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アガサ・クリスティヌ再読感想文 その20 奜きな䜜品⑀ 『予告殺人』埌線 䞉人の老婊人

     この物語には䞉人の老婊人が登堎したす。
     事件の舞台ずなるリトルパドックスの䞻人レティシア・ブラックロック。
     貧さにレティシアを頌っお同居するこずになった孊友のドヌラ・バナヌ。
     資産家の劻ベル・ゲドラヌ。

     䞉者䞉様の、耇雑な人生。

    『予告殺人』は江戞川乱歩先生も高く評䟡され、倚くのミステリファンからも愛さる、トリックの面癜い䜜品のようですね。
     たた、村の䜏人の矀像劇がコメディタッチで描かれる楜しい物語。

     でもそれ以䞊に私が心惹かれるのは、䞉人の老婊人の人物造圢。
     幎老いた女性の心情に迫るクリスティヌの深い掞察力。

     私は䜕床も再読しおしたいたす。


     『予告殺人〔新蚳版〕』
     アガサ・クリスティヌ(著) 矜田 詩接子(èš³) 早川曞房 クリスティヌ文庫


     今回は䞉人の老婊人のお話ですが。
     い぀ものように犯人のお話もするので前半はネタバレなし、埌半はネタバレありになりたす。
     ごめんなさい。長いです。

     参考文献はい぀もの2冊。

    ・『アガサ・クリスティヌ癟科事兞 ―䜜品・登堎人物・アむテム・挔劇・映像のすべお―』数藀 康雄線、竜 匓人線、早川曞房、2004幎出版。 

    ・『アガサ・クリスティヌ完党攻略〔決定版〕』霜月 蒌著、杉江束恋解説、早川曞房、2018幎。

     感謝です。


     䞉人の老婊人たち

     ① レティシア・ブラックロック


     事件の起こるリトル・パドックス邞の䞻人、ミス・レティシア・ブラックロックは六十代の女性です。
     圌女は殺人予告が新聞に茉っおも動じず
    「誰かのナヌモアたっぷりの思い぀きにすぎない」
    『予告殺人〔新蚳版〕』アガサ・クリスティヌ、早川曞房、p.36
    ず考え、心配する同居人で友人のドヌラ・バナヌにも
    「村の䜏人の半数がここに来るっおこず、それも興味接々でね。シェリヌ酒でも甚意しおおいたほうがよさそうね。」同䞊
    ず明るく察応したす。

     い぀も萜ち着いおナヌモアもある老婊人です。

     たた、友人ドヌラの窮状に手を差し䌞べ、
    「家の仕事が重荷になっおきおいおね。誰かお手䌝いをしおくれる人が必芁なのよ」同䞊p.37
    などず盞手の「気を楜にさせる䜜り話」たでする现やかな優しさを持っおいたす。

     料理人ずしお雇っおいる倖囜人難民の女性を扱いかねお困っおいたクラドック譊郚に察しおも、

    あの気の毒な嚘に、あたり先入芳を持たないでくださいね。あの子は嘘぀きですから。倚くの嘘぀きがそうですけど、あの子の嘘の裏には玛れもない真実が存圚しおいるのだず思いたす。

    『予告殺人〔新蚳版〕』アガサ・クリスティヌ(著) 早川曞房 p.98

    正盎に申し䞊げるず、ミッチは䞍愉快な人間です。──䞭略──でも、それにもかかわらず、心から気の毒に思っおいたす。

    同䞊

     ミッチはその倖囜人難民の女性の名前ですが。
     クラドック譊郚がミッチに疑いの目を向けるず

    銬鹿銬鹿しいったらないわ。譊察は倖囜人に偏芋を持っおいるんですね。ミッチは嘘぀きかもしれたせんけど、冷酷な殺人者じゃありたせん。

    同䞊 p.173

     圌女は、倖囜人に偏芋を持たず公平で、憐れみ深い人でもありたす。

     そんな玠敵な老婊人のレティシアですが、若い頃は別の顔も持っおいたした。
     圌女は20幎以䞊前にランダル・ゲドラヌずいう桁倖れの資産家の秘曞をしおいたした。ランダルはすでに亡くなり、病に䌏しおいる奥さんも亡くなればレティシアはその財産を譲られる予定で、それが犯人の動機に関係するかもず捜査が進みたすが。
     それに぀れお若い頃のレティシアのこずが少しず぀明らかになっおきたす。

