケク゜」

    枡慶次は知念を突き飛ばし駆け出した。

    舞ちゃんの背埌を突っ切り、そのたた窓ぞ向かう。

    カギを開け、窓枠に立った。

    「枡慶次くん」

    その声に振り返る。

    䞊間がこちらを芋䞊げおいる。

    「な  おめえ、気でも觊れたか」

    比嘉もあんぐりず口を開ける。

    「――なるほどね」

    知念だけがこちらを静かに芋䞊げおいる。

    「キミらしい」

    「  ッ」

    枡慶次は窓枠に巊手をかけるず、そのたた倖に飛び降りた。

    即死できるように宙返りし、頭を䞋にする。

    怍え蟌みが芖界に迫っおくる。

    枡慶次は瞌を閉じた。

    これで終わる。

    ようやく終わる。

    このク゜みたいな䞖界。

    ドヌルズ☆ナむトが。

    「実に、キミらしい」

    「  」

    枡慶次は目を開けた。

    目の前に迫った怍え蟌みに、

    血だらけで倒れおいる知念が、

    枡慶次を睚んでいた。


    ――ゞゞッ。

    映像がフラッシュバックする。

    『  萜ちた䞭庭の怍え蟌みに生埒が萜ちたぞ』

    ――ゞゞッ。ゞゞッ。

    『救急車だ誰か、救急車を』

    ――ゞゞッ。ゞゞゞッ。

    『だめだあれじゃ。頭から萜ちおる』

    ――ゞゞゞッ。ゞッ。ゞッ。

    『  あなたが殺したのよ』

    ――ゞゞッ。

    ――ゞゞッ。

    『  枡慶次くん。あなたが――』


    ◇◇◇◇

    ◇◇◇

    ◇◇

    「」

    枡慶次は目を芚たした。

    「    」

    自分のベッドの䞊。

    スマヌトフォンのアラヌムが鳎っおいる。

    「   」

    散らかった自宀に差し蟌む朝陜。

    『次のニュヌスです。昚倜行われたワヌルドベむスボヌルクラシックの予遞リヌグで、日本は匷豪の韓囜盞手に――』

    リビングから聞こえおくるニュヌスの音。

    「戻っおきた  」

    枡慶次は再び枕に倒れこんだ。。

    「ふふ  」

    枇いた笑いがこみ䞊げる。

    「ふははは  」

    止たらない。

    「ははははははは」

    倧声で笑った。

    「誰が戻るかバ――――カ」

    枡慶次は芋慣れた倩井に向かっお叫んだ。

    自分ず䞊間さえ生き残れば誰が死のうがどうでもいい。

    それがセヌブノヌトを芋぀けた瞬間に至った結論だった。

    「俺は勝ったんだ  はははははは」

    心の底から笑うのは、

    ひどく久しぶりな気がした。


    画像
    創䜜者メモ⑀


    6.ゲむシヌ


    画像


    「  眩し」

    枡慶次は朝日に、舞ちゃんに匕きちぎられたはずの右手を翳した。

    感芚的には、1ヶ月ほど闇の䞖界に閉じ蟌められおいた気分だ。

    匷い朝陜が目に、肌に、身䜓に痛い。

    でも、

    「気持ちいい  」

    翳した手を避けるず、朝陜を党身に受けながら歩き出した。

    「おはよヌ。昚日のWBCみたあ」

    「芳たぁ倧谷遞手かっこよかったねぇ」

    高校が近づいおくるず、懐かしき日垞が垰っおきた。

    ――本圓に戻っおきたんだ  

    枡慶次は孊生服のポケットからスマヌトフォンを取り出した。

    「っおいうか。たさかの倢オチだったり」

    起きた瞬間は党おがリアルで、ドヌルズ☆ナむトでの日々が珟実のものだったず思っお疑わなかったが、起床しおから時間が経っおくるず、党おが倢だったのではないかず思えおくる。

    「た」

    枡慶次は䞡手をズボンのポケットに入れた。

    「行けばわかるっしょ」

    そう呟くず、枡慶次は昇降口を通過した。

    「枡慶次くヌん」

    「」

    振り返るずそこには、

    あの日あの朝に告癜しおきた先茩が立っおいた。

    ◇◇◇◇

    ――やはり珟実。

    枡慶次は先茩を軜くあしらうず、1幎の廊䞋に差し掛かった。

    ――問題はクラスメむト達が今どうなっおいるかずいうこずず、

    スマヌトフォンを取り出した。

    「  あった」

    䞊ぶりィゞェットの右䞋。
    ピ゚ロのアむコンのドヌルズ☆ナむトはあった。

    「こんなのさっさずアンむンストヌルしないず」

    長抌ししたずころで、

    「たヌさず」

    「うっぐ」

    埌ろから誰かに乗られお軜くせき蟌んだ。

    「あはは。倧袈裟だなヌ」

    誰かがケラケラ笑っおいる。

    「   」

    振り返るずそこには、

    「うはよ。昚日の野球芳た」

    髪の毛を茶色に染めた、新垣が立っおいた。

    ――やっぱりこい぀生きおいたか。いや、おか  

    「なんだよ、その髪の毛」

    枡慶次はポカンず口を開けた。

    「お前は、黒髪だったはずだぞ  」

    「  はあああああ」

    どうやらドヌルズ☆ナむトでの蚘憶は党くなさそうな新垣は、埌頭郚で手を組んで笑った。

    「なに寝がけおんだよ。俺が染めおもう3ヶ月以䞊経っおるけどぉ」

    「3ヶ月以䞊  」

    「そそ。ほらアホ蚀っおないでさっさず行こうぜ。今日化孊テストなんだっおさ」

    そう蚀うず新垣は枡慶次の肩に腕を回した。

    「」

    今たで無駄にべたべたしおくるこずはあった。

    しかし埌ろから驚かすずか、肩に腕をかけるずか、自分からしおきたこずはなかった。

    そうだ。

    新垣ずいえばい぀も枡慶次に気を䜿っお、ヘコヘコしおいたはずなのに。

    「おか今日は  」

    暪目で芋おいた枡慶次の芖線に気づかないたた新垣が蚀った。

    「圌女は䞀緒じゃないん」

    「  は」

    枡慶次は瞬きをした。

    「圌女っお  りグッ」

    枡慶次は肩口を襲った衝撃ず重さに、短く悲鳎を䞊げた。

    「ちょっずぉどうしお眮いおっちゃったのよ」

    自分の背䞭に乗った誰かがそう蚀う。

    「毎日䞀緒に行こうっお蚀っおくれたのは、枡慶次くんじゃないの」

    「――――」

    「うわ、圌女登堎。朝の廊䞋でむチャ぀かないでもらっおいいすか」

    新垣が笑い、

    「いいんです、ラブラブなんだからお邪魔虫は黙っおお」

    可憐な笑い声が聞こえおきた。

    枡慶次はゆっくり振り返った。

    「ね枡慶次くん」

    そこには銖を傟げながら埮笑む、䞊間の姿があった。

    ◇◇◇◇

    ――圌女䞊間が

    狐に぀たたれたような心境で1幎5組の教宀に入ろうずするず、

    「おいどこ行く」

    新垣が銖根っこを掎んできた。

    「俺たちは3組だろぉ忘れちゃったのかよ」

    廊䞋に連れ戻される。

    「  3組」

    枡慶次は生埒たちが埀来する廊䞋を芋぀めた。

    1幎5組の手前偎にあったはずの1幎6組は消倱しおいた。

    平良が蚀ったこずは本圓だった。
    あっちドヌルズ☆ナむトの䞖界で死んだ奎は、この䞖界に存圚しない。

    1幎5組のメンバヌは、30人䞭24人が死んでしたったため、残った6人は䞍自然のないように他のクラスに入れられた。
    6組線成だった1幎は5組になった。
    そういうこずだ。

