
兵庫県たつの市|龍野城下はうすくち醤油とそうめんの町だった
兵庫県たつの市の龍野周辺を歩いた時、思った以上に「いい城下町だな」と感じた。
観光地として大きく声を張り上げてくる町ではない。
けれど、古い町並みの残る道を歩いていると、ふっと時間の流れがゆるむ。
城下町らしい落ち着きがあって、派手さよりも余韻で見せてくる町。
石畳や古い建物、川の気配、そしてどこかに残る醤油の町としての記憶。
たつの市の龍野は、歩いているだけで、昔から人の暮らしと産業が折り重なってきた場所なのだと感じられる町だった。
龍野城下を歩く
龍野といえば、まず印象に残るのが城下町の雰囲気だ。

龍野城は、もともと鶏籠山の山城として始まり、その後、山麓の平山城として整えられていった城だという。たつの市の公式情報でも、龍野城は山頂の山城と現在地の平山城という二期に分けられると紹介されている。
現在の龍野城は、巨大な天守を見上げるタイプの城ではない。
むしろ、町並みと一緒に味わう城だと思う。
城跡を中心に、周囲の古い町並みを歩くと、かつてここに城下町としての生活があったことが自然に想像できる。
武家屋敷や商家が並び、人が行き交い、川や街道を通じて物資が運ばれていたのだろう。
「城を見る」というより、
城下町の空気を吸う。
龍野は、そんな歩き方が似合う町だった。
うすくち醤油の町、たつの
そして、たつの市といえば忘れてはいけないのが、うすくち醤油だ。
龍野は、淡口、つまりうすくち醤油の発祥の地として知られている。たつの市観光サイトでも、龍野発祥の淡口醤油は、だしの香りや素材の味を大切にしてきた関西の食文化に欠かせない存在として紹介されている。
町を歩いていると、大きな醤油メーカーの工場も印象に残る。
「ああ、ここは本当に醤油の町なんだな」と思わせる存在感がある。
うすくち醤油というと、色が薄いから味も薄いと思われがちだけれど、実際にはそうではない。
素材の色をきれいに残しながら、だしや料理の味を整える、関西の料理文化に深く関わる調味料だ。
煮物、吸い物、うどんのつゆ、だし巻き卵。
うすくち醤油は、料理の表に立つというより、舞台照明のように素材を照らす存在だと思う。
龍野を歩くと、その「控えめだけれど重要」という性格が、町の雰囲気そのものにも重なって見える。
派手ではない。
でも、味がある。
うすくち龍野醤油資料館で歴史に触れる
たつの市には、うすくち龍野醤油資料館もある。
ヒガシマル醤油の資料館紹介によると、龍野醤油は天正年間、1580年頃にはじまり、うすくちを特色として栄えてきたとされている。
醤油というのは、あまりにも日常にありすぎて、普段は深く考えない。
けれど、資料館や町の歴史に触れると、一本の醤油の向こう側に、原料、水、気候、流通、職人の工夫が積み重なっていることが見えてくる。
たつのの場合、播州平野の小麦、周辺の大豆、赤穂の塩、揖保川の水など、土地の恵みが醤油づくりを支えてきた。
さらに揖保川の水運によって、瀬戸内から大阪や京都へ運ばれていったという流れも面白い。
つまり、龍野の醤油は、単なる地場産品ではない。
関西の食文化を陰で支えてきた、かなり大きな存在なのだ。
そうめんもまた、たつのの味
たつの周辺で、もうひとつ忘れられないのがそうめんだ。

この地域といえば、やはり揖保乃糸。
揖保乃糸資料館「そうめんの里」は、たつの市神岡町にあり、西播磨地域の伝統産業である手延べそうめんの技と味を体験できる施設として紹介されている。
そうめんは、家で食べると夏の昼ごはんという印象が強い。
けれど、産地で食べるそうめんは少し違う。
細くて白い麺をすすった時、土地の水や技術まで一緒に味わっているような気がする。
そして、ここで面白いのは、たつのの食文化が一本につながることだ。
城下町を歩く。
うすくち醤油の歴史に触れる。
そうめんを食べる。
すると、ただの観光ではなく、和食の土台に触れる旅になる。
そうめんのつゆにも、だしにも、醤油にも、土地の記憶がある。
龍野は、そのことを静かに教えてくれる町だった。
派手ではないけれど、深く残る町
たつの市の龍野周辺は、姫路のように大きな観光名所として全国的に目立つ町ではないかもしれない。
けれど、歩いてみると、とても良い。
城下町としての落ち着き。
うすくち醤油の歴史。
揖保乃糸のそうめん。
古い町並みの静かな空気。
それぞれが強く主張しすぎず、でも確かに町の中に息づいている。
旅先で出会う町には、写真映えする町と、あとからじわじわ思い出す町がある。
龍野は、後者の町だと思う。
「あそこ、よかったな」
と、あとからふと思い出す。
醤油の香りのように、記憶の奥に残る町。
そうめんの白さのように、すっと涼しく心に残る町。
兵庫県たつの市。
龍野城下は、うすくち醤油とそうめんの町だった。