
【ファンタジッククロニクル 〜約束の子守唄〜】
【ファンタジッククロニクル 〜約束の子守唄〜】
カイル♂:ヨークランド帝国、アクス小隊隊長。
真面目で優しく面倒見が良い苦労人。
戦闘力としてはかなりの猛者。
ハーク︎︎♀:アクス小隊所属、氷魔法使いの少女。
気が強く、口も悪いが、ひめた思いやりを持つ。
魔道士としてはまだまだ未熟な面が目立つ。
アーサリン︎︎♀:アクス小隊所属、大斧使いの少女。
気が弱く、内気だが、しっかりと根性と勇気を見せる場面もある。
腕力は強いが、技を繰り出すことができない。
レキ(不問):アクス小隊所属、炎魔法使いの少年。
おちゃらけた態度のムードメーカー。
しかし、その魔力は強力で、故に本人も制御することが難しい。
リリアーナ︎︎♀:亡国、フェルナント王国の姫。
厚かましさと繊細さ両方を兼ね備えた少女。
甘えん坊でちゃっかり者。
強い男性が好き。
ダムス♂:リリアーナを探して、ヨークランド帝国内で盗賊行為を行ってきた。
元々はフェルナント王国騎士団長。
かなりの技を持つ剣士。
ルブラン♂:かつてカイルに剣術指南をしていた。
カイルと同じく、面倒見が良い。おおらかな人物。
--------------
ダムス:返せ!返してくれ!
ダムス:私の!私の娘をォ!
ダムス:(M)あの日、私と子は別たれた。
ダムス:王によって、騎士団長であった私の子は、王の娘、この国の姫とされたのだ。
ダムス:(M)許せなかった。
ダムス:どれだけ尽くした国であろうと。
ダムス:私は身分を捨て、地を捨て、ただの世捨て人と成り果てた。
ダムス:(M)報いであろうか、かつて私のいた国には、戦争により滅びがおとずれた。
ダムス:今だ、今こそあの子に──。
0:
:(隣国、ヨークランド帝国、訓練場)
:(一つの少年小隊達が訓練をしている)
カイル:その丸太人形をよーく狙って。
カイル:魔法や技を当てて倒すんだ。
ハーク:ほんにゃらはんにゃら、ハンムラビ法典……ぶつくさぶつくさ……。
カイル:ハーク!詠唱長すぎ!
カイル:言ってる間にやられちゃうって!
ハーク:うるせー!今集中してんだよ……天の雷光よ、我が導き手に応じ……落ちろ!
:(空から稲光が落ちたかと思うと、ハークの真後ろに焦げ目を作る)
ハーク:どわ!
カイル:危ない!
ハーク:後ろ……だと!?
ハーク:うおっ、ポニーテールのテールが焦げた!
カイル:あーもう……。
カイル:君は雷魔法は向いてないから、氷魔法をしっかりマスターしよう。
ハーク:ちっ。
ハーク:しゃーねえなぁ……。
カイル:次!レキ!
レキ:はいよー!
レキ:レキさん決めちゃうよー!
レキ:いけー!ファイアストリーム!
:(炎の暴流が、周囲を焼き払う)
ハーク:ぎゃー!何すんだテメー!
アーサリン:ちょっとお!あっちも!あっちも燃えてるよ!
レキ:ありー?
カイル:ありー?じゃない!
カイル:ていうか、肝心の丸太人形には当たってないし……ってそれどころじゃなーい!
カイル:水!水ー!
:(やや、間が空いて、消化作業後)
カイル:最後はアーサリンだね、大丈夫、落ち着いてしっかり狙って!
アーサリン:はっはい!
アーサリン:そーれ!(丸太人形に向かって大斧を振り落とす)
:(丸太人形が、真っ二つになりその場に転がる)
カイル:おお〜。
ハーク:やるじゃん。
レキ:ドンピシャ!真っ二つ!
カイル:って、あれ?
カイル:今技出してた?
レキ:ん〜、出てなかったかも〜。
ハーク:それっ、ただの薪割りじゃねーか!
アーサリン:ぴえええ!
アーサリン:どうしたら技って出せるんですかあ!?
