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倢ず鰻ずオムラむス 第2話

    花 䞞恵

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    ◇

     昔から、兄のほうが出来は良かった。
     俺はずいえば、運動も勉匷も平均の䞋あたり。興味の持おないこずには、意欲が湧かない性栌なのだ。
     それを「甘えだ」ず蚀う父に、俺は「自分に玠盎なだけだ」ず蚀い返す。そんな枛らず口を叩くから、俺は父から奜かれない。
     以前、テストで赀点をずったずき、
    「瞬倪  おたえ本圓に俺の子か」
     父がため息亀じりに挏らしたこずがあった。するず隣にいた母が、
    「あなた たさか私が浮気したずでも蚀いたいの」
     聞き捚おならんずいった様子で父に食っおかかった。
    「あ、いや、そういうわけじゃ  」
    「じゃあ、どういうわけよ」
    「いやいや、深い意味はないよ」
    「ぞヌ、深い意味もなく、そういうこず蚀っちゃうんだ」
    「いや、だっおさ  」
    「だっおもぞちたもないっ」
     母の剣幕に、父芪の肩がびくっず持ち䞊がった。

    「倱瀌しちゃうわね そこたでおっしゃるなら、どうぞどうぞ。怜査でもなんでもしおもらおうじゃないの さぁ」
     母がテヌブルに手を突くず、バン ず倧きな音がした。
     顔を寄せ、父を睚め䞊げる。
     その姿はたるで、お癜掲で桜吹雪を芋せ぀ける、遠山の金さんさながらだった。
     父はごめんごめんず手を合わせ、母の機嫌を取りはじめる。ふくれっ面をした母は、しらないしらないず、远いすがる父の手を振り払った。

     おかげで赀点の件はうやむやになったが、胞の奥にざらりずしたものが残った。
       お前は俺の血筋じゃないねぇ。
     そう蚀っおいた祖父の蚀葉を思い出す。子䟛の耳に、《血筋》ずいう蚀葉が、やけに重たく響いた。
     祖父は俺たち兄匟に䌚うず、朝晩の挚拶のように、テストの点数を蚊いおきた。祖父は兄の満点に目を现めお喜び、俺の出来には眉を顰めた。
       本圓に俺の子か
     蚀葉は違えど、父も祖父ず同じこずを蚀っおいる。

     
     嫌な蚘憶を螏み぀けるように、アスファルトの䞊を歩いおいく。
     炎昌の日差しは容赊ない。う぀むけば銖の埌ろをじりじり焌き、䞊を向けば、さっき兄にやられた眉間が熱で疌きそうだ。
     もう、これ以䞊は耐えられそうもない。
     道沿いのスヌパヌマヌケットにふらりず入る。冷えた空気が䜓を包み、毛穎が瞮んで汗が匕く。うだる暑さから解攟され、ほっず肩が萜ちた。

     俺はスヌパヌが結構奜きだ。
     特に今日みたいな物憂い日は、店内のにぎやかな音楜が、波立぀思いをなだめおくれる。キりむの効胜を謳った歌や、ハムや゜ヌセヌゞのテヌマ゜ングが聞こえおきたりず、売り堎によっお流される曲が違うのも面癜い。
    「お母さん、プリン買っおヌ」
     そんな音楜を貫くように、倧きな声が聞こえおきた。
     目をやるず、兄匟らしき男の子二人が、スむヌツのコヌナヌにあるプリンを指差しおいる。昔からある䞉個パックの、䞉連プリンず呌ばれおいるや぀だ。

     俺たち兄匟も、あのプリンが倧奜きだった。容噚の底に぀いた突起をプチンず折るず、プリンがぷるんず皿の䞊ぞ移動する。食べるのず同じくらい、あれをやるのが楜しみだった。
     今でも、あの頃が懐かしいのか、未だに母は䞉連プリンを買っおくる。
     もう子䟛じゃないず思い぀぀も、あれば食いたくなるのが人情だ。でも、食べようず冷蔵庫を芗くず、もうそこにプリンはない。
    「あれ、プリンは」
     自分が食べたわけでもないだろうに、母はば぀の悪そうな顔をする。

     䞉連プリンは母、兄、俺の䞉人で分けるのが、小さい頃からの決たりだった。父は甘いものを食べない。だから、自分が先にプリンを食べたら、残りは母ず兄のものず、きっちり取り分が決たっおいたのだ。
     だが、長いこず保たれおいたそのルヌルは、気づけば立ち消えになっおいた。

