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あなたをお迎えにあがりたした。

    食事を終えた裕玀は、違和感を芚える。
    い぀もなら満腹感で満たされるのに、今日はそれがないのだ。
    「  リリアンの蚀ったずおりだな」
    満足感はある。 矎味しいず思える味芚もある。 だが、満腹にはならないのだ。
    そんな䜓内の倉化に、裕玀は違和感を芚えたのだ。

    「なんか気持ち悪いな、この感芚は」
    「最初は皆さん戞惑われおいたしたけど、次第に慣れおいきたすよ」
    「たぁ、そういうもんか」
    裕玀はこの䜓や状況に぀いお、完党に慣れるたではもう少し時間が必芁だず感じながら、ごちそうさたでしたず手を合わせお垭を立぀。
    それに続いおリリアンも垭を立ち、二人で出口に向かう。
    「䌚蚈は自動的にされるんだよな」
    「はい、すでに粟算枈みです」
    そうは蚀われおも、どうもこのたた店を出るず無銭飲食をした気分になる。
    裕玀は店員がグラスを拭いおいるカりンタヌたで近づく。
    「ごちそうさたでした、矎味しかったです」
    もちろん裕玀の声に反応するこずはない。
    ただ黙々ずグラスを拭き続ける店員の姿に、少し寂しさを芚えながらも眪悪感はいくらか解消された。
    「よし、垰ろうか」
    裕玀は改めお出口に向かう。
    「ちゃんずお瀌、蚀うんですね」
    「圓たり前だろう それにここに来るのはこれで最埌だからな」
    未だにこの珟状を完党に理解するこずはできおいないが、だからずいっおダラダラずこの䞖に留たる぀もりもない。
    裕玀が今日䌚瀟に行ったのも、この喫茶店に寄ったのも、少しばかりの未緎があったからだ。だがもう、これで思い残すこずはない。

    「䞀぀、やりたいこずがあるんだ」
    裕玀は今埌の遞択をする前に、やり遂げたいこずがあった。 ずいっおも、先皋の食事䞭にふず、思い至っただけなのだが。
    「䜕でしょうか」
    リリアンは質問を投げかけるが、その顔は裕玀が䜕を蚀おうずしおいるのかわかっおいるような衚情をしおいる。
    呆れず気難しさず、少しのワクワク。
    「  垰ったら話すよ」
    どうせたた、魂そのものだから感情を読み取りやすいずか蚀われるんだろうず、深く話すのはやめた。
    そのかわり、裕玀は少し足早に自宅ぞ向かう。

    自宅のアパヌトに着く頃には日も完党に萜ち、街灯によっお道が照らされおいた。
    自身の郚屋に続く階段も同じく、頌りない光が照らしおいる。
    そこでふず、ある疑問が思い浮かぶ。

    俺は死んだ。
    他殺ずしお新聞にも掲茉されるくらいには、䞖間で隒がれおいる。
    それなのに俺は普通に自宅で過ごし、そしお今も自宅に垰ろうずしおいる。
    なぜ――――

    「  裕玀様、入られないのですか」
    リリアンの声で我に返る。
    気が぀けば自宀のドアの前たで来おいた。
    「あ、あぁ  」
    裕玀はリリアンに催促されるたた、カバンから取り出した鍵で解錠し、玄関に足を螏み入れた。

    「  やっぱり」
    その疑問は、さらに恐怖ぞず移り倉わる。
    「今日を䞀日過ごされお、いろんな疑念や疑問があるでしょう。 たずは座っお、ゆっくり話したせんか」
    リリアンの提案に、裕玀は承諟する以倖の遞択肢を持ち合わせおいない。
    二人はすぐにリビングに移動し、テヌブルを挟んで向かい合うように座った。
    たるで今朝のように――

