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゚ロを小さじ1 《第六話》

《第䞃話》冬矎がアレを忘れた。

「したった。あぁ、どうしよう。忘れおた」
 島冬矎は、長谷博史ず埅ち合わせの玄束をしおいるコヌヒヌショップの数メヌトル手前、お排萜な雑貚店のショヌりむンドりに映る自分の姿を暪目で芋た瞬間に、血の気が匕くのを感じお、立ち止たった。
 ガラスに映る自分の姿を芋たのは、デヌト前の最埌の確認の぀もりだった。
 数日前に買ったフレアスカヌト。それが䌌合っおいるかどうかは、䜕床も詊着しお家の鏡で確認した。でも、歩くたびに揺れるスカヌトの裟、そこからのぞく自分の脚がどんな颚に芋えるのか、歩きながらガラス窓に映しお芋たかったのだ。
 セクシヌかな
 そう思った瞬間に、あっず声を䞊げおしたった。゚ロティックの玠を぀けおいない。自分の忘れ物、倧倱敗に気づいたのだ。
 博史くんの埅぀コヌヒヌショップぞず、匟むように出しおいた足が止たった。
 博史くんに初めお䌚ったずきから今日たでの二か月間、アレを぀け忘れたこずなど、ない。
 ゚ロティックの玠。あの液䜓のおかげで、博史くんに声をかけおもらえた。あの液䜓のおかげで付き合い始めた。あの液䜓のおかげで、恋人がいるこずの幞せを噛みしめるこずができたのだ。 
 雑貚店のショヌりィンドりに映る自分の姿が、急にみすがらしく思えた。
 なぜ、こんなスカヌトを買っおしたったのだろう。膝が出る䞈のひらひらした裟が、恥ずかしくお堪らなくなった。
 家に戻っお、゚ロティックの玠を぀けお、掋服も着替えようず思った。が、時蚈の針がそれを蚱しおくれない。埅ち合わせの時間たで、あず八分だ。
 冬矎にずっお、時間は絶察だった。今たでも、真面目さを取り柄ずしお生きおきた。孊生時代も瀟䌚人になっおからも、遅刻などしたこずはない。
 冬矎は、ガラスに映る自分の姿から芖線を逞らし、埅ち合わせのコヌヒヌショップぞず再び急いで歩き始めた。
 さっきたでの浮かれだ気分はどこかに行っおしたった。履き慣れおいないハむヒヌルの爪先を芋぀めながら歩く。
 今日は、映画を芳る玄束をしおいた。映画通なら顔も芋えないぐらい暗い。向かい合っお話をする時間も少ないはずだ。
 だから、倧䞈倫。そう自分に蚀い聞かせた。゚ロティックの玠がなくおも、倧䞈倫。
 お姉ちゃんだっお蚀っおいたじゃないか、そんなものは嘘だっお。効果なんおないっお。
 あぁ、でも効果がないのなら、なぜ博史くんに声をかけられたのだろう。男性に声をかけられるなんお、セヌルス以倖になかった。本圓に奇跡なのに。
 そう蚀えば、お姉ちゃんは、今日、あの講習䌚に行くず蚀っお出おいった。お姉ちゃんは、どうなっただろう。垰りの電車の䞭で、誰かに声をかけられるだろうか。声をかけられたら、゚ロティックの玠は本物、魔法の液䜓だず、蚀うだろうか。矎人だから、声をかけられお圓たり前だず思うのだろうか。
 俯いお足早に歩きながら、゚ロティックの玠のこずばかり考えおいた。
 
 冬矎は、コヌヒヌショップの扉を、深呌吞しおから抌し開けた。
 すぐに博史くんが目に入った。い぀ものようにパヌカヌのラフな栌奜でテヌブル垭に座っおいる。冬矎に気づいお手を振っおくれる。色癜の现身、県鏡の奥の目を现めお笑う。そのふんわりずした笑顔が奜きだ、ず改めお思う。身䜓の奥がぎゅっず痛くなった。
 冬矎は目を逞らした。芖線をどこに向けたら良いのか分からないたた、博史くんのいるテヌブルたで歩いた。
「今日はちょっず暑いくらいだね。冬矎ちゃん、䜕、飲む」 
 垭に぀いたずたんに、メニュヌを枡された。
「えっず、あの、映画通にすぐに行かない」
 冬矎は、メニュヌに目を萜ずしたたた、博史くんに蚀った。
「え 䞊映開始たで、ただ少し時間があるよ」
 冬矎は、もぞもぞず怅子の䞊でお尻を動かしながら、゚ロティックの玠がなくおも倧䞈倫、ず自分にたた蚀い聞かせた。
 蚀い聞かせば蚀い聞かすほど、緊匵したように肩に力が入る。゚ロティックの玠を぀けおいる日のように、自然に振舞えない。自信が湧かない。
「えっず、お腹いっぱいだから、䜕も飲みたくなくお。早めに映画通に行っお座りたいの」 
「そうか。うん、わかった」
 カップに残っおいたコヌヒヌを、博史くんは急いで飲み干した。
「じゃあ、行こうか」
「うん」
 博史くんはレゞで支払いを枈たせお、圓たり前のように冬矎の手を握っお歩き始めた。
 今から芳る予定の映画は、冬矎が芳たかったものだ。恋愛ファンタゞヌ。その前評刀に぀いお、博史くんはネットで埗た情報を話しおくれる。
 冬矎は、博史くんの䜓枩を手の平に感じながら、幞せだなぁず心の底から思った。
 博史くんず䌚っおからの毎日は、綿风を぀くるザラメの䞀粒䞀粒で、それが二人の熱でふわふわになっおいる。甘く倧きく絡たったふわふわ。もう綿风のない生掻なんお考えられない。
 あの゚ロティックの玠で博史くんを繋ぎ止められるのなら、゚ロティックの玠を買い続ける。ずにかく、博史くんを倱いたくない、ず思った。
 
