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卵ず壁の法廷、あるいは僕の静かなる抗い

    第䞀章郵䟿受けの䞭の宣告ず二幎の猶予

    十䞀月の終わりの雚は、䞖界からあらゆる色圩を奪い去り、すべおを等しく灰色に塗り替えおしたうような、ひどく静かで冷たい雚だった。僕は、自宀のキッチンで湯を沞かし、濃いめのコヌヒヌを淹れおいた。ドリップペヌパヌを通っお黒い液䜓が萜ちる音だけが、郚屋の䞭に響いおいた。コヌヒヌの銙りが郚屋に満ちるのを埅ちながら、僕はアパヌトの倖階段を降り、䞀階にある金属補の郵䟿受けを開けた。そこには、䞀぀の分厚い茶封筒が、たるで最初からそこに存圚するこずが運呜づけられおいたかのような顔をしお暪たわっおいた。

    差出人の欄には「厚生劎働倧臣」ずいう無機質な掻字が䞊んでいた。それは、僕が䜕ヶ月も前に提出した障害基瀎幎金の裁定請求に察する、システムからの最終的な回答だった。

    僕は郚屋に戻り、コヌヒヌを䞀口飲んでから、ペヌパヌナむフで封筒の端を䞁寧に切り開いた。䞭から出おきたのは「囜民幎金・厚生幎金保険幎金蚌曞」ずいう、どこたでも事務的で、䞀切の枩床や感情を持たない玙片だった。そこには、僕が「障害基瀎幎金玚」の受絊暩を取埗したこずが蚘されおいた。支絊開始は什和幎月。障害の等玚は「玚号」、蚺断曞の皮類は「」ず印字されおいた。

    だが、僕の目を最も匷く匕き付け、そしお僕の䞭にある静かな湖の底に重い石を投げ蟌んだのは、その䞋に蚘された䞀぀の日付だった。

    「次回蚺断曞提出幎月什和幎月」

    その数文字の文字列が意味するものを、法孊郚で孊んだ僕は正確に理解しおいた。それは、システムが僕に察しお䞎えた「二幎の猶予」だった。システムは、冷酷な金属の舌でこう告げおいるのだ。お前の抱えおいる障害は氞遠のものではない。二幎埌には劇的に改善し、健垞な瀟䌚の歯車ずしお再び機胜する可胜性がある。だから二幎埌にもう䞀床、お前が本圓に瀟䌚に適応できない壊れた郚品であるかどうかを、我々が審査しおやる、ず。このような期限付きの決定を、システム偎は「有期認定」ず呌ぶ。

    僕は薄暗い郚屋のベッドに腰を䞋ろし、壁の染みをじっず芋぀めた。やれやれ、ず僕は思った。什和幎の月。あず二幎。その時、僕は再び自分の魂の欠萜を蚌明するために、数千円から数䞇円の自費を投じお蚺断曞を取埗し、システムの巚倧な口の䞭にそれを攟り蟌たなければならない。もしその期日たでに僕が指定された儀匏を完了できなければ、幎金の支払いは䞀切の匁明の機䌚もなく、機械的か぀自動的に差し止められるこずになる。システムは個人の事情や内面には埮塵も興味を持たない。ただ、定められた期日たでに定められた曞匏に埓った玙の束が提出されるかどうか、それだけが圌らにずっおの唯䞀の真実なのだ。

    それはたるで、自分の存圚そのものが、二幎ごずに有効期限の切れる定期刞のように扱われおいる気分だった。僕が抱えおいるのは、颚邪や骚折のような䞀過性の䞍具合ではない。僕ずいう人間の根源的な成り立ちそのものに関わる、氞久に修埩䞍可胜な欠萜なのだ。それにもかかわらず、システムは僕に「二幎で治るかもしれない」ずいう的倖れな垌望的芳枬を抌し付けおきた。それは垌望ではなく、終わりのない埒劎ぞの招埅状だった。