カイル:(頭を抑えて)ああ……。
カイル:俺は果たしてこの子達を、まともに導いていける日が来るんだろうか……。
カイル:はぁ……。
カイル:(手を叩いて)はい、集合ー。
カイル:本当にすごく心配しかない、心配しかないんだけど……。
カイル:軍本部から、俺たちに司令が来てる。
ハーク:あん?司令?
カイル:そう、この間滅んでしまった隣国のフェルナント王国。
カイル:そこの姫様を約定により、中立独立国家、ルーデンス島に向かう港まで護衛するのが、今回の任務だ。
レキ:ほえー、お姫様!
アーサリン:えっえっ、ちょっと待って。
アーサリン:そんなの私たちには荷が重いんじゃ……。
カイル:俺もそう思うんだけどね……大抵の兵士たちが中央大陸の戦争に召兵中。
カイル:そういうわけで俺たちのような少年小隊にも、お役が回ってきたというわけだね。
ハーク:戦争ねえ……。
ハーク:(ぽそりと)駆り出された奴らはいつ戻ってこれるんだろうな……。
アーサリン:……。
レキ:……。
カイル:暗いことを考えるのはやめよう!
カイル:幸いなことに、目的地の港はそこまで遠くない。
カイル:あくまで自国内での護衛だし、心配するほどのこともないさ!
ハーク:んだよ、それを早く言えよ。
アーサリン:はあー良かったあ、簡単そうな任務で……。
カイル:こらこら、だからって気を抜きすぎちゃダメだよ!
カイル:近頃、近郊に盗賊が出るなんて噂もあるんだから!
アーサリン:ひえっ!ととと、盗賊!?
レキ:だいじょうびー!
レキ:レキさんがいれば、盗賊ぐらいドーンと一発でやっつけちゃうもんねー!
カイル:君は周囲を丸ごと焼き尽くさないようにね……。
カイル:まあ、俺も野良のゴロツキにやられるほどヤワではない。
カイル:みんなを守れるぐらいの力はあるさ!
レキ:さっすが隊長!頼りになるー!
ハーク:まあ、俺たちは隊長が活躍するのを高みの見物といこうぜ。
レキ:おー!
カイル:どの立場から!?
カイル:あのねえ……君たちも実際の任務を通して、ゆくゆくは立派な兵士にだね……
ハーク:おーおー、わかったわかった。
レキ:はあー、レキさん耳タコ〜。
カイル:ちょっと、ちゃんと聞いてよー!
:(後日、ヨークランド帝国郊外の街にて)
:(宿屋から護衛を連れ、リリアーナが現れる)
リリアーナ:お初にお目にかかります。
リリアーナ:わたくしリリアーナ・ド・エーデルシュタインですわ。
リリアーナ:それでルブラン、この方々は?
ルブラン:この先の護衛をお任せする。
ルブラン:ヨークランド帝国、第二百八小隊。
ルブラン:アクス小隊の面々でございます。
リリアーナ:まあ!
リリアーナ:本気で言っているの?
リリアーナ:ほとんど子供じゃない、彼らに私の護衛を務めさせるというの?
ハーク:あん?子供で悪かったなあ……。
アーサリン:ハーク!しっ!
リリアーナ:わたくしはルブラン、この先も貴方の小隊にお任せしたいわ。
ルブラン:リリアーナ姫、申し訳ありませんが……。
ルブラン:私共の小隊にも中央大陸からの召集状が……。
ルブラン:それに、そちらの小隊の隊長、カイルはかなりの強者なのですよ。
カイル:ルブラン殿!
ルブラン:ああ、カイル。
ルブラン:久方ぶりだな。
カイル:次に会えるとすれば戦場かあの世でかと思っていましたが……このような場所で再会できるとは、なんという僥倖(ぎょうこう)!
レキ:なになにー?たいちょーの知り合い?
ルブラン:ああ、そうだ。
ルブラン:私も嬉しいよ、愛弟子に会うことがまたできて。
アーサリン:隊長の、先生!?
レキ:ほえー。ツワモノの匂い〜!
リリアーナ:で、そのカイル様はどれほどのお手前なの?
リリアーナ:ルブランより頼りにならないなら、私は嫌よ。
ルブラン:(にっと笑い)カイル、見せてやれよ。
カイル:えっ、見せろと言われても……。
ルブラン:リリアーナ姫、あそこに大岩があるでしょう。
リリアーナ:え?ええ。
ルブラン:彼がそれを割ってみせます!
