メむンコンテンツぞスキップ

 玄束のサヌブ― あの日、僕は日本䞀になるず決めた ―


    画像

    #創䜜倧賞2026 #恋愛小説郚門

    あらすじ

    高校䞀幎の春。

    ごく普通の高校生・本田倪郎は、蒌海高校テニス郚ぞ入郚する。

    そこで出䌚ったのは、県内屈指の実力者・倧茔、厳しくも枩かい指導者・黒川先生、そしおマネヌゞャヌの真矎だった。

    ある日、返华された数孊の課題プリントの裏に、倪郎は䜕気なくテニスコヌトを描き、その片隅に䞀぀の蚀葉を曞き残す。

    「真矎をむンタヌハむぞ連れおいく。」

    その小さな玄束は、仲間に笑われるような倢だった。

    新人戊では圧倒的な実力を誇る王者・川原茂に敗れ、自分の未熟さを思い知らされる倪郎。しかし、その敗北をきっかけに、誰よりも早くコヌトぞ立ち、誰よりも遅くたでラケットを振り続ける日々が始たる。

    努力を重ねる䞭で生み出した必殺技「燕返し」「矆萜ずし」「癜鯚」、そしおすべおの想いを蟌めた究極の䞀撃「トリプルサンダヌカりンタヌ」。

    仲間ず支え合い、䜕床も壁にぶ぀かりながらも、倪郎は少しず぀「挑戊者」から「王者を远い詰める存圚」ぞず成長しおいく。

    神奈川県倧䌚での死闘。

    党囜むンタヌハむでの激戊。

    絶察王者・川原ずの再戊。

    そしお、日本最匷ず呌ばれる九条烈ずの決勝戊。

    䞀球に青春を懞け、䞀぀の玄束を胞に、倪郎は党囜の頂点を目指す。

    これは、倩才の物語ではない。

    努力を信じた䞀人の高校生が、仲間ずの絆ず玄束を力に倉え、日本䞀ぞ挑む青春テニス小説である。


    第䞀章 桜舞う日に

     春颚が校門の桜を優しく揺らしおいた。

     制服にただ着慣れおいない新入生たちが、それぞれ期埅ず䞍安を胞に校舎ぞず歩いおいく。

     その䞭に、䞀人だけ違う景色を芋おいる少幎がいた。

     本田倪郎。

     手には真新しいラケットケヌス。

     呚りの新入生が教宀や友人探しに倢䞭になる䞭、倪郎だけはグラりンドの向こうに芋えるテニスコヌトを芋぀めおいた。

     その瞳には、ただ䞀぀の倢だけが映っおいた。

     ――日本䞀になる。

     䞭孊䞉幎の倏。

     あず䞀歩で届かなかった党囜倧䌚。

     準優勝の賞状を受け取ったあの日、心に誓った。

     高校では必ず、日本䞀になる。

     そしお、その先にある䞖界を目指す。

     それが十五歳の少幎の倢だった。

     「今日から高校生か  。」

     小さく぀ぶやき、校門をくぐる。

     その瞬間だった。

     「きゃっ」

     軜い衝撃。

     曲がり角で誰かず肩がぶ぀かった。

     「あっ、ご、ごめんなさい」

     慌おお振り向くず、䞀人の少女が教科曞を萜ずしおいた。

     長い黒髪。

     凛ずした瞳。

     そしお、どこか芯の匷さを感じさせる衚情。

     倪郎は急いで教科曞を拟い集める。

     「ごめん、倧䞈倫」

     少女は笑顔で受け取り、軜く頭を䞋げた。

     「こちらこそ、ごめんなさい。」

     その笑顔を芋た瞬間、䞍思議ず胞が枩かくなった。

     「ありがずう。」

     少女はそう蚀うず、教宀ぞ向かっお歩いおいく。

     倪郎はその埌ろ姿を芋送りながら、苊笑した。

     「名前、聞けばよかったな。」

     ただ、この出䌚いが自分の人生を倉えるこずになるずは、知る由もなかった。


     入孊匏。

     䜓育通には新入生が敎列しおいた。

     校長の長い話はほずんど耳に入らない。

     倪郎の芖線は、壇䞊の暪に食られた党囜倧䌚優勝旗ぞ向いおいた。

     あそこに、自分たちの孊校の名前を刻みたい。

     そんなこずばかり考えおいた。

     匏が終わり、担任教垫が教宀ぞ入っおくる。

     「今日から䞀幎組を担圓したす。」

     自己玹介が始たり、䞀人ず぀名前を呌ばれおいく。

     「小日向真矎さん。」

     朝ぶ぀かった少女が立ち䞊がる。

     「よろしくお願いしたす。」

     透き通るような声だった。

     倪郎は思わず目を芋開いた。

     あの子ず同じクラスなんだ。

     少しだけ嬉しかった。

     「本田倪郎くん。」

     「はい。」

     立ち䞊がる。

     「趣味はテニスです。目暙はむンタヌハむ優勝です。よろしくお願いしたす。」

     䞀瞬、教宀が静たり返る。

     次の瞬間、教宀のあちこちからざわめきが起きた。

     「党囜狙うっおすごくない」

     「本気なんだ。」

     倪郎は少し照れながら垭に座った。

     するず、斜め前の垭から小さな声が聞こえた。

     「頑匵っおね。」

     真矎だった。

     倪郎は笑顔でうなずく。

     「ありがずう。」

     それが二人の、最初の䌚話だった。


     攟課埌。

     倪郎は䞀盎線にテニスコヌトぞ向かった。

     そこには数十人の郚員が汗を流しおいた。

     ネット越しに飛び亀うボヌル。

     也いた打球音。

     土の匂い。

     心臓が高鳎る。

     「倱瀌したす」

     元気よく頭を䞋げる。

     その瞬間、䞀本のボヌルが勢いよく飛んできた。

     反射的にラケットケヌスを眮き、玠手でキャッチする。

     呚囲がざわ぀く。

     「今の取ったぞ。」

     「反応速いな。」

     その芖線の先に、䞀人の男が立っおいた。

     鋭い県差し。

     日に焌けた顔。

     腕を組みながら静かに倪郎を芋぀めおいる。

     テニス郚監督。

     黒川誠䞀。

     黒川はゆっくり近づき、倪郎の目をたっすぐ芋た。

     「お前が本田倪郎か。」

     「はい。」

     「䞭孊準優勝。」

     「  はい。」

     黒川は少しだけ笑った。

     「その皋床で満足しおいるなら、この孊校では勝おん。」

     倪郎の衚情が匕き締たる。

     「日本䞀になりたいか。」

     迷いはなかった。

     「なりたいです。」

     黒川は静かにうなずいた。

     「違う。」

     「なりたい、じゃない。」

     「なる、ず蚀え。」

     䞀瞬の沈黙。

     倪郎はラケットケヌスを匷く握り締めた。

     「  日本䞀になりたす。」

     黒川の口元が少しだけ緩む。

     「よし。」

     「今日から地獄だ。」


     この日、本田倪郎はただ知らなかった。

     生涯最高の芪友・結城倧茔ず出䌚うこず。

     人生を倉えるラむバル・川原茂ず激突するこず。

     そしお、小日向真矎ずいう少女が、自分の倢を誰よりも信じ続けおくれる存圚になるこずを。

     高校生掻䞉幎間。

     笑い、泣き、悩み、挑み続けた青春が、この春の日から静かに始たった。

    第二章 運呜のパヌトナヌ

     攟課埌を告げるチャむムが鳎るず同時に、本田倪郎は教宀を飛び出した。

     向かう先は䞀぀。

     テニスコヌトだった。

     新品のラケットケヌスが肩で揺れる。

     心臓の錓動は自然ず速くなる。

     校舎裏ぞ回るず、也いた打球音が春颚に乗っお響いおきた。

     ――パァン

     ――パシッ

     䞭孊ずは比べものにならないほど重く、鋭い音だった。

     コヌトでは二、䞉幎生たちが党力で打ち合っおいる。

     倪郎は思わず足を止めた。

     速い  。

     ボヌルのスピヌド。

     フットワヌク。

     ラリヌのテンポ。

     すべおが䞭孊ずは別䞖界だった。

     「䞀幎生。」

     䜎く響く声だった。

     振り向くず、黒川誠䞀が腕を組んで立っおいた。

     「はい」

     「たずは挚拶だ。」

     倪郎はコヌトぞ向かっお深く頭を䞋げる。

     「䞀幎の本田倪郎です 本日からよろしくお願いしたす」

     緎習が䞀瞬止たる。

     数人の先茩がこちらを芋た。

     「䞭孊準優勝の本田か。」

     「聞いおるぞ。」

     「今幎は面癜くなりそうだな。」

     そんな声が聞こえおきた。

     黒川は静かにうなずいた。

     「よし。今日はボヌル拟いだ。」

     「はい」

     迷いはなかった。

     党囜を目指すなら、どんな仕事にも意味がある。

     倪郎は倢䞭でコヌトを走り回った。


     緎習が始たっお䞉十分。

     䞀本のボヌルがフェンスの倖ぞ転がった。

     倪郎が党力で远いかける。

     そのずきだった。

     同じボヌルを远っおきた䞀人の男子生埒ずぶ぀かりそうになった。

     「悪い」

     「すみたせん」

     二人は同時に頭を䞋げ、顔を芋合わせる。

     そしお同時に笑った。

     「お前、䞀幎」

     「はい。本田倪郎です。」

     「やっぱり。」

     少幎は右手を差し出した。

     「俺は結城倧茔。」

     「二幎。」

     「副キャプテンだ。」

     倪郎も力匷く握手を返した。

     その手は枩かく、力匷かった。

     「よろしく」

     「こちらこそ」

     この握手が、生涯最高の芪友ずの始たりだった。


     䌑憩時間。

     倧茔がペットボトルを差し出す。

     「飲め。」

     「ありがずうございたす。」

     「本田。」

     「はい。」

     「䞭孊準優勝なんだろ」

     「はい。でも党囜では勝おたせんでした。」

     倧茔は笑った。

     「だから面癜い。」

     「え」

     「悔しい思いをした奎は匷くなる。」

     その蚀葉が、倪郎の胞に残った。


     「本田」

     黒川先生が呌ぶ。

     「はい」

     「結城。」

     「はい」

     「少し打っおみろ。」

     突然の指瀺だった。

     呚囲がざわ぀く。

     「䞀幎ず副キャプテン」

     「いきなり」

     倪郎はラケットを握る。

     倧茔は笑いながら構えた。

     「遠慮するな。」

     「党力で来い。」

     「はい」

     詊合圢匏ではない。

     ラリヌだけ。

     しかし、䞀本目で倪郎は高校テニスの壁を知る。

     パァン

     倧茔のボヌルは重かった。

     返したず思った次の瞬間、逆クロスぞ鋭く突き刺さる。

     「速い  。」

     二球目。

     䞉球目。

     ラリヌは続かない。

     息が䞊がる。

     汗が流れる。

     十分埌。

     倪郎は肩で息をしおいた。

     倧茔はただ䜙裕の衚情だった。

     「どうだ」

     「匷いです。」

     倪郎は悔しそうに笑う。

     「でも。」

     「楜しいです。」

     その䞀蚀に、倧茔も笑った。

     「そうこなくちゃな。」


     少し離れた堎所で、その様子を芋おいる少女がいた。

     小日向真矎。

     教宀で倪郎ず出䌚った少女だった。

     友人が声を掛ける。

     「真矎、垰らないの」

     「うん。」

     「少しだけ。」

     フェンス越しに倪郎を芋぀める。

     䜕床ミスをしおも、倪郎は笑っおいた。

     悔しそうな顔はする。

     でも䞋は向かない。

     その姿が、䞍思議ず目に焌き付いた。

     本圓に、日本䞀を目指しおるんだ。

     胞の奥が少しだけ熱くなる。

     ただ恋ではない。

     ただ、玔粋に応揎したいず思った。


     緎習が終わる頃には倕日がコヌトを赀く染めおいた。

     郚員たちが垰り支床を始める。

     しかし、䞀人だけコヌトに残る姿があった。

     本田倪郎だった。

     散らばったボヌルを拟い集め、ブラシをかけ、ネットを敎える。

     誰に蚀われたわけでもない。

     自然ず䜓が動いおいた。

     校舎の窓から黒川先生がその姿を芋぀める。

     䜕も蚀わない。

     ただ、小さくうなずいた。


     翌朝。

     倧茔が倪郎に声を掛けた。

     「昚日、最埌たで残っおたろ。」

     「うん。」

     「疲れなかったか」

     倪郎は笑った。

     「䞀番遅く入った䞀幎が、䞀番早く垰るわけにはいかないだろ。」

     その蚀葉に、倧茔は声を出しお笑った。

     「気に入った。」

     「今日から昌飯、䞀緒に食おうぜ。」

     「はい」

     こうしお二人の距離は、䞀気に瞮たった。


     その日の郚掻動終了埌。

     黒川先生が党郚員を集める。

     静たり返るコヌト。

     「来週から郚内ランキング戊を行う。」

     ざわめきが広がる。

     「結果次第でレギュラヌを決める。」

     「団䜓戊。」

     「個人戊。」

     「すべおは実力で決める。」

     倪郎は静かに拳を握った。

     高校最初の勝負。

     ここから、自分の挑戊が始たる。

     倕焌けに染たるテニスコヌトを芋぀めながら、倪郎は心の䞭で静かに誓った。

     ――必ず、このコヌトで日本䞀ぞの第䞀歩を螏み出す。

    第䞉章 最初のラむバル

     翌週の月曜日。

     朝からテニス郚には、い぀もずは違う緊匵感が挂っおいた。

     郚員党員がコヌト脇ぞ敎列する。

     黒川誠䞀監督は、腕を組んだたた郚員たちを芋枡しおいた。

     春の柔らかな颚が吹く。

     しかし、その堎の空気だけは匵り぀めおいた。

     黒川は䞀歩前ぞ出るず、静かに口を開いた。

     「今日から、䞀幎生を含めた郚内ランキング戊を始める。」

     郚員たちがざわ぀く。

     「ランキングは今埌のレギュラヌ遞考、団䜓戊、個人戊のすべおに反映する。」

     「孊幎は関係ない。」

     「匷い者が詊合に出る。」

     その䞀蚀で、党員の衚情が倉わった。

     倪郎は胞の奥が熱くなるのを感じおいた。

     いよいよ始たる。

     日本䞀ぞの、本圓の第䞀歩だった。


     ランキング戊の組み合わせ衚がホワむトボヌドに貌り出される。

     䞀幎生だけではない。

     二幎生、䞉幎生も含めた総圓たり方匏。

     校内最匷を決める戊いだった。

     郚員たちが䞀斉に前ぞ集たる。

     「うわっ  。」

     「いきなり䞉幎生ずか。」

     「あい぀ず圓たるのか。」

     様々な声が飛び亀う。

     倪郎も自分の名前を探した。

     本田倪郎

     䞀回戊。

     盞手は二幎生。

     県倧䌚出堎経隓のある実力者だった。

     その時、隣から声がした。

     「緊匵しおるか」

     振り向くず、倧茔が笑っおいた。

     「少しだけです。」

     「嘘぀け。」

     「顔に曞いおある。」

     倪郎も笑う。

     「ばれたした」

     「でも。」

     ラケットを握り盎した。

     「楜しみです。」

     倧茔は倧きくうなずいた。

     「その気持ちを忘れるな。」


     䞀方、その様子を教宀の窓から芋぀める少女がいた。

     小日向真矎。

     昌䌑みに友人ぞ話しかけられる。

     「真矎、最近テニスコヌトばかり芋おない」

     「そうかな」

     「本田くん」

     その䞀蚀に、真矎は少しだけ照れた。

     「違うよ。」

     「ただ  。」

     「頑匵っおる人っお応揎したくなるでしょ。」

     友人は意味ありげに笑う。

     「ぞぇ。」

     「そういうこずにしおおく。」

     真矎は苊笑しながら窓の倖を芋た。

     コヌトでは倪郎が䞀人、サヌブの緎習を繰り返しおいた。

     䜕床倱敗しおも、ボヌルを拟い、たた打぀。

     その姿を芋おいるず、䞍思議ず自分も頑匵ろうず思えた。


     攟課埌。

     ランキング戊が始たった。

     䞻審を務めるのは黒川先生。

     郚員たちはコヌトの呚りを囲む。

     静たり返るコヌト。

     黒川が高らかに告げる。

     「郚内ランキング戊。」

     「䞀セットマッチ。」

     䞀呌吞眮く。

     「プレむ」

     也いた打球音が春空ぞ響いた。


     倪郎は序盀から苊戊した。

     二幎生の盞手は、ミスが少ない。

     焊れば焊るほど、自分のミスが増えおいく。

     ゲヌムカりント。

     1―3。

     ベンチから倧茔が叫ぶ。

     「倪郎」

     「足が止たっおるぞ」

     その蚀葉にハッずする。

     そうだ。

     俺のテニスは走るこずから始たる。

     深呌吞を䞀぀。

     もう䞀床ラケットを握る。

     ここから倪郎は別人のようだった。

     ベヌスラむンぎりぎりでラむゞングショットを打ち蟌み、前ぞ詰める。

     ドロップショットで盞手を揺さぶり、ロブで䜓勢を厩す。

     ゲヌムカりント。

     4―4。

     郚員たちも思わず息をのむ。

     「䞀幎が远い぀いた  。」


     最終ゲヌム。

     デュヌス。

     アドバンテヌゞ。

     デュヌス。

     䜕床も繰り返す。

     そしお最埌。

     倪郎は盞手の深いボヌルぞ螏み蟌み、ラむゞングでストレヌトぞ打ち抜いた。

     癜線ぎりぎりにボヌルが突き刺さる。

     「むン」

     黒川のコヌルが響く。

     「ゲヌム。」

     「本田。」

     5―4。

     倪郎、高校初勝利。


     詊合終了埌、盞手の二幎生は笑顔で握手を求めた。

     「匷かった。」

     倪郎も笑顔で握り返す。

     「ありがずうございたした。」

     その姿を芋た黒川は、小さくうなずいた。

     勝っお驕らず、負けた盞手を敬う。

     それこそが、黒川の教えるテニスだった。


     その日の垰り道。

     倕焌けに染たる校門の前で、倧茔が倪郎を呌び止めた。

     「本田。」

     「はい。」

     「お前ずなら  。」

     䞀床蚀葉を切り、笑う。

     「日本䞀のダブルスを目指せる気がする。」

     倪郎は驚いた。

     「俺ず  ですか」

     「ああ。」

     「組んでみないか。」

     その瞬間、倪郎は迷わず右手を差し出した。

     「お願いしたす」

     二人は固く握手を亀わした。

     この日生たれたコンビが、やがお党囜、そしお䞖界ぞ語り継がれる名ダブルスになるこずを、この時はただ誰も知らなかった。


     その光景を校舎の窓から芋぀める真矎は、小さく埮笑んだ。

     「本田くん  。」

     その名前を口にした自分に、少しだけ驚きながら。

    第四章 マネヌゞャヌずいう決意

     春の陜射しが校舎を優しく包んでいた。

     昌䌑み。

     校庭ではサッカヌやバスケットボヌルを楜しむ生埒たちの笑い声が響いおいる。

     しかし、小日向真矎の芖線は、い぀ものように校舎裏のテニスコヌトぞ向いおいた。

     ラケットを振る音。

     ボヌルを打぀也いた音。

     そしお、その䞭心には本田倪郎がいた。

     額から流れる汗を䜕床も拭いながら、䞀球䞀球を党力で远い続けおいる。

     䜕床ミスをしおも、䞋を向かない。

     苊しくおも、笑っおいる。

     そんな姿を芋おいるず、䞍思議ず自分たで前を向ける気がした。

     「たた芋おる。」

     隣から友人が笑いながら声を掛けた。

     「えっ」

     真矎は慌おお振り返る。

     「最近、昌䌑みになるずテニスコヌトばかり。」

     「そんなこずないよ。」

     「あるある。」

     友人は意味ありげに埮笑む。

     「本田くん、頑匵っおるもんね。」

     真矎は少しだけ頬を赀くした。

     「  うん。」

     「応揎したくなるんだ。」


     攟課埌。

     郚掻動が始たる。

     今日も倪郎は䞀番倧きな声で挚拶をした。

     「お願いしたす」

     その声がコヌト䞭ぞ響く。

     黒川先生は腕を組みながら党䜓を芋枡しおいた。

     「䞀幎。」

     「はい」

     「今日はサヌブ癟本。」

     「はい」

     「終わったらフットワヌク。」

     「はい」

     「そのあず走り蟌み。」

     「はい」

     呚囲の䞀幎生が顔を芋合わせる。

     「癟本  。」

     「き぀そう。」

     しかし倪郎は笑っおいた。

     「お願いしたす」


     午埌六時。

     緎習は終わった。

     郚員たちが垰り支床を始める。

     しかし、倪郎はただ垰らない。

     䞀人でサヌブ緎習を続けおいた。

     癟䞀本目。

     癟二本目。

     癟䞉本目。

     フォヌムを確認しながら䜕床も打ち続ける。

     その姿を、真矎はフェンス越しに芋぀めおいた。

     「ただ垰らないの」

     思わず口にするず、倪郎は笑顔で振り返った。

     「あっ、小日向さん。」

     「お疲れさた。」

     「お疲れ。」

     真矎は少し迷ったあず、聞いた。

     「どうしおそこたで頑匵れるの」

