
有馬温泉|赤い橋から始まる、金泉・銀泉の湯めぐり旅と炭酸せんべいの記憶
有馬温泉の旅は、赤い橋から始まった。
バスが有馬温泉バスセンターに着き、降り立った少し先でまず目に入ったのは、温泉街を流れる有馬川と、そこにかかる太閤橋、そしてそこに立ち眺める赤い橋(ねね橋)だった。
山あいの空は少し重たく曇っていたけれど、そのぶん有馬の町には、戦国の歴史も感じる古い湯治場らしいしっとりとした空気が漂っていた。
川沿いには旅館や建物が並び、華やかな観光地というより、山の奥に昔から湧き続けてきた湯の町に入っていく感じがあった。
有馬温泉といえば、金泉と銀泉。
金泉は、有馬温泉らしい赤茶色の湯だった。
見た目からして濃い。
透明な湯にすっと入るというより、山の奥から湧き出してきた力そのものに浸かっているような感じがある。

鉄分を含んだような色合いは、いかにも「効きそう」な雰囲気で、温泉に入っているという実感が強い。
体の表面だけではなく、奥の方までじんわり温められるような湯だった。
一方の銀泉は、金泉とはまったく違う印象だった。
透明感があり、金泉のような強い色はない。
同じ有馬温泉の中で、ここまで性格の違う湯が楽しめるのが面白い。

赤茶色で濃厚な金泉。
さらりとした印象の銀泉。
どちらも入ることで、有馬温泉らしさが完成する気がした。
さらに、スーパー銭湯とも言える,太閤の湯にも入った。ここは金泉も銀泉もある全部入り。
有馬温泉といえば、豊臣秀吉ゆかりの温泉というイメージも強い。
天下人も湯に浸かったのかと思いをはせる。
城や合戦の歴史とは違う、体を休めるための歴史。
有馬温泉には、そんな柔らかい歴史の匂いがある。
温泉街も歩いた。
細い道、坂道、古い建物、湯元や泉源。
有馬は、ただ宿に泊まって湯に入るだけの場所ではなく、町そのものを歩くのが楽しい温泉地だった。

泉源を見ていると、温泉が単なる観光施設ではなく、この町の根っこにあるものなのだと感じる。
湯が湧き、その湯を中心に町ができ、人が集まり、土産物屋や旅館が並ぶ。
有馬温泉は、まさに湯から生まれた町なのだと思った。
温泉神社にも参拝した。

石段を上がると、温泉街のにぎわいから少し離れ、空気が変わる。
そこには、ただ観光としての温泉ではなく、湯そのものを大切にしてきた信仰の気配があった。
温泉に入る。
湯元を見る。
神社に参拝する。
この流れがあると、有馬温泉の旅に厚みが出る。
ただ「いい湯だった」で終わらず、この土地が昔から湯とともに生きてきたことを感じられる。
そして、有馬温泉といえば炭酸せんべい。
温泉街で炭酸せんべいを食べた。
薄くて軽く、素朴な味だった。
派手なスイーツではない。
驚くような濃厚さがあるわけでもない。
けれど、その素朴さが有馬温泉の町にはよく似合っていた。
湯上がりに、軽く一枚。
温泉街を歩きながら、また一枚。
炭酸せんべいは、主役というより名脇役だ。
でも、その土地らしさを思い出す時には、こういう素朴な味の方が記憶に残る。
有馬温泉は、神戸の奥座敷という言葉がよく似合う町だった。
神戸の港町、洋館、夜景、南京町のような華やかな
イメージのその奥には、こんな山あいの古い温泉町がある。
都会から少し離れただけで、空気が変わる。
赤い橋を渡ると、湯の町が始まる。
坂道を歩けば、古い旅館や寺社があり、湯けむりの気配がある。
しっとりとした山あいの温泉街で、歴史と湯けむりに包まれるような旅だった。