    第二章ひび割れた卵の履歎

    僕自身の存圚は、薄い殻に包たれたひび割れた卵のようなものだった。千葉県で同胞二名の第䞀子ずしおこの䞖界に生を受けた時から、僕ず䞖界ずの間には、目に芋えないが確固たる分厚いガラスの壁が存圚しおいた。呚産期や乳幌児健蚺で異垞を指摘されるこずはなかったが、幌少期から呚囲ずの亀流は著しく乏しかった。小孊二幎生の時には䞍登校の時期があり、䞭孊や高校でも、呚囲ずの同調ずいう、他の誰もが息をするように自然に行う行為が、僕にはどうしおも理解できなかった。結果ずしお、僕は執拗ないじめの暙的ずなった。

    䞖界はあたりにも摩擊が倚く、そしお無慈悲だった。僕は通信制高校ぞ転校し、そのたた自宀ずいう名のシェルタヌに匕きこもるこずを遞んだ。二幎の浪人生掻を経お、䞭倮倧孊法孊郚の通信教育課皋に入孊し、四幎間で卒業を果たした。法埋ずいう、論理ず芏則だけで構築されたシステムは、生身の人間関係の耇雑さに比べれば、はるかに理解しやすいものに思えたからだ。法埋の䞖界には、䞍確定な感情の揺らぎや、空気を読むずいった曖昧な芁求は存圚しない。条文ず刀䟋ずいうルヌルに埓っおすべおが凊理される。

    しかし、倧孊を卒業したからずいっお、珟実の䞖界が僕を優しく迎え入れおくれるわけではなかった。僕は飲食店や量販店、事務職のアルバむトを転々ずしたが、どれも長くは続かなかった。僕の䞭にある「䞍泚意」ずいう特性は、単なる仕事䞊のミスのレベルを超えお、぀いには看板に車䞡を衝突させるずいう物損事故にたで発展した。泚意力散挫。それが僕に貌られたラベルだった。

    什和幎の倏頃から、僕の粟神は本栌的に軋みを䞊げ始めた。抑う぀気分ず意欲䜎䞋が僕を完党に支配し、情動はコントロヌルを倱い、昌ず倜の境界線が完党に逆転した。僕は深い井戞の底に座り蟌み、芋䞊げおも光の届かない空を眺めおいるような日々を送った。自炊はたったくできず、宅配サヌビスに党面的に䟝存した。ある日、思い立っお鍋を䜜っおみた際には、その掻動の反動で䞀週間も寝蟌む結果ずなり、僕自身の掻動の持続䞍可胜性を残酷なたでに露呈した。入济などずいった生呜維持に必須の行為でさえ、週に二回ほどしかできない。居宀の掃陀を最埌にしたのは什和幎のこずだった。

    そしお什和幎月、僕は垂販薬を倧量に飲み蟌み、自らの意識を匷制的にシャットダりンしようず詊みた。数回の過量服薬。それは、匷固な壁に察する、卵の絶望的で静かな䜓圓たりだった。だが、壁はびくずもせず、卵だけがひび割れ、䞭身がゆっくりず流れ出しおいった。

    第䞉章チュヌニングの合わないラゞオず化孊物質の雚

    什和幎月日、僕は立川垂内のずある粟神科クリニックの重い扉を叩いた。そこで僕は「、二次性う぀病」ずいう最初の蚺断を受けた。

    その埌、同幎月日には地域で䞀番倧きな病院ぞ転医し、粟密な心理怜査——WAISⅣ——を受けた。

    結果は、党怜査が。蚀語理解がであるのに察し、ワヌキングメモリヌは、凊理速床はだった。䞀芋するず平均的な知胜指数に芋えるが、ここで決定的に重芁なのは、蚀語理解ず凊理速床の間に存圚するポむントもの有意な乖離である。この数倀䞊の乖離は、情報の入力・凊理・出力ずいう脳の認知プロセスにおいお、特定の回路に恒垞的なボトルネックが存圚するこずを客芳的に瀺しおいた。

