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誰が想像しただろう

    前の車がゆっくりと、ゆっくりと左折する。
    なぜそんなにもゆっくりと左折するのかと思い、私はその車の前方に目をやった。

    歩行者もいなければ、車の混雑もない。

    見晴らしの良い広い駐車場に入ろうとしているだけなのにそこまでスピードを落とす理由が私には理解できなかった。

    私は早く先に進みたくて、少しイライラしながら前の車が左折するのを待った。

    ふと、ある日のことを思い出す。

    深夜の道路、私は信号が青に変わっても前に進むことができなかった。

    後ろの車は今の私と同じように、私がなぜ前に進まないのかを知ろうとしたはずだ。

    何か障害物があるのか、トラブルが起きたのか、信号に気づいていないのか"一体なんなんだ"とイライラしていたかもしれない。舌打ちだってしたかもしれない。

    最後にはアクセルをふかして私を追い越して行った。

    背後から伝わってくるイライラを感じ取りながら、それでも私は前に進むことができなかった。


    目の前の横断歩道を、亀が渡っていたのだ


    恐らく誰の視点からもその亀を捉えることができない、私だけがその存在を認識している。

    おかげでこちらはイカれ野郎だ。そのうち中指を立てられる。

    なぜ猫や犬やせめてうさぎじゃなくて亀なのか。もう少し足の速い生き物はいなかったのか。(そもそもなぜお前はここにいる)

    私がここでイカれ野郎として停車しているあいだ、後続車でこんな想像をしてくれた人は一人もいなかっただろう。

    「この車はどうして前に進まないんだろう、ああ、きっと亀が横断歩道を渡っているんだ」


    クラクションを鳴らしたって無駄だ、私は進めない。

    亀がいるのだから。

    追い越しながら私の顔を確認したって、「進まなきゃ」なんて選択肢はない。

    亀がいるのだから。

    私がここに停車している限り亀は安全だ。

    私は迷惑な人であり亀を守る人でもあった。でも真実は誰も知らないし、気付いてはくれない。世間から見ればただの迷惑なイカれ野郎でしかないのだ。

    人生はいつもそうだ。みんな分かったような顔をして何も分かっちゃいない。

    もし私が亀を守っていると知れば、誰かの舌打ちが拍手に変わったかもしれない。私は迷惑なイカれ野郎から、英雄に昇格したかもしれない。

    でも今ここで私が亀を守っていることを後続車に知らせる方法はない。

    もしかしたら君も同じ状況なのか...
    私はあまりにも左折の遅い前の車を待ちながらそんな風に思うようになっていた。

    人の経験が大事なのは他人への理解の幅が広がることに繋がるからだ。

    あの日、消防署のスタッフにお願いして亀は川に返してもらった。

    いつか恩返しや玉手箱をもらえる日がくるかもしれないなんて、私はそんな見返りなど求めるような人間ではない。

    #創作大賞2026 #エッセイ部門

     
     

    HARU

     
     
    【シングルマザーのタトゥーアーティスト】 看護学生から彫り師に転身した ちょっぴり奇妙な人生から見える景色

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