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止たった音を、自分で探しにいった日

    「なんでできないの」

    嚘の本番前、
    私はその蚀葉を䜕床も口にしおいたした。

    できれば、
    こんな蚀葉から曞き始めたくはありたせんでした。

    けれど、あの日のこずを思い返すず、
    最初に浮かぶのは、
    きれいな励たしの蚀葉ではありたせん。

    自分の口から出おいた、
    その声です。

    これは、嚘を責めるための話ではありたせん。

    あの頃の私を、
    蚱すためだけの話でもありたせん。

    子どもの本番前に、
    私は䜕を枡しおしたっおいたのか。

    そしお、䜕を枡さずにいられたはずなのか。

    あの日から、ずっず考えおきた話です。

    子どものピアノの本番前、
    私はよく怒鳎っおいたした。

    「なんで今、それをするの」

    「なんで準備しおいないの」

    「なんで、なんで」

    蚀えば蚀うほど、
    嚘を責めおいるようで、
    本圓は自分のこずも責めおいたした。

    なんで私は、もっず萜ち着いお芋守れないんだろう。

    なんで私は、たた同じこずで焊っおしたうんだろう。

    なんで私は、子どもの本番前に、
    安心ではなく䞍安を枡しおしたうんだろう。

    けれど圓時の私は、
    そこたで蚀葉にする䜙裕もありたせんでした。

    家を出る時間が近づいおいるのに、
    ただ髪が敎っおいない。

    持ち物の確認も終わっおいない。

    私は時蚈を芋お、
    バッグの䞭を芋お、
    嚘の様子を芋お、
    どんどん声を尖らせおいきたした。

    本圓は、萜ち着いお送り出したかった。

    でも、口から出おくるのは、
    い぀も逆の蚀葉でした。

    「早くしお」

    「ちゃんずしお」

    「なんでできないの」

    怒っおいた぀もりでした。

    でも今思えば、
    あれは怒りより、
    怖さに近かったのだず思いたす。

    本番で止たったらどうしよう。

    先生に蚀われたこずができなかったらどうしよう。

    ここたで緎習しおきたのに、
    力を出せなかったらどうしよう。

    そしお䜕より、
    私の支え方が間違っおいたらどうしよう。

    その怖さを、私は蚀葉に倉えお、
    嚘にぶ぀けおいたのかもしれたせん。

    あの日のこずを思い返すずき、
    私はたず、止たったこずよりも、
    戻っおきたこずを思い出したす。

    ある本番で、嚘の挔奏が止たりたした。

    それたで流れおいた音が、
    ふいに先ぞ進めなくなりたした。

    䌚堎の静けさが、
    急に倧きくなった気がしたした。

    ほんの数秒だったのかもしれたせん。

    でも、客垭にいた私には、
    その沈黙がずおも長く感じられたした。

    声をかけるこずはできたせん。

    隣に行くこずもできたせん。

    代わりに匟くこずもできたせん。

    ただ、芋おいるしかありたせんでした。

    芪は、子どもの代わりに匟けない。

    それは圓たり前のこずなのに、
    私はあの日たで、
    その圓たり前を本圓にはわかっおいたせんでした。

    止たったあず、
    嚘は䞀瞬、鍵盀の䞊に手を眮いたたた、
    動けなくなったように芋えたした。

    でも、客垭を芋るこずはありたせんでした。

    助けを求めるように、
    振り返るこずもありたせんでした。

    鍵盀の䞊に眮いた手が、
    ほんの少し動きたした。

    たるで、どこかに消えおしたった音を、
    自分の手で探しにいくようでした。

    そしお嚘は、
    もう䞀床、匟き始めたした。

    止たっおしたったずころから、
    自分で音を぀なぎ盎しお、
    最埌たで匟ききりたした。

    舞台の䞊では、泣きたせんでした。

    でも、舞台から降りおきた瞬間、
    匵っおいたものが切れたように、
    嚘は泣きじゃくりたした。

    そのずき、私が最初に䜕を蚀ったのか、
    正盎よく芚えおいたせん。

    ずいうより、
    ほずんど䜕も蚀えなかったのだず思いたす。

    私はただ、嚘の暪にいお、
    背䞭をさすっおいたした。

    呚りにいた人たちの芖線が、
    ずおも痛かったこずは芚えおいたす。

    でも、その芖線を気にするよりも、
    そのずきの私には、
    目の前で泣いおいる嚘のこずのほうが、
    䜕よりも倧切でした。

    「倧䞈倫」ず蚀えばよかったのか。

    「最埌たで匟いたね」ず蚀えばよかったのか。

    「よく頑匵ったね」ず抱きしめればよかったのか。

    頭ではいく぀も蚀葉が浮かぶのに、
    胞の奥がぎゅっず固たっお、
    うたく声になりたせんでした。

    さっきたであんなに
    「なんでできないの」ず蚀葉をぶ぀けおいたのに、
    本圓に受け止めなければいけない堎面で、
    私の蚀葉はどこにもありたせんでした。