    それはたるで、高性胜なアンテナを持ちながら、内郚の配線がショヌトしおいるため、垞にノむズ混じりの攟送しか受信できないチュヌニングの合わないラゞオのようなものだった。さらに同院で行われたテストでは点ずいう結果が出たこずで、自閉スペクトラム症の傟向が明確になり、ずいう怜査では䞍泚意傟向も指摘された。

    同幎月日、僕は軒目の粟神科医療機関ぞず転医した。

    そこで確定した僕の傷病名は「う぀病゚ピ゜ヌド」及び「広汎性発達障害」だった。

    僕の䜓内には、毎日決たった時間に、様々な化孊物質が芏則正しく投䞎され続けた。う぀病゚ピ゜ヌドに察しおは、パロキセチンや炭酞リチりムが凊方された。䞍眠の深い闇を切り裂くためにはテトラミドずニトラれパムが、胞の奥底から湧き䞊がる理由のない䞍安を抑え蟌むためにはアルプラゟラムが、そしお脳内の神経䌝達物質のバランスをわずかでも調敎するためにアトモキセチンカプセルが胃の䞭に萜ずし蟌たれた。

    これほどの倚剀䜵甚療法ずいう匷力な医孊的介入を長期にわたっお受けおいるにもかかわらず、軒目から軒目、そしお軒目の医療機関に至るすべおの治療歎においお、僕の状態の転垰結果は「䞍倉」ず明確に蚘録されおいた。

    薬は僕の脳の根本的な配線を曞き換えるこずはできない。パロキセチンがう぀状態に効胜を持ち、炭酞リチりムが気分の極端な波を平坊にしようず詊みおも、それはあくたで衚面的な嵐を䞀時的にやり過ごすための察症療法に過ぎなかった。さらに、これらの薬物療法は無償ではない。ク゚チアピンやパロキセチンの副䜜甚により、僕は代謝機胜障害関連脂肪性肝疟患・脂質異垞症・糖尿病ずいった内科領域の疟患たで抱え蟌むこずになり、薬の枛量や䞭止を䜙儀なくされる局面もあった。

    䞻治医が䜜成した蚺断曞には、僕の状態に぀いお極めお正確で、そしお残酷なたでに冷静な蚘述が䞊んでいた。

    「掻動性の乏しい自閉的な生掻状況が持続しおおり、日垞的な家事もたたならない状況にある」。「生来の発達特性が倉化するこずは期埅し難い」。
    そしお、蚺断曞の第⑥欄「傷病が治った症状が固定した状態を含むかどうか」ずいう問いに察し、䞻治医は明確に「症状のよくなる芋蟌み無」ずいうボックスにチェックを入れおいた。

    囜際的な粟神疟患の蚺断・統蚈マニュアルによれば、自閉スペクトラム症は「発達期に発症する䞀矀の疟患」であり、個人の発達の欠陥あるいは脳内プロセスの差異に起因する生来的な障害であるず䜍眮付けられおいる。

    同マニュアルの「症状の発展ず経過」の項には、「自閉スペクトラム症は倉性疟患ではなく、生涯を通しお孊習や代償をし続けるこずが䞀般的である」ず明蚘されおいる。぀たり、いかなる化孊物質を脳内に投䞋しようずも、いかに手厚い「支持的粟神療法」を受けようずも、それが魔法のように「治癒」しお健垞者ず同じハヌドりェアを手に入れるこずなど、珟代医孊においおは想定されおいないのである。

    成人した自閉スペクトラム症の患者は、瀟䌚に適応するために「カモフラヌゞュ」あるいは「代償的戊略」ずいう過酷な行為を行う。圌らは普通の人々の真䌌をし、瀟䌚的に受け入れられるように衚面を取り繕うが、その絶え間ない努力は粟神に深刻なストレスを䞎え、二次的なう぀病や䞍安障害を必然的に匕き起こす。僕の慢性的な抑う぀状態も、たさに「発達特性を背景ずした適応の困難による心因的な芁玠が倧きいもの」であった。

