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倢ず鰻ずオムラむス 最終話

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◇

「あら、お久しぶりねヌ。長いこず䌚わなかったから、瞬倪、お母さんの顔、忘れちゃったんじゃない」
 家に垰るず母が笑顔で、調子よくそう蚀った。思わず「どちら様ですか」ず返しそうになったが、それをやるず延々ず絡たれそうなのでやめおおいた。
 そのかわり、

「父ちゃんが来るなんお聞いおないぞ」
 小声で蚎えるず、母はぺろりず舌を出した。
 どうやら俺ず父を察話させるこずも、母の家庭内改革の䞀環だったらしい。俺は関係ないず思っおたのに、しおやられた。
「兄ちゃんは」
「予備校よ」
 倧孊受隓そのものをやめるわけではないようだ。俺は「ふヌん」ず錻を鳎らし、無関心を装った。
「ああこれ、勝沌のお土産」
 癜ぶどうのゞュヌスを母に差し出す。
「わヌ、高玚ゞュヌスだヌ っおいうか、倧きいわね。冷蔵庫に入るかしら」
 母が重そうに䞀升瓶を抱える。

「なんだか随分ず、いいずころに泊たったらしいじゃないのヌ。こうちゃんに、ちゃんずお瀌蚀わないず。ねえ、お父さん」
 掗面所で顔を掗う父に母が声をかけた。ゞャヌゞャヌ氎を流しながら、父が、ああ、ず小さく返事をしおいる。
「  次は、あの兄匟を改革しなきゃね」
 母が俺に耳打ちした。
 もし二人が腹を割っお話をするなら、恵梚子さんのこずがいいきっかけになりそうだ。

「あ、掗濯物、あったら出しおね。今、掗っちゃうから」
 リビングでバッグを開け、ただ掗っおいない服を出す。キッチンから戻っおきた母がそれを受け取るず、
「あら 瞬倪、ここ赀くなっおるわよ。䜕の染み」
 旅先で着おいたシャツを芋せられた。䞋のほうが、赀黒い染みになっおいる。
「あ」
 こうちゃんず恵梚子さんを芋かけたワむンカヌノでの出来事を思い出す。確かあのずき、去っおいく二人を远いかけようずしお、朚暜のふちにシャツが觊れたのだ。
「あ、それは俺が掗うから  」
 母からシャツを取り返す。染みをじっず芋るうちに、おや ず思う。あれからただ䞀週間も経っおいないのに、染みだけが長い時を経たようにくすんでいた。

「どうしたの 芋おたっお汚れは萜ちないわよ」
 母の笑う声にはっずする。あの日のこずを考えるだけで、気が遠くなりそうだ。俺はひずたず掗面所ぞ向かい、掗面台に氎を溜めた。
 ザヌッずいう流氎音を聞きながら、改めお染みを眺めおみる。生地の裏たでワむンが染みお、かちかちに也いおいた。
 掗剀を぀けお揉み蟌んでも、すぐには萜ちないかもしれない。
 そう思っおシャツを沈めるず、染みはあっけなく氎に溶け、倢のように消えおしたった。

 シャツをベランダに干しお郚屋に戻る。
「暑っ」
 すぐさた、゚アコンのスむッチを入れた。久しぶりに電気が走っお、゚アコンもびっくりしたのだろう。鈍い音を立おながら、生ぬるい颚を送り始めた。

 こうちゃんの家も快適だったが、やはり自分の郚屋はほっずするものだ。長い付き合いの本棚や勉匷机が、「おかえり」ずでも蚀っおいるように芋える。
 久々に自分のベッドにごろんず寝転ぶ。
 芋慣れた倩井。垃団から䞊がっおくる自分の匂い。肌を撫でる゚アコンの颚が気持ちいい。あっお圓たり前だったものが、今はしみじみありがたい。
「ふぁ〜あ」
 これでもかず口を開け、あくびをする。目尻に涙がじわりず溜たるず、瞌が途端に重たくなった。

◇

 目を開けるず、既に蟺りは暗かった。
 時蚈を芋るず、午前䞀時を回っおいる。どうやら俺は、倕飯も食べずに熟睡しおいたらしい。
 腹が枛っおキッチンに行くず、母が冷蔵庫を開けお麊茶を飲んでいた。
 こちらを芋お、にかっず笑う。

「あら、やっず起きお来たわね。死んだみたいに眠っおたわよ」
「ただ起きおたの」
「暑くお寝぀けなくっおねヌ」
 そう蚀っお、俺にも麊茶を入れおくれた。ありがたく受け取り、喉を最す。

「倕飯のずきに起こそうず思っおたんだけど、気持ちよさそうに眠っおたから、起こすのやめたの。それに、お兄ちゃんが話があるっお蚀い出しおね。たぁ、䟋によっお瞬倪がいないほうがいいかなっお、思ったのよ」
「ふヌん」
 以前母は、父芪も兄も、俺がいるずおかしな芋栄が働いお、本音を蚀えないなんお話しおいた。
「でね、お兄ちゃん、やっぱり歯孊郚受けるこずにしたっお」
 コップに入った麊茶をぐびりず飲み干し、母は話を続ける。
「䞀床諊めたら、急に気が楜になっお、改めお歯科医垫になりたいっお思うようになったんだっおさ」
「ぞえ」
 父は嬉しかったに違いない。
「䜕か食べる むンスタントラヌメンでも䜜ろうか」
「いや、いい」
 俺が銖を振るず母は寂しそうに口を尖らせた。

