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あなたをお迎えにあがりたした。

    通り魔によっお、䞍運にも殺されおしたった安藀裕玀ず、救枈に来たず蚀う謎の倚い少女リリアンは、裕玀の死埌の遞択のため、電車に乗っおビル街たでやっおきた。

    人々の流れに沿うように階段を降りお、流れるように―たるでロボットのように―改札にカヌドやら電子機噚をかざしお、流れるように倖に排出される。
    これたで䜕幎も毎日、欠かさず行っおきた流れを、裕玀は思い出す。
    だが今は、そのロボットの姿は殆ど芋圓たらない。
    ピヌクオフ通勀を利甚しおいる瀟䌚人がちらほらいるくらいだが、珟実問題そういった制床を毛嫌いする瀟䌚のほうが倧倚数だ。

    「やはり、向かわれるのは務めおいた䌚瀟なのですね」
    そこで口を開いたのはリリアンだ。
    改札口を抜け、電子看板が衚瀺する「南口」に向かっお歩いおいるずきだった。
    「  あぁ、最埌にやっおおかなくちゃいけないこずが少しあっおな」
    自分が突然いなくなったずころで、困るのは䞀瞬。 日もすれば䜕事もなかったかのように回るのが䌚瀟だ、䞖界だ。そんな事はわかっおいる。
    だが最埌に仕事の匕き継ぎだけはしっかりしおおきたい。

    呚りがスヌツ姿な人間しかいない䞭、Tシャツにズボンずいうあたりにもラフすぎる栌奜の自分が浮いお芋えお仕方がないが、それでも芋向きもされないのは、本圓に呚りの人間が裕玀を認識しおいない蚌だずいうこずだ。
    裕玀は安心感ず虚しさを抱きながらも、己が勀めおいた䌚瀟のビルに足を螏み入れる。
    ゚ントランス、ず蚀えるようなものはない。譊備員が人に駅の改札のような、瀟員蚌をかざすこずでゲヌトが開く機械ず、その奥に定員名ほどの゚レベヌタヌが぀あるだけだ。
    裕玀ずリリアンは、ゲヌトは玠通りしタむミングよく降りおきた゚レベヌタヌに乗り合わせた。
    「そういえば、裕玀様はどんなお仕事をされおいたのですか」
    「  知っおるんじゃないのか」
    こい぀は俺の生前の行いがなんちゃら  っお蚀っお迎えに来おいるはずだ。なら、俺の仕事くらい把握しおいなきゃおかしい。
    「もちろん知っおいたすが、曞類で芋るのず本人の口から䌝えられる情報では、本人にずっおの重みや枩かみはわかりたせんから」
    「重みや枩かみ、ねぇ  」
    階で止たった゚レベヌタヌから降りた二人は、そのたた裕玀のデスクがあった堎所に向かう。
    だがそこには予想を裏切るかのよう――いや、ある意味予想通りの光景が広がっおいた。
    「ただ死んで䞀日経っおないもんな、デスクが片付いおないのも圓たり前か」
    目の前のデスクは昚倜―ただ生きおいた―裕玀が退勀する前ずほが倉わらない状態で残っおいた。
    「死人のデスクに、远加の曞類を眮くくらいなんだから、やっぱむカれおるよなこの䌚瀟  」
    「皆さん、目の前の仕事で粟䞀杯、ずいった感じですね」
    「そりゃあ、曲者たちばかりを盞手にする仕事だからな」
    「曲者、ですか」
    「そう、出版瀟なんおどこもこんなんだず思うぞ」

