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【いのち短し恋せよ乙女】

    【いのち短し恋せよ乙女】

    (※作中で障がいを扱っています)

    恵(めぐむ) ♂:
    26歳。亡くなった「亜希」の同級生で、亜希に想いを寄せていた。

    遥香︎︎ ♀:
    26歳。亡くなった「亜希」の双子の妹、姉に瓜二つの容姿を持つ。
    知的障がいを抱えていて、年齢に対し言動や考え方が幼い。
    ※作中で歌謡曲「ゴンドラの唄」を口ずさむシーンがあります。

    直哉(なおや) ♂:
    31歳。亡くなった「亜希」の恋人。暁人の死にひどく心を痛めている。



    遥香:姉ちゃん?姉ちゃんどうしたん、どこ連れてくん?なあ?
    遥香:……ナオー、姉ちゃん、どこ行ったん?

    直哉:(涙声で)姉ちゃんはな、もういなくなっちゃたんだよ。

    遥香:え~なんで?なんでなん?

    直哉:なんでだろうな、なんで亜希……ッ!
    0:

    恵:(N)好きな人が、亡くなった。
    恵:突然の事故で。
    恵:享年二十五歳、早すぎる死だった。
    恵:同級生で初恋の人で、彼女の朗らかな笑顔がとても好きだった。
    恵:彼女には恋人がいた。
    恵:彼女の恋人、直哉さんの悲痛な表情に、ぐちゃぐちゃな心が更にぎゅと鷲掴みにされた。
    恵:けれど直哉さんの涙を見たら、いや見たからこそ、俺は泣けなかった。
    0:

    恵:ごめんください。
    恵:ああ、いやこちらこそ。
    恵:親族でもないのに一周忌にまで来させてもろて……。

    直哉:それなら俺もだよ。

    恵:……?

    直哉:久しぶり、恵(めぐむ)くん。

    恵:あ……?直哉さん!?
    恵:すんません一瞬気づかんくて……あの、その……えらい痩せはったから。

    直哉:はは、みんなに言われるよ。
    直哉:なんだか食が細くなっちゃってね……。

    恵:ちゃんと食べなあかんっすよ、みんな心配してますし……。
    恵:あの、もう一年経つんですから……。

    直哉:一年、いつの間にか一年経ってたんだ。
    直哉:俺は忘れられない、昨日のことみたいにずっと思い出すんだよ……。

    恵:……。

    遥香:あ!(バタバタと走ってくる)ナオ!

    直哉:遥香。

    遥香:ナオおったん!
    遥香:なんやまた集まって何すんねやろな、でも姉ちゃんまだ帰ってきてないで。
    遥香:なあ~、なにすんの~?なあ、つまらんわ~。
    遥香:ナオ遊んでや~、なあ~なにする~?

    直哉:ごめんな遥香、今日は無理だよ。
    直哉:クロちゃんどこ?クロちゃんと遊んでて。

    遥香:クロちゃん、見つからへん。

    恵:クロちゃん?

    直哉:ああ遥香のお友達、ぬいぐるみだけどな。

    直哉:でも困ったな、ご家族が一周忌の準備でどこかに片付けたのかな……。
    直哉:誰も構ってやれないし、アレなきゃ読経(どきょう)とかの間大人しくしてられないだろうしな。

    恵:ああ、じゃあ俺、ご家族さんに聞いてきますわ。

    直哉:ん?そう、ありがとう。
     : 
    恵:(N)俺の好きな人の名前は亜希、亜希には遥香ちゃんという双子の、
    恵:要は同い年の妹さんがいて、あんな風に人とは少し違う性質を持っている。
    恵:でもあの屈託のない朗らかな笑顔、というか姿形全てが亜希の生き写しのように似ていて、
    恵:良くない事だと分かりながらもたまに亜希の影を遥香ちゃんに重ねることもあった。
    0:

    恵:(N)帰り道、亜希が亡くなった場所のすぐ近くの電柱に、花が添えられている。
    恵:排気ガスが蔓延するこの場所では、俺や御家族がたまに供えたぐらいじゃ、花はすぐに茶色くしわがれてしまう。
    恵:今日は亜希が好きだったオレンジ色の花を供えよう。
    恵:そう思い、その場所へ行くと。
    :
    恵:あれ……?
    :
    恵:(N)遥香ちゃんが立ち尽くし、電柱の下の方、ちょうど花が供えられている所をしげしげと見つめていた。
    恵:彼女と視線がかち合う。

    遥香:あ!

