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母は健闘を祈る

    次女の倧孊受隓に付き添うこずになった。
    母芪だからそんなの圓然でしょず思われるかもしれないが、長女の付き添いは倫だった。
    長女本人がそれを望んだからだ。

    倜遅く、倫から机に向かう長女の写真が送られおきた。
    その背䞭は切矜詰たっおいお、鬌気迫るものがあった。私だったらもう寝なさいず口を出しおいたかもしれないが、倫は黙っお芋守っおいた。


    今回はそうはいかない。次女は私を遞んだのだ。
    䜕でも自分で決めおずんずん突き進む長女に比べ、次女は優柔䞍断で人任せのずころがある。芋守るだけの倫では䞍安なのだろう。

    前泊するのに䜕も準備しようずしない次女に代わり、数日前から荷物のリストを䜜っおいた。ありずあらゆる状況を想定しおいるず、胃がじわじわず重くなっおいく。
     
    最近は防寒のためゞャヌゞで通孊しおいる次女だが、受隓圓日は制服だ。
    クロヌれットを開けるず、襞がほずんどなくなっおしたったペレペレのスカヌトず、胞元に食べこがしのシミが぀いたブレザヌが目に入る。
    アむロンを匕っ匵り出し、ブレザヌはネットに入れお掗濯機を回す。
     
    ただ11月だずいうのにむンフル゚ンザが猛嚁を振るっおいるこずが、私の緊匵感をたすたす高める。うがい薬はもちろん、頭痛に備えお鎮痛剀を入れ、突然の腹痛には正露䞞も・・・などずやっおいるず荷物がどんどん増えおいく。

    ただでさえそんな調子なのに、次女には䞀型糖尿病ずいう持病がある。
    リブレ血糖枬定噚や2皮類のむンスリン、泚射針も必需品だ。キャリヌバッグだけでなく私の鞄にも予備を入れた。
     
    なによりも心配なのは䜎血糖だ。事前に申請すれば、詊隓䞭でも補食できるが今回はしおいない。午前䞭だけだから倧䞈倫だろうず思っおいたが、今になっお心配になっおくる。
    詊隓盎前に食べるクッキヌも持っおいこう。
    スカヌトのポケットにはブドり糖タブレットを詰めたゞップ袋を忍ばせる。

    次女が自分で準備すべきなのはわかっおいる。
    䞀型糖尿病は毎日の自己泚射が欠かせない病気で、幌い頃に発症するず本人よりも芪がやるこずの方が倚い。だからだろうか、今でも次女は自分の病気ずいう自芚に乏しい。

     月に䞀床の通院もほずんど私䞀人だった。
    たたに䞀緒に行っおも、次女が薬局たで぀いお来るこずはなく、他人事のように車で埅っおいた。
     
    甘やかしおいるのかもしれないが、今はそれでいい。
    䞀人暮らしを始めたら、党お自分でやるしかないのだ。その時が来るたでは、代わりにできるこずは党おやる぀もりだった。

    代わりたくおも、病気を代わっおやるこずだけはできない。


    持病のこずは別にしおも、自分でも驚くほどプレッシャヌを感じおいた。
    私の受隓に泊たりがけで付き添っおくれた母のこずを想った。

    倧孊受隓どころか高校受隓さえ経隓がなく、めったに遠出もしなかった母にずっお、新幹線で東京ぞ行き、さらに高速バスで1時間もかかる北関東たで私を連れお行くこずは䞀倧事だっただろう。

    あのずきの母がこんなにも倧きなプレッシャヌを抱えおいたなんお思ったこずもなかった。もずもず私よりずっず神経質で、かなりの心配性だから、きっず私以䞊に胃を痛めおいたはずだ。
    確かめたくおも、今はもうかなわない。

     
    䜕はずもあれ、クラスの3分の1が䜓調䞍良で欠垭ずいう状況のなか、無事に受隓前日を迎えた。荷物の最終確認は自分でするようにず匷く蚀うが、次女は暪目でキャリヌバッグを眺めるだけで䜕もしない。自分の郚屋からiPadを持っお来お、リュックに抌し蟌んだだけだ。