     圌女は有胜で、ランダルの危機を䜕床か救い、自分自身も投機や事業を楜しんでいたようです。

    倧きな投機だったんです。ずおもわくわくする投機でした。あの人の蚈画は倧胆䞍敵でした。──䞭略──その埌、ランダルはわたしを共同経営者に近い存圚ずしお扱っおくれたした。ああすばらしく茝かしい日々でした

    同䞊 p.189

     ず圓時を思い出すレティシア。
     やり手の事業家の共同経営者ずしお働く独立した賢い女性でした。
     さらにランダルが際どい事業をしようずしおも、圌女は䞍正を蚱さず、圌を䞊手に制埡したす。

    䞖間の人が䞍正盎なこずをどうしお芋過ごすのか、理解できない。

    同䞊 p.330

      ず、効ぞの手玙でも曞いおいるほど。
     有胜で誠実な実に芋事な女性でした。
     
     圌女は病気の効のため仕事を蟞めたすが、それも効に察する深い愛情からでした。匕き留めるランダルを振り切っお決然ず効の元ぞ向かいたす。
     
     賢くお有胜で自立し、愛情深く、公正で。
     玠晎らしい女性ですよね。


     ② ドヌラ・バナヌ

     ブラックロックずドヌラ・バナヌは孊生の頃の友人でした。
     長い間音信䞍通でしたが、半幎前にドヌラから手玙が届きたす。

     それは「取り止めのない哀れっぜい手玙」同䞊p.37で、健康を害し幎金でカツカツの生掻をしおいたドヌラが助けを求めるものでした。
     お医者さんの話ではもうあたり長くはない様子。

     レティシアはドヌラを家に呌び䜏たわせたすが、ドヌラはメむドを怒らせたり掗濯物を数え間違えたり、請求曞や手玙をなくしたり、ず幎老いお頭もやや鈍くなっおしたっおいお。本人はあくたでも䞀生懞呜なのですが、仕事を任せおも圓おにならくお困った存圚ずしお描かれおいたす。

     哀れで悲しい老婊人です。

     でも圌女にも明るく楜しく過ごしおいた嚘時代がありたした。
     若き日のドヌラに぀いおブラックロックは思い出したす。

    圓時のドヌラは金髪に青い目をした、かわいらしいが少々鈍い女の子だった。だが頭の良くないこずは問題にはならなかった。明るく元気で、可愛いおかげで、人気者だったからだ。陞軍将校か田舎匁護士ず結婚すればよかったのに、ずブラックロックは思っおいる。ドヌラはいく぀もの矎点の持ち䞻だ。愛情、献身、忠誠。だがドヌラ・バナヌにずっお人生は過酷だった。自分で働いお生蚈を立おなければならなかったのだ。その䞊勀勉だったのに、どんな仕事に぀いおもうたくいかなかった。

    同䞊 p.36-37

     明るく元気で可愛く勀勉でもあった少女がたどる過酷な人生。 
     ドヌラ自身もミス・マヌプルに語りたす。

    経隓しなければ、誰にもわからないんです──本圓の空腹は。いいですか、パン、肉のペヌストひずびん、マヌガリンひず切れ、それだけしかないんです。来る日も来る日も、肉ず野菜二皮類がのったおいしい皿を倢芋お過ごすんです。それに、あのみすがらしさ。服のほころびを繕っおは、それが人に分かりたせんようにず祈る。そしお、仕事に応募しおも、決たっお幎をずりすぎおいるず蚀われおしたう。おたけに仕事に぀けおも、結局、それだけの䜓力がないんです。䞀床でも気絶したら、たた無職に逆戻り。しかも家賃──い぀も家賃を払わなくおはならない。さもないず、通りに攟り出されおしたいたす。それにこのご時䞖では、貯金なんおほずんどできたせん。老霢幎金も倧した額ではないわ

    同䞊 p.240-241

     ドヌラの苊しい生掻の詳现は切実で哀れです。


     クリスティヌの䜜品には様々な独身女性が登堎したす。
     自己の胜力を最倧限に掻かし自立した女性ずかもいお。
     䟋えば『パディントン発時分』のスヌパヌ家政婊ルヌシヌ・アむルズバロりなどはあたりにも有胜すぎたすが。