    恵:(N)遥香ちゃんは俺の方へと、駆け寄ろうとするそぶりを見せた。
    恵:その直後、脇道からいきなり現れたトラック。
    恵:そして聞こえる左折音、あの位置は死角に入るだろう。
    恵:……轢かれる、そう直感したその瞬間。
    恵:俺の体は反射的に動いていた。  

    遥香:うわあ!

    恵:(N)彼女の体をぐいと引っぱり、二人で歩道に転がった。
    恵:間一髪、トラックは排気ガスを振りまきながら走り去っていった。
    恵:遥香ちゃんは一瞬きょとんとした後、俺の落とした花を見て言った。

    遥香:なあ、自分が花屋さんなん!?

    恵:は……?

    遥香:あ、これ落としたで!きれ~やな!
    遥香:自分、花屋さんなん!?

    恵:いや……俺は、それをそこに……そなえようとしただけで……。

    遥香:な~花屋さんなん?

    恵:や、だからちゃうって……。

    遥香:花屋さんはこんなところに花並べるん?おもろいなあ!
    遥香:でももっと車通らんとこで売った方がええで!
    遥香:せっかくきれーやのに、潰されてもうたら勿体ないやん!

    恵:あ……ありがとな……。
    恵:はぁー、遥香ちゃんは何しとん?

    遥香:あれ?なんでウチの名前知っとるん? 

    恵:え?なんでって……。

    恵:(M)顔覚えてなかったんか……。

    遥香:ウチら友達やったっけ?

    恵:え?や、友達とちゃうけど……。

    遥香:あ、わかったわ!クロの友達か!?

    恵:ちゃうで……。

    遥香:おかん!

    恵:ちゃう……。

    遥香:あ!もしかして姉ちゃんの?

    恵:!……せや……せやな、姉ちゃんの友達や……。

    遥香:なるほどな!姉ちゃんのか!
    遥香:なあ~姉ちゃん今何しとるん?
    遥香:おらんくなってしもてん!

    恵:!っ……すまん、知らへんわ……。

    遥香:そかあ~。

    恵:……。

    遥香:なあ!

    恵:……なに?

    遥香:自分名前なんて言うん!

    恵:……え、恵(めぐむ)……。

    遥香:め、めぐ……めぐ……?

    恵:はは、珍しいし、ムズいよな。
    恵:メグでええで。

    遥香:メグな!ウチはな遥香って言うねん!

    恵:はは、知っとるで

    遥香:今なクロと散歩してんねん。
    遥香:あ、クロはな、ウチの友達でな。

    恵:会ったことあるで、久しぶりやな、クロ。

    遥香:なんや!やっぱ友達やん!

    恵:はは、ちゃうよ。
    恵:顔見知りぐらいのもんやで……。
    恵:というか今日持ってるの……絵本やんな?
    恵:クロはぬいぐるみとちゃうかったんか?

    遥香:ぬいぐるみ?
    遥香:クロおるで、ほらここ。

    恵:(M)黒猫の絵……確かに、あのぬいぐるみと似とんな……。

    恵:じゃあ、あっちのモフモフの黒猫の方は誰なん?

    遥香:モフモフ?ああ、あれはクロや!
    遥香:ウチの友達やねん!

    恵:?どういうことなん?同じ名前の友達が二人おるんか?

    遥香:クロのこと?何言うとるん?クロはクロだけやで。

    恵:(M)よおわからんけど、遥香ちゃんの中ではそういう世界観なんやろな……。

    恵:そか。仲良しな友達がおってええな。

    遥香:うん!(屈託なく笑う)

    恵:(M)あ、同じ笑顔だ……。

    遥香:あ!ウチ行くわ!
    遥香:キンコンカンコンまでに帰らなアカンねん!
    遥香:そうせんとな~

    恵:……?