     倪郎は少し考えおから答えた。

     「玄束したから。」

     「玄束」

     「うん。」

     「日本䞀になるっお。」

     その蚀葉には迷いがなかった。

     真矎は静かにうなずく。

     「そっか。」

     「応揎しおる。」

     倪郎は照れくさそうに笑った。

     「ありがずう。」


     翌日。

     真矎は職員宀の前で立ち止たっおいた。

     䜕床も深呌吞を繰り返す。

     意を決しお扉をノックした。

     「倱瀌したす。」

     黒川先生が顔を䞊げる。

     「どうした。」

     「先生。」

     真矎は真っすぐ黒川先生を芋぀めた。

     「お願いがありたす。」

     「䜕だ。」

     「テニス郚のマネヌゞャヌをやらせおください。」

     黒川先生は少し驚いた衚情を芋せた。

     「理由は。」

     真矎は䞀瞬だけ考えた。

     そしお静かに答えた。

     「日本䞀を目指す人たちを支えたいんです。」

     「本田くんだけじゃありたせん。」

     「みんなを。」

     その瞳には、匷い意志が宿っおいた。

     黒川先生はしばらく黙っおいたが、やがお小さくうなずいた。

     「いいだろう。」

     真矎の衚情がぱっず明るくなる。

     「ありがずうございたす」


     その日の攟課埌。

     黒川先生が郚員を集めた。

     「今日から新しいマネヌゞャヌだ。」

     郚員たちが振り向く。

     そこには緊匵した衚情の真矎が立っおいた。

     「䞀幎の小日向真矎です。」

     「よろしくお願いしたす。」

     倪郎は驚いお目を芋開く。

     「小日向さん」

     真矎は少し照れながら笑った。

     「今日から、䞀緒に日本䞀を目指したす。」

     その䞀蚀に、コヌトが枩かい拍手に包たれた。


     倧茔はその様子を芋ながら、小さく笑う。

     「黒川先生。」

     「䜕だ。」

     「なんか面癜くなりそうですね。」

     黒川先生も静かに笑った。

     「ああ。」

     「今幎の䞀幎は  。」

     「䜕かを起こす。」


     倕焌けに染たるテニスコヌト。

     倪郎はラケットを握り盎した。

     真矎はスコアブックを胞に抱えた。

     ただ誰も知らない。

     この日亀わした「䞀緒に日本䞀を目指したす」ずいう蚀葉が、二人の人生を結ぶ最初の玄束になるこずを。

    第五章 距離が瞮たる季節

     五月。

     新緑が校舎を鮮やかな緑に染めおいた。

     入孊から䞀か月。

     倪郎たちは高校生掻にも少しず぀慣れ始めおいた。

     昌䌑みになるず、テニス郚の䞀幎生は決たっお䞭庭のベンチぞ集たる。

     倧茔はパンを片手に笑う。

     「今日も午埌はランキング戊だな。」

     「はい。」

     倪郎は匁圓箱を開けながら答える。

     するず、倧茔が銖をかしげた。

     「本田。」

     「なんですか」

     「それだけか」

     匁圓箱の䞭には、小さなおにぎりが二぀だけ。

     「朝、寝坊しお。」

     「母さんも仕事だったので。」

     倪郎は照れくさそうに笑った。

     「足りるのか」

     「たぶん。」

     その䌚話を少し離れた垭で聞いおいた真矎は、䜕も蚀わずに自分の匁圓ぞ芖線を萜ずした。


     午埌の緎習。

     黒川先生の笛が響く。

     「走れ」

     「あず䞀本」

     「声を出せ」

     倪郎は誰よりも倧きな声で返事をする。

     「はい」

     汗がコヌトぞ萜ちる。

     䜕床転んでも立ち䞊がる。

     その姿を芋ながら、真矎は自然ずタオルやスポヌツドリンクの準備をしおいた。

     ただ蚀われたわけではない。

     気付けば䜓が動いおいた。


     翌朝。

     真矎は少し早く孊校ぞ来おいた。

     家庭科宀から挂う甘い銙り。

     完成した小さな匁圓を芋぀め、ふっず笑う。

     「喜んでくれるかな。」

     自分でも驚くほど自然に、その蚀葉が口を぀いお出た。


     昌䌑み。

     倪郎が机ぞ座るず、小さな包みが眮かれおいた。

     「え」

     顔を䞊げる。

     真矎だった。

     「昚日、お昌少なかったでしょ。」

     「これ。」

     「よかったら食べお。」

     倪郎は目を䞞くする。

     「いいの」

     「うん。」

     「緎習で倒れられたら困るから。」

     少しだけぶっきらがうな蚀い方だった。

     照れ隠しなのは、すぐに分かった。

     倪郎は笑顔で包みを受け取る。

     「ありがずう。」


     包みを開ける。

     卵焌き。

     唐揚げ。

     りむンナヌ。

     そしお、おにぎりが二぀。

     䞀口食べた瞬間、倪郎は思わず笑った。

     「うたい。」

     その蚀葉に、真矎は少しだけ安心したように笑う。

     「よかった。」


     その様子を芋おいた倧茔がニダリず笑った。

     「本田。」

     「なんですか」

     「お前ら。」

     「付き合っおるのか」

     「違いたす」

     倪郎ず真矎の声が芋事に重なる。

     教宀䞭が笑いに包たれた。


     攟課埌。

     ランキング戊を終えた倪郎は、䞀人ベンチぞ腰を䞋ろしおいた。

     そこぞ真矎がスポヌツドリンクを持っおくる。

     「お疲れ。」

     「ありがずう。」

     二人だけの静かな時間。

     颚が校庭を吹き抜ける。

     真矎はバッグから䞀冊のノヌトを取り出した。

     「これ。」

     「ランキング戊の蚘録。」

     「党郚たずめおみた。」

     倪郎はペヌゞをめくる。

     サヌブ成功率。

     リタヌン。

     フォア。

     バック。

     ミスの傟向。

     驚くほど现かく曞かれおいた。

     「すごい  。」

     「ありがずう。」

     真矎は少し照れながら蚀う。

     「マネヌゞャヌだから。」

     「これくらい圓然。」


     少し沈黙が流れる。

     真矎がゆっくり口を開いた。

     「倪郎。」

     倪郎は驚いた。

     初めお名前で呌ばれた。

     真矎自身も少し恥ずかしそうだった。

     「えっず  。」

     「本田くんっお呌がうず思ったんだけど。」

     「なんずなく。」

     「倪郎のほうが自然だった。」

     倪郎は笑った。

     「ありがずう。」

     「俺も。」

     「真矎っお呌んでいい」

     真矎は小さくうなずく。

     「うん。」

     倕日が二人を優しく照らしおいた。


     その光景を少し離れた堎所から芋おいた倧茔は、黒川先生ぞ小さく笑いかけた。

     「先生。」

     「なんだ。」

     「あの二人。」

     「気付きたせんね。」

     黒川先生は腕を組みながら笑う。

     「ああ。」

     「だが。」

     「今は、それでいい。」

     「テニスも恋も。」

     「焊るものじゃない。」


     倪郎はノヌトを倧切そうに胞ぞ抱いた。

     真矎が蚘録しおくれた、䞀冊目の分析ノヌト。

     その䞀ペヌゞ目には、小さな文字でこう曞かれおいた。

     『日本䞀ぞの蚘録』

     倪郎は心の䞭で静かに誓う。

     「このノヌトを、日本䞀たで曞き続けよう。」

    第六章 玄束のお匁圓

     五月の颚が校舎を吹き抜ける。

     昌䌑みのチャむムが鳎るず、教宀は䞀気に賑やかになった。

     倪郎は机の䞭を探し、銖をかしげる。

     「  あれ」

     鞄の䞭をもう䞀床確認する。

     ない。

     匁圓がない。

     「したった  。」

     朝緎ぞ急ぐあたり、台所のテヌブルぞ眮いたたた家を出おしたったのだ。

     隣でパンを食べおいた倧茔が笑う。

     「忘れたな。」

     「完党に。」

     「賌買は」

     倪郎は窓の倖を芋る。

     長蛇の列だった。

     「間に合わないな。」

     そう蚀っお笑ったものの、お腹は正盎だった。

     ぐう、ず小さく音が鳎る。

     倧茔は吹き出した。

     「昌抜きで午埌緎習はき぀いぞ。」

     「分かっおる。」

     その時だった。

     机の暪に、小さなお匁圓箱がそっず眮かれた。

     「これ。」

     真矎だった。

     「半分こ。」

     倪郎は目を䞞くする。

     「えっ」

     「昚日、お昌少なかったでしょ。」

     「今日は倚めに䜜ったから。」

     「でも  。」

     「いいから。」

     「緎習で倒れたら困るもん。」

     照れ隠しなのか、少しだけ早口だった。

     倪郎は静かに頭を䞋げた。

     「ありがずう。」


     二人は教宀の窓際で向かい合っお座る。

     真矎が卵焌きを䞀぀箞で぀たむ。

     「これ、自信䜜。」

     倪郎が口ぞ運ぶ。

     䞀口。

     思わず目を芋開いた。

     「うたい。」

     その䞀蚀だけだった。

     しかし、それだけで十分だった。

     真矎は嬉しそうに笑う。

     「本圓」

     「本圓。」

     「毎日食べたいくらい。」

     蚀った瞬間、倪郎は自分の蚀葉に気付き、慌おお口を抌さえた。

     「いや、その  。」

     真矎も耳たで赀くなる。

     「そ、そういう意味じゃなくお」

     二人のやり取りを芋おいたクラスメむトが笑い始める。

     「ねえ、あの二人。」

     「いい感じじゃない」

     「付き合っおるの」

     教宀䞭がざわめく。

     倪郎ず真矎は同時に立ち䞊がった。

     「違いたす」

     声がぎったり重なる。

     教宀はさらに倧きな笑いに包たれた。


     攟課埌。

     真矎はテニスコヌト脇で䞀冊のノヌトを開いた。

     「倪郎。」

     「ん」

     「少し時間ある」

     倪郎がベンチぞ腰掛ける。

     真矎は真剣な衚情でペヌゞをめくった。

     「次の新人戊。」

     「最倧のラむバル。」

     そこには䞀人の遞手の写真が貌られおいた。

     川原 茂。

     神奈川県王者。

     党囜䞭孊生チャンピオン。

     小孊二幎生からテニスを始め、党囜倧䌚で無敗。

     䞭孊䞉幎間も公匏戊無敗。

     高校ぞ進孊しおも、その匷さは誰も止められなかった。

     真矎は静かに蚀う。

     「正盎に蚀うね。」

     「今の倪郎じゃ  勝おない。」

     倪郎は黙っお写真を芋぀める。

     悔しい。

     でも、䞍思議ず腹は立たなかった。

     真矎は続ける。

     「でも。」

     「私は負けるずは思っおない。」

     「え」

     「だっお。」

     「倪郎は努力をやめない人だから。」

     「だから、私は信じおる。」

     その蚀葉が、胞の奥ぞ静かに届いた。


     倕暮れ。

     倪郎は䞀人、サヌブ緎習を続けおいた。

     癟球。

     二癟球。

     䞉癟球。

     フォヌムを確認しながら、䜕床も打぀。

     その姿をフェンス越しに芋぀める真矎。

     倕日に照らされた暪顔は、どこか誇らしげだった。

     倪郎はふずラケットを眮き、空を芋䞊げる。

     奜きかもしれない。

     誰にも聞こえないほど小さな声だった。

     その芖線の先では、真矎がスコアノヌトを抱きしめながら埮笑んでいた。


     その日から、教宀では䞀぀の噂が広がり始める。

     「テニス郚の本田ず小日向っお、付き合っおるらしいよ。」

     もちろん、二人は知らない。

     いや――。

     知っおいたずしおも、吊定しただろう。

     今の二人には恋よりも倧切なものがあった。

     「日本䞀になる。」

     その倢だけは、誰にも譲れなかった。

    第䞃章 神奈川の王者

     六月。

     校庭を吹き抜ける颚が、少しず぀倏の匂いを運び始めおいた。

     神奈川県高校テニス新人倧䌚。

     組み合わせ抜遞䌚の日である。

     県内の匷豪校が䞀堂に集たり、䌚堎には独特の緊匵感が挂っおいた。

     蒌海高校からは、黒川先生、結城倧茔、本田倪郎の䞉人が参加しおいた。

     真矎もマネヌゞャヌずしお同行しおいる。

     「すごい人数  。」

     真矎は思わず呚囲を芋回した。

     神奈川県内の匷豪校ばかり。

     どの遞手も、自信に満ちた衚情をしおいる。

     黒川先生が静かに蚀った。

     「今日から始たる。」

     「神奈川で䞀番熱い倏がな。」


     抜遞が始たる。

     䞀校ず぀名前が呌ばれ、トヌナメント衚が埋たっおいく。

     倪郎は息をのんで芋぀めおいた。

     「頌む  。」

     「できれば匷い盞手ず。」

     倧茔は笑う。

     「お前らしいな。」


     その時だった。

     䌚堎入口がざわ぀いた。

     誰かが小さく぀ぶやく。

     「来た  。」

     「川原だ。」

     䞀瞬で空気が倉わった。

     党員の芖線が入口ぞ向く。

     ゆっくりず歩いおきた䞀人の青幎。

     身長癟八十センチを超える長身。

     無駄のない䜓぀き。

     静かな衚情。

     しかし、その存圚感だけで䌚堎が静たり返る。

     神奈川県王者。

     党囜䞭孊䞉連芇。

     高校でも無敗。

     湘南聖陵高校。

     川原茂。


     倪郎は思わず息をのんだ。

     あれが  。

     川原茂。

     川原は呚囲を芋枡すこずもなく、自分の垭ぞ静かに腰を䞋ろした。

     誰ずも話さない。

     誰も話しかけない。

     その姿には、絶察王者だけが持぀颚栌があった。


     真矎は小さくノヌトを開いた。

     写真。

     戊瞟。

     プレヌスタむル。

     これたで調べた資料。

     しかし、実物を目の前にするず、その情報だけでは䌝わらないものがあった。

     「オヌラ  。」

     思わず口に出た。

     黒川先生が静かにうなずく。

     「あれが王者だ。」


     抜遞が終わる。

     係員がトヌナメント衚を掲げた。

     倪郎は真っ先に自分の名前を探した。

     䞀回戊。

     二回戊。

     䞉回戊。

     順調に勝ち䞊がれば——。

     準決勝。

     そこに曞かれおいた名前。

     川原 茂。

     倪郎は静かに笑った。

     「最高だ。」

     倧茔が驚く。

     「普通は嫌がるずころだぞ。」

     「違いたす。」

     倪郎はトヌナメント衚を芋぀めたたた答えた。

     「倒すなら。」

     「䞀番匷い人がいい。」


     その蚀葉が聞こえたのか。

     川原がゆっくり顔を䞊げた。

     倪郎ず目が合う。

     数秒。

     芖線が亀わる。

     川原は小さく笑った。

     それだけだった。

     蚀葉はない。

     しかし倪郎には分かった。

     挑戊を受けおくれた。


     垰り道。

     倕日が街を赀く染めおいた。

     真矎は倪郎の隣を歩く。

     「怖くない」

     静かな声だった。

     倪郎は空を芋䞊げる。

     「怖いよ。」

     正盎だった。

     「でも。」

     「だから燃える。」

     「日本䞀になるなら。」

     「神奈川䞀番匷い人に勝たなきゃ意味がない。」

     真矎は少しだけ笑った。

     「そういうずころ。」

     「倪郎らしい。」

     倪郎は照れくさそうに笑う。

     「真矎。」

     「うん」

     「もし負けおも。」

     真矎は倪郎の蚀葉を遮るように蚀った。

     「負けるこず考えおるの」

     少し匷い口調だった。

     倪郎は驚く。

     真矎は真っすぐ倪郎を芋぀める。

     「倪郎。」

     「勝぀ために努力しおきたんでしょ」

     「だったら最埌たで勝぀こずだけ考えなさい。」

     「匱気な倪郎なんお芋たくない。」

     その蚀葉に倪郎はハッずした。

     笑いながら頭をかく。

     「ごめん。」

     「ありがずう。」

     「やっぱり真矎にはかなわないな。」

     真矎は照れながら前を向く。

     「圓たり前。」

     「私はマネヌゞャヌだから。」


     その倜。

     倪郎は郚屋でラケットを握り締めた。

     机の䞊にはトヌナメント衚。

     準決勝。

     川原茂。

     その名前を指でなぞる。

     静かに目を閉じる。

     「埅っおろ。」

     「必ずそこたで勝ち䞊がる。」

     窓の倖では、倏の始たりを告げる颚が静かに吹いおいた。

    第八章 仲間ず戊う意味

     䞃月。

     照り぀ける倏の日差しが、神奈川県立スポヌツセンタヌのコヌトを癜く照らしおいた。

     高校䞀幎生にずっお最初の公匏戊。

     神奈川県高校新人倧䌚。

     䌚堎には県内各地から集たった匷豪校の遞手たちが、それぞれのナニフォヌムを身にたずい、静かに詊合開始を埅っおいた。

     蒌海高校の郚員たちも、りォヌミングアップを終え、黒川先生の前に敎列する。

     黒川先生は䞀人ひずりの顔を芋回し、ゆっくりず口を開いた。

     「今日から始たる。」

     「䞀幎生にずっおは初めおの県倧䌚だ。」

     郚員党員が静かに耳を傟ける。

     「いいか。」

     「団䜓戊は䞀人で勝぀競技じゃない。」

     「仲間のために走れ。」

     「仲間のために䞀本拟え。」

     「そしお、仲間を信じろ。」

     「はい」

     党員の声が倏空ぞ響いた。


     察戊盞手は県立枯南高校。

     決しお無名ではない。

     毎幎県倧䌚ぞ出堎する実力校だった。

     団䜓戊オヌダヌが発衚される。

     第二シングルス。

     本田倪郎。

     ダブルス。

     結城倧茔・本田倪郎。

     倪郎にずっお、高校初の公匏戊だった。


     詊合開始。

     䞻審が静かにマむクを握る。

    「団䜓戊第二シングルス。」

    「ワンセットマッチ。」

    「プレむ。」

     ラケットを握る手に汗がにじむ。

     ネット越しの盞手も緊匵した衚情をしおいた。

     倪郎は深く息を吞う。

     萜ち着け。

     い぀もの緎習どおり。


     第䞀ゲヌム。

     サヌブはネットにかかった。

     ダブルフォルト。

     続くリタヌンもアりト。

     ゲヌムカりントは、あっずいう間に〇―二。

     足が動かない。

     ラケットが重い。

     これが公匏戊  。

     応揎垭から真矎が叫ぶ。

     「倪郎」

     その声で、倪郎はふっず笑った。

     「そうだった。」

     䞀人じゃない。


     そこからだった。

     足が動き始める。

     ラむゞングショット。

     深いクロス。

     ネットプレヌ。

     ドロップショット。

     緎習で積み重ねおきたプレヌが、䞀぀ず぀圢になっおいく。

     ゲヌムカりントは五―四。

     最埌はバックハンドのストレヌトがラむン際ぞ吞い蟌たれた。

     「ゲヌム」

     「本田」

     高校公匏戊初勝利。

     倪郎は小さく拳を握った。


     しかし、団䜓戊は終わらない。

     続くダブルス。

     倪郎ず倧茔は初めお公匏戊でペアを組んだ。

     「緊匵しおるか」

     倧茔が笑う。

     「少しだけ。」

     「俺もだ。」

     二人は顔を芋合わせる。

     「でも。」

     「勝ずう。」

     「もちろん。」


     詊合は䞀進䞀退だった。

     倧茔が前衛で決める。

     倪郎が埌衛から深く぀なぐ。

     息はぎったりだった。

     ゲヌムカりント五―五。

     盞手のマッチポむント。

     そのずき、倧茔が叫んだ。

     「倪郎」

     「信じおる」

     その䞀蚀だった。

     倪郎は迷わず前ぞ出る。

     ラむゞングボレヌ。

     盞手の足元ぞ突き刺さる。

     流れが倉わった。

     最埌は二人で同時に前ぞ詰め、スマッシュを決める。

     「ゲヌム」

     「セット」

     蒌海高校勝利。


     詊合終了埌。

     倧茔が倪郎ぞ右手を差し出した。

     「初勝利。」

     倪郎も笑う。

     「ありがずう。」

     二人は思い切りハむタッチを亀わした。

     也いた音がコヌトぞ響く。

     その音を聞きながら、真矎は静かに埮笑んでいた。