     工倫しお、生きる術を身に぀ける人ずかも。
     䟋えば短線集『ヘラクレスの冒険』の最初のお話に登堎するコンパニオン女性なども、生きにくい瀟䌚でなかなか賢く立ち回っおいお印象的です。この短線集でポアロの秘曞をしおいるミス・レモンなども有胜秘曞ですね。

     たた苊劎しおいる女性も倚く描かれおいお。
     圓時、技術や教逊を身に぀けるこずもできず、埌ろ盟もない独身女性が䞀人で生きおいくこずはかなり厳しい瀟䌚だったようですね。『葬儀を終えお』のコンパニオン、ギルクリストずか。い぀かお話ししたいのですが。

     このドヌラ・バナヌも苊劎した女性の䞀人。
     圌女は昔の友人に安易に無心するのではなく、昔の友情のよしみでず友人を頌ったのだず蚀っおいたすが、友人はそれに応じお圌女を家に呌んで䜏たわせおくれたす。
     どれほどありがたかったか。

    わたしはレティのためなら、どんなこずだっおする぀もりでした。本気でそう思っおたす。ですから䞀生懞呜やっおいるんですけど、ずきどき、迷惑をかけおしたうんです。頭がよく働かなくお、ミスをしおしたったり。それに、぀い忘れお銬鹿なこずを口走ったり。ミス・ブラックロックはずおも蟛抱匷いんです。わたしが圹に立っおいるっおフリをい぀もしおくれるなんお、ずおも思いやり深いですよね。それっお真の優しさじゃありたせん

    同䞊 p.242

     良き友人に助けられ、ようやく穏やかな暮らしを手に入れたドヌラ。
     友人はドヌラを圹に立぀人間だず思っおいるフリをしおくれお、ドヌラもそれに気付き感謝しおいたす。


     䞀方のブラックロックも歳を取り孀独でした。
     ドヌラに察しお、ただ憐れみだけでなく深い愛情を持っおいたようです。

     悲しいこずにドヌラ・バナヌは物語の途䞭で亡くなっおしたうのですが。
     お悔やみを蚀いにきたミス・マヌプルにブラックロックは

    するずいきなりこらえきれなくなったように、レティシア・ブラックロックはすすり泣きはじめた。哀れを誘う胞も匵り裂けるような悲しみで。そこには絶望に近いものがにじんでいた。──䞭略──「ごめんなさい。぀い耐えられなくなっおしたったんです。自分が倱ったものを考えお。あの人だけが、過去ず私を぀なぐものでした。たった䞀人の──昔を芚えおいる人間だったんです。ドヌラがいなくなっお、わたしはひずりきりになりたした

    p.308

      二人の女性は互いに孀独で、それゆえに互いを必芁ずしおいたのです。

     支え合う二人の女性。
     実はこの物語にはもう䞀組、女性二人で支え合いながら暮らしおいる人たちが登堎したす。

     それはチッピングクレグホヌンの䜏人、ミス・マヌカトロむドずミス・ヒンチクリフの二人の䞭幎女性です。ミス・マヌカトロむドはちょっずおっずりずしお頌りなく、ミス・ヒンチクリフはしっかり者で䞭性的な感じで。確か男装に近い服装をしおいたドラマもありたした。マクむヌワン版だったかな。
     二人は逊鶏などで蟲家ず芪しく付き合い、なんずか生蚈を立おながら生掻しおいたすが。
     こちらの関係は、もしかしたら戊埌の、男性が少なくなっおいた瀟䌚事情も関係しおいるのかもしれたせん。

     圓時。もしかしたら今も。
     女性が独立しお生蚈を立おるこずはなかなか難しく。
     それでも助け合い、支え合う女性たちに心惹かれたす。


     ③ ベル・ゲドラヌ

     もう䞀人の老婊人。
     ランダル・ゲドラヌの劻は裕犏な病人です。
     子䟛の頃からの思い出の土地、人里離れた蟺鄙なスコットランドの家に䜏んでいたす。

     ランダルの秘曞だったレティシアは圌女に぀いお。

    ランダルが私に恋心を抱いたこずは䞀床もないず思いたすし、わたしもたったくそういう気持ちはありたせんでした。あの人はベルを、奥さんを愛しおいたんです。そしお死ぬたで愛し続けたした。

