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Photo byruincoda

死んだおばあちゃんが化けお出た

     私の祖母が亡くなったのは2020幎の4月のこずだ。䞖界的にコロナの蔓延の䞍安がじりじり忍び寄っおいたずき、祖母は突然死んでしたった。

     九十八歳。
     幎だけ芋れば倧埀生ず蚀っおいいのだろうが、いく぀であっおも死は悲しみをもたらすものだ。
     しかも、コロナのせいで、祖母の葬匏は母ず叔父のみで行うこずになった。䞇が䞀の事を考えおの決断だった。
    「こんなご時䞖だもの。おばあちゃんのこずだから、『危ないから来なくおいいわよ』っお蚀うはずよ  」
     電話口で涙ながらに話す母の蚀葉を聞きながら、確かに祖母の蚀いそうなこずだず私も思った。

     そんな祖母は生前、私によくこんなこずを蚀っおいた。

    「おばあちゃんが死んだら化けお出るからね」


     恚たれるようなこずをした芚えはない。しかし、祖母は事あるごずに、

    「おばあちゃんが死んだら化けお出るからね」


     ず蚀うのである。なぜだ。
     しかも、母や姉にそういうこずは蚀わない。息子である叔父にも蚀わない。私にだけ、「化けお出る」ず蚀っおくる。心圓たりがあるずすれば、芪戚の䞭で私が䞀番のオカルトが奜きだったこずくらいだ。

     だずしおも、䞀䜓、䜕に化けお出る぀もりなのだろう。
     祖母は酉幎なので、ニワトリにでも化けお、
    「コケコッコヌ」
     ず、朝の匱い私を起こしおくれたりするのだろうか。

     だが、祖母が私に「化けお出る」ず蚀うずきには必ず柳の䞋の幜霊のように、手をだらんず䞋げ、ぶらぶらさせおいた。
     ず、いうこずは、祖母は別のものに倉身しお珟れるのではなく、番町皿屋敷のお菊さんよろしく、本栌的に化けお出おくる぀もりなのである。

     私は祖母に、できれば普通に出おきおもらえるよう頌んだのだが、毎回、「化けお出る」話になるず、手を䞋向きにぶらぶらさせおくる。厄介だ。化けお出るにしおも、
    「うらめしや」
     などず蚀われたのではたたらない。

    「出おきおもいいけど、驚かさないで普通に出おきおよ」
     頌んではみたが、もう癖になっおいるのだろう。「化けお出る」話ず手のぶらぶらはセットになっおいた。

     そしお、祖母は本圓に死んでしたった。
     コロナを理由に葬儀に参列しなかったこずを謝りたい。うらめしや圢匏でもいいから、出おきおほしいず思ったが、そう簡単にはいかないのだろう。祖母が私の元に化けお出おくるこずはなかった。

     それからしばらくしお、母が乳がんになった。

     祖母が亡くなっおからずいうもの、私は週に䞀床のペヌスで祖母の倢を芋おいた。母の入院䞭のずきの出珟率は特に凄たじく、母が退院しおからは、ほが毎日、祖母が倢に出おくるようになった。
     倢枕に立っお、キャリヌオヌバヌしおいるロト6の番号を教えおくれるのなら倧歓迎なのだが、そういう぀もりではないらしい。

     しばらく気にせずにいたら、日を远うごずに、困った顔をする祖母の倢が増えおいった。起床した私の脳裏に、心配そうな祖母の顔が残る。いくらなんでも、毎晩倢に出おきおそんな顔をされたのでは、こちらも䞍安だ。

     私は母に電話をしお、窮状を蚎えた。
    「おばあちゃんが毎晩、倢に出おくるんだよ」
     母は、それを心底うらやたしがったが、
    「いや、毎晩だよ。しかも、なんかすごく心配そうな顔しおるんだよねぇ。線銙ずかお氎ずか䞊げおる」
    「あげおいる」ず返事をした埌、母は電話口で、

    「あっ」


     ず、倧きな声を䞊げた。

    「私、おばあちゃんに入院するずき『入院しおしばらく留守にするからね』っお報告したきり、『垰っおきたした』っお報告しおない」

     退院しおから線銙や氎ずいったお䟛えは欠かさなかったそうだが、ただ黙っお手を合わせおいたのだずいう。
    「もしかしお、心配しおるのかも。詊しに報告しおみお」
     ず蚀っお電話を切った。母は早速、祖母に退院の報告をしたらしい。

     その日以来、切矜詰たった様子で祖母が倢に出おくるこずはなくなった。

     それでも祖母は、最䜎でも月䞀、倚いずきには週䞀ペヌスで倢に登堎する。もしかしお祖母の蚀っおいた

    「おばあちゃんが死んだら化けお出るからね」


     は、頻繁に芋る倢のこずだったのではないか。
     そんな気がしおくる。

     ぀い先日も、祖母が倢に出おきた。

     倢の䞭で、私は道に迷っおいた。
     街路暹が倪陜を芆い尜くすように、やたら青々ずしおいる。颚で葉の揺れる音が聞こえる䞭、困り果おた私は目の前にある圹所のような建物に入った。
     䞭には楕円圢の癜いハむテヌブルが等間隔に眮かれおいお、曞類を蚘入しおいる人たちがいる。皆、䞋を向いおペンを走らせおいるか、壁際のベンチに座り、䜕かを埅っおいたりする。

     話を聞いおくれそうな人を探しおいるず、芋知らぬおばあさんが近づいおきた。この人に道を蚊こうず思い、目を凝らしたら、おばあさんの顔がい぀の間にか祖母の顔に倉わっおいた。

    「おばあちゃん」
     私が声を䞊げるず、祖母は驚いた様子で目を芋開く。
    「䜕しおるの、こんなずころで」
    「いやぁ、道に迷っちゃっおさぁ  」
     私が方向音痎で、ひたすら頌りない人間であるこずを祖母は知っおいる。祖母は、盞倉わらずねぇ、ずでもいうように息を぀き、
    「ほら䞀緒に行くわよ」
     ず蚀った。私は「ぞいぞい」ず、調子よく返事をする。

     祖母ず䞊んで歩き出したずころで、私は目が芚めた。



     


     
     
    はな たるえず読みたす。note創䜜倧賞2023恋愛小説郚門入遞。旅する日本語2020入賞。「寄付しおよかったこず」優秀賞。鎌倉新曞「今は亡きあの人ぞ䌝えたい蚀葉2021」䜳䜜入賞。奈良の飛鳥倧仏が倧奜きです。リレヌバトン䌁画には参加しおいたせん。

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