見出し画像

ひと夏の思い出 ―まだ、途中―


今年も行くことになった。

吹奏楽コンクール。

去年は、私のパートが終わってから、有給休暇を取ってくれた夫と一緒に急いで出発した。

高速道路をノンストップ、渋滞なしで走ったとしても四時間ほどの距離。

コンクール前日は現地に泊まる予定で、夕食も夫と二人で楽しみにしていた。

もちろん、そんな都合よくはいかない。

途中で休憩を取り、案の定、工事渋滞にも巻き込まれた。

ようやく到着したころには、楽しみにしていた夕食も、ゆっくりお店を選んでいるような時間ではなくなっていた。

周りの方に聞くと、早朝に家を出たり、駐車場で仮眠を取ったりしていたらしい。

「私たち、ちょっと贅沢しちゃったね」

夫とそんな話をした。

そして今年。

地区のコンクールまでは行かず、

「全国まで行ったら、現地まで応援に行こう」

そう決めていた。

だから地区のコンクールのチケットも取らず、演奏を終えてバスで学校へ帰ってくる娘を、夜、迎えに行くだけの予定だった。

ところがコンクール数日前。

現地解散もできることを知った。

学校までバスで戻ってから家に帰るより、現地まで迎えに行けば二時間近く早く帰れる。

次の日も学校だ。

すると娘は、ネットではすでに売り切れていたチケットをどこからか入手してきた。

いつもなら、

「来なくていいよ」

とクールな娘なのに。

夫が言った。

「よっぽど迎えに来てほしいんだね」

⋯⋯というわけで、今年も行くことになった。
今年は泊まりではなく、日帰りだ。

吹奏楽って、親もなかなか忙しい。

送り迎え。
交通費。
コンクールの費用。
遠征費。
楽器。
メンテナンス代。
楽器に使う消耗品。

それらが、ほぼ夫の肩にのしかかっている。

が、しかし。

本人は、それほど嫌でもないらしい。
娘にかかる費用は、どうやら夫にとっては“趣味費”のようだ😂


コンクールが近づけば、娘の帰宅時間は遅くなる。

疲れもMAX。
ご機嫌も、よろしくない。

私も、朝早く起きてお弁当の用意がある。

本人が一番大変なのはもちろんだけれど、親も結構疲れる。

それでも。

コンクール会場で演奏を聴くと、そんなことは全部吹き飛んでしまう。

かっこいい。

そして、泣ける。

「おい! よく頑張ったよ!!」

娘の学校だけじゃない。

演奏を終えたすべての学校の子たちに、そう声をかけたくなる。

県のコンクールを勝ち抜いてきた学校ばかりで、地区のコンクールともなると、そう簡単にはいかない。

金賞を取っても、すべての学校が全国に進めるわけではない。

娘たちは金賞だった。

残念ながら、全国への切符には届かなかった。
でも、本当に素晴らしい演奏だった。

親ばか全開の私は、

「行ける!!」

と思った。

……とはいえ、私たち夫婦のチケットは後半の部。
前半の学校の演奏は聴いていない。
だから、比較なんてできないんだけどね。

結果や審査について、娘がボソッと言った。

「スポーツじゃないから、音楽の審査って難しいんだよね」

その言葉を聞いて、去年のことを思い出した。
別のコンクールで、思うような結果が出なかったときのこと。

私の顔を見るなり泣き顔になって、

「おかしい!! 絶対おかしい!!」

と言っていた娘。

あれから一年。

悔しさがなくなったわけじゃないと思う。

それでも、結果だけでは測れないものがあることを、自分なりに受け止められるようになったのかな。

吹奏楽を続けてきた中で、心も少しずつ成長している。

そう思ったら、演奏とはまた別のところで胸がいっぱいになった。


そして、もうひとり。

着々と「思い出」を増やしている人がいる。

夫だ。

コンクールやコンサートのたびに、写真が販売される。夫は、その中から娘を探して購入する。

それだけなら、まあ分かる。ところがある日、わざわざ専用のアルバムまで買ってきた。

「はぁ~~~?」

娘のことを大好きなのは知ってるけど、そこまでやる?🫢

肝心の娘は、

「写真、いらない」

と、しれっとしている。

それでも夫は嬉しそうだ。

「年取ったら、これ眺めて楽しむんだ~~。これは僕の思い出だから」

さらに、

「結婚式のときとかにさ、アルバム出せるじゃん」

……未来の計画まで、娘ありき。

なんだかちょっと不憫になってきた。

だから私は何度も言っている。

「自分の趣味、見つけたら?」
「何かやりたいことがあったら、やったらいいよ」

しつこく勧めた末に、夫が出した答えが、

「趣味は次女ちゃん」

だった。

もう知らない😂

でも、いつか娘が結婚するとき。

この人、大丈夫なんだろうか。

「趣味」が家からいなくなっちゃうけど。

吹奏楽の夏は、まだ終わっていない。

だから今はまだ、この夏を「懐かしい思い出」と呼ぶには少し早い。

娘にとっても、私たち夫婦にとっても、まだ現在進行形の夏だから。

でも何年か経ったころ。

夫はきっと、あの専用アルバムを満面の笑みで引っぱり出してくる。

「ほら、これ。あのときさぁ」

なんて言いながら。

その横で私は、

「あ〜あのときのね」

と言いながら、たぶん一緒に眺めている。

今より、シワも白髪も増えているだろう。
それでもきっと、この夏のことを笑って話している。

今はまだ、思い出になる途中。
いつか私たち夫婦の大切な夏の思い出になる。

そんなお話でした。




こちらの企画に参加しています。
⇓⇓⇓


いいなと思ったら応援しよう!