#36「レモネードの夏」【松田聖子ちゃんグラフティ】
「小麦色のマーメイド」のカップリングとして収録された楽曲ですが、聖子ちゃんファンの間でも人気の高い一曲です。
作曲はユーミン、アレンジは松任谷正隆さん
「レモネードの夏」は、一見すると避暑地での爽やかな恋を描いたように聴こえます。ところが歌詞を読み解いていくと、実は「再会」や「決別」といった複雑なテーマを秘めていることが分かります。
冒頭のサビ──
冷えたレモネード 白いカフェーから
揺れる木洩れ陽を見たの
あとあなたに逢えれば もうひと足早い夏
ここを聴いた多くの人は、当然「彼に会えるのを心待ちにする少女のウキウキした気持ち」と受け取るでしょう。“頭サビ”がもたらす初々しさが、曲全体を甘酸っぱい恋の歌のように思わせます。
しかし物語が進むと、主人公の本当の思いが明かされます。
今は私も20才
自由に生きる事を憶えながら一人で生きてる
時が消した胸の痛み 忘れるのに一年かかったわ
逢いたいのは未練じゃなく
サヨナラって涼しく言うためよ
冒頭の「あとあなたに逢えれば」が、聞き手が想像した“恋のときめき”ではなく、“きちんとサヨナラを告げるための再会”だったということ。頭サビが描くウキウキ感と、後に明かされる本当の理由との落差が、この曲をただの恋愛ソングではなく、複雑で大人びた物語へと変えています。
さらに、
冷えたレモネード 薄いスライスを噛めば
せつなさが走る
あとあなたに逢えれば もうひと足早い夏
ここでの「レモネード」はもちろん隠喩。当時の甘酸っぱい恋の記憶を、冷たくて酸っぱい飲み物に重ね合わせています。
アルバム Pineapple に収録されている曲を思い返せば、避暑地での恋物語として描かれていても全く違和感はなかったはずです。むしろ「小麦色のマーメイド」との並びでも自然に収まったでしょう。
ただ、表題曲「小麦色のマーメイド」の主人公がリゾートでの恋の心中をただただ問う、少し背伸びした恋歌であることを踏まえると、そのカップリングに「レモネードの夏」という“決別をテーマにした変化球”を置いたのは実に巧みです。
歌詞の中に「20才」と明言されていることからも、冒頭の初々しいウキウキ感だけで最後まで押し切るのは無理がある、と松本さんは感じていたのでしょうか?そこで彼は、彼女の等身大の姿を反映させながらも、甘酸っぱさを残すストーリーへと調整したのだと思われます。
もちろん、聖子ちゃんならばたとえ等身大でなくとも、初々しい恋の歌詞を余裕で歌いきってしまったはずです。しかし松本さんは間近で彼女の変化を見ていただけに、あえて“等身大の彼女”を重ね合わせ、共感性を持たせる方向へと歌詞を仕立てたのではないかと思います。
いずれにしても、この時期の聖子ちゃんは、まさに少女と女性の間にいる特有の魅力を放っており、その輝きが「レモネードの夏」という楽曲にも鮮やかに刻まれています。