ルブラン:しかも真っ二つに。
リリアーナ:そこのいかにもひ弱そうな優男に、屈強なルブラン以上の力があると言うの?
ハーク:へっ、言われてやんの〜。
カイル:ちょっちょっ!
カイル:ルブラン殿!俺はあまり技をひけらかすようなマネは……。
リリアーナ:ほら、やっぱり自信がないのだわ!
リリアーナ:ルブラン、やっぱりあなたが同行しなさい。
ルブラン:(カイルに小声で)頼むカイル、下手に気にいられてしまってな……。
ルブラン:それに、姫様も心細いのだろう。
ルブラン:しっかり力を示して、姫様を安心させてやってくれ。
カイル:ううむ……そういうことなら、わかりました。
カイル:姫様!どうぞご覧ください!
アーサリン:隊長〜!がんばれー!
レキ:いけいけ、やったれ〜!
:(カイルが大剣を振り上げる)
カイル:ぜあッ!はぁ!
:(カイルが大剣を振り回すと、岩に稲光のような亀裂が走り、次の瞬間には四つに割れた大岩が転がる)
リリアーナ:(唖然と)岩が、四つに……。
ルブラン:なんと……はは、ははは!
ルブラン:すごいなカイル!
ルブラン:士官学校を卒業した時より、格段に技が研鑽(けんさん)されている……!
カイル:あ、いや、ははは……。
ハーク:ふんっ。まあ、こんなもんだな。
カイル:なんで君がそんなに偉そうなの!?
リリアーナ:カイル様!
リリアーナ:(いきなりカイルに走り寄り)
カイル:ははは、はい!?
カイル:リリアーナ姫、どういたしましたか!?
リリアーナ:わたくしをぜひ守ってくださいませ!
リリアーナ:き・し・さ・ま♡
ハーク:あーあ、すっかり見る目が変わったっつーか……。
アーサリン:なんか……。
レキ:目にハートが浮かんでるぅ。
ハーク:ちょろ……。
ルブラン:ゴホンッ。
ルブラン:では、私達の任務はここまでだな。
ルブラン:後は任せる、アクス小隊の諸君。
ルブラン:必ずや任務を全うするように。
カイル:はっ!
カイル:全軍敬礼!
ハーク:(敬礼して)はっ!
アーサリン:(ハーク達と共に敬礼して)はっ!
レキ:(ハーク達と共に敬礼して)はっ!
カイル:ルブラン殿、中央大陸に行っても必ず生きて帰ってください!
カイル:そして、またお会いしましょう!
ルブラン:ああ、もちろん!
ルブラン:それにしても……(小声で)イケメンはいいよなあ、お前は昔からモテたもんな。
カイル:なっ!?へ?そのようなことはなかったと思いますが……。
ルブラン:(やれやれと)罪な男だよお前は。
ルブラン:さあ、行ってこい。
ルブラン:(胸に腕を掲げ)我らヨークランド帝国の名のもとに!
カイル:(胸に腕を掲げ)ヨークランド帝国の名のもとに!
ルブラン:(少し離れてから)カイル!次は平和な世の元でゆっくりと語り合おうぞ!
カイル:……!
カイル:ええ!
カイル:(つぶやくように)ルブラン殿、彼らに神の加護あれ……。
リリアーナ:カイル様ぁ!
カイル:はっ、はい!?
カイル:リリアーナ姫どういたしましたか?
リリアーナ:リリアと呼んでくださいませ!
リリアーナ:さあカイル様、抱擁(ほうよう)を!
カイル:えっ、な、何故でしょう……?
リリアーナ:フェルナント王国では、それが挨拶なのです!
ハーク:ぜってー嘘だ。
レキ:ていうか、レキさんたちアウトオブ眼中?
ハーク:おもしろくねー。
リリアーナ:あと親しい方には、キスも!
リリアーナ:これも挨拶なのです!
カイル:ひぇっ!
カイル:やっ、ちょっ、まっ。
カイル:うわあああ!
アーサリン:ちょーっと待ったあ!
リリアーナ:なっ、なんですの?小娘?
アーサリン:アーサリンです!