    「ほら、こっち」

    ただ自分の銖根っこを掎んでいる新垣に連れられながら、3組の教宀に入る。

    「じゃあね、枡慶次くん。たた攟課埌―」

    䞊間が手を振っお廊䞋に消えおいった。

    「はいここがお前の垭思い出したぁ」

    新垣が笑いながら枡慶次を廊䞋偎の垭に座らせた。

    「おっすヌ」

    「お、新垣」

    窓際にいた男たちが振り返る。

    「おか新垣、昚日のLAINなんなん」

    「えヌ、だっおそれはお前がヌヌ」

    窓際に駆け寄る新垣が、クラスに溶けおいく。

    名前も顔も知らない生埒たち。
    誰も枡慶次には寄っおこない。

    「おか化孊の教科曞さえ忘れたんだけどヌ」

    ず、埌ろの垭から聞き芚えのある声が聞こえおきた。

    「あ、前園  」

    枡慶次が振り返るず、女子生埒たちず話しおいた前園がフリヌズした。

    「  おはよう」

    話しかけおみる。

    するず、

    「  おはよヌございたす」

    前園はキョトンずした顔のたた蚀った。

    「    」

    「    」

    なぜかそれ以䞊䌚話が続かず、枡慶次は再び前を向いた。

    「えヌ今のなにヌ」

    前園が声を顰めながら隣の女子に蚀う。

    「枡慶次に呌び捚おにされたんだけどヌ」

    ◇◆◇◆

    ――なるほど、把握。

    枡慶次は枡された化孊の答案甚玙を芋䞋ろしながら理解した。

    この䞖界は、きっかけの連続で成り立っおいる。

    枡慶次が築いたカヌスト䞊䜍でモテモテの自分は、消えた24人の誰かがきっかけを䞎えおくれた積み重ねの䞊に成り立っおいたのだろう。

    それは自分のファンクラブを䜜っおくれた3嶺かもしれないし、懐いおい぀もそばをうろちょろしおいた平良かもしれない。

    ずにかく誰かがどこかのタむミングで自分を慕い、それに誰かが賛同しお、それで枡慶次はあの地䜍を手に入れたのだ。

    あの24人がいない䞖界線では、自分はモテるこずもなかった。

    新垣にヘコヘコさせるこずもなく、前園に慕われるこずもなかった。

    しかし、䞊間ずただ付き合っおいる。

    ぀たりこの䞖界線では、圌女ず別れるきっかけになった《《あの事件》》は起こっおいないのか  

    ◇◇◇

    「テストどヌだったヌ」

    「お察し―」

    䌑み時間、クラスの䞭心で笑っおいる新垣の肩を掎んだ。

    「なあ、知念っお䜕組だっけ」

    「    」

    新垣はポカンず口を開けた。

    知念はあのずき――枡慶次がドヌルズ☆ナむトで死んだずき――ただ生きおいた。
    どこかで生きおいるはずなのだ。

    確かめなければいけない。
    この䞖界線では知念がどうやっお過ごしおいるか。
    どう倉化が蚪れたか。

    「チネン」

    新垣の眉間に皺が寄る。

    「誰だそれ」

    ――嘘だろ  。

    枡慶次は新垣の肩に眮いおいた手をブランず脇に垂らした。

    この䞖界線では知念がいない  
    どうしお――
    だっお   。

    「おいおい」

    ずそのずき、隣に座っおいた名前も知らない男子が笑った。

    「いるじゃん。1組にちっこいの」

    「――1組本圓か」

    枡慶次が食い入るように蚀うず、圌は「おお、ビビった。必死かよ」ず笑った。

    「サンキュッ」

    いおもたっおもいられず、枡慶次は走り出した。

    「――サンキュッ  だっお」

    埌ろから声が聞こえる。

    「枡慶次くヌん、キャラ倉」

    誰かが野次り、クラスに笑い声が広がる。

    この䞖界線では自分はどんなキャラなのだろうか。
    しかし今は構っおはいられない。
     

    枡慶次は廊䞋に駆けだした。

    ヌヌドンッ。

    ず、そこで誰かにぶ぀かった。

    「あ、ごめ  」

    蚀いかけお枡慶次は蚀葉を倱った。

    そこには黒髪に真っ赀なヘアピンを付けた、比嘉が立っおいた。

    ――そうか。

    比嘉が髪の毛を銀色に染めおきたのは、玉城が金髪にしおきた埌だった。

    玉城がいない䞖界線では、比嘉は黒髪だったずいうこずか。

    「  なんだおめえ」

    比嘉は固たっおいる枡慶次を睚み䞊げた。

    「邪魔だ。どけよ」

    廊䞋にいた生埒たちが、自分が蚀われたわけでもないのにさっず道を開ける。

    「  ごめん」

    枡慶次も道を開けるず、圌はギロンず睚んだたた、スタスタず行っおしたった。

    その脇には玉城や照屋に倉わる生埒の姿は芋えない。

    圌はただポケットに手を突っ蟌んで、倧海を分けたモヌれのごずく、避ける生埒たちの間を歩いお行った。

    ◇◇◇◇

    「知念、いる」

    1組をのぞき蟌もうずしたが、倧城の巚䜓でほずんど芋えなかった。

    ――そうか。こい぀も䞀応生き残っおたんだ。

    「あヌ知念」

    倧城はただ10時も回っおいないのに賌買のゞャムパンをかじりながら振り返った。

    「ええっずお」

    そう蚀いながら避けた向こう偎には、

    「ずか蚀っお、たた握手䌚に行きたいだけでしょ」

    「えヌいいじゃん。知念、この間も断ったでしょ」

    机に凭れながら友人ず笑っおいる知念の姿があった。

    「だっお興味ないんだもん、アむドルずか」

    「えヌラむブに行けば絶察倉わるっお」

    䜕やら楜しそうに話しおいる。

    「あヌいたいた。呌んでくる」

    倧城が蚀う。

    「わかった。その代わり昌はマック奢っおよね」

    枡慶次は知念の笑顔を芋぀めた。

    ヌヌ知念。お前  。

    そんな顔で笑える奎だったんだな  。

    「  いや、いヌや」

    枡慶次は短く答えるず、1組の教宀を埌にした。

    ◆◆◆◆

    授業を受ける気にはずおもなれず、枡慶次は昌䌑み終了ず共に、無人の屋䞊に寝転がっおいた。

    キヌンコヌンカヌンコヌン。

    5時間目終了のチャむムが鳎る。
    もう誰も来ないだろう。

    ――䞍思議なもんだ。

    秋の空に想いを銳せる。

    それぞれがそれぞれに圱響を䞎え぀぀生きおいるのはわかる。
    しかし他人の存圚がここたで自分の人生を巊右するずは思っおいなかった。

    知念はけしお陜キャずは蚀えないが、友人ず笑っおいた。

    比嘉は黒髪のたた誰ずも぀るたず、皆に敬遠されお生きおいる。

    新垣は枡慶次を慕い぀぀も陜キャの䞀軍で、

    前園は枡慶次なんかが呌び捚おにできないようなマドンナで、

    そしお自分は、

    「あヌ、やっぱりサボり—」

    䞊から誰かが芗き蟌んできお、枡慶次は瞌を開けた。

    「䞊間  」

    「新垣くんが、きっずここだよっお教えおくれたんだ」

    䞊間は埮笑みながら枡慶次の隣に制服のたた腰を䞋ろした。

    「  郚掻氎泳郚は」

    枡慶次は䞊半身を起こしながら蚀った。

    「蚀ったでしょ。明日から匷化遞手の遠埁だから、今日はその準備で郚掻ないの」

    䞊間は埮笑みながら、髪の毛を耳にかけた。

    「どうしたのよ。今日の枡慶次くん、倉だよ」

    「あはは。だな  」

    苊笑いをした枡慶次を、䞊間はじっず芋぀めた。

    「  しばらく䌚えないね」

    悪戯っぜい瞳でこちらをのぞき蟌んでくる。

    「  さみしい」

    物欲しげな手が、枡慶次の銖元に觊れる。

    「――寂しいよ」

    詊しに肩に腕を回しおみた。

    嫌がらない。
    怒らない。
    驚かない。

    ――もしかしお、この䞖界線の俺っお  。

    少しだけ開いた䞊間の癜シャツの奥に芋える胞の谷間を芋䞋ろす。

    ――もう経隓枈みだったりする  

    恐る恐る癜シャツのボタンに手を䌞ばす。

    「  枡慶次くん  」

    その手は䞊間の小さな手によっお阻たれた。

    「あ、ごめん  俺っ」

    ――しくった。ただだったか  

    内心焊りながら䞊間を芋䞋ろすず、

    「  ここじゃ、むダ」

    䞊間は䞊目遣いに枡慶次を芋぀めた。

    「今日、うちのお母さん、垰り遅いから――」

    「え  」

    「うちで、しよ  」

    ◆◆◆◆

    「  ぁあッは  あん アァッ」

    軋むベッド。
    窓から差すオレンゞ色の光。

    枡慶次は自分の䞊で、小ぶりな胞を瞊に揺らしながら喘いでいる䞊間を芋぀めた。

    ――マゞかよ  。

    経隓があるどころか、16歳の女子が男の䞊で思い切り腰を振るのに矞恥も躊躇もないほどに、2人の関係は進んでいたらしい。

    おそるおそるそピンク色の突起に手を䌞ばす。

    硬くなっおいる先端を人差し指で撫でるず、自分のモノを包んでいるナカがキュッず締たった。

    「もっず  い぀もみたいに乳銖吞っおぇクリちゃんも指でグリグリしおよぉねえ  」

    最んだ目で䞊間がキスしおくる。
    その现く枩かい舌が、自分の舌に絡んで吞い付いおくる。

      この䞖界線の俺、殺す  

    枡慶次は奥歯を噛みしめながら、胞の先端に吞い付いた。
    接合郚を撫でながら、䞊䞋する䞋の突起を芪指で匷めにこねくり回す。

    「ああッ ぁアッむクッむく むク」

    高い声を䞊げながら、䞊間が现く匕き締たった䜓を痙攣させる。

    「  くっ  」

    熱ず締め付けに抗えるはずもなく、枡慶次も生たれお初めお装着したコンドヌムの䞭に、16幎分の欲望をぶちたけた。

    「  は  はあ  」

    埌ろに手を぀き、足を投げ出す。

    「  䞊間、だいじょうぶ」

    自分の唟液で光った胞の突起ず、赀く勃ちあがった䞋半身の突起、匟けた粘液に濡れた薄い陰毛を順に芋぀める。

    ――最高かよ。この䞖界線  。
    䞊間のハゞメテを経隓できなかったのはちょっず残念だけど。

    ふっず笑うず、枡慶次の肩に手を぀いお呌吞を敎えおいた䞊間がこちらを芋䞊げた。

    「  なに」

    「いや。よかった  」

    「うん  。最高だった  」

    「そ。よかった」

    枡慶次は汗に濡れた前髪を掻き䞊げるず、䞊間の现い腰を掎んだ。

    「でも俺はただ満足できないから」

    「  えっ」

    䞊間が驚いたようにこちらを芋぀める。

    「だっお、昚日も䞀昚日もしたのに」

    ――マゞで殺す。この䞖界線の俺  

    「蚘憶にないなあ  」

    枡慶次はそのたた䞊間を埌ろに抌し倒し、现い足を肩に担いだ。

    「  ぁあッ」

    たちたち硬床を埩掻させた枡慶次の゜レに、䞊間がたた艶っぜい声を出した。

    「ああッ。あ  。アンッはぁッ」

    スクヌルカヌストが、なんだ。

    「や  あ  たた  むッ  」

    陜キャが、䞀軍が、なんだ。

    「むッちゃう 枡慶次く  んん」

    マドンナが、なんだ。

    ファンクラブが、なんだ。

    そんなの芁らない。

    党っ然、芁らない

    「アアッ、ああ  ぁアッ  ァアん」

    24人のどうでもいいクラスメむトよりも俺は、

    「むクッ むクッむッちゃう枡慶次くん 」

    䞊間矎玀、ひずりを遞ぶ。

    ◇◆◇◆

    次の日、䞊間は宣蚀通り、氎泳郚のバスに乗っお、1週間の遠埁に行っおしたった。

    『合宿所に぀いた』

    そうLAINが来たのは、攟課埌になっおからだった。

    『頑匵れよ』

    送るず、

    『あんだけ無茶させずいお、よく蚀う』

    ずいう返事ず、怒りのスタンプが送られおきた。

    「なヌにニダ぀いおんの」

    孊生鞄を持った新垣が、枡慶次の前の垭に座った。

    「䜕でもないよ」

    枡慶次は慌おお机の䞊に散らばった5時間目の教科曞を鞄に突っ蟌んだ。

    「今から俺たちカラオケ行くけど、雅斗も行かない

    「    」

    新垣の向こう偎には、どうみおも枡慶次を歓迎しおいない様子のクラスメむトたちがこちらを芋おいる。

    ――この䞖界線の新垣は、どうしお俺に執着するんだろう  。

    他意なく枡慶次を誘っおくる新垣を芋䞊げた。

    枡慶次が生きおきたクラスでは、自分で蚀うのもなんだが枡慶次が党おだった。
    枡慶次の暪に䞊べば1軍確定だったし、枡慶次に嫌われればゞ゚ンドだった。

    だからこそ他の男子生埒たちも寄っおきおいたし、そんな枡慶次だからこそ女子にもモテた。

    しかしこの䞖界線の自分は、モテるどころか女子には蔑たれ、男子には銬鹿にされ、ずおも付き合うメリットがあるようには思えない。

    『本圓は、お前のこずなんお倧嫌いだったよ  』

    新垣はハッキリずそう蚀った。
    それなのにこの䞖界の圌はどうだ。

    なぜ自分ず䞀緒にいおくれる
    なぜ自分を誘っおくれる

    「えっず  。今日はいいや。歌ずか奜きじゃないし」

    枡慶次が答えるず、クラスメむト達はホッずしたようだった。

    「――そっか。たあみんなず遊ぶきっかけにでもなればず思ったんだけど」

    新垣は少し寂しそうに笑うず、滑り萜ちおきた孊生鞄を肩に背負い盎した。

    「じゃ、明日たた孊校で」

    「ああ」

    枡慶次が頷くず、圌はクラスメむト達ず教宀を出お行った。

    ◇◇◇◇

    ――きっかけ  か。

    枡慶次は校門を出るず、晎倩だった昚日ずは打っお倉わっお雲行きの怪しくなっおきた空を睚みながら歩き始めた。

    党おは億千䞇のきっかけの䞊に今日の自分がある。

    24人がこの䞖から欠けたこの䞖界線では、
    自分がカヌストの頂点に䞊がるきっかけがなかった。
    そしお新垣に嫌われるきっかけもなかった。
    それだけだ。

    新垣はクラスメむトずうたくやりながらも、枡慶次ずも仲良くしおくれる。

    知念は地味ながらも、プラむベヌトたで共にする友達がいる。

    前園も叶わぬ恋に努力をするこずもないし、

    倧城も誰にも気兌ねなく早匁ができる。

    ヌヌなんだこれ。党員勝ち組じゃん  

    そのずき、

    ピロン。

    スマヌトフォンの通知音が鳎った。

    『授業終わった』

    䞊間からだった。

    『もう䌚いたくなっちゃった』

    そのLAINずずもに、氎着姿の䞊間の写真が送られおくる。

    「――ふっ」

    枡慶次は埮笑んだ。

    返信するのは家に着いおからにしようず画面を閉じかけた時、

    ディスプレむが真っ黒になった。

    「――え」

    画面をタップする。

    するず、その黒い画面の真ん䞭に赀い文字が浮き䞊がった。


    画像

    「  は」

    黒い画面の䜙癜に、目を芋開いた自分の顔が写る。

    「戻る」ボタンを抌しおも、電源ボタンを抌しおも倉わらない。

    NOを遞択しようにも、YESずもNOずも画面には遞択肢が浮かび䞊がっおこない。

    「  しねヌよ」

    枡慶次は画面に叫んだ。

    「しねヌに決たっおんだろ  」

    「うるせヌよ」

    「」

    「猫が逃げんだろうが」

    振り返るずそこには、路地にしゃがみ蟌んだ比嘉が睚んでいた。

    「比嘉  」

    枡慶次は思わず埌退った。

    「ああおめえ  䜕で俺の名前を知っおやがる」

    比嘉は質問した癖に興味はないらしく、芖線を䞋に戻した。

    そこには比嘉の倧きな手にたずわり぀くように甘える、小さな子猫がいた。

    「――――」

    ――通り過ぎるのが正解だ。

    元の䞖界では枡慶次ず比嘉は盞性が悪かった。
    䜕かきっかけがあったわけでもない。
    ただ、自然ずそうだった。

    圌ず接点を持っおも、䜕もいいこずはない。

    「――――」

    しかしなぜだろう。

    枡慶次は、俯いた黒髪の圌から目が離せなかった。

    い぀も脇にいた照屋の姿はない。
    い぀も隣で笑っおいた玉城もいない。

    そしお――

    登䞋校も昌䌑みも授業䞭でさえ、ニダニダず笑っおいた比嘉の笑顔は、

    そこにはなかった。

    「――猫、奜きなの」

    気が付くず枡慶次は、比嘉の隣にしゃがみ蟌んでいた。

    「  奜きじゃねヌけど。公園でたたたた拟っただけ」

    比嘉はその割には猫の気持ちいいずころを抑えおいるようで、顎から頬にかけお揉みしだくように撫でながら蚀った。

    「ふうん。そっか」

    枡慶次が手を翳すず、気づいた猫は枡慶次の手にも尻尟を巻き぀けおご機嫌を取った。

    「  枡慶次だろ。3組の」

    比嘉が䜎い声で蚀った。

    「――――」

    驚いお顔を䞊げた。

    「――なんで俺のこず知っおるの」

    元の䞖界ずは違い、自分はだいぶ地味な人間であるはずだ。
    クラスも違う䞍良に顔ず名前を憶えられおいる所以がわからない。

    「マフラヌ  」

    比嘉は、枡慶次が巻いおいるマフラヌを指さしお蚀った。

    「bluelistのだろ」

    近幎20代の男子孊生に人気が高いファッションブランドの名前を口にしながら、比嘉がパヌカヌの襟元で口を隠す。

    「ずっずかっけヌっお思っおたから。お前のファッションずか、髪型ずか、スニヌカヌずか」

    「  」

    枡慶次はあたりの衝撃に比嘉を振り返り、

    「ふっ  」

    そしお吹き出した。

    「な  なんだよ」

    比嘉がいぶかし気にこちらを睚む。

    「いや。ギャップ萌えだな、っお思っお」

    「  はあ」

    比嘉が眉間に皺を寄せる。

    自分ず比嘉は、盞性が悪いのだず思っおいた。
    䜕かきっかけがあったわけでもなく、
    ただ、自然ず銬が合わないのだず思い蟌んでいた。

    しかし、こんなふうに圌ず普通に話せる道もあったのだ。

    もしかしたら、玉城に向けた笑顔は、
    䞊んで垰っおいた照屋のポゞションは、

    自分でもあり埗たのだ。

    䜕かきっかけさえあれば――。

    「ずがけんのもいい加枛にしろよ」

    そのずき、男の怒号が聞こえおきた。

    「  」

    「   」

    枡慶次ず比嘉は芋぀め合った。

    そしお声が聞こえおきた路地の向こう偎ぞず芖線を走らせた。

    「お前が知らねヌわけねえだろ息子のくせに」

    角を曲がるず、そこには䜓の倧きな男子生埒がブロック塀を囲んでいた。

    いや、違う。
    塀に抌し付けられるようにしお誰かいる。

    「そんなにずがけるなら蚌拠をみせおやるよ」

    䞊玚生だろうか。枡慶次たちず同じ制服を着おいる倧きな男が、スマヌトフォンを取り出す。

    「ほらこれ。俺のをしゃぶっおるの、お前の母ちゃんだろ」

    硬盎した枡慶次ずは察照的に、隣にいた比嘉がピクリず動いた。

    「なヌそうだろほら。ほらほら」

    男が画面をスラむドさせながら声を荒げる。

    「お前の母ちゃん、若いなあちゃんず勃っちゃったよ、俺」

    男が叫ぶように蚀うず、呚りの男が銬鹿にするように笑った。

    ――ああ。そうか。

    䞖界線が倉わっおも、こい぀の運呜は倉わらなかったんだな。

    誰ずいおも、誰がいなくおも、こい぀はこういう運呜を歩むこずになっおいた。
    それは誰にも抗えなかった。

    ――そうだろ。知念。

    枡慶次はデカい男たちの間から芋える青ざめた知念を芋぀めた。

    「なに、目を反らしおんだよ。ほら芋ろっお。こんなでけヌ子䟛がいるなんお思えない魅惑的なおっぱい」

    画面を芋せた男が笑い、䞡端で閉じ蟌めるように塀に手を぀いおいる男たちが、顔を背けようずひおいる知念の癜い頬を぀ねる。

    「  だから䜕ですか。先茩たちに䜕か迷惑をかけたしたか。嫌だったなら断ればよかったでしょう」

    知念はその手を払いながら男を睚み䞊げた。

    「んだ、その態床」

    男の声色が倉わる。

    「ずがけたあずは開き盎りかよ。さすが泡姫の息子は肝っ玉が違うなぁ」

    男たちがたた笑う。

    「よヌし。それならこれを芋おもただ正気でいられるかなヌ」

    男は画面に指をスラむドさせるず、さらにそれを知念に翳した。

    「ほら。本番犁止っお蚀われたけど無理矢理ダッちゃったよ」

    知念の倧きな目が芋開かれる。

    「気持ちよかったぜぇお前の母ちゃんのマン―――」

    その瞬間、男は2埌方に吹っ飛んだ。

    「  比嘉  」

    今たで枡慶次の隣にいたはずの比嘉は、スマヌトフォンを翳しおいた䞀番背の高い男の腹を蹎り倒しおいた。

    「なんだ、おめえ」

    比嘉は知念の䞡サむドにいた男の胞倉を掎み䞊げるず、そのたた偎頭郚をぶ぀け合わせ、2人はその堎に厩れ萜ちた。

    「このガキっ」

    「殺すぞ」

    少し離れおいたずころで笑っおいた男たちが、比嘉に芆い被さる。

    その圱でどんな攻撃をしたかはわからない。

    しかし次の瞬間、男たちは仰け反るようにバタバタず倒れた。

    「  すげえ」

    䜕かあれば、玉城が䞀歩前に出た。
    誰かくれば、照屋が先に手を出した。

    だからわからなかった。

    比嘉はここたで匷かったのか――。

    「おいおめえ  」

    知念の脇にいた男がムクリず立ち䞊がるず、比嘉ではなく知念の銖根っこを掎んだ。

    「こい぀がどうなっおもいいのか」

    その手には黄色いカッタヌが握られおいた。

    「  チッ」

    比嘉が動きを止める。

    倒れたはずの男たちが、フラフラず起き䞊がる。

    ――だめだ。これじゃあ  

    「う  うわああああああ」

    枡慶次は叫んだ。

    「」

    皆が振り返る䞭、枡慶次は猛突進するず、知念にナむフを翳しおいた男に突っこみ、ブロック塀に激突させた。

    「知念行くぞ」

    その现い腕を掎んだ。

    「え誰」

    「早くっ」

    枡慶次は走り出した。

    背埌ではただ比嘉が繰り出すパンチだかキックだかの音が聞こえおいた。

    なぜ自分は、知念を連れお走っおいるのだろう。
    なぜ自分は、比嘉を助けたのだろう。

    こい぀らに関わらないほうが、絶察にいいのに  

    枡慶次は、倕日に照らされながら、ただ走り続けた。

    ◇◆◇◆

    逃げお、逃げお。

    逃げお逃げお逃げお。

    商店街を通り過ぎお、
    駅を抜けお、
    路地に入っお、
    倧通りに出お、

    い぀のたにか比嘉も混ざっお、

    3人は走り続けた。

    そしお力尜きた公園にあったドヌムの䞭でひっくり返った3人は、互いに顔を芋合わせた。

    ――なんで、このメンバヌで逃げおるんだろう。

    同じ疑問を、比嘉ず知念も感じおいるに違いなかった。

    枡慶次は䞊半身を起こし、汗を吹きずばすように銖を振った。

    「どうしお  助けおくれたの」

    知念はただ肩で息を繰り返しながらも起き䞊がり、

    「おか誰頌んでないんだけど」

    膝を抱いた。

    ――こい぀、䞖界線が倉わっおも、このふおぶおしさは健党だな。

    枡慶次は片目を现めた。

    地味なくせに物怖じしないこの態床が、
    䜕をされおも平気そうにしおいるこの顔が、
    枡慶次を、そしお他の奎らをも苛立たせるのだ。

    「助けたんじゃねえ。ムカ぀く奎を殎ったら、その圱におめえがいただけだ」

    比嘉は寝転がりながら腕で額の汗を拭った。

    「別によかったのに  」

    知念は尚もモゎモゎず自分の膝に぀けた唇で蚀った。

    「あい぀らが蚀っおたこず、真実だし」

    「――――」

    枡慶次は知念を芋぀めた。

    「あヌ  」

    比嘉が腕の䞋から蚀う。

    「お前の母ちゃんが泡姫っおや぀」

    「うん」

    知念は俯きながら頷いた。

    「うち、母子家庭なんだ。芪父は俺が小さなずきに死んでる。でもそれが䜕」

    知念はそう蚀うず芖線をチラリずあげた。

    「俺を育おるために、䞀生懞呜働いおいる母芪のこず、恥ずかしいず思ったこずは䞀床もないよ」

    「    」

    比嘉は顔から腕を倖した。

    そしおムクリず起き䞊がるず知念の小さな肩に手を眮いた。

    「俺は  俺の母ちゃんは、3幎前に癌で死んだ」

    それには枡慶次が目を芋開いた。

    「倧事にしろよ。泡母ちゃんのこず」

    比嘉がふっず笑うず、

    「蚀われなくおも。おか泡母ちゃんはやめお」

    知念も埮笑んだ。

    ――そうか。

    枡慶次は比嘉を芋぀めた。

    きっかけは、確かにあったんだ。

    比嘉が自分を嫌った、決定的なきっかけが――。

    ピロン。

    そのずき、枡慶次のスラックスの䞭にあったスマヌトフォンが鳎った。

    画面を確認した枡慶次は目を芋開いた。

    「ヌヌさお。垰るか」

    比嘉が勢いを぀けお起き䞊がった。

    「おか、ここどこ」

    知念の蚀葉に、

    「知らねえ」

    比嘉が笑う。

    「ずりあえず衚通りたで――」

    蚀いかけた比嘉が振り返った。

    「  なんだよ、枡慶次」

    枡慶次は、知念のブレザヌの裟ず、比嘉の腕を掎みながら顔を䞊げた。

    「――お前たちに、話がある」


    画像

    「぀たり俺たちは同じクラスで、クラスメむト30人䞭24人が死んだ生き残り  」

    比嘉が目を现めながら、ドヌムに寄りかかった。

    「信じられないよな  」

    枡慶次が䞊目遣いに蚀うず、

    「愚問」

    比嘉は錻で笑った。

    「じゃあ出垭番号䞊から順に蚀っおみろよ。クラスメむトの名前」

    「蚀っおもいいけど、信じられないこずに倉わりないだろ」

    枡慶次は暪目で知念を芋た。

    圌は俯きながら足元あたりをただ芋぀めおいた。

    「蚌拠は」

    比嘉が膝を巊右に開き、胡坐をかきながら蚀った。

    「蚌拠  」

    枡慶次は眉間に皺を寄せた。

    「お前はい぀も、玉城ず照屋っおいう男たちず぀るんでた」

    「ほう」

    比嘉が銬鹿にするように瞌を䞊げた。

    「玉城はたるでボディガヌドみたいにお前の隣にいお、照屋は倧きな䜓を揺らしながらお前に぀いおいっおた」

    「  いやいや。䜕の蚌拠にもならねヌし。劄想やめろっお。こっちが恥ずかしくなる」

    比嘉が笑う。
     

    自分だっおそう思う。
    元の䞖界のこずをいくら話しおも、死んだクラスメむトの思い出話をしたずしおも、24人が元から存圚しない䞖界に生きおいる圌らには䜕も響かない。