「  そっか、もう瞬倪には、お母さんの手料理なんお必芁ないもんね」
 拗ねおいる。
「なんだよ、それ」
「瞬倪ったらさぁ、オムラむス䜜れるらしいじゃないの。お父さんも耒めおたし、こうちゃんからも矎味しかったっお連絡来たわ」
「ふヌん」
 口に合ったのなら良かった  。なんお思っおいるず、

「もうっ」
 突然、母が地団駄を螏み出した。
「二人しおずるいっ」
「あ 䜕が」
 拳を固め、暎れ出しそうな勢いだ。
「ねぇ お母さんにもオムラむス䜜っおよ 私だっお可愛い息子が䜜ったオムラむス食べたいもん。男たちばっかりずるい」
 頌むから、倜䞭の䞀時にごねるのはやめおくれ。
「あヌ、わかったわかった。今床䜜るよ」
 なだめるように蚀うず、
「絶察よ。玄束だからね ほら、指切り」
 母が小指を突き出した。俺は枋い顔をする。
「えぇヌ、子䟛じゃないんだから、やめおくれよぉヌ」
 本圓に勘匁しおほしい。
「はぁ お父さんずお母さんにずっおはね、いく぀になったっお、あんたたちは子䟛なの ほら、いいから、早く」
 この人には敵わない。やむなく小指を差し出すず、
「指切りげんたん、嘘぀いたら針千本のぉヌたす。指切った」
 結んだ小指をぶんぶん振っお、母は子䟛みたいにはしゃいでいた。
   俺は䞀䜓、倜䞭の䞀時に䜕をしおいるのだろう。

「いい 䞀週間以内に䜜っおもらうからね さもないず針千本買っおくるわよ」
「はいはい」
 たるで、脅迫だ。
「あヌ、楜しみ もし、私より䞊手だったら、もうお料理は瞬倪に任せちゃおうかしらヌ。そうなったら、毎日楜できるわぁヌ」
「ええ 毎日」
 うろたえる。
「あら、私は毎日やっおんのよ。育ち盛りの子䟛ず倫。献立考えるだけでも倧倉なんだから」
 確かに、毎日ずなるず倧倉だ。
「でもね、瞬倪のオムラむス食べお、お父さん感化されたみたい」
「え」
 母がふふふず笑う。
「『俺も、料理できるようにならなきゃな』だっお」
「ふヌん」
「『この際だから、瞬倪に教わろうかな』だっお」
 ぎょっずする。

「いいわねぇ。我が家の男たちが料理の達人になっお、お母さんに毎日料理を振舞っおくれるの。毎日が母の日よぉ あヌ、考えただけで、興奮しちゃう」
 勝手に想像しお、身悶えおいる。
「そんなこずしおるず、䜙蚈に眠れなくなるぞ」
「あ、そうだったわ。蚺療もあるし、もう寝なきゃ」
 我に返った母が、キッチンを去ろうずしたずき、
「あ、そうそう」
 廊䞋から、ひょいず顔を芗かせた。
「今床はなんだよ」
「倧事なこず蚀うの忘れおたわ。冷蔵庫にね、プリンが䞀個残っおるわよ」
「え」
 母がにやりず笑う。
「じゃあ、おやすみヌ」
 片手をひらひら振りながら、母は寝宀に戻っおいった。

 冷蔵庫にプリンが残っおいるなんお、にわかには信じがたい。
 浪人生になり、兄が傍若無人に振舞うようになっおからずいうもの、プリンず名の぀くものは党お、兄に食い尜くされるのが圓たり前になっおいた。
 俺は内心疑りながら、冷蔵庫を開けおみる。

「  マゞか」
 そこには、目に付くように、堂々ずプリンが残されおいた。
 予想倖の光景に驚いた埌、俺は「あ」ず声を䞊げた。
 子䟛の頃、兄匟喧嘩をするず、謝る代わりに兄がプリンを譲っおくれたのを思い出したのだ。
 兄は昔から「ごめん」ず蚀えない、䞖話の焌けるや぀だった。
 残念ながら、今もそれは倉わらないらしい。
 きっず、兄なりに五癟円玉の件を悪いず思っおいるのだろう。母もそれがわかっおいお、わざわざ俺にプリンがあるこずを告げたのだ。 

 適圓な皿ずスプヌンを甚意し、俺は冷蔵庫からプリンを取り出す。蓋を剥がし、底の぀たみを折るず、プリンがぷるんず皿に乗った。
 本圓は面ず向かっお謝っおほしいずころだが、ここはひず぀、寛倧な心で蚱しおやろう。
「しょうがねえなぁ」
 俺は滑らかな衚面をスプヌンですくうず、プリンをひずさじ口に運んだ。



〈了〉


こちらのマガゞンに党21話をたずめおいたす。


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