アーサリン:というか、あなたも小娘じゃないですか!
リリアーナ:なんですってえ!?
ハーク:あーこりゃあ……。
レキ:内なるジェラシーに火をつけましたなあ。
アーサリン:子供は隊長には似つかわしくありません!
アーサリン:(小声で)私だって、大人になるまで我慢してるのに……。
リリアーナ:あなたみたいな芋臭い田舎娘に、私とカイル様との関係に、ケチをつけられたくありませんわ!
アーサリン:芋臭い田舎娘ぇ!?
アーサリン:そっ!そっちだってえ〜!
アーサリン:ぽっと出!世間知らずのお姫様!高飛車!陰険!ばか!あほ!マヌケー!
ハーク:ガキかよ……。
レキ:ガキの世界代表ですな〜。
カイル:みんな仲良く!
カイル:短い旅ですから、仲良く行きましょ!
カイル:ね!?
リリアーナ:はぁい!
リリアーナ:とーっても仲良く行きましょうね!
リリアーナ:カイル様ぁ♡
:(数時間後、小隊とリリアーナを乗せた馬車が林道を進んでいる)
リリアーナ:(鼻歌を歌っている)〜♪
カイル:リリアーナ姫、それは故郷の歌ですか?
リリアーナ:うーん、そうなのかしら?
リリアーナ:何故か耳に残っている歌なんです。
リリアーナ:眠くなるとつい口ずさんでしまって、お恥ずかしいわ。
カイル:俺も確かな記憶ではないけど、なんとなく覚えていることがあります。
カイル:俺を寝かす時の誰かの手の温もり。
カイル:それが、母か父のものだったのか……誰のものだったのか……。
リリアーナ:カイル様……ご両親が……。
カイル:この小隊にいる者はみな孤児だったのですよ。
カイル:元々一人ぼっちだった子、戦争で両親を失った子、一族の地が戦地になり追いやられ、故郷から預けられてきた子。
カイル:そんな子達に居場所を与えたくて、そして、俺自身の居場所が欲しくて……俺はこの小隊を立ち上げたのです。
カイル:出身も生い立ちもみな違うが、それでも俺は、皆を家族だと、そう思って接しています。
リリアーナ:カイル様……。
カイル:ですが、リリアーナ姫。
カイル:あなたも大変お辛い目にあわれていますよね。
リリアーナ:!
カイル:いきなり父上や母上を失い、異国の地へ……。
カイル:俺達には悟りきれない苦しみがあるでしょう?
カイル:ずっと気丈に振る舞われていたのが、伝わってきて……少し不憫に感じてしまうのです。
カイル:あ!一兵士の身分で出過ぎたことを言ってしまい、誠に申し訳ありません!
リリアーナ:いえ。
リリアーナ:いいえ……。
リリアーナ:(次第に涙が溢れ)うっ、ぐすっぐすっ……。
リリアーナ:わたくし、お父様もお母様もいなくなって……知らない島で一生暮らしていかなければならないなんて……本当にどうしたらいいのか……。
リリアーナ:冷徹で、でもわたくしだけには甘くて、そんなどこまでも人間らしい、お父様達を愛していましたのッ!
カイル:リリアーナ姫……。
ハーク:じゃあよ、この戦争とっとと終わらせて、身分も国境も何もかもを無くしてやるよ。
リリアーナ:え?
ハーク:俺が最強になったらな!
レキ:なは!いつの話だよ〜!
アーサリン:あ、あの……さっきは悪口言って……ごめんなさい。
アーサリン:でも私達、ホントに戦争を終わらせられるぐらい強くなりたい!
アーサリン:その気持ちは誰にも負けませんから!
カイル:さ、暗い話終わり!
カイル:ふふ、島から出られるのもそんなに遠くない話かもしれませんよ?
カイル:なにせ、ここにはこれだけの希望の光がありますから。
リリアーナ:皆様……ありがとうございます。
リリアーナ:わたくし……(いきなり馬車が大きく揺れ)きゃあ!
カイル:なんだ!?
:(馬車を引いていた馬と御者に矢が刺さり倒れている)
カイル:族か!?
ダムス:やっと、見つけた……。
ハーク:まさか、噂されていた盗賊か!?