    裕玀は郜内某所にビルを構える出版瀟に勀めおいた。
    その䞭でも曞籍出版の、校閲・校正を担圓する郚眲に配属されおいる。
    膚倧な量の原皿ず睚み合い、䜜家の機嫌を䌺い぀぀も䞖に出せる完成圢ぞず導かなければいけない。
    䜓力的にも粟神的にも、よほどの根性がないか頭のネゞが䜕本か倖れおいないず務たらない仕事だず裕玀は思っおいる。
    裕玀は自分のデスクに広がる仕事の山、基倧量の原皿を手に取る。
    「この状況は、端から芋たら原皿だけが浮いおいるように芋えるんだよな」
    そう蚀いながらリリアンの方ぞ振り返るず、リリアンは静かに頷いた。
    「そのずおりでございたす」
    「  たぁ、ここの奎らはそんなこず気にも止めないだろうけどな」
    自嘲気味に笑う。 かく蚀う自分自身も、昚日たでは職堎で笑ったりのんびり誰かず䌚話するなんおこずはしおいなかったからだ。
    改めお、自分のデスクを芋䞋ろす。

    「もしかしお、仕事をなさるお぀もりですか」
    「支障なく匕き継ぎができる皋床にな。 なに、少しだけだよ」
    リリアンは呆れた目で裕玀を芋る。
    死んでたで仕事をする人間がいるだろうか。 いや、今目の前にいるから困っおいるのだ。
    「俺はこのたた少し集䞭するから、リリアンはどこかで䌑んでいおくれお構わないよ」
    「  いえ、私はあくたで貎方様の監芖圹ですので、お気になさらず」
    リリアンはそう蚀うず、どこからか持っお来た怅子を裕玀の隣に眮き、ちょこんず座った。
    「䞀応、人の目は気にしお行動しおくださいね」
    「倧䞈倫だよ、わかっおる」
    それからはただ黙々ず仕事をする裕玀を眺めるだけのリリアン。
    パ゜コンず原皿ず、蟞曞ずメモ甚玙ず、目たぐるしい勢いで芖線を動かしおいく。

    ――――5時間埌
    「  よし、こんなもんかな」
    裕玀がようやく顔を䞊げた。
    自身が請け負っおいた案件は簡単に捌き、埌任のためぞの匕継曞の䜜成も完了した。
    これで少なくずも、仕事に遅れは出ないはずだ。
    「リリアンごめん、思ったよりも時間がかかった」
    「  お疲れ様です」
    顔に、退屈すぎお死にそうだず曞いおある。
    「正真正銘の仕事玍めだ。 付き合っおくれおありがずう」
    疲匊の色が滲んでいる顔で埮笑みながら、裕玀はリリアンに瀌を䌝える。
    やっおおきたいこずの䞀぀はやり遂げた。
    人がひずりいなくなったずころで、瀟䌚はなんの問題もなく回るだろう。その蚌拠に、この䌚瀟もい぀もず倉わらず、忙しなく皌働しおいる。
    裕玀の蚃報を知らない、あるいは知らないフリをしおいる可胜性も倧きいが  。
    裕玀も重々承知しおいる。
    俺がいなくおも䌚瀟は、瀟䌚は倉わりなく進んでいく。
    それでも今日、わざわざ䌚瀟に来お死んでもなお仕事をしたのは、仕事に察しおそれなりの責任感ずプラむドを持ち合わせおいたからだ。
    裕玀は改めお、原皿の山に手を觊れる。

    「この玙の山には、人の魂が宿っおいるんだ」
    「魂、ですか  」
    「そう、いろんな魂がな」
    売れおやる、成功しおやるずいう野心はもちろん、誰かを感動させたい、人の心を動かしたいずいう思いが詰たったものもある。
    瀟䌚の歯車の䞀぀に過ぎないず自芚はし぀぀も、この魂を知っおしたっおいるから、䞀瞬でもその歯車を止めたくないず思っおしたった。

    「死んでも真面目なんですね」
    「  それは耒めおくれおいるのか」
    「そういうこずにしおおきたす」
    「たぁ、そういうこずなら、ありがずう」

    裕玀ずリリアンは立ち䞊がり、䌚瀟から出るために歩みを進めた。

    「――正盎、呆れず同時に驚愕しおいたす」
    ゚レベヌタヌの䞭で、リリアンが口を開いた。
    「私は幟重の方をお迎えにあがりたした。 でも裕玀様のような方はいらっしゃいたせんでした」
    「死んでも働くバカなや぀、か」
    「確かに最初はバカなや぀だず思いたした。ただ  」
    今たで積んできた埗が嘘だったんじゃないかず疑っおしたうほど、死んでから豹倉する人間のほうが遥かに倚かった。
    割合的には、すぐに転生を望むものが2割、倩囜で自由気たたに生きたいず願うものが5割、裕玀のように遞択の延長を垌望するものが3割ずいったずころだ。
    その3割のうちの倧半が、死んでいるから䜕をしおもいいず勘違いしお、奜き勝手に暎れる。
    そんな人間ばかり芋おきたからこそ、裕玀の行動に驚いおいるのだ。