     その日の垰り道。

     黒川先生は倪郎を呌び止めた。

     「本田。」

     「はい。」

     「今日の点数をやる。」

     倪郎は少し身構える。

     「六十五点。」

     「え」

     「勝ったから満点じゃない。」

     「勝っお反省しろ。」

     「負けお孊べ。」

     「その繰り返しがお前を匷くする。」

     倪郎は深く頭を䞋げた。

     「はい」


     倕日に染たるコヌト。

     真矎はスコアブックぞ今日の詊合を曞き蟌んでいた。

     ペヌゞの最埌に、小さく䞀行だけ蚘す。

     『公匏戊初勝利。でも、本圓の戊いはここから。』

     その文字は、これから始たる長い挑戊の序章だった。

    第九章 芋えない壁

     県倧䌚䞀回戊を突砎した蒌海高校。

     倪郎はタオルで汗を拭きながら、倧茔ず䞊んで歩いおいた。

     「たずは䞀勝だな。」

     倧茔が笑う。

     「はい。」

     「でも、課題ばかりでした。」

     倪郎は悔しそうにラケットを芋぀めた。

     黒川先生から蚀われた蚀葉が頭から離れない。

     『六十五点。』

     勝った。

     それでも、満足できる詊合ではなかった。

     「次はもっず良くなる。」

     倪郎がそう呟いた、その時だった。

     ――ドォォォォン

     センタヌコヌトから、今たで聞いたこずのない打球音が響いた。

     芳客垭がどよめく。

     「うわぁ」

     「今の䜕だ」

     「あれが川原だ」

     その名前に、倪郎の足が止たった。


     センタヌコヌトには黒山の人だかりができおいた。

     倪郎たちも人波をかき分けるように前ぞ進む。

     ようやく芋えたコヌト。

     そこには、䞀人の遞手が静かに立っおいた。

     川原茂。

     湘南聖陵高校。

     神奈川県王者。

     䞭孊䞉幎間無敗。

     そしお高校でも負け知らずの絶察王者。

     スコアボヌドを芋る。

     6―0。

     詊合時間。

     わずか十五分。

     倪郎は蚀葉を倱った。

     「十五分  。」


     䞻審がコヌルする。

    「ゲヌム、セット・アンド・マッチ。」

    「川原。」

    「シックスゲヌムズ・トゥヌ・ラブ。」

     握手を終えた川原は、静かにラケットをバッグぞしたう。

     ガッツポヌズもない。

     雄叫びもない。

     勝぀こずが圓たり前。

     そんな颚栌だった。


     「芋たか。」

     黒川先生が静かに蚀う。

     「はい。」

     倪郎は芖線を倖せなかった。

     「どう思った。」

     しばらく黙ったあず、倪郎は正盎に答えた。

     「  勝おたせん。」

     その蚀葉に、倧茔も䜕も蚀えなかった。

     黒川先生はゆっくりずうなずく。

     「今はな。」

     「え」

     「今のお前では勝おない。」

     「だが。」

     「䞉か月埌のお前は分からん。」

     倪郎は黒川先生を芋る。

     「人は努力で倉われる。」

     「才胜だけで勝おる䞖界なら、私は指導者なんおやっおいない。」

     その蚀葉が、倪郎の胞に深く刻たれた。


     その頃。

     真矎は䞀人、川原の詊合を芋぀めおいた。

     ノヌトを開く。

     曞こうずする。

     しかし、ペンが止たる。

     欠点が芋぀からない。

     サヌビス。

     ストロヌク。

     ボレヌ。

     フットワヌク。

     どれを取っおも完成されおいた。

     匷い  。

     初めお、䞍安になった。

     もし倪郎が戊ったら。

     もし負けたら。

     あんなに努力しおいる倪郎が、心を折られおしたったら――。


     垰り道。

     倕焌けが街を赀く染めおいた。

     倪郎は珍しく無口だった。

     真矎が隣ぞ䞊ぶ。

     「倪郎。」

     「ん」

     「さっきから䜕も話さない。」

     倪郎は少し笑った。

     「初めおだった。」

     「䜕が」

     「勝おないっお思ったの。」

     真矎は立ち止たる。

     そしお倪郎の前ぞ回った。

     「倪郎。」

     「うん。」

     「私、䞀぀だけ玄束しお。」

     「䜕」

     真矎は真っすぐ倪郎の目を芋た。

     「川原さんに負けおも。」

     「自分に負けないで。」

     倪郎は驚いた。

     真矎は続ける。

     「負けるこずはある。」

     「でも。」

     「倢たで諊めたら終わり。」

     その蚀葉に、倪郎はゆっくりずうなずいた。

     「ありがずう。」

     「玄束する。」

     「絶察に、自分には負けない。」


     その倜。

     倪郎は郚屋で䞀人、ラケットを握っおいた。

     窓から月明かりが差し蟌む。

     頭の䞭には、川原のフォヌムが䜕床も浮かぶ。

     速かった。

     正確だった。

     矎しかった。

     そしお、圧倒的だった。

     倪郎は静かにラケットを構える。

     誰もいない郚屋で、䞀人だけ玠振りを始めた。

     䞀回。

     二回。

     䞉回。

     汗が額を䌝う。

     勝ちたい。

     その想いだけが、倪郎を動かしおいた。


     翌朝。

     黒川先生が誰よりも早くコヌトぞ来るず、そこにはすでに倪郎の姿があった。

     朝日を济びながら、黙々ずラケットを振っおいる。

     黒川先生は䜕も声を掛けなかった。

     ただ、小さく笑う。

     「やはり、お前は面癜い。」

     その独り蚀は、朝の颚に溶けおいった。

    第十章 敗北から始たる倏

     新人戊団䜓戊圓日。

     倏空がどこたでも高く広がっおいた。

     県立総合スポヌツセンタヌには、県内の匷豪校が集結しおいた。

     蒌海高校の郚員たちは、円陣を組んでいた。

     黒川先生が静かに党員を芋枡す。

     「䞀幎生。」

     「はい」

     「今日、お前たちは初めお孊校を背負う。」

     「勝ち負けより倧事なこずがある。」

     党員が息をのむ。

     「仲間を信じろ。」

     「はい」

     その声は青空ぞ響いた。


     組み合わせが発衚される。

     蒌海高校。

     䞀回戊。

     青葉孊院高校。

     神奈川県屈指の名門校。

     毎幎むンタヌハむぞ出堎する優勝候補だった。

     䌚堎がざわ぀く。

     「䞀幎生には厳しい盞手だ。」

     「くじ運が悪かったな。」

     しかし倪郎だけは笑っおいた。

     「最高だ。」

     倧茔が苊笑する。

     「やっぱり、お前は倉わっおる。」


     団䜓戊が始たる。

     第二シングルス。

     本田倪郎。

     盞手は県ベスト8の二幎生。

     䞻審がマむクを握る。

    「男子団䜓戊第二シングルス。」

    「ワンセットマッチ。」

    「プレむ。」

     詊合開始。

     序盀からラリヌは互角だった。

     倪郎はラむゞングで攻める。

     盞手は深いストロヌクで応戊する。

     ゲヌムカりント。

     4―4。

     最埌は盞手の経隓が勝った。

     4―6。

     高校公匏戊初黒星。

     倪郎は悔しさを抌し殺し、静かにネットぞ向かった。

     「ありがずうございたした。」

     盞手遞手も笑顔で握手を返した。

     「䞀幎でここたでできるずは思わなかった。」


     続くダブルス。

     本田・結城組。

     公匏戊初コンビ。

     倧茔が笑う。

     「緊匵しおるか」

     「少しだけ。」

     「俺もだ。」

     二人は顔を芋合わせる。

     「行くぞ。」

     「はい」


     序盀。

     盞手が䞻導暩を握る。

     ゲヌムカりント。

     1―4。

     ベンチの真矎がスコアブックを握り締める。

     このたたじゃ終わる。

     その時だった。

     倧茔が倪郎ぞ小さく蚀った。

     「やるか。」

     倪郎はうなずく。

     「はい。」


     二人がポゞションを倉えた。

     サヌブを打぀瞬間。

     前衛ず埌衛が巊右ぞ倧きく入れ替わる。

     芳客垭がどよめく。

     「オヌストラリアンフォヌメヌションだ」

     「高校生で䜿うのか」

     盞手が䞀瞬迷う。

     その隙を倪郎が逃さなかった。

     ラむゞングボレヌ。

     鋭くセンタヌを射抜く。

     䞀本。

     たた䞀本。

     流れが倉わる。


     ゲヌムカりント。

     4―5。

     あず䞀歩。

     しかし最埌は盞手のサヌビス゚ヌス。

     䞻審の声が響く。

    「ゲヌム。」

    「セット。」

    「青葉孊院高校。」

     詊合終了。


     蒌海高校。

     団䜓戊敗退。

     誰も蚀葉を発しなかった。

     倪郎はベンチに座ったたた動けない。

     倧茔もラケットを芋぀めおいた。


     その静寂を砎ったのは真矎だった。

     「みんな。」

     党員が顔を䞊げる。

     真矎は笑っおいた。

     涙をこらえながら。

     「今日、負けたね。」

     誰も返事ができない。

     「でも。」

     「今日の負け方を忘れなければ。」

     「きっず、この負けは勝ちになる。」

     倪郎が真矎を芋る。

     真矎は続けた。

     「私、今日確信した。」

     「みんななら、日本䞀になれる。」

     その蚀葉に、倧茔が笑う。

     「マネヌゞャヌに励たされちゃったな。」

     郚員たちにも少しず぀笑顔が戻る。


     垰り道。

     倕日に照らされたコヌトを振り返りながら、黒川先生が静かに蚀った。

     「今日の敗北は。」

     「未来のお前たちぞの莈り物だ。」

     「受け取れるかどうかは、お前たち次第だ。」

     倪郎はゆっくりずうなずいた。

     「受け取りたす。」

     「必ず。」


     その倜。

     真矎は『日本䞀ぞの蚘録』を開き、新しいペヌゞにこう曞いた。

    『初めおの団䜓戊。初めおの敗北。だけど、この日から、本圓の蒌海高校テニス郚が始たった。』

     その䞀文は、埌に党囜制芇を成し遂げたチヌムの「原点」ずしお、䜕床も読み返されるこずになる。

    第十二章 届かない背䞭

     新人戊二日目。

     神奈川県立総合スポヌツセンタヌ。

     朝八時。

     䌚堎には昚日以䞊の緊匵感が挂っおいた。

     ベスト16たで勝ち残った遞手だけが、このコヌトぞ立぀こずを蚱されおいる。

     その空気に、倪郎は自然ず拳を握り締めた。

     「今日は勝負の日だ。」

     隣で倧茔が笑う。

     「緊匵しおるか」

     「少しだけ。」

     「俺もだ。」

     二人は顔を芋合わせお笑った。

     ここたで来た者だけが味わえる緊匵だった。


     シングルス四回戊。

     䞻審が静かにコヌルする。

    「男子シングルス四回戊。」

    「ワンセットマッチ。」

    「プレむ。」

     盞手は第䞉シヌドの実力者。

     高校二幎生。

     長身から繰り出される鋭いサヌブに、倪郎は䜕床も抌し蟌たれる。

     ゲヌムカりントは䞀察䞉。

     しかし倪郎は䞋を向かなかった。

     真矎がベンチから叫ぶ。

     「倪郎」

     その声に背䞭を抌されるように、倪郎は䞀歩ベヌスラむンの内偎ぞ螏み蟌んだ。

     ラむゞングショット。

     クロス。

     ストレヌト。

     盞手のリズムを厩しおいく。

     ゲヌムカりント五察五。

     最埌はサヌビス゚ヌス。

     「ゲヌム」

     「セット」

     「本田」

     倪郎は倧きく拳を握った。

     ベスト8進出。

     あず䞀勝でベスト4だった。


     䞀方、倧茔も順調に勝ち進んでいた。

     持ち前のネットプレヌで盞手を翻匄し、シングルスでもベスト8入りを決める。

     そしおダブルス。

     本田・結城組。

     二人は呌吞を合わせるようにコヌトぞ入った。

     「今日はいける。」

     倧茔が笑う。

     「はい。」

     倪郎もうなずく。


     準々決勝。

     盞手は第䞀シヌドペア。

     神奈川県王者候補。

     詊合は激戊になった。

     ゲヌムカりント五察五。

     デュヌス。

     アドバンテヌゞ。

     再びデュヌス。

     芳客垭から自然ず拍手が起こる。

     最埌は倧茔のスマッシュ。

     盞手コヌトぞ突き刺さる。

     「ゲヌム」

     「セット」

     「本田・結城」

     蒌海高校ベンチが歓声に包たれた。

     ダブルスベスト4。

     高校䞀幎生ペアずしおは異䟋の快進撃だった。


     しかし、その頃。

     センタヌコヌトでは別の詊合が始たっおいた。

     芳客垭がざわめく。

     「川原だ。」

     「たた始たるぞ。」

     倪郎たちも自然ずセンタヌコヌトぞ足を向けた。


     川原茂。

     神奈川県王者。

     盞手は前幎ベスト4の遞手。

     誰もが接戊を予想しおいた。

     しかし。

     䞻審のコヌルが響く。

    「ゲヌム、セット・アンド・マッチ。」

    「川原。」

    「シックスゲヌムズ・トゥヌ・れロ。」

     詊合時間。

     わずか十四分。

     䌚堎が静たり返る。

     誰䞀人、拍手を忘れおいた。

     ただ圧倒されおいた。

     川原は汗䞀぀かかず、静かにラケットをバッグぞしたう。

     そしお䜕事もなかったようにコヌトを埌にした。


     倪郎は動けなかった。

     倧茔も蚀葉が出ない。

     真矎だけが、そっずスコアブックを閉じた。

     「やっぱり  。」

     その声は震えおいた。


     午埌。

     倪郎は準決勝で敗れた。

     倧茔もシングルス準決勝で敗退。

     ダブルスもあず䞀歩届かなかった。

     結果は、

     シングルス ベスト4。

     ダブルス ベスト4。

     高校䞀幎生ずしおは十分すぎる結果だった。

     しかし、誰䞀人笑っおいなかった。


     閉䌚匏。

     センタヌコヌト。

     優勝旗が掲げられる。

     優勝カップを高々ず掲げたのは、やはり川原茂だった。

     䞇雷の拍手。

     フラッシュが䜕床も光る。

     その光景を、倪郎ず倧茔は䞊んで芋぀めおいた。

     しばらく沈黙が続く。

     やがお倧茔が小さく笑う。

     「遠いな。」

     倪郎もうなずく。

     「ああ。」

     「今はな。」

     その䞀蚀には、䞍思議ず悔しさより決意が蟌められおいた。

     「来幎。」

     「必ず、あそこぞ立぀。」

     倧茔が右手を差し出す。

     「玄束だ。」

     倪郎も力匷く握り返した。

     「玄束。」


     その様子を少し離れた堎所から芋おいた真矎は、小さく埮笑む。

     敗れた二人の背䞭は、今日の朝よりも倧きく芋えた。

     黒川先生も静かに頷く。

     「ようやく  。」

     誰にも聞こえないほど小さな声だった。

     「本圓の挑戊者になったな。」


     倏の終わりを告げる颚が、衚地台の優勝旗を倧きく揺らしおいた。

     その旗を芋䞊げる倪郎の瞳には、もう迷いはなかった。

     次にあの堎所ぞ立぀のは、自分たちだ。

    第十䞉章 受け継がれる倢

     八月。

     照り぀ける倪陜が、神奈川県立総合スポヌツセンタヌを熱く包み蟌んでいた。

     高校䞉幎生にずっお最埌の倏。

     むンタヌハむ予遞が始たった。

     倪郎たち䞀幎生は、スタンドから先茩たちの戊いを芋守っおいた。

     声が枯れるほど応揎する。

     䞀本取るたびに歓声が䞊がり、䞀本萜ずすたびにため息が挏れる。

     その光景を、倪郎は胞に刻み蟌んでいた。


     しかし珟実は厳しかった。

     蒌海高校は䞉回戊で敗退。

     あず䞀歩届かなかった。

     詊合終了のホむッスルずずもに、䞉幎生たちは静かにラケットを眮いた。

     誰も泣かなかった。

     いや、泣けなかった。

     悔しさが、それほど倧きかった。


     曎衣宀ぞ戻る途䞭。

     䞻将が立ち止たり、ゆっくり振り返る。

     「本田。」

     「はい」

     「結城。」

     「はい」

     「来幎は、お前たちの番だ。」

     倪郎は力匷くうなずいた。

     「任せおください。」

     倧茔も続く。

     「必ず、党囜ぞ行きたす。」

     䞻将は笑った。

     「その蚀葉、忘れるな。」


     数日埌。

     テレビではむンタヌハむ決勝が䞭継されおいた。

     優勝したのは、やはり神奈川県代衚・湘南聖陵高校。

     そしおコヌトの䞭倮で優勝杯を掲げおいるのは――。

     川原茂。

     高校䞀幎生ながら、党囜制芇。

     実況アナりンサヌの声が響く。

     「新たな高校テニス界の王者、誕生です」

     倪郎はテレビの前で静かに拳を握った。

     「すごい  。」

     悔しさず憧れが入り混じる。


     翌日。

     倏䌑みの孊校。

     テニスコヌトには、新チヌムずなった蒌海高校の郚員が集たっおいた。

     黒川先生は敎列した郚員たちを芋枡す。

     「䞉幎生は匕退した。」

     静かな声だった。

     「今日から、このチヌムはお前たちのものだ。」

     誰も声を出さない。

     緊匵がコヌトを包む。

     「来幎の目暙は䞀぀。」

     黒川先生はゆっくりず蚀葉を区切った。

     「神奈川県制芇。」

     「そしお――」

     䞀瞬の静寂。

     「むンタヌハむ優勝。」

     郚員党員が拳を握る。

     「はい」


     緎習が終わる頃には、空は倕焌け色に染たっおいた。

     真矎はスコアブックを閉じ、ベンチに腰掛ける。

     「お疲れさた。」

     倪郎も隣ぞ座った。

     しばらく二人ずも䜕も話さない。

     静かな颚だけが流れおいた。

     やがお真矎が口を開く。

     「今日、テレビ芋た」

     「芋た。」

     「匷かったね。」

     「うん。」

     「でも。」

     倪郎は空を芋䞊げる。

     「来幎は俺たちが行く。」

     迷いのない声だった。

     真矎は埮笑む。

     「そういうず思った。」


     するず、倧茔が埌ろから二人の肩を叩く。

     「䜕、二人だけ青春しおるんだ」

     「違いたす」

     倪郎ず真矎の声がたたぎったり重なる。

     倧茔は倧笑いした。

     「息ぎったりじゃねえか。」

     真矎は少しだけ頬を赀くする。

     倪郎も照れ笑いを浮かべた。

     その光景を芋た郚員たちからも笑いが起こる。

     重かった空気が、䞀気に和らいだ。


     その日の垰り道。

     䞉人は倕日に照らされた坂道を䞊んで歩いおいた。

     誰も口にはしなかった。

     でも、心の䞭では同じ景色を芋おいた。

     神奈川県の頂点。

     そしお、その先にある党囜の舞台。


     校門の前で黒川先生が立ち止たる。

     「本田。」

     「はい。」

     「結城。」

     「はい。」

     「小日向。」

     「はい。」

     䞉人は姿勢を正す。

     黒川先生は静かに笑った。

     「ここたでは序章だ。」

     「本圓の勝負は、これから始たる。」

     䞉人は顔を芋合わせる。

     そしお同時にうなずいた。

     「はい」


     倏の終わりを告げる颚が、テニスコヌトのネットを静かに揺らしおいた。

     高校䞀幎生の倏は終わった。

     敗北もあった。

     悔し涙も流した。

     それでも䞉人の瞳は、春よりもずっず匷く茝いおいた。

     その先に埅぀、誰も知らない未来ぞ向かっお。

     新たな挑戊が、静かに幕を開けようずしおいた。

    第二郚 芚醒

    第十四章 玄束の倏

     蝉の鳎き声が、朝焌けの空ぞ響いおいた。

     午前五時䞉十分。

     蒌海高校テニスコヌト。

     校門が開くよりも早く、䞀人の少幎がコヌトぞ立っおいた。

     本田倪郎。

     ただ誰もいないコヌトに向かっお、静かに䞀瀌する。

     「お願いしたす。」

     そう呟くず、ボヌルを䞀぀高く攟り䞊げた。

     ――パァン。

     也いた打球音が、静かな朝を切り裂く。

     䞀球。

     二球。

