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Photo byshuma913

【掌編】そして砂は夢を飲む

     日本全土の地面が砂地、正しくはただの砂に変わってから半年が過ぎようとしていた。

     アスファルトにまるで雪のような砂がうっすらと積もり始めたかと思えば、一ヶ月もしないうちにそのアスファルトが姿を消し、歩く足は埋もれ、自動車の車輪は空回りし、家が傾いたところでその異常性に日本中はようやく気がついた。
     高層ビルは新たな事故を招かないためにも事前に横倒しにしてしまい、人々は壁を床にして生活した。学校や病院などの施設は砂に埋もれていってしまわないようにできるだけ均等に人や物を配置した。走り回るなんてもってのほかで、建物の中では呼吸にも気を遣った。
     田畑すら埋もれていく中、なんとか食料自給率を0にしないように屋内で育てている作物を必死に守り抜いたが、海外諸国からの救援物資の保管庫にする方がはるかに合理的な使い方だと方針を転換した。
     海外からの物資輸送は主に海路で行われた。しかし内陸部に輸送する手段がなかったため、手の届かない場所には空路での輸送が行われた。離着陸は困難なため、上空からひたすらに投下した。幸い地面のクッション性に困ることはなかった。

     地域にもよるが、自分の通う中学校は何事もないかのように授業が行われていた。将来必要になるのかもわからない勉強を、教師も諦めたかのような顔で、しかし例年通りのカリキュラムを羅列した。もう日本は駄目だ、他の国もいずれこうなると登校しなくなった生徒も、この現象が日本だけにとどまり、勉学優秀者に贈られる特別留学ビザを手に入れて船に乗る必要性から目を背けられなくなった。

     日本に住む全員が言葉には出さず、しかし心の中で繰り返していた。地面はすべて砂になった。なら次は?侵食が地下へ進むなら、我々もそこに引きずり込まれるだけだ。

    「床って地面じゃないんだね」
    「なに?」
     同じ小学校から進学した金本が自分の足元に視線を落としながら独り言のように呟いた。次は移動教室で、部屋の中には自分と金本だけが残っていた。
    「去年の運動会でさ、組体操の練習って体育館でやったでしょ。本番はグラウンドだったけど。倒立した時の手の感触と、太陽の光くらいしか違わなかったから」
    「いつか床も砂になるって言いたいの」
    「そういうわけじゃないけど」
     黙ってしまった金本を背に、教室から出ようと右足を出し、それを降ろすことはできなかった。床が地面になる感覚を、味わいたくはなかった。いつの間にか金本は自分の後ろに立っていて、汗ばむ自分の手を彼女の手で掬いあげた。片足を上げたままバランスを崩し、後ろに倒れそうになったところを、金本はくっと前に引っ張った。
     扉をかなぐり捨てるように開けた金本は、自分の手を握ったまま廊下を駆け出した。全速力で走る二人に焦った教師の張り上げた声は、あっという間に後ろに置いてきてしまった。
     そういえば、中学校に入学したら陸上部に入りたかったことを、ようやく思い出した。硬い地面を蹴ってそのまま返ってくる衝撃がそれを持ってきた。

     笑顔で振り向いた金本は額に汗粒を乗せていて、そのまま足で地面を踏み抜いた。

    #創作大賞2026 #オールカテゴリ部門

     
     

    明香

     
     
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