
【俺はサウナー Vol.21】変わりゆくもの。-杉乃井ホテル 棚湯-
「変わりゆくもの。」
そう聞いて、なにを思い浮かべるだろう。
季節だろうか。
街並みだろうか。
それとも、人の気持ちだろうか。
杉乃井ホテル棚湯で過ごした時間は、そんなことを考えさせてくれた。
正直、サウナにはあまり期待していなかった。
杉乃井ホテル棚湯といえば、別府湾を一望できる大きな露天風呂。
段々畑のように広がる湯船。
開放感のある景色。
主役は間違いなく風呂。
行ってみるとまさにそうで、サウナは露天風呂の端に影を潜めていた。
失礼ながら、「おまけ」くらいの存在だと思っていた。
しかし、この考えはあまりにも浅はかだった。
身体を清めて、サウナに向かう。
二重扉の最初のドアを開けた瞬間、ふわりとウッディの香りが漂った。
「あれ。」
少しだけ期待が高まる。
もうひとつドアを開け、中に入る。
3段あり、上段に座る。
前方には横長の大きな窓。
微かに流れるヒーリングミュージック。
奥には存在感のあるサウナストーブ。
頻繁にオートロウリュが行われる。
熱すぎない。
ぬるすぎない。
湿度もちょうどいい。
派手さはない。
どちらかと言うと、小屋サウナのような感じ。
不思議と居心地がいい。
サウナから、窓の向こうを眺める。
別府の街。
その先に広がる海、空。
夕方になった頃からだろうか。
景色がどんどん変わっていく。
1セット目に見た景色と、2セット目に見た景色は違う。
2セット目に見た景色と、3セット目に見た景色も違う。
明るかった空は少しずつ色を変え、街には灯りがともり始める。
まるで小さなこどものように、次々と表情を変えていく。
その景色を眺めているだけで飽きなかった。
サウナを出て、水風呂へ。
水風呂は浅め。
目の前の絶景を楽しみやすい構造になっている。
景色を眺めながらの水風呂は、なんとも贅沢だった。
1セット目。
「いいサウナだな。」
そう思った。
2セット目。
「かなりいい。想像以上。」
そんな感想に変わった。
3セット目。
気づけば、この場所が好きになっていた。
サウナには、いろいろな種類を楽しめる施設や、入った瞬間に心を掴まれる派手な施設がある。
一方で、こうやってセットを重ねるごとに良さが染みてくる施設もある。
ここは、間違いなく後者だった。
最初は気付かない。
でも、少しずつ魅力が見えてくる。
気付けば、その心地良さから離れられなくなっている。
それは、人との出会いにも少し似ている気がした。
第一印象で惹かれる人もいる。
反対に、時間をかけて好きになる人もいる。
最初は見えなかった魅力に、あとから気づくこともある。
振り返ってみると、ぼくの人生で長く付き合いがある人たちは、後者が多い気がする。
第一印象で惹かれたっていう人は少ない。
いや、ほとんどいないかもしれない。
人見知りなぼくらしいな、と思う。
3セットを終えた頃には、最初に抱いていた印象はすっかり消えていた。
「おまけ」だと思っていたサウナは、この場所の魅力を語るうえで欠かせない存在になっていた。
その後は、急いで帰らなかった。
せっかく湯の街に来た。
広い湯船に身を沈める。
昼でもない。
夜でもない。
夕方から夜に移り変わる時間。
「君の名は。」で言う「かたわれ時」。
別府の街を眺めながら湯に浸かっていると、不思議と時間の流れまでゆっくりになった気がした。
空の色は変わる。
海の色も暗くなっていく。
街の灯りも増えていく。
景色は同じようでいて、少しずつ姿を変えていく。
そして、変わっていたのは景色だけではなかった。
サウナへの印象も。
この場所への見方も。
もしかしたら、自分の価値観も。
人も、場所も、物事も。
本当の価値は、時間をかけて初めて見えてくることがある。
杉乃井ホテル棚湯で眺めた夕暮れは、そんな忘れかけていたことを思い出させてくれた。
最近のぼくは、つい結果を急いでしまうことがある。
noteも、仕事も、いろいろ。
すぐに答えが欲しくなる。
でも、このサウナは「もう少し時間をかけてみたら?」と教えてくれた気がした。
まだ人生の途中。
見えていない景色も、気付いていない魅力も、きっとたくさんある。
人生は、3セット。
1セット目では分からないこともある。
2セット目で見え始めることもある。
そして3セット目になって、やっと気付くこともある。
焦らず、でも前に進んでいきたい。
杉乃井ホテル 棚湯の詳細は公式HPから。
サウナの情報は、サウナイキタイも参考に。
《筆者の自己紹介》
埼玉県川越市出身。現在は大分県在住。
サウナとももクロを愛する、サウナモノノフのHarupiです。
「エッセイ作家」ってなんかカッコよくない?とふと思ったことをきっかけにnoteを始めました。
現在は毎週水曜日にフリーテーマのエッセイ、
土曜日にサウナエッセイを書いています。
読んでいただきありがとうございます。