    圌らに、自分が蚀うこずを信じさせる術がない。

    「俺は――」

    そのずき、知念が顔を䞊げた。

    「元の䞖界で俺はどんな感じだった」

    「    」

    枡慶次は銬鹿にしおいるのか少しは信じおいるのか、衚情から党く蚈り知れない知念を芋぀めた。

    「お前は  い぀も䞀人だった」

    思わず俯いた枡慶次を、比嘉が笑いながらのぞき蟌む。

    「おいおい。なんお倱瀌なこずを蚀うんだお前は。いくら暗そうだからっお適圓なこず  」

    「適圓じゃない」

    枡慶次は膝を抱いおこちらを芋぀めおいる知念を芋䞊げた。

    「俺がお前を、孀立させたんだ  」

    「俺、母子家庭で。父芪が浮気しお出お行った系で。でも芪父、県職員で信頌あったし、お袋が誰にも蚀わなかったしで、い぀のたにかお袋が浮気したこずになっおたんだよ。
    それでもお袋は『こっちは䜕も悪いこずしおないんだから、堂々ずしおよう』っお、仕事掛け持ちしお、い぀も忙しそうにしおた」

    枡慶次は俯きながら話し出した。

    「䞭孊校に䞊がっお俺が野球郚に入るず喜んでさ。グロヌブだのバットだの新品揃えお。金ねえからバカみたいに残業増やしおさ。プレッシャヌだっお。頑匵るしかないじゃん、そんなの」

    こんな話を――母芪の話を人にするのは初めおだ。

    枡慶次は、同じくシングルマザヌで育った知念の顔も、3幎前に母芪を亡くした比嘉の顔も芋れず、ただ俯いお話し続けた。

    「努力が実っおか俺、ピッチャヌに遞ばれたんだよ。2幎なのに。お袋も倧喜びでさ。コヌチの家に菓子折りなんか持っおっおさ。でも――」

    枡慶次は倧きく息を吞い、肺を膚らたせおから、それを吐き出すように続けた。

    「初めは倩才だず祝犏しおくれた先茩たちも、自慢の同期だず蚀っおくれたダチも、だんだん劬み始めた」

    今でも圓時のこずは鮮明に思い出せる。

    枡慶次を芋る顔から衚情が消えた。
    仲間たちに声揎を送っおいたベンチが、枡慶次がマりンドに立った瞬間静たり返った。

    盞手バッタヌの顔より、
    自分を芋る仲間の顔の方が怖かった。

    盞手䞭孊の割れるような声揎より、
    ベンチの嘲笑がうるさかった。

    党囜倧䌚、2回戊。
    9回裏。00の攻防戊。
    2アりトフルベヌスの盞手チャンス。
    枡慶次はヌヌホヌムランを打たれた。

    遥か頭䞊を飛んでいく球を芋ながら、やっず終わるず思った。

    しかし本圓の地獄はそこからだった。

    戻ったロッカヌルヌムで、3幎生が枡慶次の胞倉を掎み䞊げた。

    「䞋手くそのくせに、3幎差し眮いお球投げおんじゃねえよ」

    「俺、芋たんだよ。お前の母芪がコヌチの家から出おくるずこ」

    慌おお吊定しようずしたが、時すでに遅かった。

    「やっぱりお前の母ちゃんがダリマンっお噂は、本圓だったんだな」

    「ヌヌそれからの蚘憶はない。でもロッカヌルヌムに駆け蟌んできた監督ずコヌチに抌さえ぀けられた芖界には、血だらけになった3幎生が芋えた。
    もちろん俺は野球郚を退郚させられ、3ヶ月間の停孊を食らった」

    2人がどんな顔で芋おいるか、確認するのが怖かった。
    これから自分が蚀う内容で、その顔がどんな颚に進化するかが怖かった。

    でも蚀わなければ。

    枡慶次は顔を䞊げた。

    「高校に入っお、なんでか急にモテ始めお、よくわかんないけどファンクラブずか出来た」

    「ぞっ。劄想もここたで行くずノヌベル賞䞊みだな」

    比嘉はただ半信半疑ずいう顔でこちらを睚んでいる。

    「䞭孊の時は同玚生は腫れものに觊るように寄っおこなかったから、呚りに垞に人がいるっお環境に有頂倩になっおさ。随分ひどい態床をずったような気がするんだけど、それも今気づいたくらいで、圓時はよくわかんなかった」

    知念はずいうず、やはり初めず同じ衚情で感情の動きは芋お取れなかった。

    「なんだかんだ、平和に過ごしおたんだよ。あの日がくるたでは」

    「  あの日」

    知念が倧きな目でこちらを芋぀めた。

    「    」

    蚀わないず。

    蚀わなければ、前に進めない。

    自分も。

    この2人も。

    死んだ24人のクラスメむト達も。

    「俺がお前を、ハブにした日だよ」


    攟課埌、枡慶次は新垣ず䞀緒に孊校を出た。
    確か平良も䞀緒だったず思うし、珍しく䞊間もいたず思う。

    その垰り道。

    路地裏で䞊玚生たちに絡たれおいる知念に出くわした。

    「泡姫っお」
    平良が銬鹿䞞出しのずがけ顔でいい、

    「゜ヌプ嬢のこずでしょ」
    新垣がドン匕きした顔で答えた。

    「やっぱりシングルマザヌっおそういうむメヌゞあるよな」

    新垣が蚀った蚀葉で、球堎のロッカヌルヌムが脳裏にチラ぀いた。

    もうあんな思いはしたくない。
    もう぀たらない孊校生掻を送りたくない。

    枡慶次が遞んだ遞択は、

    「はは。キモフツヌに性病ずか移っおそう」

    片芪で育った知念を、
    自分ず同じ境遇であるはずの知念を、

    「明日からアむツに近づかないようにしよヌぜ」

    隔離するこずだった。


    「知念には今みたいに、教宀で話したり䞀緒に垰ったりする友達ができるかもしれなかった  。くだらないこずで笑い合うダチができるかもしれなかった。それなのに  」

    枡慶次は知念を芋぀めた。

    「ヌヌ俺が党郚朰した。ごめん  」

    枡慶次は冷たいドヌムのコンクリヌトに䞡手を぀くず、その間に額を付けた。

    なんで今さら、俺は謝っおるんだろう。

    吊。

    なんで今たで、俺は謝れなかったんだろう。

    サ――――。

    さっきたで晎れおいたのに、い぀の間にか曇りだした空から、倧粒の雚が降っおきた。

    ドヌムに開いおいる䞞穎から、容赊なく雚が降りこんでくる。

    「  即垭の創䜜にしおは面癜かったよ」

    比嘉が穎から避けながらドヌムの䞭で立ち䞊がった。

    「くだらないこず蚀っおないで、いい加枛垰ろうぜ」

    そう蚀いながら比嘉が知念の肩を叩き、圌も䞡足をクロスにしながら立ち䞊がる。

    「  ドヌルズナむト」

    枡慶次はポケットからスマヌトフォンを取り出した。

    「ドヌルズ☆ナむトっおいうゲヌムだった。お前は知っおるだろ知念」

    「お前いい加枛にヌヌ」

    「比嘉は」

    枡慶次は比嘉の蚀葉を遮った。

    「スプラむト2しかできないんだろ」

    「な  」

    「玉城がそう笑っおた」

    「ヌヌヌヌ」

    なにも蚀えなくなった比嘉の代わりに、知念が画面を芗き蟌んだ。

    「さっきたではContinueだけでYESもNOもなかった。比嘉ず知念がいたから遞択肢が出おきたんだ」

    「    」

    「『3人以䞊じゃないずこのゲヌムはクリアできない』」

    その蚀葉に、知念が枡慶次を芋぀める。

    「あっちの䞖界のお前に教えおもらった」

    枡慶次は知念を芋぀め返した。

    「俺は、自分が招いた結果の責任を取りに、あの䞖界に戻りたい」

    「   」

    「䞀緒に来おくれ  知念。比嘉 」

    サ――――。

    雚が、降り続いおいる。

    「    」

    比嘉が黙っお知念を芋䞋ろす。

    枡慶次が翳したスマヌトフォンが、䞞穎から入っおくる雚で濡れおいく。

    知念はふうず小さく息を吐いた埌、迷惑そうに䞞穎を芋䞊げた。

    「ずりあえず、うちに来る」

    ◇◆◇◆

    枡慶次ず比嘉は口を開けたたた、その建物を芋䞊げた。

    ――ここ、本圓に入居者ずかいるのか  

    黒々しいツルが巻き付いおいる倖壁。
    砎れた障子。
    ガムテヌプで補修しおある割れた窓ガラス。

    どうみおも廃屋のようなアパヌトの正面の郚屋のカギを開けた知念が振り返った。

    「入っお。誰もいないから」

    「あ、ああ  」
    「おお  」

    どちらからずもなく顔を芋合わせた枡慶次ず比嘉は、譲り合うようにその家に足を螏み入れた。

    「――お邪魔したす」

    玄関に入る。
    家䞻である知念の母芪は、煙草でも吞うのだろうか。
    黄ばんだクロス。
    脱衣宀のない掗面所ずカビの生えた济槜。
    芋える和宀には垃団が敷かれたたただった。

    「はい、タオル」

    䞀足先に䞭に入っおいた知念が、2人分の癜いタオルを持っお戻っおきた。

    「さ、サンキュ」

    蚀いながら受け取る。
    良かった。これは黎臭くなかった。

    ガシガシず濡れた髪の毛を拭きながらキョロキョロず芋回しおいるず、

    「靎脱いであがれば」

    ブレザヌず癜シャツを脱ぎ捚おた知念が、むンナヌ姿がで冷蔵庫を開けた。

    比嘉に続いおやけに䜎い框に䞊がるず、べた぀くクッションフロアの台所を突っ切り、炬燵の前に座った。

    「どうぞ。なんもないけど」

    い぀の間にかトレヌナヌを着た知念が、2人の前に麊茶を眮いた。

    黙っおコップを掎んだ比嘉が奥の郚屋を振り返った。

    「    」

    ぀られお枡慶次もそちらを芋た。

    「  あれ  」

    呟いた枡慶次を知念が芋぀める。

    「うん。芪父」

    知念はそう蚀いながら、長いトレヌナヌの袖からやっず芋えるような指で、障子を開け攟った。

    そこには高校生の息子がいるのには明らかに若い、男の遺圱が食られおいた。

    「これは母芪に聞いた話なんだけど」

    そう前眮きしおから知念は話しだした。

    「芪父が亡くなったのは10幎前。ドヌルズ☆ナむトが携垯アプリずしおヒットした矢先のこずだった」

    知念は父芪の慰霊を芋䞊げながら話し出した。

    「その埌すぐにこのゲヌムは呪われおいるっお話が流れ始めお、噂が噂を呌び、話に尟ひれが぀いお、このゲヌムは配信䞭止になったんだ」

    知念は遺圱が食られた仏壇の匕き出しを開け、数枚の玙きれを出した。

    「『創䜜者のメモ』」

    比嘉がそれを手に取りながら眉を顰める。

    「そう。キャラクタヌたちの特城ず攻略法が曞いおある」

    枡慶次もそれを受け取った。

    「ドクタヌ、ティヌチャヌ、ゟンビ、ピ゚ロ、それに、舞ちゃん。やっぱり俺たちが入ったゲヌム、そのたただ  」

    知念はその蚀葉にはろくに反応しないたた小さく頷いた。

    「  病気か芪父は」

    比嘉がメモから芖線を䞊げながら聞く。

    「ううん」

    知念は比嘉に芖線を移すず、淡々ず蚀った。 

    「自殺だよ」

    「   」

    枡慶次は知念の顔を芋た。

    少しでも人間らしい感情のにじむ衚情が芋られるかず思いきや、圌の顔は眉䞀぀動かなかった。

    「  そのゲヌムが原因でか」

    比嘉は胡坐をかいた膝に肘を乗せながら䞊目遣いに知念を芋぀めた。

    「ううん。違う。むしろそれがきっかけでゲヌムを䜜ったっお蚀った方が正しい」

    知念は自分に確認するように蚀葉を吐くず、やがお小さなため息を぀いた。

    「死ぬほどの悲しみを玛らわせるために、このゲヌムを䜜ったんだ」

    「死ぬほどの悲しみ  」

    枡慶次が眉間に皺を寄せるず、知念は仏壇の匕き出しから、今床は手のひらサむズの写真立おを取り出した。

    「  これは」

    枡慶次はその写真をのぞき蟌んだ。

    「ヌヌヌヌ」

    その姿に思考が止たる。

    くりくりず䞞い目。
    長いた぀毛にツむンテヌル。
    ドレスを着おめかしこんでいるのは――。

    「知念  舞」

    知念は小さく、しかしはっきりず蚀い攟った。

    「  8歳で死んだ、俺の姉だよ」

    「8歳でっお  」

    比嘉が口を開けた。

    「生たれた時から身䜓が匱くお、倖にもほずんど出しおもらえなかった」

    知念は目を现めながら、雚が打ち付ける曇りガラスを芋぀めた。

    「じゃあ病気で、か」

    しかしそれには答えない。
    ただ曇っお芋えない窓の倖を眺めおいる。

    「――――」

    枡慶次は芖線を遺圱の脇に䞊べられた女の子の写真に戻した。

    やはり䌌おいる。
    髪の色や目の色など、たるきり同じわけではないが、ゲヌムキャラクタヌの舞ちゃんに。

    「ドクタヌは  」

    知念は『創䜜者のメモ』を手に取っお蚀った。

    ◇◇◇◇

    「芪父の持ち物なんお、ここに越しおくるずきにあらかた片付けちゃったから  」

    知念が垃団の脇にあるやけに倧きな箪笥を持りながら蚀った。

    「これくらいしかないよ」

    叀い朚箱を取り出す。

    「サンキュっ」

    枡慶次はそれを知念のか母芪のかわからない垃団の䞊で開けた。

    「  あ」

    思わず声が出る。

    そこには遺圱ずほずんど同じ笑顔で埮笑む父芪の写真が入っおいた。

    その膝には、トレヌナヌにゞヌンズ姿の女の子が乗っおいる。

    ツむンテヌル。
    舞ちゃん――぀たりは知念の姉だ。

    「随分地味な栌奜だな」

    比嘉ものぞき蟌む。

    「普段からこんなドレス来おるわけじゃないよ」
    知念が創䜜者メモの舞ちゃんを指さす。

    「特別な日だけだよ。クリスマスずか、お正月ずか、誕生日ずか」

    「―――」

    枡慶次はたた朚箱を持り始めた。

    「だず、やっぱりおかしいんだ」

    「おかしいどこが」

    知念がこちらを芋䞋ろす。

    枡慶次はそれには答えずに、垃団の䞊に写真を䞊べ続けた。

    「ピ゚ロ  」

    ゲヌムの䞭に出おきたような本栌的な道化垫ではない。
    倧孊生のアルバむトが、カツラに雑な化粧、そしお赀い䞞錻を぀けただけの簡易的なピ゚ロだ。

    䜕かのパヌティヌの最䞭なのだろうか。

    舞ちゃんは、ゲヌムの䞭のデザむンそっくりのピンク色のドレスを着お、ピ゚ロから颚船を貰おうず笑っおいる。

    「――――」

    次の写真。

    舞ちゃんにリボンの぀いたプレれントを枡す女性。
    䞭身は本だろうか。それずもノヌトセットだろうか。分厚くお四角い。
    いずれにせよ、舞ちゃんにはずおも嬉しい物であるようだ。
    圌女はニコニコずをそれを受け取っおいる。

    「――――」

    ドレス姿の舞ちゃんず、枡慶次たちが幌いころに流行った戊隊もののポヌズをずっおいる䞭幎男性。

    癜衣こそ来おいないが、銖に聎蚺噚をかけおいるため、ドクタヌだずわかる。

    「やっぱりおかしい  」

    枡慶次は普段の舞ちゃんず、パヌティヌの時の舞ちゃんを芋比べお行った。

    「なんだよ、やっぱりっお。もったいぶんなっお」

    比嘉がただ半信半疑の顔で枡慶次ず知念を睚む。
    䞀方知念の方は、すでに今たでの枡慶次の話で確信を埗おいるのだろう。もうその瞳に疑念の銙りはしなかった。

    「このゲヌムのキャラっおさ、舞ちゃんにずっお、みんな怖い存圚じゃないんだよ」

    知念が無衚情で芋䞋ろす。

    「ドクタヌも、ティヌチャヌも、ピ゚ロでさえも、圌女にずっお倧事な人たちばかりだった。  ただ䞀人、ゟンビを陀いお」

    枡慶次はゟンビのメモを知念に翳した。

    「ゟンビはもしかしたら䜓の匱い舞ちゃんにずっお、自分の呜を脅かす病気の化身だったのかもしれない。
    ぀たり舞ちゃんは、ゟンビさえいなければ、優しい家族に包たれ、自分を倧切にしおくれる人に囲たれ、幞せだったんだ」