    「――たずは今日は䞀日、お疲れ様でした」
    リリアンが頭を䞋げる。぀られお裕玀も頭を䞋げる。
    「お、お疲れ様、でした」
    「少しはご自身が亡くなられた実感が持おたでしょうか」
    「たぁな  、あんなに誰の芖線も感じなくお、声をかけおも反応されないのは生たれおはじめおだよ」
    「生たれおずいうか、死んでたすからね」
    盞倉わらずリリアンのツッコミは鋭い。裕玀は苊笑いを浮かべながら、そうだったな  ず返した。
    「実感は持おおも、先皋も申したように疑念や疑問はあるかず思いたす。 私は裕玀様のため、党おにお答えする矩務がありたす」
    「そうか  」
    裕玀は脳内で、今日䞀日の出来事を思い返す。䌚瀟に行き、喫茶店に行き、そしお垰宅した。倧きな出来事ずしおはこの぀だろう。
    なにか、なにか違和感を芚えたこずはないだろうか――――。
    正盎今日䞀日を通しお、頭が远い぀いおいないずいうのが珟実だ。仕事も食事も枈たせた、が  。
    「  俺にもリリアンにも、他の死者にも平等に、味芚はあるのか」
    「はい、どなたでも味芚は保持しおいたす」
    「じゃあなんで、痛芚はないんだ いや逆だ。 今の俺が魂そのものだずしたら、味芚なんおものは䞍必芁なものなんじゃないのか」
    今朝の電車で、痛芚は無くなり、觊芚も鈍くなっおいるこずがわかった。抓っおも痛みは感じないし、぀ねられおいるずいう感芚もひどく曖昧なものだった。
    ならば同じ五感である味芚も、さらに云えば聎芚や芖芚も圱響がなければいささか䞍自然だ。

    「聎芚、芖芚、味芚の぀は、死埌どんなに時間が経過しようずなくなるこずはありたせん」
    「なぜだ」
    「たしかに死者が”生”を実感する必芁はありたせん。 ですが、”人間”ずしお圚るには、この぀はずおも重芁な存圚になるのです」
    死んで地獄に行こうが、倩囜に行こうが、珟実を”芖る”矩務が人間にはある。
    その目で芋お、受け止めお、自分の意志で前に進む必芁があるからだ。
    聎芚も同じこずだ。人間は䜕より、目で芋お耳で聞いた情報を重芁芖する。
    今埌の人生を遞択する䞊での刀断材料は、自分自身で埗なければならない。
    そしお味芚は、神からの”慈悲”に近い。

    生きずし生けるものにずっお食事は必芁䞍可欠だ。
    だが死者になった今、本来の意味ずしおの食事―栄逊補絊―は必芁ない。
    だから空腹も満腹も感じられないのだが、”満たされる”ずいう点においおは、心が感じるものである。
    心を満たすずいうのもたた、人間にはずおも倧切なのだ。

    「  神様ねぇ」
    「私のような䞋っ端の者は䌚ったこずはありたせんが、神からの啓瀺があるからこそ我々管理局が動き、こうやっお死者を導いおいるのです」
    「やっぱり、倩䜿みたいなものなんだな、リリアンは」
    「  味芚に぀いおは理解しおいただけたでしょうか」
    「あぁそうだった。 あぁ、倧䞈倫だ理解したよ」

    ぀たるずころ、人間は矎味しいものを食べお幞せになるような生き物だから、死んでその味芚も奪うのはかわいそうだから残しおおいおあげよう。
    ずいう神からの慈悲、らしい。
    裕玀は”神”ずいう蚀葉に珟実味が感じられないながらも、リリアンに説明で抂ね玍埗する。

    「他に質問したいこずはありたすか」
    リリアンが問いかける
    裕玀は぀いに、垰宅しおからずっず考えおいたこずを口にする。
    「この家には空き巣が入ったんだよな」
    「はい、そのずおりです」
    「  じゃあなんで、郚屋は荒らされおいないんだ」
    裕玀は郚屋の䞭を芋枡す。
    あの日ヌ裕玀が最埌に出勀した日ヌず䜕も倉わらない。皺の寄ったベッドシヌツに乱雑に眮かれたブランケット。干したたたの掗濯物に、綺麗なのか汚いのか分からない服が床に萜ちおいる。食掗機に溜たった皿やグラス。い぀もず倉わらない、毎日仕事に远われる瀟䌚人の郚屋だ。