    遥香:イヤやねん!

    恵:なんでなん?なんか用事でもあるんか?

    遥香:ちゃう!イヤやねんて!
    遥香:はよ行かな!ほなな!

    恵:……こだわりっちゅーやつか……。
    恵:嵐のようやったな……。
    :
    恵:はぁー……亜希、やっぱり俺も忘れられへんよ……。
    0:

    恵:(N)運命のいたずらか、アレから遥香ちゃんに遭遇することが増えた。
    恵:ある日は、コンクリートの壁に絡みついた朝顔に丁寧に水をやっていたり、
    恵:誰かに頼まれたのか商店街の床を一心不乱に掃いていたり。
    恵:亜希とは同級生で家も近かったせいか、遥香ちゃんと俺の行動範囲も被りまくっていて、
    恵:外に出かけると必ずと言っていいほど遥香ちゃんを見かけるようになっていた。
     : 
    遥香:あ!ミク!

    恵:メグな!
    恵:また誰かの手伝いか?

    遥香:ん~、今日はヒマやねん!
    遥香:メグ遊んでや!

    恵:え~!いややわ!こんな真夏日に。
    恵:そーいや、遥香はこんな季節によー外にずっとおるな。
    恵:家帰って涼んだ方がええんちゃうか?熱中症なるで。

    遥香:んー……。

    恵:遥香?

    遥香:家は、なんか嫌やねん。

    恵:なんで?

    遥香:ナオがな最近毎日来とんねん……。

    恵:直哉さん?ええやん、遥香直哉さんに懐いとったやんか。

    遥香:ナオ好きやで……でもなんか、最近嫌な目すんねん。
    遥香:前みたいに遊んでくれへんし。

    恵:嫌な目?

    遥香:悲しそうてか、泣きそうてか、なんか辛そうな目でウチのこと見んねん……。
    遥香:なんかあのナオ嫌や、なんか怖いしかわいそうやねん……。

    恵:直哉さん……そか……。
    恵:じゃあ遥香!今日は俺がファミレス連れてったるわ!

    遥香:ホンマ!?

    恵:おう、郵便局の帰りな。

    遥香:うん!ついてくわ!
    遥香:ウチ郵便局もファミレスも大好きや!

    恵:郵便局も?

    遥香:あんな~、シールべろって舐めて貼んねんな!
    遥香:ウチあれめっちゃうまいねんで!

    恵:ああ、切手か。
    恵:じゃあそれもこうたるわ。
    恵:イッチャン安いのやけどな。

    遥香:じゃあ~メグにもシール貼ったるな!

    恵:はは、ありがとう……俺が買ったやつやけどな。

    遥香:じゃあはよ行こうや!(恵の手を握り引っぱって走り出す)

    恵:うわ!おい遥香!
    恵:……ッ……。
     : 
    恵:(N)一瞬でも亜希と手を繋いだ気分になって心がときめいた。
    恵:わかってる。
    恵:それでも……どんなに自分を律しても本能で亜希の面影を追ってしまう。
    恵:こんな自分が酷く浅ましく卑劣に感じた。
    0:

    :(亜希の仏壇の前で一心不乱に拝む直哉)

    直哉:亜希……なんで……亜希……亜希……亜希……。
    直哉:(気配を感じ振り返る)
    直哉:亜希ッ!?
    直哉:……あ……。

    恵:すいません、亜希でも遥香でもなくて……。
    恵:直哉さんまたやつれはりましたね、時間も忘れてそこに居るそうやないですか、
    恵:それこそご飯も食べる間もなく……御家族の方もかなり心配してはりましたよ。

    直哉:そう……ありがとう。
    直哉:亜希に線香あげに来たの?俺が言えたことじゃないけど君もマメだね。
    直哉:さて、君が来たなら、そろそろご迷惑だろうし、俺はお暇しようかな。

    恵:待ってください。

    直哉:……どうしたの?