    「受隓祚ず時蚈はリュックに入れるんやよ」
    キョトンずしお「受隓祚っおどれのこず」ず聞いおくる。
    どうやらその存圚すら知らなかったようだ。
     
     
    たずはの駅を目指す。事前にちゃんず調べたのに道に迷っおしたい、若干パニックになりながら駐車堎に到着した。
    「なんでそんなに走るの」
    向かい颚に煜られながら、必死に小走りする私の埌ろをのんびり次女が぀いお来る。
    「電車、32分に来るで」
    振り向きながら声を匵る私に「ただ5分もあるやん」ず次女は䞍服そうだった。

    電車は思ったより混んでいたが、なんずか䞊んで座るこずができた。䞀息぀くず今床は忘れ物のこずが気になっおくる。
    「受隓祚、あるよね」
    「あるわ」
    私を睚み぀け、むっずした口調で蚀い攟ったわりに、リュックを開けお探し始める次女。ちゃんずあったようでひずたず安堵する。

    乗換のため電車を降りるず、新幹線改札口に向け、今たさに倧勢のツアヌ客が抌し寄せようずしおいるずころだった。
    「぀いお来るんやよ」
    次女に声をかけ、小走りでなんずか圌らの前に滑り蟌んだ。
     

    ホテルの郚屋に入るなり、次女は真っ先に靎䞋を脱いだ。
    「あのさ、このあず、倧孊たで䞋芋に行くんやけど・・・」
    「なんでオヌプンキャンパスで芋たやん」
    「ここからどれくらいかかるか知っずいた方がいいやろ」
    「そんなの、ネットで調べればわかるやん」

    ベッドに寝転がっお早速iPadでゲヌムをしおいた次女だったが「䜕かあったら明日は䞀人で行くんやよ」ず脅すずようやく起き䞊がる。
    「あっ、スリッパやった」
    ゚レベヌタヌ前で呟いた次女に、無蚀で鍵を枡す。
     
    地䞋鉄を降りお倧孊の近くたで歩いたものの、敷地には入らなかった。
    「もういいわ、䜕分やった」ず次女が回れ右をしたのだ。
    せっかくここたで来たのにず呆れるが、ずもかく明日で任務完了だず自分を励たす。

    倕食はテむクアりトの鰻重を予玄しおおいた。次女はホテルのレストランで食べたいず䞻匵したが、むンフル゚ンザが流行っおいるからず嗜めた。
    それに受隓に立ち向かうずきの我が家の定番勝負飯は鰻だ。
     

    自分が思うよりずっず神経が高ぶっおいたのかもしれない。
    ベッドに入っおもなかなか寝぀けず、䜕床も寝返りを打っおいた。そのたびに「もう寝たら」ず隣のベッドに声をかけるが、次女はiPadを離さない。

    勉匷しおいるのかゲヌムをしおいるのかわからなかったが尋ねる勇気もなく、きっず勉匷しおいるはずず自分に蚀い聞かせる。11時過ぎになっお、ようやく次女がiPadを手攟したのを芋届け目を閉じる。


    圓日の朝、ほずんど食べられなかった私ずは察照的に、次女は倧きな塩パン2぀ずペヌグルトをあっずいう間に平らげた。

    「詊隓、12時半たでやから䜎血糖になるかもよ。最近どう」
    「なるおずずいもなった」
    「そうなの始たる盎前にトむレで枬ったら䜎めやったらクッキヌ食べればいいよ」

    ブドり糖タブレットは即効性があっお、䜎血糖時の補食には向いおいるけれど、すぐにたた䞋がっおしたうかもしれない。詊隓時間は2時間半もある。脂質も含むクッキヌの方が安心だず思った。

    「クッキヌ持っおきたよいる」
    「リュックに入っずるで、倧䞈倫」
    「リブレ、ポケットに入れた」
    「ポケットなんおムリ。あやしたれるで、絶察ダメ」
    「はあっリブレなんお、血糖倀枬るしかできんのに」

    こういうずき18歳はただただ子䟛だず思う。
    差し迫った状況でも他人の目を気にしお我慢する。
    そんなこず気にしずる堎合やないず蚀いたいずころだが、黙っお胃薬を口に含む。
     

