
世界一幸せなお姫様は世界一孤独な女の子。
世界一幸せなお姫様は、世界一孤独な女の子だった。
お姫様には、不思議な力があった。
歩いているだけで花をもらい、
泣いていれば誰かが隣に座り、
「大丈夫?」と手を差し伸べてくれる。
遠い街で迷子になれば、迎えに来てくれるヒーローが現れ、
帰る場所を失いそうになれば、
「顔だけでも見せにおいで」と言ってくれる人がいた。
それなのに、お姫様はいつも首を傾げていた。
どうしてだろう。
私は何もできないのに。
約束を守れなかったこともある。
急にいなくなったこともある。
たくさん迷惑をかけて、
たくさん心配をかけた。
なのに、みんな笑うのだ。
「元気だった?」
「また来たんだね。」
「待ってたよ。」
お姫様には、それが少し怖かった。
だから、誰かを好きになりそうになると、旅に出た。
愛を受け取ってしまったら、
それが当たり前になってしまう気がしたから。
愛されていると実感するのは、
少し離れた場所から振り返る時だけだった。
だから何度だって孤独を選んだ。
誰にも期待しなければ、
失うこともないから。
けれどある夜、
遠い街の駅でひとりになったお姫様は、
急に寂しくなった。
空には月が浮かび、
街の灯りは滲んで見えた。
その時、お姫様は気づいてしまった。
私は本当は、
孤独が好きだったんじゃない。
怖かっただけなんだ。
誰かを大切に思ってしまうことも、
誰かに大切にされることも。
そして、こんなふうに思ってしまうことが。
――会いたい。
――帰りたい。
――ちゃんと愛を感じてみたい。
その瞬間、お姫様は初めて泣いた。
世界一幸せなお姫様は、
世界一孤独な女の子だった。
だけど、世界でいちばん孤独な夜に、
自分がたくさんの人に愛されていたことを、
少しだけ知ったのでした。