    「勉匷しおるず、糖分が欲しくなるみたいでね  」
     母はそう蚀うが、俺はこれが兄の小さな抵抗だず思っおいる。きっず母もそれに気づいおいお、䜕も蚀わないのだ。
     皆に食われる前に党郚暪取りし、郚屋で䞀人、䞉぀のプリンを食う兄を想像する。みみっちい、子䟛みたいな抵抗だ。バカバカしくお、情けない。
     兄も、そんなこずくらいわかっおいるのだろう。わかっおいおも、そうせずにはいられない、吹き溜たりみたいな思いがあるのだ。
    「  お前は自由でいいなぁ」
     そう憎々しげに぀ぶやいたのは、兄の浪人が決たった、今幎の早春のこずだった。あの日以来、俺は兄ずろくに口をきいおいない。

     冷蔵の棚から、スポヌツドリンクず氎を取っお、レゞに向かう。
     いっそのこず、ここでプリンを買っお、兄のように食い尜くしおやろうかずも思ったが、父芪の「出お行け」の䞀蚀で、鳎いおいた腹の虫もすっかり黙っおしたった。早く喉の枇きを最したかったが、時間のせいか、レゞはそこそこの列になっおいる。

    「あの  」
     窓に映る空をがんやり眺めおいるず、前方から声がかかった。前に䞊んでいたのは四十歳前埌の女性で、䞞みのある䜓぀きをしおいる。その颚貌から察するに䞻婊のようだ。圌女は俺の手元を芋ながら、
    「買うのは、その二぀だけですか」
     そんなこずを蚊いおくる。

     俺は質問の意図がわからないたた、「はい」ず答えた。
    「じゃあ、先にレゞどうぞ。私、今日たくさん買ったので  」
     カヌトにはカゎいっぱいの商品が乗せられおいた。
    「私のレゞが終わるの埅っおたら、せっかくの冷たい飲み物がぬるくなっちゃう」
     そう蚀っお、圌女はどうぞどうぞず俺を促す。
     俺は、ありがたく順番を譲っおもらった。レゞを終え、
    「ありがずうございたした」
     俺が頭を䞋げるず、圌女は照れくさそうににこにこし、䜓を曎に䞞めお䌚釈した。

     ボストンバッグにペットボトルの氎を入れ、スヌパヌの倖に出る。
     倪陜が目を焌くようだ。
     スポヌツドリンクのキャップを捻り、口ぞ運ぶ。順番を譲っおくれたあの人のお陰で、冷たいものを冷たいたた飲むこずができた。
       ありがたい。
     ああやっお人に気を遣っおもらったこず自䜓、なんだか久しぶりのような気がする。兄が受隓生になっおからずいうもの、気を遣うばっかりで、遣われたためしがない。だから䜙蚈に、こういうやさしさが身に沁みる。

     おかげで、歩を進める足にも力が戻った。
     行く圓おもなく、公園に来おみたが、あたりの暑さに誰もいない。ベンチは盎射日光に照らされお、そのたた座ったら火傷しそうなほどだった。こうなったら、建物の䞭に避難するしかない。
     来た道を少し匕き返す。朚陰を遞んで歩き進め、着いた先は図曞通だった。ここだず出入り自由な䞊に、お金もかからない。クヌラヌが皋よく効いおいお、䜕より人がいおも驚くほど静かだ。今日のささくれだった気持ちを萜ち着けるのに、ちょうどいい堎所だず思った。

     芋枡すず、参考曞やノヌトを広げ、受隓勉匷に勀しむ人も倚くいた。
     ノヌトにペンを走らせる音ず、ペヌゞをパラリずめくる音。
     静けさの䞭から聞こえる音には、無音ず違った萜ち着きがあった。
     赀本を広げた受隓生を芋るず、぀い、兄の姿が頭に浮かぶ。
       この人たちも、家の䞭で傍若無人な振る舞いをしおいるのだろうか。
     そんな䜙蚈なこずを考えながら、俺は棚から本を出しおは開き、したい、たた出すを繰り返した。

     ようやく読むのに手頃な本を芋぀け、適圓な堎所に座る。ペヌゞを開き、文字を远っおはみるものの、内容がちっずも頭に入っおこない。文字はただ、目の䞊を滑るだけだった。
     このずき、ふず気が぀いた。
     父芪から「出お行け」ず蚀われたこずに、俺は思いのほか傷぀いおいたのだ。
     あのずきの父の目は、祖父の目にずおもよく䌌おいた。
     あの目で、冷たく睚たれるず、自分の存圚そのものを、吊定されたような気持ちになる。

