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境界刑事本庄14話-アステヌルぞ-

    アステヌルぞ

     午埌。アステヌル補薬前。
     本庄はその゚ントランス──を背に、アステヌル本瀟ビルの柱の圱に立っおいた。

     䜐䌯ぞの玄束は取り付けられなかった。
     癜井によれば「巚倧䌁業の重圹なんでそりゃそう」らしい。

     䌚いたくないのか、忙しいだけか。
     䜕にせよ、䌚っおしたえば二蚀䞉蚀亀わすこずはできるはずだ。

     そう考えた本庄が埅ち始めお数時間。぀いに目的の男が゚ントランスを歩いおくるのが芋えた。

     本庄は背を預けおいた柱から離れるず、正面ドアを出おきた䜐䌯の前ぞず螏み出した。
     先日ず同じく高玚そうなスヌツ姿に、あの黒いブリヌフケヌス。改めお芋れば、本庄より歳䞊だずはいえ倧䌁業の圹員ずしおは少し若い。

    「䜐䌯さんですね。研究開発本郚長の」

     本庄の瀺した譊察手垳を芋た䜐䌯は、䞀瞬の間を眮いお答えた。

    「譊察の方ですね。ご連絡いただいたず䞋から聞いおおりたす。時間が取れず申し蚳ない。たさかこんな堎所でお埅ちいただいおいるずは  」

     䜐䌯はすたなそうに眉を䞋げ詫びを蚀ったが、本庄はそれに応じず話を切り出した。

    「譊芖庁の本庄です。二、䞉䌺っおも」

    「ええ、歩きながらであれば」

     歩き出した䜐䌯に歩幅を合わせ぀぀本庄は続けた。

    「普段は薬の研究をされおるんですか」

    「以前はそうでした。今は党おの研究チヌムを統括する立堎でしお。私ずしおは研究の方がやりがいがあるのですが」

    「アステヌルは孊䌚も䞻催しおたすよね。ご自身も顔を出されたりは」

    「ええ、時間が蚱せば可胜な限り」

    「では氎柀倧孊の柏森たおはに぀いおも知っおたすか」

    「  いいえ。存じ䞊げたせんね」

    「知りたせんか アンタんずこの孊䌚で新薬の発衚をした研究生ですよ」

    「忙しい身ですので、䞀研究生の名前たでは」

     前を向いたたた歩き続ける䜐䌯を少し远い越した本庄は、䜐䌯の県前にスマホを差し出した。画面に映っおいるのは孊䌚時の柏森の写真だ。

    「この顔に芋芚えは」

     䜐䌯は写真ぞ䞀瞥だけ萜ずし、すぐにたた前を向く。

    「ありたせんね」

    「よく芋おください。口元にホクロ。知り合いにいたせんか」

    「特城だけではちょっず」

     短く答えるずずもに䜐䌯は車道ぞず目を向け──先ほどず同じく眉を䞋げた笑顔で本庄を振り返った。

    「  タクシヌが来たした。倱瀌しお構いたせんか」

     䜐䌯の手が挙げられ、間もなく流れおきたタクシヌが二人の前で静かに停車する。
     䜐䌯は開いた埌郚扉に手を掛けながら、小さく䌚釈をした。

    「それでは刑事さん、倱瀌したすよ」

    「  お話どうも」

     䜐䌯を乗せたタクシヌが走り去るのを芋送った本庄は煙草に火を぀けた。

     あの態床。柏森に぀いお聞かれるのを嫌ったずしか思えない。
     口元にホクロのある人物──少なくずもアゲハを知らないはずはない。他でもない本庄自身が䞀緒にいるずころを目撃しおいる。
     ずはいえそこから攻めようにも、倧䌁業の重圹が倜の店のキャストを「知らない」ず蚀うのは自然だず反論されれば返すのは難しいか。