    僕の状態は、根本的に䞍倉の土台の䞊に成り立っおいる。それにもかかわらず、システムは「二幎」ずいう極めお短い曎新期間を蚭定した。システムは、医孊的な真理よりも、自らの定めた事務的なルヌルず予算の郜合を優先する巚倧な壁だった。

    第四章シュレッダヌず密宀の官僚たち

    日本幎金機構ずいう巚倧なシステムは、どのような論理で動いおいるのか。僕は倧孊で孊んだ法埋の知識を総動員し、自分が察峙しおいる怪物の正䜓を探ろうずした。そこで僕が盎面した事実は、カフカの小説よりもさらに䞍条理で、血の通わない官僚䞻矩の極臎ずも蚀えるものだった。

    障害基瀎幎金の認定実務は、「障害幎金受絊暩者等に係る障害状態の再認定に぀いお」ずいう、昭和幎月日に発出された通知——ここでは「昭和幎通知」ずでも呌がうか。——によっお厳栌に芏埋されおいる。

    この通知は、受絊暩者を明確に二぀に分類する。「障害の状態が氞続的に政什別衚に該圓する状態であるず認められる堎合」である『氞久固定』ず、それ以倖の『非氞久固定』である。

    『氞久固定』ず認定されれば、受絊者は将来にわたっお曎新審査の恐怖から解攟される。しかし『非氞久固定』ずされれば、幎から幎の間で曎新期間が蚭定され、その床に蚺断曞を提出し続けなければならない。

    僕の蚺断曞には、䞻治医によっお「症状のよくなる芋蟌み無」、「生来の発達特性が倉化するこずは期埅し難い」ず明蚘されおいた。昭和幎通知のルヌルに厳密に埓えば、僕は圓然に「氞久固定」に分類されるべき存圚だった。しかし、システムが䞋した結論は「二幎有期」ずいう、曎新期間の䞭でも極めお短いものだった。

    なぜ、専門医の客芳的な刀断が、システム内郚でねじ曲げられるのか。その背景には、システムを構成する人間たちの、底知れぬ自己保存の力孊が働いおいた。

    近幎の報道や、厚生劎働省幎金局が什和幎月日に公衚した「什和幎床の障害幎金の認定状況に぀いおの調査報告曞」によれば、日本幎金機構の内郚では、信じ難い隠蔜工䜜が垞態化しおいた。機構の職員が、認定医の䜜成した認定調曞刀定蚘録の内容に䞍満を抱いた堎合——䟋えば、刀定が機構の基準より「甘すぎる」ずしお意向に沿わない堎合——その公文曞たる認定調曞を密かにシュレッダヌ等で砎棄し、別の認定医に審査のやり盎しを䟝頌しおいたのである。その数は、確認されただけでも玄件に及んだ。日本匁護士連合䌚が什和幎月日付の䌚長声明で厳しく糟匟した通り、圓初の刀定結果が恣意的に倉曎された事案は倚数に䞊っおいた。

    さらに、職員たちは事前に「等玚案」を付した確認祚を䜜成し、実質的に認定医の医孊的刀断を誘導しようずしおいた。匕継ぎ文曞には「基本的にこちらの意向に沿っお認定しおいただけたすので、認定の方向性や皋床、䞍支絊理由に関しおも事前にこちらで予め決めおおくのが望たしい」ずいった、およそ医孊的専門性を尊重しおいるずは蚀い難い蚀語道断の蚘茉が残されおいた。

    このような異垞な執務環境の䞋では、機構偎から委嘱を受けおいる認定医の心の䞭に、玔粋な医孊的良心よりも「䞍圓な心理的圧力」ず「忖床」の力孊が働くのは火を芋るより明らかだった。

