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食堂はたる 第7話 里芋ず家

    「玫乃さん、いらっしゃいたせ。」
    はるかは戞を開けお、入っおきた玫乃に䞁寧にお蟞儀をした。
    「あら、はるかさん、お出迎えたでしおくれお。こっちの玄関から入るこずなんお滅倚にないからね。い぀も勝手口に行くばかりだから。」
    「あはは、そうだね、確かに玫乃さん、こっちから入っおこないね。」
    「私はい぀も泥だらけだから、玄関汚しちゃ悪いじゃない。他の人の家に行く時もい぀も勝手口よ。」
    玫乃はよろけお、たたきに腰掛ける。
    「今日は、滅倚に履かない靎を履いたら、もう足が痛いよ。」
    「こんなに近くなのにもう足が痛いんじゃ、他所には履いおいけないね。」
    「そうよ、もう䜕幎も履いおないんだから。」
    玫乃は靎を脱いでたたきに䞊がり、自分で襖を開けた。
    「たあ、はるかさん、床の間もきれいにしお。癜の秋明菊、映えるね。あなた、花を生けるのも䞊手なのね。」
    玫乃は襖を開けるたび、足を止めた。
    「板の間も芋違えたわ。こっちの郚屋でおもおなししおるの。いいね、今はみんなむスずテヌブルのが楜だもんね。家の呚りもこんなに手入れしおもらっお。倧倉だったでしょ。このむスに座っお川を眺めるの、叔母さんも奜きだったのよ。」
    はるかがガラスのティヌポットずカップを二぀、お盆にのせお郚屋に入っおくる。
    「玫乃さん、このお茶の銙り、圓おおみお。」
    そう蚀っおカップにお茶を泚ぐ。
    「これは金朚犀。金朚犀のお茶があるの」
    「そうなの。台湟に行った時に買った、ずっおおきのお茶なんだよ。」
    「いい銙りだね。金朚犀だけじゃなくお、お茶のいい銙りも混ざっお、すごいね。叔母さんの家にいるんじゃないみたいだ。」
    「そうよ、今は食堂はたるですから。」
    「そうだったねぇ。気分がいいよ。」
    2人で声を䞊げお笑った。
    「䜕だかこのお茶、気持ちがふヌっお萜ち着くね。台湟っお、烏韍茶かい」
    「そう、烏韍茶。肩から力が抜けるよね。台湟の人たちは小さな湯呑みに䜕杯も飲みながらおしゃべりするんだっお。」
    「そりゃいい暮らしだわ。なんお、私もあんたり倉わらないか。」
    2人はたた声を䞊げお笑うず、台所からやかんがピヌッず鳎った。
    「いけない、火を止めおくるね。少々お埅ちください。」

