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短編小説 : 血の味

    血にも色々あるのだ。

    最も美味しいのは「罪」のそれ。私にはわかる。彼の血は、遠目からでも抜群に見込みがあった。芳醇で、ひどく甘い血。彼は自身の孤独という名の罪を、何よりも深く愛していた。いつも周囲をビクビクと伺っているくせに、心の中では王様のように傲慢だった。そう、自分には世界を統べる力があると勘違いしている、哀れで、ちっぽけな王様。私はその王様に近づき、耳元で囁いた。

    「大丈夫。私はあなたを怖がらない」

    王様は、自分が見透かされたということすら理解できなかったよう。本当にかわいそうな人。あなたはこれから、私のために血を流す。それも、自ら喜んでその身を差し出すのだ。カエルが、蛇の視線に恋い焦がれてしまうように。

    「あなたは私を敵と見ている。その通り、私はあなたの敵。さあ、どうする? 戦う? 逃げる? もう一つの道は?」

    彼は考える。だって彼は王様だもの。王様に解けない問いなどないのだから。私はその滑稽さをただ愉しくて眺めている。もし彼が無謀な戦いに身を投じたら? その辺に転がっている雑魚の血と同じ味に成り下がるだけ。もし逃げたら? 果てるまで追いかけて捕まえて、「なぜ逃げた?」と首筋を愛撫しながら問いかける。少しは美味しくなるかしら。もし交渉を持ちかけてきたら――私は偽りなく、心の底から本物の愛を込めて「あなたの血が欲しい」そう告げるだけ。

    彼は精一杯の背伸びをして言った。
    「何が望みだ?」

    じっとりと唾液が溢れそうになるほど、極上の自尊心。その愚かさに今すぐ噛みつきたい衝動を堪えながら、私はただ「あなたの血」を望むと応える。それはあなたが特別だから。私はあなたが欲しい。私は私の愛を隠さない。あなたを欲する真実の愛が、あふれて、こぼれて、私を濡らしている。あなたの脳細胞がこれから何をどう読み解こうと、すべては無駄。だって、私の言葉には一片の裏もないのだから。

    「私はあなたの罪を吸う」

    嘘偽りない愛の宣言。彼はこの交渉の結果をどう捉えているのだろう。対等な取引? 少しの譲歩? ……まあ、どうでもいい。そんなことは吸えば分かる。

    私は彼の柔らかな肌に、二本の牙を深く突き刺した。

    脳が痺れるほどの最高な感触。一瞬で彼の虜になる。あなたの血は、私に貪り喰われながらも、まだ諦め悪く逡巡を辞めていなかった。いいわ、心地いい抵抗。無駄だけど、もっと美味しく暴れなさい。

    一口、また一口。とろけるような彼の血が喉を通るたび、私のそれは絶頂に達する。そしてその次の一口で、彼は考えるのを辞めた。呆気ない。

    私が彼の罪を――誰にも言えなかった薄汚い秘密を、一人では抱えきれなかった昏い孤独を吸い上げる代わりに、私の冷たい唾液が彼の血管へと混ざり込んでいく。

    彼は気づいてしまったのだ。抗うよりも、すべてを暴かれ、奪い尽くされる方が、ずっと、ずっと気持ちがいいということに。

    えらいわ。さすが私の見込んだ血袋ね。褒美に、喜んで認めてあげる。――ほんの少しだけ、今のあなたは本物の王様よ。



    #創作大賞2026
    #オールカテゴリ部門


     
     

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