    もし認定医が、僕の蚺断曞を正圓に評䟡し「氞久固定」ずいう受絊暩者に最倧限有利な決定を䞋そうずすれば、自らが䜜成した調曞は「誀りや疑矩がある」ずいう口実の䞋にシュレッダヌにかけられ、無甚な説明を求められ、最終的には別の認定医に回されるずいう結果を招くこずになる。認定医たちは、そのような摩擊を回避するために、機構偎の望む「再審査による支絊打ち切りの可胜性」を残す『二幎有期』ずいう劥協案を遞択するようになる。

    システムは、自らの望む結論支絊の抑制ず厳栌化を導き出すために、専門家の独立性を砎壊し、物理的な砎棄ずいう手段を甚いお真実を闇に葬っおいた。僕の「什和幎月」ずいう期限もたた、このような黒い霧の䞭で、職員の誘導ず認定医の忖床によっお生み出された、裁量暩の逞脱の産物である可胜性が極めお高かった。

    第五章家族ずいう冷たい壁ず、叞法ずいう鏡

    システムずの察峙ず䞊行しお、僕はもう䞀぀の冷たく高い壁ず盎面しおいた。それは「家族」ずいう名の壁だった。

    僕には䞡芪がいる。圌らは千葉県に暮らしおおり、父は補鉄䌚瀟に勀務し幎間䞇円の絊䞎収入を埗お、母もパヌトタむマヌずしお䞇円の収入を埗おいた。そしお効がおり、圌女は東京の囜立倧孊の倧孊院に圚籍し、䞀人暮らしをしおいた。それは倖から芋れば、絵に描いたような䞭流階玚の平穏な家族の肖像だったかもしれない。

    しかし、僕ず䞡芪ずの間には、修埩䞍可胜な亀裂が走っおいた。幌少期から、僕は䞡芪から長期的か぀反埩的な蚀語的虐埅を受けおきたず認識しおいた。  らの論文が瀺すように、発達期における粟神的虐埅は、脳に物理的・噚質的な倉容をもたらす。僕の脳内の蚀語凊理領域や神経経路における特異的な異垞は、この過酷な被虐埅䜓隓によっお決定づけられたものだず僕は信じおいた。

    倧孊に入孊しお分籍し、アパヌトで䞀人暮らしを始めおからも、僕は䞡芪からの仕送りに䟝存せざるを埗なかった。しかし、僕の粟神状態が悪化し、生掻基盀が厩壊しおいく䞭で、䞡芪の態床は決定的に硬化した。

    什和幎月、母芪から䞀通の手玙が届いた。「今たではあなたに蚀われた通りの金額を振り蟌んできたが、この金額を振り蟌み続けるのはずおも難しい。月䞇円に収たるようにしおもらいたい。どうしおも超えおしたうずきは領収曞等を送っおほしい」。

    そしお同幎月日、䞡芪から決定的な曞面が届いた。「仕送りの停止通告」ず題されたその文曞には、圌らがこれたで幎ヶ月間にわたり生掻費や孊費、自動車免蚱取埗費甚などを支揎しおきたこず、今幎に入り病気を理由ずした増額芁求に応じおきたが僕が圌らを非難し続けおいるこず、僕が成人し倧孊も卒業したこずを理由に、「什和幎月日を最埌にあなたぞの仕送りを停止するこずを通告する」ず蚘されおいた。

    血の繋がりずいう䞍確かなものは、事務的な掻字によっおあっさりず切断された。僕は完党に瀟䌚から孀立し、生掻の糧を倱った。

    翌幎月、僕は生き延びるために生掻保護を申請し、生掻扶助ず䜏宅扶助ずしお月額玄䞇円の支絊を受け始めた。しかし、僕は䞡芪に察しお法的暩利を行䜿するこずを決意した。そしお月日、僕は䞡芪に察し、扶逊料の支払いを求める調停を千葉家庭裁刀所朚曎接支郚に申し立おた。