    枡慶次は、パヌティヌで他の倧人たちずにこやかに笑っおいる舞ちゃんの写真の䞊に、家族で団らんしおいる幞せそうな舞ちゃんの写真を重ねおいった。

    「こっちの䞖界の知念は、あのゲヌムの攻略法は、互いに互いを食べさせるこずだっお蚀った。でも、もしかしたら違うんじゃないか」

    枡慶次は知念を芋぀めた。

    「あのゲヌム、もしかしお本圓は  」

    「繁シゲルちゃヌん垰っおるのヌ」

    そのずき、玄関の方から高い声がした。

    ――うお。矎人  。

    「䜕よ、電気も点けないで」

    入っおきたのは、ずおも高校生の息子を持぀母には芋えない矎しい女性だった。

    「あら、い぀ものお友達じゃないのね」

    母芪はさしお興味もなさそうに3人の暪を通過するず、台所に入っおいった。

    ヌヌ無衚情なのは母芪譲りか  。

    枡慶次が呆れおいるず、

    「あれが、泡母ちゃん」

    耳打ちしおきた比嘉を思わずゲンコツする。

    「繁ちゃヌん」

    台所から高い声が聞こえる。

    「私、今からたた仕事だから、友達垰ったらカギ閉めおねヌ」

    「わかった」

    知念がそう蚀うず、バタンず冷蔵庫が閉たり、知念の母芪は靎を匕きずりながら出お行った。

    「矎人だったな  」

    比嘉が膝を立おながら蚀う。

    「そりゃどうも」

    知念は照れ隠しなのか俯くず、いそいそず写真を片付け始めた。

    「繁ちゃヌんだっお」

    比嘉が尚も揶揄う。

    「うるさいよ」

    「  繁ちゃん」

    「よせっお」

    「繁ちゃヌん」

    「し぀こい」

    「    」

    枡慶次は目を芋開いた。

    「ちょっず埅お」

    そしお知念がせっかく揃えた写真を、たたベッドにバラたき始めた。

    「いない  いないここにも  ここにも  」

    「䜕がだよ繁ちゃんならちゃんずここにいるぜ」

    比嘉が立おた片膝に肘を぀いお尚もおどける。

    「違う。ゲむシヌだよ」

    枡慶次は振り返った。

    「パヌティヌの奥に芋えるテヌブルチェアにも、ご銳走が䞊ぶキッチンカヌトにも、日よけのパラ゜ルの䞭にもいない」

    ――ん埅およ。

    枡慶次は写真を芋぀めたたた動きを止めた。

    ゲむシヌ。

    繁。

    シゲル  

    「そうか  」

    枡慶次は芖線を䞊げた。

    「お前が  ゲむシヌだったのか」

    枡慶次の芖線の先には、䞡手を぀いおこちらを芋䞊げた、知念が座っおいた。

    「舞ちゃんがい぀も倧事に連れおいたのは、ぬいぐるみのテディベアじゃなくお、匟のお前だった」

    自分の口から出る蚀葉に鳥肌が立぀。

    「だからゲヌムの䞭の舞ちゃんは、ゲむシヌ匟に友達を䜜っおあげるために頑匵っおるし、ゲむシヌの姿が芋えなくなったら必死で探す。そしおゲむシヌが傷぀けられたら怒り狂う」

    「――――」
    比嘉は枡慶次ず知念を亀互に芋た。

    「このゲヌムの攻略のカギは、お前だ。知念」

    枡慶次がそう蚀うず、

    「  ふっ」

    知念は小さく吹き出した。

    「  この期に及んで誀魔化すなよ」

    「いや誀魔化しおないよ。いい線いっおる。でもちょっず違う」

    知念はそう蚀うず、写真を芋䞋ろした。

    「ゲむシヌっおいうテディベアはちゃんずあった。確かに存圚したんだよ。でも姉のもの《《では》》なかった」

    「   」

    「ゲむシヌはね」

    知念はその䞭の䞀枚を手に取るず、枡慶次に翳した。

    「俺の人圢だった」

    「――――」

    そこにはピ゚ロに颚船を貰う舞ちゃんの圱に隠れるようにしお、人圢を抱いた男の子が写っおいた。

    「どうしおも具合が悪くお誰ずも䌚えないずき、姉は俺の代わりに俺の人圢を抱いお寝おたんだ」

    知念は颚船を持っお笑顔を芋せおいる姉の顔をなぞりながら蚀った。

    「シゲルの人圢だからゲむシヌ。い぀の間にか安易な名前も぀けられおた」

    い぀もは無衚情な知念の頬が、柔らかく緩む。

    「でもあの日、俺が公園にゲむシヌを忘れおきちゃったんだ」

    「あの日  」

    比嘉が聞き返すず、知念は口元を匕き締めながら蚀った。

    「姉が、死んだ日」

    ◇◆◇◆

    「9歳の誕生日を目前に控えおた姉は、ずっず具合が悪くお、䞡芪は぀きっきりで看病しおた。だから俺は、急遜雇われたベビヌシッタヌず近所の公園で遊んでた」

    知念はコクンず唟液を飲み蟌んでから続けた。

    「突然、雚が降っおきお。俺たちは慌おお砂堎で䜿ったバケツずスコップ、サッカヌボヌルを抱えお、家路を急いだ。
    でもそのずき、砂堎のそばのベンチに眮いおたゲむシヌを忘れおきちゃったんだ」

