
父と飾り棚
幼稚園には、母が運転する車で通園していた。
その日は、会社に向かう父も駅まで一緒に行くことになった。
母が車を出すのを父と待っている時、私は庭で見つけた緑色につやつやと光る葉っぱを父にあげようと差し出した。
父は受け取らなかった。
葉っぱの汁がつくから、といったようなことを言われたかもしれない。
たしかに、私が差し出した葉っぱはまだ青々としていた。
父は紺色や濃いグレーのスーツに、真っ白なワイシャツ、ネクタイを締めて会社に行っていた。
酒は飲まず、毎日まっすぐ家に帰ってきて一緒に夕食を食べていた。
母はいつも父のお皿に一番大きな魚やお肉をのせて、父のご飯を一番初めによそっていた。
父はもくもくと夕食を食べ、食べ終わると居間で新聞を読みながら煙草を吸い、野球の中継を見ていた。
居間は深緑色のじゅうたんが敷かれていて、部屋の端にはとんぼの模様のティファニーランプと、こげ茶色の木の飾り棚が置いてあった。
飾り棚の上には外国の陶器の置物が並んでいた。
白くて、つやつやして、なめらかな陶器の人形やお皿。
きれいでさわりたかったけど、さわるのがすこし怖かった。
私が大学生のとき、父と母はフランスへ旅行に行き、帽子をかぶった女性が対になっている陶器の人形を買って持って帰ってきた。
セーヌ川沿いの店で買ったらしい。
陶器の人形はやわらかに光っていて、とても優しい顔をしていた。
母が好きそうだ、と思っていたら「知らないうちに父が買っていた」と母は言う。
お父さん、こういうの好きよね、と。
飾り棚の陶器の置物は、母ではなく父の趣味だったことをその時に知った。
あの朝、私が父に差し出したのは青々とした葉っぱだった。
つやつやのお皿でも、なめらかな陶器の人形でもなかった。
父は受け取らなかった。
見上げると、父は微笑んでいた。