
オデットとオディールのグレーな日々19
「創作大賞2026 エンタメ原作部門」応募作品(番外篇⑤)
第九話「瀕死の白鳥」・シノプシス
<アバンタイトル>
水無月琉那は、大学祭で所属する舞台芸術の研究サークルが企画するステージで「瀕死の白鳥」を演じることになった。
バレエを基調としつつ、コンテンポラリーダンスの要素を取り入れた舞台で、音楽とプーシキンの詩「Брожу ли я вдоль улиц шумных」の朗読に合わせて、死に抗おうとする白鳥を演じるものである。
本番を1週間後に控え、通し稽古が繰り返し行われていた。録画を確認し、演出の打ち合わせをしている琉那たち。
打ち合わせが終わり帰ろうとする琉那に、主催の花田からノルマとしてチケットの束を渡され、暗澹とした気持ちになる。
<Aパート>
チケットを捌けずに思い悩んだ琉那は、輝子に相談するためスワンレイクにやってくる。
輝子は「チケットを店で売ってあげる」と言い、チケットをすべて引き取る。
そこに現れた、オデットとオディール、そして鮫島も見に行くと約束する。琉那は喜び、売り上げと相殺する形で「スワンレイクのみんなを招待する」と言う。
オデットたちは、オディールが見つけたロットバルトの手帳に書かれたメモを読み解こうとしていた。警察の資料、過去の新聞記事を日々調べては話を聞いて回るオデットたちと、鮫島だった。
そうしている中、鮫島が数週間前に見つかった神経剤を密造していた場所と、20年前に起こった事件の関連に気づく。
琉那の舞台当日、鮫島は当時の警察関係者に会うため警察OBと待ち合わせをするが、そこに現れたのは黒いワンボックスだった。
中からタクティカルウェアを着た男たちが現れ、鮫島は拉致されてしまう。
開演1時間前になっても会場となっている市立劇場に来ない鮫島に苛立つオデットのもとに、オディールのスマホを通じて、ナンシーから鮫島が拉致されたとの情報が入る。
オデットは「監禁するなら、あそこしかない」と言い、ダッジ・チャレンジャーを飛ばして廃ビルに向かう。
開演10分前、舞台袖では客席を映したモニターを琉那が見ていた。スワンレイクの面々が来ているものの、オデットとオディール、鮫島がいないことに気が付き寂しくなる。琉那は「集中集中…」と自分に言い聞かせていた。
<Bパート>
廃ビルに着くとオデットは、グローブボックスから地下のラボで回収したオートインジェクター(第六話「地下室の手記」参照)を手にし、廃ビル内に入っていった。
オデットとオディールが、潜んでいた部隊を次々と制圧しながら奥へと向かっていく。
そして、奥の部屋で手足を縛られている鮫島を発見し救出する。
しかし、部屋を出ようとした際、オデットは自らの異変に気がつく。
オデットが、ドアノブを確認すると薬剤が塗布されていた。そして、鮫島を縛っていたロープが異様に湿っていたことを思い返し、「バイナリー型の有機リン系神経剤に触れてしまったようだ」と言う。
「早く処置を」と言うオディールに対して「万が一のことがある」と返し、薬剤に触れていない左手でオートインジェクターを鮫島に投げて渡したあと、オディールと逃げるように言う。
そこに狙撃がありオデットの腕を弾が掠める。咄嗟に身を屈める3人。
オデットたちに気絶させられていた隊員が次々と撃たれて絶命していく。
味方の命をいとも簡単に奪っていく非道さに怒りを覚える3人。
そこに追い討ちをかけるようにして火炎瓶が投げ込まれる。直後、これまでの狙撃とは別方向からの銃声が聞こえ、狙撃が止まる。
その隙をつき、オディールと鮫島は外に逃げ出せたものの、思うように身動きが取れなくなっているオデットが転倒し、室内に取り残されてしまう。
オデットは、逃げ道が炎に包まれた上に視界が霞みはじめ絶体絶命に陥る。
廃ビルの外に逃げ出したオディールと鮫島の目の前に、マットブラックに塗装されたシボレー・エクスプレスが音もなく現れる。
立ちすくむ2人を他所に中からドレーゲル・チームマスター(科学防護服)を着た隊員が数人降りて来て廃ビルの中に駆け込んでいく。
そのころ劇場では開演を告げるブザーが鳴り、暗闇の中琉那がステージに向かっていった。