    恵:勘違いやったらホンマに失礼で申し訳ないんですけど、
    恵:もしかして最近亜希と遥香を重ねて見てませんか?

    直哉:ッ!

    恵:この際やから告白しますけど、俺もね亜希のこと好きやったんです。
    恵:学生の時から亡くなるまでずっと。
    恵:初恋やったんです。長い長い初恋。
    恵:だから余計に気持ちに整理がつかへん。
    恵:あなたと同じほど愛していた、全く同じ気持ちでおったとは言えへんけど、
    恵:それでも気持ちの欠片ぐらいはわからんくもないんです。
    恵:俺もどうしても亜希と、そして亜希に瓜二つの遥香を重ねてしまう時がある。

    直哉:な、んでそう思うのかな……?
    直哉:君が言うように亜希と遥香が違うように、俺と君も違う。

    恵:遥香が言いよったんです。
    恵:最近直哉さんが自分を見る目が嫌やと、悲しい、怖いと。
    恵:だから、もしかするとあなたが亜希に対する思いを遥香にぶつけている、
    恵:いやぶつけてしまうんじゃないかと。

    直哉:違う!わかってる!
    直哉:遥香は亜希じゃない!代わりにもなりえない!わかってる!わかりきってる!
    直哉:……そんなこと……でも、ダメなんだよ……。
    直哉:いくら時が経とうと消えないんだ……悲しさと寂しさが……。
    直哉:……寝ても覚めても、脳裏にずっと亜希の姿が……。(フラリと立ち上がる)

    恵:ちょ!直哉さん話はまだ……

    直哉:(焦点の定まらない空虚な瞳で恵を見やる)

    恵:(ゾッとし)ッ……直、哉さん……。

    直哉:……わかってる、わかってるんだ……(小さく)ごめんね。

    恵:えっ?

    直哉:(フラフラとした足取りでその場を去る)
     :
    恵:(N)俺は直哉さんの心の傷を、闇を少しでも解っていると思い上がっていた。
    恵:そうでなければ、あの「ごめんね」の意味にもいち早く気づけたはずだったのに。
    0:

    恵:こんにちは、お邪魔します~。
    恵:うわ!なんやこれ!紙だらけやん!

    遥香:(バタバタと走ってきて)グミ!

    恵:メグな!
    恵:てかあれ?珍しいやんか遥香が家におるなんて。

    恵:(M)まあ外で見かけんかったから心配して来てみたんやけどな……。

    恵:(遥香の親に)え?最近直哉さん来てはらへんのですか……?

    遥香:メグ来んの珍しいやん!
    遥香:でもなあ、ウチ今忙しいねん

    恵:おまえ、いつも遊べ遊べうるさいのに、なんや今日はどうしたん?
    恵:てかなんやねんこの騒ぎは、紙っぺらで足の踏み場もな……(紙に描いてあるものを見る)
    恵:これ絵か?遥香が描いたんか?

    遥香:うん!ウチな、絵描くのがいっちゃん好きやねん!

    恵:鉛筆描きだけでこれって……色とかつけたらどうなってまうんや、すごいな遥香……!
    恵:ホンマにすごいわ!

    遥香:え~へへへぇ……。

    恵:これは……なんかの漫画の絵か、なんの絵?

    遥香:えとな~進撃の刃!

    恵:たぶん混ざっとんなそれ!
    恵:漫画以外も描けるん?人とか。

    遥香:描けんでー。

    恵:お!じゃあ俺描いてや!

    遥香:えーいやや、ウチ好きなものしか描かへんねん

    恵:ガ~ン!俺のこときらいやったんか!?

    遥香:メグは好きやで。

    恵:じゃあなんでなん!?

    遥香:今、そーいうのちゃうねん。
    遥香:描きたいやつ描きたいねん!