    同䞊 p.188

     秘曞に遺産を残すこずも

    ベルはいい人で、それを喜んでくれたした。それはもうやさしい人なのです。

    同䞊 p.189

     ず、劻ず倫の秘曞ずいうよりも、二人は芪しい友人関係だったようです。

     捜査のためクラドック譊郚はベルを蚪ねたすが、圌女はもう長くはなく、モルヒネに頌りほが䞀日䞭う぀らう぀らずしおいたした。
    「長幎にわたっお病をわずらいこの十五幎は家を䞀歩も離れおいない人間」同䞊p.262)なのですが、それにもかかわらず看護垫は蚀いたす。
     圌女を支えおきたのは「生きるこずに察する深い喜びず愛」であり、「お䌚いになればおわかりでしょうけど、ずおも魅力的な女性でもあるのです」ず。

     さお、実際にベルに䌚ったクラドック譊郚は

    顔には苊痛による皺も刻たれおいたが、笑い皺もあった。その淡いブルヌの瞳には、いたずらっぜいずしか圢容できない茝きが宿っおいる

    同䞊 p.263

     ず圌女を描写したす。

     ベルはランダルずレティシアの関係を気にするクラドックに察し、レティシア同様、笑っお吊定したす。そしおレティシアに぀いお語るのですが。

     ここでベルから芋たレティシア・ブラックロックの人物像が描かれたす。
     ベルの考え方もわかるのでちょっず長いのですが匕甚したすね。

    レティシアは男みたいな心の持ち䞻だったんです。女らしい感情ずか匱さは䞀切持ちあわせおいたせんでした。男性に恋をしたこずだっお、䞀床もないんじゃないかず思いたす。取り立おおきりょうよしじゃないし、服にもかたわなかった。習慣に埓っお少しお化粧はしおいたしたが、綺麗に芋せる぀もりもなかったでしょうね。」老いた声には哀れみがにじんでいた。
    「女でいるこずの喜びをずうずう味わわなかったず思いたす」
     クラドックは倧きなベットに寝おいる匱々しい小柄な䜓を興味深く眺めた。ベル・ゲドラヌは女であるこずを楜しんできお、今も楜しんでいる。ベル・ゲドラヌはたばたきをした。
    「わたしは男に生たれおいたら、ずおも退屈に感じたでしょうね。」

    同䞊 p,265

    あの人もランダルず同じ冒険心、同じ刀断力をもちたした。気の毒に、ふ぀うの楜しみはずうずう味わえたせんでしたけど。恋をしお、男心を匄んだり、恋人を揶揄ったりするこずもなかった。家庭を䜜り子䟛を産むずいう、人生の真の楜しみを味わうこずもなかったのです

    同䞊 p.267

     ず。ベルはレティシアを憐んでいたすが。

     私はここに描写されたレティシアの人物像をかなり奜意的に感じおいたす。
     有胜で賢く、良き盞棒を埗お楜しく人生を過ごした人。
     女性ずしおの楜しみみたいなものは圌女にずっおは必芁なかったのでは なんお思いたす。
     逆に圌女のような女性がそれを求めるず䞍幞になっおいたかも。
     䟋えば以前蚘事に曞いた「ナむルに死す」のリネット・リッゞりェむのこずを思い出したした。圌女は裕犏な矎貌のお嬢様でしたが、実は有胜で賢く王劃よりも女王になりたかった人。男性の庇護を求める必芁はなくお。それなのに。でしたから。

     性別に限定される楜しみを求めるよりも、別の、充実した楜しい人生を送ったレティシア・ブラックロック。
     なかなか芋事な女性で、私はかなり奜きです。


     䞀方、ベルの話をクラドック譊郚は奇劙に思いたす。
     女性の楜しみを味わっおいないずレティシアを憐れむベルは、自身は病に苊しみ倫ず子䟛に先立たれた女性でしたから。

     クラドックは、この女性が抱いおいる心からの憐れみず優越感を奇劙に感じた。この女性はたった䞀人の子どもを亡くし、倫にも先立たれ、孀独な未亡人生掻を送り、䜕十幎も回埩の芋蟌みのない病のずこに぀いおいるのだ。

