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第30話 最期の悪魔期と天使期【天使編】

幻の世界とを行き来し始める

おかしい。
と思い始めたのは、アニの従兄弟たちがお見舞いに来てくれた時の事だ。

階下に飲み物を買いに行き戻ってみれば、
アニがスゴい勢いでひとり喋り続けている。

談笑ではない。

アニがひとりで一方的に喋っているだけだ。

従兄弟達の方を見ると、

顔に笑顔を貼り付けたまま、

困惑気味な空気が取り巻いていた。

戻ってきたワタシに気づいたアニは、

急にワタシを指さして従兄弟達に言った。

『この人にも感謝しかないよ!
この人はね、オレの世話頑張り過ぎて、
身体を壊して先日まで入院してたんだよ!』

え?
うん?
入院?

誰が?
ワタシが?
なんで?

と思いつつも、お茶を配っていると
従兄弟のひとりが小声で言ってきた。

『ちょっと様子がおかしくなってる』

アニの話に、従兄弟達が相槌や返事をしても、
まるで聞こえてないかのようにず〜っと、
一人で喋り続けているらしいのだ。

興奮して喋り、突然スイッチが切れたように黙る。呂律も回っていないようだった。

その状態は2、3日続いた。

だが、以前の罵詈雑言に比べたら、

それはそれは楽しそうに、

感謝の言葉を並べ立てるアニは、

ワタシにとっては、天使のようにさえ見えた。

幻の世界に付き合うオットの優しさ


翌日、アニがオットに対して

『おい、そこの時計を消してくれ!
明るくって眠れやしない!!』

と白壁を指さして言った。

『え?アンちゃん、時計なんかないよ?』

というオットに対して

『バカヤロー、そこの、その時計だよ!早く!
早く消してくれ!!』

オットは恐る恐るその見えない時計を
右手で払い消す真似事をした。

アニはホッとしたように
「これで眠れる」と本当に眠ってしまった。

ある時はゴジラだった。
払っても払ってもなかなか消えないゴジラ。

それでもオットはアニの言う通りに、
あちこち消して回った。

滑稽で、優しさだけで出来ているこの時間と空間。

アニの幻の世界に、

ちゃんと付き合ってあげるオットは、

やはり世界一優しい漢だ。

消えた、と安心すると眠るアニを見守りながら、

ホッとすると同時にワタシ達は、

「その時」が近づいて来ていることを感じていた。


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