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第20章 ひとり、夢の外へ

    ――「さようなら」


     その声は、誰のものだったのだろうか。

     七人が同時に思い出した、たった一つの記憶。


     白いワンピースの少女――七瀬結月が、ひとり音楽室を出ていく。

     春の雨に濡れる石畳の上を、彼女はゆっくり歩いていった。


     見送る誰かがいた。


     誰かが、「自分ではない」誰かを選んだのだった。


      「……私だったんだ」


     陽葵が呟いた。


     「“観測者”……わたしが。……わたしが、七瀬ちゃんを置いてきた」


     その言葉に、皆が振り返る。

     だが、陽葵の目はどこか遠くを見ていた。


     「ずっと、記憶の奥で閉じ込めてた。

      七瀬ちゃんが“選ばれなかった”あの日のこと。

      “わたしが選ばれた”ことが、どうしても許せなかった」

     あの日、音楽室で提案されたのはユニットのメンバーを六人に絞ること。

     人数が多すぎて、学内コンペに出場できない。

     教師から提示された、残酷な条件。


     七人は迷い、話し合い、泣いて、それでも――誰かを選ばなければならなかった。


     最後に名前を書いたのは、陽葵だった。

     そして、七瀬の名前はそこになかった。


     「わたし、書かなかったの。七瀬ちゃんの名前を。

      でも、きっとほかの誰かも……そうだった」


     瑞希が泣きそうな目で呟いた。


     「みんな、七瀬を大事に思ってたのに……“自分じゃなければいい”って思ってたよね。

      だから、誰も声を上げなかった」


     「……そして、わたしたちは全員、その記憶を“夢”に封じ込めた」


      透が言う。


     「だから、この世界があるんだ。七瀬を忘れた罪と、記憶から切り捨てた痛み――

      それを乗り越えるまでの、“夢の中の贖罪”」


     陽葵は顔を上げた。

     「でも……もう一度、会いたい。謝りたい。七瀬ちゃんに」


     そのとき、音楽室の窓から光が差し込む。

     まるで夜が終わり、朝が訪れる合図のように。


     光の中で、陽葵の体が少しずつ透けていく。


     「……陽葵?」


     「わたし、もう行くみたい。

      “夢の外”へ。……だって、わたし、目を逸らさなくなったから」


     陽葵の表情には、不思議なほどの穏やかさがあった。


     「ありがとう、みんな。わたし、現実に戻って……七瀬ちゃんを“想い続ける”から」


     そう言って、陽葵は光に溶けるようにして消えていった。


     音楽室には、六人が残された。

     そして、七つの椅子。


     空席がひとつ、ぽつりと揺れていた。


     その椅子の背に、小さな文字が刻まれていた。


     「思い出すことは、罪じゃない」


     その言葉に、誰かがそっと頷いた。


     これが終わりではない。

     これは“目覚め”の始まり。


    (第20章・了)






     
     
     
    VIVANTまとめ 考察 独自の視点でしています マンデラエフェクト25年に気が付きました 小説、たまに書きます

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