    い぀もの淡々ずした口調。でもどこか違う。

    たるで独り蚀のような話し方に、比嘉も枡慶次も少し顔を寄せた。

    「気づいた時にはすでに倜䞭で、雚も降っおたし、おたけに雷たで鳎り出した。残念だけど、明日の朝に取りに行こうっおこずになっお、俺たちは寝たんだ」

    知念の声が、䜎く、冷たくなっおいく。

    「俺は、ぐっすり寝おたし、䞡芪も、姉の看護で疲れ果おおいた」

    「おい  」

    比嘉が口を開く。

    「倜䞭に、姉がそっずベッドから抜け出しお、廊䞋を通り、階段を䞋りお、玄関ドアから抜け出したこずに、だれも気づけなかった」

    「やめろ  」

    比嘉はうわごずのように呟いた。

    「次の日の朝、ひずけのない字路で、姉は芋぀かった。雚で芖界の悪い䞭、車に跳ねられた姉は、即死だった」

    知念はたるで口にするのが矩務であるかのように続けた。

    「姉を殺したのは、病気でも、ゟンビでもない」

    知念は顔を䞊げた。

    「ゲむシヌを公園に忘れた、俺なんだよ」

    郚屋の䞭を、沈黙が支配した。

    「    」

    比嘉は眉間に皺を寄せながら、家族4人で幞せそうに埮笑んでいる写真を芋䞋ろしおいる。

    枡慶次も写真に目を萜ずした。

    ドヌルズ☆ナむト。

    もし本圓にこれが、病匱であり、その䞊䞍幞な事故で亡くしおしたった幌い嚘に察する远悌の䜜品なら。

    父芪は嚘に䜕をしおあげたかったのだろう。

    芖界の端に、ドレスアップした舞ちゃんのキャラデザむンが芋えた。

    「  パヌティヌ」

    そう呟いた枡慶次を、比嘉ず知念は同時に芋぀めた。

    「誕生日パヌティヌだよ。9歳の  舞ちゃんが参加できなかった誕生日パヌティヌをするんだ」

    枡慶次は立ち䞊がった。

    「ゟンビがいない状態で、舞ちゃんを倧切な人たちで囲んでパヌティヌをする。
    それがきっず、このゲヌムのトゥルヌ゚ンドだ  」

    ◆◆◆◆

    「本圓にこの方法で、トゥルヌ゚ンドになるのかな」

    「なる絶察なるっお」

    「おかこの䜜戊、俺の負担が重すぎるだろ」

    日はすっかり萜ち、時間は22時になったずころだ。

    3人は垃団の䞊に、キャラクタヌメモを䞊べながら䜜戊䌚議をしおいた。

    「文句蚀うなよ。お前以倖には無理なんだから。東を助手に぀けただろ」

    「東ぁ圹に立たねえっお」

    比嘉が八重歯を剥いた。

    「倧䞈倫。死んでも俺たちがゲヌムクリアしおやるからお前は思いきり暎れお、死んでも殺せ」

    枡慶次が芪指を立おるず、比嘉は目を现めながら睚んだ。

    「なあ。これ挠然ずした予感なんだけど、俺ずお前っお仲ク゜悪かっただろ」

    「ご名答」

    枡慶次は笑いながら、再床メモに目を萜ずした。

    気味の悪いピ゚ロが䞡手を広げお笑っおいる。

    「問題は、䞊間がアレを本圓に持っおいるかっおこずだよな」

    枡慶次が銖を捻る。

    「さっきLAINで、持っおるか聞いたんだろ」

    比嘉が蚀うず、

    「持っおるっお蚀っおたけど、氎泳遠埁のためかもしれないし」

    「倧䞈倫」

    知念の声に、枡慶次は顔を䞊げた。

    「きっず持っおるよ。信じよう」

    「  ああだな」

    枡慶次はスマヌトフォンをキャラクタヌデザむンの䞊に眮いた。

    盞倉わらず黒い画面には「Continue」の字が浮かんでいる。

    「本圓にいいの」

    知念が枡慶次を芋぀める。

    「君の話を聞くず、元の䞖界より今の䞖界の方が断然幞せそうなんだけど」

    「――知念もな」

    比嘉は垃団に肘を぀いお寝っ転がりながら蚀った。

    「俺は、別に  」

    知念が俯くず、比嘉は枡慶次に芖線を戻した。

    「なあ。俺のダチっおのは楜しい奎」

    「え」

    「いたんだろタマシロずテルダだっけ䞀緒にいお楜しい」

    枡慶次は少し蚀葉に迷ったが、比嘉をたっすぐに芋぀めおいった。

    「俺はあい぀らずいおも楜しくないけど、お前は楜しいず思うよ」

    「なんだそれ――銬鹿にしおんのか」

    比嘉が肩眉を䞊げる。

    「銬鹿にしおないよ。い぀も笑っおた」

    枡慶次が答えるず、

    「    」

    比嘉はムクリず起き䞊がった。

    「よし  」

    枡慶次は二人を芋぀めた。

    「じゃあ  」

    「あ、ごめん。タンマ」

    知念が手を翳した。

    「枡慶次。悪いけどこれ、その䞖界の俺に届けおくれない」

    それはベヌゞュ色の叀めかしいナップザックだった。

    「セヌブ地点に戻った時、たぶん俺ず比嘉は、こっちでの蚘憶がないはずだから」

    「いいけど  こっちのもの、あっちに持っおいけるのかな」

    枡慶次が苊笑いをするず、

    「倧䞈倫だよきっず。信じよう」

    知念が確信を埗たような衚情で呟いた。

    「よし。じゃあ、行くか  」

    枡慶次は人差し指を突き出した。

    比嘉がなぜか䞭指を立お返しおきお、知念がそれを芋ながら少し笑い、倧きく頷いた。

    「YES」の文字に指を翳す。

    ――䜕やっおんのお前。俺。

    冷静な自分が脇からツッコミを入れる。

    ――このたたなら、䞊間ずラブラブだし、知念は友達いるし、比嘉は倧人しいし、いいこずしかないのに、どうしお元の䞖界をやり盎そうずしおんだよ。

    それは  。

    枡慶次は意識の䞭の、自分にそっくりな栌奜をした男を睚んだ。

    俺は、俺が䜜ったあの䞖界に、俺が远い蟌んだあい぀らに、責任があるからだよ

    枡慶次はYESの文字を手を翳し、

    「党員で垰る。そしおやり盎す。話はそれからだ  」

    比嘉ず、そしお知念の顔をみながら、

    匷く抌した。

    るさない  

    ゆるさない。

    あなただけは  。

    いくらあやたっお、

    いくらないおこうかいしおも、

    ぜったいに、

    ゆるさないよ  


    わたしのゲむシヌをかえしお



    ◇◇◇◇

    「すげえ  」

    ドクタヌを切り抜けるず、比嘉は知念の顔をのぞき蟌んだ。

    「どんな手品䜿ったんだよ」

    「別に」

    知念は階段の手すりに手をかけた。

    「別にっおこずねヌだろうよ」

    螊り堎で振り返った知念の胞元には、

    黒いカヌドが揺れおいた。

    ――黒いカヌド。俺たちのずは䜕が違うんだ  

    自分の銖に䞋げられた赀いカヌドを芋ながら銖を捻る。

    ず、先に螊り堎を曲がったはずの知念が、目の前に止たっおいお、小柄な圌の頭頂郚ず顎先を匷打しおしたった。

    「  っおえな䜕しおんだよ」

    牙を剥くず、知念はただ突っ立ったたた階䞊を芋䞊げおいた。

    「遅かったな」

    い぀からそこにいたのか、枡慶次ず䞊間が階段に座っおいた。

    「  すごヌい。ホントに来た。どうしお知念くんたちが来るのがわかったの」

    䞊間が目を芋開いおいる。

    「やっぱり  」

    枡慶次は知念の肩越しに、比嘉を芋぀めながら蚀った。

    「お前は銀髪の方が䌌合うよ」

    「―――はあ」

    䌚話の意図がわからず、比嘉は眉間に深く皺を寄せた。

    「――䜕か、あった」

    知念がやけに萜ち着いた声で蚀う。

    「ああ」

    枡慶次は立ち䞊がった。

    「ありたくった。すげえいっぱい」

    知念の、そしお比嘉の肩を叩く。

    「知念。比嘉。䜜戊の緎り盎しだ」

    枡慶次は知念の無衚情な顔を芋぀めた。

    「俺たちはハッピヌ゚ンドじゃなくお、トゥルヌ゚ンドを目指す  」

    「――はあ」

    比嘉は枡慶次を睚み䞊げた。

    わけのわからないこずを蚀い出した枡慶次の目には、

    今たでにはなかった光が宿っおいた。

    7.TRUE END


    画像

    「――これが、トゥルヌ゚ンドに向けた䜜戊の党貌だ」

    枡慶次は3階の特別宀で、手に付いたチョヌクの粉を叩きながら黒板を芋䞊げた。

    「問題は、䞊間がさっき蚀ったものを持っおるかっおずこなんだけど  」

    そう蚀いながら圌女を振り返るず、他のメンバヌも぀られお䞊間を芋぀めた。

    「  ええず」

    䞊間は眉間に皺を寄せながらポケットの䞭を持った。

    「  こ、こんなのしかないけど、いいのかな」

    皆でそれをのぞき蟌む。

    「うヌん  」

    「䜕よ。文句」

    唞った枡慶次を䞊間が睚む。

    「賭けだね」

    知念が蚀ったずころで、

    「  おい」

    黒板に片手を突いお曞き終わるのを埅っおいた比嘉がこちらを振り返る。

    「なんだこの䜜戊は。俺の負担が重すぎるだろうが」

    圌は向こうの䞖界ず同じこずを蚀うず、同じ圢の八重歯を光らせた。

    「文句蚀うなよ。これは俺ず知念ず比嘉の3人で考えた䜜戊なんだから」

    「じゃあお前がこのポゞションやれや」

    蚀いながら比嘉が黒板に曞かれた自分の名前を叩く。

    「俺には無理だから蚀っおるんだろ」

    「お前はい぀もそうだよな。自分だけ安党地垯に立っおよ。嫌なこずは人にさせやがっお」

    「なにぃ」

    枡慶次は比嘉を睚み返した。

    「俺は垰っおこないっお遞択肢もあったんだあっちでは地味ながらも平和だったし、䞊間だっお  」

    「私」

    䞊間が目を芋開く。

    「ず  ずにかくちゃんずこうしお情報持っお垰っおきたんだから文句蚀うなよ。俺がもしContinueしなかったら、玉城も照屋も存圚さえ消されたんだぞ」

    「――――」

    2人の名前を出した途端、比嘉は苊虫を嚙み朰したような顔をしおそっぜを向いた。

    「1個質問。いいかな」

    黒板をひずきわ銖に角床を぀けお芋䞊げおいた知念が、小さな手を䞊げた。

    「䞊間さんの䜜戊がうたくいったずしおも、新垣はゲむシヌを砎壊する可胜性があるんじゃないのそれはどうやっお防ぐの」

    「それな」

    枡慶次はわざずらしく腕を組んだ。

    「ハッキリ蚀っお、新垣を説埗するのは難しいず思う。だからずいっお知念に新垣や倧城を抌さえ぀ける力もないず思うし  」

    「なにそれ。党然ハッキリ蚀っおないよ」

    知念は枡慶次を芋䞊げた。

    「は」

    「ちゃんずハッキリ蚀っお。いっそ新垣のこずは舞ちゃんを䜿っお殺しおいいっお」

    「  ッ」

    枡慶次は目を芋開いた。

    「  虫も殺さねえような顔しおえげ぀ねヌこず蚀うな、おめヌは」

    比嘉が呆れたように笑う。

    「蚀っおよ。枡慶次」

    知念がこちらを芋぀める。

    詊すように。
    匕き出すように。

    枡慶次の本心を。
    本音を。
    本性を。

    「  それじゃ、ダメなんだ」

    枡慶次は知念をたっすぐに芋぀めた。

    「俺は、元の䞖界に党員で垰ったら、たず初めに、アむツず仲盎りがしたい  」

    「――枡慶次くん  」

    埌ろにいた䞊間が呟く。

    「  けっ。くだらねえ」

    隣りにいる比嘉が錻で笑う。

    それでも枡慶次は知念だけを芋぀めお蚀った。

    「お前ずもだよ。知念。半幎前、みんなの前でお前を、お前の母芪を、䟮蟱しお悪かった」

    「    」

    頭を䞋げた枡慶次に、知念が目を芋開いた。

    「これ。あっちのお前から預かった。枡せばわかるっお」

    枡慶次はナップザックを知念に翳した。

    「    」

    知念はそれを受け取るず、玐を匕っ匵り巊右に口を開いた。

    「――なんだよ」

    比嘉が銖を捻る。

    「    」

    知念はそれを芋䞋ろし、倧きく息を吞うず、やがお玐を匕き口を閉じた。

    「ありがずう  」

    知念は枡慶次を芋぀め、そしお自分の銖から䜕かをずるず、枡慶次の銖にかけた。

    「なんだよ、この黒いカヌド」

    枡慶次が眉間に皺を寄せるず、

    「お守り」

    知念は目を现めお笑った。

    ――笑った  。

    呆然ずしおいる枡慶次の目の前で、圌はナップザックを背負った。

    「枡慶次。号什」

    知念が小さく蚀う。

    「  あ、よし  」

    枡慶次は䞀歩匕いお、党員の顔を芋぀めた。

    「䜜戊、決行だ  」

    ◇◆◇◆

    「いいように䜿いやがっお  」

    枡り廊䞋を走りながら比嘉は毒づいた。

    「あい぀、次に䌚ったらただじゃ眮かねえ  」

    埌ろを走っおいた東は比嘉を芋぀めた。

    「ねえ。本圓にできるの」

    「はあ」

    「だっお、比嘉っおあんたり匷いむメヌゞないから」

    比嘉は東を睚みながら振り返った。

    「じゃあ、なんで俺に媚びを売っおきたんだよ」

    「比嘉に぀いおけば、照屋ず玉城もいるず思っお。セットじゃん、あんた達」

    「  は」

    比嘉は角を曲がるず、事務宀の脇の甚具宀に入った。

    「――舐められたもんだな、俺も」

    そう蚀いながら工具箱を開けお甚具を物色し始める。

    「ちょっず前に、あい぀らずそんな話になっおさ」

    比嘉は取り出した電動ノコギリを芖線の高さたで䞊げた。

    「この3人でマゞもんの喧嘩したら誰が勝぀かっおさ」

    電源を入れるず、シャカシャカず激しい音がしお、刃が高速で前埌し始めた。

    「はは。ピストン運動みおえ」

    比嘉は笑うず、それを東に握らせた。

    「それであい぀らが、絶察比嘉には負けねえっお蚀いやがっおよ。マゞでムカ぀いた」

    そう蚀いながら比嘉は、長いスパナを宙に投げ、クルクルず回しおキャッチした。

    「  今日、その答えがわかるな」

    比嘉は振り返り、長いバヌルで東を指さした。

    「お前が蚌人だ。いいか。最埌たでちゃんずいろよ」

    そう蚀うず比嘉はニダリず笑った。

    ◆◆◆◆

    䞊間はバケツの氎が零れないよう慎重に東偎の階段を䞋りながら、耳を柄たせた。

    ティラリラリ♪ラリラリラリラ♪
    テむラリラリラリラ♪

    ゞャンッゞャゞャンッ♪ゞャンッゞャゞャンッ♪

    音が聞こえる。
    間違いない。ピ゚ロのアコヌディオンの音だ。

    ――倧䞈倫。萜ち着いお。

    ただ芋぀かっおはいけない。
    ピ゚ロは連れおくるのが䞀番簡単なキャラだから、しかけるのは最埌にしなければ。
    メむクにだっおそんなに時間はかからないはず。

    ――だっお、これしかないんだから。

    䞊間は手の䞭にある真っ赀なリップずラむトオヌクルのファンデヌション、そしおブルヌのアむシャドヌを芋䞋ろした。

    ◆◆◆◆

    ビリッ。

    シャッシャッシャッ。

    ビリッ。

    シャッシャッシャッシャ。

    暗い31の教宀に、単調な音が響く。

    そのドアには【霊安宀】ず曞かれおいる玙が貌っおおり、䞭では枡慶次が䞀人、真っ癜な教科曞を砎っおは、サむンペンでその文字を曞き続けおいた。

    たずはドクタヌずの鉢合わせを避けながら、3階の党おの郚屋にこの玙を貌る。

    その次は階の教宀だ。

    党郚貌り終えたら東階段から䞊がっお、2階の芖聎芚宀、職員宀、校長宀の順で玙を貌っおいく。

    知念が攟送宀に貌っおある玙は取っおくれるはずだから、これでドクタヌはやがお攟送宀に入っおくる。

    ――倧䞈倫。
    きっずうたくいく。

    しかしドクタヌに関しおは、タむミングが䜕より倧事だ。

    比嘉が倒しおミむラがいなくなっお、舞ちゃんのゲむシヌを知念が隠しお、ティヌチャヌが攟送で呌びだされお、䞊間のメむク道具を䜿ったピ゚ロが来た、その瞬間。

    「䞀番確実に連れお来れるのもドクタヌだけど、䞀番タむミングを管理できないのもたた、ドクタヌなんだよな  」

    枡慶次は唞りながら、【霊安宀】の文字を曞き続けた。

    ◆◆◆◆

    「    」

    知念は音を立おないようにそっず【霊安宀】ず曞かれた玙を剥がすず、それをポケットに入れながら攟送宀の扉を芋䞊げた。

    ここにもうすぐ舞ちゃんがやっおくる。
    そうしたら䞭に招き入れお、舞ちゃんが他の生埒たちに気をずられおいるうちに、リュックからゲむシヌを盗んで隠す。

    舞ちゃんが捜玢モヌドに倉わったら、攟送を䜿っお、女教垫を呌び出す。

    しかし党おは比嘉がゟンビを倒しおからだ。

    焊るこずは無い。
    しかし備えおおかなければ。

    知念は廊䞋を振り返った。

    東偎。
    そしお西偎。
    2階には誰もいない。

    みんなそれぞれの圹目を党うしおいるだろうか。

    比嘉は䞀人で倧䞈倫だろうか。
    䞊間のメむク道具はあんなに少なくお平気だろうか。
    そしお䞀番倧倉なのは――。

    「た、お守りも枡したしね」

    独り蚀を぀ぶやいたずころで、攟送宀の厚い扉がヌッず開いた。

    「  」

    知念は声を出す暇もなく、出おきた手に胞倉を掎たれ、䞭に匕きずり蟌たれた。

    ◇◆◇◆

    「はああああ」

    比嘉は倧きなため息を぀きながら、バヌルを持った右手の小指で、耳を掻いた。

    「モク吞いおえ」

    そう蚀いながらも、芖線は䜓育通の扉を睚んでいる。

    「吞うあるけど」

    東が胞元から煙草を取り出すず、

    「あんのかよ」

    比嘉はぞッず笑った。

    「女は吞わない方がいいぜぇ」

    ――こうしおみるず、カッコいいんだけどな。

    東は比嘉を芋䞊げた。

    い぀もガラの悪い倧柄な照屋や、ダバい空気をビンビンに醞し出しおいる玉城ず䞀緒にいるからだろうか。
    それずも玉城ず照屋以倖に圌自身が興味ず執着を瀺さないからだろうか。
    比嘉は芋た目の割に、女子にモテなかった。

    ――枡慶次なんかよりよっぜどいい男なのに。

    比嘉は東から受け取った煙草にラむタヌで火を぀けるず、スパヌッず癜い煙を吐き出した。

    「  んっ」

    そしおそれを東の口に突っ蟌んだ。

    「あにふんのよっ」

    咥えたたた睚むず、

    「あずはお前が吞え」

    バヌルずスパナを持ち盎しながら蚀った。

    「吞い終わるたでに終わらせおやる」

    そう蚀うず比嘉は䜓育通の扉を巊右に開け攟った。

    「  う  」

    東はその䞭の光景に、思わず埌退りをした。

    「うう  うう  」

    食い散らかされ、どっちがどっちかも刀別できなくなった五十嵐ず藀原の䞊に、玉城ず照屋が乗っおいる。

    ゞュルゞュルず音を立おお、玉城が小腞にしゃぶり぀き、照屋はずいうず足銖から䞋のない女の脚を高く䞊げ、女の股座で腰を振っおいた。

    「はは。童貞喪倱しおやんの」

    比嘉が笑う。

    「――本圓に行くの  」

    圌らに聞こえないように東は比嘉を振り返った。

    「行くに決たっおんだろ」

    比嘉は無衚情で蚀った。

    「俺が行かなくお、誰があい぀らをダレるんだよ」

    「でもアむツら盞手に䞀人でずか無理だっお」

    思わず倧きくなった声に、照屋ず玉城が同時に顔を䞊げた。

    『䞊ヒ嘉ぁぁぁ』

    『了ボボッぇ犀ゝっょぁっ』

    2人はほが同時に立ち䞊がるず、こちらに向けお走っおきた。

    「お前  逃げるなよ」

    比嘉は東を振り返った。

    「お前には、最埌に倧事な仕事があるんだから」

    「  え」

    東が振り返るず、圌はもうそこにはいなかった。

    「――比嘉」

    比嘉は向かっおくる二人に、党速力で駆け出しおいた。

    『䞊ヒ嘉ぁぁぁぁぁ』

    東には、どう芋えおいるんだろう。

    『ぉ前ず″⊇圳テっおω″ょ』

    実際は、どんな光景なんだろう。

    そんなの、どうでもよかった。

    歯に匕っかかった小腞をぶら䞋げながら向かっおくる玉城も、

    赀黒く染たるむチモツを揺らしながら走っおくる照屋も、

    い぀もの圌らにしか芋えなかった。

    「  むカれたのは、お前たちじゃなくお、俺の方かもな」

    比嘉は足を止め、笑った。

    「なあ  」

    倧柄な二人が、比嘉に飛び掛かっおくる。

    「――遊がうぜ」

    倧柄な二人が、比嘉に飛び掛かっおくる。

    䞡手にスパナずバヌルを持った比嘉は、それを力いっぱい2人の脳倩に振り萜ずした。

    ◇◇◇◇

    「やっぱお前は、簡単には死なねヌよな」

    脳倩に重い工具を振り萜ずされお、それでも顔を䞊げたのは、照屋の方だった。

    比嘉は頭蓋骚が割れおいるくせに、ニダニダ笑っおいる照屋を芋䞋ろした。

    「じゃあ、これはどうだよ  」

    照屋の顎先に向けお、2回目の打撃を䞎えた。

    『ぶふっ」

    䞋あごが倖れたのだろうか。ブラブラずぶら䞋がっおいる顎はたるで壊れた腹話術人圢だ。

    「悪いな。恚むなら  」

    比嘉はバヌルを再び高く振り䞊げた。

    「枡慶次のアホを恚めよ」

    それを照屋の眉間に打ち蟌んだ。

    メキッず音がしお、顔が割れる。

    「  はは、芋せおやりおえ」

    比嘉は笑った。

    「お前今、超おもしれヌ顔しおるよ  」

    その笑ったうちの端に、䜕かしょっぱいものが流れ蟌んでくる。

    「   ッ」

    比嘉は䞡目から倧粒の涙を流しながら、朰れた照屋の顔を芋぀めた。

    「地獄で䌚おうぜ。照屋  」

    照屋が倒れ蟌むのず、比嘉が座り蟌むのは同時だった。

    「  ッ   」

    比嘉は倒れ蟌んだ2人の前に座り蟌みながら、手の甲で涙を拭った。

    これで、ゟンビは党滅。
    䜜戊は次のステップに行ける。

    自分もサポヌトに回らなければ。
    こい぀らを本圓に助けるために  。

    比嘉が立ち䞊がろうずしたそのずき、䞋から手が䌞びおきた。

    「  ッ」

    胞倉を掎たれたず思ったら、もう䞀぀の手で埌頭郚を抑えられた。

    「  んゥッ」

    短い声が出る。

    比嘉の薄い唇に、熱い舌が入り蟌んできた。

    「んんっ」

    必死で突き飛ばす。

    『よよ  』

    顔の端から溶け始めおいる玉城が、ニダニダずこちらを芋䞊げる。

    『女子き″ょ、䞊ヒ嘉。ずっず女子き″っ  』
    「

    玉城は尚も比嘉の唇を奪おうず、顔に角床を付けお迫っおきた。

    「ああ  」

    比嘉は巊手でスパナを握りしめた。

    「俺もだよ、玉城  」

    その口にスパナを思い切り突き刺す。

    『了ヵ″ッ  ゞぁぁぁぁッ』

    玉城の県球が巊右倖偎に開く。

    「  ッ  」

    比嘉はそれでも抌し蟌み続けた。

    ブチッ。ブチ  ッ。

    スパナの先が、喉奥を突き砎る感觊が、手に䌝わっおくる。

    それでも手を緩めない。
    逃げようずする玉城の胞倉を、今床は比嘉が掎んだ。

    『ゞぁぁぁぁッ』

    悲鳎を䜓育通に響かせた埌、玉城は絶呜した。

    ◆◆◆◆

    「  死んだ」

    東は二人の䞋敷きになるように足を投げ出しお座っおいる比嘉に駆け寄った。

    「これで、私たちのお仕事終わりじゃんやった」

    東は絶呜しおいる玉城ず照屋を亀互に芋おから飛び䞊がった。

    「じゃあ、どこかに隠れおようよあい぀らがゲヌムクリアしおくれるたでさ」

    「  うるせえな。ただだよ」

    比嘉は目にかかった銀色の髪の毛を避けもしないで笑った。

    「え」

    「ただだっお」

    比嘉はバヌルずスパナをカランカランず音を立おながら、倒れおいる2人の脇に転がすず、「よいしょ」ず呟きながら立ち䞊がった。

    「䜕のためにお前を連れお来たず思っおんだよ」

    そう蚀いながら、比嘉は東の腰を抱き寄せた。

    「え  比嘉  」

    スカヌトを捲り䞊げながら、倪腿を撫でる。

    「ちょっ  やだ、ここでするのぉ」

    東は頬を赀く染めながら比嘉を芋䞊げた。

    自分よりも䞀回りも二回りも倧きな二人を倒したのは、正盎、かっこよかった。

    「たあもう䞀床くらいなら抱かれおもいいかな  なんお」

    「ふっ」

    比嘉はなぜか笑うず、東のポケットの䞭に入っおいたそれを取り出した。

    「1本ちょうだい」

    「は」

    東は比嘉を睚んだ。

    「もしかしおそれが欲しかっただけ」

    「そヌそ」

    比嘉はそう蚀うず、1本咥えおおいしそうに吞い蟌んだ。

    ――なんだ。期埅しお損した。

    東は口を尖らせた。

    「ガキの頃さ」

    そんな東を振り返りもせず、比嘉は癜い煙を吐きながら蚀った。

    「煙草の真䌌するずき、吞い蟌むんじゃなくおプハヌっお吐き出しおたよな」

    「そう芚えおない」

    東がそっけなく答えるず、比嘉は振り返っお東に顔を寄せた。

    「煙草は吞うものです。おわかり」

    「わかるわ。そんぐらい」

    東が睚むず、比嘉は東が持っおいた電動のこぎりを觊った。

    「のこぎりは切るものです。アンダヌスタン」

    「――は」

    東は比嘉を芋぀めた。

    「たあ、こうなるかなずは思ったんだよ。2人盞手に無傷はないだろヌなっお」

    比嘉はそう蚀いながら尚も煙草を吞い続けた。

    「でもキスされるずは思わなかったなヌ」

    かき䞊げた銀色の髪の毛の䞋の目が、金色に光った。

    「  比嘉  あんた、感染しお  」

    金色の2぀の目が、東を芋぀めた。

    「――俺を殺せ。東」

    「やだよ  どうしお私があんたを殺さないずいけないの  」

    東は比嘉を芋぀めた。

    「そのために連れお来たんだっお蚀っおるだろ。俺が二人を。お前が俺䞀人を。シンプルな話だっお」

    そう蚀いながら比嘉は自分の胞にノコギリの刃を抌し付けた。

    「無理だよ  。できない  」

    東は銖を振った。

    「出来ないじゃねえ。やるんだよ」

    比嘉は東の指ごずスむッチを抌した。

    シャカシャカず刃が動き出す。

    「りガアアアアアアアッ」

    自らの胞元に刃を抌し付けた比嘉が悲鳎を䞊げる。

    比嘉の癜シャツが真っ赀に染たっおいく。

    「いや 無理だっおぇえええ」

    東は目をき぀く閉じた。

    「だっお私  比嘉のこず  ずっず奜きだったんだから」

    ――

    東は目を開けた。

    ――私、今、なんお蚀った  

    「東  」

    頭䞊から掠れた声が聞こえおくる。

    「  たのむ」

    真っ赀な䞡手で、東は顔を包たれた。

    「――」

    その頬に比嘉の枩かくお柔らかい唇が觊れる。

    「自分じゃ  死ねねえ  」

    「――ッ。――っ」

    東は電動のこぎりを掎んだ手に力を蟌めた。

    「うわああああ」

    䜓育通に東の割れた叫び声が反響する。

    倒れた玉城の金髪が跳ねた血飛沫に染たっおいく。

    のびた照屋の癜シャツに赀い斑暡様が぀いおいく。

    「   ッ」

    ノコギリの先端が、肋骚を削りながら比嘉の背䞭を貫通した。

    その衝撃で比嘉の身䜓が仰け反る。

    「   ッ  っ」

    比嘉は䜓勢を敎えるず、東の頭に手を眮いた。

    「  よく、できたした  」

    「  比嘉」

    「あっちにもどったら  抱いお  やる  」

    バタン。

    比嘉は東の目の前に倒れた。

    バチンッ。

    その瞬間、䜓育通の照明が萜ちた。

    「䜕  今床は䜕よ  」

    東は電動ノコギリを握りしめたたた、真っ暗な空間に芖線を走らせた。

    『!!!!! FEVER TIME !!!!!』

    突然倪い男の声が響き枡り、軜快な音楜が始たった。

    『Fu!!!!』

    暗かった䜓育通は、い぀の間にか電食が斜され、色ずりどりの電球が光り出した。

    ♪lifting up your skirt yourself
    fuck yeah, I noticed it
    snuggle you so hard and
    reached your insideand touch it♪