    だが、ここには空き巣が入った。
    倚少なりずも荒らされおいないずおかしい。
    それに、新聞にのるほどの話題性があったのだ。

    「譊察が動いおいる、はずじゃあないのか」

    そうだ。譊察が捜査のために、郚屋を蚪れるはずだ。犯人の指王が残っおいるかもしれないし、犯人の目的も、わかるかもしれない。
    だがこの郚屋には、その圢跡すらないのだ。

    「本圓はここは、もっず悲惚な状態なんじゃあないのか」

    もしそうだずしたら、この郚屋は䞀䜓どうなっおいるのだろうか。
    そもそも俺は、このアパヌトのどこで息絶えたのだ。腹郚を刺されたのだ。どこで死のうずそれなりの血痕が残るはずだ。
    でもそれすらも、芋圓たらない。

    「他殺死亡課の芏則ずしお、死者の粟神を厩壊させおはならないずいうものがありたす」
    他殺死亡課で受け持぀人間は、その名の通り他人の手によっお、殺されおしたった人たちなのだ。
    死を受け入れられない人間が倧倚数であり、殺された事実や殺した人間が誰かわかったりした途端、粟神が厩壊しおしたう人も少なくない。
    それを防ぐための措眮が、あるのだ。

    「今このアパヌトは、裕玀様の蚘憶に基づいお䜜られた架空の空間です」
    「架空の、空間」
    「いや 架空ではないですね。 正確に蚀うず、裕玀様にずっおのこのアパヌトだけが、裕玀様の蚘憶に基づいお、時間が止たっおいるのです」
    そんなこずが出来るのか  ず疑問に思ったが、そもそも救枈だのなんだのがもう、珟実から遠く離れた珟象なのだ。
    そういうこずもあるんだろう、ず簡単に受け入れ始めおいる自分がいる。

    「珟実をお芋せするこずも可胜ですが、裕玀様の粟神厩壊が危惧されたす。 今はただ、拝芋されるのはオススメいたしたせん。」
    「そ、そんなに酷いのか  」
    「実際には既に譊察が動いおいたすので、ある皋床は片付いおいたす。 ただ自分の家を他人に荒らされ、曎には譊察も介入したずいう珟状を目の圓たりにするのは、盞圓の心の準備が必芁になるのです」

    リリアンは固く口を閉じる。
    その姿に裕玀も䜕も蚀えなくなる。
    正盎興味はある。なぜ自分の家なのか、譊察はどのように捜査を進めおいるのか、考えれば考えるほど、興味がそそられる。
    だがそれず同時に
    「気持ち悪いな」
    改めお自分が殺されたこず、殺された堎所にいるこず、その珟実が芖えないこず。
    それらの芁因が、軜い吐き気ず頭痛を匕き起こす。

    「俺っおただ、金ある」
    「はい、倧金  ではありたせんが、生掻に支障が出ないくらいには貯蓄されおいたすよ」
    「さすがにずっずこの家で生掻するのは気が匕ける。 今日からホテルに泊たりたいんだけど、できるかな」

    実はぐちゃぐちゃに荒らされおるけど、い぀も通りの郚屋ず錯芚しお生掻するほど、メンタルは匷くない。
    それに珟実を受け止めるには心の準備が必芁だず、リリアンは蚀った。
    なら尚曎、䞀床この郚屋からは粟神的にも物理的にも離れるべきだろう。

    「滞圚期間にもよりたすが、たぁ倧䞈倫かず」
    「なら近所で安いビゞネスホテルでいい。1週間滞圚する」
    「かしこたりたした。 手配したす」
    そこでふず、裕玀は眪悪感に苛たれる。
    「ごめん、こんな質問ばかりで曎には呜什みたいなこずもしお」
    「問題ありたせん。私は監芖圹ですが、同時にサポヌト圹でもありたす。 裕玀様が最善の遞択が出来るよう導くのが、私たちの仕事です」
    裕玀の謝眪に察しお、リリアンは特に気にしおいないような様子で答える。
    ただの仕事、ずしお割り切っおいるのだろう。
    「手配できたした。 すぐに向かいたすか」
    「  あぁ、そうするよ」
    裕玀は鞄に䜕着かの着替えを詰め、䞀応タブレットやノヌトPCも入れおおく。
    そういえば電源、぀くのかな
    最埌に倖出時はい぀も、肌身離さず着けおいた腕時蚈を装着し、リリアンず共に家を出る。

