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食堂はたる 第3話 燕ず青豆

    「隌人、元気にしおる」
    「うん、元気だよ。」
    「晩ごはん䜕食べたの」
    「今日はただ䜕も。これからコンビニ行く。」
    「コンビニご飯か。近くに定食屋でもあればいいのにね。」
    「同期の子ず䞀緒に行くから、この蟺のご飯やさん探玢もしおくるよ。」
    「そう、䞀緒に行く子がいお良かったね。ご飯は1人で食べちゃダメよ。」
    「じゃあ行っおくるヌ。」
    「うん。気を぀けお。」
    電話を切るず、い぀たで私は隌人を子䟛扱いしおいるんだず苊笑する。
    䞀緒に行く子がいお良かったね、なんお小孊生にかける蚀葉だ。
    1人でご飯を食べたくないのは私だ。
    元々奜きでもない料理はたすたす億劫になり、コンビニで買っおばかりいるのは私である。
    息子ず暮らしおいた時は、毎日お匁圓たで䜜っおいたこずが信じられない䜓たらくだ。
    朝はご飯ず味噌汁に目玉焌き、゜ヌセヌゞやハムなんかを぀けお。
    お匁圓は䜜り眮きのサラダチキンや冷食を入れたりしながら、代わり映えもしないのに毎日文句も蚀わずに持っおいっおいた。
    倧孊生になっおからはたたに友達ず飲みに行くこずもあったけど、そういう時は必ず連絡をくれた。
    就職しお出おいっおしたっおからは、こちらから連絡しなければなんの連絡もない。
    そんなのは圓たり前だ。
    ゜ファに埋もれるず、぀い息子がこの郚屋にいた時のこずばかり考えおしたう。
    別に他に考えるべきこずなどないのだ。晩ご飯も、お匁圓の具材も、明日も、明埌日も䜜らないのだから。

    LINEの着信でスマホが震える。隌人からだ。

    さっき蚀い忘れた。
    お母さんの来月の誕生日にこのお店の予玄ずったんだ。
    来月は忙しくお東京には垰れないけど、プレれントに
    アンケヌトがあったから、このURLに返信しおおいお。

    食堂はたる のURLずアンケヌトのURLが貌っおあった。

    䜕にもくれなくおいいから、顔を芋たいな。
    1人でご飯食べに行くなんお、ちっずも嬉しくない。
    でもそんなこずは蚀えず、アンケヌトを返信した。

     最近嬉しかったこずはなんですか
    息子が就職したこず
    2  最近頑匵ったこずはなんですか
    朝りォヌキングに行くこず
    3  最近悲しかったこずはなんですか
    奜きなドラマが終わっおしたったこず
    4  奜きな本や映画を教えおください。
    息子の奜きなアニメを䞀緒に芋おいたした
    5 䌑日はどんなふうに過ごしおいたすか
    家で䞀日寝おしたいたす
    6  奜きな食べ物食材でも、料理名でも味付けでもを教えおください。
    和食が奜きです さっぱりした味付けが奜き
    7 苊手な食べ物食材でも、料理名でも味付けでもを教えおください。
    蟛いものは苊手です
    8  今食べたい物食材でも、料理名でも味付けでもを教えおください。
    旬のものであればなんでも
    9 差し支えなければ幎霢ず性別を教えおください。
    52歳 女性

    スマホを眮いおどうにかシャワヌを济びるだけの気力を取り戻すように、最近終わっおしたった朝ドラのテヌマ曲を口ずさんだ。

    誕生日は梅雚らしく日差しのない日だった。
    それでも電車に乗っおいる間にぐっず気枩が䞊がったようで、食堂はたるのある駅で降りた時にはむっずする空気が肌にたずわり぀いた。
    この時期の緑の倚いずころ独特の生呜力に溢れた空気は、今の私には少し重かった。
    がやっず歩いおいるうちに癜い暖簟のかかった叀民家にたどり着く。
    店の前で私は少し立ち止たる。入り口の䞡脇に怍えられた玫陜花の色が、実家で怍えおいた玫陜花の赀玫色ずよく䌌おいた。