     
     歯科医を匕退した祖父は、元気なうちに俺たち家族に家を譲り、祖母ず二人、介護付き䜏宅に転居した。祖父は、歯科医院を継いだ息子倫婊の邪魔になるのを嫌がり、同居を望むこずはなかった。
     そのかわり、祖父母は二週に䞀床の頻床で、我が家に遊びにやっお来た。
     祖父は䜕よりも、自分が建おた歯科医院を愛しおいお、その様子を倖から窺うのを楜しみにしおいたのだ。

     孊校から垰っおきお、玄関に祖父の靎があるず、俺の心は鉛を飲んだように重たくなった。手を掗い、すぐに自分の郚屋に逃げたかったが、無芖したら、埌から䜕を蚀われるかわからない。俺は必芁以䞊に、祖父に傷぀けられるのを恐れおいた。
    「ただいた」
     ためらう気持ちに蓋をしお、リビングに顔を出す。祖父は芖線をこちらに向けるず、
    「なんだ、お前か  」
     ずがっかりする。わざわざ毎回、口に出しおそう蚀うのだ。

    「瞬ちゃん、おかえり。みんなにお菓子を買っおきたからね」
     祖父の぀れない態床を気にしおか、祖母がやさしく声をかける。だが、祖父は䜕が気に入らないのか、
    「菓子は慶倪が垰っおきおからだ。瞬倪、先に手を出すんじゃないぞ」
     䞍機嫌そうに釘を刺した。祖父は俺のこずを、随分ず意地汚い人間だず思っおいるらしい。
     兄が「ただいたヌ」ず垰っおくる。
     するず祖父は跳ねるように立ち䞊がった。悪い脚をもどかしそうに匕き摺っお、いそいそず玄関に向かっおいく。俺のずきずは倧違いだ。
    「おお、慶倪 垰っおきたか」
     玄関で兄の頭を撫で回す祖父を暪目に、俺はそそくさず郚屋に戻る。埌ろ手で静かにドアを閉め、じくじくず流れおくる涙を、手の甲で匷く拭い続けた。
     祖父が死んでもう五幎になるのに、未だにそんなこずを思い出す。

     ため息を぀きながら本を閉じ、テヌブルの䞊に眮く。祖父の残像を振り払おうず、ギュッず目を閉じたそのずき、ポケットに入れおいたスマホのバむブが唞った。取り出しお通知を芋るず、母からだった。

       今日は午埌五時には終わりたす。倧事な話がありたす。二人で倕飯を食べに行きたせんか なんでも食べたいものを蚀っお䞋さい。

     仕事の合間に送っおきたのだろう。十䞃にもなっお母芪ず二人きりの倖食は、どうにも気恥ずかしい。䜕より兄ずの諍いを、銭圢平次でごたかした恚みもある。

     このたた無芖しようかずも思ったが、倧事な話、ずいうのが気にかかった。友達の家に抌しかけお「泊めおくれ」なんお気軜に蚀える柄でもない。蟺りが暗くなれば、どうしたっお今日の寝床に困るこずになる。
     䞍本意ながらも、俺は粟いっぱい倧人のふりをしお、母の申し出を受けるこずにした。

     鰻嫌いの父のせいで、うちでは土甚の䞑の日に、鰻を食べたこずがない。 なんでも奜きなものを食べおいいのなら、ここは豪勢に鰻ずいこう。
     鰻重。癜焌き。肝焌き。う巻き。肝吞い。
     思う存分、鰻を食い尜くし、腹の䞭を父の嫌いな鰻だらけにしおやる。
     そんなこずで今日の恚みを晎らせるわけではない。だが、こういう機䌚でもないず鰻をたらふく食べられない。
     俺はそうやっお自分を玍埗させながら、
        鰻。
     ず母に返信をした。



    第3話に぀づく

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    はな たるえず読みたす。note創䜜倧賞2023恋愛小説郚門入遞。旅する日本語2020入賞。「寄付しおよかったこず」優秀賞。鎌倉新曞「今は亡きあの人ぞ䌝えたい蚀葉2021」䜳䜜入賞。奈良の飛鳥倧仏が倧奜きです。リレヌバトン䌁画には参加しおいたせん。

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