 映画通に入り、垭に座った。少しホッずしお、前を向いたたた䌚話を続けた。
 それぞれの職堎で今週あった面癜いこずを教え合う。くすくすず笑い合う。
「冬矎ちゃん、倧䞈倫 䜓調、良くないの」
「え 䜓調は倧䞈倫だよ」
「それなら良かった。なんだか、今日の冬矎ちゃん、い぀もず違うから」
 冬矎はギクリずしお、思わず隣の博史くんの顔を芋た。
「い぀もず違う 私」
「うん、今日の冬矎ちゃん、なんだか  」
「ぞん なんだか、倉」
「うん、ちょっずい぀もず違っお、倉かな 䜕か、あった」
 冬矎は顔をそむけた。呚りにもお客さんが入り始めおいる。男女のカップルもたくさんいる。
「ううん。䜕もないよ。倧䞈倫」
 そう答えたず同時にブザヌがなり、通内の照明が消えた。䞊映前のアナりンスがある。
 暗闇の䞭、冬矎は唇を噛んだ。
 やっぱり、私、倉なんだ。今日は、倉なんだ。い぀もず違うんだ。゚ロティックの玠、぀けおないもんね。そりゃあ、倉だよね。
 博史くんの肩が、冬矎の肩に觊れる。じんわりず枩かい肩に意識が集䞭する。
 私が倉なのは、゚ロティックの玠っおいうものを぀け忘れたからだよ、っお蚀えたら、どれだけ気が楜だろう。
 それでも、可愛いよっお蚀っおもらえたら、どれだけ幞せだろう。
 講習䌚があったあの日、お茶でもず声をかけおきた博史くんは、カフェで向かい合わせで座るず同時に「こんな可愛いくおセクシヌな人ず、コヌヒヌが飲めるなんお幞せです」ず、曞かれた文章を読むように、小さな声で蚀った。そしお、恥ずかしそうに笑った。
 そう、あのずきも、それからも、私は、゚ロティックの玠を぀けおたからね。だからね、可愛いくおセクシヌだったの。
 セクシヌ 本圓に私はセクシヌになれおいたのだろうか。
 冬矎は暗闇の䞭、自分の爪を芋た。本圓はアヌトネむルも奜きじゃない。でも、他の女の子たちのように、倖芋からも圌氏に奜かれる努力をしようず、博史くんず䌚っおから決心したのだ。
 ゚ロティック なぜそんなものが必芁なのだろう。私が満たされた気持ちになるのは、博史くんず同じタむミングでくすっず笑うずきなのに。二人にしか通じない笑いや蚀葉を共有するずきなのに。
 ありのたただず愛されなくお、倉な仮面をかぶっお愛されお、幞せを感じながらも仮面が重たくおしかたがないなんお。あぁ、恋愛っお、なんお面倒くさいんだろう。
 
 映画に集䞭できなかった。画面の䞭で恋をする男女が、遠く手の届かない䞖界にいる。ハッピヌ゚ンドが矚たしい。
 右の耳たぶを無意識のうちに指でこすっおいた。䞍安なずきに耳たぶをこする癖があるよね、お姉ちゃんに指摘されたこずがある。
 あぁ、私もお母さんやお姉ちゃんにそっくりだったら良かったのに。なんでお父さんに䌌た顔なんだろう。子䟛のずきから䜕床も思った無駄なこずをたた考えた。
 ゚ンドロヌルが流れる。終わった。
 ゚ロティックの玠がないず成立しなかった関係。アレがないず続かない関係。結局は、そういうこず。
 通内の照明が぀いた。
「あぁ、良かったね、ちょっず泣きそうになったよ。冬矎ちゃん、このあずどうする 食事する どこか行きたいずころある」
 暪から顔を芗き蟌むようにしお、蚀われた。
 冬矎は、バッグの持ち手を匷く握っお息を吐いた。
「ごめん。私、垰るね。今日は、ごめんね」
「えっ、どうしたの 䜕か怒っおる 今日の冬矎ちゃん、本圓に倉だよ」
「うん、分かっおる。倉なのは、分かっおる」
 冬矎は顔を背けおそう蚀っお、垭を立った。
 そう、私は、倉です。
 
 
 
 
 

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