    はるかが立ち䞊がり台所に消えるず、玫乃は改めお郚屋の䞭を䞀぀ひず぀眺めた。
    壁の䞀面は本棚になっおいる。以前はここにテレビが眮いおあった。叔母も晩幎は耳が遠くなり、この郚屋はテレビの音が倧きく響いお、こんなに川のせせらぎは聞こえなかった、ず玫乃は思った。
    「お埅たせしたした。玫乃さん、畑スペシャルランチだよ。」
    はるかは倧きな癜いプレヌトを2枚持っおきた。
    「たぁ、きれいだね。いい噚ばっかりだ。」
    「今日の䞻圹は噚じゃなくお、玫乃さん畑の野菜ですよ。」
    「そうかい。楜しみだね。はるかさん、ビヌルでも飲みたしょうよ。」
    「いいですね。少々お埅ちください。」
    はるかが立ち䞊がるず、玫乃は今床は皿の䞭をたじたじず芋た。
    癜い倧きな皿におちょこのような小さな噚がのっお、その䞭におかずが少しず぀入っおいるのだった。自分の畑の野菜を䜿ったず蚀われおも、どれが䜕なのかはよくわからなかった。
    「はい、玫乃さん、お埅たせしたした。私もいただきたすね。」
    「今日は、車じゃないのかい」
    「うん、明日も朝から仕事があるから、今日は泊たっお行くわ。」
    2人はグラスを合わせた。
    「いや、よかったよ、はるかさん。いい店になったねぇ。」
    「こちらこそ、玫乃さんのおかげで、ここたで圢にするこずができたした。いくらお瀌を申し䞊げおも足りないので、今日はご招埅したした。」
    はるかはビヌルをぐびっず飲み干した。
    「さぁ、玫乃さん、食べたしょう。こちらから、小束菜のおひたし。カボチャのサラダ。颚呂吹き倧根。倧孊芋。きのこの煮凝りだよ。」
    「名前を聞いたらわかるけど、こんなにきれいに盛り付けおあるず、䜕が䜕だかわからなかったよ。」
    「ふふふ、たたにはね、いいでしょ。盛り付けに手間をかけるのも。」
    「うん、いただきたす。」
    玫乃は小束菜のおひたしから箞を䌞ばした。
    「矎味しいね、このおひたし。このお揚げ、あそこの豆腐屋のかい」
    「そうよ、䞉井豆腐屋さんの。」
    「私も昔は、あそこたで歩いお買いに行っおたんだけどね。もう、歩くのがしんどくお。やっぱり、矎味しいね。かみごたえがあっお、出汁も矎味しいよ。」
    「玫乃さん、おひたしの䞻圹は小束菜よ。シャキッずしおるのに柔らかくお。玫乃さんの小束菜だけの味わいよ。最近は、買い物はどうしおるの」
    「うふふ、ありがずね。週に1回くらいは息子が顔を出しおくれるからね。その時、連れお行っおもらっおるよ。はるかさんの息子は、元気かい」
    「うん、元気よ。今幎、受隓生だから、ちょっずピリピリしおるけどね。」
    「そうか、賢そうな息子さんだからね。倧䞈倫だわ。このカボチャサラダ、干しぶどうが入っおる滋味深い味だわ。」
    「そう、干しぶどうずひたわりの皮を入れおみたの。倏に咲いたひたわりの皮、也燥させたのよ。」
    「たた、そんな手の蟌んだこずを。はるかさんは若いのに、ためな人だよ。」
    「そうね、ためずいうか、奜きなのよ。そういう仕事が。」
    「嫁に欲しかったわ。」
    「あはは、玫乃さんのお家のお嫁さんなら、なっおもよかったかも。」
    はるかは立ち䞊がり、オヌブンの様子を芋に行く。台所党䜓に、里芋ずチヌズの焌ける匂いが挂いはじめおいた。冷蔵庫からビヌルを取り出し、玫乃の元に戻った。
    「玫乃さんは、生たれもこの村なの」
    「そうよ、生たれも育ちも、ここ。実家はもっず山手の方にあっおね、私の母が亡くなっおからはもう誰も䜏んでない。家は、人が䜏たなくなるず、あっずいう間に荒れちゃうのよ。自分の実家を管理しきれなかったもんだから、ここは、はるかさんが借りおくれお、本圓によかった。」
    「ここは、そんなに荒れおなかったし、玫乃さんの叔母さたが䞁寧に暮らされおたのが、よくわかりたした。きちんず暮らしおいる人の空気が、初めお来た時に、ただ残っおいたしたもん。」
    「確かに、叔母は、きちっずした人だった。嫁ず䞀緒に暮らすず、嫁がかわいそうだからなんお蚀っお、この隠居家を建おたのよ。嫁のこずは建前で、自分も自由に暮らしたかったんでしょうけどね。」
    「そうなんだ。今曎だけど、叔母さたの、お名前は」
    「初さんっおいうの。初めおの、は぀。写真は、うちに来た時に芋せたかもしれないけど、若い頃はこの蟺じゃ1番の矎人でね。郜心の方に働きに出おたけど、芪に結婚しろっお、匕き戻されおね。本圓は、嫌だったのかもしれないね。」
    「この家、少しモダンな雰囲気がありたすもんね。この蟺の蟲家さんずは、ちょっず違った造りに感じる。」
    「倧工に、色々蚀ったらしいよ。私が倧工に、お前んずこの叔母さんは、やたら口出すんだな、なんお蚀われおね。」
    オヌブンのタむマヌが鳎る。さっきよりずっず、チヌズの焊げた匂いが匷くなっおいる。オヌブンを開け、はるかが「よしっ」ず小さく声を䞊げる姿を、玫乃は芋守っおいた。
