
短編小説 : 「雨の日の傘」へ行こう | 拝啓文芸部
「『雨の日の傘』に行こう」
「うん、賛成」
僕たちはそこへ向かって歩き出す。
土曜の昼どきだ。
歩き始めて間もなく細かな雨が降り出した。僕たちは少しだけ脚を速めた。雨音を背景に街の人たちの声が耳に届いてくる。すれ違う街の人たちが、みんな「雨の日の傘」の話をしていた。
傘を差した老夫婦は「本当に、ありがたい場所だよ」と目を細め、スーツを着たサラリーマンは「ちょうどその時だったんだ」と熱を込めて語っている。OL風の二人は「わたしたちを助けてくれた」と話を弾ませていた。
なんだか街全体が、ソワソワして、浮き足立っているみたい。僕たちにも伝染してしまう。
「楽しみだね。きっと、noteのお題企画か何かかな?」
僕たちはそんな会話を交わしながら肩を少し濡らして、目的地へ到着した。
「雨の日の傘」に着いたのだ。
重厚な木の扉を開けると、外の冷たい空気が背後へ流れ、雨の匂いが遠ざかる。凛々しい女性スタッフが気持ちのいい笑顔で迎えてくれた。
「トラットリア『雨の日の傘』へようこそ! 本日のランチは、しっとりバジルのジェノベーゼです」
「それ、二つください」
鮮やかな緑のソースからバジルの香りが立ち上っている。レストラン『雨の日の傘』のジェノベーゼは、ほっぺたが落ちるほど美味しかった。バジルの香りが雨粒みたいに胸に落ちてきたんだ。