カメラ人間さんに出会う
就活の写真を撮りに行った。
書類落ちの原因を顔面にさせないために、ヘアメイクと美肌なんとかも含まれている最高額のプランを選択する。
当日、すっぴんのぼさぼさでスタジオ入り。
洗練されたパリみたいなお姉さんが、テキパキと私を人間にしてくれる。
撮影。
ここでカメラ人間さんに出会う。
「ことごとく人事受けを狙っていきましょう。」
それが第一声。
「僕はね、シンメトリーに命をかけているんです。」
それが第二声。
すでに私はカメラ人間さんを好きだと思った。
「右肩を上げて、顎を引いて」
カメラ人間さんは細やかな指示をくれる。
「そう!グッドグッド。」
それに忠実に応えると、カメラ人間さんは気持ちいいくらいに褒めてくれる。
私は飼い慣らされた犬の気持ちを知る。
ない尻尾をブンブン振っていた。
「採用です。」
そう言って、カメラ人間さんはグッドサインを押し出して歯を見せる。
私は思わず、お返しグッドサインをしたくなったけれど敬意の念を込めたくてカチコチのお辞儀を差し出した。
写真を選ぶ。
そこでもカメラ人間さんは止まらない。
「お客さんは目力が凛々しいですので。」
だとか
「素晴らしい役者さんでした。」
だとか
息を吐くように褒め言葉が溢れてくる。
私は自分の目を凛々しいだなんて、一度も思ったことがない。でも、カメラ人間さんがそう言うならそうなんだと思った。
お世辞を鵜呑みにする馬鹿だと言われても、カメラ人間さんの言葉を微塵も落としたくないと思った。
帰り際。
きっと私の肌はツヤめいて発光していた。
人から褒められることの重大さを実感する。
「就活、頑張ってくださいね。」
カメラ人間さんは最後まで丁寧に言葉をくれる。
すっかりファンになっていた私には、名残惜しい別れだった。
もう二度と会うことはないかもしれない。
それでもあのグッドサインを、あの眩しい笑顔を、忘れないように生きていたい。