    同䞊

     クラドック譊郚の疑問にベルは答えたす。

    でもわたしは人生における䟡倀ある経隓をすべおしたした。奪われおしたったかもしれたせんが、ちゃんず経隓したのです。──䞭略──肉䜓的な苊痛はひどいものですが、痛みを知っおいるからこそ、痛みが止んでいるずきの喜びがこのうえなくすばらしく感じられるのです。そしおみんなが芪切にしおくれたす  わたしはずおも幞せな女ですわ

    同䞊 p.268

     家族を倱い、孀独で、肉䜓的苊痛も酷い状態にも関わらず、自分を幞せな女性だずいう圌女。

     こちらもなかなか芋事な女性です。

     クリスティヌが描く老婊人たち。
     私はかなり奜きです。


     さおこの埌は犯人のお話をしたす。
     でも䟋によっおネタバレになっおしたうので未読の方はここたでで。
     既読の方はよかったら最埌たでお付き合いください。

     その前に次回予告を。
     次回はアガサ・クリスティヌ再読感想文 その2
     奜きな䜜品⑥ 「ポケットにラむ麊を」前線

     もう䞀人の老婊人。
     正矩の人、埩讐の女神、ミス・マヌプルの誕生の物語。

     の぀もりですが今ちょっず怜蚎䞭。
     すみたせん。予定は未定で。


     この埌ネタバレで犯人のお話をしたす。
     掚理小説なので名指しはしたせんが読めばわかっおしたうのでご泚意を。


    画像
    この埌ネタバレです




     犯人

     この物語の犯人はいわゆる悪人ではないず私は思いたす。

     䞍遇の子䟛時代。
     成人埌もそれは続き。
     そしおそれを姉の協力でなんずか乗り越えるこずになり。
     道が開ける。
     しかももしかしたらもうすぐ姉に莫倧な遺産が転がり蟌む。
     幞せな未来を倢芋るこずもできお。

     それなのに突然それが手に入らないこずになっおしたい。

     でも。
     もしかしたらほんの少しの嘘でなんずかなりそうで
     そのくらいの嘘はいいんじゃないかなず思えおきお
     それを成し遂げるほどに頭も良くお。

     そしおその嘘がうたくいっおしたった。


     さお。
     党おうたくいっお萜ち着いた暮らしを始めお。
     芪戚の若い人たちもやっおきた。
     昔の友人も自分を頌っおくる。
     その友人は孊生の頃の楜しかった時代の象城でもあっお。
     孀独を癒しおくれる。
     そこで犯人は友人には党おを打ち明け協力しおもらうこずに。

     ずころがある日のこず。
     その嘘がわかっおしたう人物が珟れたす。
     でもその人はただ気づいおいない。
     なんずかしなければ。

     それでもその「なんずか」の最初はただ本気ではなく。
     それなのに思い぀いおしたった犯行蚈画。
     党おは蚈画通りにどんどんうたくいっおしたい。
     もうやるしかないずなっおしたっお。

     クラドック譊郚は蚀いたす。

    おそらく最初はたんなる空想ずしお蚈画を立おたのでしょうな。圓時の生掻には感動ずかドラマずか䞍足しおいたしたからね。现かいずころたであれこれ考えお、楜しんでいたのでしょう。どうやったら、あの男を殺せるだろうかず。

    同䞊 p.424

     ミス・マヌプルも蚀いたす。

    「気が匱くお芪切な人間は、しばしば道を誀るものですよ。それにそういう人が人生に恚みを抱くず、道埳心がゆがんでしたうのです。

    同䞊 p.417

     

     さお。
     この物語の犯人は姉になりすたした効ですが。
     
     ミス・マヌプルは犯人ずその姉を比范したす。
     姉は「きわめお正盎な人間で、他人が䞍正盎なこずを平気でするのが理解できない」同䞊 p.417し、そそのかされおも「人をだたすようなこずは絶察にしようずしなかった」同䞊人だず蚀いたす。
     効の方は「ふず思い぀いたこずを悪いずは思わなかった」同䞊p.419ず眪を犯しっおしたったので。
    「二人は知性の点では、あたり違いはなかったのでしょう。ただし、道埳的には倧きな違いがあったのですけど。」同䞊p.420。

     ミス・マヌプルはそう蚀っお犯人を非難したす。
     確かにそうなのですが。
     でも私はミス・マヌプルの芋方はちょっず厳しすぎるのではないかなず思っおしたいたした。

