
蝶々【短編小説】
ふん、と鼻から息を吐いてふわりと花を咲かせてみたら、花びらの内側に太い芋虫が隠れていた。うわっ、と思った。彼も驚いているみたいだった。
私は白い紙の上に芋虫を転がしてみた。彼は一度ひっくり返って、それからごろりと正しい向きに直った。夏の野菜のような鮮やかな黄緑色の体で、そちらが頭なのかお尻なのか知らないけれど目のような模様が二つある。
次の花を咲かせたら、それには芋虫は入っていなくて安心した。今日の仕事はこれで全部だったので、私は思い切り背伸びをした。
さて、と紙の上で大人しくしている芋虫をどうするべきなのか思案する。
いつもは咲いていない花に向かってかけるおまじないなのだけれど、同じものを芋虫にかけてみた。ふんっ、と念じると芋虫はサナギの段階を飛ばして、美しい蝶々になった。しばらくは自分が飛べることに戸惑っているようだったけれど、背中の羽に慣れるとひらひらと部屋の中を舞いはじめた。
「こっちへおいでよ」と私は声をかけてみた。