ダムス:あんな、しょぼくれた積荷に興味はない。
ダムス:だがようやく当たりを引いたようだ……。
カイル:なっ、どういう意味だ。
ダムス:娘を返してもらおう。
:(ダムス、リリアーナに向かって高速で接近する)
:(しかし、カイルがそこに立ちはだかる)
:(ダムスの剣とカイルの大剣がぶつかり合う)
カイル:ふっ!
ダムス:邪魔をするな。
カイル:ッ。
カイル:アクス小隊!応戦準備!
ハーク:ああ!
アーサリン:(ハーク達と被せて)はいッ!
レキ:(ハーク達と被せて)りょーかい!
ダムス:貴様らを皆殺しにして奪ってもいいのだぞ?
ダムス:死にたくなければ、姫を置いていけ。
カイル: あいにく、姫様をみすみす族に奪われるような腰抜けではないんでね……。
ダムス:私を族と呼ぶな、言っただろう私は娘を取り返しに来ただけだ。
リリアーナ:何を言っていますの?
リリアーナ:私のお父様とお母様は、あなたではないわ!
ダムス:ああ、リリア……ようやく会えたな。
リリアーナ:私をそんな風に呼ばないで!
リリアーナ:一体あなたは誰ですの?
ダムス:真の父親だ。
ダムス:十五年間、待っていたんだこの時を……さあリリア、もっと近くに……。
カイル:ソニックスラッシュ!
:(カイルの大剣から斬撃波が生まれ、ダムスを後方に下げる)
ダムス:家族の再会を邪魔するとは……無粋な男だ。
リリアーナ:だから何を言ってますの!
リリアーナ:わたくしはあなたなんて知りませんわ!
ダムス:首にかけている指輪を見てみろ。
:(リリアーナが指輪を見る)
:(ダムス、同じ指輪を掲げる)
リリアーナ:同じ指輪!?これは!?
ダムス:フェルナント王立騎士団。
ダムス:フェニックスの紋様が刻まれているだろう。
ダムス:それが、騎士団長の家系の証だ。
リリアーナ:そんなはずないわ!
リリアーナ:私は王家の娘で──
ダムス:それが違うんだよ、リリア。
ダムス:王達は子宝に恵まれず、だから私から娘を奪った。
リリアーナ:そんな……そんな!
カイル:だとしても!
カイル:リリアーナ姫にとっての家族は、王と妃様だ!
カイル:記憶も思い出もない貴様ではない!
ダムス:……ははっ、ははははは!
ダムス:リリアにとってはそうかもしれないな……だがしかし、私にとってはリリアだけが家族なんだ!
ダムス:だから……邪魔をするなあァァ!
:(咆哮と共にダムスを黒煙が包み、斬撃波がカイル目掛けて飛んでいく)
カイル:(攻撃を武器で受け)ぐうっ!?
リリアーナ:カイル様!
カイル:なんて力だ……一撃が、重い!
カイル:だがしかし、この技なら!
カイル:(ダムスに高速で急接近し切りつける)ストライクブレイク!
ダムス:ガッ!
リリアーナ:すごい……速いわ!
リリアーナ:まるで見えなかった!
リリアーナ:さすがカイルさ、ま……?
:(ダムスを包む黒煙が一層濃くなると、傷が塞がっていく)
アーサリン:な!傷が……塞がって……。
ダムス:なるほど、大したものだ。
ダムス:死んでいたぞ、普通の人間ならな!
ダムス:はあ!(カイルに向かって斬撃波を放つ)
カイル:(斬撃波を武器で受け止め)ッぐ!
カイル:どうなっている……?
カイル:(膝がガクッと崩れ吐血する)カハッ!な、に?
アーサリン:隊長!?
ダムス:我が怒りの黒炎は、リリアと私を阻む全てを滅するまで消えんよ……。
ハーク:怨嗟の呪いか!?
ハーク:コイツやべえぞ!
ダムス:二つのフェニックスの指輪、これらが揃えば願いを叶えられると言われている。
ダムス:その力で、私はリリアを取り戻す!
ハーク:おいおいそういうのは、もっと平和なことに使おうぜ……。
ダムス:次は貴様の番だと言うのに、軽口を叩く余裕があるのか?ガキ。
ハーク:はっ、死ぬのはごめんだな。
ダムス:なに、お前ごときならすぐ楽になるさ。
ダムス:はああ!