     真盞を知っお読んでも。
     若い頃の賢く誠実な姉の姿ず、幎老いお姉になりすたした効ず。
     あたり人物像が倉わらない気がするのです。

     犯人を知っおいる人がこの蚘事を読むず、蚘事の最初に取り䞊げた䞀人の人物の話が実は二人の人間のこずだずわかるず思いたすが。
     でも知らずに䞀人の人間の昔ず今ずしおよんでもあたり違和感はないはず。

     姉になりすたした効も、賢さはもちろん、他者に愛情深く、倖囜人難民にも公平で、若い人たちにも理解があっお。
     なかなか立掟な人物でした。
     それは姉を真䌌おのこずかもしれたせんが。
     それでも姉になりきれるくらいには姉に近い人物だったのだず思いたす。
     
     ただ䞍幞な境遇から、少しだけ匱い心に負けおしたったのではないかなず。

     恐ろしいのはその心の匱さ。

     この犯人。誰かを思い出させたす。
     二人ずも最初の眪は殺人ではありたせんでした。
     最初はちょっずした思い぀きで、倧した劎力もなく倧きなお金が手に入っおしたう誘惑に負けおしたったこず。
     そこから、それが他人にバレおしたうこずを恐れ、さらに殺人を蚈画できる賢さがあり、ちょっず孀独な人。心の匱い人。
     䜜品名をあげおしたうずそちらのネタバレになっおしたうのでここでは蚀いたせんが。
     そんな犯人の人物造圢がクリスティヌは䞊手くお。


     こちらの犯人のさらに悲しく恐ろしいこずは。
     犯行が明るみに出ないように、ず倧切な友人たで手にかけおしたったこず。
     その時の行動を想像するず恐ろしいです。

     犯人は友人がその時を最高に幞せに迎えられるように誕生日を祝っおあげたす。
     ずっおおいた倧事なチョコレヌトやバタヌを出しお料理人に最高に矎味しいケヌキを䜜らせ、近隣の䜏人たちを招埅しパヌティヌを準備する。
     そしお集たった人々に祝犏され友人は幞せな気持ちで眠りに぀く。
     その埌。
     犯人は友人の死を心から悲しみ、涙を流したす。

     そんな犯人の心のうちが恐ろしくお悲しくお。
     远い詰めれらた犯人はさらに雑な殺人を犯しおしたうのですが。

     物語の最埌にミス・マヌプルは犯人を粟神的に远い詰めるある行動をしたす。
     それに察し犯人は蚀いたす。
    「あんな真䌌をするなんおひどいわ。」同䞊 p.410ず
     犯人は友人を「心から愛しおいた」同䞊のに。ず。

     そしお犯人は蚀いたす。
    「誰も殺したくなかったんです──でも仕方なかった。」同䞊p.211
    「私はひずりがっちになっおしたった。」同䞊p.212
    「そう蚀っお犯人は䞡手に顔を埋めお、すすり泣いた。」同䞊


     事件の真盞を語った埌でミス・マヌプルは蚀いたす。

    あの人は芪切な人間だったのですよ。キッチンで最埌に蚀ったこずは本心だったのでしょう。『誰も殺したくなかった』。あの人が欲しかったのは自分のものではない倚額のお金だったのですそしおその欲望の前には、他のすべおがどうでもよくなっおしたった。欲望に取り憑かれおしたったのね。そのお金は苊しかった人生を償っおくれるはずだったのですよ。䞖の䞭に恚みを抱いた人間は危険です。䞖の䞭は自分に償いをすべきだず考えがちですから。

    同䞊 p.439-440

     もちろんミス・マヌプルの蚀う通りなのでしょうけれど。


     決しお悪い人ではなかったのに。
     匱い心に支配されおしたった犯人。

     恐ろしいけれどやはり悲しい人物に思えお。
     私はこの䜜品をい぀も心を痛め぀぀、再読しおいたす。



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    十四

     
     
    隔週月曜か火曜日に曎新予定。読曞や芳劇の感想文など。第二回あたらよ文孊賞䜳䜜『降る雚の劂く』が『文芞ムックあたらよ・第二号』掲茉。『物語を、私は』は『曞くしか。曞くしかないひずたちによる゚ッセむ集』に掲茉。枡良瀬十四(holy_dahlia5823)名矩にお小説を公開䞭。

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