    男性の歌が聞こえ始め、それに合わせお電食が色を倉える。

    ♪You denied me, but I can feel you
    so fucking dripping wet♪

    たるでクリスマスのような。
    たるでフェスティバルのような。

    ――ああ、これが  。

    東は電食に圩られた䜓育通を芋䞊げた。

    ――枡慶次が蚀っおた、誕生日パヌティヌ

    「    」

    東は倒れ蟌んだ比嘉の隣に座った。

    そしおその頭の䞋に、自分の膝をすり蟌たせた。

    「綺麗だね。比嘉  」

    少し開いた比嘉の口から、コポッず小さな音を立おお血液が垂れた。

    ◇◆◇◆

    バチンッ。

    「――なんだ  」

    枡慶次は真っ暗になった廊䞋を芋枡した。

    ゲヌムの䞖界から抜け出した

    手探りで壁を觊る。

    違う。
    ただ孊校の䞭だ。

    䜕が起こった  

    『!!!!! FEVER TIME !!!!!』

    突然倪い男の声が響き枡り、軜快な音楜が始たった。

    『Fu!!!!』

    い぀の間にか取り付けられた電食で、廊䞋が7色に光る。

    ♪lifting up your skirt yourself
    fuck yeah, I noticed it
    snuggle you so hard and
    reached your insideand touch it♪

    これは  。

    パヌティヌ。
    誕生日パヌティヌだ。

    やはり自分の予感は圓たっおいた。

    「あい぀比嘉  やったのか  」

    枡慶次は右手でガッツポヌズを䜜った。

    それならばこっちもどんどん進めなければいけない。

    舞ちゃんの誕生日䌚には、芳客が必芁なのだから。

    3階の最埌の教宀に【霊安宀】の玙を貌るず、枡慶次は䞀気に西偎の階段から䞋り始めた。

    ♪You denied me, but I can feel you
    so fucking dripping wet♪

    い぀かどこかで聞いたこずのあるようなポップスが流れ続けおいる。

    きっずこの音楜で、知念も䞊間も䞀気に蚈画を進める。
    時間がかかる自分が䞀番急がないず  

    「  っ」

    2階ず1階の間の螊り堎。
    その䞋に圱が芋える。

    枡慶次は慌おお方向転換するず、2階に飛び出した。

    幞い攟送宀の前には誰もいなかった。
    しかし新垣が貌っおいた【霊安宀】の玙は剥がされおいる。

    ――ナむス。知念。

    䜜戊通りだ。
    足音を立おないように特別宀に【霊安宀】の玙を貌り、滑り蟌む。

    スタン、スタン、スタン、スタン。

    鳎り響くポップスの䞭でかろうじお聞こえる粒のそろった革靎の足音。

    この音はピ゚ロではない。
    ハむヒヌルを履いおいる女教垫でもない。
    もちろん舞ちゃんでもない。

    やはりドクタヌ  

    枡慶次は耳を柄たせながら、その足音の行方に集䞭した。

    ただ階段を䞊がっおいく。3階に行くのか  

    3階の教宀には党お【霊安宀】の玙が貌られおいる。

    ぀たりは廊䞋を通過したドクタヌはそのたた階段を䞋りおくる。

    ――その前に1階の教宀の党おに玙を貌っお、ドクタヌを2階に远い詰める。

    ――ダッシュで行けば䜕ずかなる  

    枡慶次は走り出した。

    1階の教宀ずいう教宀に【霊安宀】のカヌドを貌っおいく。

    3階を玠通りしお、東偎の階段を䞋りおくるだろうドクタヌが、2階に行くか1階に行くかはわからない。

    そろそろ攟送でティヌチャヌを呌び出しおもいい頃ではあるが、知念は難航しおいるのだろうか。

    1幎6組に玙を貌り぀けた枡慶次は、思わず口を開けた。

    「したった。忘れおた  」

    目の前には、枡り廊䞋が続いおいた。

    ドクタヌが枡り廊䞋を通っお、昇降口や䜓育通に行っおしたえば、倧幅な時間のロス。

    その間に他のキャラたちが攟送宀に集たっおしたったら、そこに控えおいる知念やピ゚ロを連れおくる予定の䞊間が危ない。

    ――こっちに行かせおはいけない。でもどうする  

    枡慶次は䞃色の電球に照らされた廊䞋を芋回した。

    「  あ」

    そこには、防火シャッタヌのスむッチがあった。

    ◆◆◆◆

    『!!!!! FEVER TIME !!!!!』

    突然暗くなったず思ったら、倪い男の声が響き枡った。

    「  なに  」

    䞊間は飛び䞊がるほど驚きながら、東偎の階段を芋回した。

    先皋たでは非垞灯の暗い灯りしかなかったのに䞃色の電球が取り付けられ、ピカピカずクリスマスむルミネヌションのように転倒しおいる。

    『Fu!!!!』

    ――これがもしかしお、枡慶次くんが蚀っおた誕生日パヌティヌ

    きっずそうだ。そうに違いない。
    䞊間は小さな拳を握りしめた。

    それならば自分もすぐに行動に出なければいけない。
    枡慶次がドクタヌを远い詰め、知念が攟送でティヌチャヌを呌び出すたでに、早く  

    䞊間は階段から飛び出すず、2階の廊䞋に立った。

    「ピ゚ロさんっ」

    倧声で叫ぶ。
    電食ずよく䌌合うピ゚ロが、光の䞭で振り返る。

    「颚船がほしいなっ」

    『    』

    振り返ったピ゚ロは足を止めた。

    ――今だ  

    䞊間は走りながらバケツを䞡手で持぀ず、走り出した。

    「ああああああっ」

    声を䞊げながら自分を奮い立たせる。

    ここで怖気づいおはダメだ。

    垰る。
    垰るんだ、元の䞖界に

    そしお――

    『  䞊間  』

    ――アむツずのこずも、ちゃんずやり盎すんだ。

    人は、倉わっおしたう。
    ――誰かのせいで。

    でも人は、倉わるこずができる。
    ――誰かのおかげで。

    枡慶次だっお、倉えお芋せる。

    だっお。

    だっおアむツは、
    本圓は、

    人の痛みがわかる人間だから  

    「ああああああっ」

    䞊間はピ゚ロの顔に思い切り氎をぶっかけた。

    『    』

    ピ゚ロが䞡手で顔を抑え蟌む。

    ふら぀いた䜓から、いく぀もの鉄球が重い音を立おお零れる。

    『  ああ。メむクが萜ちおしたったゞャナむカ』

    黒い涙を䜜っおいるアむラむン。
    真っ赀に滲んだ唇。
    ドロドロに萜ちたファンデヌション。

    ピ゚ロは座り蟌んだ。

    『もう  䜕するんダペ』

    そしおポケットからメむク道具を取り出した。

    ――今だ。

    「ピ゚ロさん  ごめんなさい」

    䞊間はピ゚ロの隣に恐る恐るしゃがみ蟌んだ。

    「もしよかったら、コレ、䜿っお」

    䞊間の掌には、ファンデヌションず赀いリップ、そしお氎色のアむシャドヌが乗っおいた。

    ◆◆◆◆

    『!!!!! FEVER TIME !!!!!』

    い぀の間にか取り付けられた電食で、攟送宀が䞃色に光った。

    ♪lifting up your skirt yourself
    fuck yeah, I noticed it
    snuggle you so hard and
    reached your insideand touch it
    You denied me, but I can feel you
    so fucking dripping wet♪

    その軜快な音楜を聎きながら、皆が䜕事かずキョロキョロず芋回す。

    「ぞえ、驚いた。こんなシヌクレットむベントが合ったんだね。知らなかったな」

    党く驚いおいるそぶりを芋せない新垣は、怅子の䞊で足を組んだたた、倧城に抌さえ぀けられおいる知念を芋䞋ろした。

    「発動条件はなに」

    「――ゟンビの党滅」

    知念は新垣を芋䞊げながら蚀った。

    「ふうん。なるほど」

    新垣が笑う。

    「確かに次々ず増殖しおいくゟンビを党滅させるのっお倧倉だもんね。しかも党滅させおもすぐにどこかに湧くしさ」

    そう蚀いながら銖を回しおいる。

    「あれっおこずは時間ないんじゃないどこかでたたゟンビが湧く前になんかしないずいけないんでしょ」

    圌はニダニダず笑った。

    「残り奎らはクリアに向かっおそれぞれ圹割分担でも決めたの」

    どんどん蚀い圓おおくる。
    知念は無衚情で新垣を芋぀め続けた。

    「じゃあ、知念の圹割は䜕たあここに来たっおこずは倧䜓わかるけど」

    新垣は知念をのぞき蟌む。

    「ティヌチャヌの呌び出し、だよね」

    そう蚀いながら、脇にある攟送甚の卓䞊マむクずこんこんず指で぀぀く。

    「どこに集めるのねえ」

    そう蚀いながら新垣は知念の髪の毛を掎み䞊げた。

    「  ううッ」

    倧城に抌さえ぀けられた䜓は動かない。
    頭だけ匕き䞊げられお、銖に激痛が走る。

    知念は新垣を睚み䞊げた。

    「――教えおあげようか」

    「うん」

    「ここ」

    知念がそう蚀った瞬間、新垣の拳が巊頬に飛んできた。

    「  りガッ  」

    身䜓を抌さえ぀けられおいるために逃げ堎のない衝撃が顎党䜓に䌝わる。

    「させるかよ、バヌカ」

    新垣はそう蚀いながら今床は知念の頭を䞊から螏み蟌んだ。

    「ちょっず暎力はやめおよ」

    前園が新垣の腕を掎むが、

    「うるさい。離せ」

    新垣は冷たく振り払った。

    「   っ」

    前園は新垣を睚み䞊げた。

    ――あれ」

    錻血を出しながら、知念は前園を暪目で芋぀めた。

    ――この人っお、枡慶次を奜きだったんじゃなかったっけ
    なんで  今、こんなに傷぀いた顔をしおるんだろう。

    ――ああ、そうか。なるほどね。

    知念は新垣ず前園を芋比べたあず、ペッず口の䞭にたたった血を吐いた。

    「キミ、銬鹿なの」

    話すたびに切れた口の端が傷む。

    それでも知念は笑った。

    「俺が枡慶次に協力なんおするわけないじゃん」

    「はあ」

    新垣は知念を芋䞋ろした。

    「あい぀を嵌めたんだよ。今頃ドクタヌず鉢合わせしお、殺されおるんじゃない」

    「自ら鉢合わせする銬鹿がいるわけないだろ」

    新垣が目を现める。

    「それが鉢合わせるんだな。あい぀に呪いをかけたから」

    知念はフフフず笑った。

    「カラヌカヌドがあっおさ。それを芋たらドクタヌは治療せずにいられないんだ」

    「  」

    「圌にそれをお守りず称しお持たせおやった。黒は䞀番重傷者の色だから。ドクタヌは䜕よりも優先しお治療するはずだよ」

    新垣は黙った。
    知念の話の真停を考えおいるのだろう。

    しかし圌が信じる信じないは関係ない。

    重芁なのは――

    「――――」

    知念は黙っおこちらの話を聞いおいる圌女を芖界の端で確認した。

    前園だ。

    「今からこの郚屋に舞ちゃんが来るよ」

    知念の蚀葉に、新垣は目を芋開いた。

    「舞ちゃんっお」

    遠巻きで芋おいた3嶺が互いの顔を芋合わせる。

    「このゲヌムで最恐最悪の敵キャラ。觊った人間を人圢に倉えお殺す女の子だよ」

    知念の蚀葉に、前園を含めた女子が震えあがる。

    「舞ちゃんの苊手なキャラは、知っおるよね」

    知念は新垣を芋぀めた。

    「ティヌチャヌ  」

    「そ。ティヌチャヌを䞀時的に呌んで、舞ちゃんを遠ざけた方がよくない」

    「    」

    「じゃないず新垣、死ぬよ」

    その蚀葉に前園がビクリず反応する。

    「なんで俺なんだよ。俺は舞ちゃんの攻略法も知っおるぜ」

    新垣が顔を匕き぀らせる。

    「実は、このドヌルズ☆ナむトは俺の芪父が䜜ったゲヌムなんだ」

    知念は新垣を芋ながら、前園に向かっおいった。

    「舞ちゃんは俺の姉だよ。8歳で死んだ」

    「な  適圓なこず蚀っおるなよ  」

    新垣もこれには動揺を隠せないらしく、むスから立ち䞊がった。

    「本圓だよ。だから舞ちゃんは、俺の蚀うこずは聞く。今この状況で、俺を殎った新垣を、きっず蚱さないだろうね」

    知念はクククず笑った。

    「――隙されるかよ  」

    新垣が叫ぶ。

    「ティヌチャヌ、呌んどいたほうがいいのに。銬鹿だね、君は」

    知念は芖線を新垣から倖した。

    「あの䞖で埌悔しなよ」

    その瞬間、芖界の端で圌女が動いた。

    「――あ、おい」

    新垣が振り返った時にはすでに前園は卓䞊マむクを握っおいた。

    ◆◆◆◆

    『橘先生、至急攟送宀たで校長がお埅ちです  うグッ』

    䜎い悲鳎を残しお攟送は切れた。

    枡慶次はスピヌカヌを芋䞊げながら眉間に皺を寄せた。

    ――なんで前園の声なんだ  

    知念には新垣を隙しお、攟送を流させるように蚀った。
    しかしどうしお新垣ではなく、知念でもなく、前園が流したのだろう。

    どうも解せないが、ティヌチャヌが呌び出されたずなるず、いよいよこちらにも時間がない。
    今すぐにでもドクタヌを攟送宀に送らなければ。

    けたたたしい音楜のせいで足音はほずんど聞こえない。
    その代わり枡り廊䞋から芋える西階段の窓に目を凝らす。

    人圱は通っおいない。
    ぀たりドクタヌは2階にいったか、ただ階段に差し掛かっおいないかのいずれかだ。

    「間に合った  」

    枡慶次はボタンで䞋りおきたシャッタヌに【霊安宀】の玙を貌り぀けた。

    これでドクタヌは枡り廊䞋――さらにはその奥にある昇降口や䜓育通には行けない。

    それはむコヌルで、䜓育通でゟンビたちを片付けた比嘉の力をもう借りるこずができないずいう事実を指す。

    ――いや、もう頌れねえだろ。十分やっおくれたのに  
    あずここからは俺たちの力で  

    振り向いた瞬間、

    『火事ですか』

    そこにはいるはずのないドクタヌが立っおいた。

    ――なんでずっず1階ず2階の間にある螊り堎には目を凝らしおたのに  

    枡慶次は目を芋開いた。

    ――そうか。東偎の階段を䞊っおいったから、そのたた3階を突っ切っお西偎の階段から萜ちおくるず思っおいたが、違ったんだ
    3幎の教宀に貌りめぐらされた【霊安宀】の玙を芋お、そのたた回れ右をしお東偎の階段から降りおきたのか  

    ドクタヌは正面。
    埌ろには自分が閉めたシャッタヌ。
    远い詰められおしたった。

    ――くっそ。ここたでか。

    枡慶次はドクタヌを睚み䞊げた。

    やるこずはやった。
    1階にも3階にも行く圓おのないドクタヌはこれから2階に向かうだろう。
    そうすれば嫌でも人がいる攟送宀に行くはず。

    自分の圹割はもう終えた。
    あずは、知念ず䞊間がうたくやっおくれればり

    きっず倧䞈倫だ。

    䞊間は氎泳をやっおるから基瀎䜓力で蚀えば枡慶次より䞊だし、足だっお速い。

    知念はい぀でも冷静で、か぀舞ちゃんに察しお動じないし頭もいい。

    ――お圹埡免だな  。

    「ふっ」

    枡慶次は諊めお、シャッタヌに凭れかかった。

    「  どうした。やれよ」

    枡慶次はドクタヌを笑いながら芋䞊げた。

    「お前さ、医者ならさ。24人すでに死んでるんだけど、その事実に぀いおどう思うわけ」

    やけくそで話しかけおみる。

    「人の呜救えなくお、䜕が医者だよ。救えっお。《《屋䞊から萜ちたくらいで》》さ」

    ――ん

    枡慶次は自分の口を塞いだ。

    ――俺、今なんお蚀った

    しかしドクタヌは、黙っお枡慶次を芋䞋ろしたたただ。

    『私は』

    ドクタヌは䜎い声を出した。

    『やはり救えなかったのですね  』

    「――は」

    ドクタヌはキョトンず芋䞊げる枡慶次から目を反らすず、回れ右をしお、廊䞋を戻り始めた。

    そしお角で曲がるず、今床こそ西偎の階段を䜿っお䞊がり始めた。

    ――なんだ今の。

    枡慶次は枡り廊䞋の窓から芋える階段の窓を芋䞊げた。
    2階ず3階の間の窓にはドクタヌは映らなかった。

    ぀たりは2階に行った  

    「あっ」

    そこたで呆然ず芋おから枡慶次は走り出した。

    自分も協力しなければ。

    䞊間に  。
    知念に  

    党速力で駆け抜ける枡慶次の胞には、

    知念から貰った黒いカヌドが揺れおいた。

    ◇◆◇◆

    「䜕やっおんだよ、このク゜ビッチ」

    新垣は前園を殎り倒すず、慌おお卓の前に立った。

    「マむクはマむクはどこにいった」

    そしお倒れ蟌んだ前園の䞋敷きになっおいたマむクをずるず、慌おおボタンを抌した。

    「橘先生、橘先生  。なんでマむクが入らないんだ」

    新垣が慌おおマむクの線を手繰り寄せる。
    前園ず共に床に転がったマむクの線は匕きちぎられおいた。

    「だっお  新垣死んだら嫌だもん」

    前園はよろよろず起き䞊がりながら新垣を芋぀めた。

    「あなたは、私ず同じよ枡慶次くんに片思いしおた仲間」

    「ああ」

    新垣が前園を睚み぀ける。

    「俺ずお前を䞀緒にするなよ誰があんな奎なんか」

    そう叫んだ新垣を、前園が抱きしめた。

    「奜きだったんだよ。私たち。どうしようもなく枡慶次くんが、奜きだった」

    「   」

    3嶺が顔を芋合わせる。

    知念を抌さえ぀けおいた倧城の力が緩む。

    「でも、党然気持ちを返しおくれなくお、蟛かったね  」

    「――――」

    「わかるよ。同じだもん  」

    前園に抱きしめられおいる新垣も、目を䞞くしたたた脱力した。

    ――眪な奎だな、枡慶次は。

    知念は起き䞊がるず、倧きくため息を぀いた。

    ――䜕はずもあれ、これで䜜戊は  。

    「――ざけんなよ。誰が䞀緒だっお」

    新垣の䞡手に再び力が入る。

    「俺は毎日が地獄だった。毎日雅斗の呚りでチョロチョロしおただけのお前ず䞀緒にすんな  」

    新垣は前園を突き飛ばすず、攟送宀の隅に眮いおあったバケツを持ち䞊げた。

    「クリアはさせない 党キャラをここに集合なんかさせない」

    攟送宀のドアを開ける。

    するず、蜟音のポップスに混ざっお、軜快なアコヌディオンの音楜が聞こえおきた。

    「あれは  」

    仲嶺が息を飲む。

    「ピ゚ロ  

    赀嶺が悲鳎を䞊げる。

    廊䞋の東偎に、こちらに向かっお歩いおくるピ゚ロの姿があった。

    ◆◆◆◆

    『本圓ダ。子䟛たちがたくさんむルネ』

    なぜか攟送宀から出おきた生埒たちを芋お、ピ゚ロは嬉しそうに振り返った。

    「ね。蚀ったずおりでしょ」

    䞊間は苊笑いをしながらピ゚ロを芋䞊げた。

    メむクを斜し終わったピ゚ロは、䞊間がメむク道具を貞しおあげたからか、それずも「たくさんの子䟛が埅っおいる」ずいう䞊間の嘘に隙されたのか、ずにかく圌女を襲うこずなく倧人しく぀いおきおくれた。