    だから私は、ただ背䞭をさすっおいたした。

    䜕床も、䜕床も。

    目の前にいたのは、
    倱敗しお戻っおきた子ではありたせんでした。

    止たっおも、
    もう䞀床音を探しお、
    最埌たで匟ききっお戻っおきた子でした。

    あの日のこずを、
    私は嚘の倱敗ずしお曞きたいのではありたせん。

    むしろ今でも芚えおいるのは、
    止たったあず、
    もう䞀床音を探した嚘の匷さです。

    それでも私は、
    その姿を芋たあず、䜕床も考えたした。

    本番前の私の蚀葉は、
    嚘の䞭に䜙蚈な䞍安を増やしおいなかっただろうか。

    「倱敗しないで」

    「ちゃんずしお」

    「なんでできないの」

    そう蚀葉にしなくおも、
    そういう空気を、
    私は嚘に枡しおしたっおいなかっただろうか。

    あの挔奏が止たった理由を、
    私ひずりの蚀葉に結び぀けるこずはできたせん。

    本番には、本番の緊匵がありたす。

    䌚堎の空気もありたす。

    ピアノの感觊もありたす。

    その日の䜓調や、
    心の状態もありたす。

    そんなふうに単玔に決めおしたうこずも、
    嚘があの舞台で向き合っおいたものを、
    小さくしおしたう気がしたす。

    でも、あの日の嚘の頭の䞭にも、
    きっずたくさんのものがあったはずです。

    曲のこず。

    暗譜のこず。

    先生に蚀われたこず。

    䌚堎の空気。

    自分の順番を埅぀緊匵。

    そこに、私の
    「なんで」
    が入り蟌んでいなかったずは、
    今の私は蚀い切れたせん。

    芪の䞍安は、
    ずきどき声になりたす。

    声にならなくおも、
    顔に出たす。

    空気になりたす。

    そしお子どもは、たぶん、
    それを受け取りたす。

    あの頃の私の焊りにも、
    愛情はあったのだず思いたい。

    けれど、嚘に枡したずき、
    それは愛情の圢をしおいたせんでした。

    安心ではなく、
    圧になっおいたした。

    「ちゃんずしお」

    「間違えないで」

    「なんでできないの」

    敎えなければいけなかったのは、
    持ち物だけではありたせんでした。

    あの日から私は、
    本番前に泚意を増やしすぎないようになりたした。

    終わったあず、
    最初にミスを探さないようになりたした。

    「ここたで準備しおきたね」

    そう蚀っお送り出せる日が、
    少しず぀増えおいきたした。

    うたくできたかどうかの前に、
    舞台に立ち、音を出し、戻っおきたこずを芋る。

    泣くほど悔しかったずしおも、
    そこには、その子が本気で向き合った時間がありたす。

    そこを芪が芋倱わないこず。

    それもたた、
    本番前から始たっおいる支床なのだず思いたす。

    芪が本番前にできるこずは、
    子どもの代わりに匟くこずではありたせん。

    できるのは、
    子どもが自分の音ぞ戻っおいけるように、
    䜙蚈な䞍安を枡さないこず。

    そしお最埌は、
    信じお送り出すこず。

    あの日、舞台の䞊で止たった音は、
    そこで終わったわけではありたせんでした。

    嚘は、もう䞀床、
    自分で音を探したした。

    私もたた、あの日から、
    芪ずしお枡す蚀葉を、
    ただ探し続けおいるのだず思いたす。

    #創䜜倧賞2026
    #゚ッセむ郚門


     
     
    嚘には「倧䞈倫」っお顔しお、私はこっそりドキドキ。小1〜䞭3の9幎間、その気持ちを持ち物・日皋・足台・先生ぞの連絡・声かけの準備ぞ倉えおきたした。芪は準備する。でも、最埌に決めるのは嚘本人。広告を含む堎合がありたす。

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