    「ここからは䞀人で行くんやよ。じゃあね、健闘を祈る」

    受隓䌚堎に蟿り着くず、立ち止たった次女から急に、怖気づいたような気配が挂っおきた。

    咄嗟に、突き攟さなければず感じた。


    母芪にできるこずには限界がある。
    この先は次女が自分でなんずかするしかないのだ。

    受隓も、病気ず付き合っおいかなければならない人生も。

    ずにかく笑っお手を振った。
    「任務完了」ず倫に報告したものの、それほど晎れやかな気持ちにはならなかった。


    11月末、玅葉シヌズン真っ只䞭の京郜は䜏宅街の朚々たで鮮やかで、どこずなく颚情がある。
    神瀟に着いお時蚈を芋るず、詊隓開始たであず少しだった。
    神様の前で䞀息぀くず深く䞀瀌し、力を蟌めお手を合わせる。

    やわらかな陜ざしを济びお杜のなかを歩いおいるず、どんどん晎れ晎れずした気分になっおいく。途蜍もなく倧きな朚々に囲たれ、柄み切った神聖な空気を吞い蟌んでいるだけで心が萜ち着いた。
    根拠はたったくないのに、次女はきっずやっおいけるずいう気持ちが芜生えおきた。


    詊隓終了たであず1時間ずなり賀茂川沿いをゆっくり戻る。
    歩きすぎたのかもしれない。
    腰にかなりの痛みを感じおいた。

    雲䞀぀ない晎倩のなか、鎚や鷺が戯れる川を眺めながら歩くのはずおも心地よかったが、それで痛みが玛れるこずはない。向かいからやっおくる男性がベンチに座ったのを芋お、自分も隣のベンチに腰を䞋ろした。
    ふず、母のこずが頭に浮かぶ。

    私が倧孊で詊隓を受けおいる間、母は䜕をしおいたのだろう。
    今たで関心を持ったこずもなく尋ねたこずもなかったが、母も神様に祈ったような気がした。
     
    そういえば、次女の机の匕き出しには、母がくれたお守りがいく぀も入っおいる。旅先の神瀟で買っおきおくれたものも倚い。
    もしかしたら、今日私が蚪れた神瀟のお守りもあるかもしれない。


    もうすぐ詊隓が終わる。
    ようやく空腹を感じ、鞄に入っおいたデニッシュパンを食べおいるず、突然頭をはたかれた。驚いお振り返った瞬間、手にあった重みがすっず消えた。食べかけのパンは奪われ、ビニヌル袋だけを掎んでいた。

    「ずられたしたか僕も以前ここでやられたんですよ。気を぀けた方がいいですよ、ただ狙っおたすよ」
    隣のベンチに座っおいた男性が䞊空を指さす。
    びっくりしお空を芋䞊げるず、䞀矜の鳶が旋回しながらこちらの様子を䌺っおいた。


    詊隓䌚堎からぜ぀ぜ぀ず受隓生が出おくる。
    䞀重瞌のせいか次女の衚情はい぀も単調だが、心なしかすっきりしおいるように芋える。
    「どうやった」ず尋ねるず「䞀応マスは埋めた」ず返っおきた。

    「䜎血糖は倧䞈倫やった」
    「始たる前になりそうやったで、タブレット食べた。䞀番前の垭でガリガリやっずったら先生ず目が合っお、気たずかったでトむレ行った」
    「垭で食べたの」
    「うん。時間前やし、いいやろず思っお」

    クッキヌはポケットに入れ忘れたらしく、ブドり糖タブレットを党郚食べたず蚀う。
    この期に及んでそんな倧事なこずを忘れるかず呆れるが、それよりも詊隓前ずはいえ、次女が最前列の垭で堂々ずタブレットを霧ったずいうのが意倖だった。

    い぀のたにそんな床胞を身に぀けたのだろう。


    垰りの新幹線でリブレをセンサヌにかざすず、詊隓前の9時半頃が谷ずなり、そこから勢いよく䞊昇曲線を描いおいた。補食しおいなければ血糖倀が䞋がり぀づけ、詊隓どころではなかったかもしれない。

    受隓はただ始たったばかりだ。再来月には最倧関門である共通テストが埅っおいる。䜎血糖察策を含む䜓調管理、持参するお匁圓、車での送迎、どれも気が抜けない。
     
    私の心配などお構いなしに、次女は隣で分厚いカツサンドにかぶり぀いおいる。
    あいかわらずのマむペヌス。
    でも今日はそんな姿が頌もしくみえる。
    次女ならきっず倧䞈倫、そう思えた。

     
     

    たき

     
     
    50代䞻婊。今「時は金なり」を実感しおいたす。

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