    恵:ふーん、ま、今日はそういう気分てことな……。
    恵:じゃあ俺は今日は邪魔せんように、お母様が入れてくれはったお茶だけいただいて帰るわ。

    遥香:うん!(鼻歌)~♪~~♪

    恵:ご機嫌やな……。

    遥香:(ゴンドラの唄の冒頭を口ずさむ)いーのちーみじーかーしー恋ーせよおとめ~♪

    恵:……!
    恵:その歌、おまえの姉ちゃんもよく口ずさんでたな、姉ちゃんが教えてくれたん?

    遥香:ううん!ばあちゃん!

    恵:なるほど、一家代々脈々と受け継いできた歌ってわけか。
    恵:……おまえの姉ちゃんはホンマに短い人生を悔いなく生きれたんかな……。

    遥香:んーそやと思う。

    恵:……!おまえ……。

    遥香:わからんけど!

    恵:いや、適当かい……

    遥香:でもなあ、ウチ絵いっぱいいっぱい描きたいねん。
    遥香:それがな~ウチのいっちゃんすきなことやから、い~っぱい描きたいねんな!

    恵:……それは、なんで?

    遥香:だっていのちって短いんやろ?
    遥香:ばあちゃんが言うてたで、いのちは思ったよりもな~ずっとずっと短くてな、す~ぐ消えてしまうんやて!
    遥香:ウチもな~消えてしもたらもうなんにもできひんやん!
    遥香:やったら、ウチはその前に好きなこと全部やったんねん!
    遥香:?
    遥香:あれ?メグ?どないしたん?
    遥香:なんで泣いとんの?

    恵:いや……俺もアイツに好きやってちゃんと伝えとけば良かったなって……。
    恵:せやな後悔しても遅いねん今やれること全力でやらなな。

    遥香:痛いんか?シール貼ったるから待っとってな。

    恵:はは、心に貼ってくれるか?
     : 
    恵:(M)俺なんかより遥香の方がずっとわかっていたんやな……大事なこととは何か。
     :  
    恵:(N)それからほんの少し時が経ち、俺の傷は遥香が埋めてくれたのか。
    恵:抱きつかれたり手を繋いだり、体が触れ合うことはあっても、そこに亜希を感じることはなくなっていた。
     : 
    恵:(N)そんな矢先……事件が起きた。
    0:

    直哉:……久しぶり。

    遥香:ナオ!めっちゃ久しぶりや!
    遥香:なにしとったん?

    直哉:……。

    遥香:ナオ……?
    遥香:でも前のナオの目めっちゃ怖かったから、優しい目になっとって安心した!

    直哉:……。

    遥香:姉ちゃんの写真の部屋ここやで?
    遥香:ナオ……?どないしたん?

    直哉:今日は別の用事なんだ、来て。

    遥香:え?な~どうしたん、そこお布団の部屋やで。

    直哉:寝転んで。

    遥香:?うん。

    直哉:(自分も横になり遥香をだきしめ)……俺のこと好き?

    遥香:うん。

    直哉:ふふ、俺も大好きだよ……。(首筋にキスをする)

    遥香:ひゃはは!こしょばいって!やめてえや、ナオ!

    直哉:いいだろ、愛し合ってるんだから……。

    遥香:ん、愛?

    直哉:ああ、愛してる、好きだ、亜希亜希……。

    遥香:ナオ?ナオ?ナオ!?
    遥香:なにしとん!?やめて!
    遥香:嫌や!

    直哉:なんで拒むんだ亜希?愛してるって言っただろ?

    遥香:わからん!こわいって!うわああ嫌やあ!
    遥香:こわい!ナオこわい!助けて!!嫌やああ!

    直哉:大好きだ、愛してる、愛してる、俺にはお前だけだ、
    直哉:好きだ、愛してる、大好きだよ、愛してる愛してる愛して……

    遥香:わあああああ!
    0:

    恵:(N)俺が駆けつけると、泣きじゃくって錯乱状態の遥香と、
    恵:警察に取り押さえられながらも、必死に遥香の方へ手を伸ばす、直哉さんの姿がそこにあった。
    恵:御家族に顛末を聞いたが、結局遥香の叫び声に気づいた家族が止めに入り、行為は未遂に終わったそうで、
    恵:直哉さんの最近の精神状態や事情をよく知るご家族は、それらを加味して被害届は出さなかったらしい。
     : 
    恵:(N)俺は、何もできなかった……。
    恵:しかし、自分の不甲斐なさに打ちひしがれる間もなく……。
    恵:直哉さんは、自宅のベランダから身を投げた。
    0:

    恵:遥香。

    遥香:んー?