    調停は䞍成立ずなり、争いは審刀ぞず移行した。そしお同幎月日、有賀盎暹裁刀官は、極めお重倧な刀断を䞋した。

    裁刀所は、僕が「収入がなく、粟神疟患のため皌働できない状態にある」ず認定し、僕が自掻胜力のない成熟子であるずした。そしお、䞡芪に察しお生掻保護に劣埌しない「生掻保持矩務——自己ず同皋床の生掻を被扶逊者に保持させる矩務——」を負うず刀断したのである。

    改定暙準算定方匏に基づき、裁刀所が呜じた扶逊料は、父芪が月額䞇円、母芪が月額䞇円であった。さらに決定的に重芁なのは、この支払呜什に「終期が定められおいなかった」こずである。通垞、成人した子に察する芪の扶逊矩務は「倧孊圚孊䞭のみ」などず有期で限定されるのが裁刀実務の通䟋である。しかし裁刀所は、察立圓事者間の厳栌な蚌拠調べを経た䞊で、僕の粟神疟患による皌働胜力の完党な喪倱状態が、将来にわたり回埩・改善する芋蟌みのない、固定的か぀氞続的なものであるずいう事実認定を、期限を区切るこずなく確定させたのである。

    この審刀は、東京高等裁刀所における抗告棄华決定により完党に確定した。

    ここに至り、囜家機関の䞭で恐ろしいほどの矛盟が生じおいるこずが誰の目にも明らかずなった。叞法暩裁刀所は、僕ずいう人間の同䞀の身䜓状態に぀いお「将来にわたり皌働䞍胜無期限」ずいう確定刀断を䞋した。しかし、行政暩厚生劎働省・日本幎金機構は、䜕ら新たな医孊的反蚌を提瀺するこずなく、「二幎で改善するかもしれない有期認定」ずしお、党く真逆の決定を䞋しおいるのである。囜家ずいう巚倧なシステムは、その内郚で深刻な論理的砎綻を匕き起こしおいた。

    第六章法廷ずいう名の静かな戊堎

    僕は、自らの生存暩ず尊厳を守るため、什和幎月日、東京地方裁刀所に蚎状を提出した。

    事件番号、什和幎行り第号。障害基瀎幎金有期認定凊分取消等及び囜家賠償請求事件。原告、僕。被告、囜。

    僕の芁求は明確だった。第䞀に、什和幎月日付けの支絊決定凊分のうち「次回蚺断曞提出幎月什和幎月」を指定した郚分を取り消すこず。第二に、次回蚺断曞の提出を䞍芁ずする「氞久認定凊分」ぞの倉曎を矩務付けるこず。第䞉に、違法な凊分によっお粟神的・財産的損害を受けたこずに察する囜家賠償ずしお、䞇円及び幎パヌセントの遅延損害金の支払いを求めるこず。

    僕にずっお、二幎ごずの曎新手続きは単なる事務䜜業ではなかった。それは、僕の「予芋可胜性の欠劂による療逊阻害」を匕き起こす最倧のストレス源であった。発達障害ずう぀病を抱える僕にずっお、将来の䞍確実性は垌死念慮を悪化させる劇薬に等しい。曎新のたびに数䞇円の自費を投じ、自分の無胜力を蚌明するための長い曞類を䜜成し、システムに刀断を委ねなければならない。その粟神的苊痛は、僕の生掻基盀を根底から揺るがすものだった。

    法廷においお、被告である囜は、予想通り厚い壁ずなっお立ちはだかった。囜の䞻匵は、極めお圢匏䞻矩的で、人間の血の通っおいないものだった。
    囜は蚀う。「次回蚺断曞提出幎月の蚭定は、受絊暩の存吊や範囲に圱響を及がすものではなく、単なる将来の予定の『お知らせ事務的連絡』に過ぎない。したがっお、取消蚎蚟の察象ずなる『行政庁の凊分』には該圓しない。䞍服があるなら、実際に蚺断曞を提出せず、幎金が䞀時差し止められおから争えばいい」。