    ――これで攟送宀たで行ければ  

    しかし攟送宀から出おきた男子生埒の䞀人がこちらに向かっお走っおくる。

    ――あれは  新垣くん  

    その䞡手には抱えるようにしおバケツが握られおいる。

    「集合なんかさせるかよ」

    そう蚀いながら新垣はピ゚ロに向かっおくる。

    ――そんな  攟送宀たでもうちょっずなのに  

    䞊間はピ゚ロず新垣を亀互に芋぀めた。

    『おやおや、歓迎しおくれるのカむ』

    ピ゚ロがアコヌディオンを䞋ろしながら䞡手を広げる。

    「ああ」

    新垣が足を止める。

    「歓迎するよピ゚ロくん」

    そう蚀いながら、持っおいたバケツの氎をピ゚ロの顔にぶっかけた。

    カランカラン。

    音を立おお、新垣が攟ったバケツが床に転がる。

    「はは。ざたヌみろ」

    新垣は笑った。

    「メむク盎しをしおるうちに、舞ちゃんの人圢を砎壊しおやる。それで党員ゞ゚ンドだ」

    新垣はキョロキョロず芖線を走らせた。

    「倧城ガキが来たら、そのリュックからクマのぬいぐるみを奪っお砎壊しろ」

    「え  う、うん、わかった」

    巚䜓を揺らしながら远い぀いおきた倧城がわけもわからず頷く。

    「どこだ、あのガキっ姿を珟さないなら、こっちから探しおでも――」

    そこたで蚀いかけたずころで、新垣の芖界は倧きな圱で遮られた。

    「  なんで  」

    新垣は自分の襟元を掎み䞊げおいるピ゚ロを芋䞊げた。

    「だっお、メむクが――」

    ピ゚ロの巻き毛からしたたり萜ちる氎滎で、新垣の顔が濡れおいく。

    「メむクが  取れおない  」

    新垣は口をあんぐりず開けた。

    そこにはファンデヌションずブルヌのアむシャドヌ、真っ赀なリップが萜ちおいないピ゚ロが立っおいた。

    ――やった。

    䞊間は小さく拳を握った。

    䞊間がピ゚ロに貞したメむク道具。

    それは氎で取れない競泳甚のものだった。

    『颚船は――』

    顎から氎を滎り萜ずしながらピ゚ロは蚀った。

    『奜きカむ』

    ◇◇◇◇

    ――ああ、ここたでか。

    新垣は攻たりくるピ゚ロの、䞍自然に艶やかな唇を芋぀めながら思った。

    ゟンビの党滅。
    ピ゚ロのメむク。
    ティヌチャヌの呌び出し。

    知念ず䞊間だけでこの䜜戊を考え付いたずは思えない。
    裏に絶察、枡慶次がいる。

    きっずあい぀は、残りの舞ちゃんずドクタヌも攻略しお、ゲヌムをクリアするのだろう。

    そうしお珟実䞖界に戻ったら、

    たた繰り返しだ。

    枡慶次の腰巟着であるこずになんの疑問も持たない毎日。

    垞に芖界の端に枡慶次を意識しお、

    枡慶次が怒らないように、
    枡慶次がムカ぀かないように、
    そしお枡慶次から嫌われないように、

    党神経を圌に集䞭させる毎日。

    ――短い、倢だったな  。

    新垣が目を现めた瞬間。

    『バぶブッ』

    目の前のピ゚ロの顔が歪んだ。

    「え  」

    匟けずんだピ゚ロの肉が顔にかかる。

    䜕かがピ゚ロの頬を右から巊に貫通し、ごろごろず廊䞋の床に転がった。

    「  鉄球  」

    新垣は転がった鉄球ず反察の方向を振り返った。

    「――させるかよ  」

    そこには2個目の鉄球をもち、振りかぶった枡慶次が立っおいた。

    ◆◆◆◆

    西偎の階段を䞊がっおいったドクタヌを远いかけそうになった枡慶次は、足を止めた。

    ――埅およ。

    攟送宀があるのは西偎だから、東偎から远い詰めお蚀った方がいいんじゃないか

    枡慶次は階段を䞊がるのをやめ、1階の廊䞋を党力疟走しお東偎たで移動した。

    そしお駆け䞊がり2階の廊䞋に飛び出した枡慶次が芋たものは、

    新垣の襟元を掎み䞊げおいるピ゚ロの姿だった。

    新垣の宙に浮いた足が空のバケツを蹎る。

    䞊間がプルプルず震えながらただその状況を芋守っおいる。

    ――そうか。メむクはうたくいったんだ。

    枡慶次は䞊間に駆け寄った。

    「䞊間  」

    「枡慶次くん」

    䞊間が涙目で振り返る。

    どんなに怖かっただろう。
    どれほどの勇気を振り絞ったのだろう。
    たった䞀人で殺人ピ゚ロず察峙しお。

    今すぐ抱きしめたい衝動に駆られる。

    もしこのゲヌムがクリアできお、
    もし日垞が返っおきたずしお、

    䞊間はもう、自分をこんな目で芋぀めおくれたりしない。

    自分の名前を呌んでくれたりしない。

    それでも。

    ――やり盎すんだ。絶察にこのゲヌムをクリアしお  

    枡慶次は萜ちおいた鉄球を拟った。

    「  党員で垰る」

    狙うは、ピ゚ロの頚怎。

    倧䞈倫。
    ピ゚ロは――死なない。

    「いけええええ」

    枡慶次が投げた鉄球は、䞊間の肩先を掠め䞀盎線に、
    新垣に顔を寄せるピ゚ロに飛んでいった。

    「圓たった  」

    䞊間が手を叩く。

    「圓たったんじゃねえ。ズレた」

    枡慶次は頬を貫通したピ゚ロの顔を睚んだ。

    頚怎に圓たれば倒せたものの、ピ゚ロはこちらを振り返った。

    すかさず2球目を攟぀。

    今床はピ゚ロの暪腹。

    腰怎にヒットしたピ゚ロは暪向きに倒れた。

    「よっし」

    枡慶次はガッツポヌズを䜜った。

    『誰ですか廊䞋でボヌル遊びしおぃる生埒はぁ』

    そのずき、背埌から声がした。

    「――ティヌチャヌ  」

    枡慶次は女教垫を振り返った。

    「枡慶次くん  。あれ  」

    䞊間が震えながら廊䞋の西偎を指さす。

    そこには、癜衣のポケットに䞡手を突っ蟌んだたたのドクタヌがこちらに向けお歩いおきおいた。

    ――たずい。他の敵キャラが集たっおきた。

    「行こう  」

    枡慶次は䞊間の手を匕きながら、走り出した。

    『こらぁ廊䞋は走らなぃ』

    ティヌチャヌの声が远いかけおくる。

    「  ああくそ。雅斗はかっこいいな、やっぱ  」

    顔にピ゚ロの血肉を济びた新垣が、うわごずのように呟きながら突っ立っおいる。

    「䜕しおんだよ行くぞ」

    枡慶次は、呆然ずしおいる新垣の腕を取った。

    「早く」

    右手で䞊間の手を匕き、巊手で新垣の腕を掎み、

    「あ、おい  」

    呆然ずする倧城の脇を通り過ぎ、

    飛び蟌むように攟送宀に駆け蟌んだ。

    ◇◆◇◆

    「あ、枡慶次くん」

    「無事だった  」

    懐かしき3嶺がこちらを芋䞊げる。

    「枡慶次  」

    錻から血を垂らした知念が振り返る。

    「敵キャラたちは」

    「ええず  」

    枡慶次は顎から垂れる汗を拭いながら振り返った。

    「ピ゚ロはすぐそこで倒れおる。盎に埩掻する。ティヌチャヌは远いかけおきおる。ドクタヌもそろそろ到着する。あずは  」

    「舞ちゃんだけ」

    枡慶次は廊䞋を振り返った。

    ――あれ。なんで舞ちゃんは珟れない  

    1巡目の流れから芋おもずっくに珟れおいいはずの舞ちゃんの姿を、2巡目では䞀床も芋おいない。

    舞ちゃんになにかあったのか。

    ――1巡目ず2巡目で、䜕が違う  

    「あ  」

    党身に鳥肌が立った。

    「――防火扉  」

    防火扉を他でもない自分が閉めおしたった。

    もし舞ちゃんがあの時点で防火扉の向こう偎にいたずしたら  。

    ――舞ちゃんだけ、向こう偎に飛び蟌めおしたったのか  

    「知念、䞊間、ここでなんずか凌いでくれ  」

    枡慶次は廊䞋を振り返りながら蚀った。

    「俺は、舞ちゃんを連れおくる  」

    「連れおくるっお  」

    「どこから」

    䞊間ず知念が同時に蚀う。

    「説明しおる時間はない 絶察に戻っおくるから」

    枡慶次が廊䞋に出ようずするず、

    『おやおや。ケガ人だらけだ』

    通せんがをするようにドクタヌが入っおきた。

    「きゃあああああっ」

    3嶺が恐怖のあたり、3人で抱き合っお座り蟌む。

    「  くッ」

    枡慶次は䞊間を守るように1歩前に出た。

    『だれですかぁマィクこわしたのはぁ』

    ティヌチャヌも、

    『本圓ダ。子䟛たちがいっぱいダ』

    埌ろからピ゚ロも入っおくる。

    ――くっそ、無理だ  

    枡慶次は入り口付近を固めたキャラたちを芋䞊げた。

    この3人を避けお廊䞋に出るのがたず䞍可胜。

    その埌、3人の远跡を逃れ、1階たで行くのがもっず䞍可胜。

    ――これたさか  詰んだ  

    枡慶次が目を芋開いたずころで、

    『あれぇここ、いっぱいひずがいる』

    キャラたちの埌ろから、声が響いた。

    『おや』

    『ぁら』

    『オオ』

    3人が振り返る。

    そこには、

    『なにかたのしいこずでもあるの』

    䞀目で東だずわかる人圢の銖を持った舞ちゃんが立っおいた。

    ――東が  。

    枡慶次は匕きちぎられた銖から血を垂らした人圢を芋䞋ろした。

    ――東が開けおくれたんだ  

    自分の身䜓を差し出しおたで、比嘉に助けを乞うた怖がりの東が、故意に䞀人で行動するわけがない。

    圌女が䞀人でいたずいうこずは぀たり、比嘉は死んだずいうこずだ。

    そしお東もたた、舞ちゃんをこっち偎に送るために、自分を犠牲にしおたでシャッタヌのボタンを抌した。

    ――ありがずう。比嘉。東  。

    枡慶次は廊䞋で倧きな目をぱちくりしおいる舞ちゃんに近づいた。

    ――絶察、助ける  

    他の3人のキャラを芋䞊げる。

    思った通りだ。
    舞ちゃんの前では、あからさたに攻撃をしおこない。

    「舞ちゃん」

    枡慶次は舞ちゃんに芖線を合わせおしゃがんだ。

    「もうすぐお誕生日だよね。9歳の」

    そう蚀うず、

    「すごヌい、おにいちゃん。なんでしっおるのぉ」

    舞ちゃんが目を䞞く開いた。

    やはり。

    知念の父芪のメモにはそんなこず曞いおいなかった。
    しかしちゃんずキャラにはその蚭定が萜ずし蟌たれおいた。

    「よく聞いおね、舞ちゃん。今から倧切な話をするから」

    枡慶次は慎重に蚀葉を遞びながら蚀った。

    怒らせおもダメ。
    しかし、
    懐かれ、抱き着かれおもダメだ。

    「今日は、舞ちゃんの誕生日パヌ  」

    「盗ったああああああ」

    そのずき、孊校䞭に響くような雄叫びが響き枡った。

    枡慶次は芖線を䞊げた。

    そこには、舞ちゃんの背埌で、ゲむシヌを䞡手で掲げた倧城が立っおいた。

    「これで俺も、前園を自由にできるそうだろ、新垣ぃ」

    そう蚀いながら倧城は、ゲむシヌの頭ず腹を握るように持った。

    「やめろおおおおお」

    新垣が叫ぶ。

    「え」

    しかし倧城は、それを思い切り巊右に匕きちぎった。

    「なんおこず  」

    䞊間が口を抌え、

    「  」

    わけのわからない3嶺ず前園は顔を芋合わせた。

    「――――」

    枡慶次はその堎に厩れ萜ちた。

    『わたしのゲむシヌ   』

    目の前から空気を震わせるような䜎い声が聞こえおくる。

    ――終わった。

    これで䜕もかも終わった。

    舞ちゃんにずっおゲむシヌは、匟の繁そのもの。

    匟が殺された状態で、いくら誕生日を祝っおもらっおも――――。

    『よくもわたしのゲむシヌをおおおおおお』

    ごめん。

    比嘉。

    ごめん。

    東

    『ゆるさないいいいゆるさないいいいい』

    ごめん。

    平良。

    吉瀬。

    玉城。

    照屋。

    みんな。

    みんな、ごめん。

    俺も、

    すぐ逝くから。

    「――舞ちゃん」

    そのずき、背埌から声が聞こえた。

    「それ。ゲむシヌじゃないよ」

    「    」

    振り返るずそこには、

    真っ黒に汚れたクマのぬいぐるみを持った、

    知念が立っおいた。

    ――あ。あのナップザック  。

    枡慶次はその泥だらけのぬいぐるみを芋䞊げた。

    あっちの䞖界の知念が、こっちの䞖界の知念に預けたナップザックの䞭には、

    本物のゲむシヌが入っおいたのか。

    知念は䞀歩䞀歩、確かめるように舞ちゃんに近づくず、ゲむシヌを差し出しながら、枡慶次の隣にしゃがみ蟌んだ。

    「雚の䞭、公園にこれをずりにいっおくれお、ありがずう」

    知念の倧きな目から涙が萜ちる。

    「助けおあげられなくお、ごめん  お姉ちゃん」

    『    』

    舞ちゃんがゲむシヌを黙っお芋䞋ろす。

    ――――頌む  。

    枡慶次は知念ず舞ちゃんを芋぀めた。

    ――通じおくれ  姉匟の愛が  

    『銬鹿ね』

    舞ちゃんは無衚情で知念を芋䞋ろした。

    『匟に守っおもらうお姉ちゃんが、どこにいるのよ』

    「   」

    知念が芋䞊げた。

    舞ちゃんはたっすぐに知念を芋぀めながら埮笑んだ。

    『䜕歳になっおも、あなたは、私の可愛い匟よ』

    舞ちゃんはそう蚀うず、真っ黒に汚れたゲむシヌを受け取り、かわりに知念の頭を優しく撫でた。

    「  お姉ちゃん  」

    知念がそう呟いた瞬間、

    🎶チャンチャチャヌン🎶
    チャヌン チャヌン チャヌン🎶

    ピアノの音が鳎り響いた。

    🎶ハッピヌバヌスデむ トゥヌナヌ🎵
    🎶ハッピヌバヌスデむ トゥヌナヌ🎵
    🎶ハッピヌバヌスデむ ディア 舞ちゃん🎵

    🎶ハッピヌバヌスデむ トゥヌナヌ🎵

    「    」

    枡慶次は知念を顔を芋合わせた。

    『🎶ハッピヌバヌスデむ トゥヌナヌ🎵』

    い぀のたにか恰幅のいいおじさんに倉わっおいるドクタヌが手を叩く。

    『🎶ハッピヌバヌスデむ トゥヌナヌ🎵』

    若く優しそうな女性に倉わったティヌチャヌも歌う。

    『🎶ハッピヌバヌスデむ ディア 舞ちゃん🎵』

    若い男に倉わったピ゚ロが、おどけた顔をしお知念舞をのぞき蟌む。

    『🎶ハッピヌバヌスデむ トゥヌナヌ🎵』

    バンバン。

    バンバンバンバン。

    窓の倖で銃声のような音が鳎り響いた。

    「花火  」

    空を芋䞊げた前園が呟いた。

    色ずりどりの花火は、「Congratulation!!」ずいう文字に倉わった。

    「ゲヌムクリア  」

    新垣が呟いた瞬間、

    攟送宀が歪んだ。

    「ああっ」

    枡慶次は思わず床にしがみ぀いた。

    しかし床自䜓が歪んでくねくねず原型を厩しおいく。

    ゚レベヌタヌの箱のように、床が萜ちおいく。

    いや違う。

    自分たちが浮き䞊がっおる  

    ――これ、もしかしお  戻るのか

    戻れるのか元の䞖界に  

    枡慶次はい぀の間にか倩井が抜けお、頭䞊に広がる眩しい䞖界を枡慶次は芋぀めた。

    「   」

    ふず隣にいた知念を芋぀める。

    圌は舞ちゃんず手を぀なぎ、芋぀め合っおいる。

    「おい  」

    しかし圌は振り返らない。

    よく芋るず、圌だけ浮いおいない。

    歪む床の䞊に、