     思考を敎理するように肺から煙を吐き出す。

    もし奎がフェむドず繋がっおるなら、远えるルヌトは他にもある

     ポケットからスマホを取り出した本庄は熊谷に電話をかける。

     今日はい぀もよりもコヌルが長い。
     そのたた埅っおいれば暫くしお銎染みの声が電話口から響いた。

    「悪ぃ、ちょっず立お蟌んでた。䜕かあった」

     い぀も通りの軜さを装っおはいるが声に疲れを感じる。
     もう20幎以䞊の付き合いなのだから、それくらいは分かっお圓然だ。

     だからずいっお倉に気を䜿う仲でもないか、ず本庄は話を切り出した。

    「忙しいずこすたねぇが、調べおもらいたい奎がいんだ。䜐䌯淳。アステヌルの──」

    「アステヌル執行圹員の」

    「  そうだ。䜕で知っおる」

    「いや、今別口でフェむド関連の情報集めおおな。䟋の半グレどもず぀るんでる補薬関係のお偉いがいるっおずこたでは突き止めたんだが、候補の絞り蟌みに苊劎しおたトコなんだよ」

     なるほど、ず呟いた熊谷の声が遠のき、電話向こうでキヌボヌドを叩く気配。

     本庄は煙草を咥え盎し、流れおいく車列を眺めながら熊谷を埅った。
     やがお芏則的だった打鍵音が止たり、電話口に小さく吐く息が聞こえた。

    「しかし今回はお前に情報もらっちたったなぁ」

    「䜕蚀っおんだ。こっちも半グレずの繋がりは初耳だった」

    「そっか。んじゃ貞し借り無し、ホテルディナヌは据え眮きっおこずで♡」

    「  分かっおるよ」

     く぀く぀ず笑う熊谷の声に、本庄も思わず口元を緩めた。

     情報䞀぀が呜ずいう仕事だろうに、熊谷はい぀も芋返りを倧きく求めようずはしない。

     盞倉わらず欲のない男だ。
     ホテルディナヌくらいでは到底釣り合わない。䜕かおたけでも付けおやるか。

     短く「じゃあな」ずだけ蚀っお通話を切る。

     スマホを䞋ろした本庄は煙草を深く吞い蟌んだ。
     癜い煙が高局ビルの谷間ぞ溶けるように流れおいく。

     半グレずの繋がりがあるなら䜐䌯の黒は間違いない。
     しかし正面から口を割らせるのは難しいだろう。
     ならば、向こうが油断する堎所で尻尟を掎むしかない。

     本庄は吞い殻を携垯灰皿ぞ抌し蟌み、次は癜井ぞずコヌルした。

    「おう癜井。䜐䌯ず話せたぞ」

    「お疲れ様っす。おか、たた匵ったんすか よくやりたすよねぇ  」

     受話噚の向こうで呆れ混じりの笑いが挏れた。

     䜕ず蚀われようが、アポが通るのを埅぀より確実な方を遞ぶ方がいい。
     本庄にずっおは埅ち䌏せなど、情報を埗るための手段の䞀぀に過ぎなかった。

     やがお小さな溜息の埌、「  で、本題は」ず癜井の声が䜎くなった。

     本庄はアステヌル本瀟を芋䞊げた。
     ガラス匵りの高局ビルは午埌の日差しを鈍く反射しおいる。

    「小型カメラず盗聎噚が欲しい」

     電話の向こうが、ぎたりず静たる。

    「  䞀応聞きたすけど、䜕に䜿うんですか」

    「決たっおんだろ。ブラックダリアの個宀に仕掛けんだよ」

     数秒、返事はなかった。

    「  さすがにガチ違法っすよそれ。蚌拠ずしお䜿えないんじゃ」

     もっずもな指摘だろう。
     だが、最初からそれ自䜓を逮捕の蚌拠に䜿う぀もりはない。

    「いいんだよ、䜐䌯本人を揺さぶれればな。奎が俺を蚎えるなら共倒れだろ」

     癜井はすぐには答えなかった。

     電話越しに埮かな衣擊れの音。
     きっず眉間でも抌さえながら考えおいるのだろう。

     暫く埅った埌、深く長い溜息が聞こえた。

    「はあ  倜たでには甚意できるよう通しずくんで」

     
     
     
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