
大学初日 26/4/2
大学の初日は健康診断だった。小雨が降ったから家から折りたたみ傘を持って出た。バス停まで傘を差して歩いて、「始まりの朝だ」とか思ってたんだ。バス停に着いて小粒の水滴を払って傘を閉じたら、傘を閉じる帯に、「TALENT」って書いてあったんだ。俺は才能を持ってるってことか?そのあとすぐに雨は上がったから、才能を使う機会はなかった。
いつものように電車の1号車に乗って、後ろに流れていく景色をずっとずっと眺めていたんだ。地下鉄ではなく地上鉄だから、街や山がうごめく美しい流動的な景色だった。俺の正面に座るおじさんは、いかにも優しいお父さんという感じの、ベージュや茶色を使ったフォーマルなスーツルックで、文庫本を読んでいた。何を読んでいたんだろう。俺の隣に座るおじさんは、雑誌を読んでいた。その雑誌の右側のページの中央に、「GAME」って書いてあったんだ。大きな文字で、「GAME」。連載小説のタイトルらしかったが、それが何かの啓示に見えたのは、さっきの「TALENT」に続いてのことだった。
観察青年こと俺と、二人の読書するおじさんを乗せた電車に、新しい乗客がやってきた。ロシア語を話すロシア人家族だ。子供達は日本の電車が珍しいのか、座席の模様を指して「草だよ」などと言った。見ていてとても微笑ましいような和気藹々とした家族だった。お父さんと子供達が並んで座れるように席を一つずれてあげようか、と俺が悩んでいるうちに乗ってきたのは日本人のカップルだった。女の首に何かついているのか男が目を近づけ、口を近づけ、やおらとキスをした。あっ。と思った。その拙い愛の言語をふびんに思ったのだ。
この世の希望のような子供達をたたえたロシア人家族と、電車内いちゃいちゃ日本人カップルを見比べて、はあ…なにを思うのかしら、と思っていると、大学初日だからといって切りすぎた鼻毛のせいで、突如として鼻くそが鼻の中に刺さるように痛んで、いてて、とポケットティッシュを取り出しながら、「亡ぶよ。」と思った。この国が。
大学ばか楽しいやばい
大学の初日は健康診断だったんだけど、まさかのサークル勧誘ラッシュもあった。屋外のステージで風がびゅうびゅう吹くなか落語を観た。俺の両隣に座るのは新しくできた友達。風が強すぎてマイクスタンドが倒れて、落語家が、「罰ゲームですかぁ〜!?」と叫んだ。わはははは!なんだこの楽しい学校は。俺はずいぶん楽しい大学に入ってしまったんだなあ。
ここで一首。
ブレスケア 落語家がそう呟いて 想起する朝からの啓示たち