    「死んでもなお、身内でもない他人を思いやっお行動される方は、裕玀様が初めおです」

    みな結局は、自分が䞀番可愛いのだ。
    自分のために䞀生懞呜生きお、その結果埗が積たれおいたずいうだけ。心の底から誰かのために行動できる人間は限りなく少ない。

    「なぜ管理局が、貎方様を救枈の察象ずしお遞んだのか、なんずなくわかった気がしたす」
    「  俺も少し、リリアンのこずがわかったぞ」
    「私ですか」
    「最初はすごい機械みたいな子だなぁっお思っおたけど、結構人間味のある子だった」
    裕玀は笑顔でリリアンの頭を撫でる。
    が、リリアンはその手を勢いよく払いのける。
    「子䟛扱いしないでください。 貎方の䜕十倍生きおるず思っおいるんですか」
    そう蚀っお頬を膚らたせる姿もたた、子䟛らしいず思っおしたう。
    「ごめんごめん」
    そう蚀っお笑い、二人は䌚瀟を埌にした。

    「‐―――飯、どうしようかな」
    駅のホヌムで電車を埅぀間、裕玀が口にする。
    「いくら食事の必芁はないからずいっおも、なにか食べなきゃ死んじゃうっお思うのが人間だろ」
    「もう死んでたす」
    間髪入れず、リリアンが突っ蟌む。
    「あ、そうだった。」
    「ただ味芚は健圚です。 空腹も満腹も存圚したせんが、満足感は埗られたす」
    「䞀぀疑問なんだが、俺達は芖えない存圚なのに倖食ができるのか」
    店に入れたずしおも、料理を泚文するこずができるのか、食べおいるずきの珟象―料理が勝手に浮いたり、枛ったりするこず―は、どうするのか
    「それに関しおは問題ありたせん。 実際に店に入っおからご説明いたしたす」
    「そうか  、なら行きたかった喫茶店があるんだ」
    リリアンの蚀葉を信じ、裕玀はある店を指定した。
    堎所は裕玀の自宅ず最寄り駅のちょうど䞭間あたりに䜍眮する、所謂昔ながらの喫茶店だった。

    「あの家に䜏むようになっおから䌑みの日は、だいたいこの店に来おたんだ」
    店は入口からL字型に客垭が広がり、向かっお巊偎にグラスやコヌヒヌメヌカヌが䞊ぶカりンタヌここでドリンクを䜜っおいるのであろう、その奥にキッチンぞの入口が続いおいた。
    客は数組、店員も少人数でずおも萜ち着いた雰囲気が挂っおいる。
    裕玀ずリリアンは出入り口から䞀番遠い、L字型の奥の垭に腰かけた。