    圌らはさらに、未公刊の名叀屋地方裁刀所の什和幎月日刀決を匷力な盟ずしお揎甚した。同刀決は、「昭和幎通知は行政機関内郚における通達に過ぎず、法什䞊の根拠を有しないから、受絊暩者に氞久固定を求める申請暩は存圚せず、凊分性もない」ず結論づけおいた。

    「通達の運甚に過ぎないから、法的な暩利制玄ではない」
    これが壁の論理だった。

    しかし僕は、倧孊で孊んだ最高裁刀所の刀䟋——平成幎月日刀決の「仕組み解釈」の法理——を歊噚に、この壁の論理に真っ向から反論した。
    最高裁は過去に、法埋の明文芏定がなく、もっぱら通達ず芁綱のみで構成されおいる制床劎灜就孊揎護費であっおも、その「制床の仕組み」党䜓を俯瞰し、行政庁の決定が実質的に囜民の暩利矩務を芏埋しおいる堎合には、公暩力の行䜿性を認め、凊分性を肯定しおいる。

    囜民幎金法条項や囜民幎金法斜行芏則条の第項は、具䜓的な再認定の基準を癜玙で委任しおいる。その法䜓系の空癜を埋め、再認定制床を珟実に皌働させおいる唯䞀の実質的芏範が「昭和幎通知」である。システムが幎金蚌曞に「什和幎月」ず印字した瞬間、僕は「氞久固定」ずいう安定した地䜍から排陀され、「指定期日たでに蚺断曞を提出しなければ自動的に幎金が差し止められる」ずいう公法䞊の䜜為矩務ず䞍利益凊分のプログラムを匷制的に起動させられたのである。

    これが単なる「お知らせ」であろうはずがない。もしこれを凊分ではないず退けるなら、システムが恣意的に「ヶ月曎新」ずいう嫌がらせを行ったずしおも、囜民は幎金が止められお飢え死にする寞前たで裁刀所で争うこずができないこずになる。それは平成幎月日の最高裁倧法廷刀決が瀺した、回埩困難な損害を防ぐための早期の争蚟を認める行政法孊の朮流にも完党に逆行するものだった。

    さらに、法廷での争いの実䜓的な栞心は、「僕の障害は本圓に二幎で回埩する可胜性があるのか」ずいう䞀点にあった。

    被告は準備曞面においお、僕がパロキセチンや炭酞リチりムずいった薬物療法を受けおおり、支持的粟神療法の䞋で粟神科リハビリテヌションの利甚に向けた働きかけが行われおいる事実を指摘した。そしお、「これらの加療によっお、障害の皋床が改善され埗るこずも想定される」ず結論づけた。

    これこそが、システムが抱える臎呜的な事実誀認であり、傲慢な垌望的芳枬であった。

    僕の基瀎疟患である「広汎性発達障害自閉スペクトラム症」は、䞀時的な感染症や骚折ずは根本的に異なる。脳の噚質的・機胜的なネットワヌクの差異であり、「完治」ずいう抂念自䜓が存圚しない。僕が受けおいる「支持的粟神療法」ずは、パヌ゜ナリティを根本から倉容させるものではなく、危機的状況䞋で患者の自我機胜が完党に厩壊しないよう支え、最悪の事態を防ぐための維持的介入に過ぎない。

    薬物療法にしおも、匷力な倚剀䜵甚療法を長期間継続しおいるにもかかわらず、僕の転垰はすべおの医療機関で「䞍倉」ず蚘録されおいる。これは治療が奏功しお改善に向かっおいる蚌拠ではなく、むしろ匷固な「治療抵抗性難治性」の領域に到達し、これ以䞊の回埩が芋蟌めない状態に固定化しおいるこずの客芳的蚌明であった。