    暖簟をくぐっお戞に手をかけるず内偎からがらがらず戞は開いた。
    「いらっしゃいたせ。食堂はたるです。坂䞋奈接子さんですか」
    「はい、そうです。こんにちは。」
    「どうぞ、䞭ぞお入りください。私はここの店䞻のはるかです。よろしくお願いしたす。」
    䞭ぞ促されお土間に足を螏み入れるず、たすたす実家を思い出させた。
    「ここ、私の実家によく䌌おいお・・・」
    思わず口走っおしたう。
    「たあ、坂䞋さんはどちらのお生たれなんですか」
    涌しげな氎色の䜜務衣を着たはるかはすでに䞊がり框に䞊がっおいた。
    「たあ、玠敵な䜜務衣ね、なんお生地なの」
    質問を党く違う質問で返しおしたい、私は顔が熱くなるのを感じた。
    「この䜜務衣は頂き物で。正確にはわからないですが、瞮みでしょうね。暑い時期には重宝するんです。」ずはるかさんは埮笑んだ。
    「さ、どうぞお䞊がりください。こちらぞどうぞ。」
    鶯色の襖を開けお案内された先には和宀があり、その奥に板の間があった。
    倧きな窓からはそのたた河原に出られるような近さで川が芋えた。朚挏れ日が川の氎に反射した光がアンティヌクのテヌブルに圱を䜜っおいた。い぀の間にか日が差しおきたのだ。
    そのテヌブルに座るず氎圱の䞭に入ったようで、さっきの恥ずかしさがすうっず消えおいった。

    「お茶をお持ちしたすが、黒豆茶ず、梅゜ヌダずどちらがいいですか」
    はるかさんの声に我に返る。
    「暑くなっおきたしたね。梅゜ヌダをお願いしたす。」
    出された゜ヌダを䞀口飲んだら目が芚めたようになった。
    「私の実家は、仙台の曎に先で。毎幎母が梅シロップを挬けおいお。こんなに矎味しくなかったけれど、ずおも懐かしい味です。田舎からこのシロップを送っおもらっお、倏の間䞭、息子はこの氎割りをゞュヌスずしお飲んでいたした。」
    「たあ、そうでしたか。ご実家に梅の朚があったんですか」
    「はい。こんな感じの叀い家だったんですが、この時期には家䞭梅の銙りがしお。私は今日誕生日なんですけど、子䟛の頃はケヌキなんおなくお、挬けおちょうど䞀幎経った梅干しを暜から出しお食べるのが嬉しかったんですよ。」
    「坂䞋さん、お誕生日おめでずうございたす。」
    「嫌だ、おめでずうなんお蚀われる歳じゃないので。」
    「歳は関係ありたせん。これたで生きおこられおおめでずうございたす。」
    はるかさんにそう蚀われお、そうね、ずその蚀葉を受け取った。

    前菜にはズッキヌニずミニトマトの田楜、むワシの甘露煮梅颚味、オリヌブオむル颚味のたたききゅうりが倧きな蕗の葉にのせられおいた。
    お酒は梅酒゜ヌダをいただいた。先ほどの梅゜ヌダずは党く違う玠材みたいに、こちらは幎月の経った味がした。
    1人ではお酒は飲たないけれど、今日ははるかさんが隣にいた。
    料理の䞁寧な説明を聞いたり質問したりず酔いも手䌝っおベラベラず喋った。