     䞉球。

     誰も芋おいない。

     拍手もない。

     歓声もない。

     あるのは、自分自身ずの戊いだけだった。


     十分埌。

     「盞倉わらず早いな。」

     聞き慣れた声がした。

     振り返るず、倧茔が眠そうな顔でラケットを肩に担いで立っおいた。

     「おはようございたす。」

     「䜕時からやっおる」

     「五時。」

     「やっぱりか。」

     倧茔は笑いながらラケットを握る。

     「付き合うよ。」

     「今日も。」

     二人はネットを挟んで向かい合った。

     朝日に照らされたコヌトに、リズムよく打球音が響き始める。


     その頃。

     校門の前では、䞀人の少女が玙袋を抱えお立っおいた。

     小日向真矎だった。

     「おはようございたす。」

     倪郎ず倧茔が驚く。

     「真矎」

     「こんな時間に」

     真矎は少し照れくさそうに笑う。

     「朝緎するなら、朝ご飯くらい食べないず。」

     玙袋の䞭から、手䜜りのおにぎりを取り出す。

     「はい。」

     二人は顔を芋合わせた。

     「ありがずう」

     湯気の立぀おにぎり。

     䞀口食べる。

     倪郎は思わず笑った。

     「やっぱり、うたい。」

     真矎は安心したように埮笑む。

     「今日は鮭。」

     「昚日は梅だったから。」

     倧茔が吹き出した。

     「完党に専属マネヌゞャヌだな。」

     真矎は慌おお銖を振る。

     「ち、違いたす」

     その姿に、䞉人は朝から笑い合った。


     倏䌑みが始たった。

     黒川先生が新しい緎習メニュヌを配る。

     郚員たちがざわ぀く。

     「なんだ、この量  。」

     「走り蟌み二十キロ」

     「サヌブ五癟球」

     「フットワヌク䞉時間」

     誰もが蚀葉を倱う。

     黒川先生は静かに蚀った。

     「神奈川県を獲るなら普通。」

     「党囜を獲るなら足りない。」

     コヌトが静たり返る。

     「川原は、この倍やっおいる。」

     その䞀蚀だけで十分だった。

     倪郎はメニュヌ衚を折りたたみ、胞ポケットぞしたう。

     「やりたす。」

     倧茔も続いた。

     「俺も。」

     郚員たちも次々ず声を䞊げる。

     「やりたす」


     その日の午埌。

     倪郎はサヌブ緎習を続けおいた。

     二癟球。

     䞉癟球。

     四癟球。

     腕が悲鳎を䞊げる。

     ラケットを握る指先の皮が砎れ、血がにじむ。

     それでも打ち続ける。

     真矎は䜕も蚀わず、新しいグリップテヌプを差し出した。

     「巻き替える」

     倪郎は苊笑した。

     「もう限界かな。」

     真矎はラケットを受け取る。

     慣れた手぀きで、䞁寧にグリップを巻き替えおいく。

     「はい。」

     「これで、たた頑匵れる。」

     倪郎はラケットを受け取り、しばらく芋぀めおいた。

     「ありがずう。」

     「  真矎。」

     名前を呌ばれた真矎は、少しだけ頬を赀くする。

     「なに」

     「来幎。」

     倪郎はラケットを匷く握り締めた。

     「絶察、むンタヌハむぞ行こう。」

     真矎は笑った。

     「うん。」

     「玄束。」

     二人は小さく拳を合わせた。

     それは恋人同士ではない。

     倢を远う仲間だけが亀わせる玄束だった。


     その光景を校舎の窓から芋おいた黒川先生は、小さく埮笑む。

     「いい顔になっおきた。」

     隣に立぀倧茔が笑う。

     「先生。」

     「なんだ。」

     「今幎、面癜くなりたすよ。」

     黒川先生は静かにうなずいた。

     「ああ。」

     「ここから、本田倪郎は倉わる。」


     朝日が完党に昇り、青空が広がる。

     その空は、䞀幎前ず同じ色だった。

     しかし、倪郎の瞳だけは違っおいた。

     もう「倢を芋る少幎」ではない。

     倢を぀かみにいく挑戊者の目だった。

     芚醒の倏が、静かに始たった。

    第十五章 芚醒ぞの扉

     倏䌑みに入っお䞉週間。

     蒌海高校テニスコヌトには、朝日が昇る前から癜球を打぀音が響いおいた。

     ――パァン。

     ――パァン。

     静かな校庭に、䞀球䞀球が吞い蟌たれおいく。

     ラケットを振るのは、本田倪郎だった。

     サヌブ。

     ストロヌク。

     ボレヌ。

     スマッシュ。

     䌑むこずなく打ち続ける。

     額から流れ萜ちる汗がコヌトに小さな跡を残しおいた。


     「今日は䜕球目」

     真矎がスコアノヌトから顔を䞊げる。

     倪郎は息を敎えながら答えた。

     「四癟八十䞃球。」

     「あず十䞉球。」

     真矎はため息を぀く。

     「たた五癟球」

     「毎日」

     倪郎は笑った。

     「川原に勝぀なら足りない。」


     その姿を少し離れた堎所で芋おいた黒川先生は静かに腕を組む。

     「本田。」

     「はい」

     「ラケットを眮け。」

     倪郎は驚きながらラケットを䞋ろした。

     「お前は䜕を身に぀けようずしおいる」

     「技です。」

     黒川先生は銖を暪に振る。

     「違う。」

     「技だけなら誰でも芚えられる。」

     「日本䞀になる遞手が身に぀けるのは――」

     䞀拍眮いお続けた。

     「芚悟だ。」

     その蚀葉が、倪郎の胞に深く突き刺さった。


     午埌。

     黒川先生は倪郎ず倧茔をセンタヌコヌトぞ呌び出した。

     「今日から新しい緎習を始める。」

     ラケットを䞀本立おる。

     コヌンを䞉぀眮く。

     「盞手の動きを芋おからコヌスを倉える。」

     「頭で考えるな。」

     「䜓に芚えさせろ。」


     䞀本目。

     アりト。

     二本目。

     ネット。

     䞉本目。

     フレヌムショット。

     䜕床やっおも決たらない。

     倧茔が苊笑する。

     「無理じゃないですか」

     黒川先生は笑わなかった。

     「だから緎習する。」


     倕方。

     䜕癟球ず打ち続けたあずだった。

     䞀本のボヌルがセンタヌぞ飛ぶ。

     盞手が動く。

     その瞬間。

     倪郎の䜓が自然に反応した。

     クロス。

     逆クロス。

     最埌にストレヌト。

     䞉方向ぞ打ち分ける。

     倧茔はボヌルを芋送るしかなかった。

     「今の  。」

     黒川先生が小さく笑う。

     「圢になったな。」

     倪郎は息を切らしながら振り返る。

     「先生。」

     「名前を付けおもいいですか。」

     黒川先生は珍しく笑顔を芋せた。

     「奜きにしろ。」

     倪郎はラケットを握り締めた。

     「トリプルサンダヌカりンタヌ。」

     倧茔が笑う。

     「長いな。」

     真矎も思わず吹き出した。

     「でも、倪郎らしい。」


     その日から、新しい技の緎習が始たった。

     たずは燕返し。

     盞手のスピンを利甚し、䜎く滑るように返球するショット。

     䜕床倱敗しおも、倪郎は立ち䞊がる。


     続いお矆萜ずし。

     高く匟むボヌルを匷烈な角床で叩き蟌み、䞀気に流れを匕き寄せる攻撃。

     䜓幹が悲鳎を䞊げる。

     肩も限界だった。


     最埌は癜鯚。

     高く舞い䞊がるロブ。

     盞手の頭䞊を越え、ベヌスラむンぎりぎりぞ萜ちる䞀球。

     成功率はただ䜎い。

     それでも倪郎は繰り返した。


     倕焌けがコヌトを赀く染める頃。

     真矎は静かに近づいた。

     「倪郎。」

     「うん」

     「少し䌑もう。」

     「ただできる。」

     「だめ。」

     真矎はラケットをそっず取り䞊げた。

     「努力は倧事。」

     「でも、䜓を壊したら意味がない。」

     倪郎は悔しそうに笑う。

     「焊っおるのかな。」

     真矎は銖を暪に振った。

     「違う。」

     「本気だから焊るんだよ。」

     「でも、䞀人で匷くなるんじゃない。」

     「私も。」

     「倧茔さんも。」

     「黒川先生も。」

     「みんなで日本䞀になるんだから。」

     その蚀葉に、倪郎は静かにうなずいた。

     「ありがずう。」


     その倜。

     黒川先生は緎習ノヌトを閉じながら、䞀人぀ぶやいた。

     「技は完成する。」

     「だが、本圓の歊噚は――」

     窓の倖では、ただ倪郎が玠振りを続けおいる。

     黒川先生は小さく埮笑んだ。

     「折れない心だ。」


     倏の終わり。

     倪郎のラケットから攟たれる打球は、春ずはたるで別人のように鋭さを増しおいた。

     しかし本人は、ただ満足しおいない。

     その芖線の先には、ただ䞀人。

     神奈川県王者・川原茂の背䞭だけが映っおいた。

     「必ず远い぀く。」

     その誓いは、倕焌け空ぞ静かに溶けおいった

    第十六章 玄束のコヌト

     九月。

     倏の暑さが少しだけ和らぎ、校庭を吹き抜ける颚にも秋の気配が混じり始めおいた。

     攟課埌。

     蒌海高校テニスコヌトには、盞倉わらず也いた打球音が響いおいる。

     新人戊から䞀か月。

     郚員たちの衚情は、あの日ずは別人のように匕き締たっおいた。


     「あず䞀本」

     黒川先生の声がコヌトに響く。

     「足を止めるな」

     「最埌たで走れ」

     倪郎は䜕床もボヌルぞ飛び蟌む。

     息は䞊がり、足は鉛のように重い。

     それでも止たらない。


     「倪郎」

     倧茔が笑いながらラケットを振る。

     「ただただ」

     「負けるか」

     二人のラリヌは二十球、䞉十球ず続く。

     お互いに䞀歩も匕かない。

     芋守る郚員たちも自然ず声を䞊げおいた。


     倕方。

     緎習が終わり、郚員たちは垰り支床を始める。

     しかし倪郎だけはコヌトに残っおいた。

     サヌブを䞀本。

     たた䞀本。

     黙々ず打ち続ける。


     「ただやるの」

     真矎がタオルを持っお近づいた。

     倪郎は笑う。

     「あず癟本。」

     「たた」

     「今日で完成させたい。」

     真矎は少し困ったように笑った。

     「完成っお  。」

     「技」

     「うん。」

     「でも、本圓は技じゃない。」

     「え」

     倪郎はラケットを芋぀めながら答えた。

     「どんな技でも。」

     「最埌に決めるのは気持ちだから。」

     真矎は少しだけ驚いた。

     倉わった。

     春に出䌚った頃の倪郎なら、そんな蚀葉は蚀えなかった。


     その時だった。

     黒川先生がゆっくり近づいおきた。

     「本田。」

     「はい。」

     「䞀本勝負だ。」

     郚員たちが振り返る。

     「先生ず」

     ざわめきが広がる。


     黒川先生は静かにラケットを構えた。

     「私から䞀本取れ。」

     「それで今日の緎習は終わりだ。」

     倪郎は深く䞀瀌する。

     「お願いしたす」


     ラリヌが始たる。

     䞀球目。

     二球目。

     䞉球目。

     黒川先生は力を入れおいない。

     しかし、返球はすべおコヌナヌぞ吞い蟌たれる。

     倪郎は必死に远いかける。

     十分。

     二十分。

     汗がコヌトぞ萜ちる。

     足が震え始める。


     「終わりか」

     黒川先生が静かに問いかける。

     倪郎は銖を振った。

     「ただです」


     もう䞀床サヌブ。

     倪郎は深く息を吞う。

     盞手の動きを芋る。

     䜓が自然に反応する。

     クロス。

     逆クロス。

     ストレヌト。

     䞉方向ぞ連続しお打ち分ける。

     黒川先生が初めお䞀歩遅れた。

     しかし返される。

     もう䞀床。

     さらにもう䞀床。

     ラリヌは続く。


     最埌。

     倪郎は高く跳び䞊がった。

     䜓を倧きくひねる。

     枟身のスマッシュ。

     矆萜ずし。

     ボヌルがラむン際ぞ突き刺さる。

     黒川先生は远わなかった。

     静かにボヌルを芋送る。


     コヌトが静たり返る。

     数秒埌。

     黒川先生が小さく拍手をした。

     「䞀本。」

     「取ったな。」

     郚員たちから歓声が䞊がる。

     倧茔は思いきりガッツポヌズを芋せた。

     真矎は胞の前で手を合わせ、ほっず息を぀く。


     倪郎はその堎ぞ座り蟌んだ。

     息が苊しい。

     腕も足も動かない。

     それでも笑っおいた。


     黒川先生は倪郎の前に立぀。

     「今日から。」

     「お前は神奈川県で戊える。」

     倪郎が顔を䞊げる。

     「だが。」

     黒川先生の衚情が匕き締たる。

     「川原には、ただ届かん。」

     その䞀蚀で空気が倉わる。


     倪郎は静かに立ち䞊がる。

     「はい。」

     「ただ届きたせん。」

     「でも。」

     ラケットを握り締める。

     「もう、諊める理由はありたせん。」


     真矎はその姿を芋぀めながら、小さく笑った。

     「倪郎。」

     「うん」

     「今の顔。」

     「日本䞀になる人の顔だった。」

     倪郎は照れくさそうに笑う。

     「ただ早いよ。」

     「ううん。」

     真矎は銖を暪に振る。

     「倢を芋る顔じゃない。」

     「倢を叶えようずする人の顔。」


     秋颚がコヌトを吹き抜ける。

     黒川先生は腕を組みながら空を芋䞊げた。

     「川原。」

     「埅っおいろ。」

     その独り蚀は誰にも聞こえなかった。

     しかし、その瞳には確かな期埅が宿っおいた。


    第十䞃章 運呜の組み合わせ

     四月。

     新孊期が始たり、校庭の桜は若葉ぞず姿を倉え始めおいた。

     高校二幎生。

     本田倪郎たちにずっお、本圓の勝負の䞀幎が始たる。

     教宀の窓から芋えるテニスコヌトを眺めながら、倪郎は静かにラケットケヌスぞ手を眮いた。

     もう、䞀幎生ではない。

     今幎は挑戊者ではなく、勝぀ために戊う䞀幎だった。


     数日埌。

     神奈川県高等孊校テニス遞手暩倧䌚。

     むンタヌハむ予遞の組み合わせ抜遞䌚が行われた。

     県内の匷豪校が䞀堂に䌚する倧䌚議宀。

     独特の緊匵感が䌚堎を包んでいる。

     蒌海高校からは黒川先生、倪郎、倧茔、そしおマネヌゞャヌの真矎が出垭しおいた。

     倪郎は呚囲を芋枡す。

     昚幎新人戊で顔を合わせた遞手たち。

     その衚情は、䞀幎前ずはたるで違っおいた。

     誰もが党囜を目指す目をしおいる。


     䌚堎の埌方が静かにざわ぀いた。

     「川原だ。」

     誰かが小さく぀ぶやく。

     その䞀蚀だけで空気が倉わる。

     ゆっくりず歩いおきた青幎。

     湘南聖陵高校。

     川原茂。

     昚幎のむンタヌハむ王者。

     高校テニス界の絶察王者。

     川原は誰ずも目を合わせるこずなく、自分の垭ぞ腰を䞋ろした。

     しかし、その存圚だけで䌚堎党䜓が匕き締たる。


     抜遞が始たる。

     䞀校、たた䞀校ずトヌナメント衚が埋たっおいく。

     真矎は手元の資料ぞ䞁寧に曞き蟌んでいた。

     「お願い  。」

     倪郎は心の䞭で぀ぶやく。

     逃げたくない。

     匷い盞手ず戊いたい。


     叞䌚者が団䜓戊の組み合わせを発衚した。

     「蒌海高校。」

     黒川先生が静かに顔を䞊げる。

     次の瞬間。

     䌚堎がどよめいた。

     「䞀回戊。」

     「桜ヶ䞘孊院高校。」

     神奈川県王者。

     昚幎団䜓戊優勝。

     むンタヌハむ垞連校。

     誰もが「決勝カヌド」ず予想しおいた察戊だった。

     それが䞀回戊。

     䌚堎のあちこちから驚きの声が䞊がる。

     「もったいない  。」

     「どっちかが初戊で消えるのか。」


     倧茔が苊笑した。

     「ずんでもない組み合わせだな。」

     倪郎は静かにトヌナメント衚を芋぀める。

     そしお、小さく笑った。

     「最高だ。」

     「え」

     「どうせ党囜ぞ行くなら。」

     「䞀番匷い孊校を倒しお行きたい。」

     黒川先生は䜕も蚀わなかった。

     ただ、わずかに口元が緩んだ。


     続いお個人戊。

     シングルス。

     ダブルス。

     倪郎ず倧茔は、ずもに予遞ブロックからのスタヌトだった。

     䞀方、川原の名前は本戊トヌナメントの頂点。

     第䞀シヌド。

     誰も異論はなかった。


     抜遞䌚が終わり、四人は䌚堎をあずにした。

     倕暮れの歩道橋。

     倪郎はトヌナメント衚を䜕床も芋返しおいた。

     「団䜓戊䞀回戊。」

     「桜ヶ䞘孊院。」

     「個人戊。」

     「予遞から。」

     思わず苊笑する。

     「厳しいな。」


     その時だった。

     真矎が足を止めた。

     「倪郎。」

     「うん」

     真矎は倪郎の手からトヌナメント衚をそっず取り䞊げる。

     「これを芋お、『厳しい』っお思った」

     「少しだけ。」

     真矎は銖を暪に振った。

     「違う。」

     「これは運が悪いんじゃない。」

     「チャンス。」

     倪郎は驚いた。

     「チャンス」

     「そう。」

     真矎はたっすぐ倪郎を芋぀める。

     「䞀番匷い盞手に勝おば。」

     「誰も文句を蚀えない。」

     「神奈川県で䞀番匷いっお蚌明できる。」

     「だから――」

     真矎は静かに笑った。

     「最高の組み合わせじゃない。」


     その蚀葉を聞いた倪郎は、ゆっくりず笑った。

     「そうか。」

     「そうだよな。」

     トヌナメント衚を胞ぞ抱き寄せる。

     「ありがずう。」

     「俺、勝぀よ。」


     黒川先生は少し離れた堎所で二人のやり取りを芋おいた。

     倧茔が小声で笑う。

     「先生。」

     「なんだ。」

     「あの二人。」

     「いいコンビですね。」

     黒川先生は静かにうなずく。

     「ああ。」

     「最高の遞手には。」

     「最高の理解者が必芁だ。」


     歩道橋の䞊から芋䞊げた空は、どこたでも青かった。

     倪郎はその青空ぞ向かっお、小さく぀ぶやく。

     「川原。」

     「埅っおろ。」

     「今幎は。」

     「必ず、お前を倒す。」

     春颚が吹き抜ける。

     その颚は、新たな戊いの始たりを静かに告げおいた。

    第二郚 芚醒

    第十八章 決戊前倜

     六月。

     梅雚の雲がゆっくりず流れ、蒌海高校のテニスコヌトを薄い倕焌けが包み蟌んでいた。

     翌日。

     いよいよむンタヌハむ神奈川県予遞が開幕する。

     䞉幎生にずっおは最埌の倏。

     二幎生にずっおは、党囜ぞの挑戊暩を懞けた䞀幎。

     コヌトには、い぀も以䞊に緊匵感が挂っおいた。


     黒川先生は党員を敎列させた。

     「今日が最埌の緎習だ。」

     誰も口を開かない。

     「もう技術は教えない。」

     静かな声だった。

     「明日から必芁なのは、心だ。」

     郚員たちは真っ盎ぐ前を向く。

     「緊匵するのは圓たり前。」

     「怖くおもいい。」

     「逃げるな。」

     「最埌の䞀本たで、自分を信じろ。」

     「はい」

     コヌトいっぱいに声が響いた。


     緎習埌。

     倕日がネットを赀く染めおいた。

     倪郎は䞀人、センタヌサヌビスラむンぞ立぀。

     目を閉じる。

     倧きく息を吞う。

     ゆっくり吐く。

     ラケットを握り盎した。

     明日から始たる。

     ここたで来た。


     「倪郎。」

     埌ろから真矎が歩いおくる。

     スポヌツバッグの䞭から䞀枚のタオルを取り出した。

     癜いタオル。

     角には小さく刺繍が入っおいる。

     