:(ダムスが再び斬撃波を、今度はハークに向かって飛ばす)
ハーク:レキ!
レキ:あいよん!
レキ:ファイアウォール!
:(斬撃波はレキによって作られた分厚い炎の壁によって防がれる)
ダムス:ほお?少しはやれるガキもいるじゃないか。
レキ:そーなんだよね〜。
レキ:レキさんはやればできる子!
レキ:ん〜てことで!
:(アーサリンがカイルを担ぎ)
:(その場から逃走する一同)
レキ:ばいちゃー!
ダムス:あ?
リリアーナ:(走りながら)どうしますの!?
リリアーナ:ああ、カイル様!カイル様!
カイル:大丈夫……だ。
カイル:俺に任せて、みんなは姫様を連れて逃げるんだ……。
ハーク:(走りながら)は。一番の愚策だな。
アーサリン:(走りながら)そーです隊長!
アーサリン:自己犠牲なんて許しませんから!
レキ:で?結局どうするー?
ダムス:逃げられると思っているのか?
アーサリン:ひっ!速い!
レキ:ファイアストリーム!
:(炎の奔流がダムスに向かって放出される)
アーサリン:やった!
ハーク:いや、まだだ!
ダムス:この程度、なんてことはない!
ハーク:アイツ、レキの攻撃を耐えやがった!
ダムス:まずは貴様を仕留める!
ダムス:ガキ共はその後ゆっくりと始末してやる!
ダムス:はああ、死ね!
:(再びダムスがカイルに向かって斬撃を放つ)
アーサリン:!
アーサリン:隊長、落とします!
アーサリン:ごめんなさい!
:(カイルを担いでいたアーサリンがカイルを地面に落とす)
:(そして振り返ると同時に、斬撃を受け止める)
カイル:ぐはっ!
アーサリン:くううう!
アーサリン:コハッ!
:(アーサリンの口からボタボタと血が落ちる)
ダムス:どけ!小娘ぇ!
アーサリン:い、や、だああああ!
:(アーサリンが斧を押し出しダムスを力で下がらせる)
アーサリン:はあっはあっはあっ……。
リリアーナ:あ、あなた……。
アーサリン:(カイルとリリアーナに向かって)大丈夫です……隊長と姫様には指一本触れさせませんから!
カイル:アーサリン……。
カイル:クソッ!俺はなんて情けないんだ……!
ダムス:何度でも打ち込んでやるぞ!
ダムス:貴様が息絶えるまで!
アーサリン:全部!受け止める!
ダムス:いつまで続くかな、はああ!
:(再びダムスが斬撃をアーサリンに叩き込む)
:(それを受けるアーサリン)
アーサリン:ぐう!う!あああ!
レキ:ハーク!今のうちに詠しょ……(なにが思いついたように)はっ!
レキ:ハーク"いつもの技"いける?
ハーク:あ!?
ハーク:あんなもん使ってどうすんだ!
レキ:そうしたら、(耳打ちして)ごにょごにょごにょ……。
ハーク:はあ!?
ハーク:一か八かじゃねえか!
レキ:一でも八でも何にでもすがらなきゃ!
レキ:みんな死んじまうんだよ!
アーサリン:(技を受け止めながら)う!ぐふぅ!ああ!
ハーク:ああ、ちくしょう!
ハーク:(詠唱する)我が身に宿る、氷結の力よ、今その力を解放しろ!
レキ:ファイアストリーム!
:(レキから炎の奔流が放出され、ダムスがそれを真っ向から受ける)
ダムス:ふっ。
ダムス:その技は効かぬとなぜわからない?
レキ:ファイアストリーム!フレイムウェーブ!フレイムガイザー!
ダムス:頭の悪いガキだ、その程度の攻撃が通用するとでも思っているのか?
ハーク:はああ……礫(つぶて)を成せ……我が導き手に応じ、放て!
:(ハークの手から、氷の塊が放たれ、レキの炎の隙間を縫い、ダムスの頭に命中する)
:(ダムスのこめかみから一筋の血が垂れる)
ダムス:ッ!
ダムス:(怒りからわなわなと身体を震わせ)くだらん目くらましから、やっと食らわせた技がこの程度か?
