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【SS】大切なことは

    水野明日香

    「レシートになんか書くからだよ。」
    「だって……。」
    やや大きめの声が店の真ん中から聞こえてきた。びっくりしたぁ。お盆にのせた水をこぼしそうになったよ。声の方を見てみると年配の女性と30代くらいの女性が向かい合わせに座っていた。どうやら親子みたいだ。娘さんらしき人がスマホを一生懸命操作しているのが見える。何の話かな?聞こえてくるかな?私は別のお客様にお水を出しながら聞き耳を立てていた。
    「ほら、できたよ、再設定。」
    「ありがとう!あぁ、助かった!」
    母親らしき人がホッとしたように娘さんからスマホを受け取っていた。
    「パスワードをレシートの裏に書くなんて、危ないからやめてよ。他の人に見られたらどうするのよ。」
    「そんなこと言ったって、手近にあったからついつい……。」
    「家にはメモ帳が山のようにあるんだから、そっちに書けばいいじゃないの。」
    どうやら設定したパスワードが分からなくなり、再設定も上手くいかなくて娘さんにSOSを送ったらしい。う〜ん。いくら手近にあったとはいえ、レシートのうらにパスワードを書くのはヤバいよね。
    「分かっているけど、どうしようもないのよ。どのメモ帳に書いたか忘れちゃうし。」
    「確かにねぇ。私もパスワードとか色々書いて分からなくちゃうからね。」
    「そうでしょうそうでしょう!」
    「でも!レシートの裏は本当にやめて。今回だって書いたレシートを他のゴミと一緒に捨てちゃったんでしょう?」
    「多分……、そうだと思う……。」
    なるほど。ゴミと一緒に捨てちゃったか。すぐに手帳とかに書き写せば良かったのに。でも後々どこに書いたか分からなくなっちゃうかな?だからといって貼り付けておくわけにもいかないし。娘さんはどうするのかな?
    「そうだ!今度そっちにお邪魔させてもらってもいい?お母さんのところにはメモやら手帳やらがたくさんあるから、その中のどれかをパスワード用いいのを選んであげる。」
    「えぇっ?でもどれに書いたか分かんなくなっちゃうと思うよ。今までそうだったんだから。」
    「だから、これに書いてあるってわかるのを選んであげる。ぱっと見だとパスワード帳とは分からないけどこれ!っていうのをね。」
    「でも……。」
    「私が選ぶんだから私も覚えるでしょう?今日みたいに忘れた!って時はあの手帳だよ、とか言ってあげられるから。もちろんお母さんが覚えやすいのを選んであげるから。」
    「そうね……。」
    考え込んでいるお母さん。さて、どうするのかな?
    「分かった。じゃあお願いするわ。」
    「決まり!じゃあ早速だけどいつがいい?」
    娘さんはそう言って自分のカバンからスケジュール帳を取り出している。良かった。無事に解決したようだ。
    「そうよね。大事なことなんだからそのへんの紙じゃなくてきちんとした物に書いておかないとね。」
    あぁ、またお客様から教訓をいただいた。大事なことだから私もメモしておかなきゃ。
    「おい、店の伝票使うなよ。」
    カウンターの向こうからマスターが声をかけてきた。
    「えっ?えっ?な、何のことですか?」
    「お前、時々店の伝票をメモ代わりにしてるだろう。」
    「あっ、バレてました?」
    「適当な紙に大事なことを書くなよ。まったく。」
    やっちゃった。せっかく教訓をもらったのに。私もまだまだだな。
    「それより奥の席のお客さんの注文、取ってこいよ。」
    「あ、は〜い。」
    「伝票、忘れるなよ。」
    私は慌ててカウンターの上にある伝票を掴んで奥の席へと向かった。わぁ、ヤバいヤバい。注文取るのに大事な伝票を忘れるところだった。やっぱり私はまだまだですね。


    こちらに参加しています。小牧部長、今週もよろしくお願いします🙇

    ギリギリセーフで間に合って良かった😭お久しぶりの喫茶店の店員さんがお客様から教訓を得るシリーズです。またひとつお勉強したようですね😊
    ヘッダーの写真は私の部屋にあったメモ帳手帳の一部です。棚卸しの成果なのですが、この倍以上あるんですよね😅とにかく使いまくろうと思う次第です😅😅

     
     
     
    田舎に住むシングルおばさんです。エッセイもどきや詩、小説を書いたりするのが好きです。

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