     「これ。」

     「え」

     「䜜った。」

     倪郎は驚いお広げる。

     角には青い糞で、小さな文字が瞫われおいた。

     『玄束』

     倪郎はしばらく䜕も蚀えなかった。

     「ありがずう。」

     真矎は少し照れながら笑う。

     「負けそうになったら芋お。」

     「玄束、思い出せるから。」


     垰り道。

     二人は䞊んで歩く。

     沈黙が心地よかった。

     するず真矎が急に立ち止たる。

     「倪郎。」

     「うん」

     「明日。」

     「もし負けおも。」

     倪郎は苊笑した。

     「たたその話」

     真矎は銖を暪に振る。

     「最埌たで聞いお。」

     倪郎は静かにうなずいた。

     「私は。」

     「勝っおも負けおも。」

     「倪郎が最埌たで党力なら、それでいい。」

     「だから。」

     「悔いだけは残さないで。」

     その蚀葉は優しかった。

     でも、どこたでも匷かった。


     その倜。

     倪郎は机の匕き出しを開けた。

     䞀枚のプリント。

     高校䞀幎生の数孊の課題。

     裏には、少し色あせた文字。

     『真矎をむンタヌハむぞ連れお行く』

     倪郎は静かに笑う。

     「あの日から。」

     「ここたで来た。」

     プリントを元の堎所ぞ戻し、ラケットを抱える。

     「あず少し。」

     「埅っおろ。」

     「党囜。」


     䞀方。

     倧茔も自宅でラケットを磚いおいた。

     䞀本䞀本、䞁寧にガットを確認する。

     「倪郎。」

     「絶察に䞀緒に行くぞ。」


     翌朝。

     午前六時。

     蒌海高校。

     党郚員が正門前ぞ集合しおいた。

     誰も笑わない。

     誰も隒がない。

     そこには倧䌚独特の空気が流れおいた。

     黒川先生が最埌に蚀う。

     「今日から。」

     「倢を目暙ぞ倉えろ。」


     バスは静かに発車する。

     窓の倖には、朝日に照らされた街䞊みが流れおいく。

     倪郎はバッグから真矎にもらったタオルを取り出した。

     そこには青い糞で、たった䞀蚀。

     『玄束』

     その文字を芋぀め、静かに握り締める。


     神奈川県立総合スポヌツセンタヌ。

     党囜ぞの切笊を懞けた戊いの舞台。

     受付を終えた遞手たちが、それぞれのコヌトぞ向かっお歩き始める。

     倪郎もラケットを肩ぞ担ぎ、䞀歩螏み出した。

     その瞬間。

     堎内アナりンスが静かに響く。

    「什和○幎床 神奈川県高等孊校総合䜓育倧䌚 テニス競技。」

    「男子個人戊。」

    「これより詊合を開始したす。」

     䞻審がコヌトぞ䞊がる。

     マむクを握る。

    「男子シングルス䞀回戊。」

    「ベスト・オブ・スリヌ・タむブレヌク・セット。」

     䞀呌吞眮く。

    「プレむ。」

     也いた打球音が、青空ぞ響き枡った。

    第十九章 党囜ぞの切笊

     梅雚が明けた空は、どこたでも青く柄み枡っおいた。

     神奈川県総合䜓育倧䌚二日目。

     䌚堎には昚日ずは比べものにならないほど倚くの芳客が集たっおいた。

     ここから先は、䞀詊合ごずに党囜ぞの切笊が近づく。

     そしお、あず䞀歩届かなければ、すべおが終わる。

     そんな重圧が、䌚堎党䜓を包んでいた。


     蒌海高校テント。

     黒川先生が組み合わせ衚を芋぀めながら静かに蚀う。

     「今日が勝負だ。」

     郚員たちは真剣な衚情で頷いた。

     「個人戊。」

     「ベスト八に入ればむンタヌハむ。」

     「団䜓戊。」

     「決勝進出でむンタヌハむ。」

     「あず二぀。」

     「そこたで来た。」


     倪郎はラケットを握り締める。

     高校䞀幎生の春。

     党囜ぞ行くこずすら遠い倢だった。

     しかし今、その倢は手の届く堎所たで来おいた。


     真矎がスコアノヌトを差し出す。

     「倪郎。」

     「今回の盞手。」

     ペヌゞには现かな文字が䞊んでいた。

     サヌビスコヌス。

     苊手な高い打点。

     バックハンドの甘くなる堎面。

     粟神的に焊るタむミング。

     倪郎は䜕床もペヌゞを読み返した。

     「党郚芋たの」

     真矎は笑う。

     「昚日の詊合、党郚。」

     「だから。」

     「自信持っお。」


     シングルス五回戊。

     ベスト八を懞けた䞀戊。

     䞻審が静かにコヌルする。

    「男子シングルス準々決勝進出決定戊。」

    「ベスト・オブ・スリヌ・タむブレヌク・セット。」

    「プレむ。」


     第䞀セット。

     盞手は匷かった。

     県ランキング䞊䜍。

     経隓も技術も䞀枚䞊だった。

     ゲヌムカりント。

     四―六。

     倪郎はセットを萜ずす。


     ベンチぞ戻る。

     真矎がタオルを差し出した。

     「焊っおる。」

     倪郎は苊笑した。

     「分かる」

     「分かる。」

     真矎はスコアノヌトを開く。

     「盞手。」

     「バック偎ぞ远い蟌たれるず前ぞ出おくる。」

     「だから。」

     「次は逆。」

     「ストレヌト。」

     倪郎はゆっくり頷いた。

     「ありがずう。」


     第二セット。

     倪郎は攻撃を倉えた。

     深いクロス。

     突然のストレヌト。

     そしおネットぞ詰める。

     真矎の分析通りだった。

     盞手は察応が遅れる。

     ゲヌムカりント。

     六―䞉。

     セットカりント䞀察䞀。


     ファむナルセット。

     䌚堎䞭が静たり返る。

     䞀本。

     たた䞀本。

     ラリヌが続く。

     ゲヌムカりント五―五。

     デュヌス。

     アドバンテヌゞ。

     再びデュヌス。

     倪郎は深呌吞した。

     今だ。

     ラむゞング。

     クロス。

     盞手が動く。

     その逆。

     トリプルサンダヌカりンタヌ。

     䞉方向ぞ打ち分けられた癜球は、最埌にストレヌトぞ突き刺さった。

     䞻審の右手が高く䞊がる。

    「ゲヌム。」

    「セット。」

    「マッチ。」

    「本田。」


     䞀瞬の静寂。

     そしお倧歓声。

     倪郎はその堎ぞ膝を぀いた。

     息ができない。

     涙がこがれそうになる。


     真矎が駆け寄る。

     「倪郎」

     倪郎はゆっくり立ち䞊がる。

     「やった。」

     「真矎。」

     「党囜だ。」

     真矎も涙を浮かべながら笑った。

     「うん。」

     「玄束、守ったね。」


     䞀方。

     倧茔も激闘を制し、ベスト八進出を決めおいた。

     ダブルスも勝利。

     蒌海高校から耇数皮目でむンタヌハむ出堎が決たる。

     郚員たちは抱き合い、歓声を䞊げた。


     黒川先生は静かに拍手を送る。

     「おめでずう。」

     その䞀蚀だけだった。

     しかし、その目は誰よりも優しかった。


     その時だった。

     センタヌコヌトから倧歓声が響く。

     川原茂。

     準々決勝。

     ストレヌト勝ち。

     詊合時間、わずか䞉十分。

     芳客は再び王者の匷さに息をのんでいた。


     倪郎はセンタヌコヌトを芋぀める。

     むンタヌハむ出堎は決たった。

     倢の䞀぀は叶った。

     しかし、心は満たされおいなかった。

     その芖線の先には、ただ䞀人。

     川原茂。

     王者の背䞭だけが映っおいた。

     「次は。」

     「お前だ。」

     静かな決意だった。


     真矎は倪郎の隣ぞ䞊ぶ。

     「おめでずう。」

     倪郎は笑う。

     「ありがずう。」

     「でも。」

     「ただ終わっおない。」

     真矎も頷いた。

     「うん。」

     「ここからが、本圓の勝負。」

     二人は同じ方向を芋぀めおいた。

     党囜ぞの切笊の、その先にいる王者を。

    第二十章 王者ずの距離

     神奈川県総合䜓育倧䌚。

     䞉日目。

     準決勝。

     䌚堎には朝早くから倚くの芳客が集たっおいた。

     センタヌコヌト。

     ここは、その日もっずも泚目される詊合だけが蚱される特別な舞台だった。

     スタンドはすでに満垭。

     テレビ局のカメラも䞊んでいる。

     実況垭ではアナりンサヌが興奮気味に話しおいた。

     「高校テニス界泚目の䞀戊です。」

     「昚幎むンタヌハむ王者・湘南聖陵高校の川原茂。」

     「そしお、今倧䌚最倧の台颚の目、蒌海高校・本田倪郎。」

     「挑戊者は王者を倒せるのでしょうか。」


     遞手入堎。

     先に姿を珟したのは川原だった。

     䌚堎から倧きな拍手が起こる。

     萜ち着いた衚情。

     無駄のない歩き方。

     昚幎ず䜕䞀぀倉わらない王者の颚栌だった。


     続いお倪郎が姿を珟す。

     歓声はさらに倧きくなる。

     「本田」

     「頑匵れ」

     「蒌海」

     芳客垭から声揎が飛ぶ。

     倪郎は静かに䞀瀌した。

     その芖線は、ただ䞀人。

     ネットの向こうに立぀川原だけを芋぀めおいた。


     ネットを挟み、二人が向かい合う。

     䞻審が確認する。

     「レディ」

     二人が静かに頷く。

     コむントス。

     川原がサヌブを遞択した。

     握手。

     初めお蚀葉が亀わされる。

     川原が静かに口を開く。

     「君が本田倪郎か。」

     倪郎は真っ盎ぐ芋぀め返す。

     「はい。」

     「やっず䌚えたした。」

     川原は小さく笑った。

     「䞀幎埅った。」

     倪郎は驚いた。

     「え」

     「新人戊。」

     「あの時、お前だけが俺を芋おいた。」

     「勝おない顔じゃなかった。」

     倪郎の胞が熱くなる。

     王者は、自分を芚えおいた。


     「今日は楜しみにしおいる。」

     川原はそう蚀っおベヌスラむンぞ歩いおいく。

     倪郎もゆっくりず定䜍眮ぞ向かった。


     ベンチ。

     真矎は深呌吞をしおスコアノヌトを開く。

     手が震えおいた。

     そんな真矎の肩ぞ、倧茔が手を眮く。

     「倧䞈倫。」

     「倪郎ならやる。」

     真矎は小さく笑う。

     「うん。」


     黒川先生は腕を組んだたたコヌトを芋぀めおいた。

     郚員の䞀人が聞く。

     「先生。」

     「勝おたすか。」

     黒川先生は少しだけ笑った。

     「分からん。」

     「だが。」

     「今日は川原も、本田を甘く芋おはいない。」


     䞻審がマむクを握る。

     堎内が静たり返る。

    「男子シングルス準決勝。」

    「ベスト・オブ・スリヌ・タむブレヌク・セット。」

     䞀拍眮く。

    「トゥヌ・サヌビス。」

     川原がボヌルを受け取る。

     静かに䞉床バりンドさせる。

     そしお。

    「プレむ。」


     ――バァン

     蜟音が䌚堎に響いた。

     誰も反応できなかった。

     サヌビス゚ヌス。

     センタヌラむンぎりぎり。

     時速二癟キロ近い豪速球だった。

     芳客垭がどよめく。

     「速い」

     「芋えなかった」

     倪郎はボヌルを拟いながら、小さく笑った。

     これか。

     党囜䞀のサヌブ。


     第二ポむント。

     今床は返した。

     しかし。

     䞀球目。

     二球目。

     䞉球目。

     ラリヌになった瞬間だった。

     川原は䜕気ないフォヌムから、クロスぞ鋭く打ち抜く。

     倪郎が飛び぀く。

     届かない。

     「15―0。」


     「30―0。」

     「40―0。」

     ゲヌムポむント。

     倪郎は肩で息をしおいた。

     ただ四球しか打っおいない。

     なのに、䜓力が奪われる。

     匷い。

     想像以䞊だ。


     ベンチで真矎はノヌトぞ曞き蟌む。

     サヌブはセンタヌ䞃割。

     セカンドサヌブでも攻撃的。

     ラリヌ䞉球目で勝負。

     ペンが止たらない。


     ゲヌム。

     川原。

     1―0。

     川原はガッツポヌズをしない。

     䜕事もなかったようにベヌスラむンぞ戻る。

     その姿に、倪郎はふっず笑った。

     最高だ。

     だから倒したい。


     ラケットを握り盎す。

     ゆっくり空を芋䞊げる。

     春から積み重ねた努力。

     黒川先生。

     倧茔。

     真矎。

     仲間たちの顔が浮かぶ。

     そしお、真矎からもらったタオル。

     そこに刺繍された䞀文字。

     『玄束』

     倪郎は静かに頷いた。

     「ここからだ。」


     センタヌコヌトを吹き抜ける颚が、二人の間を静かに通り過ぎる。

     誰もが息をのんで芋守る䞭、神奈川県最高峰の戊いは、ただ始たったばかりだった。

    第二十二章 王者が認めた男

     ファむナルセット。

     ゲヌムカりント――五察五。

     センタヌコヌトは静たり返っおいた。

     誰䞀人ずしお垭を立たない。

     汗を拭く音さえ聞こえるほどの静寂。

     その䞭倮で、本田倪郎ず川原茂は向かい合っおいた。


     䞻審が静かにコヌルする。

    「ファむナルセット。」

    「ゲヌムカりント、ファむブオヌル。」

    「トゥヌ・サヌビス。」

     川原がボヌルを高く攟り䞊げる。

     豪快なサヌビス。

     倪郎は䞀歩前ぞ螏み蟌んだ。

     今たでなら届かなかった。

     しかし今は違う。

     ラむゞングで叩く。

     リタヌン゚ヌス。

     芳客垭がどよめく。

     「返した」

     「初めおだ」

     川原が少しだけ笑う。

     「面癜い。」


     ゲヌムは䞀進䞀退。

     六察六。

     タむブレヌク。

     䌚堎党䜓が立ち䞊がった。


     真矎はスコアノヌトを閉じた。

     もう蚘録を曞く䜙裕はない。

     䞡手を胞の前で匷く握る。

     倪郎  。


     䞀本目。

     倪郎。

     ミニブレヌク。

     二察〇。


     䞉察䞀。


     四察二。


     あず䞉本。

     王者たであず䞉本だった。


     その瞬間だった。

     川原の目が倉わる。

     静かだった王者が、初めお感情を芋せた。

     「ここからだ。」

     その䞀蚀だけだった。


     サヌビス゚ヌス。

     四察䞉。


     匷烈なフォア。

     四察四。


     ネットむン。

     四察五。


     倪郎は深く息を吞った。

     ただ終わらない。


     次のラリヌ。

     二十䞃回。

     二十八回。

     二十九回。

     誰も動けない。

     どちらも譲らない。


     真矎が叫ぶ。

     「倪郎ヌヌヌ」


     その声が届いた。

     倪郎は飛び䞊がる。

     枟身の䞀撃。

     矆萜ずし。

     川原が远い぀く。


     さらに返す。

     癜鯚。

     高く舞い䞊がるロブ。

     川原がスマッシュ。

     倪郎が飛び蟌む。

     ボヌルはただ生きおいた。


     そしお。

     倪郎は最埌の力を振り絞る。

     䜓をひねる。

     春から積み䞊げた努力。

     倏の五癟球。

     朝緎。

     真矎のノヌト。

     黒川先生の蚀葉。

     倧茔ずの汗。

     すべおを、この䞀球ぞ。


     「うおおおおおっ」

     トリプルサンダヌカりンタヌ。

     䞉方向ぞ打ち分ける。

     クロス。

     逆クロス。

     そしお最埌はストレヌト。

     完党に決たった。


     しかし。

     川原はいた。

     誰もいないはずの堎所に。

     䞀歩。

     いや、半歩。

     䜓を預けるように滑り蟌み、ラケットを䌞ばす。

     ボヌルはネットの癜垯すれすれを越えた。

     倪郎は飛び蟌む。

     届かない。


     䞻審の右手が静かに䞊がる。

    「ゲヌム。」

    「セット。」

    「マッチ。」

    「川原。」


     䞀瞬。

     䌚堎は静たり返った。

     そしお次の瞬間。

     割れんばかりの拍手がセンタヌコヌトを包み蟌んだ。


     倪郎はその堎ぞ膝を぀いた。

     悔しかった。

     涙が止たらない。

     あず䞀本だった。

     本圓にあず䞀本だった。


     ネットぞ歩く。

     二人は静かに握手を亀わした。

     川原は倪郎の目を芋お蚀った。

     「ありがずう。」

     倪郎は驚く。

     川原は続けた。

     「高校ぞ入っお。」

     「初めお本気になれた。」

     倪郎は蚀葉を倱う。


     「来幎。」

     川原は静かに笑う。

     「必ず、たた来い。」

     「決勝で埅っおいる。」


     倪郎は涙をぬぐった。

     「はい。」

     「今床は。」

     「俺が勝ちたす。」


     川原は小さくうなずく。

     「期埅しおいる。」


     その瞬間。

     倪郎の䞭で、「远いかける盞手」は「必ず超える盞手」に倉わった。


     スタンドでは真矎が涙を流しおいた。

     倧茔は肩を叩く。

     「泣くな。」

     真矎は銖を暪に振る。

     「違う。」

     「悔しいんじゃない。」

     涙を拭きながら笑う。

     「倪郎が  。」

     「王者に認められた。」


     黒川先生は静かに拍手を送る。

     「本田。」

     倪郎が振り返る。

     黒川先生は珍しく笑っおいた。

     「今日から、お前は本物の挑戊者だ。」


     倕日に染たるセンタヌコヌト。

     敗者ずなった倪郎の背䞭には、䞍思議ず敗北の圱はなかった。

     その背䞭は、王者ぞあず䞀歩たで迫った男の背䞭だった。

     そしお、その日から神奈川県の高校テニス界では、䞀぀の蚀葉が語られるようになる。

    「王者・川原茂を本気にさせた唯䞀の男――本田倪郎。」

     この敗戊は終わりではない。

     党囜ぞの切笊を手にした挑戊者は、さらに倧きな舞台ぞず歩き始める。

     その先に埅぀のは、むンタヌハむ。

     そしお、もう䞀床川原ず戊うための、新たな物語だった

    第二十䞉章 敗者の背䞭

     準決勝の熱気が残る神奈川県立総合スポヌツセンタヌ。

     センタヌコヌトには、ただ芳客の歓声が埮かに残っおいた。

     倪郎はラケットバッグを肩に掛け、䞀人静かに通路を歩いおいた。

     足取りは重い。

     ラケットが、い぀もよりずっず重く感じる。

     あず䞀本。

     あず䞀本届いおいれば――。

     その思いだけが、䜕床も胞を締め぀けおいた。


     曎衣宀の扉を開ける。

     誰もいない。

     ロッカヌに腰を䞋ろし、ゆっくりずラケットを眮いた。

     静寂の䞭で、涙が頬を䌝う。

     悔しかった。

     これほど悔しい敗北は、生たれお初めおだった。

     「くそっ  。」

     握り締めた拳が震える。

     王者ずの差は、たった䞀本。

     しかし、その䞀本が、果おしなく遠かった。


     コンコン。

     静かなノックの音が響いた。

     「倪郎。」

     真矎だった。

     扉の向こうから聞こえる優しい声。

     「入っおもいい」

     倪郎は涙を拭い、小さく答えた。

     「うん。」


     真矎は䜕も蚀わず、倪郎の隣ぞ座った。

     二人の間に流れる静かな時間。

     やがお真矎が口を開く。

     「泣いおもいいよ。」

     その䞀蚀で、匵り詰めおいたものが䞀気にほどけた。

     倪郎は声を殺しお泣いた。

     子どものように。

     悔しさも。

     苊しさも。

     党郚、涙ず䞀緒にあふれ出した。


     しばらくしお、真矎が静かに蚀った。

     「ねえ、倪郎。」

     「うん  。」

     「今日、負けたの」

     倪郎は顔を䞊げた。

     「え」

     真矎は優しく埮笑む。

     「スコアは負けた。」

     「でも、私は負けた詊合だなんお思っおない。」

     倪郎は黙っお真矎を芋぀める。

     「だっお。」

     「去幎の新人戊。」

     「あの時の倪郎なら、䞀ゲヌムも取れなかった。」

     「でも今日は違った。」

     「王者を本気にした。」

     「あず䞀本たで远い詰めた。」

     「それっお、本圓に負けなのかな」


     倪郎はゆっくり目を閉じた。

     川原の蚀葉がよみがえる。

     『来幎、決勝で埅っおいる。』

     あれは、慰めではなかった。

     本気の蚀葉だった。


     「ありがずう。」

     倪郎は静かに笑った。

     「俺。」

     「ただただ匷くなれる。」

     真矎も笑顔で頷いた。

     「もちろん。」

     「だっお、あなたは本田倪郎だもん。」


     その頃、郚宀では郚員たちが倪郎を埅っおいた。

     扉が開く。

     党員が立ち䞊がる。

     倧茔が真っ先に歩み寄った。

     「おかえり。」

     倪郎は少し照れくさそうに笑う。

     「ただいた。」


     突然、倧茔が拳を突き出した。

     「来幎。」

     「決勝で、あい぀を倒そう。」

     倪郎は迷わず拳を合わせる。

     「もちろん。」

     䞀人、たた䞀人ず郚員たちが拳を重ねる。

     最埌に黒川先生が口を開いた。

     「いいか。」

     党員が先生を芋る。

     「負けるこずは恥じゃない。」

     「負けを蚀い蚳にするこずが恥だ。」

     静たり返る郚宀。

     「お前たちは今日、負けた。」

     「だからこそ、党囜ぞ行く資栌がある。」

     「胞を匵っお行っおこい。」

     「はい」

     郚員党員の声が郚宀いっぱいに響いた。


     数日埌。

     蒌海高校。

     朝の緎習前。

     倪郎は誰よりも早くコヌトぞ立っおいた。

     ラケットを握り、䞀瀌する。

     「お願いしたす。」

     その姿を芋た黒川先生は、小さく笑った。

     「もう立ち盎ったか。」

     倪郎は振り返り、力匷く答える。

     「違いたす。」

     「ただ悔しいです。」

     「だから、緎習したす。」

     黒川先生は満足そうに頷いた。

     「それでいい。」


     朝日がコヌトを照らす。

     倪郎は新しいボヌルを高く攟り䞊げた。

     枟身のサヌブが青空ぞ突き刺さる。

     その打球音は、昚日たでずは違っおいた。

     敗北を知った者だけが攟おる、芚悟の音だった。


     むンタヌハむ開幕たで、あず䞉週間。

     党囜ぞの挑戊が、いよいよ始たろうずしおいた。

    第二十四章 党囜ずいう舞台

     八月。

     倏空の䞋、新幹線は西ぞ向かっお走っおいた。

     車窓から流れる景色を眺めながら、倪郎はラケットケヌスを膝の䞊に抱えおいた。

     神奈川県代衚。

     その蚀葉の重みを、今になっお実感しおいた。

     隣では倧茔がパンフレットをめくっおいる。

     「党囜か  。」

     「実感ある」

     倪郎は小さく銖を暪に振った。

     「ただ倢みたい。」

     向かいの垭では真矎が倧䌚資料を敎理しおいた。

     ノヌトには、党囜各地の代衚校ず䞻力遞手の名前がびっしりず曞き蟌たれおいる。

     「もう勉匷しおるのか」

     倧茔が苊笑する。

     真矎は顔を䞊げずに答えた。

     「盞手を知らないで勝おるほど、党囜は甘くないよ。」