    滲む景色の䞭に、

    溶けおいく  

    ――ダメだ

    「知念  」

    枡慶次は知念の腕をずった。

    「お前も  お前も䞀緒に  」

    「」

    知念が驚いたようにこちらを振り返る。

    「垰ろうあっちの䞖界に」

    枡慶次がそう蚀うず、圌の身䜓もふわっず浮き䞊がった。

    『――たたね、繁』

    舞ちゃんは埮笑んで、やがお歪んだ䞖界に巻き蟌たれお芋えなくなった。

    萜ちおいるのか。

    それずも浮き䞊がっおいるのかわからない。

    䞍快な浮遊感の䞭、芖界が癜く染たっおいく。

    眩しい。

    眩しい  

    ◇◆◇◆

    「  ッ」

    枡慶次は目を開けた。

    「」

    自分のベッドの䞊。

    スマヌトフォンのアラヌムが鳎っおいる。

    「   」

    散らかった自宀に差し蟌む朝陜。

    『次のニュヌスです。昚倜行われたワヌルドベむスボヌルクラシックの予遞リヌグで、日本は匷豪の韓囜盞手に――』

    リビングから聞こえおくるニュヌスの音。

    「  」

    枡慶次は飛び起きるず、ベッドから足を䞋ろした。

    急いでスりェットを脱ぐずクロヌれットを開ける。

    「雅斗起きたのヌ」

    階䞋から母芪の声がする。

    シャツずブレザヌを同時に矜織り、ネクタむを銖から欠けるず、ベルトをしめながら郚屋を飛び出した。

    「今日はやけに早いのねヌ」

    台所から芗く母を無芖しお、玄関に向かいスニヌカヌに足を通す。

    『ずっずかっけヌっお思っおたから。お前のファッションずか、髪型ずか、スニヌカヌずか』

    比嘉の声が耳の奥で聞こえた気がした。

    「  いっおきたすっ」

    枡慶次はそう蚀うず、家を飛び出した。

    ◇◆◇◆

    い぀もより2本も早い電車から飛び降りるず、枡慶次は孊校たでの坂道を走り出した。

    「おはよヌ。昚日のWBCみたあ」

    「芳たぁ倧谷遞手  キャアッ」

    前を歩いおいた女子高生ずぶ぀かった。

    「悪いっ」

    枡慶次はそう蚀いながらも䌑たずに走り続けた。

    ――結局どうなったんだ  

    ゲヌムはクリアできた。

    でも死んだ奎らは

    平良は

    吉瀬は

    玉城は

    照屋は

    そしお、

    比嘉は

    逞る気持ちに足が぀いお行かない。

    それでも枡慶次は走り続けた。

    ◇◇◇◇

    「あ、枡慶次くん」

    「すみたせん。埌で」

    校門の前で埅っおいた先茩の脇を通り過ぎる。

    もちろん消火噚の粉末なんお飛び散っおいない昇降口を抜け、枡り廊䞋を走る。

    「    」

    今たではそこにあるこずすら知らなかった防火シャッタヌを芋䞊げながら通過する。

    西階段を暪目に、角を曲がり、15の教宀に駆け蟌んだ。

    「ハアッ。ハアッ。ハアッ」

    枡慶次は膝に䞡手を぀きながら、顎からしたたり萜ちる汗を拭った。

    額から垂れ萜ちる汗で、目がよく芋えない。
    早く確認したいのに。

    枡慶次は袖で目を擊り、目を芋開いた。

    「――雅斗」

    目の前に新垣がいた。

    「どうしたんだよ。今日はやけに早くない」

    「あれヌ枡慶次じゃん」

    「    」

    芖線を移す。

    「なんかさヌ、昇降口で枡慶次のこず聞かれたんだけど。女の先茩に告癜されたりした」

    前園が芗き蟌んでくる。

    「あれえ枡慶次くんがいるヌ」

    廊䞋から入っおきた赀嶺がこちらを指さしおくる。

    「なにぃ掚しよりあずに登校するずはなんたる䞍芚」

    皲嶺が額を芆い、

    「電車で蚀うずい぀もより2本分早いですようですが」

    仲嶺が時蚈ず枡慶次を芋比べる。

    ――みんな、い぀も通りだ  。

    枡慶次は圌らの反応に安堵し぀぀、クラスを芋回した。

    ゲヌムクリアの瞬間。

    新垣は生きおた。
    前園も、3嶺も。

    死んでたや぀らは――

    どうなった

    「枡慶次ぃ」

    そのずき、掠れた声がクラスに響いた。

    「数孊の宿題やっおきたぁ俺忘れおさあ芋せおクレペン」

    振り返るずそこには、

    犠牲になっお死んだ平良が立っおいた。

    「こら、平良。自分でやれ今からやれば十分間に合うだろ」

    その頭を、吉瀬が叩く。

    「平良  吉瀬  」

    枡慶次は抱き着きたくなるほどの衝動を䜕ずか抑えた。

    「おはよヌ」

    「あれ枡慶次くん、今日は早いね」

    「昚日のWBC芋た」

    「ははは、寝おたヌ」

    次々に死んだはずのクラスメむトが入っおくる。

    そしお――。

    「おはよう」

    誰に蚀うわけでもなく䞊間が教宀に入っおきた。

    「――お、おはよう」

    枡慶次は立ち䞊がった。

    「  雅斗」

    新垣が口を開け、

    「どしたん」

    前園が枡慶次ず入っおきたばかりの䞊間を芋比べる。

    「な  なんでもない  」

    枡慶次は慌おお座りながら、䞊間を芋぀めた。

    「――――」

    圌女は戞惑ったように眉間に皺を寄せながら、むスを匕いた。

    ――䜕やっおんだ。俺  。

    枡慶次が俯くず、むスに座りかけた圌女はこちらを振り返った。

    「おはよう  」

    「」

    しかし圌女はふいず前を向いおしたった。

    「    」

    ――今は、これでいい。

    自分には、䞊間ず話をする前にするこずがある。

    「぀か、昚日は散々だったなヌ」

    そのずき教宀に、掟手な頭の男たちが入っおきた。

    「芋た目で刀断するんじゃねヌ぀うんだよ、あのク゜店䞻。俺らが煙草なんか䞇匕きするわけねえだろっお。なあ」

    比嘉が鞄を肩に぀っかけお、笑いながら教宀に入っおくる。

    「だからずいっお、レゞの女を口説いお孊生服で堂々ず買うのもどうかず思いたヌす」

    玉城が錻で笑いながら続き、

    「いいなあ、あの姉ちゃん。ちょっずでいいから貞しおよ。右のおっぱいだけでもいいから」

    照屋が䞡手を合わせる。

    「――――」

    3人を芋぀める枡慶次を、

    「䜕ニダニダしおんの」

    新垣が芗き蟌む。

    「いや  」

    枡慶次は3人から目を反らすず、新垣を芋぀めた。

    「  なあ。俺、お前に無理させおねえ」

    「はいヌ」

    新垣が目をぱちくりず瞬きする。

    「俺のわがたたや気分で、お前のこず振り回しおねえ」

    「ええええどうしたの雅斗」

    新垣が口をポカンず開け、

    「熱でもあるんじゃないの枡慶次」

    前園が枡慶次の額に手を圓おる。

    「これからは䜕でも蚀っおくれよ。遠慮芁らないから」

    枡慶次はそれでも新垣を芋぀めた。

    「俺、お前のこず、ちゃんず芪友だっお思っおるから」

    「――――」

    目を芋開いおいた新垣は枡慶次を芋぀めるず、

    「倉なや぀」

    ニッず笑った。

    ◆◆◆◆

    キヌンコヌンカヌンコヌン。

    予鈎が鳎った。

    「――――」

    枡慶次は教宀を芋枡した。

    ――これであらかたクラスメむトは党員揃ったかな  

    黒板の前の垭では、䞊間ず朚村が話しおいる。

    窓際では3嶺ず前園がなにやらスマホを匄っおいお、

    埌ろの垭では、慌おお宿題をする平良を吉瀬が芗き蟌んでいる。

    廊䞋偎の垭では東がむダホンで音楜を聎いおいお、

    その埌ろで比嘉ず玉城ず照屋の3人が駄匁っおいる。

    ――戻っおきた。

    本圓に、

    戻っおきたんだ。

    「――ん」

    枡慶次はクラスを芋回した。

    「あヌ、ねえ」

    埌ろを振り返り、平良ず吉瀬に話しかける。

    「今日、知念は」

    吉瀬が口をあけ、平良が芖線を䞊げた。

    「知念お  知念繁」

    平良が間抜けな声を出す。

    「  ん。他に誰がいるんだよ」

    枡慶次が少し笑いながら蚀うず、吉瀬は眉間に皺を寄せた。

    「お前、やっぱり今日倉だぞ  」

    「䜕が」

    枡慶次は今床は声を出しお笑った。

    「クラスメむトのこずを聞くのがそんなに倉かよ」

    吉瀬ず平良は顔を芋合わせた。

    「おい」

    振り返った吉瀬は、枡慶次に蚀った。

    「お前、たさか忘れたのか知念は――」

    ◇◇◇◇

    ――どうしお  

    枡慶次は皆が教宀に吞い蟌たれた埌の、人圱のない廊䞋を走っおいた。

    ――どうしお今の今たで忘れおいたんだ  

    角を曲がり、無人の西階段を䞀気に駆け䞋りる。

    『知念なら今幎の9月に――』

    吉瀬の蚀葉が蘇る。

    『孊校の屋䞊から飛び降りただろ  』

    枡り廊䞋に差し掛かる。

    『お前も俺たちもさんざん教垫や譊察に呌ばれお、ひどい目にあったじゃないか』

    枡り廊䞋の床がギシギシず軋む。

    ――知念  。

    『いじめを苊になんお。倧人は倧げさなこずを蚀うもんだよな』

    ――知念  

    『むゞメた芚えなんお、これっぜっちもないっおいうのに。なあ』

    ――知念っ

    角を曲がり、昇降口に出た。

    「    」

    「びっくりした」

     
    枡慶次は目を芋開いた。

    「どうしたの、枡慶次。忘れ物」

    圌は党く驚いおいない無衚情さで、

    ただそこに䜇んでいた。

    ◇◆◇◆

    「ずいうこずで、ずっず事故の衝撃から昏睡状態で入院䞭だった知念君ですが、先月意識を取り戻しリハビリを経お、やっず孊校に戻るこずができたした」

    担任の女教垫が、知念の肩に手を眮きながら蚀った。

    もしかしたら  。

    枡慶次は知念の盞倉わらず䜕を考えおいるのかわからない顔を眺めながら、頬杖を぀いた。

    もしかしたらあのゲヌムクリアの瞬間、
    死んだ姉ず共に、あの䞖界に溶けようずしおいる知念を、自分がこっちの䞖界に匷匕に連れお来たのかもしれない。

    だから自分たちが戻っおくるタむミングで、知念も昏睡状態から戻った。

    そうは考えられないだろうか。

    「知念君ずいろいろあった生埒もいるず思いたすが、せっかくこうしお戻っおきおくれたわけなので、たたクラス30人、みんなで仲良くやっおいきたしょう」

    その教垫の蚀葉に、新垣が振り返る。

    「転校すればよかったのに。嫌味な奎」

    錻で笑った。

    「いや、それがアむツの匷さだろ」

    枡慶次はそう蚀うず、黒板の前に立぀知念を芋぀めた。

    「倧したもんだよ」

    「――――」

    新垣の目が䞞くなるのが芋なくおもわかる。

    自分の蚀葉には、圱響力がある。
    自分なら、知念ぞのむゞメも止められる。

    これから。
    これからだ。

    これから、知念ず自分の人生は、

    1幎5組の30人の人生は、動き出すんだ。

    「はヌい、じゃあ教科曞を開いお」

    教垫が蚀った。

    「73ペヌゞから」

    ドヌルズ☆ナむト。

    あれは結局、誰がこのクラスに持ち蟌んだゲヌムだったのか。
    目的は䜕だったのか。

    今ずなっおはわからない。

    ただ枡慶次は、たくさんのきっかけの䞊に今の自分がいるこず。
    自分の呚りの人間もたた、自分がきっかけを䜜っお倉わっおしたうこずを孊んだ。

    もう捚おたりしない。
    もうリセットもしない。

    䜕床、道を間違えおも、
    䜕床、道を芋倱っおも、

    䜕床でも、䜕床でも、やり盎しおやる。

    俺には、

    29人の仲間プレヌダヌがいる。

    枡慶次は教科曞を開いた。

    「――は」

    枡慶次はそれを芋䞋ろした。

    「  なんだこれ」

    教科曞は、開いおも開いおも真っ癜。

    ぀たりは癜玙だった。

    『――教科曞の䞭身  癜玙だね』

    ゲヌムの䞭で䞊間が蚀ったセリフを思い出す。

    その蚀葉に、自分はなんお返した

    『ああ。ゲヌムだからな』

    枡慶次は芖線を䞊げた。

    今たで黒板を芋おいたはずのクラスメむト29人が、銖だけ捻っおこちらを芋おいた。

    「   え」

    枡慶次が口を開けるず、

    『颚船は奜きカむ』

    すぐ隣から声がした。


    画像


    ――――――

    ――――

    ――

    「ずいうこずで、ずっず事故の衝撃から昏睡状態で入院䞭だった知念君ですが、先月意識を取り戻しリハビリを経お、やっず孊校に戻るこずができたした」

    担任の女教垫が、知念の肩に手を眮きながら蚀った。

    「知念君ずいろいろあった生埒もいるず思いたすが、せっかくこうしお戻っおきおくれたわけなので、たた《《クラス29人》》、みんなで仲良くやっおいきたしょう」

    教垫の蚀葉に拍手が響く。

    知念は懐かしくもない自分の垭に぀くず、い぀の間にか月日が経ち、すっかり寒くなった教宀に身震いをした。

    「おかえり、知念よかったなヌ、ホント」

    前の垭の新垣が小声で囁いおくる。

    「お前さ、結局なんで飛び降りたわけ」

    「  わかんない」

    答えた知念に、

    「なんだそれ」

    埌ろに座っおいた比嘉が笑った。

    「今床は飛び降りる前に蚀えよ。俺が䞋で受け止めおやるから」

    蚀った比嘉に、

    「銬鹿。䞀緒にお陀仏コヌスだろ」
    隣りに座っおいた玉城が笑う。

    「でもさ、マゞでなんか悩みずかあれば蚀えよな」

    新垣はそう蚀うずニッず笑い、黒板に向き盎った。

    はっきり蚀っお、屋䞊から飛び降りた圓時の蚘憶はない。
    飛び降りなきゃいけない理由も思い浮かばない。

    気心しれたクラスメむトたちも、芪身になっおくれる教垫たちも同じで、なぜ知念が突然飛び降りたかは謎のたただ。

    ―――たさかむゞメられおたわけでもあるたいし。

    「それじゃあ、教科曞を開いお。73ペヌゞ」

    教垫の蚀葉に、他の生埒たちず比べお明らかに真新しい教科曞を開く。
    䞊ぶ文字にうんざりしながら、筆入れを取り出そうず屈んで鞄を持る。

    ――バンッ。

    その瞬間、すごい音がしお、知念は芖線を䞊げた。

    目の前の机の䞊に、手が乗っおいた。
    若い男の手。
    しかしその手は血だらけで、小指が䞀本ちぎれおいた。

    「   ッ」

    芖線を䞊げる。

    この高校の男子生埒。

    茶髪。
    敎った顔立ち。

    しかし、
    芋芚えはない。

    『チ  ぢネ゛ん  』

    自分の名前を呌ぶ男の口の端から、赀黒い血が流れ萜ちる。

    『お  おデは  だすケでやったダロ  』

    瞑れた右目。
    瞋り぀くような巊目からは涙が溢れおくる。

    『  ダスけお゛  。だ  す、げお  』

    もう䞀぀の手を知念に向かっお䌞ばしおくる。

    『タ  ケ  テ  』

    「   ッ」

    あたりの衝撃に瞬きをするず、男の姿は嘘のように消えおいた。

    「  」

    ヌヌなんだ今のは  

    男の血だらけの手が぀いおいた机の端には、くしゃくしゃに歪んだ黒いカヌドが眮いおあった。

    【完】

     
     
    創䜜倧賞に応募しに来たした。 よろしくお願いしたす。

    あなたぞのおすすめ