    恵:俺のことも怖いか?

    遥香:なんでー?

    恵:さっきから、一回もこっち見いひんから。

    遥香:んー、今しんけんやねん。

    恵:何描いとんの?

    遥香:んー?ウチの好きな物。

    恵:なんそれ、見して。

    遥香:あ~!ダメ!

    恵:なんでや、いつもは見ても嫌がらんやん。

    遥香:これはダメやねん!

    恵:なんで。

    遥香:いやって言うたらいやや!

    恵:なんなん。

    遥香:ええからこれはダメなの!あっち行ってや!

    恵:ええー……。

    恵:(M)……やっぱ男がトラウマになってたりとかすんのかな……。
     :
    恵:(N)せっかく遥香と心が近くなれたと思ったのに……。
    恵:悔しさとやるせなさを、唇と共に噛みしめた。
    0:

    恵:え!?これを直哉さんに渡せ!?
    恵:いや、でも直哉さんは……。

    遥香:これなプレゼント、しっかり渡してな。

    恵:プレゼントて、直哉さんにか!?
    恵:直哉さんのこともう嫌いじゃないんか?

    遥香:え、ウチ、ナオ好きやで。

    恵:あんなことされたのにか!?

    遥香:怖かったけど、でも好きやねん。
    遥香:姉ちゃんのことめっちゃ大事にしてくれるナオがな、大好きやねん。

    恵:遥香……。

    遥香:もし姉ちゃんが消えてもな、きっと幸せやねん。
    遥香:そんでそれは絶対ナオのおかげやねん。
    遥香:だから何がどうなってもな、ナオは姉ちゃんの大切な家族やねん。

    恵:遥香、亜希のこと実はわかって……。

    遥香:なあ~メグ~、こっちきて。

    恵:え?

    遥香:ひそひそ話(ばなし)すんで、よく聞いてな!

    恵:お、おお……。

    遥香:(恵の耳元で)遥香の大事な人はメグがええ。

    恵:!?

    遥香:ウチは、メグのこと、愛してる。
    遥香:ん~?これ言い方当ってる?

    恵:ッ!(遥香を抱きしめる)当ってる!遥香愛しとる!ホンマにホンマにや……。
    恵:……でもなんで俺なん?

    遥香:メグならな、ウチのこと世界一幸せにしてくれるってなんかわかってん!

    恵:おま……実は結構魔性やな……。

    遥香:ましょう……?
    遥香:あ!結婚し〝ましょう〟ってこと!?

    恵:ッ!?アホ!
    0:

    :(数日後)

    直哉:……ん…俺、死ねなかったのか……。
    直哉:はは、最低、本当に最低だな……。
    直哉:(机の上に包みを見つける)
    直哉:ん?この包みは……?「遥香より」
    直哉:……恵(めぐむ)くんの字っぽいな……中は……。
    直哉:(包みを開く、中には額縁に入った一枚の絵)
    直哉:!
    直哉:これ……俺と、亜希の、絵……?
    直哉:遥香じゃない、間違いない、亜希だ……。
    直哉:俺と亜希が、笑ってる……。
    直哉:(涙が溢れ)ウッ……うっうっ……!
    直哉:遥香、恵くんごめん、ごめんな……。
    直哉:……ありがとう……。
    0:

    遥香:ウチ、好きなものしか描かへんねん!
     : 
    恵:(N)一陣の風が画用紙の束をさらい、一人の男を描(えが)いた似顔絵が青い空へと舞い上がっていった。

    :fin.

    #創作大賞2026 #恋愛小説部門

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