ここから、神経剤に冒されながら必死に脱出を試みるオデットと、舞台で琉那の演じる「瀕死の白鳥」がカットバックで展開していく。
息も絶え絶えになり壁にへたり込んだオデットの前に、科学防護服を着た人物が現れ計測器を操作する。その数値を確認し、バッグに戻す。
オデットは、ホルスターから銃を抜き構えようとするが手が震え狙いが定まらない。
防護服を着た人物がロシア語で「やめなさい」と言いながら、ゆっくりオデットに近づき、バッグから取り出した短刀のようなものをオデットに突き立てると、オデットの手から銃が落ちる。
舞台はまもなくクライマックスを迎えようとしていた。琉那が床にペッタリと体をつけ必死にもがく仕草をしている。
炎に包まれつつある廃ビルの一室。
悶えるオデットにロシア語で「殺しはしないわ」と言う。意識が遠のいていくオデットの頭の中で、その女の声が木霊する。
そのオデットの脳裏に幼い頃の記憶が浮かぶ。それは、オディールとふたりで、湖に飛来した白鳥に餌やりをしたときの記憶だった。そして、最後に浮かんだのは髭を生やした男の口元だった。
防護服を着た女が突き立てていたのは、短刀ではなくインジェクターだった。15秒のカウントを終えた女がインジェクターを投げ捨て、オデットにイヤマフを被せる。
そして、コンカッション・グレネードを炎の中に投げ込むと、強力な爆風が発生して火が消し飛び通り道ができる。
そこを通り防護服を着た隊員たちがストレッチャーを押してやってくる。
そして、オデットを素早くストレッチャーに乗せると、防護服を着た女をその場に残し去っていく。
廃ビルから戻って来た防護服の隊員たちが、シボレー・エクスプレスのハッチを開けオデットを乗せ、同時に横のスライド・ドアを開けオディールと鮫島を車内に押し込んだ。
車内は、最新の医療機器が備え付けられていた。オデットが乗せられている後部と、オディールたちが乗せられた区画は、ビニールカーテンで仕切られ、天井からはエアカーテンが吹き出していた。
防護服を着た女が廃ビルから出てきて、迎えにきた黒い車に乗って去っていく。
舞台終盤、琉那が演じる力尽きる白鳥と重なるように、車内ではオデットの手が垂れ落ちた。
「オデット!」と叫ぶオディール。
口を手で覆ったまま声が出せない鮫島。
そのとき、無情にも心肺停止を報せる心電図モニターの音が車内に鳴り響いた。
水面を揺蕩う白鳥の羽がインサートされ――
暗転。
第十話「眠れる森の美女」
サブタイトルは「眠れる森の美女」ですが、音楽は「弦楽セレナード」で始まります。
モスクワ・フィルハーモニー・アカデミー交響楽団(ユーリー・シモノフ指揮)による実に美しい演奏です。
<アバンタイトル>
使用BGM:チャイコフスキー「弦楽セレナード」(ユーリー・シモノフ指揮/モスクワ・フィルハーモニー・アカデミー交響楽団)
水面に沈みゆく太陽。
翳りゆく街の実景。
薄暗い病院の廊下。
鮫島の独白(M)に合わせて、ICUのオデットの映像に前話の回想シーンが挿入される。
鮫島M「無敵だと思っていたその白鳥は、朝が来ても目を開けることなく、夕方になっても眠り続けていた。彼女は自らを犠牲にして私を助けた。すべて私の軽率な行動が引き起こした事態だ。このまま彼女が目覚めなければ、一体どうやって償えばいいのか――」
鮫島M「あのとき、私を拉致した組織。そして、オデットを助け私たちを病院まで連れて来た部隊はそれぞれ何者だったのか…。謎のままである」
精密検査の結果、用いられたのは神経剤「ノビチョク」ではなく、麻酔薬のフェンタニルと、有機溶媒(DMSO)であることが判明し、心配された後遺症の懸念がなくなったことに胸を撫で下ろすオディールと鮫島だったが、予断を許さない状況が続いていた。
24時間が経過し、ICUから高度治療室(HCU)に移されたオデット、計測機器は安定した数値を表示しているがオデットは眠ったままだった。点滴を取り替えに来た看護師が、オデットの耳元で「いまは、ゆっくり眠りなさい」と、ロシア語を囁く。
大賞応募はここで筆を置きたいと思います。
お読みいただき、ありがとうございます。