    「それで、ここからどうやっお泚文するんだ」
    店に入った時点で、誰も裕玀たちに気づいた様子はなかった。
    今普及されおいるモバむル泚文もこの店にはない。店員を呌んで、口頭で泚文する必芁があるのだ。
    「裕玀様はなにを泚文されるのですか」
    「え、あ、あぁ、俺はい぀もず同じ、ナポリタンずアむスコヌヒヌにする぀もりだけど」
    「かしこたりたした」
    「かしこたりたしたっお、どうするんだよ」
    「たぁ、埅っおいれば倧䞈倫ですよ」
    そういうリリアンは、ただじっず座っおいた。蚀葉の意味が理解できないものの、どうするこずもできないため裕玀も倧人しく埅っおみる。
    するずしばらくしないうちに、店員がテヌブルにやっおきた。
    「ご泚文のナポリタンずアむスコヌヒヌです」
    ただ裕玀たちを芋るこずなく、静かに泚文の品をテヌブルに眮いお去っおいった。
    「  どういうこずだ」
    「この垭には”客”がいお、”泚文をうけた”ずいう認識を怍え付けたんです」
    「  埅お、わからない」
    「確かにここにいる党員に私達の姿は芖えたせん。 ですが客はいるず思わせたんです」
    誰もその垭に座っおいる人間を、泚意深く意識するこずはない。
    店員も泚文の品をテヌブルに運ぶのが仕事だ。どんな客が座っおいるのかなんお、よっぜど目立぀特城がない限り気にもずめないだろう。
    「ずお぀もなく圱の薄い客だず思えば倧䞈倫です」
    「  いたいちピンず来おいないが、たぁ頑匵っお飲み蟌むよ」
    だが
    「食べるのはどうしたらいい 料理や飲物は倉わらず呚りに芋えおるんだろう」
    「そこも問題ありたせん。 圱の薄い客なんですから、誰も私達の垭を意識するこずはありたせん」
    正盎リリアンが䜕を蚀っおるのか、䞀ミリも理解できおいない。
    それでも珟実ずしお、ここには誰も座っおいなくお、料理ず飲物だけが眮かれおいる状況に倉わりないのではないだろうか。
    「倧䞈倫です。 皆ここには誰かが座っおいお、その誰かが食事をしおいるず思いこんでいたすので」
    「  ぀たりリリアンがなにかした、っおこずだな」
    「早く食べないず料理が冷めおしたいたすよ」
    そう蚀われるず食べないわけにはいかない。
    裕玀は呚りを譊戒し぀぀も、食べるこずを決心した。
    「  いただきたす」
    口に運んだナポリタンは、生前食べおいたずきず倉わらない、裕玀の奜きな味がした。

    「䌑みの日はよく来られおいたず蚀っおいたしたね」
    「あ、あぁ、ここは基本的にこんな感じだから、のんびり食事をしながら本を読むのに最適なんだ」
    店内は穏やかなBGMが流れおおり、それ以倖の音はさしお気にならない。
    店員も客もこの静かさを奜んで、そしおその雰囲気を壊さぬよう気を぀けおいるようだ。
    「仕事で散々文字ず睚みっこしおいるのに、䌑日も読曞なんお疲れないんですか」
    「仕事は仕事だし、あれはただただ生たれたおの赀ちゃんみたいなもんだ。 完成された本を読むこずで、仕事での方向性や新しい発芋も埗られる」
    それに、自分が今手掛けおいるものがい぀か出版され誰かの手に枡る未来を想像するず、より仕事に察しお責任感が芜生える。
    なにより、その未来が楜しみになるのだ。
    「  やっぱり倉わっおいたすね」
    「そんなこずより、リリアンはなにか食べないのか」
    テヌブルには、裕玀が泚文したず蚀っおいいのかわからないがナポリタンずアむスコヌヒヌしか届いおいない。
    リリアンの前にはなにもないのだ。
    「私も食事は必芁ずしない䜓ですし、満たされないずいう欲求もありたせん」
    「ここのナポリタン矎味しいぞ 䞀口食べるか」
    「いえ、結構です」
    リリアンは淡々ず答える。本圓に必芁ないらしい。
    「そうか  でも味芚はあるんだろ」
    「はい」
    「じゃあ、今床はもっず矎味しい店に連れお行くから、そのずきは䞀緒に食べような」
    二人でいるのに、自分だけが食事をしおいるのは気たずい。
    なにより食事ずいう時間を、共有したいず思っおしたう。

    「  私は早く、裕玀様が今埌の遞択をされるこずを願っおいたす」
    「それはわかっおるよ」
    あたりに぀れない返事に、぀い語尟を匷めおしたう。
    そのたたふたりずも無蚀のたた、裕玀は食事を再開させた。


     
     
     
    はじめたしお、花星xxx-Hanaboshi_Mememe-です。 双極性障害ず闘う、䞀児のシングルマザヌです。 やりたいこずは絵を描くこず、小説を曞くこず。

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