【ショートショート】場末
ここは場末──
ゆるく、非生産的な生活に甘んじる地域集団だ。いつものようにママが開店の光を灯すと
カランカラン
勢いよく扉が開いた。イチゲンサンだ。 ちかごろ、場末の生活レベルを上げようと息巻く、向上心の塊。
「おう、ボトル入れてくれよ」カウンター席の真ん中に陣取る。
「ところでママさんよ。ここはのれんがかかってねェじゃねえか。ちかごろはのれんがねぇ店は潰れるって相場が決まってるんだぜ」
ママはなんでもないように手際よくセットを並べていく。
「それは高級店のハナシだよ。うちなんかがのれん掛けてたって、笑われるだけさ。分相応ってものがあるんだよ」
「店、なくなってもいいのかい」
「そんときはそんときさ」
まだゲンは気づいていなかった。カウンターの端で、静かに飲む男がいるのを。
ジョウ=レン。謎めいているが、必ず店にいる男。 だがこの男こそが、この場末を守るハッカーである。 この街の恒常を守る男。成長と衰退のはざまを生きる仕事人。 場末AI(バスエーアイ)による管理を実行する兵士でもある。
「あのさぁママ。辛気臭いこと言わないでくれよ。こっちまでうつっちまいそうだぜ。」 イチゲンは目をとろんとさせながら言った。まだ一杯目である。 「...ここだけの話だけどよ。計画があンだよ」
「なんの計画だい」
「都市開発だよ。奇跡的に残ってるここも、もう潮時だぜ。あとはよ...」
イチゲンは椅子から転げ落ちそうなほど揺れている。
「...焼き払うってハナシを聞いたんだ。開発の為にはそれがいちばん手っ取り早いんだとよ」
「なんだいそれ」 ママは笑いながら水を出す。 片隅の男が立ち上がった。 「ちょっと外の空気浴びてくるぜ」 ねぇママのカレシ、という質問を背中に無視して。
次の日、世界は滅びた。 正確には、この場末だけをのこして。