ダムス:貴様ら……こんな、こんな技で私を出し抜いたつもりなのか?
ダムス:私をおちょくるのもいい加減にしろ!
ダムス:もういい!貴様らから殺してやる!
ダムス:おおおお!
:(ダムスがハークに急接近する)
レキ:ハーク!
:(ハーク、ダムスの一撃を読んでいたかのようにかわすが、避けきれない)
ハーク:ぐ!
ダムス:ははは……一人捉えたぞ。
ハーク:(ダムスの剣を握り)はっ、捉えられたのは自分だって気づかねえのかよ……。
:(握った剣の先からどんどん凍っていく)
ダムス:なっ!?手が凍って!?
カイル:ハークが凍っていく!?
リリアーナ:どんどん氷像のようになっていきますわ!?
ダムス:ぐっ!動かん!
レキ:ありがとうハーク、ようやく全力が出せるよ──魔力全開放!焼き尽くせ!ヘルファイアぁああ!
カイル:なっ!?
カイル:ハークごと!?
カイル:やめろレキ!ハークが!
:(レキが放った炎の波がダムスとハークを飲み込む)
ダムス:ぐあああああ!
ダムス:リリア!リリアぁああ!
:(辺りを硝煙が包み込む)
リリアーナ:ゲホゲホッ!ゴホッゴホッ!
リリアーナ:どう、なりましたの……?
ハーク:ぐ、うあ……。
リリアーナ:はっ!
リリアーナ:生きて、生きてる!
レキ:ハーク!大丈夫か!?
ハーク:へっ、おまえに言われた通り、体を氷の中に閉じ込めてたから、何とか消し炭にならずに済んだぜ……。
レキ:切られた場所の方は!?
ハーク:ああ、死にゃしねえと思う。
ハーク:たぶんな。
ハーク:それよりアイツは?
アーサリン:(地に伏せ)ゲホゲホッ、カハッ……。
ハーク:アイツの方が死に体(てい)じゃねえか!
カイル:(何とか立ち上がり)みんなよく頑張った……ごめんね不甲斐ない隊長で。
カイル:魔法薬を積んであるから、とりあえずそれで……
:(ゆらりと焦げた影が立ち上がる)
ダムス:ああ、あああああ!
ダムス:殺す、殺してやる……!
ハーク:え?
ダムス:(ハークに迫り)はああ!
カイル:ぜあっ!(飛び上がりダムスを切り捨てる)
ダムス:ぐがああ!
カイル:もうこれ以上、うちの隊員達を傷つけさせない……。
:(一息の間)
レキ:あーたいちょー、ずっこーい!
レキ:最後だけかっこよくキメちゃってさー!
ハーク:はっ。おまえこそ……一人だけ無傷で大技決めたくせして……調子、こくなよな……。
カイル:アーサリン!アーサリン!
カイル:大丈夫……て、え?
アーサリン:うっ、うーん……。
アーサリン:あれっ?
アーサリン:身体がなんか平気に?
:(誰かが鼻歌を歌う音が聞こえる)
:(纏っていた黒煙がすっかり消え去ったダムスが倒れている)
ダムス:(絶え絶えの息で鼻歌を歌い)〜♪
ダムス:ガハッ……。
ダムス:リリア、この歌を聞くとよく眠ったなあ……。
ダムス:……ゴフッ!
ダムス:リリア……リリアーナ……。
リリアーナ:あの歌!
リリアーナ:私の記憶の中の歌と同じだ……。
リリアーナ:(涙がこぼれ)ああ、本当のお父様……。
リリアーナ:ずっと私を想って。
リリアーナ:きっとその心は本物だったのですね……。
ダムス:リリア……お前を産んで、アンジュも死んだ……。
リリアーナ:!アンジュって……。
ダムス:おまえの母さんだよ……。
ダムス:私の願いはな……おまえに私たちとの記憶をほんの少しでいいから、思い出して欲しかった……。
リリアーナ:いつも私を抱いて、歌ってくれた子守唄……覚えてますわ……確かに私の中にあなたの存在はあった!
ダムス:そう、か……良かった、もう満足だ……。
ダムス:リリア、おまえに、さ、ちあれ……。
ダムス:(目を閉ざす)
リリアーナ:あっ!