     黒川先生は、そのやり取りを静かに聞きながら埮笑んでいた。


     䌚堎ずなる䜓育公園ぞ到着するず、四人は思わず足を止めた。

     そこには、党囜から集たった高校生たちがいた。

     北海道代衚。

     東北代衚。

     関東代衚。

     関西代衚。

     九州代衚。

     ナニフォヌムの色も、孊校名も違う。

     しかし党員に共通しおいるものがあった。

     その目だった。

     誰䞀人、芳光気分の遞手はいない。

     党員が、日本䞀だけを芋据えおいた。

     倪郎は思わず息をのむ。

     「これが  党囜。」


     受付を終えた蒌海高校は、緎習コヌトぞ向かった。

     そこでも驚きの連続だった。

     隣のコヌトでは、関西代衚の遞手が時速二癟キロ近いサヌブを打ち蟌んでいる。

     別のコヌトでは、九州代衚のダブルスペアが、息の合ったポヌチを䜕床も決めおいた。

     そしお䞀番奥のコヌトでは、北海道代衚の長身遞手が、信じられない高さからスマッシュを叩き蟌んでいた。

     「すごい  。」

     倧茔が思わず声を挏らす。

     黒川先生は静かに蚀った。

     「神奈川だけを芋おいたら、日本䞀にはなれん。」


     その日の午埌。

     開䌚匏が始たった。

     党囜から集たった代衚校が次々ず玹介される。

     「神奈川県代衚――湘南聖陵高校。」

     川原が堂々ず入堎する。

     倧きな拍手が䌚堎を包んだ。

     続いお、

     「神奈川県代衚――蒌海高校。」

     倪郎たちも胞を匵っお歩く。

     客垭から小さな拍手が起こる。

     昚幎たでは無名だった孊校。

     しかし今幎は違う。

     「川原をあず䞀歩たで远い詰めた孊校。」

     その噂は、すでに党囜ぞ広がっおいた。


     開䌚匏が終わり、抜遞䌚堎ぞ移動する。

     党囜倧䌚のトヌナメント衚が倧型スクリヌンに映し出される。

     䌚堎が静たり返る。

     倪郎は自分の名前を探した。

     䞀回戊。

     二回戊。

     䞉回戊。

     順調に勝ち䞊がれば――。

     準決勝。

     そこには、たた芋慣れた名前があった。

     川原 茂。

     倪郎は思わず笑った。

     「たたか。」

     その瞬間だった。

     隣から䜎い声が聞こえた。

     「そこたで来られたら、の話だけどな。」

     振り向く。

     そこには、倧阪代衚・四倩王寺孊園の゚ヌス、鬌塚 蓮が立っおいた。

     鋭い県差し。

     自信に満ちた笑み。

     「神奈川の本田だろ」

     「川原ばかり芋おるず、足元をすくわれるぞ。」

     そう蚀い残し、鬌塚は去っおいく。

     倪郎はその背䞭を芋぀めた。

     真矎が静かに呟く。

     「党囜には  。」

     「川原さんだけじゃない。」

     黒川先生も頷く。

     「それが党囜だ。」


     倜。

     宿舎の窓から、倪郎は街の灯りを眺めおいた。

     神奈川では芋えなかった景色。

     党囜には、自分の知らない匷者がただ倧勢いる。

     胞の高鳎りは、䞍安ではなかった。

     「面癜い。」

     自然ず笑みがこがれる。

     「党員、倒しおやる。」


     その頃、別の宿舎では川原も静かにラケットを磚いおいた。

     隣にいたチヌムメむトが尋ねる。

     「今幎も優勝だな。」

     川原は少しだけ考え、静かに銖を暪ぞ振った。

     「分からない。」

     「え」

     川原は窓の倖を芋぀める。

     「今幎は  。」

     「面癜い奎が来おいる。」

     その芖線の先には、神奈川県代衚・蒌海高校の宿舎があった。


     党囜倧䌚開幕たで、あず䞀日。

     日本䞀を決める戊いが、静かに幕を開けようずしおいた。

    第二十五章 党囜の掗瀌

     むンタヌハむ開幕。

     午前八時䞉十分。

     倏の日差しが党囜倧䌚のセンタヌコヌトを照らしおいた。

     党囜四十䞃郜道府県。

     その頂点を決める舞台。

     䌚堎には独特の緊匵感が挂っおいる。

     神奈川県倧䌚ずはたるで違う。

     歓声。

     応揎。

     報道陣。

     テレビカメラ。

     そのすべおが、この倧䌚の倧きさを物語っおいた。


     「緊匵しおるか」

     倧茔が笑いながら聞く。

     倪郎はゆっくり深呌吞した。

     「少しだけ。」

     「でも。」

     「ワクワクの方が倧きい。」

     倧茔は満足そうに笑う。

     「それでこそ本田だ。」


     真矎はスコアノヌトを閉じた。

     「倪郎。」

     「今日の盞手。」

     「北海道代衚。」

     「氷宀高校。」

     「゚ヌスの䜐䌯遌。」

     「身長癟九十センチ。」

     「サヌブずスマッシュが歊噚。」

     倪郎は静かに頷く。

     「ありがずう。」


     第䞀詊合。

     センタヌコヌト。

     䞻審が静かにマむクを握る。

    「男子シングルス䞀回戊。」

    「ベスト・オブ・スリヌ・タむブレヌク・セット。」

    「トゥヌ・サヌビス。」

     コむントス。

     倪郎のサヌブから始たる。


    「プレむ。」

     也いた打球音が響く。

     第䞀ポむント。

     倪郎は積極的に攻めた。

     しかし。

     䜐䌯のリタヌンは想像以䞊だった。

     匷烈なバックハンド。

     ラむンぎりぎりぞ突き刺さる。

     「ラブ・フィフティヌン。」

     続けおサヌビス゚ヌス。

     「ラブ・サヌティ。」

     ゲヌムを萜ずす。


     ゲヌムカりント。

     〇―䞉。

     倪郎はただ䞀本も取れおいなかった。

     党囜の壁は、想像以䞊に高かった。


     ベンチ。

     真矎は慌おおノヌトを開く。

     「倪郎」

     「盞手。」

     「バック偎ぞ走らされるのを嫌がっおる」

     倪郎は倧きく頷く。

     「分かった」


     第四ゲヌム。

     倪郎は攻撃を倉えた。

     クロス。

     クロス。

     さらに深いクロス。

     盞手を䜕床もバック偎ぞ远い蟌む。

     䜓勢が厩れた、その瞬間。

     ラむゞングショット。

     ストレヌト。

     初ポむント。

     芳客垭から拍手が起こる。


     「よし」

     倧茔が拳を握る。

     黒川先生は静かに頷いた。

     「芋぀けたな。」


     第䞀セット。

     六―四。

     本田。

     党囜初セット。


     第二セット。

     䜐䌯はさらに攻撃を匷める。

     豪快なスマッシュ。

     時速二癟キロ近いサヌブ。

     しかし倪郎は䞋がらない。

     前ぞ出る。

     ラむゞング。

     ネットプレヌ。

     盞手のリズムを厩しおいく。


     ゲヌムカりント。

     五―四。

     マッチポむント。

     倪郎はラケットを握り盎した。

     焊るな。

     䞀本ず぀。


     長いラリヌ。

     二十回。

     二十䞀回。

     二十二回。

     盞手がロブを䞊げる。

     倪郎は高く跳んだ。

     枟身のスマッシュ。

     矆萜ずし。

     ボヌルはベヌスラむンぞ突き刺さる。


     䞻審が右手を高く䞊げた。

    「ゲヌム。」

    「セット。」

    「マッチ。」

    「本田。」


     䞀瞬の静寂。

     そしお。

     党囜の舞台で初めお、倪郎ぞ倧きな拍手が送られた。


     ネットで握手を亀わす。

     䜐䌯が笑う。

     「匷いな。」

     倪郎も笑顔で答えた。

     「ありがずうございたした。」


     スタンドでは真矎が目に涙を浮かべおいた。

     「党囜で  。」

     「勝った。」

     倧茔が笑う。

     「ただ䞀回戊だぞ。」

     真矎は涙を拭きながら笑った。

     「うん。」

     「でも。」

     「嬉しい。」


     その頃。

     別のセンタヌコヌト。

     川原茂は、わずか二十分で初戊を終えおいた。

     圧倒的な匷さ。

     しかし詊合埌、川原は倧型モニタヌに映る詊合結果ぞ目を向ける。

     本田倪郎 20 䜐䌯遌

     川原は静かに埮笑んだ。

     「順調だな。」


     宿舎ぞ戻るバスの䞭。

     倪郎は窓の倖を芋ながら、小さく぀ぶやいた。

     「ただ䞀勝。」

     「でも。」

     「党囜でも戊える。」

     真矎が隣で静かに答える。

     「ううん。」

     「倪郎。」

     「もう『戊える』じゃない。」

     「勝おる。」

     その蚀葉に、倪郎は照れくさそうに笑った。


     むンタヌハむ䞀回戊突砎。

     党囜ぞの挑戊は、ただ始たったばかりだった。


    第二十五章 党囜の掗瀌

     むンタヌハむ開幕。

     午前八時䞉十分。

     倏の日差しが党囜倧䌚のセンタヌコヌトを照らしおいた。

     党囜四十䞃郜道府県。

     その頂点を決める舞台。

     䌚堎には独特の緊匵感が挂っおいる。

     神奈川県倧䌚ずはたるで違う。

     歓声。

     応揎。

     報道陣。

     テレビカメラ。

     そのすべおが、この倧䌚の倧きさを物語っおいた。


     「緊匵しおるか」

     倧茔が笑いながら聞く。

     倪郎はゆっくり深呌吞した。

     「少しだけ。」

     「でも。」

     「ワクワクの方が倧きい。」

     倧茔は満足そうに笑う。

     「それでこそ本田だ。」


     真矎はスコアノヌトを閉じた。

     「倪郎。」

     「今日の盞手。」

     「北海道代衚。」

     「氷宀高校。」

     「゚ヌスの䜐䌯遌。」

     「身長癟九十センチ。」

     「サヌブずスマッシュが歊噚。」

     倪郎は静かに頷く。

     「ありがずう。」


     第䞀詊合。

     センタヌコヌト。

     䞻審が静かにマむクを握る。

    「男子シングルス䞀回戊。」

    「ベスト・オブ・スリヌ・タむブレヌク・セット。」

    「トゥヌ・サヌビス。」

     コむントス。

     倪郎のサヌブから始たる。


    「プレむ。」

     也いた打球音が響く。

     第䞀ポむント。

     倪郎は積極的に攻めた。

     しかし。

     䜐䌯のリタヌンは想像以䞊だった。

     匷烈なバックハンド。

     ラむンぎりぎりぞ突き刺さる。

     「ラブ・フィフティヌン。」

     続けおサヌビス゚ヌス。

     「ラブ・サヌティ。」

     ゲヌムを萜ずす。


     ゲヌムカりント。

     〇―䞉。

     倪郎はただ䞀本も取れおいなかった。

     党囜の壁は、想像以䞊に高かった。


     ベンチ。

     真矎は慌おおノヌトを開く。

     「倪郎」

     「盞手。」

     「バック偎ぞ走らされるのを嫌がっおる」

     倪郎は倧きく頷く。

     「分かった」


     第四ゲヌム。

     倪郎は攻撃を倉えた。

     クロス。

     クロス。

     さらに深いクロス。

     盞手を䜕床もバック偎ぞ远い蟌む。

     䜓勢が厩れた、その瞬間。

     ラむゞングショット。

     ストレヌト。

     初ポむント。

     芳客垭から拍手が起こる。


     「よし」

     倧茔が拳を握る。

     黒川先生は静かに頷いた。

     「芋぀けたな。」


     第䞀セット。

     六―四。

     本田。

     党囜初セット。


     第二セット。

     䜐䌯はさらに攻撃を匷める。

     豪快なスマッシュ。

     時速二癟キロ近いサヌブ。

     しかし倪郎は䞋がらない。

     前ぞ出る。

     ラむゞング。

     ネットプレヌ。

     盞手のリズムを厩しおいく。


     ゲヌムカりント。

     五―四。

     マッチポむント。

     倪郎はラケットを握り盎した。

     焊るな。

     䞀本ず぀。


     長いラリヌ。

     二十回。

     二十䞀回。

     二十二回。

     盞手がロブを䞊げる。

     倪郎は高く跳んだ。

     枟身のスマッシュ。

     矆萜ずし。

     ボヌルはベヌスラむンぞ突き刺さる。


     䞻審が右手を高く䞊げた。

    「ゲヌム。」

    「セット。」

    「マッチ。」

    「本田。」


     䞀瞬の静寂。

     そしお。

     党囜の舞台で初めお、倪郎ぞ倧きな拍手が送られた。


     ネットで握手を亀わす。

     䜐䌯が笑う。

     「匷いな。」

     倪郎も笑顔で答えた。

     「ありがずうございたした。」


     スタンドでは真矎が目に涙を浮かべおいた。

     「党囜で  。」

     「勝った。」

     倧茔が笑う。

     「ただ䞀回戊だぞ。」

     真矎は涙を拭きながら笑った。

     「うん。」

     「でも。」

     「嬉しい。」


     その頃。

     別のセンタヌコヌト。

     川原茂は、わずか二十分で初戊を終えおいた。

     圧倒的な匷さ。

     しかし詊合埌、川原は倧型モニタヌに映る詊合結果ぞ目を向ける。

     本田倪郎 20 䜐䌯遌

     川原は静かに埮笑んだ。

     「順調だな。」


     宿舎ぞ戻るバスの䞭。

     倪郎は窓の倖を芋ながら、小さく぀ぶやいた。

     「ただ䞀勝。」

     「でも。」

     「党囜でも戊える。」

     真矎が隣で静かに答える。

     「ううん。」

     「倪郎。」

     「もう『戊える』じゃない。」

     「勝おる。」

     その蚀葉に、倪郎は照れくさそうに笑った。


     むンタヌハむ䞀回戊突砎。

     党囜ぞの挑戊は、ただ始たったばかりだった。

    第二十六章 怪物たちの咆哮

     むンタヌハむ二日目。

     朝䞃時。

     倧䌚䌚堎には、昚日以䞊の熱気が挂っおいた。

     勝ち残った遞手だけが、この堎所に立っおいる。

     敗者はもういない。

     残った者は、誰もが優勝を目指す実力者だった。

     倪郎は深く息を吞い蟌み、センタヌコヌトを芋䞊げた。

     「ここからだ  。」


     控え宀では、倧茔が新聞を広げおいた。

     スポヌツ面には倧きく写真が掲茉されおいる。

     『神奈川の新星 本田倪郎 党囜初勝利』

     その芋出しに、倪郎は思わず苊笑した。

     「倧げさだよ。」

     倧茔は笑う。

     「いや、本圓だ。」

     「昚日、お前の詊合を芋た党囜の監督が䜕人も話しおたぞ。」

     「神奈川に面癜い遞手がいるっおな。」


     真矎は静かにノヌトを開いた。

     「今日の盞手。」

     ペヌゞをめくる。

     「倧阪代衚。」

     「四倩王寺孊園。」

     「鬌塚蓮。」

     その名前を芋た瞬間、倪郎の衚情が倉わる。

     抜遞䌚の日、自分に声を掛けおきた男だった。

     真矎は続ける。

     「党囜ゞュニア優勝二回。」

     「フォアハンドは党囜トップクラス。」

     「サヌビスも速い。」

     「でも  。」

     真矎は顔を䞊げた。

     「バックハンドになるず、䞀歩䞋がる癖がある。」

     倪郎は笑った。

     「そこを狙う。」

     「うん。」


     第二回戊。

     センタヌコヌト。

     芳客垭はほが満垭だった。

     昚日の勝利で、本田倪郎ずいう名前は党囜に知れ枡り始めおいた。

     そこぞ珟れた鬌塚は、䜙裕の笑みを浮かべる。

     「たた䌚ったな。」

     倪郎はラケットを握り盎す。

     「今床はコヌトの䞊ですね。」

     鬌塚は笑った。

     「そうだ。」

     「口だけじゃないずころを芋せおみろ。」


     䞻審がマむクを握る。

    「男子シングルス二回戊。」

    「ベスト・オブ・スリヌ・タむブレヌク・セット。」

    「トゥヌ・サヌビス。」

     鬌塚がサヌブを遞択する。

     静かな緊匵がコヌトを包んだ。

    「プレむ。」


     開始盎埌。

     鬌塚のフォアハンドが火を吹いた。

     蜟音ずずもに攟たれた䞀球が、ラむン際ぞ突き刺さる。

     「15―0。」

     続けざたにフォア。

     たたフォア。

     わずか数分でゲヌムカりントは〇―二。

     芳客垭からどよめきが起こる。

     「速い」

     「なんだ、あのフォア」

     倪郎はボヌルを拟いながら、小さく笑った。

     「確かに  。」

     「怪物だ。」


     ベンチ。

     真矎がノヌトを匷く握る。

     「倪郎」

     「右ぞ振っお」

     「バックぞ」

     その声がコヌトに響いた。


     倪郎は倧きく頷く。

     次のラリヌ。

     クロス。

     深いクロス。

     さらにクロス。

     鬌塚がバックで返す。

     少しだけ打点が遅れた。

     倪郎は芋逃さなかった。

     ラむゞングショット。

     ストレヌト。

     「30―15」


     鬌塚が笑う。

     「なるほど。」

     「芋抜いたか。」

     倪郎も笑い返す。

     「真矎のおかげです。」


     詊合は激しさを増しおいく。

     ゲヌムカりント䞉―䞉。

     四―四。

     䞀本取れば䞀本取り返される。

     互いに䞀歩も譲らない。


     スタンド最前列。

     川原茂が腕を組みながら詊合を芋぀めおいた。

     隣の遞手が驚く。

     「川原。」

     「他人の詊合なんか芋るのか」

     川原は静かに答えた。

     「芋る。」

     「匷くなる盞手だから。」


     その蚀葉に、呚囲の遞手たちは息をのんだ。

     王者が認めた挑戊者。

     本田倪郎。

     その名前は、党囜のラむバルたちの蚘憶に刻たれ始めおいた。


     ゲヌムカりント五―五。

     勝負は、いよいよ終盀ぞ。

     鬌塚が静かにラケットを握り盎す。

     「本田。」

     「なんだ」

     「お前。」

     「最高に面癜い。」

     倪郎は笑った。

     「ただ終わっおない。」

     「もちろん。」

     鬌塚も笑う。

     「ここからが勝負だ。」


     倏空を突き抜けるように、䞀球が高く舞い䞊がる。

     その癜球を芋぀める倪郎の瞳には、もう迷いはなかった。

     党囜の怪物たちずの戊い。

     その第二幕が、今、最高朮を迎えようずしおいた。


    第二十六章 もう䞀人の王者


     むンタヌハむ二日目。

     䌚堎は朝から異様な熱気に包たれおいた。

     昚日、䞀回戊を突砎した遞手たちだけが、この舞台に立っおいる。

     党囜ずいう頂点を目指す者だけが攟぀空気。

     その重圧に飲たれる遞手も少なくない。

     しかし、本田倪郎の衚情は䞍思議なほど穏やかだった。

     神奈川県倧䌚で川原茂ず戊ったあの日。

     あの死闘を経隓したこずで、「党囜」ずいう蚀葉ぞの恐れは消えおいた。

     残ったのは、戊いたいずいう気持ちだけだった。


     控えテントでは、倧茔が肩を回しおいた。

     「今日は鬌塚か。」

     倪郎は静かに頷く。

     「匷い。」

     「でも、楜しみだ。」

     倧茔は笑う。

     「お前、本圓に倉わったな。」

     「去幎なら震えおたぞ。」

     倪郎は照れくさそうに笑った。

     「去幎の俺じゃないから。」


     真矎がノヌトを開く。

     ペヌゞには赀ペンで䜕重にも線が匕かれおいた。

     「鬌塚蓮。」

     「倧阪代衚。」

     「党囜ゞュニア二連芇。」

     「フォアハンドは党囜でもトップクラス。」

     「だけど  」

     倪郎が顔を䞊げる。

     真矎は真剣な衚情で続けた。

     「長いラリヌになるず、フォアで決めたくなる。」

     「焊っお匷打する癖がある。」

     「その䞀球を埅っお。」

     倪郎は笑った。

     「ありがずう。」


     センタヌコヌト。

     芳客垭はほが満垭だった。

     昚日の詊合で、本田倪郎の名前は党囜ぞ広がり始めおいた。

     「神奈川の本田。」

     「あい぀が川原をあず䞀歩たで远い詰めた遞手か。」

     そんな声が聞こえおくる。


     鬌塚蓮がコヌトぞ姿を珟した。

     短く刈り䞊げた髪。

     匕き締たった䜓。

     その歩き方には絶察的な自信があった。

     ネット越しに倪郎を芋る。

     そしお笑った。

     「ようやく詊合ができるな。」

     倪郎も笑い返す。

     「埅たせたした。」

     「期埅しおるで。」

     「もちろんです。」


     䞻審がマむクを握る。

     堎内が静たり返る。

    「男子シングルス二回戊。」

    「ベスト・オブ・スリヌ・タむブレヌク・セット。」

    「トゥヌ・サヌビス。」

     コむントス。

     鬌塚がサヌブを遞ぶ。

     静かな緊匵がセンタヌコヌトを包んだ。

    「プレむ。」


     ――ドンッ

     䞀球目。

     鬌塚のサヌビスが火を吹く。

     ラむンいっぱいぞ突き刺さる。

     倪郎は反応した。

     返した。

     しかし。

     次の瞬間。

     鬌塚のフォアハンドが炞裂した。

     蜟音。

     ボヌルは䞀盎線にサむドラむンぞ吞い蟌たれる。

     「フィフティヌン・ラブ。」

     芳客垭がどよめく。


     続くポむント。

     たたフォア。

     さらにフォア。

     鬌塚は迷わない。

     すべおフォアで決めにくる。

     ゲヌムカりント。

     0―2。


     ベンチ。

     真矎は冷静だった。

     「倪郎」

     「予定どおり」

     「バックぞ」

     倪郎は芪指を立おた。


     第䞉ゲヌム。

     倪郎はクロスを深く打ち続ける。

     䞀球。

     二球。

     䞉球。

     鬌塚がバックで返す。

     少しだけ浅くなった。

     倪郎は螏み蟌む。

     ラむゞングショット。

     ストレヌト。

     初めお鬌塚のサヌビスゲヌムをブレヌクした。

     芳客垭から拍手が起こる。


     鬌塚が笑う。

     「そこ芋抜くか。」

     倪郎も笑う。

     「真矎のおかげです。」


     詊合は䞀気に熱を垯びる。

     3―3。

     4―4。

     䞀本取れば䞀本取り返される。

     互いに䞀歩も匕かない。


     スタンド最前列。

     川原茂は腕を組んで詊合を芋぀めおいた。

     隣の遞手が驚く。

     「川原。」

     「お前、他人の詊合なんか芋るんだ。」

     川原は静かに答えた。

     「芋る。」

     「匷くなる盞手だから。」


     第䞀セット終盀。

     ゲヌムカりント。

     6―6。

     タむブレヌク。

     堎内アナりンスが響く。

    「タむブレヌク。」

     䞀本目。

     鬌塚。

     二本目。

     倪郎。

     䞉本目。

     鬌塚。

     四本目。

     倪郎。

     たるで鏡のようにポむントを取り合う。


     そしお。

     7―7。

     次の䞀本。

     鬌塚が枟身のフォアハンドを攟぀。

     倪郎は深く滑り蟌みながらラケットを䌞ばす。

     癜球はネットすれすれを越えた。

     䌚堎党䜓が立ち䞊がる。

     誰も息をしおいない。

     勝負の行方は、その䞀球に蚗された。

     ――その瞬間だった。

    第二十䞃章 芚醒の蚌明

     タむブレヌク。

     䞃察䞃。

     センタヌコヌトには匵り぀めた静寂が広がっおいた。

     誰も声を出さない。

     芳客垭にいる数千人の芖線が、䞀぀の癜球だけを远い続けおいる。

     鬌塚蓮。

     本田倪郎。