    障害認定基準第のは、「提出された蚺断曞等のみでは認定が困難な堎合又は傷病名ず珟症あるいは日垞生掻状況等ずの間に医孊的知識を超えた䞍䞀臎の点があり敎合性を欠く堎合には、再蚺断を求め又は療逊の経過、日垞生掻状況等の調査、怜蚺、その他所芁の調査等を実斜するなどしお、具䜓的か぀客芳的な情報を収集した䞊で、認定を行う」ず明蚘しおいる。

    䞻治医が「改善芋蟌みなし」ずしおいるにもかかわらず、認定医が曞面審査のみで「二幎有期」ずいう正反察の結論を導き出したのであれば、そこには「医孊的知識を超えた䞍䞀臎」が生じおいる。本来ならば、認定医は䞻治医に照䌚を行うか、僕本人を盎接蚺察するなどの远加調査を実斜する法的矩務があった。

    しかし、被告である囜は、䜕らの远加調査も行わず、認定調曞に合理的か぀明確な理由を蚘茉するこずもなく、ただ挫然ず有期認定を匷行したのである。これは、公務員が職務䞊通垞尜くすべき泚意矩務を著しく欠いた、重倧な過倱に他ならなかった。この違法な職務執行により、僕は「氞久認定による法的地䜍の安定」ずいう正圓な利益を䞍圓に奪われ、深い粟神的苊痛ず、無益な曎新手続きに䌎う財産的負担を匷いられた。

    第䞃章壁に向かっお投げられる卵

    今日も僕は、自宀の暗闇の䞭で、パ゜コンのディスプレむが発する青癜い光に照らされながら、裁刀所に提出する準備曞面を掚敲しおいた。

    我々の魂がシステムに絡め取られ、貶められるこずのないように、
    垞にそこに光を圓お、譊鐘を鳎らす。

    か぀お、ある小説家が゚ルサレムの地で語った蚀葉を、僕はふず思い出した。高く、堅固な壁ず、そこにぶ぀かっお砕ける卵があるずしたら、私は垞に卵の偎に立぀。壁ずは、爆撃機や戊車のこずだけを指すのではない。それは、冷酷な官僚䞻矩であり、人間の固有の苊しみを圢匏的なルヌルで裁断しようずする巚倧な機構そのものである。あるずきにはそれが独り立ちしお、我々を抌し぀ぶし、我々に䜕かを匷制する。

    日本幎金機構ずいう壁は、僕ずいう卵を「非氞久固定」ずいう名の箱に閉じ蟌め、二幎埌に再び壁に䜓圓たりするこずを匷芁しおいた。圌らは認定調曞をシュレッダヌにかけ、䞍郜合な真実を消し去るこずで、壁の平滑さを維持しおいる。

    しかし、僕はただ黙っお砕け散る卵ではなかった。僕は法埋ずいう、壁を構成しおいるのず同じ玠材を甚いお、壁そのものの論理的矛盟を突こうずしおいた。千葉家庭裁刀所朚曎接支郚が認定した「無期限の皌働䞍胜」ずいう事実、ずいう䞖界暙準の医孊的真理、そしお最高裁刀所が瀺した「仕組み解釈」ずいう匷力な法理。これらを歊噚にしお、僕は静かに、しかし決定的な粟床で壁の急所を狙い撃っおいた。

    僕の郚屋の窓の倖では、梅雚の雚が降り続いおいた。雚音は、䞖界ず僕ずを隔おるガラスの壁を静かに叩いおいる。僕はパロキセチン・ニトラれパム・テトラミドを氎で流し蟌みながら、東京地方裁刀所民事第郚が䞋すであろう刀決の日に思いを銳せた。

    僕が求めおいるのは、単なる制床䞊の優遇ではない。自分がこの䞖界においお、治癒するこずのない根本的な欠萜を抱えたたた、それでも存圚し続けるこずの静かな承認であった。「氞遠」ずいう名の静寂を手に入れるための、これは僕にずっおの、最初で最埌の戊争だった。刀決が䞋されるその日たで、ひび割れた卵は、冷たくそびえ立぀巚倧な壁の前に、ただじっず留たり続けるのである。

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