
空よがり【散文詩】
2026年6月5日 am7:03
母は、泣くだろう。
父は、泣かないだろう。
妹は、来ないだろう、来なくていい。
母方の祖母は、泣かないと思う。
父方の祖母は、泣くかもしれない。
空にね、なりたかったのよ
だからね、綺麗な空を集めていたの。
白い朝日と青い天井
オレンジ色の黄昏と桃色のカーテンが好き。
夜空はね、あまり好きではないのよ
シャッターを切っても、何も写らないから。
丑三つ時の新宿はね、ベランダに出ると
視線よりも低い位置に星屑が散ってるのよ
ちらちらといやらしくてね
それがとても鬱陶しいのよ。
汚い排気音と誰かの泣き啜る声だけが聞こえてね
つい、下の方を覗き込んでしまって
月を見上げるのが、億劫になって
そのまま部屋に戻ってしまうよ。
星屑って、あまり美しくないのね
夜空はね、あまり好きではないのよ
目一杯澄んだ青い空に、太陽の光を反射した
うんと白い雲が写っているのが好きなのよ。
オレンジ色の黄昏が美しいのは
もうすぐ夜が太陽を攫ってしまうから
「また明日」と彼は私と約束したがるのよ
頬を桃色に染めて、愛らしいでしょう。
空にね、なりたいのよ
青い空にね。
だから頼んだの、私の遺骨は
展望台から撒いてくれって。
空になりたいのよ
空になりたかったのよ
誰の頭の中にも、空はあるでしょう?
誰でも空を、思い出せるでしょう?
宝箱の中に、たくさんのコレクション
たくさんの空、私だけの空
あぁ、薬はもう飲んだかしら
夜とは寝ないのよ、あなたの側で寝たいのよ。
遮光カーテンの隙間から
一本の白い光
ベランダに立つと湿った朝の匂い
心地がいい最期だわ、幸せよ。