     党囜屈指の実力者同士の激突は、぀いに勝負どころを迎えおいた。


     䞻審の声が響く。

    「タむブレヌク、゚むト・セブン。」

     鬌塚のサヌビス。

     高く䞊がるトス。

     豪快なフラットサヌブがセンタヌぞ突き刺さる。

     倪郎は半歩螏み蟌んだ。

     ラむゞングリタヌン。

     ボヌルは深くバック偎ぞ沈む。

     鬌塚が䜓勢を厩した。

     その瞬間だった。

     倪郎は迷わず前ぞ出る。

     鋭いボレヌ。

     ラむンぎりぎりぞ決たる。

     八察八。

     䌚堎から倧きな拍手が湧き起こった。


     鬌塚が笑う。

     「それや。」

     「神奈川の本田。」

     倪郎も笑い返す。

     「ただ終わりたせん。」


     九察八。

     九察九。

     互いに䞀歩も譲らない。

     ポむントを奪うたびに歓声が䞊がる。

     ポむントを倱うたびに、䌚堎党䜓が息をのむ。


     スタンド最前列。

     川原茂は腕を組みながら静かに詊合を芋぀めおいた。

     隣の監督が小さく぀ぶやく。

     「高校生ずは思えないな  。」

     川原は目を離さず答えた。

     「あい぀は、ただ匷くなる。」


     十察十。

     鬌塚が倧きく息を吐く。

     「本田。」

     「なんですか。」

     「お前、本圓に䞀幎前たで無名やったんか」

     倪郎は笑った。

     「はい。」

     「でも。」

     「今は違いたす。」


     次のラリヌ。

     䞀球。

     二球。

     䞉球。

     十球。

     二十球。

     䞉十球。

     互いに攻めない。

     埅぀。

     耐える。

     読み合う。

     たるで将棋のようなラリヌだった。


     その時。

     鬌塚がフォアぞ回り蟌む。

     真矎が立ち䞊がる。

     「倪郎」

     その声だけで十分だった。

     倪郎の䜓が自然に動く。

     深いクロス。

     鬌塚がフォアで返す。

     もう䞀床クロス。

     さらにクロス。

     鬌塚は匷打を遞んだ。

     埅っおいた。

     その䞀球を。


     「今だ」

     倪郎は䜓をひねる。

     螏み蟌む。

     枟身のスむング。

     トリプルサンダヌカりンタヌ。

     クロス。

     逆クロス。

     そしお最埌はストレヌト。

     䞉方向ぞ打ち分けられた癜球が、䞀盎線にコヌナヌぞ突き刺さる。


     鬌塚は飛び蟌んだ。

     あず数センチ。

     ラケットは届かない。

     癜球が静かにラむンぞ萜ちた。


     䞻審が右手を高く掲げる。

    「ゲヌム。」

    「セット。」

    「マッチ。」

    「本田。」


     䞀瞬の静寂。

     そしお――。

     センタヌコヌトが割れんばかりの拍手に包たれた。


     鬌塚はネットぞ歩き、右手を差し出した。

     「負けた。」

     「完敗や。」

     倪郎は銖を暪に振る。

     「違いたす。」

     「ギリギリでした。」

     鬌塚は豪快に笑う。

     「その謙虚さも、お前の匷さやな。」

     握手を亀わす二人。

     そこには勝者も敗者もなかった。

     党囜の頂点を目指すラむバル同士の、心からの敬意だけがあった。


     スタンドでは真矎が涙を浮かべおいた。

     「勝った  。」

     倧茔が笑う。

     「いや。」

     「あい぀は、たた匷くなった。」


     黒川先生は静かに拍手を送る。

     「本田。」

     倪郎が振り向く。

     黒川先生はゆっくりずうなずいた。

     「今日、お前は党囜で通甚するこずを蚌明した。」

     その蚀葉に、倪郎は胞が熱くなった。


     詊合埌。

     倧型ビゞョンに準々決勝の組み合わせが映し出される。

     そこには、誰もが知る名前があった。

     川原 茂。

     そしお、その隣には――。

     本田 倪郎。

     䌚堎がどよめく。

     「来たぞ」

     「神奈川決戊、再び」

     「党囜で実珟するのか」


     倪郎は静かにトヌナメント衚を芋぀めた。

     川原もたた、同じように芋぀めおいる。

     二人の芖線が、䌚堎の反察偎で亀わる。

     川原が小さく笑った。

     「玄束どおりだな。」

     倪郎も笑った。

     「今床は。」

     「勝ちたす。」


     倏の青空が、センタヌコヌトを明るく照らしおいた。

     党囜の舞台で亀わされた玄束。

     それは、日本䞀を懞けた新たな戊いの始たりだった。

    第二十八章 玄束の再戊

     むンタヌハむ準々決勝。

     党囜各地から集たった芳客で、センタヌコヌトは埋め尜くされおいた。

     倧型スクリヌンには二人の名前が映し出される。

     神奈川県代衚 湘南聖陵高校 川原 茂。

     神奈川県代衚 蒌海高校 本田倪郎。

     神奈川県倧䌚準決勝。

     あの激闘から、およそ䞀か月。

     党囜の舞台で、二人は再び向かい合う。


     「぀いに来たな。」

     ネット越しに川原が静かに笑う。

     倪郎も穏やかに笑い返した。

     「玄束どおりです。」

     「決勝じゃなかったけどな。」

     「はい。」

     「でも。」

     「今床は負けたせん。」

     川原は目を现めた。

     「その蚀葉を埅っおいた。」


     䞻審がマむクを握る。

     堎内が静たり返る。

    「男子シングルス準々決勝。」

    「ベスト・オブ・スリヌ・タむブレヌク・セット。」

    「トゥヌ・サヌビス。」

     コむントス。

     倪郎がサヌブを遞ぶ。

     癜球を高く掲げる。

    「プレむ。」


     第䞀ゲヌム。

     倪郎のサヌブ。

     倧きく跳び䞊がる。

     枟身のフラットサヌブ。

     サヌビス゚ヌス。

     「フィフティヌン・ラブ。」

     スタンドがどよめく。

     神奈川県倧䌚では決たらなかったコヌスだった。


     川原は静かに笑う。

     「速くなったな。」

     「ありがずうございたす。」

     「でも。」

     「ただ足りない。」


     次のポむント。

     川原は䞀歩前ぞ出る。

     ラむゞングリタヌン。

     倪郎の足元ぞ鋭く沈む。

     察応できない。

     「フィフティヌン・オヌル。」


     詊合開始から十分。

     二人は䞀歩も譲らなかった。

     ゲヌムカりント。

     二察二。

     互いにサヌビスゲヌムをキヌプし続ける。


     スタンドでは真矎がスコアブックに现かく蚘録を曞き続けおいた。

     「サヌブ成功率八五パヌセント  。」

     「バックぞの配球が増えおる。」

     黒川先生が静かに頷く。

     「本田も成長した。」

     「だが。」

     「川原も進化しおいる。」


     第五ゲヌム。

     この詊合、初めおラリヌが二十回を超えた。

     䞀球。

     二球。

     䞉球。

     互いの呌吞だけが聞こえる。

     芳客垭も静たり返っおいた。

     そしお二十五球目。

     川原がネットぞ詰める。

     倪郎は迷わない。

     ロブ。

     癜鯚。

     高く舞い䞊がった癜球がベヌスラむンぎりぎりぞ萜ちる。

     「アりト」

     審刀の声。

     わずか数センチ。

     倪郎は悔しそうに空を芋䞊げた。


     川原は静かにボヌルを拟う。

     「惜しかった。」

     「あず少し。」

     その蚀葉には䜙裕ではなく、玠盎な称賛が蟌められおいた。


     ゲヌムカりント。

     䞉察二。

     川原が初めおブレヌクに成功する。


     ベンチぞ戻る倪郎。

     真矎が静かにタオルを枡した。

     「焊っおる」

     倪郎は銖を暪に振る。

     「いや。」

     「楜しい。」

     真矎は笑った。

     「それなら倧䞈倫。」


     第六ゲヌム。

     倪郎は深く息を吞う。

     神奈川の時ずは違う。

     今は远いかけるだけじゃない。

     勝ちに行く。

     その瞳には、もう迷いはなかった。


     ゲヌムカりント。

     四察四。

     再び䞊ぶ。

     センタヌコヌトの熱気は最高朮に達しおいた。

     実況垭のアナりンサヌが興奮気味に叫ぶ。

     「これは高校生の詊合ではありたせん」

     「党囜最高レベルのラリヌです」


     スタンドの最前列。

     鬌塚蓮が腕を組みながら笑う。

     「やっぱり、おもろいやないか。」

     その隣では党囜各地の監督たちが真剣な衚情で詊合を芋぀めおいた。

     誰もが確信しおいた。

     この詊合の勝者が、日本䞀に最も近い存圚になるず。


     ゲヌムカりント。

     五察五。

     倪陜は真䞊から二人を照らしおいた。

     勝負は、ただ始たったばかり。

     ここから先は、䞀球が流れを倉える。

     䞀瞬の迷いが、勝敗を分ける。

     倪郎はラケットを握り盎し、ネットの向こうの王者を芋据えた。

     川原もたた、小さく笑みを浮かべる。

     「本田。」

     「はい。」

     「やっず、察等に戊えるな。」

     倪郎は力匷くうなずいた。

     「ここからです。」

     党囜の頂点を目指す二人の死闘は、さらに激しさを増しおいく――


    第二十九章 魂のタむブレヌク

     ゲヌムカりント――六察六。

     第䞀セットは、぀いにタむブレヌクぞ突入した。

     センタヌコヌトを埋め尜くした芳客が、䞀斉に立ち䞊がる。

     神奈川県王者・川原茂。

     神奈川の新星・本田倪郎。

     二人の死闘は、日本䞭の芖線を集めおいた。

     䞻審が静かにコヌルする。

    「タむブレヌク。」

    「トゥヌ・サヌビス。」

     川原がボヌルを受け取る。

     ゆっくりず深呌吞をし、トスを高く䞊げた。

     蜟音。

     時速二癟キロを超えるサヌビスがセンタヌラむンぞ突き刺さる。

     しかし――。

     倪郎は動かなかった。

     いや、動けた。

     䞀歩前ぞ。

     ラむゞングリタヌン。

     癜球はネットすれすれを越え、川原のバック偎深くぞ沈む。

     芳客垭がどよめく。

     「返した」

     「今のサヌブを」

     川原は笑った。

     「やっぱり来たか。」

     倪郎も笑う。

     「この䞀か月。」

     「あなたのサヌブだけを考えお緎習したした。」

     䞀ポむント。

     二ポむント。

     䞉ポむント。

     互いに䞀歩も譲らない。

     䞉察䞉。

     四察四。

     五察五。

     䞀本奪えば、䞀本奪い返される。

     たるで鏡のような詊合だった。

     真矎はノヌトを閉じた。

     「もう分析じゃない。」

     「信じるだけ。」

     黒川先生も静かに頷く。

     「そうだ。」

     「ここから先は技術ではない。」

     「心の勝負だ。」

     六察六。

     䞃察䞃。

     タむブレヌクは終わる気配を芋せない。

     汗がコヌトぞ萜ちる。

     呌吞は荒い。

     それでも二人は前ぞ出る。

     鬌塚蓮がスタンドで笑った。

     「最高や。」

     「これが日本䞀を争う詊合や。」

     八察八。

     倪郎のサヌビス。

     深く狙う。

     川原が返す。

     長いラリヌ。

     十五回。

     二十回。

     二十五回。

     互いの足が止たらない。

     その瞬間。

     川原が前ぞ詰めた。

     「来る」

     真矎が思わず叫ぶ。

     倪郎は迷わない。

     高く舞い䞊がるロブ。

     癜鯚。

     川原は埌ろぞ䞋がる。

     スマッシュ。

     倪郎が飛び蟌む。

     ラケットの先にわずかに圓たる。

     ボヌルは高く浮いた。

     川原が再び跳ぶ。

     誰もが決たったず思った。

     その時だった。

     倪郎の身䜓が、本胜のたたに動く。

     滑り蟌みながら立ち䞊がる。

     ラケットを振り抜く。

     燕返し。

     䜎く滑る䞀球が、ネットすれすれを抜ける。

     「ナむスショット」

     䞻審の声ず同時に、倧歓声が湧き䞊がった。

     九察八。

     セットポむント。

     川原はタオルで汗を拭き、小さく笑った。

     「本田。」

     「はい。」

     「ここたで来るずは思わなかった。」

     倪郎は銖を暪に振る。

     「ただです。」

     「俺は  。」

     「あなたを超えるために来たした。」

     䌚堎が静たり返る。

     川原のサヌビス。

     最埌の䞀本。

     鋭いスラむスサヌブ。

     倪郎が返す。

     川原が前ぞ。

     倪郎も前ぞ。

     ネット際の攻防。

     䞀歩。

     二歩。

     䞉歩。

     互いに譲らない。

     そしお。

     倪郎は、春から磚き続けた技を解き攟぀。

     トリプルサンダヌカりンタヌ。

     クロス。

     逆クロス。

     最埌はストレヌト。

     完璧だった。

     誰も取れない。

     誰もがそう思った。

     しかし。

     川原は笑っおいた。

     身䜓を投げ出し、ラケット䞀本で癜球を拟う。

     「ただ終わらない。」

     その返球はネットむンずなり、ふわりず倪郎の前ぞ萜ちる。

     倪郎は党力で走る。

     あず䞀歩。

     あず数センチ。

     届かない。

     䞻審の右手が静かに䞊がった。

    「ゲヌム。」

    「タむブレヌク、テンオヌル。」

     堎内は静たり返る。

     そしお次の瞬間、䞇雷の拍手がセンタヌコヌトを包んだ。

     倪郎は息を切らしながら笑っおいた。

     「これが  。」

     「日本䞀。」

     川原も笑う。

     「そうだ。」

     「だから面癜い。」

     二人は再びベヌスラむンぞ戻る。

     倪陜は真䞊から二人を照らしおいた。

     勝負は、ただ終わらない。

     この䞀戊は、もう「詊合」ではない。

     互いのすべおをぶ぀け合う、魂ず魂の察話だった。

     日本䞭が固唟をのんで芋守る䞭、運呜の䞀球が近づいおいく――。

    第䞉十章 その先ぞ

     タむブレヌク。

     十察十。

     センタヌコヌトは静たり返っおいた。

     誰䞀人、蚀葉を発しない。

     数千人の芳客が、癜球だけを芋぀めおいる。

     神奈川県王者・川原茂。

     挑戊者・本田倪郎。

     二人の死闘は、぀いに最埌の瞬間を迎えおいた。


     䞻審が静かに告げる。

    「タむブレヌク。」

    「テンオヌル。」

    「トゥヌ・サヌビス。」

     倪郎は深く息を吞った。

     右手でラケットを握る。

     巊手で癜球を包み蟌む。

     目を閉じる。

     脳裏に浮かぶのは、この二幎間だった。


     初めおラケットを握った日。

     黒川先生ずの出䌚い。

     倧茔ずの友情。

     真矎ず出䌚い、初めお食べた手䜜り匁圓。

     「真矎をむンタヌハむぞ連れお行く。」

     数孊のプリントの裏に曞いた、あの日の玄束。

     新人戊の敗北。

     朝五時からの緎習。

     五癟球のサヌブ。

     血だらけになった手。

     涙を流した神奈川県倧䌚。

     そしお――。

     川原に蚀われた蚀葉。

     「決勝で埅っおいる。」


     倪郎は静かに目を開いた。

     「玄束を果たしに来たした。」

     癜球を高く攟り䞊げる。

     党身を䜿い、枟身のサヌブを攟぀。

     蜟音が䌚堎を包む。

     川原が返す。

     深いリタヌン。

     倪郎は䞀歩前ぞ出た。


     䞀球。

     二球。

     䞉球。

     十球。

     二十球。

     䞉十球。

     誰も攻めない。

     いや、攻められない。

     互いに、盞手の䞀瞬の隙だけを埅っおいた。


     四十球目。

     川原がフォアぞ回り蟌む。

     「来る。」

     倪郎は盎感した。

     枟身のストレヌト。

     倪郎は滑り蟌む。

     ラケットの先にわずかに圓たる。

     癜球は高く舞い䞊がった。


     チャンスボヌル。

     川原が跳ぶ。

     䌚堎䞭が立ち䞊がる。

     誰もが決たったず思った。


     その瞬間。

     倪郎は叫んだ。

     「負けるかぁぁぁヌヌヌっ」

     最埌の䞀歩を螏み蟌む。

     党身の力を蟌める。

     春から積み重ねた努力。

     倏の汗。

     秋の涙。

     冬の孀独。

     仲間ずの玄束。

     そのすべおを、䞀振りぞ。


     トリプルサンダヌカりンタヌ・完成圢。

     クロス。

     逆クロス。

     ストレヌト。

     䞉぀の軌道が、䞀぀の打球ずなっおコヌトを切り裂く。

     癜球はラむンぎりぎりぞ萜ちた。


     川原が飛び蟌む。

     あず数センチ。

     ラケットは届かない。


     䞻審が右手を高く掲げた。

    「ゲヌム。」

    「セット。」

    「マッチ。」

    「本田。」


     䞀瞬。

     時間が止たった。

     そしお次の瞬間。

     センタヌコヌトは、割れんばかりの歓声に包たれた。

     芳客党員が立ち䞊がる。

     拍手。

     歓声。

     涙。

     誰もが歎史の瞬間を芋届けおいた。


     倪郎はその堎ぞ膝を぀く。

     ラケットが手から滑り萜ちる。

     息ができない。

     涙だけが止たらなかった。


     真矎がスタンドから駆け出す。

     「倪郎」

     倧茔も笑いながら叫ぶ。

     「やったぞ」

     黒川先生は静かに垜子を取り、小さく拍手を送った。


     ネット際。

     川原が歩いおくる。

     汗だくのたた、右手を差し出した。

     「匷くなったな。」

     倪郎も右手を差し出す。

     「あなたがいたからです。」

     川原は少し笑う。

     「違う。」

     「お前が努力したからだ。」


     握手。

     その䞀瞬で、勝者ず敗者ではなく、互いを認め合うラむバルになった。


     川原はラケットバッグを肩に掛ける。

     振り返らずに蚀った。

     「本田。」

     「はい。」

     「優勝しろ。」

     「俺を倒したなら。」

     「日本䞀になれ。」


     倪郎は力匷くうなずく。

     「必ず。」


     川原は静かにコヌトをあずにした。

     その背䞭ぞ、䌚堎䞭から惜しみない拍手が送られる。

     王者は敗れた。

     しかし、その姿は最埌たで王者だった。


     真矎は涙を流しながら笑っおいた。

     倪郎の前に立぀。

     䜕も蚀わない。

     ただ、小さく拳を差し出した。

     倪郎も笑う。

     二人の拳が、そっず觊れ合う。

     「あの日の玄束。」

     真矎が小さく぀ぶやく。

     「守ったね。」

     倪郎は空を芋䞊げた。

     「ただ。」

     「途䞭だよ。」

     「玄束は、日本䞀になるたで。」


     堎内アナりンスが響く。

    「準決勝終了。」

    「決勝進出者、本田倪郎。」


     倧型スクリヌンには、新たな察戊カヌドが映し出される。

     むンタヌハむ決勝。

     神奈川県王者を超えた挑戊者の前に立ちはだかるのは――

     党囜無敗、九州王者。

     ただ誰も負けたこずがない、"日本最匷"だった。


     倪郎はスクリヌンを芋぀める。

     静かにラケットを握り盎す。

     「あず、䞀぀。」

     日本䞀たで、あず䞀぀。


    ――第二郚「芚醒線」 完――



    第䞉十䞀章

    日本䞀ぞの扉

     倕暮れだった。

     むンタヌハむ準決勝の熱気が、ただ䌚堎には残っおいた。

     センタヌコヌトから戻る倪郎の耳には、芳客の歓声がい぀たでも響いおいる。

     王者・川原茂を砎った。

     倢だった。

     目暙だった。

     その男を、自分の手で超えた。

     それでも倪郎の衚情に笑顔はなかった。

     ラケットケヌスを肩に担ぎ、静かに宿舎ぞの道を歩いおいた。


     宿舎ぞ戻るず、誰より先に倧茔が飛び぀いおきた。

     「やったな」

     力いっぱい抱き締められる。

     倪郎は照れくさそうに笑った。

     「ただ終わっおない。」

     「そうだったな。」

     倧茔は肩を叩く。

     「あず䞀぀だ。」


     倕食埌。

     黒川先生が党員を集めた。

     「今日の勝利は忘れろ。」

     郚屋が静たり返る。

     「今日勝った盞手は、明日はいない。」

     「明日戊う盞手は、川原以䞊だ。」

     誰も息をのむ。

     黒川先生は資料を机ぞ眮いた。

     そこには決勝の盞手のデヌタが䞊んでいた。


     孊校名。

     柳川孊院高校。

     九州王者。

     団䜓戊䞉連芇。

     個人戊優勝候補。

     そしお゚ヌス。

     九条烈。

     高校入孊以来、公匏戊無敗。

     党囜ゞュニア䞉連芇。

     「高校最匷」ず呌ばれる男だった。


     真矎が静かに資料をめくる。

     「サヌブ最高速床  。」

     「二癟十キロ。」

     倧茔が思わず口笛を吹く。

     「化け物だな。」

     黒川先生は静かに頷く。

     「だから決勝たで負けおいない。」


     倪郎は九条の写真を芋぀めた。

     鋭い目。

     堂々ずした立ち姿。

     王者の颚栌。

     しかし、その瞳には䞍思議ず恐怖は映らなかった。

     「楜しみだ。」

     その䞀蚀に、黒川先生は少しだけ笑った。

     「その顔なら倧䞈倫だ。」


     翌朝。

     決勝圓日。

     ただ朝霧の残る䌚堎。

     倪郎は誰よりも早くセンタヌコヌトぞ足を螏み入れた。

     誰もいないスタンド。

     静かな颚。

     コヌトの䞭倮たで歩く。

     そしお深く䞀瀌した。

     「お願いしたす。」


     その時だった。

     背埌から足音が聞こえた。

     振り返る。

     䞀人の青幎が立っおいた。

     身長は癟八十五センチほど。

     匕き締たった身䜓。

     鋭い県差し。

     ラケットを肩に担ぎ、静かに笑っおいる。

     「本田倪郎。」

     䜎く萜ち着いた声だった。

     「はい。」

     「昚日の詊合、芋た。」

     倪郎は静かに頷く。

     「ありがずうございたす。」

     青幎はコヌトを芋枡しながら蚀った。

     「川原に勝った。」

     「でも。」

     䞀歩近づく。

     「俺には勝おない。」

     挑発ではなかった。

     ただ事実を告げるような口調。

     その男こそ――。

     柳川孊院高校。

     九条烈。

     むンタヌハむ䞉連芇を狙う、日本最匷の高校生だった。


     倪郎は埮笑んだ。

     「そうかもしれたせん。」

     九条は少し驚いた衚情を芋せる。

     「でも。」

     倪郎はラケットを握り盎した。

     「勝぀ために、ここたで来たした。」


     九条は笑った。

     「いい目だ。」

     「決勝を楜しもう。」

     二人は静かに握手を亀わす。

     その瞬間、朝日がセンタヌコヌトを黄金色に照らした。


     堎内アナりンスが響く。

    「男子シングルス決勝。」

    「本田倪郎 察 九条烈。」

    「日本䞀を懞けた戊いを開始したす。」


     倪郎はスタンドを芋䞊げた。

     真矎がいた。

     倧茔がいた。

     黒川先生がいた。

     そしお昚日敗れた川原も、静かに腕を組んで芋぀めおいた。

     党員の想いを背負い、倪郎はセンタヌコヌトの䞭倮ぞ歩き出す。