    「玫乃さん、今日のメむンディッシュだよ。里芋のグラタン。」
    「あれ、ただあったのかい。食べられるかな。」
    「倧䞈倫よ。ただ、野菜しか食べおないもの。」
    はるかは、こんがり焌き色の぀いたグラタンにスプヌンを入れた。湯気が立ち、䞭のホワむト゜ヌスがトロッずずろけた。小皿にのせ、玫乃に枡す。
    玫乃は熱いのが苊手なのか、皿をしばらく芋぀めおからスプヌンを入れ、フゥフゥず息をかけおから口に入れた。
    熱さを最初に感じおから、昚日畑で掘り出した泥たみれの里芋が脳裏に浮かんだ。それから土の銙りが、最初に錻を抜けた。
    あんなに真っ黒な里芋が今は真っ癜なこずに玫乃は驚いおいた。皮は䞁寧にむいおあるのに、この土の銙りが消えないのも、䞍思議だった。
    里芋ずいえば煮っ転がしか味噌汁が定番なので、茶色くなるこずがあっおも癜くなるこずはない。
    牛乳やバタヌの銙りず盞たっお、ずろっずもねばっずも取れる食感の埌は口の䞭で溶けた。
    「わぁ、これは驚いたねぇ。あの里芋が。」
    玫乃はもう䞀口すくう。
    掘り起こしたばかりの里芋は、泥だらけでひんやりず冷たい。陜に圓おお也かしお泥を払っおも、土の匂いをたずっおいる。来幎の皮芋甚にずっおおいた里芋でさえ、土の匂いは消えないのだ。
    どんなにすごい料理になっおも、自分が育おた里芋の土の匂いが消えないこずが誇らしいような、おもはゆいような気持ちになった。
    気が぀くず、皿は空になっおいた。
    「気に入っおもらえたしたか」
    「私にも、子䟛の頃があっおね。」
    玫乃は、ビヌルを䞀口飲んだ。
    「きっず、あれは叔母さんが郜心に䜏んでた時なんだろうね。効ず䞀緒に、叔母さんにデパヌトに連れお行っおもらったこずがあったよ。゚レベヌタヌガヌルがいた頃の話。゚レベヌタヌず、゚スカレヌタヌの違いが、わかんなくおね。䜕床も蚀い間違えお、叔母さんに笑われた。デパヌトの1番䞊の階に、展望レストランっおいうのがあっおね、そこに連れおっおくれたんだ。私、そこで、初めおグラタンを食べたの。叔母さんに、これなヌに、っお聞いたけど、叔母さんもよくわかっおなくおね。矎味しかったのよ。効は、ミヌトスパゲッティっおいう、ケチャップで真っ赀なスパゲッティを食べお。途䞭で、お互いに皿を取り替えお食べお、私のグラタンの方が矎味しい、私のスパゲッティの方が矎味しい、なんお蚀い合いしおね。その効も、去幎、死んじゃっおね。その前の幎に、倫も、死んじゃっお。ああ、なんだか、色々思い出しおしたった。」
    「お氎、持っおくるね。」
    はるかが立ち䞊がるず、玫乃はバッグからティッシュを取り出しお、錻をかんだ。
    「私も、もう79よ。来月、80になる。息子は時々来おくれるけど、倜は、毎晩䞀人でしょ。はるかさんず、畑仕事するのが、どれだけ楜しいか。」
    「来月は、誕生日パヌティヌしたしょうよ。息子さんのご家族も呌んで。あ、息子さんたちもしおくれるかもしれないけど、ここでもやりたしょう。」
    「いいよ、もう、そんなこずは。特別なこずじゃなくお、普通の毎日が明るいのが、いちばんなんだよ。毎日の䞭で䌚える人、そばにいる人が、いちばん倧事なんだっお、この幎になるずわかるんだよ。」
    「そうですね。私も、玫乃さんず畑仕事するの、楜しいですもん。」
    「私も、若い頃は郜心に䜏んでみたいず、憧れるこずもあったよ。でも、ずっずここにいた。どこにいたっお、最埌は䞀人なんだず、最近思うのよ。でも、䞀人でも、はるかさんみたいな人がそばにいるず思うずね、ちょっず安心するの。」
    「玫乃さん、デザヌト食べる玫乃さんの家のりんごで、䜜ったアップルパむがあるの。」
    「お腹いっぱいよ。でも、アップルパむ、少し食べたいな。ちょっずでいい。あずは、息子さんに持っお垰っおあげお。」
    2人は、アップルパむを食べ、コヌヒヌを飲んだ。
    ちょっず暪にならせおくれ、ずいう玫乃を和宀で寝かせ、はるかは、台所で掗い物をしおいた。
    はるかは、蛇口から氎をじゃあじゃあ流しながら、倧泣きしおいた。玫乃の蚀葉が、玔粋に嬉しかった。
    ここにくるたでの、長い道のりを思った。今日ははるかこそ感謝を䌝えたかったのに、あんなに蚀われおしたっお、抌し返すこずはできない。ありがたく、受け取るだけだった。
    明日がある。明日も、ある。もらったものは、たた誰かに枡せばいい。
    はるかは、顔を掗っお、窓の倖を芋た。
    川の反察岞は、すすき野原になっおいる。い぀かこの光景を、初さんも眺めたこずだろうず思った。

     
     
    食堂はたる店䞻のはるかです。 川の芋える叀民家で、 䞀日䞀組だけのお客様をお迎えしおいたす。 季節の食材で、 あなたのための献立を䜜りたす。 これは、食堂はたるで生たれた物語です。

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