
【エッセイ】ラーメンとミント
とあるターミナル駅の近くに引っ越してから、駅へ行くことが増えた。
買い物だったり、本屋だったり、100円ショップだったり。徒歩で行けるから、というのが一番大きな理由だろう。
駅までの道にはラーメン屋がある。
行ったことはないし、その店に対して特別な感情もない。チェーン店なのか個人経営なのかも知らない。ただ、駅へ向かうたびに前を通るので、なんとなく存在だけは知っている。
先日、その店の前を通りかかった。
お昼どきはとうに過ぎ、夕方の退勤ラッシュが始まる少し前だった。
その時、スーツ姿のおじさんが三人、店から出てきた。
そして三人とも、ほとんど同時にポケットからミントを取り出して口に放り込んだ。
一粒ではない。(確実に)
何粒か。
しかも全員が。
その光景が妙に印象に残った。
ミントを食べるということは、その先に生活があるということだ。
誰かと会う予定があるのかもしれない。
この後も三人で取引先を回るのかもしれないし、職場へ戻るのかもしれない。営業職ならなおさらだろう。
あるいはもう退勤していて、それぞれ家族の待つ家へ帰る途中なのかもしれない。
「ラーメン臭い」
そう言われたことがあるのかもしれない。
だから反射的にミントを口へ運ぶ。
私はその三人のことを何も知らない。
名前も、仕事も、家族構成も。
けれど、三人が揃ってミントを食べたという事実だけで、その先の人生が少しだけ見えた気がした。
未来というと大げさだけれど、少なくとも彼らにはこの後も続く予定がある。
会う人がいて、話す相手がいて、帰る場所がある。
私はラーメン屋の前で、そんな当たり前のことを考えていた。
ミントは口臭を消すためのお菓子だと思っていた。
でもあの日は少し違って見えた。
あれは、これからも誰かと関わりながら生きていく人のための食べ物なのかもしれない。