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カメラを片手に散歩をし、"盗撮"について考える

    できるだけ毎日散歩をすることにした。通勤でも買い物でもなく歩くために歩いてみると、どうもまわりにはすてきな光景がたくさんあるらしいことがわかってきた。雲ひとつない午前の空を飛ぶ赤いヘリコプター。揺れる木の葉。ちいさな自転車を傍に留め、ベンチに佇み川を眺める老人。壁にうつる自分の影。地下から地上へあがる階段から見上げる空。

    それらを横目に歩くだけでも充分楽しかったのだが、ふと、それらのような、自分の意識を一瞬もっていくものを写真におさめたくなった。どうせなら"カメラ"で撮影したくなったので、五万円ほどでちょっといいカメラを買うつもりでカメラ店へ突撃し、最終的に写ルンですを購入して撤退した。なんだか四万円が浮いた気分だ。

    さて、では、なにを撮るか。上述のとおり、目を奪うものには人間が多くふくまれた。二本の木の枝をクロスさせた剣を片手に歩く小学生。ハチャメチャにかわいいおべべを着た赤子。四匹の犬とともに歩く飼い主。手をつないで歩く中学生ふたり。カメラへと手を伸ばし——あれ? これは……盗撮ではないか?

    私は手を引っ込めた。

    盗撮。おそろしい響きだ。うっかりやってしまったらお縄になるんじゃないか。黙ってだれかを撮ったらもうアウトなんじゃないか。いや、でも、私はすでに見知らぬだれかが写り込んでいる写真(撮影目的はそのひとではない)をそこそこの枚数撮ってきているが、いまのところなにか言われた記憶はない。……ここで白状したことでつかまるとか、ないよな?

    盗撮の条件とはなんだろう。被写体となった人物が、自分が撮られていると知らないままに撮影されることを指す気がする。でも、なら、パパラッチはどうなるのだろう。かれらは被写体に許可なく写真を撮っている(たぶん)。探偵業は。フィクションから得たものだが、探偵は調査結果を示す証拠のためにひっそりと人物写真を撮るイメージがある。その他、テレビ番組のカメラマンとか、スナップ写真を撮っているひととかは? いずれも盗撮と呼べそうなことをしている気がするが、かれらが訴えられたとか警察につかまったとかいう話は聞いたことがない。知らないだけかもしれないが。仕事として撮影するならば盗撮ではなくなるのだろうか。それとも、私が盗撮について重大な勘違いをしているのか。

    煮詰まってきたところで盗撮について検索してみた。結果、盗撮の定義自体は自分がおもっていたものでほぼ間違いないようだった。では、盗撮したら即警察につかまるかどうかというと、そういうわけでもなく、被写体がたいしてダメージを受けなさそうな写真ならば許容されがち、というような感じらしい。つまり、私はつかまらずに済むようだ。そして、私がやろうとしていることは盗撮ではあるが犯罪行為にはならなそうである。仕事で勝手にだれかを撮影するのも、公然盗撮ということだろう。だからって、じゃあ、いざ! とはならないのだが。

    見知らぬひとにいきなりカメラを向けられたら、すくなくとも私は緊張するし警戒する。たとえ明らかに相手が風景を撮ろうとしていて、こちらのことなど眼中にないとわかっていてもだ。写真を撮られたことでなにか不利益をこうむったことはいまのところないのだが、なぜか怯えてしまう。なんなら知っているひとでも予告なく向けられたらちょっとまごつく。写真を撮られることが得意でないからかもしれない。じっさい、カメラロールに自分の写真はほとんどない。というか、もはや人物写真がほとんどない。となると、シンプルに私が人物写真が好きでないという話なのかもしれない。それを「盗撮かもしれない」という不安で上塗りしていたのかもしれない。人物写真が好きなひとなら唐突にカメラを向けられてもそこまで抵抗がなかったりするのだろうか? とはいえ、避けるに越したことはない気がする。

    ふと気になったが、こうして誰かを見かけたことを文字にするのは盗撮あつかいにはならないのか。もちろん、撮ってはいないのだから盗撮ではないのだが、こう、感覚的に。街で見かけたすてきなひとを描いたイラストをたまに見かけるが、あれはどうなのだろう。かくいう私もいくつかそういったものを描いて公開した記憶がある。あのときはまったく気にしていなかったが、あれは盗撮に似たなにかにはならないのだろうか。いちおう実在の人物をもとにしているわけだし。写真ほど本人そのものを写さないから別物ということになるのだろうか。写真よりも説得力がない、というべきか。たとえば、探偵が自分で描いた絵を証拠として依頼人に提出するのは無理があるだろう。

    結局、撮影するにあたって、人物は極力写らないようにした。空とか、鳥とか、建物とか、植物とかいったものばかりを撮っていった。人物がうっかり入りこむときはそのひとがいなくなるまで待ったりした。一枚だけ、鏡に映る自分を撮った。現像結果を見てみたら、フラッシュをたいたために顔が光りかがやいて真っ白になっていた。自分とは唯一気兼ねなく撮影できる人物なのだな、とおもった。

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