リリアーナ:お、父様……?
リリアーナ:(涙を流し)くっ、うっうっ……。
カイル:リリアーナ姫……。
カイル:これで良かったんだろうか……。
カイル:一人ぼっちのリリアーナ姫から、本当の父まで奪ってしまった……。
ハーク:……隊長、始末書書く準備はできてるか?
カイル:え?
レキ:しっしっしー!
レキ:姫様ー!たいちょーがお父さんを起こしてやれってさ!
リリアーナ:えっ、それって?
ハーク:願いを叶える指輪なんだろ?
ハーク:アンタにそのおとぎ話を信じる心があれば、救えるんじゃねえか?
リリアーナ:えっでも!
アーサリン:いーから!
アーサリン:もう誰も、失いたくないんですよね?
リリアーナ:!(ダムスに走り寄る)
:(リリアーナが首にかけていた指輪を引きちぎり、ダムスの指輪と重ねる)
リリアーナ:お願い、神様!
リリアーナ:お父様を返してください!
:(しかし、ダムスは目を覚まさない)
カイル:やはりダメか……。
アーサリン:そんな……。
リリアーナ:嫌!嫌よ!
リリアーナ:お父様ぁ!
リリアーナ:わたくし、お父様との思い出を取り戻してしまったのよ!?
リリアーナ:今さら、またわたくしを置いていかないで!
リリアーナ:うっうううっ……。
:(一筋の涙が、リリアーナの頬をつたい、指輪を重ねた手に落ちる)
:(すると指輪がほのかな光を帯びたかと思うと、次の瞬間眩しい光を放ち出す)
カイル:あれは……指輪が光って!
:(光に呼応するようにダムスの心臓が動き出す)
:(ダムスが目を覚ます)
ダムス:リリアーナ……?
リリアーナ:はっ!お父様!お父様ぁ!(ダムスに抱きつく)
ダムス:リリア……。
ダムス:昔から……お前は甘えん坊だなあ。
ダムス:(リリアを抱きかえす)
リリアーナ:子煩悩なお父様たちに育てられてきたんですもの、当たり前ですわ。
カイル:リリアーナ姫……良かった。
ダムス:青年よ、すまなかった。
ハーク:あ?俺たちには何もなしか?
ダムス:侮っていた……見事だった。
ダムス:小さき戦士たちよ。
レキ:まあ、それほどでも〜……ある!
ハーク:あるのかよ、まったく謙遜ってものを知らねえ奴だぜ。
アーサリン:それで隊長、生き返らしちゃいましたけど……。
ダムス:ああ、連行するなり、投獄するなりどうとでもしてくれ。
ダムス:私はもう逆らわん。
リリアーナ:そんな!?それでは──
カイル:ああ、それだと処刑は免れないでしょうね……。
リリアーナ:嫌!嫌!
リリアーナ:せっかくお父様と再会できたのに、そんなことって!
カイル:リリアーナ姫……かくれんぼ、しませんか?
リリアーナ:は、はい?かくれんぼ?
カイル:島に着いたら、自由も効かなくなる、その前に思い出作りの一環として。
カイル:鬼はまずは俺から、百数える間に親子仲良く逃げるもよし、隠れて暮らすのもよし。
カイル:ご自由になさってください。
リリアーナ:!カイル様!
ダムス:……本当にいいのか?
カイル:さあ!始めますよ!
カイル:いーち、にーい……。
レキ:にっげろ〜!
アーサリン:わーい!うふふ!
ハーク:痛っでででで、こんなんで走れるかよ……。
レキ:ハークぅ、捕まっちゃうぞ〜!
レキ:(ハークの手を引き)ほれほれ〜!
ハーク:だっ、ばっ!レキ!
ハーク:痛てーって!
リリアーナ:(ダムスの手を握り)さあ行きましょう、お父様。
ダムス:リリア……。
ダムス:……ああ!
0:
N:この後、未熟な少年小隊に与えられた任務であったため、大きな処罰こそなかったが、
N:護衛していた姫を奪取されたとして、膨大な量の始末書に悩まされるカイルであった。
N:しかしながら、その心は晴れやかで、どこかで聞いた鼻歌を歌いながら、今日も紙の束と格闘している。
Fin.