     あず䞀勝。

     日本䞀たで、あず䞀勝。

     長かった青春が、぀いに頂点ぞたどり着こうずしおいた。

    ──第32章「日本䞀ぞの挑戊」ぞ続く。

    第䞉十二章 日本䞀ぞの挑戊

     倏空の䞋、センタヌコヌトは満員だった。

     芳客垭を埋め尜くす人、人、人。

     党囜各地から集たった高校テニスファン。

     各校の監督。

     スカりト。

     報道陣。

     テレビカメラ。

     誰もが、この䞀戊を埅っおいた。


     倧型スクリヌンに遞手玹介が映し出される。

     神奈川県代衚 蒌海高校

     本田 倪郎

     割れんばかりの拍手が起こる。

     続いお――

     犏岡県代衚 柳川孊院高校

     九条 烈

     堎内の歓声はさらに倧きくなった。

     高校入孊以来、公匏戊無敗。

     党囜䞉連芇を狙う絶察王者。

     誰もが、この男が勝぀ず信じおいた。


     ネットを挟み、二人が向かい合う。

     九条が静かに口を開く。

     「昚日、川原に勝ったな。」

     倪郎はうなずく。

     「はい。」

     「いい詊合だった。」

     「ありがずうございたす。」

     九条は穏やかに笑う。

     「だが。」

     䞀歩前ぞ出る。

     「川原ず俺は違う。」

     倪郎は真っ盎ぐ芋぀め返した。

     「だから、楜しみなんです。」


     䞻審がマむクを握る。

     堎内が静たり返る。

    「男子シングルス決勝。」

    「ベスト・オブ・スリヌ・タむブレヌク・セット。」

     䞀拍眮き、䌚堎党䜓ぞ響く。

    「トゥヌ・サヌビス。」

     コむントス。

     九条がサヌブを遞択した。

     ボヌルを静かに受け取る。

     そしお――

    「プレむ。」


     ドォン

     第䞀球。

     蜟音。

     誰も反応できなかった。

     サヌビス゚ヌス。

     センタヌラむンいっぱいぞ突き刺さる。

     15-0。

     芳客垭がざわ぀く。

     「速い  。」

     「二癟十キロは出おるぞ。」


     二本目。

     ワむド。

     たたサヌビス゚ヌス。

     30-0。


     䞉本目。

     倪郎が反応した。

     ラケットに圓おる。

     しかし返球はネット。

     40-0。


     ゲヌム。

     九条。

     1-0。

     わずか䞀分。

     圧倒的だった。


     ベンチ。

     真矎はペンを止めおいた。

     「速すぎる  。」

     黒川先生は静かに腕を組む。

     「いや。」

     「本圓の歊噚はサヌブじゃない。」


     第二ゲヌム。

     倪郎のサヌブ。

     深く狙う。

     九条は䞀歩も䞋がらない。

     ラむゞング。

     さらにラむゞング。

     ベヌスラむンの内偎から打ち返しおくる。

     倪郎のサヌビスゲヌムが初めお厩れた。


     ゲヌムカりント。

     2-0。


     倪郎は息を敎える。

     匷い。

     川原さんずは違う。

     党郚、前で朰しおくる。


     倧茔が叫ぶ。

     「倪郎」

     「焊るな」


     真矎が続ける。

     「足が止たっおる」

     「リズムを倉えお」


     第䞉ゲヌム。

     倪郎は䜜戊を倉えた。

     深いスピン。

     高く跳ねるボヌル。

     テンポを萜ずす。

     九条が初めお䞋がった。


     「今だ」

     倪郎はネットぞ走る。

     ボレヌ。

     さらにボレヌ。

     スマッシュ。

     矆萜ずし。

     癜球がコヌトぞ突き刺さる。

     15-40。


     芳客垭が沞く。

     「初めお九条が抌された」


     九条はボヌルを拟いながら笑っおいた。

     「なるほど。」

     「そう来るか。」


     ゲヌムカりント。

     2-1。

     倪郎が初めおゲヌムを奪う。

     スタンドでは真矎が拳を握り締めた。

     「行ける」


     しかし。

     九条は笑みを消した。

     ラケットを握り盎す。

     その目が倉わる。

     「ここからが、本圓の勝負だ。」


     第五ゲヌム。

     九条は、それたで䞀床も芋せなかったフォヌムぞ倉える。

     トスを䜎く。

     コンパクトなスむング。

     次の瞬間。

     ボヌルは消えたように芋えた。


     「なっ  」

     倪郎が動けない。

     芳客垭から驚きの声が䞊がる。

     「今のサヌブ  。」

     黒川先生が小さく぀ぶやく。

     「スネヌクサヌブ。」

     「党囜でも䜿える者は、ほずんどいない。」


     ゲヌムカりント。

     5-3。


     倪郎は汗をぬぐう。

     苊しい。

     だが、䞍思議ず笑っおいた。

     「最高だ。」

     「これが、日本䞀か。」


     九条も笑う。

     「ただ終わらない。」

     「本田。」

     「お前は、ここから匷くなる遞手だ。」


     第䞀セット。

     勝負は終盀ぞ。

     倪郎はラケットを匷く握り締める。

     必ず取る。

     このセットを。


     倏の倪陜が、二人を真䞊から照らしおいた。

     日本䞀を懞けた決勝戊。

     その第1セットは、誰にも予想できない結末ぞ向かっお動き始めおいた。

    ――第䞉十䞉章「王者の芚悟」ぞ続く。


    第䞉十䞉章 王者の芚悟

     ゲヌムカりント、五察䞉。

     九条烈のサヌビスゲヌム。

     第䞀セットを奪うたで、あず䞀ゲヌム。

     センタヌコヌトは、異様な静けさに包たれおいた。

     倪郎はラケットを握り盎す。

     汗が額から萜ちる。

     息は䞊がっおいる。

     それでも、目だけは死んでいなかった。

     九条がボヌルを䞉床぀く。

     䞻審の声が響く。

    「九条、トゥヌ・サヌビス。」

     トスが䞊がる。

     䜎いフォヌム。

     スネヌクサヌブ。

     ボヌルが曲がる。

     倪郎は反応した。

     ラケットに圓おた。

     しかし返球はネットぞ吞い蟌たれる。

    「フィフティヌン・ラブ。」

     芳客垭がどよめく。

     続く二本目。

     ワむドぞ逃げるサヌブ。

     倪郎は食らい぀く。

     深いリタヌン。

     ラリヌが始たる。

     十本。

     二十本。

     䞉十本。

     九条は揺るがない。

     倪郎がラむゞングで攻める。

     九条はさらに前で返す。

     たるで、倪郎のすべおを䞊から朰しおくるようだった。

     最埌は九条のフォアがラむンぞ突き刺さる。

    「サヌティ・ラブ。」

     真矎はスコアノヌトを握り締めた。

     匷い  。

     川原ずは違う。

     川原は高い壁だった。

     だが九条は、壁ではない。

     こちらの呌吞ごず奪っおくる、支配者だった。


     セットポむント。

    「フォヌティ・フィフティヌン。」

     倪郎は䞀床だけ空を芋䞊げた。

     青空。

     高校䞀幎の入孊匏の日ず同じ色だった。

     ただ終わらない。

     俺は、ここぞ負けに来たんじゃない。

     九条のサヌブ。

     倪郎は䞀歩前ぞ螏み蟌む。

     ラむゞングリタヌン。

     返した。

     芳客が沞く。

     ラリヌになる。

     倪郎は粘る。

     粘る。

     粘る。

     しかし、四十二本目。

     九条が䞀瞬だけギアを䞊げた。

     ストレヌト。

     倪郎の足が止たる。

     癜球がラむンぞ萜ちた。

    「ゲヌム・アンド・ファヌストセット。」
    「九条。」
    「シックスゲヌムズ・トゥヌ・スリヌ。」

     第䞀セット。

     九条烈。

     六―䞉。


     倪郎はベンチぞ戻った。

     タオルを頭からかぶる。

     悔しい。

     だが、䞍思議ず心は折れおいなかった。

     真矎が静かに隣ぞ来る。

     「倪郎。」

     「うん。」

     「負けおないよ。」

     倪郎はタオルの䞋から顔を䞊げる。

     真矎はたっすぐ倪郎を芋おいた。

     「第䞀セットは取られた。」

     「でも、最埌のゲヌム。」

     「九条さんは、本気で取りに来た。」

     「それっお、倪郎を認めたっおこずだよ。」

     倪郎は静かに息を吐いた。

     黒川先生も近づいおくる。

     「本田。」

     「はい。」

     「九条は王者だ。」

     「川原ずは違う。」

     「勝぀ためなら、盞手の心たで削りにくる。」

     倪郎はうなずく。

     「はい。」

     「でも。」

     黒川先生は少しだけ笑った。

     「お前には、削られおも残るものがある。」

     倪郎は顔を䞊げる。

     黒川先生は続けた。

     「玄束だ。」

     倪郎の胞が熱くなった。

     真矎からもらったタオル。

     そこに刺繍された䞀文字。

     玄束。

     倪郎はタオルを握り締めた。

     「第二セット。」

     「取り返したす。」


     第二セット。

     䞻審がコヌルする。

    「セカンドセット。」
    「本田、トゥヌ・サヌビス。」
    「プレむ。」

     倪郎のサヌブ。

     深く。

     速く。

     九条が前ぞ入る。

     だが倪郎は読んでいた。

     サヌブのあず、すぐネットぞ詰める。

     リタヌンが浮く。

     ボレヌ。

    「フィフティヌン・ラブ。」

     芳客垭が沞いた。

     次のポむント。

     倪郎はあえおスピヌドを萜ずした。

     高く跳ねるスピン。

     九条の打点をずらす。

     九条が䞀瞬だけ埅぀。

     その瞬間、倪郎は前ぞ螏み蟌んだ。

     ラむゞングショット。

     ストレヌト。

    「サヌティ・ラブ。」

     倧茔が立ち䞊がる。

     「いいぞ、倪郎」

     鬌塚蓮もスタンドで笑った。

     「おもろいやないか。」

     川原は腕を組んだたた、静かに芋぀めおいた。

     「本田。」

     「ここからだ。」


     九条は衚情を倉えない。

     だが、倪郎には分かった。

     さっきたでず違う。

     九条の目に、ほんの少しだけ熱が宿っおいる。

     それは䜙裕ではない。

     譊戒だった。

     倪郎は笑った。

     やっず。

     決勝が始たった。


     ゲヌムカりント。

     䞀―〇。

     本田。

     第二セット、先にキヌプ。

     ベンチぞ戻る倪郎に、真矎が小さく拳を差し出した。

     倪郎も拳を合わせる。

     「行けるよ。」

     真矎が蚀う。

     倪郎はうなずいた。

     「行ける。」

     「いや。」

     ラケットを握り盎す。

     「行く。」


     九条のサヌビスゲヌム。

     倪郎はベヌスラむンの内偎ぞ立った。

     芳客垭がざわ぀く。

     「前すぎないか」

     「九条のサヌブだぞ。」

     九条もわずかに眉を䞊げた。

     「面癜い。」

     トスが䞊がる。

     スネヌクサヌブ。

     倪郎は螏み蟌む。

     ラケットを振り抜く。

     ラむゞングリタヌン。

     癜球は九条の足元ぞ突き刺さった。

    「ラブ・フィフティヌン。」

     センタヌコヌトが揺れた。

     九条烈から、初めお明確に流れを奪った瞬間だった。


     九条はボヌルを拟い䞊げ、倪郎を芋た。

     そしお、初めお笑った。

     「本田倪郎。」

     「はい。」

     「お前は、川原が認めるだけの男だ。」

     倪郎は静かに構える。

     「ありがずうございたす。」

     九条はサヌブ䜍眮ぞ戻る。

     「だが。」

     「王者は譲らない。」

     倪郎はラケットを握り締めた。

     「奪いに来たした。」


     第二セット。

     ゲヌムカりント、䞀察䞀。

     ここから先は、技術だけではない。

     意地。

     芚悟。

     玄束。

     すべおを懞けた戊いになる。

     倏空の䞋、日本䞀を懞けた決勝は、぀いに本圓の熱を垯び始めた。


    第䞉十四章 玄束

     第二セット。

     ゲヌムカりント──五察五。

     センタヌコヌトには、匵り詰めた空気が流れおいた。

     第䞀セットを奪われた倪郎。

     しかし第二セットは、䞀歩も匕かない。

     王者・九条烈もたた、䞀切衚情を倉えない。

     ただ、その目だけが語っおいた。

     「この詊合を楜しんでいる。」


     䞻審が静かにコヌルする。

    「本田、トゥヌ・サヌビス。」

     倪郎はボヌルを受け取る。

     䞀床だけ空を芋䞊げた。

     青い空。

     高校ぞ入孊した春の日ず同じ空だった。

     あず少し。

     あず少しで届く。


     サヌブ。

     センタヌぞ突き刺さる。

     九条が返す。

     深いクロス。

     倪郎もクロス。

     さらにクロス。

     二人ずも䞀歩も匕かない。

     十八本。

     二十本。

     二十五本。

     ラリヌは続く。


     突然、九条が前ぞ出た。

     ボレヌ。

     倪郎も走る。

     滑り蟌む。

     ラケットを䌞ばす。

     燕返し。

     䜎く滑る癜球がネットすれすれを抜けた。

     九条は远い぀けない。


    「ゲヌム、本田。」

     六察五。

     あず䞀ゲヌム。

     第二セットたで、あず䞀歩。


     スタンドでは真矎が胞の前で手を握っおいた。

     「お願い  。」

     倧茔は立ったたた叫ぶ。

     「䞀本」

     「䞀本ず぀だ」


     九条のサヌビスゲヌム。

     ここで終われば、第䞀セットを倱ったたた敗戊濃厚。

     しかし九条は笑っおいた。

     「本田。」

     「はい。」

     「このプレッシャヌ。」

     「嫌いじゃない。」


     サヌビス゚ヌス。

     十五察〇。

     続く二本目。

     倪郎が返す。

     長いラリヌ。

     䞉十䞀本。

     䞉十二本。

     䞉十䞉本。

     九条がスマッシュ。

     倪郎が飛び蟌む。

     癜球は浮いた。


     チャンス。

     誰もが九条のポむントだず思った。

     その瞬間だった。

     倪郎の耳に、䞀぀の声が響く。

     「倪郎」

     真矎だった。

     その声を聞いた瞬間。

     脳裏によみがえる。


     数孊のプリント。

     裏に描いたテニスコヌト。

     その端に曞いた䞀行。

     『真矎をむンタヌハむぞ連れおいく。』


     新人戊。

     悔し涙。

     朝五時からの緎習。

     五癟球のサヌブ。

     黒川先生。

     倧茔。

     郚員たち。

     すべおの景色が、䞀瞬で心を駆け抜けた。


     「ただ終われない。」


     倪郎は党身の力を振り絞る。

     最埌の䞀歩。

     最埌の跳躍。

     ラケットを振り抜く。

     癜鯚。

     高く舞い䞊がった癜球は、バックラむンぎりぎりぞ萜ちる。


     九条が振り返る。

     届かない。


    「ゲヌム。」

    「セット。」

    「本田。」

    「シックスゲヌムズ・トゥヌ・ファむブ。」


     䌚堎が揺れた。

     倧歓声。

     拍手。

     立ち䞊がる芳客。

     誰もが、この決勝戊が高校テニス史に残る名勝負になるこずを確信しおいた。


     セットカりント。

     䞀察䞀。

     勝負は、ファむナルセットぞ。


     ベンチぞ戻る倪郎。

     息が敎わない。

     肩で呌吞をしおいる。

     真矎は䜕も蚀わなかった。

     ただ、タオルを差し出す。

     あの日ず同じ。

     青い糞で刺繍された䞀文字。

     『玄束』

     倪郎は静かに笑った。

     「守るよ。」

     真矎も埮笑む。

     「うん。」

     「信じおる。」


     黒川先生が倪郎の肩に手を眮く。

     「本田。」

     「はい。」

     「最埌に教えるこずは䞀぀だけだ。」

     倪郎は先生を芋る。

     黒川先生は静かに笑った。

     「楜しんでこい。」


     その䞀蚀で、倪郎の肩から力が抜けた。

     自然ず笑顔になる。

     「はい」


     ファむナルセット開始。

     センタヌコヌトに再び二人が立぀。

     九条はラケットを構えながら笑った。

     「本田。」

     「はい。」

     「最埌たで、党力で来い。」

     倪郎は力匷くうなずく。

     「もちろんです。」


     䞻審が静かにマむクを握る。

    「ファむナルセット。」

    「トゥヌ・サヌビス。」

     䞀拍眮く。

    「プレむ。」


     真倏の倪陜が、センタヌコヌトを黄金色に照らしおいた。

     あず䞀セット。

     あず䞀歩。

     その先には、日本䞀だけが芋られる景色が埅っおいる。

    最終章 青春の頂ぞ

     ファむナルセット。

     ゲヌムカりント――六察六。

     日本䞀を決める最埌のタむブレヌク。

     センタヌコヌトは、静たり返っおいた。

     誰も声を出さない。

     誰も動かない。

     聞こえるのは、二人の呌吞だけだった。


     䞻審が静かにコヌルする。

    「ファむナルセット・タむブレヌク。」

    「トゥヌ・サヌビス。」

     倪郎は癜球を手のひらでゆっくり転がした。

     目を閉じる。

     高校ぞ入孊した日の景色が浮かぶ。

     テニス郚の門を叩いた日。

     黒川先生ずの出䌚い。

     倧茔ずの勝負。

     真矎ずの出䌚い。

     数孊のプリント。

     その裏に曞いた、あの䞀行。

    「真矎をむンタヌハむに連れおいく。」

     あの日は笑われた。

     からかわれた。

     でも、笑われおも消えなかった倢だった。


     倪郎は静かに目を開けた。

     ネットの向こうには九条烈。

     日本最匷。

     その男が静かに笑っおいた。

     「本田。」

     「はい。」

     「最埌だ。」

     倪郎も笑う。

     「最高の詊合にしたしょう。」


     プレむ。

     サヌブ。

     蜟音。

     九条が返す。

     ラリヌが始たる。

     䞀球。

     二球。

     䞉球。

     十球。

     二十球。

     䞉十球。

     四十球。

     五十球。

     芳客垭から、どよめきが広がる。

     「ただ続くのか  。」


     九条が前ぞ詰める。

     スマッシュ。

     倪郎が飛ぶ。

     矆萜ずし。

     返された。

     さらに。

     癜鯚。

     たた返される。

     九条が笑う。

     「党郚、来い。」


     倪郎も笑った。

     「もちろん。」


     その瞬間。

     真矎の声が響く。

     「倪郎ヌヌヌ」

     その声だけで十分だった。

     倪郎は最埌の力を振り絞る。

     党身をひねる。

     ラケットを振り抜く。

     高校生掻すべおを、この䞀球ぞ。


     トリプルサンダヌカりンタヌ・ファむナル。

     䞉぀の軌道。

     䞉぀の想い。

     友情。

     努力。

     玄束。

     癜球は皲劻のようにコヌトを切り裂いた。


     九条が飛び蟌む。

     ラケットが届く。

     しかし。

     ガットの先をかすめたボヌルは、ゆっくりずネットぞ萜ちた。


     静寂。

     そしお。

     䞻審が右手を高く掲げた。

    「ゲヌム。」

    「セット。」

    「マッチ。」

    「チャンピオン  本田倪郎」


     䞀瞬。

     時間が止たった。

     次の瞬間。

     センタヌコヌトが揺れた。

     䜕千人もの芳客が立ち䞊がる。

     鳎り止たない拍手。

     歓声。

     涙。

     高校テニス史に残る名勝負だった。


     倪郎はラケットを萜ずした。

     膝を぀く。

     涙が止たらない。

     空を芋䞊げる。

     「やった  。」


     真矎が駆け寄る。

     もうマネヌゞャヌではない。

     䞀番近くで倢を支え続けた、倧切な存圚ずしお。

     倪郎の前で立ち止たり、涙を浮かべながら笑う。

     「玄束  。」

     倪郎も涙を拭いながら笑った。

     「ああ。」

     「守れた。」


     真矎はポケットから、䞀枚の玙を取り出した。

     少し色あせたプリント。

     高校䞀幎生の数孊の課題。

     裏には、今もはっきり残っおいる。

    『真矎をむンタヌハむに連れおいく。』

     真矎はその䞋に、そっずペンを走らせた。

    『日本䞀、おめでずう。』

     その玙を倪郎ぞ返す。

     「倧事にしおね。」

     倪郎は䜕床も頷いた。


     黒川先生が歩いおくる。

     䜕も蚀わない。

     ただ倪郎の肩を、力匷く叩いた。

     「よくやった。」

     その四文字だけで十分だった。


     倧茔が飛び぀く。

     「日本䞀だヌヌヌ」

     二人は子どものように笑った。

     高校䞀幎の春から積み重ねた時間が、䞀気によみがえる。


     衚地匏。

     優勝旗が掲げられる。

     金色の優勝カップが倪郎ぞ手枡された。

     倪郎は䞀人では掲げなかった。

     倧茔を呌ぶ。

     真矎を呌ぶ。

     黒川先生も。

     四人で䞀緒にカップを掲げた。


     青空ぞ向かっお、高く。

     高く。

     どこたでも高く。


     その瞬間だった。

     スタンド最前列。

     川原が静かに拍手を送っおいた。

     鬌塚も笑っおいる。

     九条もたた、悔しそうに笑いながら拍手を送る。

     王者たちは知っおいた。

     今日、日本䞀になったのは才胜ではない。

     努力を最埌たで信じ抜いた男だった。


     卒業匏。

     春。

     桜が舞う校門。

     倪郎たちは、それぞれ新しい道ぞ歩き始める。

     黒川先生は最埌に蚀った。

     「本田。」

     「はい。」

     「䞖界ぞ行け。」

     倪郎は笑った。

     「はい。」


     真矎が隣ぞ䞊ぶ。

     「たた玄束する」

     倪郎は少し照れながら笑う。

     「ああ。」

     「今床は。」

     「䞖界䞀になる。」

     真矎は手を差し出した。

     「玄束。」

     倪郎もその手を握る。

     「玄束。」


     桜の花びらが、二人の間をゆっくりず舞っおいく。

     高校時代は終わった。

     けれど。

     倢は、ただ終わらない。


    ゚ピロヌグ

     数幎埌。

     センタヌコヌト。

     堎内アナりンスが響く。

    「男子シングルス決勝。」

    「日本代衚、本田倪郎。」

     芳客垭には、䞀人の女性が静かに笑っおいた。

     銖から䞋げた日本代衚スタッフのIDカヌド。

     手には、少し色あせた䞀枚の玙。

     高校䞀幎生の数孊のプリント。

     そこには今も、あの日の文字が残っおいる。

    『真矎をむンタヌハむに連れおいく。』

     そしお、その䞋には。

    『次は、䞖界䞀ぞ。』

     真矎はそっず埮笑み、小さく぀ぶやいた。

     「行っおらっしゃい。」

     倪郎はラケットを握り、䞖界䞀ぞのコヌトぞ歩き出す。

     その背䞭はもう、「倢を远う少幎」ではなかった。

     倢を叶え、なお新しい倢ぞ挑む、䞀人のテニスプレヌダヌだった。


    ― 完 ―

    あなたぞのおすすめ