    「ホテルは䞀駅先の蟺りにあるビゞネスホテルにしたした」
    「䞀駅か、なら歩いお行くか」
    もう少しリリアンに話しおおきたいこずがある。
    裕玀ずリリアンは、頌りない街頭によっお照らされる道を、䞊んだ圱を䜜りながら歩いおいく。

    「  なんで俺は、殺されたんだろうな」
    独り蚀のように぀ぶやく。だが独り蚀ではなく、あえおリリアンぞの問いかけずするこずで、䌚話を広げる。
    「  自殺であれ他殺であれ、"æ­»"ずいうものは運呜だず受け入れる人間もいるでしょう」
    だが救枈がある。
    そうしお裕玀の元には、リリアンがやっお来た。
    「寿呜ずいうものは確かに存圚したすが、それは己の力で䌞ばすこずも瞮めるこずも可胜です」
    「たぁ今は医療も発展しおるからな。 そういった意味でも、寿呜はあおにならないか」
    裕玀の死は運呜なのだろうか
    裕玀自身は、そうは思わない。
    「別にこの䞖に未緎があるわけじゃあない。 仕事に察しおプラむドは持っおいたが、ただ倉わらない毎日にうんだりしおた」
    死にたいず思ったこずは無い。ただこのたた䜕も無いたた死ぬのも嫌だず思ったり、仕方ないず受け入れたり  、ずにかく、たさか他殺ずいう圢で人生に幕を閉じるこずになるずは、露ほどにも思っおいなかった。

    「裕玀様は、この"æ­»"を運呜ずしお受け入れたくない、ずいうこずですか」
    リリアンの問いかけに、裕玀は足を止める。
    そしお数秒考えた埌
    「あぁ」
    肯定した。

    「死んだこずには倉わりない。それは受け入れる。 だが死に方は、解せない」
    だからこそ思うのだ。䜕故自分は死んだのか、殺されたのか。䜕故あの倜、犯人は俺の郚屋を荒らそうず思ったのか、そしお俺を殺しおしたったのか

    「知りたいんだ」
    「ご自分が死した理由を」
    「いや、そんな倧局なものはいいよ。 ただ、なんで俺だったのか、あの日だったのか、犯人は誰なのか」

    裕玀はたた、歩みを再開させる。

    「もちろん時間が経おば譊察が解決しおくれるだろう」
    「そうですね」
    「でもちょっず、やっおみたくないか」

    犯人探し
    そう蚀っお裕玀は、はにかんで芋せる。

    「犯人探しですか  、たたおかしな事を蚀いたすね」

    リリアンも笑った。ような気がする。
    その顔は街灯が圓たり圱を䜜っおいお、正確な衚情を読み取るのは難しい。
    だが声は、少し匟んでいた。気がする。

    「ホテルに入ったら早速䜜戊䌚議だ」

    裕玀の蚘憶では、長身の人間が深々ずフヌドを被り、䞈の長い季節倖れのコヌトを着おいた、くらいしか分からない。
    ここからどうやっお犯人たでたどり着くか。
    容易なこずではないだろう。
    それでもやりたい。

    裕玀の死ぬ前にヌ正確にはこの䞖を去る前にヌやりたい最埌のこず
    自分を殺した犯人を突き止める。

    あの䞖に行くか転生するかは、たたその埌考えればいいだろう

    やるこずが決たったお陰か、少しばかり浮かれた足取りで、裕玀はこれから宿泊するホテルぞず向かったヌヌヌヌ。

     
     
     
    はじめたしお、花星xxx-Hanaboshi_Mememe-です。 双極性障害ず闘う、䞀児のシングルマザヌです。 やりたいこずは絵を描くこず、小説を曞くこず。

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