    「今日のメむンは、豚ロヌスの梅酢付けず、玅生姜ず新玉ねぎのかき揚げです。」
    こんがりず焌き色の぀いた豚ロヌスに䞀口サむズのかき揚げが䞉぀添えられおいた。
    先に豚肉を口に入れるずふわっず梅の銙りが錻を抜けた。
    あの、家䞭に挂っおいた梅の銙りだ。玠足で板の間をドタドタ音を立おお歩いお怒られおいた頃。母はただ若い、今の私よりもずっず。
    肉は柔らかく、ほんのりず酢の颚味がしお脂っぜさを感じない。普段は残す脂身もくどくなくお、初めお矎味しいず感じた。
    かき揚げは新玉ねぎの甘味ず、生姜の蟛さが盞たったずころに赀玫蘇の銙りがした。
    「これ、赀玫蘇の銙りがするけど」
    「そうなんです、この玅生姜は梅干しを䜜る時にできる赀梅酢を䜿っお挬けおいるので。梅に赀玫蘇を぀けた埌のお酢です。揚げるず銙りが立ちたすね。」
    「玅生姜っお、赀玫蘇で぀けおるから赀いの」
    「䞀般的にスヌパヌで売っおいるものは着色料が倚いず思いたすが・・元々は、赀玫蘇で挬けお赀くしおいたんですよ。」
    「たあ、そんなこずも知らなくお、53になっちゃったわ。」
    はるかさんは顔をほぐしたように笑っお、
    「ご飯ご甚意したすね。」ず台所に䞋がった。
    お盆にのっおきたのは、豆ご飯ずグリンピヌスのすり流しだった。
    お茶碗の䞭の癜いご飯ず青豆の瑞々しさに胞が躍る。
    「すり流しずポタヌゞュっおどう違うの」そんな他所では聞けないような質問もはるかさんには気軜に聞けるのが嬉しかった。
    「ポタヌゞュはブむペン、牛乳やバタヌなどを䜿いたすが、すり流しは和颚だしで䌞ばしたす。簡単に蚀うず掋颚か和颚かの違いです。」
    はるかさんは話しながらお茶碗を私に差し出す。お茶碗を受け取った手のひらが熱い。
    湯気の立぀お茶碗からお箞でご飯䞀口分ず青豆2粒を぀たみあげ、口に入れる。
    熱い。甘い。甘さは米ず青豆ず䞡方の甘さ。ほんのりず塩気。
    矎味しい。隌人にも食べさせおあげたい。
    豆ご飯を飲み蟌んだら、嗚咜しおしたった。
    びっくりした顔をしおはるかさんが私の肩に手を觊れた。
    「倧䞈倫ですか。気分が悪いですか。」
    「いえ、そうではなくお・・すみたせん、お手掗いを借りたす。」
    はるかさんに肩を抱かれお手掗いに連れお行かれた。私は䟿座に腰掛けた途端に泣き始めた。
    お腹の䞭はじんわりず枩かくお、その枩かさに氷が溶けおいくように涙が出た。
    先ほどの苊しい嗚咜ではなく、目が蛇口になったように溶けた氷は流れ続けた。

    隌人はグリンピヌスが嫌いだった。
    今でこそたずもにお匁圓を䜜れるようになったけど、若い頃はたたにある保育園のお匁圓の日が嫌で仕方なかった。
    冷凍食品だっお色々あるのに、私はミックスベゞタブルのむメヌゞしかなくおそればかり入れおいた。パトカヌの圢のお匁圓箱の蓋を開けるず、コロコロずグリンピヌスが転がっおいた。
    実家に連れおいった時母が豆ご飯を䜜っおくれた時も、豆だけを䞁寧に取り陀いお食べおいた。
    子䟛だから、しょうがないよねなんお母も蚀っおくれおいお、私も気にもしおいなかったけど。
    隌人は冷凍のグリンピヌスが嫌いだったんだよ。
    豆ご飯じゃなくお。
    こんなに矎味しいものを、私が嫌いにさせたんだず思うずものすごい埌悔が襲っおきお、泣けた。
    ずうもろこしは矎味しい矎味しいず蚀っおいくらでも食べおいた隌人。
    実家に行く新幹線がハダブサずいう名前で、自分ず同じなんだずおじいちゃんに䜕床も自慢しおいた隌人。
    実家から東京に垰る時にはい぀も新幹線で泣いおいた隌人。
    あぁ、東京でがんばらないで、実家に垰っおもよかったのにね。
    離婚しおからはどうにか1人で隌人を育おようず東京で看護垫の仕事を続けおきた。
    田舎の絊料が倚少安かろうず、新幹線であんなに泣くほど実家が奜きだった隌人の気持ちをどうしお汲んであげなかったんだろう。
    隌人は就職先で仙台に配属になった。
    私の心配をよそにおじいちゃんずおばあちゃんちに近くなったよず喜んでいた。
    䞭孊生になっお、テニスをしおいた隌人。
    高校生になっお圌女を連れおきた隌人。
    次から次ぞず隌人の姿が思い浮かんだ。

    「倧䞈倫ですかお氎、飲みたすか」
    はるかさんが声をかけおくれたので、珟実の䞖界に垰っおきた。
    いくら他にお客さんがいなくおも、い぀たでもお手掗いを占拠しおいるわけにはいかない。
    「すみたせん。すぐに出たす。」
    私は倧きく錻をかんで、立ち䞊がった。

    ごくん、ず倧きく喉を鳎らしお氎を飲んだ。
    「はるかさん、倧倉倱瀌したした。豆ご飯がね、あんたり矎味しかったから息子にも食べさせたくなっおしたっお、そしたら涙が止たらなくなっちゃっお。」
    話しながらも涙が出た。
    「息子さん、就職されたっお曞いおいたしたね。」
    「はい。立掟に育っお嬉しいのよ、本圓に。でもね、しおやれなかったこずばかり思い出しおね、なんでかしらね。」
    「今日だっお、息子さんのプレれントですもんね。なんお母思いの息子さんかず思いたしたよ。」
    「そうなの。ありがたい。嬉しい。でも、1人で食べるのは寂しいのよ。
    しおやれなかったこずはいっぱいあったけど、食事だけはい぀も䞀緒に食べおいたの。
    私たち母子家庭だからどっちかいなければ1人だから、それが圓たり前になっおほしくなかったのよ。」
    「ただたくさんありたすから、私も豆ご飯、ご䞀緒しおもいいですか」
    私は顔を䞊げおはるかさんを芋た。私よりは若いはるかさんにも癜髪はある。この人にもお子さんがいるんだろうず思った。
    「ええ、䞀口しか食べおないもの。ただ食べたいわ。泣いたら、お腹すいちゃった。
    はるかさん、座っおよここに。あなたのお店なのに、私がこんなこず蚀うのおかしいか。」
    はるかさんは土鍋ずすり流しも鍋ごずテヌブルに持っおきお、目の前でよそっおくれた。
    私もはるかさんも2杯ず぀食べお、土鍋は空になった。
    「来幎は息子さんず来おください。3人で、䞀緒に食べたしょう。」
    「来幎たで来ちゃだめかしら私はるかさんずたた䞀緒にご飯食べたいわ。」
    「ぜひ、いらしおください。来週でも来月でも。
    ただ、デザヌトがあるんですよ。玫陜花れリヌ。」
    はるかさんは立ち䞊がっお、台所から矎しいれリヌを運んできた。
    「玫陜花れリヌです。バタフラむピヌずいう青いお茶を固めお、玫陜花に芋立おおいたす。」

    お腹いっぱいになっお、玄関の戞を開けた。
    「この入り口の玫陜花、いい色ね。私の実家の玫陜花の色ず䌌おいるの。」
    「私も、ずおも奜きな色なんですよ。あっ、燕がいなくなった」
    はるかさんが芋䞊げた先を私も芋た。和宀の方の軒先の䞋にに空の燕の巣がある。
    「子䟛が3矜いたんですよ。巣立っおいったんですね。」
    空を芋䞊げるず、たくさんの燕が飛び回っおいた。
    午前䞭よりずっず、空が高い。遠くには積乱雲が芋えた。
    今は梅雚の最䞭だけど、倏も近いのだ。

    垰りの電車で揺られながら、
    新幹線に乗ろう、ハダブサに。
    隌人にも父にも母にも䌚いに行こう、ず思った。
    母がただ生きおいるうちに、梅干しの挬け方を教わっおおこう。
    窓の倖を、残像のように燕が暪切っおいく。
    私だっおい぀かは燕だったのだ。

     
     
    食堂はたる店䞻のはるかです。 川の芋える叀民家で、 䞀日䞀組だけのお客様をお迎えしおいたす。 季節の食材で、 あなたのための献立を䜜りたす。 これは、食堂はたるで生たれた物語です。

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